【狩人の少年】泥棒たちと冒険者

■シリーズシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:5〜9lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 42 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月23日〜03月01日

リプレイ公開日:2005年03月02日

●オープニング

 ビシッ!
 真っ直ぐに飛んだ矢が、狙い違わず木の天辺にいる鳥の頭を貫く。
 音を立てて飛んでいく鳥達の気配を感じながらフリードは矢を拾い上げた。
(「この鳥にも‥‥家族がいるかもしれない」)
 食べるための鳥、決して無駄にはしないが‥‥。
 あの戦いの後、常に考えるようになった。冒険者達が残していった言葉を‥‥。

『冒険者として行動するなら、生半可な行動は命取りだ‥‥』
『お前は、その弱さを、覚悟できるのか?』

 革紐で結んだ白い牙が胸元で揺れる。思わず、何かに縋るようにそれを握り締めた。 
「僕は‥‥まだ迷ってる。あの人たちや‥‥彼の前に迷わず立つ自信は無い‥‥ ! あれは?」
 村へ戻ろうとしたフリードは木の陰にとっさに身を隠す。
 通り過ぎていくのは‥‥すれ違いで村に来た行商人達の馬車のはず、だった。
 はず、と言うのは村に入った荷馬車の後ろにもう一つ、荷馬車がついていったからだ。
 しかも、空荷では‥‥無い。
(「何で‥‥行商人の馬車に鶏や羊があんなに‥‥まさか!」) 
 ある言葉が彼の頭を掠めた。
 家畜泥棒‥‥。
 馬車は遠ざかる。村に確認しに行っている間に逃げられてしまうかもしれない。
 考えたのは一瞬だった。
 ハンカチに鳥の血で文字を書き、矢で木に留めて、フリードは雪に残る轍の跡を村と反対の方向に追いかけていった。
 
「手の開いている冒険者は居ないか?」
 そう言ったのは昨日キャメロットについたばかりの行商人だった。
「ここは冒険者ギルドだから、冒険者はたくさんいるが‥‥どうしたんだ?」
 対応する係員に彼は、ここに来る途中に出会った少年から伝言を頼まれた。と告げる。
「それが‥‥ちょっと急ぎで‥‥」
 話し始めたその時だった。 
 DANN!
「フリードは来ていないか!」
 そう言って一人の男は冒険者ギルドの扉を開けた。
 彼の顔を何度か見た覚えがあると、係員は思い出す。
 確か、山奥の村出身で郊外に住んでる男‥‥。
 扉を蹴破らんばかりの勢いに係員は、どうしたんだ? と問う。
 行商人に少し待つように合図をして、だ。
「今、村から伝書鳩の連絡が来て‥‥フリードが、村の子供が一人、行方不明なんだ。家畜泥棒を追っていったらしくて‥‥」
「家畜泥棒を?」
 詳しい話を聞こうとした係員の側に、さっきの行商人が近づいてくる。
「すまないが‥‥もう少し‥‥」
「今、フリードとか言わなかったか?」
「「えっ?」」
 4つの瞳が同時に動いて行商人を見る。
「知っているのか?」
「知ってるも何も‥‥さっき言った伝言を頼んだ少年の名前が、フリードって‥‥」
「何!」
 男は掴みかからんばかりの形相で、行商人の肩を振る。
「フリードは? フリードは無事だったのか?」  
「ちょ、ちょっと、放してくれ」
 呼吸を整えて行商人は説明をする。
 街道の宿でたちの良く無さそうな行商人を追っていた少年と出会った。
 子供の一人旅を心配して声をかけたら、その子は自分は家畜泥棒を追っている。
 キャメロットに行くのなら冒険者ギルドに行って、その事を伝えて欲しい。
 そして、自分を追いかけて欲しい、と伝言された、と。
「その子は身の回りの物しか持ってないようだったんで、俺が旅道具を貸してやった。助けてやりたかったが俺も荒事は得意じゃないし、納期のある仕事を抱えてたんでな」
 急いで街に来て直ぐにここにやってきた、と彼は言った。
 少年と出会ったのはほんの昨日、ここから北に1日ほどの宿での話だと説明して後、男は続けた。
「これが、その子から預かった手紙だぜ」
 小さな木の板には急いで書かれた走り書きのような文字で、こう綴られていた。

