●リプレイ本文
●モデル
「さすが本場のかすていら♪ 口の中に入れているだけで、幸せが溢れてくるようでござる」
満面の笑みを浮かべながら、風魔隠(eb4673)が『かすていら』をもきゅもきゅと食べる。
『かすていら』は於通が本場から取り寄せた物で、なかなか口には出来ない逸品らしい。
あまりにも隠が美味そうに『かすていら』を食べているせいもあってか、サイゾウさん(幼い駿馬)とハンゾウさん(幼い柴犬)も、『かすていら』を見つめて涎をダラダラと流している。
「サイゾウさんも、ハンゾウさんも、我慢するでござるよ。これはある意味‥‥、修行でござるっ! べ、別にあげるのが惜しいと思っているわけではないのでござるから、そんな目で見たら駄目でござるっ!」
嫌な視線を感じたため、隠が気まずくコホンと咳をした。
「そろそろ絵を描くので、褌を締めるのじゃ。ただし、おなごは駄目じゃ。色々な意味で萎えるから‥‥」
ジト目で隠を睨みつけ、清十郎が溜息をつく。
まったく女は興味が無いのか、妙に冷たい態度である。
「ちょっと待ったぁーっでござる! 拙者だって立派な益荒男でござる。ふふふふふっ‥‥、変わるでござるよ!」
すぐさま人遁の術を使って髭面まっちょめんの褌姿に変身し、隠が『実は女』と書かれた看板をぶら下げた。
「ふんっ! そんなマヤカシに騙されるわしではないのじゃ! こんなモノ! 所詮は見せかけなのじゃ!」
隠の尻を執拗に撫でながら、清十郎がプンスカ怒る。
「え、え? ちょっと‥‥、お、お尻の貞操の危機でござるか〜!? 物凄く身の危険を感じるのでござるよ〜。ひゃあ!?」
青ざめた表情を浮かべながら、隠が慌てた様子で逃げていく。
「何だかんだ言って物凄く興味があったんじゃないのか? 鼻息が荒いぞ!」
呆れた様子で溜息をつきながら、羽雪嶺(ea2478)がツッコミを入れる。
「ち、違うのじゃ! あやつの尻がわしに触ってくれと囁いたのじゃ!」
恥ずかしそうに頬を染め、清十郎が必死になって言い訳をした。
「まぁ、僕には関係ない事だね。ところで噂の褌はどれだい? 僕で良かったら、穿いてあげてもいいんだよ?」
ゆっくりと上着を脱ぎ捨て、雪嶺が清十郎を見つめてクスリと笑う。
しかし、清十郎は雪嶺に興味が無いのか、必要以上に身体を触ろうとしない。
「うーむ、もうちょっとマッチョで髭面親父がいいんじゃが‥‥」
困った様子で腕を組み、清十郎がウーンと唸る。
最高の作品を仕上げるためには、清十郎のモチベーションを高める必要があるため、筋骨隆々の漢でなければならないらしい。
「‥‥仕方ないな。私がモデルになってやろう。ところで、これはどうやって身につけるのだ?」
鍛え抜かれた肉体を曝け出し、クロウ・ディメルタス(eb4542)が清十郎に褌を突きつけた。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおっ! きた、きた、キター! 最高じゃっ! この肌触り‥‥、この食感‥‥。わしの求めていた人材じゃあ!」
あまりにもテンションが高かったため、クロウから肘鉄を喰らいつつ、清十郎が満足した様子で親指を立てる。
「わしはこの日をどんなに待ち望んだ事か。‥‥ようやくじゃ。ようやく、この褌を締める漢が現れた」
桐の箱をパカッと開け、清十郎が絹の褌を取り出した。
無駄に良い素材を使っているためか、褌の肌触りは人肌に近いものがある。
「さっそくわしが手取り腰取り褌の締め方を指導するのじゃ。ささっ、こちらにっ!」
小筒に入った赤マムシの汁を飲み干し、清十郎がクロウを連れて隣の部屋に移動しようとした。
しかし、クロウはまったく驚いた様子もなく、ジャパンの文化(どんな事をされるかまでは分かっていない)であると誤解する。
清十郎の目的も知らずに‥‥。
●御仕置き部隊
「モデルさんには手を触れないようにな、清十郎。それとクロウさんも気をつけなきゃ。漢はみんな狼なんだしさ」
爽やかな笑みを浮かべて裏拳を放ち、一條北嵩(eb1415)が清十郎の顔面を殴る。
危うく清十郎がクロウを隣の部屋に連れ込むところだったため、北嵩が止めねば大変な事になっていた事だろう。
「いきなり何をするのじゃ! わしを殺す気かっ!」
鼻からドクドクと血を流し、清十郎が北嵩を睨む。
ひさしぶりに甘い一時が過ごせると思っていたためか、殺気に満ちた表情を浮かべている。
