●リプレイ本文
●於通
「‥‥花見か。もう春なんだな」
しみじみとした表情を浮かべながら、龍深城我斬(ea0031)が溜息を漏らす。
本当は清十郎達に誘われて花見に来ているのだが、色々な意味で身の危険を感じているため、小野於通(ez0029)の横で珍しいお菓子を食べる事にした。
「それにしても、綺麗な桜ですよね。‥‥心が洗われるようです」
ホッとした表情を浮かべながら、神楽聖歌(ea5062)がずずっとお茶を飲む。
いつの間にか、ごるびーが遊びに来ていたらしく、聖歌の膝の上でスヤスヤと眠っている。
「‥‥ん? 毛皮かと思ったら、ごるびーじゃないか? 一体、どうしたんだ? そんなにゲッソリとした顔をして‥‥」
干物のように痩せ細ったごるびーを掴み上げ、我斬がダラリと汗を流す。
新しく始めた仕事の依頼が来ていないとは聞いていたが、まさかここまで追い詰められているとは思っていなかったため、持参していた干しイカをごるびーに食べさせる。
「きゅっ‥‥」
朦朧とする意識の中でイカに喰らいつき、ごるびーがモショモショと口を動かした。
「この様子じゃ、餌を求めて江戸に来ていたようだね。花見のシーズンだから、たらふく食えると思ったんだろ?」
苦笑いを浮かべながら、デュラン・ハイアット(ea0042)がごるびーの頭を撫で回す。
デュランの言っている事が図星だったためか、ごるびーがドキリッと胸を押さえている。
「まぁ、一匹増えたくらいで於通さんが怒る事もないだろ。ところで於通さんは何で清十郎をあそこまで面倒を見るんだ? 正直、愛想を尽かしてもいいと思うんだが‥‥」
七輪を使ってカワハギを焼きながら、我斬が不思議そうに首を傾げて呟いた。
「‥‥簡単な事ですわ。御仕置きし甲斐があるからです。女嫌いの清十郎がわたくしの言葉で苦しむ姿を見るだけで、何だかゾクゾクしてきますもの‥‥。それだけでも飼っている甲斐があるってものでしょ?」
サディスティックな表情を浮かべ、於通が清十郎を見つめてクスクスと笑う。
普段はおしとやかな雰囲気を漂わせているためか、彼女のギャップに驚く者も少なくない。
「‥‥なるほどな。それじゃ、清十郎も於通さんと縁を切りたいが、借金の問題があったから逃げる事が出来なかったというわけか‥‥」
生暖かい視線を清十郎に送りながら、我斬が乾いた笑いを響かせる。
清十郎は借金がなくなったため、於通と縁を切るつもりでいるようだが、既に彼女が裏で手を回している可能性が高そうだ。
「蜘蛛の巣に引っかかった哀れな蝶ならぬ‥‥蛾ですね」
能天気な表情を浮かべる清十郎を見つめつつ、聖歌がなむなむと両手を合わす。
「まぁ、清十郎はそういう星のモトに生まれたんだから仕方が無いだろ。それよりもゲームでもやらないか? この『江戸の月』の中にひとつだけ‥‥ワサビ入りのものがある! みんなで運試しをしてみないか? まずは私から‥‥」
松之屋で購入した『江戸の月』を於通達に配った後、デュランがニコリと笑って口の中に放り込む。
「‥‥‥‥」
一瞬の沈黙。
ワサビ入りを食べたのはデュランだった。
「ま、まさか‥‥、私がワサビ入りを食べてしまうとは‥‥。一生の不覚っ!」
青ざめた表情を浮かべながら、デュランが一気に水を飲む。
一応、その場は和んだが、デュラン自身はそれどころでないようだ。
「‥‥大丈夫ですか? あんまり無茶をしたら駄目ですよ」
心配した表情を浮かべながら、於通がデュランの背中を撫でる。
「ゲホッ‥‥、ゲホッ! ‥‥すまないな。そ、そうだ。せっかくだから、江戸城楽士の腕前を見せてくれないか? 最近、家康公の前でも披露していないんだろ?」
聖歌の淹れたお茶を受け取り、デュランが額に浮かんだ汗を拭う。
ワサビの刺激はデュランの脳味噌を直撃し、今にも意識が吹っ飛びそうになっている。
「ふふっ‥‥、そうね。それじゃ、一曲‥‥」
そう言って於通が持参した三味線を掻き鳴らす。
自作の歌を織り交ぜて‥‥。
●清十郎
「ぬおおおおおおおおおおおおおおっ! やっぱり花見は最高なのじゃ! まさにパラダイスッ! 何処を見てもイイオトコばかりで、わしは鼻血を噴きそうじゃよ‥‥」
