●リプレイ本文
「‥‥ごるびーは大丈夫だろうか? 依頼主の話じゃ、部屋に閉じこもったまま出てこないという話だし‥‥、何か悪い病気にでもなったんじゃないか?」
誰よりも早く見世物小屋に駆けつけ、本所銕三郎(ea0567)が心配した様子で汗を流す。
世ほど舞台で嫌な事があったのか、ごるびーは部屋に閉じこもったまま出てこない。
「‥‥何だか妙ですね。本当にこの中にいるのはごるびーでしょうか?」
依頼主の話に引っ掛かる点があったため、三笠明信(ea1628)が納得の行かない様子で腕を組む。
「まぁ、見世物小屋の親父殿も傷心のご様子、ナンとかせねばなるまいが‥‥」
険しい表情を浮かべながら、ルミリア・ザナックス(ea5298)が心配した様子で溜息をつく。
「とにかくごるびーの様子を見てみよう。‥‥ごるびー。俺だ。手土産にイカを持ってきた。ここを開けてくれんか?」
ごるびーの好物であるイカを取り出し、銕三郎が部屋の戸をコンコンと叩く。
部屋の中からはキュウリをかじる音が聞こえているが、いつまで経っても部屋の戸が開く事はない。
「‥‥おかしいな。まさかごるびーの身に異変がっ! 大丈夫か、ごるびー!」
険しい表情を浮かべながら助走をつけ、銕三郎が戸に体当たりを食らわせ部屋の中へと転がり込む。
「ごるびーさ〜ん、気落ちしていると聞いて来てみましたよ〜」
心配した表情を浮かべ、リュカ・リィズ(ea0957)がごるびーのまわりをクルクルと回る。
ごるびーは恥かしそうに顔を隠し、きゅきゅっと首を横に振る。
「い、生きてるな!? ‥‥良かった。安心し‥‥って‥‥お前‥‥その姿は‥‥!?」
ごるびーの顔色(というか身体の色)があまりにも悪かった(緑色)ため、銕三郎が青ざめた表情を浮かべて汗を流す。
「医者だ〜! 医者は何処だっ! カワウソの病気を治せる医者は何処だっ!」
すぐさまごるびーを抱き上げ、銕三郎がパニックに陥り大声を上げた。
「あれ? 太助さん?? ごるびーさんはどうしたんですか?」
両手で顔を隠して誰もいないフリをしている太助に気づき、リュカが不思議そうな表情を浮かべて首を傾げる。
「おっと‥‥、こうしちゃいられん」
依頼主に気づかれないようにするため、ルミリアが慌てた様子で倒れた戸を直す。
「‥‥何? 大丈夫なのか? 病気じゃないんだな? ‥‥良かった。ひょっとして‥‥ごるびーのサナギか?」
ごるびーの身代わりをしていた太助の顔をマジマジと見つめ、銕三郎が熱心に身体をペタペタと触る。
太助は対応に困ったためか、持っていたキュウリの漬物を渡す。
「まあ、私は『ごるびーが河童になった』という話を聞いた時から、彼と親しい河童の太助が入れ替わっているだろうという見当はついていましたが‥‥」
苦笑いを浮かべながら、明信が太助の頭を優しく撫でる。
「それじゃ、ごるびーは一体何処に?」
納得の行かない様子で太助を見つめ、銕三郎が部屋の中を見回した。
すると太助がきゅきゅっとした表情を浮かべ、銕三郎にごるびーから預かった布切れを渡す。
「‥‥すまん。手形だけじゃ何が書いてあるかワカラン」
ごるびーの手形がついた布切れを見つめ、銕三郎が落ち込んだ様子で溜息をつく。
「あれ? もう一枚ありますよ〜。これは‥‥河童さんからです。ごるびーさんを保護しているそうです。きっとここでの待遇が嫌になって家出したのに間違いありません」
ポトリと落ちた布切れを拾い、リュカがごるびーの居場所を確認する。
「‥‥ん? 何か手掛かりでも見つけたか?」
妙にごるびーのいる部屋が騒がしかったため、依頼主が慌てた様子でやって来た。
