●リプレイ本文
●ゴルビーとキノコとラリラリと‥‥
「‥‥ごるびーちゃんか。‥‥かなり前に一度だけ会った事があるけど‥‥相変わらずイカさんが好きなのねぇ‥‥。ベルちゃんがイカさんに拘る意味がよく分かったわ」
苦笑いを浮かべながら、郭梅花(ea0248)がごるびーの働く見世物小屋にむかう。
見世物小屋はごるびー達の働きによって別館を作るほどまで儲かっており、依頼主に雇われた大工達が忙しそうにトンカチを鳴らしている。
「それにしても、まさかキノコが生えるとは‥‥。ゴルビー君も大変な事になりましたね」
心配した表情を浮かべ、レヴィン・グリーン(eb0939)が見世物小屋に入っていく。
見世物小屋の入り口には呼び込みの男がおり、レヴィン達の姿に気づくと丁寧に頭を下げる。
「ごるび〜ちゃんにきのこが生えちゃったですかぁ? それは大変ですよ〜! とにかくごるび〜ちゃんを捕まえるですよ〜〜〜!」
レヴィン達のまわりを飛びまわり、ベル・ベル(ea0946)が落ち着きのない様子で汗を流す。
一瞬、脳裏にキノコと化したごるびーが浮かんだため、とても心配しているようだ。
「‥‥何処まで人生芸人の道を歩く気なのかな、あの子は。でも、親父さんも困ってる事だし、どうしてキノコを持っているのか真相を確かめてみないとね♪」
キノコの着ぐるみを着たごるびーを思い浮かべ、レオーネ・アズリアエル(ea3741)がクスクスと笑う。
「相変わらず面白い奴だな、ごるびーって‥‥。あいつが何時までも茸を持っていては周囲が困るのは確かだろうしな」
ごるびーの持っているキノコに興味を持ったため、南天輝(ea2557)が苦笑いを浮かべて通路を歩く。
最近の人気で依頼主に予想外の金が入ったためか、新しく入った動物達が通路で芸の練習を続けている。
「茸が生えているのなら、それはそれで面白いと思いますが‥‥。どちらにしても利用できる物は利用すべきかと。まあそれで仕事にならないのは、ちょっと困りますけどね」
新入りのカワウソを抱き上げ、瀬戸喪(ea0443)がクスリと笑って頭を撫でた。
「それにしても、そのキノコって美味しいのかな? もしそうなら捕まえて確かめてみないとね!」
じゅるりと涎を流しながら、梅花が包丁をキラリと輝かせる。
ごるびーの身体と融合していた場合を考え、切れ味のいい包丁を持ってきたらしい。
「‥‥ごるびー茸。食材として気になるでござるが、無理に取り上げる訳にもいかぬでござろう。しかし、ごるびー殿の身体は心配でござるな」
キノコを持ったゴルビー人形を持参し、沖鷹又三郎(ea5927)が控え室を探す。
別館が出来た事によって控え室の場所が変わったのか、もともとあった場所には舞台で使う道具が押し込められている。
「‥‥落ち込んでいたゴルビーが急に元気になると言うのは、なんとなく奇妙な気がします。ひょっとして、そのキノコにすべての原因が‥‥」
どんよりとした空気を漂わせ、ルーラス・エルミナス(ea0282)が大粒の汗を流す。
考えれば考えるほど嫌な予感がしてくるため、だんだん気分が悪くなってきたらしい。
「確かにそう言われてみれば、納得がいきますね。最近、様子がおかしいようですし、毒キノコという可能性が高いのでは‥‥」
深刻な表情を浮かべながら、三笠明信(ea1628)が手当たり次第に部屋を調べる。
控え室の場所が変わった事を初めて知った事もあり、なかなかごるびーの居場所が分からない。
「とにかくキノコを調べてみるのが先だよね。麻薬みたいな効果のあるキノコかも知れないし‥‥」
依頼主の話から心当たりのあるキノコを思い浮かべ、白井鈴(ea4026)が心配した様子で辺りを睨む。