『冒険者の皆さん 
 村の家畜が泥棒に盗まれそうになっています。
 犯人は五人。あいつらは北の町で七日後に行われる動物市場で村の家畜を売るつもりだと言っていました。 僕はそれを追っています。
 どうか、家畜が売られる前に取り戻すために力を貸してください フリード』

「フリードの奴‥‥無茶をしおって‥‥」
 フリードを知る男は手を握り締めた。手と口は怒っているが顔と、声は‥‥心配を浮かべていた。
「食い物と、金も分けてやったが、俺も心配だ。助けに行ってやってくれないか?」
 礼と感謝を行商人に告げて、男は冒険者に頭を下げる。
 家畜を取り戻すのは、難しいかもしれない。
 北の町までは歩いて二日。市までに行く事は難しくは無い。
 だが‥‥泥棒が連れている家畜が盗まれたものと証明する方法があるか、彼らには解らなかった。
 だが、フリードはなんとしてでも取り戻そうとするはずだ。
「俺からも頼む。フリードを助けてやってくれ」

 去り間際、行商人はああそうだ、と思い出したようにカバンを開けた。
「これ、代金の代りにって預かったんだ。とても大事なものらしいから‥‥出会ったら返してやってくれ」
 小さな音を立ててテーブルに置かれたそれは、革紐に結ばれた白い牙。

 その意味を知る冒険者は、強く、強く握り締めた。

●今回の参加者

 ea1402 マリー・エルリック(29歳・♀・クレリック・パラ・イギリス王国)
 ea2939 アルノール・フォルモードレ(28歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea3245 ギリアム・バルセイド(32歳・♂・ファイター・ジャイアント・イスパニア王国)
 ea3647 エヴィン・アグリッド(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3799 五百蔵 蛍夜(40歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4137 アクテ・シュラウヴェル(26歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea4965 李 彩鳳(28歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea6557 フレイア・ヴォルフ(34歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

 白い鳩が空を飛ぶ。願いを足に付けて。
「さて行きましょう。私達の大事な仲間を、助けるために」

「勇気を出すんだ‥‥。僕がやらなくっちゃ‥‥」
 自分に言い聞かせながら目的のものを見つめる少年がいた。
 周囲の人々は急ぎ足で近づき、また遠ざかる。
 彼に気を止める者は誰もいない。はずだった。
 夢中で歩く彼は気が付かない。後ろに近づく影、伸びる手に‥‥。
「あっ! 家の中に入った‥‥まさか! ん! うぐ‥‥」
 力強い手が、少年を建物の前から路地へと引きずり込む。
「声を出すんじゃないよ」
「しっ! フリード様、静かに!」
(「えっ?」)
 背後からの羽交い絞めにもがいていた少年はふと、抵抗を止めた。
 聞き覚えの有る声に顔を上げる。そこには見知った二つの優しい、いや、怒り顔があった。
「馬鹿野郎っ! 勇気と無謀は違う。‥‥一人で何でもしようと思うな、仲間がいるだろう?」
「私達を信じたからこそ、依頼を出したのでは無いのですか?」
「フレイアさん‥‥彩鳳さん‥‥」
 信頼し、尊敬する二人の冒険者。フレイア・ヴォルフ(ea6557)と李彩鳳(ea4965)
 羽交い絞めから開放されて、改めて見る二人の顔。そのホッとしたような表情に、少年、フリードは自分が彼らに心配をかけたことを知った。
「ゴメンなさい‥‥?」
 下げた頭の上から革紐が落ちてくる。それは‥‥白い牙のペンダント。
「これは‥‥」
「大切な物を簡単に、手放してはいけませんわ。全く、無鉄砲すぎですわよ」
 ぎゅうっ。
 抱きしめられた感覚に戸惑いながらもフリードは抗うことは無かった。
 黙って‥‥その温もりを感じていた。

