●リプレイ本文
●不審者
「沖田さん、何処に行っちまったんだか‥‥」
心配した様子で辺りを見回し、氷川玲(ea2988)が溜息を漏らす。
飛脚仲間にも協力してもらい、沖田に関する情報を集めてみたのだが、これといった手掛かりは無く、時間だけが過ぎていった。
「脱走は新撰組の重罪。沖田組長ほどの方がそれを知らない筈もなく‥‥。よほどの事が起きているに違いありませんね」
だんだん辺りが暗くなってきたため、鷹神紫由莉(eb0524)が提灯を掲げて夜道を歩く。
沖田の失踪は新撰組の中でも一部の者しか知らないため、大事になる前に彼を連れ戻しておく必要がある。
「少なくとも土方副長は気づいているようだが‥‥。今回の脱走‥‥、何か裏がありそうだな」
険しい表情を浮かべて腕を組み、天螺月律吏(ea0085)が辺りを睨む。
沖田の様子がおかしくなったのは、妙な刀を使い始めた頃からだ。
その刀をいつから所有していたのかは不明だが、少なくとも黄泉比良坂決死隊に参加していた時には使っていた。
「ジェロニモが捕えられた時の様子を聞くと、どうも沖田組長の刀が原因のような気が‥‥。新年会の時に、その刀が『シープの剣』だと言った方がいると聞いています。伝説の剣‥‥確か魔を滅する剣だとか。つまり、ジーザス教徒のジェロニモが取り返しに来たのは、元の所有者ゆえ狙っているのか、あるいはその不審な集団が剣を狙っているのかも知れませんわね」
ハッとした表情を浮かべ、鷹神紫由莉(eb0524)がダラリと汗を流す。
この事件‥‥、思った以上に根が深そうだ。
「ひょっとして、裏で絡んでいるのは、異端審問局か? 相手が神聖ローマだと、だいぶ厄介だぞ。もっとも、テンプルナイツでないだけ、まだマシだろうが‥‥」
嫌な予感が脳裏を過ぎり、ティーゲル・スロウ(ea3108)が口を開く。
ジェロニモを狙う不審者の正体が分かっていない以上、出来るだけ早く正体を暴いておく必要がありそうだ。
「直接、目撃情報を聞くだけではなく、残された記録を調べる事も時には必要かと思ってね‥‥。ジェロニモと不審集団に繋がりがあるか、宗教関係の事件を調べてみたんだが、異端審問局が動いている可能性は低そうだな」
冒険者ギルドで文献や記録を読み返していたため、ランティス・ニュートン(eb3272)が残念そうに首を振る。
「‥‥ジェロニモという名前が洗礼名なら、不審者がジーザス教である可能性は残されていると思いますよ。ジーザス教が自殺を禁じていると言う話を故郷で聞いた事がありますし、彼らの目的は過酷な責めを受けるはずのジェロニモの救出、または自殺が出来無い彼を楽にさせる事かも知れません。彼らにそんな事はさせず、又、沖田様を思っての行動なら共に協力し、沖田様を救いたいと思っているんですが‥‥」
不審者の正体がジーザス教徒であると考え、ミラ・ダイモス(eb2064)が偽の情報を流して彼らを誘き出そうとした。
「そう言えばひとつ気になった事があるんだが‥‥」
少し間を置いてから、ランティスがスロウを睨む。
「そろそろどちらに就くか決めた方がいい。源徳家康派の新撰組か、平織虎長派の鋼鉄山猫隊のどちらかに‥‥。一番隊がこんな事になっている以上、対立している組織に身を置いているお前にまで火の粉が飛んでくる可能性が高い。このまま放っておいて、痛くない腹を探られても癪だろ?」
あちこちで情報を集めているうちにスロウの噂が耳に入ってきたため、ランティスが心配した様子で呟いた。
今回の一件は色々な意味で仕組まれた気がするため、小さな綻びが命取りになってしまう場合もある。
