●リプレイ本文
「貧乏浪人もいつの間にやら福袋成金に‥‥か」
福袋の中に入っていた真鉄の煙管が妙に馴染んでしまったため、本所銕三郎(ea0567)が刀代わりに身に着けておく。
愛馬サジマは眠そうに草を頬張っているが、未だに高級な草にはありつけていないらしい。
「ここがまとりょーしかの飼い主が住む家か。随分と取り立てが激しいようだな。まだ生きているといいが‥‥」
屋敷に貼られた赤紙を見つめ、銕三郎が大粒の汗を流して戸を開けた。
屋敷の中にはまとりょーしかの飼い主らしき老人が座っており、虚空を見つめて両手をプルプルと震わせている。
「お前さんは誰かいのぉー」
「俺は本所銕三郎という者だ。依頼主に頼まれ、まとりょーしかを受け取りに来た」
ぼーっとしている老人の肩を叩き、銕三郎が真剣な表情を浮かべて口をを開く。
「‥‥まとりょーしか? なんじゃ、そりゃ。わしゃあ、そんなモンは知らんぞ」
明後日の方を見つめて答えを返し、老人がモゴモゴと口を動かした。
「私は刀根要です。御爺様、初めまして」
ペコリと頭を下げながら、刀根要(ea2473)がニコリと笑う。
「おお、要ちゃんか。大きくなったな」
老人は要に素早く抱きつくと、嬉しそうに昔の事を語りだす。
「‥‥知り合いか?」
雰囲気がおかしかったため、銕三郎が老人を指差し要を睨む。
「いや、初対面のはずですが‥‥」
凄まじい力で抱きつかれ、要がブンブンと首を振る。
「ごめんねぇ〜長いこと顔出せなくってぇ〜」
このままだと埒があかないと思ったため、高野鬼虎(ea5523)が身内に扮して抱きついた。
「おお、パピヨンか。相変わらずバタフライは元気かな?」
老人は最初キョトンとした表情を浮かべていたが、すぐに誰かと勘違いしたのか鬼虎にむかって微笑みかける。
「パ、パピヨン‥‥?」
突然、妙な事を言われたため、鬼虎が首を傾げて呟いた。
一体、誰と勘違いをしているのだろう?
‥‥妙な疑問が脳裏をよぎる。
「そうそう、御爺様。まとりょーしかは何所にいるのですか。いつもの芸を見たいのですが‥‥」
このままだと素敵ワールドに突入しそうになったため、要が土産の団子を手渡しお願いした。
「わしはまとりょーしかなんぞ、知らん。それよりも飯だ、かなえさん」
団子の包みごと食べながら、老人が要の袖を引く。
よほど要が気に入ったのか、決して離れようとしない。
「いや、私は要なんですが‥‥。本気でボケているようですね」
今度は腕を食べようとしたため、要が大粒の汗を流して溜息をつく。
どうやら真面目に対応しても損をするだけらしい。
「そういや、もう飯はもう食ったか? まだなら作ってやるから待っていろ」
あまりにも行動が怪しかったため、銕三郎が要から老人を離す。
「はて‥‥? 飯はいつ食ったのかのぅ。昨日のような‥‥今日のような‥‥」
大きなハテナマークを浮かべながら、老人が首を傾げて呟いた。
「ご飯はいつ食べていたんでしょうね。この様子ではしばらく食べていなかったようですが‥‥」
お腹がグゥ〜ッと鳴ったため、要が食べ物を探しにいく。
「それじゃ、私が料理を作りますね。お寺を出て初めてだなぁ。こんな事‥‥」
苦笑いを浮かべながら、鬼虎が家にあるもので食事を作る。
ほとんどのものが腐っていたため、あるものを使って作ったのだが、鬼虎が僧侶であるため肉を使用しない雑炊に決まったようだ。
「おお、スマンのぅ‥‥。狸汁などひさしぶりじゃ」
既に何を食べているのか分からないのか、老人が雑炊をすするようにして食べる。
「そうだ、まとりょーしかにも餌をやらなきゃな。何が好物だったかねぇ?」
最後の望みをかけて銕三郎がまとりょーしかについて老人に聞く。
先程とは違って腹も膨れているため、そろそろマトモな事を喋りそうな雰囲気だ。
「‥‥まとりょーしか。おお、わしの買っているイタチの事か。あの壷はいいぞ〜。とくに毛並みがな」
微妙なボケた答えを返し、老人が豪快に笑う。
「少し心配な気もしますが、何とかなりそうですね。えっと‥‥、まとりょーしかの好物とかってありますか?」
再び腕をかまれそうになったため、要が慌てて老人の傍から遠ざかる。
「しばらく餌をやっておらんからのぅ‥‥。なんでも食うじゃろ」
寂しそうに要を見つめ、老人がジィ〜ッと腕を睨む。