 扉をトントン、叩く音に男達はフッと身構えた。
「お客さまですよ〜」
 宿の主人の言葉に肩の力を抜くと、男は一人、立ち上がって扉を開けた。
「お客? 誰です?」 
「皆様の売り物についてお聞きしたいとかで‥‥」
 市はもう明日。まさかバレたのか? 考えながら二階から下に降りる彼を見つけたのだろうか。
 ホールのテーブルで銀の髪の女性がゆっくり立ち上がってお辞儀をした。
「突然失礼致します。私アクテ・シュラウヴェル(ea4137)と申します。そちら様が明日の市で出されると言う家畜を拝見して‥‥」
 柔らかく微笑む育ちの良さげな女性とは反対に後ろに立つ若者は、ぎろり強い目線で彼を睨んだ。そんな青年をアクテと名乗った女性は軽くたしなめる。
「ダメですよ。下がっていなさい」
 女性に仕えているのだろう。黙って彼は素直に数歩後ろに下がった。
「失礼。ご無礼をお許しくださいませね」
 彼女は自分の交渉相手に椅子を勧め、自分もまた席に付いた。
「私共は良質の家畜を必要としておりますの。市に出されるという家畜を拝見してぜひ、お取引させて頂きたいと思いましたの」
「それは‥‥ありがとうございます。ですが、既に市に出しますのでそこでで‥‥」
 商取引と解り、緊張が男から抜けて笑顔になる。儲けを狙う商人の笑顔だ。
「無論そうでしょう。ですが、こちらもあれほど上質のものを一手に入手できるとあれば、多少の無理はいたしますわよ」
 軽く目で合図すると背後の若者は無言で袋を取り出し、テーブルに置いた。重そうな皮袋の中には数十枚の金貨が見える。
 ごくり。男の喉のなる音が聞こえてきそうだった。
「これは手付けとして用意したものですが場合によってはまだ出せましてよ」
(「カモだ!」)
 とでも男は思ったのかもしれない。市には出すと告げたが、バラ売りはせず纏め買いはアクテ達を優先すると約束した。
「上手く行きそうですわね」
「そうだな‥‥」
 仲間に知らせに行ったのだろう。二階に上がり、また外に出て行った男を見送りながら五百蔵蛍夜(ea3799)は周囲への警戒を、そして次への計算を怠る事は無かった。

 急ぎ足で歩く男の肩を、誰かが大きな手でがしっ、と掴む。
「よお、あんた達? 上手い事やったみたいだな」
 男はこの日、二度目の緊張を口の中の唾と共に飲み込んだ。
 彼に声をかけた人物は、その緊張を知ってか知らずか、ニカッと大きな笑みを浮かべている。

「無謀と勇気は違うものだ‥‥無茶はするなよ‥‥」
 エヴィン・アグリッド(ea3647)の言葉にフリードはハイと頷いた。フレイアは小さく苦笑する。さっき自分が言ったことと同じだからだ。
「で、あそこか。盗賊達の家畜置き場は」
「そのようですわね‥‥」
 フリードが見つけた家の外には羊達が繋がれている。市のために羊を置く場を借りたのだろう。
 三人はフリード共に盗賊団の周辺を調べていた。
「なあ、フリード‥‥」
「はい、何でしょう?」
 羊をやぶ睨みの目で見つめていたエヴィンは首を振り頭を上げる。
「あの羊、どこがどう違うんだ? 俺には解らないんだが‥‥」
「あたしも解らないね? どうするんだい?」
「それは‥‥」
 冒険者達には無理だろう、フリードが説明しかけた時だった。 
「皆様、下がって‥‥」
 彩鳳の気付いた声に四人は姿を影に隠した。周囲を伺うように入る男の姿が見える。
 異様なまでに気を使い、中に入る。その様子はやはり、ただの家畜商には見えなかった。
「あっ! ギリアムさん!」
 驚きの、それでも小さく気を使った声をフリードは上げた。
 男の後ろの大男はギリアム・バルセイド(ea3245)だ。彼は中には入らず、周囲を伺うように見張っている‥‥フリをしていた。
「上手く行っているみたいだね」
 実はいきなりの話に直ぐには信用してもらえず、見張りをとりあえず引き受けることになったのだが。とりあえず敵の動きを知る位置にはいる。無論、危険は大きい。
「大丈夫でしょうか?」
 心配げなフリードをくすり、笑う声がした。
「彩鳳さん?」
「なんでもありませんわ。彼なら大丈夫。準備を致しましょう」
「そろそろ、あいつらも来る頃だしな」
 促されながらもフリードは心配そうに、背後の家を見つめていた。羊よりも、もっと大切なものを‥‥。

