●リプレイ本文
●樹
「‥‥意外と早く出たな、一番隊への仕事。上層部も我々の事を見極めたいって所か」
険しい表情を浮かべながら、龍深城我斬(ea0031)が韋駄天の草履を履いて古寺にむかう。
前回の時点で我斬は一番隊の仲間入りをしているのだが、担当の者がミスをしたため正式な登録が遅れている。
「やはり評判を高める為には様々な業務をこなし、京の都の治安を回復させてその力を見せ付けなくてはなりませんね」
味方だと分かるように白い鉢巻を締め、三笠明信(ea1628)が戦闘馬『千代姫』に跨ったままで溜息を漏らす。
古寺からは鬼達の唸り声が聞こえており、ときおり女達のすすり泣く声が聞こえてくる。
「まぁ、それだけなら問題はないのだが‥‥」
戦闘馬から降りて樹を睨みつけ、天螺月律吏(ea0085)がコホンと咳をした。
樹は一番隊の監視役として依頼に参加しており、今回の結果を上層部に報告する役目を負っている。
「‥‥何か不都合でもありますか?」
含みのある笑みを浮かべながら、樹が古寺へと続く階段を上っていく。
まるで律吏達を試すかのように‥‥。
「ちょっと待ってください。こちらにも作戦があります。それなのにあなたが単独行動をとれば、鬼の群れに気づかれてしまいます。その危険性を理解した上での行動ですか?」
あまりにも樹が無謀な行動をしようとしていたため、明信が彼の右腕をギュッと掴んでジロリと睨む。
本来なら裏口に待機して鬼の群れが逃げてくるまで待っている事になっていたため、樹がここで正面突破を試みようとすればすべてが台無しになってしまう。
「私は貴方達の監視をするため、この作戦に同行しています。そして、一番隊が必要かどうか見極めるため‥‥。沖田組長の頃は隊士がどんな無茶をしても作戦に支障が出ないように、その事まで計算に入れて行動をしていましたから‥‥」
全く悪びれた様子もなく、樹がニコリと微笑んだ。
「だからって目の前の敵をぶった斬れば良いってもんじゃねえのさ。貴様が誰でどういう立場の人間だろうと関係無い。多くの娘さん達の命が掛かってるんだ。作戦の邪魔になるようなら今この場で首を飛ばす、悲鳴の一つも挙げさせずにな」
殺気に満ちた表情を浮かべ、我斬が小太刀を抜くフリをする。
しかし、樹はまったく動揺する事なく、古寺へと続く階段を上っていく。
「速攻と無策、無謀と勇猛は異なる――貴殿の命がどうなろうと私の知った事ではないが、娘の真新しい死体が増えたらその責は貴殿にもあると心得よ。否‥‥娘達の命が失われるくらいなら、私がこの場でお前の命を奪う方がマシというものか」
樹の胸倉を掴んで正面から睨み据え、律吏が低く冷徹に言い捨てた。
「‥‥貴方達は何も分かっていない。局長が何故、私に監視役を任せたのか考えた事がありますか? 貴方達はいつも物事の上辺しか見ていない。‥‥報告書を見せてもらいました。物事の本質を見ていれば、解決していた事件も多いはず。もう一度、考えてください。局長がなぜ、貴方達に鬼退治を任せたのかを‥‥」
先程までとは異なり真剣な表情を浮かべ、樹が律吏の右手を払い除ける。
その事がキッカケで樹が単独行動をする事は無くなったが、彼が何を考えているのか分からない。
●鬼退治
「‥‥一番隊の実力を示せ、ですか。まあ、冒険者の組長代理や補佐、異国人の協力者など、上の方々にしてみれば、やはり不安な部分は多いでしょうからね。‥‥元より、家の面子に拘らない実利的な組織運営が新撰組の特徴。きっちりと成果をあげておけば、他の隊からの余計な小言を耳にする機会も減るでしょうしね」
セブンリーグブーツで現地に急行し、ゼルス・ウィンディ(ea1661)がインフラビジョンのスクロールを広げて鬼の位置や納屋の場所を確認する。
彼が確認する事が出来ただけでも正面と後門に二匹ずつ。納屋に三匹。古寺の中に数十匹。納屋の中には数名ほどの娘達が捕らわれている。
「それにしても樹って奴は何を考えていやがるんだ? あれじゃ、単なるゴロツキだ」
不機嫌な表情を浮かべながら、鷲尾天斗(ea2445)が軍馬から降りて溜息を漏らす。
念のため樹に警告をしておいたものの、それでも何かが妙に引っかかる。
まるで天斗達が怒り狂う様を楽しんでいるかのような雰囲気がしているのだ。
「‥‥まあ、正式な隊士の方のようですし、それなりの実力はお持ちのはずだと思いますので、こちらもお手並み拝見といきましょうか」
苦笑いを浮かべながら、ゼルスが天斗の肩をぽふりと叩く。
あまり樹の事を気にし過ぎると、作戦にまで支障が出てしまう。
