一番隊

■シリーズシナリオ


担当:ゆうきつかさ

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:10 G 85 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月23日〜11月28日

リプレイ公開日:2006年12月01日

●オープニング

●一番隊
 新撰組一番隊組長『沖田総司』が行方を眩ましてから早数ヶ月。
 彼の消息すら掴めぬまま、虚しく時間だけが過ぎていった。
 噂では沖田を大和で見かけたとか、鬼の面を被った侍の正体が沖田であると言われているが、どれも信憑性に乏しくハッキリと断言する事が出来ない。
 しかも組長の不在期間が長かった上に、平織虎長暗殺事件の容疑者である事には代わりがないため、一番隊再編の噂が実しやかに囁かれている。
 そこで『一番隊ここにあり』という事を見せつけるため、ここで何らかの行動を起こしておく必要があるだろう。
 一番隊だけにしか出来ない事を、ここで決めておくべきだと思っている。

 そう考えていた折も折、京都にて長州藩が激発した。
 長州藩は源平の傀儡神皇と現政権を打倒し、神皇中心による政治を唱えている。
 長州藩は謀反人、しかも国家転覆を企む大逆の徒だ。
 源徳支配下の新撰組として黙っておられない事は勿論だが、彼らは京都の街を戦乱と炎に沈めようとしている。
 一番隊の真価を見せるのは、今この時以外に無い。

 なのであるが、暗殺容疑に晒されて満足に行動できず、指揮者不在の期間が長すぎた一番隊は、この危急存亡の時に動く事が出来ないでいた。
「一番隊だと?」
 新撰組局長芹沢鴨は副長の新見から一番隊の処遇を問われて眉を上げた。確かに一番隊の状態は問題だが、今はそんな事を話す時期ではないはずだ。
 新見は一番隊が動かぬなら、他の小隊に隊士を回すべきだと進言する。
「元はといえば、近藤局長や土方が沖田に甘く、一番隊の処分を保留していた事が原因です。彼らの責任も追及すべきかと。勿論一番隊は後々の再編を考慮し‥‥」
「新見よ、くだらん事を言うな」
 睨みつけて副長を黙らせた芹沢はしばし思案した。
 一番隊の隊士を急場しのぎで他の小隊に回しても各隊の連携が崩れるばかりだろう。第一、芹沢はこの忙しい時にそんな面倒な事をやりたくない。そもそも一番隊の事は勇が考えれば良いのだが‥‥。
「新見、貴様暇なようだな。冒険者ギルドに行ってこい。一番隊の事は奴らに任せろ」
「‥‥‥は?」
「仕事は一番隊の建て直しだと言え。人手も足りねぇからな。ついでに隊士も集めてこい」
 無茶な話だと新見は思ったが、ここで芹沢に反論すれば斬られる。そういう男なのだ。予想外の結果だが、承知して下がるより無かった。