 街の領主の元に、一通の手紙が届けられた。
 冒険者からの書状だと、部下は語る。
「明日は市だと言うのに‥‥?」
 アルノール・フォルモードレ(ea2939)と署名された文書に目を通した、彼は部下を呼びつけ、指示を与えた。
 これが本当であれば明日の市は‥‥。
 そうならないために、領主は動き始めた。

「使い方は‥‥解るな?」
「フレイアさん! でも、これは‥‥」
「あんたの未来に必要だと思うなら、持っていればいい。いらないと思うなら‥‥後で返しな」
「‥‥」

 マリー・エルリック(ea1402)はぐったりとした表情を見せている。
「‥‥疲れました」
「ご苦労様ですわ。でもこれで有利に事を進められそうです」
「‥‥調べて、調べて調べまくりましたから‥‥」
 早朝の喧騒の中、人が動き出した。もう直ぐ市が開く。
「さあ、行きましょう」
 アクテの言葉にマリーの祈りが答える。
「神の祝福がありますように‥‥」

 市は活気に溢れていた。
 時は冬から春へと変わる。春になれば羊の毛狩り、牧羊、牧畜のシーズン。
 春を少しでも良い家畜と過ごすために売るものも、それを見定める者も眼は真剣そのものだ。
 次から次へと売られ、買われていく。
「まだ出ませんね。大丈夫でしょうか?」
 冒険者の目は羊よりもその売り手を見ている。
「なるべく、最後の方にしておいて欲しいと言っておいた。多分‥‥次だ」
「では、最後に遠くの牧場からの出品です。羊と鶏、その数20。どれも逸品ぞろいです。纏めて買って下さる方を優先するとの事‥‥どなたかいらっしゃいませんか?」
「待ってください。少しお伺いしたいことがありますの‥‥」
「はい、何でしょう?」
 市の運営役は、手を挙げ、声をかけたアクテの方を見た。
「その羊の産地はどこでしょう? 羊の年齢は? どれが、オスでどれがメスかも教えてくださいませ」
「羊の産地‥‥、えっと‥‥。あと、年齢ですね。ちょっとお待ちください」
 ざわ、ざわざわ。お客達の間に漣のようなざわめきが走る。
 今までとは違う質問、違う流れ、違う客‥‥そして、違う表情を〜焦りと困惑という〜見せ始めた売主達。
「‥‥どうしました? まあ、その辺の交渉は後からゆっくりして頂くとしましょう。では。20からはじめてもよろしいでしょうか?」
 トラブルを避け、少しでも早く、スムーズに市を納めたかったのだろう。運営役は強引に流れを進めようとした。
 だが、それは叶わない。
「意義あり‥‥家畜泥棒のものを‥‥売るのはまずいでしょう」
「か、家畜泥棒?」
 周囲のざわめきが漣から波へと変わる。彼らの視線は二つに分かれた。売主と、声を上げた集団。商人でも、羊飼いでもない‥‥冒険者へと。
「だ、誰だ!」
「‥‥にくレリック・マリー‥‥お呼びでなくとも即参上。そいつらは、他所の町、他所の市でも盗品の家畜を売る、家畜泥棒です」
「私達は、冒険者です。家畜泥棒の事件を追って参りました。彼の証言をお聞き下さい。さあ、フリードさん」
 商取引の相手、と思っていたアクテが促した証人に、家畜の売り手は一瞬、顔を青くしたものの直ぐに冷静さを外見だけでも取り繕った。
 屈強の、歴戦の冒険者の後ろから現れたのは、まだ幼さの残る少年。フリードだった。
 子供、と侮ったのかもしれない。
「彼らは、家畜泥棒です。僕らの村から家畜を盗んでいったのです!」
 迷わずに宣言して指差したフリードの言葉にも、ふん、と鼻を鳴らして笑う。
「何の証拠があるという。羊に名札でも付けて有るというのか?」
 威圧的な視線、見下す声、村では感じられない、見られないそれは人の暗い部分だった。
 逃げ出したいような思いが胸を過ぎるが‥‥ポン、彩鳳の手が肩に優しく触れた時、フリードは一度だけ、下を見てそれから顔をあげ、ゆっくりと、羊に近づいていった。
「‥‥この羊の、蹄を見てください。模様が刻んで有るはずです」
「!」
「どれどれ、本当だ。刻まれていますね‥‥」
 促された運営役は少年が指差した先を見て、それを確認した。
「でも‥‥この模様は羊の主を表す僕らの村の方法なんです。本当は未熟な羊飼いの為ですけど、家々の羊を確認するためにも使われています」
 数匹確認しただけでフリードの言葉が真実だと解った。いや、実はその必要さえも無かった。
「それに、僕には解ります。顔が違うんです。同じように見えても‥‥。こいつは、メスで三歳、こっちはオス、去年生まれたばかり‥‥」
 小屋の中に入った少年の周囲に羊が嬉しそうに擦り寄ってくる。それだけで‥‥
「く、くそっ!!」
 男達は駆け出した。人ごみを倒れる人々も押し倒して彼らは駆け出そうとした。
 だが‥‥目の前に壁のように立ちふさがる存在が邪魔をする。
「そこを退け! 俺達を助けるんじゃなかったのか?」
「俺を信用しなかったのは、あんたらだろう? まあ、それは今回は正解だ。あれが今回の依頼仲間なんでな」
 あれ、と指差した先にはエヴィンのナイフが光っている。
「何か‥‥反論でも?」
 そこに武器を持って迫ってくる自警団の姿があった。さら後には初老の男性の姿が‥‥
「わが街での騒ぎは許さぬ、と言いたいところではあるが‥‥、わが街で盗品の売買が行われるのはもっと許されぬことだ。連絡と捕縛の協力に感謝しよう‥‥。行け!」
 街の長と解る男の合図で、自警団により家畜泥棒は取り押さえられた。
 パチパチ、パチパチパチパチ‥‥。
 どこからともなく、拍手が沸き起こる。
 それは領主や、冒険者に与えられたものなのかもしれない。
 だが、冒険者達は思っていた。これを受けるべき相手は‥‥きっと、と。