「最初は一番隊の足を引っ張るために参加させられていたような気がしましたが、彼には別の任務があるようですね。自分を偽ってでも果たさねばならない任務が‥‥」
警戒した様子で樹を睨み、井伊貴政(ea8384)がボソリと呟いた。
‥‥樹の任務。
貴政にはそれが何なのか分からない。
「ククク‥‥、なるほどな。やはり単なる鬼退治というわけではないというわけか」
納得した様子で笑みを浮かべ、テスタメント・ヘイリグケイト(eb1935)が戦闘馬から飛び降りる。
ハッキリと断言する事は出来ないが、一番隊を監視をするためだけに、樹が同行しているとは考えにくい。
「とにかく鬼を退治するのが先だ。‥‥鬼退治か。ノルマンの南方戦線で戦った時以来だな。‥‥久しぶりに腕が鳴る」
グリフォンから降りて茂みに隠れ、アルバート・オズボーン(eb2284)がクスリと笑う。
沢山のケモノが飛来した事で見張りの鬼に気づかれている可能性があるため、安全を確保してから古寺に突入する事にした。
●納屋
「皆さん、ご苦労様です。こっちは順調ですか?」
満面の笑みを浮かべながら、樹が納屋の近くにある茂みに潜む。
納屋のまわりには三匹の鬼が座っており、鋭い目つきで辺りを見回している。
「‥‥あんたが樹か。あたいも無鉄砲なところはあるけど、まぁ、それはお互い気をつけていこうぜ。一人で行って成功するもんじゃねぇしな。ところで一番隊に入ってどれぐらい経つんだ?」
軽い会話でお互いの距離を縮めていき、クリムゾン・コスタクルス(ea3075)が樹の過去を聞く。
「‥‥面白い事を聞きますね。まぁ、いつまでも隠しているわけにも行かないので答えておきます。貴方達が一番隊に入隊するより、ずっと前です」
含みのある笑みを浮かべながら、樹がさらりと答えを返す。
誰にも聞かれなければ答えるつもりはなかったが、ここまで聞かれている以上さすがに嘘をつくわけには行かない。
「ちょっと待て。俺達よりもずっと前に入隊しているだと? 一体、お前は何者なんだ?」
険しい表情を浮かべながら、我斬が樹の肩を掴んで汗を流す。
しかし、樹は何も答えず、笑みを浮かべるだけだった。
「おぬしの正体を知るのは後回しだ。ここで聞いたところで答えるつもりはないだろうからな。それよりも納屋に閉じ込められている娘さんを救出するべきだろう」
新撰組の羽織や鉢巻を巻いた戦闘馬のガーナッシュと、鷲子竜のブレンヒルトを茂みに隠し、ルミリア・ザナックス(ea5298)が自分に対してオーラ魔法をかけておく。
見張りの鬼といえども仲間を呼ぶ事が出来るため、一気に仕留めておかねば面倒な事になる。
「‥‥確かにな。早くしないと、娘達が鬼の晩飯になっちまう。そんな事になったら、それこそ笑い話にもならないしな」
一番隊士になってからの初仕事になるため、鷹波穂狼(ea4141)が気合を入れてニヤリと笑う。
見張りの鬼達は酒を飲んでほろ酔い加減になっているため、ツマミを探して納屋の中に入っていく。
「‥‥って、マジで笑い話にならないな。ちょっと早いが助けに行くぞ!」
このままでは娘達に危険が及ぶため、クリムゾンがライトロングボウを構えてシルバーアローを放つ。
クリムゾンの一撃は小鬼の左足を貫いたが、そのせいで他の鬼達が驚いた様子で仲間を呼ぶ。
しかし、このまま隠れていれば、確実に娘達の命がなかったため、彼女の選択は間違っていない。
「この状況じゃ、やむを得ないか。‥‥吹き飛ぶがよい! 必殺っ! エクスボンバーっ!」
村娘の格好をして鬼達の前に立ち、ルミリアがスマッシュEX+ソードボンバー+オーラパワーで小鬼を倒す。
それと同時にブレンヒルトが茂みから飛び立ち、上空から他の鬼めがけてサンレーザーを放つ。
「さて、始めますよ。シャルマ、ラシェル」
『『了解です、マスター』』
月精龍達にシャドウフィールドを使わせ、ゼルスがライトニングトラップを仕掛けておく。
例えトラップで仕留めそこなったとしても、ウインドスラッシュを放ってトドメをさすつもりのようだ。
「このまま一気にカタをつけるぞ!」
そう言って律吏がオーラ魔法を発動させ、娘達を守るようにして鬼達に斬りかかっていくのであった。
●古寺
「‥‥何か異常があったようだな」
納屋の方が騒がしくなってきたため、アルバートがオーラエリベイションを発動させる。
それと同時に鬼達が古寺から飛び出し、金棒を振り上げて辺りを見回した。
「新撰組一番隊だ! この地に貴様ら外道が住まう場所無し! その首置いて三途を渡りな!」
鬼の群れが納屋に行かないようにするため、天斗がわざと派手な行動をして敵の気を引きつける。
