●リプレイ本文
●京都市内
「‥‥まったく。面倒な事になりやがったな。このままじゃ、シャレにならない事になるぞ」
失踪した沖田に関する情報を集めるため、氷川玲(ea2988)が提灯を照らして市中を駆け巡る。
しかし、沖田に関する情報はまったく得られず、無駄に時間ばかりが過ぎていった。
「まさか途中で誰かに消されたわけじゃないだろ?」
嫌な予感が脳裏を過ぎり、ランティス・ニュートン(eb3272)がダラリと汗を流す。
沖田の失踪事件にはいくつかの集団が関わっているようなので、そのうちの誰かが彼の命を狙っていてもおかしくない。
「それにしても、まさか置き手紙も無しに失踪とは‥‥。よほどのワケがありそうだな」
警戒した様子で辺りを睨み、八幡伊佐治(ea2614)が疲れた様子で溜息をつく。
沖田が何らかの事件に巻き込まれている事は確かだが、あまりにも手掛かりが少な過ぎるため、それが何かは分からない。
「まぁ、十番隊の方にも連絡を取ったから、何か分かれば呼子笛を鳴らしてくれるはずだ。もちろん、俺達が沖田さんを見つけた場合も‥‥な」
何処か寂しそうな表情を浮かべ、玲が右手に持った呼子笛を睨みつける。
この呼子笛を鳴らすという事は、すなわち沖田を斬る事になるかも知れないという事だ。
‥‥斬れるだろうか、本当に‥‥。
沖田が冷静な状態であるならいいのだが、ジェロニモが言っていたように要人暗殺事件の犯人なら‥‥最悪の場合、彼と戦う事になるだろう。
自分自身の命を懸けて‥‥。
「あんまり難しく考えない方がいいんじゃないのか? 沖田君だって何か考えがあっての事だろうし‥‥。不審な影‥‥不可解な事件‥‥黄泉人達‥‥。まったく無関係というわけではないじゃろうしな」
険しい表情を浮かべて腕を組み、伊佐治が今までの出来事を思い出す。
‥‥ジェロニモを狙っていた集団。
彼らの存在が事件の謎を解く鍵だったのかも知れない。
「だからと言って虎長暗殺を計画しているとは信じ難い。例えそれが沖田組長の使命だとしても‥‥」
ジェロニモの言葉を思い出し、ランティスが拳をギュッと握り締める。
沖田の持っている剣が本当に特別な剣なら、操られているのも納得する事が出来るのだが、そこから虎長暗殺を計画しているのが、いまいち理解できないらしい。
「とにかく辺りをしらみつぶしに探してみよう。何か手掛かりがあるはずだ‥‥絶対にっ!」
そう言って玲が呼子笛の音色に気づいて辺りを睨む。
そして、彼らと同じように市中を探索していた十番隊から、沖田発見の報せが届いた。
●大和
「‥‥再び黄泉路か。あの場所に沖田組長が要ればいいが」
一方、その頃。
ティーゲル・スロウ(ea3108)達一行は沖田失踪に関する手掛かりを掴むため大和の地に訪れていた。
‥‥大和の地。
スロウにとっては忘れる事の出来ない場所だ。
「‥‥ジェロニモと名乗る男の言葉が正しければ、沖田様が所有していた剣は、使命を与える伝説の剣‥‥。強い心を持つ沖田様が自分を見失う事などあるのでしょうか?」
ジェロニモの言葉を思い出し、ミラ・ダイモス(eb2064)が汗を流す。
彼の口から剣の正体が語られる事は無かったが、あの剣は間違いなく所有者に使命を与えるモノである。
「ひょっとすると、沖田組長は黄泉路にいるのかも知れないわね」
鷹神紫由莉(eb0524)達が目指すのは、黄泉人達の本拠地であった場所。
黄泉比良坂決死隊として、沖田が訪れた場所である。
「新たに黄泉人達を率いて暗躍している謎の女性を倒すため‥‥ですね」
謎の女性に関してはミラも仲間達から話を聞いていた。
沖田によって倒された黄泉大神に変わり、黄泉人達を統べる存在。
彼女の正体は分かってないが、人並み外れた力を持っているのは間違いない。
「‥‥ったく。世界の平和を守る為だかどうだか知らねぇけど、どいつもこいつも自分の腹ん中溜め込んで、結果まわりに心配やら迷惑やらてんこ盛りなんじゃねぇのか! 確かに、何か危ない橋を渡る必要があるってんなら、自分ひとりで片つけちまいたいって気持ちは分かるけどさ。でも、それを組織の頭である人間がやってどうする!」
不機嫌な表情を浮かべながら、里見夏沙(ea2700)がブツブツと愚痴をこぼす。