「この様子じゃ、どんな餌でも引っかかりそうですね。私はもう少しおじいさんと一緒にいようと思います。このまま放っておくわけにも行きませんし‥‥」
老人と一緒に縁側に座り、鬼虎が横笛の音色を響かせる。
「それがいいかも知れないな。かなり苦労しているようだから‥‥。きっとまとりょーしかの事も忘れたいのかも知れないな。仕事をしていた頃を思い出してしまうから‥‥」
どこか寂しげな表情を浮かべ、銕三郎が大きな溜息をつく。
「御爺様、また来ますね」
そして要は老人の背中を見つめ、優しく声をかけるのだった。
「老人と接触した人達は、あまり収穫がなかったようだね。その点、僕は大収穫だったけど‥‥」
フィール・ヴァンスレット(ea4162)はふぃーるん親衛隊を作るため女性限定で聞き込み(ナンパ?)をしていたのだが、思った以上に収穫があったため上機嫌な様子で森を歩く。
身体には数匹の虫が括りつけられているが、機嫌がいいためそれほど気にはしていない。
「やっぱり僕の考えは間違っていなかったようですね。だから放置しておけばいいと言ったのに‥‥。みんな優し過ぎるんですよ」
餌代わりに使うかんざしをクルクルと回し、瀬戸喪(ea0443)がまとりょーしかを探してまわる。
「‥‥オコジョって確か、ごるびーさんとかと同じような体型をしていましたよね?」
仲間達の周りを飛び回り、ベル・ベル(ea0946)が首を傾げて呟いた。
依頼主から絵をもらった絵を見る限り、それほど違いはないようだ。
「‥‥なにやら、親近感の沸く子みたいですね」
苦笑いを浮かべながら、栄神望霄(ea0912)が絵を覗く。
「ところで僕は何で縛られているんですか? どこぞの悪人でもないのにぃ〜」
腰に縛られたロープを握り、フィールが龍深城我斬(ea0031)を見つめてニコリと笑う。
「方向音痴なんだろ。だったらしっかりと握っておかないとな。本当は首輪をつけてやろうと思ったが、途中で首が絞まって逝ってもシャレにならんしな」
ロープの片方を握り締め、我斬が森の奥へと進んでいく。
「それじゃ、別のプレイですよ。あんまり変な事は考えないでくださいね」
冗談まじりに微笑みながら、フィールがデティクトライフフォースを使用した。
この近くにまとりょーしかがいるのか、それらしき反応がすぐに出る。
「か、勘違いするな。そんな事よりまとりょーしかだ。さあ探せ、今探せ、すぐ探せキリキリ探せ」
気まずい様子でフィールを見つめ、我斬がコホンと咳をした。
別にそういうつもりはなかったのだが、確かに勘違いされてしまう可能性も高い。
「そこ‥‥、くっつき過ぎだぞ」
ジト目で我斬を睨みつけ、風月皇鬼(ea0023)が溜息をつく。
フィールと皇鬼は恋仲なので、少し嫉妬しているようだ。
「違う! 勘違いするな。そんな事よりも、まとりょーしかを探すぞ!」
妙な疑惑をもたれたため、我斬が激しく首を振る。
「まとりょーしか、出ておいで。ノルマン製のレースのリボン付けてあげるよ〜」
可愛いリボンをヒラヒラと揺らし、望霄がキョロキョロと辺りを見回した。
すると驢馬のはなが瞳をキラキラと輝かせ、望霄の袖を何度も引く。
「‥‥ん? はなちゃんも欲しいの?」
驢馬の鬣の一部を三つ編みにしながら、望霄が丁寧にリボンを結ぶ。
はなもリボンが気に入ったのか、上機嫌な様子で鼻を鳴らす。
「ところでまとりょーしかの餌はどうします? 保存食でいいのでしょうか‥‥? それとも食べ物以外のものを‥‥」
何故かフィールの顔を見つめ、望霄がロープを指差した。
「さっそく引っかかったようですね。お尻に噛み付いています」
まとりょーしかの首根っこをつかみ上げ、フィールがニコリと微笑んだ。
よほどお腹が減っていたためか、フィールのお尻を桃と勘違いしたらしい。
「ほーら、食い物だぞ」
保存食をブラブラと揺らし、我斬がまとりょーしかを誘う。
しかし、まとりょーしかはフィールの方が興味があるらしく、保存食にはまったく興味を持とうとしない。
「うーむ、餌じゃ駄目か。‥‥なら、螺鈿の櫛は如何だ。ほーらキラキラと光って綺麗だぞ。それとも、こっちの簪の方が良いか? ‥‥ああ、この簪は痛いからやめような」
手を変え品を変え色々な物を使ってみたが、やはりまとりょーしかが興味を持つ物は存在しない。