そのため、鬼の群れは疑う事なく、天斗達に攻撃を仕掛けていく。
「鬼と呼ばれる者同士、宜しくやりましょーね〜」
満面の笑みを浮かべながら、貴政が茶鬼を狙ってスマッシュEXを放つ。
「そこ、攻撃が薄い! 頑張ってくれ!」
仲間達に指示を出しながら、天斗が小太刀を使って敵の攻撃を受け止める。
鬼達は天斗達が強い事を知った途端、気まずい様子で背をむけた。
「逃げるなら今の内ですよー‥‥って逃がさないけど〜。ちぇすとーっ!」
すぐさま後ろに回り込み、貴政がバーストアタックEXを放つ。
その一撃によって熊鬼の鎧が弾け飛び、他の鬼達が唖然とした表情を浮かべて立ち尽くす。
「‥‥相手が悪かったな。まぁ、いまさら気づいても手遅れだが‥‥」
グリフォンに乗って鬼の群れの行く手を阻み、アルバートがミドルシールドを使って敵の攻撃を受け止めカウンターアタックを炸裂させる。
その事で他の鬼達がハッと我に返り、人質を取るため納屋に向かって走り出す。
「チッ‥‥、そう来たか。だが、貴様らに遅れをとるほど間抜けじゃねぇ! ‥‥一応組長なんでな」
ポイントアタックを決めて茶鬼の額を叩き割り、天斗が仲間達を連れて納屋にむかう。
納屋では仲間達が鬼の群れと戦っており、命懸けで娘達を守っている。
「‥‥随分と賑やかだな。俺達も混ぜてくれないか?」
隠身の勾玉と忍び足を駆使して背後から忍び寄り、パウル・ウォグリウス(ea8802)が人食い鬼の退路を塞ぐ。
人食い鬼は混乱の中で他の鬼達を見捨てて逃げようとしていたため、パウル達が裏口に待機していなければ大変な事になっていただろう。
「どうやらコイツがボスのようですね。他の鬼と比べて狡賢いようですし‥‥」
険しい表情を浮かべながら、明信が徐々に間合いを詰めていく。
人食い鬼は苦し紛れに小鬼を放り投げ、明信に体当たりを放って逃げようとする。
「‥‥間違っても逃がすなよ!」
娘達を守るようにして前に立ち、クリムゾンが警告まじりに呟いた。
それと同時に他の鬼達が娘を狙って攻撃を仕掛けてくる。
「‥‥報告書を読む限り、もっと娘達がいたはずだしな」
どこか悲しげな表情を浮かべながら、穂狼が熊鬼にダブルアタック+スマッシュを叩き込む。
熊鬼は口からどす黒い血を吐きながら、唸り声を上げて倒れていく。
「それじゃ、ほとんどの娘が鬼達の餌食に‥‥。ますます逃がすわけには行かないな」
人食い鬼の逃げ道を塞ぐようにして行く手を阻み、パウルが容赦のない一撃を叩き込む。
予めオーラ魔法をかけておいたおかげで、人食い鬼相手でも苦戦する事はない。
「だからと言って人食い鬼ばかりに気を取られて、他の鬼を取り逃がすなよ」
ポイントEX+シュライクで鬼の足を狙い、我斬が険しい表情を浮かべて溜息を漏らす。
「‥‥任せてください。一匹たりとも逃がしません」
月精龍達に退路を塞ぐ形でシャドウフィールドを使わせ、ゼルスがトルネードを使って鬼を倒していく。
鬼達はバラバラに逃げていったが、次々と逃げ道を塞がれ倒されていった。
「悪・即・斬! エクスザンバーっ!!」
バーストアタックEX+スマッシュ+オーラパワーで人食い鬼の金棒を破壊し、ルミリアが間合いを詰めて仲間達に合図を送る。
しかし、人食い鬼は他の鬼から金棒を奪い取り、唸り声を上げながらルミリア達に攻撃を仕掛けていく。
「‥‥これで残っているのは人食い鬼だけか」
フォン・ヴァイス(チャージング+シュライク)で熊鬼を倒し、テスタメントが人食い鬼を見つめてニヤリと笑う。
彼らにとって鬼の群れは恐れるほどの敵ではない。
「それじゃ、人食い鬼を退治するとしましょうか」
一気に間合いをつめてダブルアタックスマッシュを放ち、パウルが人食い鬼の右腕を切断する。
人食い鬼は右腕を押さえて悲鳴をあげ、恨めしそうな表情を浮かべてパウルを睨む。
「外道絶つべし!」
鷲尾流二天『神斬』(ダブルアタック+カウンターアタック+デッドorライブ+ポイントアタックEX)で刀を交差させ、天斗が人食い鬼の首を刎ね飛ばしてトドメをさす。
「そう言えば樹の姿が見えないな?」
いつの間にか樹がいなくなっていたため、パウルが険しい表情を浮かべて辺りを見回した。
「‥‥私ならここにいます」
魂の抜けた表情を浮かべ、樹が古寺から出てきて溜息を漏らす。
その手には女物の簪が握られており、どす黒い血で汚れている。
「‥‥なるほどな。そういう事だったのか」
納得した様子で樹を見つめ、アルバートが黙って背をむけた。
色々と気になる事はあるのだが、今は聞くべき時ではないようだ。