可能性的にはあり得ない話ではないため、早くごるびーを見つけてキノコを回収する必要がありそうだ。
「だからって暴力を振るうのは駄目ですよ。ゴルビー君だって悪気があった訳じゃないんですから‥‥」
ごるびーに危害が及ぶ事を恐れ、レヴィンが仲間達に注意した。
素直にごるびーがキノコを渡すとは限らないため、仲間達と争いにならないかと心配しているようである。
「ここがごるびーの控え室ですね」
やけに毒々しい雰囲気の控え室を見つめ、神楽聖歌(ea5062)がダラリと汗を流す。
いかにもヤッていそうな雰囲気があるため、嫌な予感が脳裏を過ぎる。
ラリラリと妙な音を響かせながら‥‥。
●逃亡するカワウソ
「‥‥この中にいるようですね」
控え室の扉に耳を当て、聖歌がごるびーの気配を探る。
部屋の中からはごるびーの鳴き声が聞こえており、キノコ特有の匂いが聖歌達の鼻をくすぐった。
「うわっ‥‥、物凄くヤバイ感じになっているのかも。大丈夫かなぁ‥‥」
心配そうな表情を浮かべ、梅花が七輪の上でイカを焼く。
イカをさらに香ばしくさせるため、醤油をたらりと垂らした後に扇子でパタパタと扇ぐ。
「きゅきゅ‥‥きゅきゅきゅ!」
葛藤するごるびー。
キノコを取るべきか、イカを取るべきか、頭の中で悩んでいる。
「‥‥仕方ありませんね。試してみますか」
そう言って喪がそれんの鳴き真似をして、ゴルビーを誘き出そうと試みた。
「きゅきゅ?」
扉のむこうで聞き耳を立てる、ごるびー。
どうやらこちらにかなり興味があるらしい。
「念のためまとりょーしかを捕まえてきました。これでごるびーに危害を加える者はいないでしょう」
小声で仲間達に囁きながら、明信がまとりょーしかの入った麻袋を地面に置く。
まとりょーしかは又三郎の作ったごるびー人形(キノコ付)にまんまと騙され、仕掛けてあった罠に引っ掛かり袋の中で暴れている。
「皆さん、隠れて!」
物音に気づいてごるびーが扉を開けようとしたため、レヴィンが慌てて物陰に身を潜めた。
「きゅ、きゅ、きゅ!」
きちんと左右を確認し、忍び足でイカまで近づくごるびー。
鼻をヒクヒクとさせ、イカに毒が入っていないか確かめる。
(「‥‥イカと一緒に『うわばみ殺し』を置いたから、ごるびーに気づかれるかも‥‥」)
心配した様子で汗を流し、レオーネがゴクリと唾を飲み込んだ。
ごるびーはうわばみ殺しの注がれた小皿の存在に気づき、指でちょんちょんと突くと試しにペロリと舐めてみた。
「あっ、酔っ払ったみたいだねぇ‥‥」
ごるびーが千鳥足になったため、鈴が物影に隠れてクスクスと笑う。
通路には鈴が仕掛けたイカが転々としているため、ごるびーが何も知らずに拾っていく。
「ここで失敗すれば、ごるびーを捕まえる事が難しくなる。‥‥捕獲はなるべく慎重にな」
舞台用の面を倉庫から集め、ルミリア・ザナックス(ea5298)が先回りして舞台にむかう。
ごるびーはルミリア達の気配に気づかぬまま、幸せそうな表情を浮かべてイカをかじる。
「(‥‥この様子なら舞台に行く前に捕まえられそうだな)」
背後から息を殺して忍び寄り、輝が両手をあげてごるびーを狙う。
ごるびーは輝の気配に気づいたのか、イカを握り締めたまま瞳をキラリと輝かせる。
「(‥‥ひょっとして気づかれたかも‥‥)」
両手をあげたままの姿勢で凍りつき、鈴が気まずい様子で汗を流す。
それと同時にごるびーがぴょこんと飛び跳ね、鈴達から必死になって逃げていく。
「に、逃げられたか! 待て、ごるびー!」
ギリギリの所でゴルビーに逃げられ、輝がチィッと舌打ちすると急いで追う。
「待て待てですよ〜♪」
ごるびーの投げたイカをキャッチし、ベルの表情が途端に変わる。