「最高の漢が最高の褌締めている艶姿‥‥、あえて手ェ出さないで眺めるってのが粋なんじゃねェか? まぁ、クロさんの尻は俺が守ってやるけどな」
清十郎の首根っこを掴み上げ、東郷多紀(eb4481)がボソリと呟いた。
それでも清十郎は納得していないのか、何やらブツブツと文句を言っている。
「まあまあ、落ち着け。お前の顔を見るまでは、借金取りに追いかけられて、死ぬような思いをしているんじゃないかって心配していたんだから‥‥。今度こそ気持ちを入れ替えて頑張ったらどうなんだ? 恋人のためにもさ」
一瞬、恋人の顔が脳裏を過ぎり、北嵩が恥ずかしそうにクスリと笑う。
しかし、清十郎の表情は暗く、気まずい様子で口を開く。
「それは無理な相談じゃ。あやつはわしを振りよったからのぉ‥‥。借金をしないわしには面白みが無いから付き合っている価値も無いそうじゃ」
恋人の言葉を思い出し、清十郎がボロボロと涙を流す。
よほど恋人の事が好きだったのか、北嵩の胸でオヨオヨと泣きながら‥‥。
「随分と大変な目に遭っていたんだな。普通は逆だと思うんだが‥‥。世の中って広いなぁ‥‥」
しみじみとした表情を浮かべながら、北嵩が清十郎の肩をぽふりと叩く。
色々な意味でツッコむところがあるのだが、その事によって清十郎の傷口を広げる事になるので口には出さない。
「だからと言って欲望の赴くままにモデルを襲っていい事にはならないからな。例えお前の下半身が許したとしても、俺は絶対に許さないから覚悟しておけよ」
呆れた様子で溜息をつきながら、龍深城我斬(ea0031)が挨拶代わりにブン殴る。
「いきなり何をするのじゃ!」
突然の出来事に驚きながら、清十郎が納得のいかない様子で我斬を睨む。
「ほんの挨拶代わりさ。警告の意味も込めて‥‥」
月桂樹の木剣を清十郎の喉元に突きつけ、我斬が瞳をギラリと輝かせる。
「うぐっ‥‥、脅しとは卑怯なのじゃ」
悔しそうな表情を浮かべ、清十郎がギリギリと歯を鳴らす。
「‥‥おや? しばらく時間が空いたせいか、随分と態度が大きくなってますねぇ。やはり再教育が必要でしょうか?」
鞭を使って清十郎の首を締め上げ、瀬戸喪(ea0443)がニコリと微笑んだ。
「ちょっ、ちょっ、ちょっと待つのじゃ! つーか、待て! わしが悪かったからっ!」
今にも泣きそうな表情を浮かべながら、清十郎が畳に頭を擦りつけ必死になって謝った。
「仕方がありませんねぇ。ここはペットの芥に判断を任せましょう」
天使のような笑みを浮かべ、喪が清十郎の背中に芥を乗せる。
「重っ! なんじゃ、この漬物石はっ!」
背中にずっしりと重いものが乗ったため、清十郎が不機嫌な表情を浮かべて喪を睨む。
「‥‥漬物石とは失礼な。これでも僕のペットなんですよ」
芥の頭(らしきもの)をヨシヨシと撫でながら、喪が清十郎の間違いを正そうとした。
「漬物石は、漬物石じゃ! 痛いっ! 痛い痛い痛いっ!」
大粒の涙を浮かべながら、清十郎が悲鳴をあげる。
「あらあら、セラまで一緒になって清十郎君の上に乗っているのね」
誇らしげな表情を浮かべるセラ(幼い柴犬)を褒め、所所楽杏(eb1561)が穂先をしっかりとほぐした筆で清十郎をくすぐった。
「ぎゃははははははっ‥‥。くすっ、くすぐったいのじゃ!」
腹を抱えてゲラゲラ笑い、清十郎がジタバタする。
その振動が気持ちいいのか、セラが清十郎の腹の上でマッタリとした表情を浮かべている。
「今度、こんな真似をしたら、笑い事じゃすまないぞ」
丸めた瓦版を使って清十郎の頭を叩き、多紀が困った様子で溜息をつく。
事前にクロウから『清十郎にトドメをさしてくれ』と頼まれているため、いつでも仕留める準備は出来ている。
もっとも隠に危険が及んだ場合は、彼女を優先するつもりでいたのだが‥‥。
「覚悟しておく事だな。場合によっちゃ、お前の息子に責任を取ってもらう必要もあるからさ」
清十郎をジロリと睨み、我斬が警告まじりに呟いた。
「まぁ、それを望んでいるのなら、こちらは一向に構いませんが‥‥」
含みのある笑みを浮かべながら、喪が清十郎の胸板にゆっくりと指を這わす。
自らの名前を刻み込むように‥‥。
「とにかくこれ以上、馬鹿な真似はするんじゃないぞ。ちゃんと描き上げたらマッチョメーンが居る冥土酒場に連れて行ってやるからな」
清十郎のまわりをロープで囲み、北嵩がと筋肉漢を描いたでっちあげの瓦版を突きつけた。
「うっ‥‥、頑張る‥‥」