「なかなか贅沢なオコジョでござるな。玉乗りの玉には反応したようでござるが‥‥」
大きな溜息をつきながら、沖鷹又三郎(ea5927)が玉を転がした。
「やっぱり僕の方がいいみたいですね。オコジョさん‥‥僕も君の事が‥‥」
まとりょーしかと見つめ合い、フィールが恥ずかしそうに頬を染める。
「おまえ‥‥まさか‥‥」
バラの花に包まれているふたりを見つめ、皇鬼がまとりょーしかに対抗意識をメラメラと燃やす。
この様子では『オコジョと危険な三角関係』に雪崩れ込もうとしているらしい。
「何だか変な蜥蜴さんがいますね。まさかあれが一角蜥蜴さんですか?」
奇妙な蜥蜴と目が合ったため、ベルが大粒の汗を流す。
『オコジョさんを食べたら駄目なのですわ〜〜』
華国語で一角蜥蜴に警告し、劉迦(ea0868)が石を放り投げる。
「流石に、人にまで襲い掛かるような凶暴な動物ならば放っておけんよな‥‥。殺したくはないが仕方がない。喰う事で供養させてもらおう」
一角蜥蜴を睨みつけ、皇鬼が大きな溜息をつく。
すると蜥蜴は皇鬼を威嚇し、警戒した様子で間合いを取る。
「どうやら倒すしかないようですね。オコジョはご馳走のようですし‥‥」
怯えるまとりょーしかの頭を撫で、喪が日本刀を引き抜いた。
「トカゲなら‥‥ぱくりってしていいって、ガマ‥‥」
大ガマの術を使い、由加紀(ea3535)が大ガマを召喚する。
さすがに大ガマは苦手なのか、一角蜥蜴がたじろいだ。
「それじゃ、私が囮になりますですぅ〜」
一角蜥蜴のまわりで飛び回り、ベルが自ら囮になる。
「まとりょーしかや。迎えにきたぞい」
場違いな声を上げ、老人がニコリと笑う。
どうやら記憶を思い出し、まとりょーしかを迎えに来たらしい。
『おじーちゃま。ここは危ないわよ。もう少しお家で待っていてね』
老人に危険が及ぶと思ったため、迦が優しく声をかける。
「さきほどまで寝ていたはずでござるが‥‥。今頃‥‥なぜ?」
不思議そうに老人を見つめ、又三郎が首を傾げて呟いた。
「わしは帰らんぞ! やつを倒すんじゃ」
棒切れを拾い上げ、老人が一角蜥蜴に勝負を挑む。
「ガマ‥‥やっちゃって‥‥」
何だか面倒になると思ったため、紀がガマを使って老人に体当たりを食らわせた。
「お、落ち着くでござる! だ、大丈夫でござるか?」
紀の事を取り押さえ、又三郎が老人にむかって声をかける。
「‥‥はて? わしは何をしていたんじゃ?」
すると老人はキョトンとした表情を浮かべ、トボトボと屋敷のある方へと戻っていく。
「これで安心して戦う事が出来ますね」
苦笑いを浮かべながら、望霄が一角蜥蜴と間合いを取る。
「蜥蜴風情が俺に当てようなんざ生意気なんだよ!」
一角蜥蜴の突進をオフシフトでかわし、我斬がポイントアタックで目を狙う。
「とりあえず動きを封じ込めておきますね」
コアギュレイトを使って一角蜥蜴の動きを封じ、望霄がホーリーを使って牽制する。
「これで突進される心配はないな」
一角蜥蜴が動けなくなった隙を狙い、皇鬼がストライクを叩き込む。
「あれ〜? 何だか蜥蜴さんが怒っていますよ〜」
戒めから逃れた一角蜥蜴に驚き、ベルが慌てて逃げていく。
「こんな時のために飛蝗を捕まえて来たでござる」
ベルが丸呑みされないようにするため、又三郎が大量の飛蝗をばら撒いた。
「何だか飛蝗が好物のようね。喜んで食べているわ」
一角蜥蜴の背後から回し蹴りを放ち、迦が華麗な着地を決める。
「早く倒しちまおうぜ。俺達が怪我をする前にさ」
再びポイントアタックで目を狙い、我斬が刀についた血を払う。
「それもそうだな」
ストライクを放って角をおり、皇鬼が蜥蜴を挑発する。
蜥蜴は角が折れた事で怒り狂い、物凄いスピードで後を追う。
「そこでジャンプでござる」
皇鬼にむかって声をかけ、又三郎が一角蜥蜴を落とし穴に落とす。
蜥蜴はすぐに這い上がってきたが、大ガマに丸呑みされてしまったため、もがき苦しみながら息絶えた。
「おいしくなかったの‥‥ガマ。それは‥‥残念ね‥‥」
そして紀は吐き出されたトカゲを見つめ、大ガマの頭を優しく撫でる。
その後、まとりょーしかは冒険者達によって依頼主の元に届けられ、ごるびー達に波乱と恐怖を与える存在になるのであった。