隊士達の中には沖田が所有している剣によって操られ、我を失っているのではないかと言う者もいるが、夏沙はその事に関して頭から信用していない。
沖田ほど強い心の持ち主が、剣に心を支配されているとは、全く思っていないからだ。
「とにかく本人に会って理由を聞く必要がありそうね。一応、会話は出来るようだから‥‥」
最後に会った時の事を思い出し、紫由莉が黄泉路のある石舞台を目指して進む。
どちらにしても沖田に会う事が出来なければ意味がない。
「やはり沖田様を止めるには、命を奪うしかないのでしょうか‥‥?」
一番隊隊士によって捕縛されたジェロニモが牢屋の中で言っていた言葉。
‥‥ミラは決して忘れていない。
ジェロニモの事を信用したわけではないが、このまま沖田を止める事が出来なければ大変な事になってしまう。
「最悪の場合は‥‥な。そうならないためにも、あの剣について調べなければならない事がいくつもある。‥‥ん? あれは?」
京都の方角からやって来た隊士に気づき、スロウが動きを止めてジッと待つ。
報告にやって来た隊士の話では、十番隊士によって沖田が発見され、現在一番隊士と共に彼を追い詰めようとしているらしい。
「‥‥たくっ! 沖田さんは一体、何がやりたいんだっ! 俺達が行くまで馬鹿な真似はしないでくれよっ!」
呆れた様子で舌打ちし、夏沙が京都にむかって走り出す。
‥‥間に合うかどうかは分からない。
だが、このまま立ち止まっている訳にはいかなかった。
意地でも沖田を止めるために‥‥。
●沖田
「‥‥途方に暮れるとは、こう言う事なのであろうな」
十番隊が沖田を発見したという報告を受け、白河千里(ea0012)が祈るような表情を浮かべて現場に急ぐ。
色々と受け入れ難い事ばかりあるのだが、考えるのは沖田を捕まえてからでも遅くない。
「‥‥絶対に見つけてみせる。このまま逃がしてたまるものかっ!」
オーラセンサーを使って辺りを見回し、鷲尾天斗(ea2445)が沖田の存在を感じ取る。
オーラセンサーの反応する範囲内に沖田がいるのは間違いない。
「‥‥あれか! 捕まえたぞっ!」
沖田は1人だった。
天螺月律吏(ea0085)が叫んで走り出す。
沖田が何処かに消えてしまわないように‥‥。
「沖田組長‥‥、みんな屯所で待ってます。一人で頑張らないで、皆で事に当たりましょうよ」
警戒した様子で沖田を睨み、天斗が自分自身にオーラボディを発動させる。
「それ以上は‥‥近づかないで‥‥」
消え去るような声を出し、沖田がゆっくりと口を開く。
‥‥何かが光った。
「んな!?」
自分の何が起こったのかも分からず、天斗が胸元から流れる血を睨む。
‥‥一瞬の出来事だった。
急所は外れているものの、あと一歩踏み込んでいたら、命を落としていたかも知れない。
「次に動いたら‥‥死ぬよ‥‥」
警告まじりに呟きながら、沖田が刀についた血を払う。
‥‥青白く輝く刀身。
すべての元凶である剣が目の前にある。
「沖田組長‥‥、まずは戻りませんか?」
沖田の逃げ道を塞ぐようにしながら、千里がゆっくりと刀に手を掛けた。
もちろん、本気で戦うつもりはない。
ただ‥‥、沖田に気づいて欲しかった。
みんな命懸けで沖田を止めようとしている事を‥‥。
「‥‥帰れないよ。君達まで巻き込んでしまう事になるからね。こうなった以上、君らの手で僕を止めて欲しいから‥‥」
青白く輝く剣を見つめ、沖田が寂しそうな表情を浮かべてクスリと笑う。
「近いうちに僕は虎長暗殺のために動く。自分の意思なのか‥‥剣の意思なのか‥‥今となっては、よく分からないけどね‥‥」
自嘲気味に語りながら、沖田がゆっくりと歩き出す。
‥‥その表情に躊躇いはない。
ここで斬られても悔いは無いから‥‥。
「クッ‥‥」
千里は‥‥動けなかった。
沖田の表情を見て、彼の覚悟が分かったからだ。
「‥‥沖田組長っ! ただ理由を‥‥。行動の理由を教えて頂きたいっ! 貴方にとって私達‥‥否、新撰組は信じるに値しないのですか?」
戸惑いと怒りが天斗の中で渦巻き、今にも爆発しそうになる。
「君達を信じているからこそ‥‥僕はここに現れたんだよ。‥‥いいかい? さっき僕が言った言葉を忘れずにね」
そう言って沖田がニコリと微笑み去っていく。
ゆっくりと正面を見つめた後、自分自身を戒めるようにして気合を入れて‥‥。