途端に清十郎が大人しくなり、無言でクロウの絵を描き始めた。
「しかし‥‥、褌漢の絵、えらく暑苦しい代物になるだろうな。‥‥世の中、何に需要があるか判らん物だ」
引きつった笑みを浮かべながら、我斬が清十郎に生暖かい視線を送る。
色々とツッコミたいのは山々だが、清十郎がヤル気になっているため口には出せない。
「これでようやく絵の方もうまく行きそうだね。‥‥おや? ひょっとして、所所楽さんって身内の方‥‥?」
ハッとした表情を浮かべながら、北嵩が杏を見つめて汗を流す。
清十郎の事ばかり考えていたため、まったく気がつかなかったのだが、よくよく考えてみれば彼女は林檎の母である。
「えっとー‥‥、林檎さんと親しくさせて貰ってます、一條北嵩です。ひゃ〜、なんか緊張すんなぁ。しかもお母さんだとは思わなかった。あっ、えっとー‥‥、お母さんなんて言っちゃ失礼だよな、うん」
かしこまった様子で頭を下げ、北嵩が気まずく頬を掻く。
「あらまぁ、娘の林檎と? ‥‥という事は、貴女は私の息子になるのね♪ あの子、奥手だと思っていたけど‥‥、ちゃんと可愛い人を捕まえていたのね」
そう言って杏が北嵩の顔をマジマジと見つめ、ホッとした様子で笑みを浮かべるのであった。
●於通
「おおっ、御茶って本当はこんなに美味しい物なのね。ほんのり甘いし、最高っ! 酒場の渋茶も美味しいけど、この御茶はそれ以上に美味しいわ♪ はふぅ〜‥‥、幸せぇ〜」
於通の出したお茶をのんびりと飲みながら、ディーネ・ノート(ea1542)が京都のお菓子をパクついた。
清十郎が真面目に絵を描いているおかげで、冒険者達は何もする必要が無いため、実に有意義な時間を過ごしている。
「それにしても平和ですねぇ。清十郎がいつもこうなら、私達も苦労する事がないんですが‥‥」
しみじみとした表情を浮かべながら、神楽聖歌(ea5062)がダラリと汗を流す。
清十郎はクロウの褌姿に釘付けで、聖歌達の声がまったく聞こえていない。
「マッチョさんのモデル希望じゃなかったら、僕の魅力を皆にたっぷりと見て貰えるチャンスだったのに‥‥」
自分の身体がマッチョでないため、レイジュ・カザミ(ea0448)が残念そうな表情を浮かべて溜息をつく。
「実際にモデルをやったら、そんな事も言っていられなくなるわよ。なんたって清十郎は男色だしネ」
レイジュの肩をぽふりと叩き、羽鈴(ea8531)が冗談まじりに微笑んだ。
清十郎が男色である事は有名だが、それは江戸に限った事なので、念のため教えてあげたらしい。
「それじゃ、仕方が無いなぁ。せっかくだから、本場ジャパンの褌を楽しむ事にするよ。僕の故郷のイギリスじゃ、褌を手に入れるのも一苦労だったさ! 値段は高いし、初めて輸入される褌を護衛した時は、激しい死闘を繰り返したね。ま、褌を狙う変態どもなんて、この葉っぱ男たる僕に適う訳ないけど!」
やたらに自信満々で、レイジュが褌について熱く語る。
清十郎の家にはたくさんの褌が転がっていたが、レイジュの琴線を刺激するような褌はないようだ。
「こらっ、ゼロス! そんなものに潜っていたら、妙な病気を移されるわよ」
ペットのゼロスが褌の山に潜り込んでいったため、ディーネが慌てた様子で捕まえる。
ゼロスは褌の山に興味津々な様子だが、教育上も良くないために叱っておく。
「妙な病気って‥‥」
色々と該当する病気が浮かぶため、聖歌が引きつった笑みを浮かべる。
「きちんと洗濯しているから、妙な病気になる心配もないんじゃないのかな? そうそう、褌といえば、年末に褌ショーのモデルをやったんだ。僕が舞台に立つと、会場から葉っぱ男コール! あの声援は今でも忘れられないよ。‥‥って僕の話ちゃんと聞いてる?」
ウットリとした表情を浮かべ、レイジュが褌について熱く語っていく。
「いや、半分くらい‥‥聞いたかな」
本当は全然聞いていなかったため、鈴が気まずい様子で視線を逸らす。
目が合ったら‥‥負けである。
「私は全部聞いていたよ。‥‥多分」
途中で自信がなくなってきたため、ディーネが小声で答えを返す。
ふたりとも褌の話題を避けたいため、レイジュと視線を合わせようとしない。
「と、とにかく皆さん。冷静に」
苦笑いを浮かべながら、聖歌が仲間達を注意した。
それから数時間後。
無事に清十郎の絵が完成し、クロウがヘトヘトになって帰っていく。
仲間達からの惜しみない拍手を貰いながら‥‥。