恍惚とした表情を浮かべながら、清十郎が辺りを見つめて涎を拭う。
清十郎が予想した通り、花見会場にはイイオトコ達が集まっており、酔いのせいか裸踊りを踊っている。
「やっぱり桜は綺麗だねぇ。僕はイギリス生まれのイギリス育ち、ジャパンのお花見はとても楽しみにしていたんだ! 桜もいいけど、桜の葉っぱは、もっといいよね♪」
地面に落ちた桜の葉っぱを拾い上げ、レイジュ・カザミ(ea0448)が葉っぱの良さを強調した。
清十郎とは違う方向性で花見を楽しんでいるが、変態というカテゴリーからは外れていない。
「春‥‥ですねぇ」
冷ややかな視線をふたりに送り、嵯峨野夕紀(ea2724)がゴクリとお茶を飲む。
既にツッコむ気力も無いのか、あえて触れないようにしているようだ。
「とりあえず吊るしておきましょうか?」
無言でふたりをドツキ倒し、瀬戸喪(ea0443)が清十郎を桜の木に吊るす。
「まあまあ、せっかくの花見なんだから落ち着いて。そんな事をしたって清十郎さんが悦ぶだけだから」
苦笑いを浮かべながら、フォウ・リュース(eb3986)が生暖かい視線を送る。
休養で彼が来れなくなったため、花見を楽しもうとしているようだ。
「確かにそれは言えますね。今回はお花見という事で見逃してあげましょう。厳しくそして時に優しくが良い飼い主の心得ですから。ただし、お花見中にナンパに走ったら、また吊るし上げますからね。桜の花びらと共に舞い散る清十郎さんの吐血。‥‥綺麗でしょうね。嫌だったら大人しくしてましょうね?」
警告まじりに呟きながら、喪が笑顔で瞳をキラリと輝かせる。
「わ、分かったのじゃ」
借りて来た猫のような表情を浮かべ、清十郎がチョコンと座って頷いた。
「女の作ったものでは、お口に合うか分かりませんがいかがですか?」
早起きして作った弁当を渡し、夕紀が於通に報告するため、清十郎の行動を記録する。
そのためか清十郎も畏まった様子で夕紀から弁当を受け取った。
「良かったらお菓子もどう?」
やけに清十郎が大人しかったため、フォウがお菓子を渡して微笑んだ。
清十郎は小動物のような表情を浮かべ、フォウから受け取ったお菓子をカリコリと食べる。
「愛情に飢えているんだね。僕もそうなんだよ! こんな清々しい季節に、一人でいるなんて寂しいし辛いよね! 今日は僕が貴方の寂しい心を癒してあげますから。さぁ、僕に触れてごらん! お触りだったら、3回まで許してあげるよ」
そっちの趣味はないのだが、レイジュが覚悟を決めて身体を許す。
「うーむ、出来ればマッチョがいいのじゃ。何というか、こう‥‥、汗臭くて、ガチムキ系の‥‥。角刈りだったら最高なのじゃ!」
申し訳なさそうな表情を浮かべ、清十郎が自分の理想を語っていく。
一応、清十郎にも好みがあるらしく、残念ながらレイジュは好みでないらしい。
「あんまり贅沢ばかり言っていると、また吊るされちゃうわよ、本当に‥‥。ふたりならきっとうまく行くと思ったのに残念ね。マッチョで角刈りじゃなくても、レイジュさんは魅力的だと思うけど‥‥」
納得のいかない表情を浮かべ、フォウがふたりをくっつける。
「うーむ、確かに魅力的じゃが‥‥、正直言ってレイジュは魂の片割れみたいなものなのじゃ。踏み入れてはいけない禁断の領域というか、何というか‥‥。愛し合ったらドロ沼じゃ」
妄想を大爆発させながら、清十郎が気まずく視線を逸らす。
彼の中では壮大なストーリーが展開しているためか、レイジュの顔をマトモに見る事が出来ないようだ。
「いや、僕はそっちの趣味ないし‥‥」
清十郎が勝手に同類と決め付けているため、レイジュがクールなツッコミを入れた。
「それじゃ、仕方ないね。やっぱり僕が面倒を見るしかないのかな? もちろん、恋人ではなく、専属の奴隷としてね」
含みのある笑みを浮かべながら、喪が妖しく鞭をしならせる。
清十郎は既に調教済みのため、このまま飼うのも悪くない。
●花見
「随分と盛り上がっているようだな」
自前の大きな傘を地面に突き刺し、クロウ・ディメルタス(eb4542)が御座を敷く。
花見会場にはたくさんの見物客が訪れており、桜の花に心を奪われている。
「花は桜。漢は褌♪ これぞジャパニーズ春カム!」