「‥‥なるほどな。利用できるものは、すべて利用するつもりか。‥‥となると敵がジーザス教であると、断言するわけにもいかないな」
何者かの気配を感じ取り、スロウが鬼神ノ小柄を引き抜いた。
「‥‥気づいていたか」
含みのある笑みを浮かべながら、三度笠を被った男達が一斉に刀を抜く。
「ずっと後をつけていたようですね」
ハンマーofクラッシュを握り締め、ミラが不審者達をジロリと睨む。
「一体、何が目的だ‥‥?」
不審者の身なりを確認しながら、玲が短刀『月露』をむけた。
「問答無用っ!」
こちらの質問には全く答えず、不審者達が攻撃を仕掛ける。
「‥‥おまえ達の目的はジェロニモだな。残念だがジェロニモは昨夜、自害した」
不審者の刀を弾き返し、スロウが血塗れの十字架を見せた。
「お前達は何も知らないのだな。アイツが目的を果たす前に自害をするはずが無いだろ」
いやらしい笑みを浮かべながら、不審者が三度笠を深々と被る。
「やはり、あの剣が関係しているのですね。別世界への扉が開き、欧州は平和になったのに‥‥。何故、力を求めるのですか!」
納得のいかない表情を浮かべ、紫由莉が彼らの目的を聞こうとした。
「‥‥何か勘違いをしているようだな」
紫由莉を見つめてクスリと笑い、不審者が刀を振り下ろす。
「まさか俺達の予想が間違っていたという事か!?」
ダラリと汗を流しながら、ランティスが不審者達をジロリと睨む。
「どうやら詳しい話を聞く必要がありそうですね。‥‥投降してください!」
スマッシュ+バーストアタックで刀を破壊し、ミラが不審者達に投降を呼びかける。
「‥‥断るっ!」
ミラを見つめてニヤリと笑い、不審者達が懐から毒薬を取り出し自害した。
「クッ‥‥、愚かな真似を!」
すぐさま不審者を抱き起こし、律吏がチィッと舌打ちする。
不審者達の死体には身元を示すものが一切無く、その顔立ちからジャパンの出身者である事しか分からなかった‥‥。
●ジェロニモ
「『後の事は宜しくね』‥‥か。あの時の組長の瞳が忘れられない。何を宜しく‥‥と? 告げてくれねば判らぬ事ばかり」
沖田の行方を掴むため彼の屋敷で手掛かりを探し、白河千里(ea0012)が疲れた様子で溜息をつく。
彼の家には失踪の手掛かりとなる物は見当たらず、しばらく帰ってきた様子が無い。
「まさか一番隊が唯一坊主完備なのは‥‥そういう事じゃないな」
悪い予感しか浮かばなかったため、八幡伊佐治(ea2614)が気まずく汗を流す。
ある意味、沖田は死を覚悟していたのではないかと思いつつ‥‥。
「全く、沖田組長は‥‥。言いたく無いが愚痴の一つも言いたくなる。忘年会の時一人で背負い込むなって言ったのに‥‥」
念のため沖田の経歴などを洗いなおし、鷲尾天斗(ea2445)が不満そうに愚痴をこぼす。
色々と調べてみたのだが、手掛かりとなるものは何もない。
「ジーザス教‥‥黄泉大神‥‥沖田さんの持っていた刀‥‥。このみっつが関係している事は間違いないな」
おぼろげではあるものの、事件の真相が見えてきたため、サクラ・クランシィ(ea0728)が腕を組む。
いままで関係が無いと思われていた事件が、実は一本の線で繋がるような気がしてならない。
「とにかくジェロニモから話を聞きましょう」
邪悪な笑みを浮かべながら、テスタメント・ヘイリグケイト(eb1935)がジェロニモの閉じ込められている場所にむかう。
ジェロニモは捕縛されてから何も話そうとせず、定期的に出されている食事も口にはしていない。