 数日後、村から馬車と使者がその街にやってきた。
「バカもん! 心配をかけやがって!!」
 フリードの首を縮こまらせた怒号を、冒険者の誰も止めはしなかった。
「まあ、仕方ないよね」
 含み笑うアルノールに周囲の笑顔も同意する。
「お前が執った行動は悪くは無いが、応援が確実な時にしか使えんぞ。人が集まらなかったらどうするつもりだったんだ?」
 そう言ってゲンコツをおまけに怒ったのはギリアムだ。
「君は、英雄になりたいのかい? それは結果であって、目的じゃないよ。ただ力で叩きのめしてお終い、でいつもいつも全てが解決するとは限らない。忘れちゃだめだよ」
 領主に盗賊団を委ねた後、アルノールはそう言って微笑んだ。
 自分の過ちが解るからこそ、フリードも怒鳴る父の声に反論も抵抗もしない。
「皆さん、お世話になりまして申し訳ありません」
 ごつごつした手で息子の頭を下げさせた男は、冒険者に報酬を渡した。街の領主からの詫び金を経費以外は全て渡した形になる。
「いいんですのに、今回はフリードさんが頑張ったのですから。でも立派でしたわ。こういう能力も大事ですのよ」
 ニッコリとしながらもアクテはそれを受取り、フリードを褒めた。
「勇気と無謀は違います。‥‥貴方のことを心配してる人がいます。‥‥仲間の事、忘れないで。‥‥でも‥‥その勇気も‥‥忘れないでください‥‥」
 マリーはフリードにそう囁いた。三度目の言葉もフリードはしっかりと受け止める。
「覚悟ってのはな。迷わない鋼の心の事じゃない。常に迷いながら、それでも歩みを止めない意思を、そう呼ぶのさ」
 それだけ言うと、くるり背を向けた蛍夜の後に、フレイアは一言。父親にも聞こえる声であえて、こう言った。
「己が選択し、望んだのであればたとえ全てを失おうともそれを信じ歩み続けろ」
 彼が、彼らがその言葉に何を思ったか、それは解らない。
 だが‥‥

「また、お会いしましょう」
 握られた手のひらに残る温もりを、馬車の横に座るフリードはそっと開き、そっと見つめた。
 小さなハートのお守り。カバンの中の一本のダガー。そして、胸の白い牙。
 思いを握り締め、フリードは父に告げた。
「父さん、僕は、冒険者になりたいんだ!」

 ‥‥冒険者達は確信していた。
 彼とまた出会う。きっと、そう遠くない時に。