中途半端に和洋折衷を楽しみながら、一條北嵩(eb1415)がのんびりと酒を飲む。
清十郎がケダモノと化して、クロウの尻を狙ってくる可能性もあるため、いくら花見といえども油断は出来ない。
「こうやって姑と婿の触れ合いも悪くないわね。ささっ、遠慮なく飲んで♪」
満面の笑みを浮かべながら、所所楽杏(eb1561)が並々と酒を注ぐ。
北嵩も清十郎が桜の木に吊るされている姿を見て安心したのか、杏にお酌をして貰った酒をゴクリと一気に飲み干した。
「彼もあっちで花見しているのかな?」
パリにいるヴァイナ(旦那)の事を思い浮かべ、フォーレ・ネーヴ(eb2093)が溜息をつく。
出来る事なら一緒に花見をしたかったが、住んでいる場所が違うため仕方が無い。
「まぁ、これでも飲んで元気を出せ!」
先日手に入れた高麗茶碗に茶を淹れ、東郷多紀(eb4481)がニコリと微笑んだ。
一応、茶道の作法に則り茶を淹れているが、だからと言って美味いわけではない。
「これって‥‥お茶だよね? 湯呑みとは違うようだけど‥‥。お茶の色も濃い目の緑だね。とってもいい匂いがするから、遠慮なく戴こうかな」
見よう見真似で茶碗を回し、フォーレが淹れ立てのお茶を飲む。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥にがぃ、じゃなかった。えっと、ケッコウナオテマエデ」
あまりの不味さでカタコトになりながら、フォーレが頭を下げて茶碗を渡す。
「‥‥(心の声:うぐっ‥‥、マズイ。だが、ここで本当の事を言ったら、彼を傷つけてしまうかも知れないな)。ケ、ケッコウなオテマエで‥‥」
慣れない正座とマズイお茶のダブルパンチを喰らい、クロウが気まずい様子で頭を下げた。
本当はマズイと言いたかったのだが、相手を傷つけてしまうため口には出せない。
「ははっ‥‥、ちょっと刺激が強すぎたようだな。この苦さがジャパンの茶の『侘び寂び』ってやつなんだよー」
得意げに話をしながら、多紀がふたりの肩をぽふりと叩く。
本当は失敗しただけだが、多紀はその事に気づいていない。
「け、結構なお手前‥‥で?」
キョトンとした表情を浮かべ、北嵩が納得のいかない様子で首を傾げる。
一口飲んだだけで桃源郷(らしきもの)が見えたため、色々な意味で危険な雰囲気が漂っているようだ。
「‥‥だ、駄目か」
ようやく自分の腕が悪い事に気づき、多紀がガックリと肩を落とす。
「いや、私達も飲みなれていないものだから‥‥」
気まずい雰囲気が漂ってきたため、多紀が慌ててフォローを入れる。
「本当に‥‥すまん! これでも食べて機嫌を直してくれ!」
深々と頭を下げた後、多紀が秘蔵の金平糖を配っていく。
「まあまあ、これでも飲んで落ち着いて」
清十郎名義で購入したどぶろくを並々と注ぎ、北嵩がニコリと微笑んだ。
「そんなに落ち込まなくてもいいのよ。誰でも失敗はあるのだから‥‥。ささっ、そろそろお弁当にしましょうか。特に一條君は精をつけてもらわなきゃ。可愛い孫を期待しているわよ♪」
ほろ酔い加減でニコリと笑い、杏が手作り弁当を手渡した。
彼女のつく料理は精のつくものばかりで、清十郎達にも同じものが配られている。
「精をつけて可愛い孫? あ、いや、まだそういう仲じゃ! ‥‥って、まだと言うか、なんと言いますか。‥‥そうなれたら、良いですけど。‥‥あれ?」
恥ずかしそうに頬を染め、北嵩が気まずい様子で汗を流す。
「何だか羨ましいのぉ‥‥。独り身のわしにはツライのじゃ! ううっ‥‥、クロウ殿ぉ!」
大粒の涙を浮かべながら、清十郎がクロウに飛びついた。
杏特製のスタミナ料理を食べたせいか、理性が何処かに吹っ飛んでしまったらしい。
「うっ‥‥、足が痺れて‥‥動けないっ!?」
ハッとした表情を浮かべ、クロウが唇を噛み締める。
その隙に清十郎がクロウの服を脱がせていき、興奮気味に鼻息を荒くした。
「その辺にしておけ! アンタも大概懲りない人だねェ‥‥。ま、その根性は買うけど気のない相手に無理やり、ってのは良くないぜ?」
清十郎の首根っこを掴み上げ、多紀が呆れた様子で溜息をつく。
於通達の気配に気づき、逃げ出そうとした彼を見つめ‥‥。