 かくして反乱騒ぎで大慌てのギルドに、一番隊再建の依頼が届けられた。

●今回の参加者

 ea0031 龍深城 我斬(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0085 天螺月 律吏(36歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea1628 三笠 明信(28歳・♂・パラディン・ジャイアント・ジャパン)
 ea1661 ゼルス・ウィンディ(24歳・♂・志士・エルフ・フランク王国)
 ea2445 鷲尾 天斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea4141 鷹波 穂狼(36歳・♀・志士・ジャイアント・ジャパン)
 ea5298 ルミリア・ザナックス(27歳・♀・パラディン・ジャイアント・フランク王国)
 ea8087 楠木 麻(23歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea8802 パウル・ウォグリウス(32歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb1935 テスタメント・ヘイリグケイト(26歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●一番隊再編
「わずか半年で再びこのような乱が起きるとは‥‥。確かに、今のままの一番隊では、京を守るために隊として動くことが難しい状況にあるのも事実。今後の事を決めるには、良い機会かも知れませんね」
 険しい表情を浮かべながら、ゼルス・ウィンディ(ea1661)が新撰組の屯所にむかう。
 現在、京都では五条の乱が起こっており、多くの冒険者が戦場に赴いている。
 そんな中、一番隊は組長である沖田総司が行方不明になっている事が原因で解散の危機に陥っていた‥‥。
 そのため、沖田組長が見つかるまで鷲尾天斗(ea2445)が組長代理としての任に就き、天螺月律吏(ea0085)が組長補佐として一番隊を再建していく事になった。
「‥‥一番隊の再建か。現在の神皇様を守れるのは源徳様しかいねぇって俺は思っている。俺は神皇様の血筋じゃなく、江戸から京都の道中で実際にお会いしてお護りした現在の神皇様を護りたいって思って京都に居ついたんだんだしな」
 希望に満ちた表情を浮かべ、鷹波穂狼(ea4141)が屯所の中に入っていく。
 既に屯所には一番隊の隊士達が腕組みをしながら、志を共にする同志達の到着を待っていた。
「‥‥遅かったじゃないか。みんな、待っていたんだぞ」
 穂狼達が部屋の中に入ってきたため、龍深城我斬(ea0031)がゆっくりと口を開く。
 我斬は早朝から屯所で入隊試験を受けて合格したため、隊士の一員として同志達の話を聞いていた。
「これでみんな集まったな。私が新撰組の組長代理の鷲尾天斗だ。まぁ、あらためて自己紹介する必要もないと思ったが‥‥、念のためな」
 含みのある笑みを浮かべ、天斗が穂狼達と握手をかわす。
 一応、肩書き上は組長代理になっているが、沖田が行方不明になっているため、立場的には組長と同じである。
「それなら私も自己紹介をしておくべきかな? このたび一番隊の組長補佐として任に就く事になった天螺月律吏だ。色々と大変な事もあると思うが、お互い力を合わせて頑張っていこう」
 クールな表情を浮かべながら、律吏も穂狼達と握手した。
 京都が混乱している状況で、一番隊を解散させるわけには行かないため、律吏もヤル気になっている。
「それにしても、沖田組長はどこに行ってしまったんだろうね? 行方不明になる前は剣に身体を乗っ取られていたんでしょ? だったら剣と一緒に消えちゃったのかな?」
 不思議そうに首を傾げ、楠木麻(ea8087)がボソリと呟いた。
 沖田に関しては様々な目撃情報があるのだが、どれも信憑性に欠けており、これだと言える情報がない。
「私もパリで『剣に乗っ取られる体験』をしましたが、剣の束縛から逃れているのなら、何処かで生きていると思います。ただし、現時点では沖田組長の名を語るニセモノなども横行しているため、ハッキリとした事は言えませんが‥‥」
 色々と疑問が残るため、三笠明信(ea1628)が険しい表情を浮かべて腕を組む。
 以前、沖田の消息を探っていた集団がいた事もあるため、何らかの秘密を彼が握っていたのかも知れない。
「どちらにしても『一番隊ここにあり』というところを見せつけねば、上層部を納得させる事は出来ないだろう」
 ここで不祥事を起こせば一番隊が解散してしまうため、ルミリア・ザナックス(ea5298)が自分自身に言い聞かせるようにして呟いた。
 ちなみにルミリア達はジャパンの人間ではないため、一番隊への正式採用は一時見合わされる事になった。
 もちろん、ルミリア達の功績を考えれば、ジャパンの人間でなくとも正式採用する事は出来るのだが、一番隊が解散の危機に瀕している状況で彼女達を採用すれば、周囲の反発が容易に予想する事が出来る。
「とにかく組長代理と、組長補佐には頑張ってもらわねばな」
 落ち着いた様子でお茶を飲み、パウル・ウォグリウス(ea8802)が髪を掻き上げる。
 今後は彼らが一番隊を引っ張っていく事になるため、まわりを納得させるだけの活躍をせねばならない。
「もちろん、私達にも言える事だがな」
 そう言ってテスタメント・ヘイリグケイト(eb1935)がクスリと笑うのだった。