「あれ〜? 何だかいい匂いがするですよ〜☆」
ウットリとした表情を浮かべ、ベルがイカに心を奪われた。
「ふにゃあ〜、腰が抜けるほど美味しいですよ〜」
まるで猫のような声を出し、ベルがヘナヘナと崩れ落ちていく。
よほどイカが美味しかったのか、ずっとふにゃけた表情を浮かべている。
「きゅきゅきゅ‥‥」
ベルがイカの虜になっている隙に、ごるびーが舞台にむかって走り出した。。
「逃がしませんよっ! 水に濡らせば、手ぬぐいとて立派な武器です。必殺、エチゴヤアタックー」
水に濡れた手ぬぐいを鞭のようにして放ち、ルーラスがごるびーの後を追いかける。
「流石に動きが速いですね‥‥」
ごるびーは軽々と攻撃をかわし、驚く聖歌の横を通り過ぎていく。
「待っていたよ、ごるびー!」
可愛らしくディフォルメされた蛇の着ぐるみ(沖鷹作)を身に纏い、レオーネが舞台の前でごるびーを迎え撃つ。
ごるびーは目を丸くさせ、慌てて回れ右をする。
「お帰りなさい♪」
それに合わせて背後で待ち構えていた喪がごるびーにむかって網を放つ。
二度と逃げ回る事が出来ないように‥‥。
●キノコの正体
「こら、暴れるな。い、痛いっ! 噛み付いちゃ駄目だよ!」
網の中で大暴れするごるびーを取り押さえ、レオーネが傷だらけになって溜息をつく。
ごるびーはよほど蛇が恐いのか、パンチとキックでレオーネを攻撃する。
「そう言えば昔、ゴルビー殿はツチノコと間違えられて追いかけられた事があったような気が‥‥」
大粒の汗を浮かべながら、又三郎が苦笑いを浮かべて呟いた。
「そういう事は早く言ってよ。と、とにかく落ち着いて、ごるび〜!」
ケモノと化したごるびーから逃れるように、レオーネが慌てて着ぐるみを脱ぎ捨て涙を流す。
「手荒な事をしてすいません。大丈夫ですから、茸を見せて頂けますか?」
敵意がない事を示すため、レヴィンが優しく声をかける。
ごるびーはしばらくリヴィンの顔を見つめていたが、彼が嘘をつくような相手ではないと分かったため、納得した様子で自分の持っていたキノコを渡す。
「‥‥随分と変わったキノコだな。ひょっとして毒キノコなのか‥‥?」
ごるびーから受け取ったキノコを見つめ、ルミリアがクンクンと匂いを嗅ぐ。
特に妙な臭いがすると言う訳ではないのだが、根元の方には虫の死骸がついている。
「既存の物なら良いのですが、ご禁制の危ないキノコなら、可哀想ですが処分しないといけないですね」
根元についている虫を見つめ、ルーラスがボソリと呟いた。
「いや、待て。これは『冬虫夏草』じゃないのか?」
ルミリアからキノコを奪い取り、輝が驚いた様子で声をあげる。
「えっ? これって草なの?」
大きなハテナマークを浮かべながら、鈴が不思議そうな表情を浮かべて冬虫夏草を睨みつけた。
「もう少し分かりやすく言えば、虫に寄生して育つキノコで華国じゃ漢方として使われているものだね♪」
瞳をランランと輝かせ、梅花がキノコにそっと手を伸ばす。
「きゅきゅきゅ!」
ごるびーはキノコが奪われると思ったため、慌ててキノコに飛びつき物影に隠れる。
「‥‥なるほど。これで謎は解けましたね。ごるびー君にとって、そのキノコは宝物なのですね」
ごるびーの頭をヨシヨシと撫で、レヴィンが優しくニコリと微笑んだ。
冬虫夏草をかじっているおかげか、ごるびーのハゲ頭にはうっすらと毛が生えている。
「きっとファンからの貰い物だろう。流石に取り上げる訳には行かないか。別に身体に悪いものじゃないしな」
「お詫びに桜でも見ないか? おぬしには悪い事をしたからな」
見世物小屋の外に咲いている桜の花を指差し、ルミリアが明信の肩に寄り添うようにして微笑んだ。
胸をドキドキさせながら‥‥。