「‥‥誰だ」
うっすらと目を開け、ジェロニモが口を開く。
「よ、また会ったな。あん時は悪かった――って、謝っていいのかよく分かんねぇけど、俺の心境的に‥‥。なんつーかな‥‥沖田さんが消えた段階で、何を基準にするべきなのか、わかんなくなったんだよな。だから、まずは『ごめん』って事で‥‥。だけどアンタも悪いんだぜ、見るからに不審者なあたり‥‥」
苦笑いを浮かべながら、里見夏沙(ea2700)が横に座る。
ジェロニモの身体は縄できつく縛られているため、暴れたところで逃げ出す事など不可能だ。
「‥‥いまさら何を言っても手遅れです」
ブツブツと愚痴をこぼし、ジェロニモが不満そうに視線を逸らす。
「まぁ、あの時は仕事上とは言え、いきなり抜いてしまったからな。私も大事な人を守る為ゆえ‥‥」
苦笑いを浮かべながら、千里が気まずく頬を掻く。
「とにかく仲直りをしようじゃないか。将棋でもして気分転換でもしながらな」
ふたりの間に将棋盤をドンと置き、伊佐治がニコリと微笑んだ。
「申し訳ありませんが、時間が無いんです。早く縄を解いてください。最悪の事態になる前に‥‥」
険しい表情を浮かべて伊佐治を睨み、ジェロニモが深々と頭を下げる。
「‥‥何かワケがありそうじゃな。そろそろ話してくれないか」
将棋盤を横に退け、伊佐治がボソリと呟いた。
「その前に縄を解いてもらえませんか? こんな状況じゃ、何も話す事が出来ません」
伊佐治達の顔色を窺いながら、ジェロニモがクスリと笑う。
ジェロニモは伊佐治達と取り引きをしているのだ。
沖田に関する情報と交換に‥‥。
「‥‥断ると言ったら?」
ジェロニモをジロリと睨みつけ、テスタメントがゆっくりと口を開く。
「沈黙します」
キッパリと答えを返し、ジェロニモが黙って目を閉じる。
「あんたを信用したわけじゃないが、このままだとマズイ事になりそうだからな。‥‥縄だけは解いてやろう」
テスタメントが入り口に移動した事を確認し、夏沙がコクンと頷き縄を解く。
「‥‥なるほど。そう来ましたか。まぁ、この状況じゃ仕方がありませんね」
縄の痕を気にしながら、ジェロニモが沖田について語りだす。
「現在、彼は刀の魔力に囚われています。もう少し正確に言えば、刀の意思と一体化している状況です。本来なら使いこなす事すら難しい刀ですが、彼はあの刀に封じられていた本来の力を引き出し、自分の物としていきました。‥‥私の期待していた通りにね」
いままでの出来事を思い出すようにしながら、ジェロニモが疲れた様子で溜めて息をつく。
「‥‥世界を救うためだったんですね」
リードシンキングを使って表層意識を読み取り、サクラがジェロニモの真意を探ろうとする。
「ええ、ある意味ではそうなります。異界へと続く月道を破壊するために‥‥。しかし、事態は思わぬ方向へと進んでいきました。私が全く予想もしていなかった方向に‥‥。それが京都で起こった要人暗殺事件です‥‥」
拳をギュッと握り締め、ジェロニモが吐き捨てるようにして呟いた。
「ば、馬鹿な! 沖田組長が要人暗殺事件の犯人だったなんて‥‥。いい加減な事を言うんじゃない!」
納得のいかない表情を浮かべ、天斗がジェロニモの胸倉を掴む。
「だから言ったでしょう。彼は刀の意思と一体化している状態だと‥‥。このままだと間違いなく、取り返しのつかない状況になるでしょう。何故なら彼の最終目的が平織虎長の暗殺なのですから‥‥!」
大きな動揺が走る中、ジェロニモがキッパリと言い放つ。
残された時間は‥‥。
‥‥あとわずか‥‥。