●親睦会
「‥‥ところで天斗。今後はどうするつもりだ。一番隊の組長代理とはいえ、沖田組長が不在の今、実質的な組長はお前なのだから、何か考えているんだろう?」
 だんだん夜が更けてきたため、我斬がジロリと天斗を睨む。
 我斬は天斗が那須で独立部隊として動いていた時の事も知っているため、彼の事を信頼して今後の指示を待っている。
「まぁ、落ち着け。みんな腹が減っている。まずは飯にしようじゃないか。詳しい話はそれからだ。明日も戦いに赴かなければならないんだからな」
 苦笑いを浮かべながら、天斗が鍋を用意する。
 この時点で話し合いが夜明けまで続きそうな雰囲気があったため、隊士達の気持ちを察して鍋の準備をし始めた。
「とりあえず簡単に説明だけでもしておくか。その方がおまえ達も安心して飯が食えるだろ? 一応、明朝にでも近藤局長に会って一番隊を含めた今後の事を話し合ってこようと思っている。異国人の登用に関しては時期が悪かったせいで不採用になってしまったが、京のために戦っている異国人の数を知れば、近藤局長だって考えを改めてくれるはずだしな」
 険しい表情を浮かべながら、律吏が酒を一気に飲み干した。
 異国人の登用に関しては今後も問題になってくるため、早めに話をつけておく必要がありそうだ。
「あまり無茶をしないでくれよ。ただでさえ一番隊は解散の危機にあるのだからな」
 クールな表情を浮かべながら、テスタメントが口を開く。
 テスタメントは異国人である上に、ハーフエルフでジーザス教徒であるため、一番隊の隊士になるつもりは無い。
 無理をして入隊する事が出来たとしても、必ずトラブルを招く結果になるからだ。
「でも新撰組も昔と比べて異国人に対しての不信感が無くなってきているようですから、試してみる価値はあると思いますよ」
 グツグツと煮立った鍋をつつき、明信がニコリと微笑んだ。
 今までは異国人に対する偏見もあったため、新撰組への入隊が禁じられていたような気もするので、その溝を少しずつ埋めておかねばならない。
「ふたりの腕の見せ所ですね。近藤局長を説得するのは困難だと思いますが、あなた達ならきっと大丈夫だと思います」
 期待の眼差しをふたりに送り、ゼルスがボソリと呟いた。
 そうでなくとも一番隊にはやるべき事があるため、ここで立ち止まっているわけにはいかない。
「おいおい。みんな飯を食うんじゃないのか? 早くしないと俺が全部食っちまうぞ!」
 冗談まじりに微笑みながら、穂狼が鍋の具を足していく。
 一番隊の存続を望む者達から大量の差し入れがあったため、鍋に入れる具が山ほど残っている。
「そ、そうだな。さすがに野菜だけでは気が滅入る」
 慌てた様子で箸を掴み、ルミリアが迷わず肉を摘む。
 鍋の中に入っているのは猪の肉で、近所の猟師が獲ってきたばかりのものらしい。
「これから忙しくなってくるんだから精をつけなきゃね」
 明日の事を考えながら、麻が猪肉を頬張った。
 ただでさえ今日は徹夜になるかも知れないため、猪肉を食べて精をつけておく必要がある。
「お、おい。肉ばっかり食わないで、野菜も食っておけ。このままじゃ、野菜鍋になってしまうだろ?」
 物凄い勢いで肉がなくなってきたため、パウルが野菜を摘んで隊士達の器に入れていく。
 野菜だけが残ってしまうと誰も手をつけなくなってしまうため、誰かが残った野菜を黙々と食べなくてはならなくなる。
 そうなれば隊士達の間に亀裂が入ってしまう可能性があるので、パウルが警戒した様子でお代わりをしてきた隊士達の器に野菜を盛っていく。
 そのため、隊士達は文句も言わずに鍋をあっという間に平らげた。