「い、いや‥‥、何でもない。やはり『ごるびー』は少し疲れ気味の様子であるな」
慌てた様子で依頼主の前に立ち塞がり、ルミリアがブンブンと首を横に振る。
「そ、そうか‥‥。だったら仕方がないな。もうしばらく休ませるか」
寂しそうな表情を浮かべ、依頼主がトボトボと帰っていく。
「ふぅ‥‥、何とかバレなかったようだな。しかし、太助。何故ここに‥‥? こんなトコロにひとりでいては、また悪徳商人にさらわれかねぬぞ。まぁ、親父殿に気づかれなかったから、良かったものの‥‥」
心配した様子で溜息をつきながら、ルミリアが太助を抱き上げきつく叱る。
「きゅう‥‥」
ルミリアに叱られてしまったため、太助がションボリとした様子で肩を落とす。
「まぁ、無事で何よりだ」
落ち込んだ太助を抱き締め、ルミリアが優しく頭を撫でた。
太助もホッとしたのか、ルミリアの胸元でスヤスヤと寝息を立てる。
「とにかく本物のごるびーを連れ戻さなくてはなりませんね」
険しい表情を浮かべて辺りを睨み、明信がごるびーの布切れを握り締める。
「親父殿にも待遇改善を呼びかけておこう。このままだと同じ事の繰り返しだからな」
壁に貼られた布切れを見つめ、ルミリアがごるびーのスケジュールを確認した。
それほどきついスケジュールではないが、ごるびーのためにも改善させる必要がありそうだ。
「一応、それんさんにも何か知っていないか聞いてみますね」
心配した様子で飛び上がり、リュカがそれんのいる控え室にむかう。
「とりあえずごるびーが帰ってくるまで、わたくし達がここで時間を稼ぎましょう。さすがにわたくし達を押し退けて、ごるびーを連れ出す事はないと思いますし‥‥」
スヤスヤと寝息を立てる太助を見つめ、明信が苦笑いを浮かべて溜息をつく。
「そ、それならここで一緒に食事なんてどうだろうか? ここにずっといた方が色々と都合が‥‥いいだろうからな‥‥」
恥かしそうに頬を染め、ルミリアが明信の腕を組む。
「ええ、構いませんよ」
明信も特に断る理由がないため、満面の笑みを浮かべて頷いた。
これから一時の間、ルミリアは幸せな時間を過ごす事になるだろう。
大好きな明信の横で‥‥。
「またごるびー殿が何かやらかしたのか。しかし、連れ戻すのは少々気が重い‥‥。見世物小屋で働いているよりも、今の方がごるびー殿にとっては幸福かも知れんしな。‥‥いや、こういう弱気な発想はいかん。とにかく、我輩としては河童達と話をしてみようと思う! 我輩は力士の端くれとして、河童には深い関心を抱いているのでな!!」
ごるびーを匿っている河童達に会うため、ゴルドワ・バルバリオン(ea3582)がキュウリを手土産にして湖にむかう。
湖の前には気合の入った河童達が立っており、ゴルドワ達の気配に気づくと奇声を上げて威嚇した。
「おっと‥‥、そんな怖い顔をしないでくれ。白虎さまに誓ってごるびーを悪いようにはしないから‥‥」
なるべく河童を警戒させないようにするため、南天輝(ea2557)が白虎の名前を出して説得しようと試みる。
「‥‥五輪祭の参加者か。まぁ、それなら信頼できるな」
不敵な笑みを浮かべながら、河童達が輝を激しく睨む。
「何をそんなに警戒しているんですか? まずはお話だけでも聞いてください」
なかなか警戒を解かない河童達を気にしながら、ルーラス・エルミナス(ea0282)が持ってきたキュウリを渡す。
「‥‥断る。悪いがアンタらに恨みがあるんでね。お手合わせ願おうか!」
訳もなく気合の入ったオーラを放ち、河童達がキュウリを弾いて飛び上がる。