●今後の予定
「今、一番隊として私達に求められているのは『戦力』と『機動力』そして『統率力』だと思う。誰よりも、何処よりも、必要に応じ必要な力で馳せ参じる――過不足なく。今回の増強で、その不足分を補う事が出来たと思うが、それだけでは一番隊の解散を回避する事は難しい。上層部に一番隊の必要性を認めさせなくてはならないからな。とりあえず組長代理が立つ事でまずは一歩を踏み出す事になるのだろう。一に肝心は隊士間の意思疎通を速やかに成せるようにする事。これまでは旧来隊士との間に溝があったように思われる。‥‥なので彼らの意思も組長代理のもと、ひとつとなるよう調整せねばな」
 食事が終わって落ち着いた頃を見計らい、律吏が今後の予定を口にする。
 虎長暗殺事件以降、沖田が第一容疑者として疑われる事になったため、他の隊が一番隊に関わる事は減っていく一方であった。
 それは一番隊と関わる事で、自分達も虎長暗殺の容疑者として疑われるかも知れないという理由から‥‥。
 もちろん、一番隊が虎長暗殺に関わっていない事は明白だが、それでも未だに疑っている者がいるのも、また事実‥‥。
 利巧な者なら一番隊と関わらぬ方が無難であると判断してしまうだろう。
「正直に言って一番隊の立場が危うい事には変わりない。上層部の判断で左遷させられる可能性もあるからな。彼らにとって俺達は腫れ物のようなものだ。虎長暗殺の犯人がハッキリとするまで、あまり派手に動いてほしくはないのだろう‥‥」
 険しい表情を浮かべながら、天斗が大きな溜息をつく。
「だからと言って、このまま黙っていれば一番隊が解散してしまう事は間違いない。まずは身近な問題から解決していこう。今回の乱についても裏を調査しなければならないし、京都の治安を維持していく必要もある。特に黄泉人の退治をしておく必要があるだろう。以前と比べて京都で暴れる事は無くなったが、そのぶん大和の地が黄泉人達によって支配されているようだからな」
 色々と問題が山積みになっているため、天斗が困った様子で腕を組む。
 特に黄泉人の問題は無視する事が出来ないのだが、京都で次々と事件が起こっているため、他の隊が大和に行って黄泉人達を退治する事は無い。
「でも、いまは京都の治安維持を優先すべきじゃないのかな? 例え大和の治安を安定させる事が出来たとしても、京都の治安が乱れていたら、何の意味も無いと思うから‥‥」
 新撰組の活動拠点が京都である事も考え、麻がボソリと呟いた。
 もちろん、大和を見捨てるつもりはないのだが、その前に足場をシッカリとさせておかないと、自分達の立場が危うくなってしまうからである。
「‥‥となると、今回の乱を片付けてからの方が良さそうだな。今回の反乱には長州藩の他にも藤豊や武田が動いているようだから、その辺りから調べてみるか。特に武田は寺社との結びつきが強そうだ。しかし、寺社は閉鎖的な上に俺達の協力してくれるとは考えにくい。まずは長州藩の資金源を調べて残党狩りに動く方がいいかもな」
 今までの情報を元にして、穂狼が今後の事を考えた。
 今回の乱が原因で色々とピリピリしているため、資金源を突き止めるだけでも困難な作業となるが、ここで第一歩を踏み出さねば他の隊に先を越されてしまう。
「‥‥長州藩の資金源か。何か手掛かりになるようなキッカケが掴めるといいんだが‥‥」
 あまりにも情報が少な過ぎるため、テスタメントが溜息を漏らす。
 事件を裏で操っている黒幕がいたとしても、自分達が知っている情報だけでは動けない。
「沖田組長なら何か知っていたのかも知れませんが、先の五条の乱も今回の乱も、いまだ裏で糸を引いている者が隠れたままのように思います。五条の宮も長州も、京の都に戦乱の種を蒔くために誰かに利用されているに過ぎないような、そんな気が‥‥。私は、それを調べ確かめたいと思うのです。もしかしたら、それには多くの危険が待ち受けているかも知れません。ですが、それならばこそ、冒険者ギルドの中でも屈指の実力者が揃った、この一番隊を置いて他に、誰がそれを成せるでしょうか」
 真剣な表情を浮かべながら、ゼルスが自分の考えを語っていく。
「‥‥沖田組長か。大和で見たって噂もあるから、調査してみる価値はあると思うが、この状況で迂闊な行動をするわけには行かないな。‥‥となると黒虎隊の紅葉ちゃんと合コン‥‥じゃなかった接触して、今回の事件について何か情報を掴んでいないか聞いてみるくらいだなぁ‥‥」
 一瞬、仲間達の視線がグサリと突き刺さったため、パウルが気まずい様子で視線を逸らす。
 本人としては重い雰囲気を和ますための冗談のつもりで言っただけなのだが、パウルならやりかねんと思われたのか、仲間達からは本当に合コンをすると思われている。
「少しでも手を抜けば、それこそ自分の首を絞める事になる。どちらにしても全力でぶつかって行くしか無さそうだな」
 ここで悩んでいても仕方が無いため、ルミリアが深呼吸をして覚悟を決めた。
 今日を境にして上層部だけでなく、他の隊も一番隊を注目していく事になるため、何かヘマをすれば揚げ足を取られてしまう。
 しかし、そこで何もしなければ一番隊の評価は下がる一方だ。
 そのため、ルミリア達も命懸けで職務に専念しなければならない。
「とりあえず京の治安維持に回って一番隊が動いてるって事を世間に知らしめておく必要がありそうだな。上層部を認めさせる事も重要だが、体裁を保つ事で世間の見る眼は変わると思うぞ」
 長州藩の資金源を突き止める事が出来なかった場合の事も考え、我斬が京都の治安維持を前面に押す。
 もちろん、それは目に見えないところで活動するだけでは、住民達の理解を得る事が出来ないという理由からである。
「本当にやるべき事が山積みですね。まぁ、何もする事がないよりはマシですが‥‥」
 頭の中でやるべき事を整理しながら、明信が疲れた様子で溜息をつく。
 すべての問題を片付けるためには、あまりにも人数が足らないため、地道にひとつずつ解決していくしか方法が無い。
 例え、それが険しい道のりになるとしても‥‥。