「‥‥愚かな。我輩達に戦いを挑むとは‥‥。ならば見せてもらおうか! 河童流相撲術の極意を!」
瞳をギラリと輝かせ、ゴルドワが河童の背後を奪う。
それと同時に相手の河童が身を屈め、ゴルドワの攻撃から逃れるようにして走り出す。
「ぐぬっ‥‥、やるな」
攻撃を空振りした拳が地面に埋まり、ゴルドワが悔しそうに河童を睨む。
「まさかそれで終わりと言う事はないだろ。‥‥本気で来いよっ!」
ゴルドワが手加減していると思ったため、河童達が一斉に奇声を上げて飛び掛る。
「そんなに怪我をしたいのか!」
河童達の攻撃を受け止め、輝が呆れた様子で溜息をつく。
「俺達でさえ予選を突破できなかった五輪祭に参加したほどの実力だ。こんなもんじゃないんだろ?」
連携を組んで攻撃を放ち、河童達がケラケラと笑う。
「‥‥まったく困った河童ですね」
河童達が怪我をしないようにするため、ルーラスが手加減をして峰打ちを放つ。
「お前達を倒して名を上げてやる!」
卑下た笑みを浮かべながら、残った河童が飛び掛る。
それと同時にゴルドワがブンブンと腕を振り回し、容赦なく河童達をどついていく。
「愚か者め! 己の実力すら分かっておらんのか。そんな事だから予選すら突破できんのだ。それに我輩は五輪祭に参加した事など一度もない! 重要なのはそんな事じゃないだろ。もっと心を磨かんか!」
河童達が起き上がれなくなるほどブン殴り、ゴルドワがコンコンと説教をし始める。
若い河童達の態度があまりにも悪かったため、ゴルドワも本気で怒っているらしい。
「し、師匠と呼ばせてください」
心を貫かれるような衝撃を受けたため、河童手達がゴルドワにむかって土下座する。
「‥‥考えてやろう。貴殿ら次第だ!」
クールな表情を浮かべながら、ゴルドワが河童達を見つめて腕を組む。
「それじゃ、ごるびーの居場所を教えてくれ。なんなら俺からゴルドワに話をつけてやってもいいぜ!」
ゴルドワにむかって合図を送り、輝が河童の肩を抱いて説得する。
「‥‥約束だぞ。ごるびーはあそこだ」
そう言ってリーダーの河童が木の上を指差した。
木の上にはごるびーが眠っており、何度か落ちそうになりながら、元に位置へと戻っていく。
「何とも幸せそうにしていますね。さて、これからが本番ですよ」
そしてルーラスはごるびーを起こすため、木をユサユサと揺らすのだった。
「わわっ、ごるびーちゃんが河童さんになっちゃったですよ〜! 絶対に駄目ですよ〜! ごるびーちゃんはかわうそさんであって河童さんじゃないですよ〜!!」
すっかり河童の生活に馴染んでいるごるびーに驚き、ベル・ベル(ea0946)が悲鳴を上げて飛び回る。
「ごるびーさん、帰ってきてください。ぅむむ、げろげろげろー」
気分の悪そうな表情を浮かべ、志乃守乱雪(ea5557)がごるびーの名前を呼ぶ。
朝から身体の調子が悪かったため、河童のおムツさんに代理を頼もうとしたのだが、彼女がごるびーを手引きした張本人だったため、きっぱりと断られこんな状況になっているらしい。
「それにしても、ごるびー殿はいつからキュウリが好きになったのでござろうか‥‥?」
素朴な疑問を感じたため、沖鷹又三郎(ea5927)が首を傾げて呟いた。
気のせいかも知れないが、ごるびーがキュウリを葉巻のように咥えている。
「何か別のものと勘違いしているのかも知れませんね」
呆れた様子でごるびーを見つめ、、瀬戸喪(ea0443)がズバッと鋭いツッコミを入れた。
「河童だからと言ってカワウソの言葉が通じるわけではないからな。何処かで意味を取り違えたのかも知れん。そんな事より早くごるびーを連れ戻そう。あんな府抜けたごるびーなど見たくない」
マッタリとした表情を浮かべるごるびーを睨み、九十九嵐童(ea3220)が拳をブルブルと震わせる。
「それもそうですね。早くしないと私自身が‥‥げろげろ‥‥」
まるで蛙のような声を出し、乱雪が気持ち悪そうに頭を揺らす。
「大丈夫でござるか、乱雪殿! うぬぬ‥‥、このままでは新たな悲劇を生む事に‥‥。ごるびー殿、聞こえているでござるか! 拙者らと一緒に帰るでござる」
慌てた様子で乱雪に肩を貸し、又三郎がごるびーにむかって声をかける。
ごるびーはやけにダンディな表情を浮かべると、キュウリをプカプカとふかして笑う。
「河童さんになっちゃったら、ごるびーちゃんの大好きないかさんを食べられなくなりますですよ〜! せっかく美味しいイカさんを持ってきたというのにですよ〜」
おいしそうなイカをヒラヒラと揺らし、ベルがえぐえぐと涙を流す。
ごるびーはベルの持ったイカに気づき、驚いた様子で飛び上がる。
「‥‥相変らず分かりやすい対応をしますね」
本能に忠実なごるびーを見つめ、喪が呆れた様子で溜息をつく。
「‥‥説得はあまり得意じゃないんだが‥‥まぁ、無頼斗さんに教わったコツを思い出してやってみるか‥‥」
無頼斗に言われた言葉を思い出し、嵐童が拳を握って気合を入れる。
「こっちに来てくれたら、イカさんが食べれるんですよ〜」
おいしそうなイカを七輪の上で焼き、ベルが醤油をたらして扇子で扇ぐ。
ごるびーは鼻をヒクヒクさせながら、ウットリした様子で木の上から下りていく。
「この大馬鹿者がっ!」
それと同時に嵐童が駆け寄り、ごるびーの頬に強烈なビンタをお見舞いする。
「‥‥親父にもぶたれた事がないって顔だな。‥‥甘ったれるんじゃない! 貴様はいい、そこでウジウジしているだけだからな。‥‥だが残されたそれん達はどうなる? お前が以前狙われた、悪徳商人達が今度はそれんを標的にしないと言い切れるのか? そうなった時、最後に守れるのはお前じゃないのか!? ‥‥それに‥‥お前が抜けた穴をカバーするためにそれん達が頑張っているんだぞ! そうなった時、お前のように禿げないと断言できるのか!? ‥‥ここまで言って戻ってきてくれないならそれでもいい‥‥だが、その時お前は漢にはなれない。負け犬‥‥いや、負けカワウソだ!」
ボロボロと涙を流すごるびーを前にして、嵐童が厳しい一言を言い放つ。
ごるびーは一瞬ポカンとした表情を浮かべたが、嵐童の言葉を理解したのか大粒の涙を浮かべてしがみつく。
「楽な方に逃げたら駄目になっていく一方ですよ。今は良くても後になって必ず後悔しますから‥‥。逃げた者の行く末なんて大抵寂しいものです。今まで苦労して積み上げてきたものを、全て捨てる事になるんですから‥‥」
何処か寂しげな表情を浮かべ、喪がごるびーを諭すようにして語りかける。
「‥‥帰りましょう。それんさんの待つ小屋に‥‥でないと、うっぷ‥‥」
今にも倒れそうな雰囲気を漂わせ、乱雪が青ざめた表情を浮かべて呟いた。
ごるびーも乱雪が危険な状態である事を察してか、怯えた様子で何度もコクコクと頷き汗を流す。
「これにて一件落着でござるな。やれやれ、疲れたでござる」
色々な意味で気を使ったため、又三郎がホッとした様子で溜息をつく。
「いや、まだだ」
又三郎の行く手を阻み、嵐童が残念そうに首を振る。
「その‥‥なんだ‥‥。頭で独楽回転する技を俺に教えてくれないか」
そして嵐童は気まずい様子で視線を逸らし、恥かしそうに頬をかいて呟いた。
手には頭を保護するための鍋を持ち‥‥。