●リプレイ本文
●五輪祭
「‥‥困ったなぁ」
麒麟衆の審判『カメ吉』は追い詰められていた。
この事実を知られれば、命を失う事になる。
しかし、この事を交渉せねば命はない。
そのため、カメ吉は究極の選択を迫られていた。
「どちらにしても結果は同じ。ならば‥‥逃げてえろがっぱーずになるしかない!」
抜け忍の大半はえろがっぱーずと呼ばれる変態集団に身を置いている。
それは世間を欺く忍者の策。
本来はエリート達の集まり‥‥だった。
だが、しかし‥‥。
「ほっほっほっ、逃げるとは愚かな。‥‥お仕置きじゃ」
麒麟衆の首領『九千坊』は気づいていた。
『カメ吉』が『参加する事が出来るのは一競技のみ』と説明し忘れていた事を‥‥。
‥‥結果的にその皺寄せは参加者達にまで及ぶ事になる。
●白の試練
協議の結果、参加する事が出来るのは一競技のみとなった。
参加者の中には事前に聞かされていなかった者も多かったため、行動内容によってカメ吉が振り分けられる事になったらしい。
そのため、カメ吉は色々な意味で命を狙われる事になるのだが‥‥。
「何だかとんでもない騒ぎになってしまったが、何とか玄武も無事に帰ってきたようだのう。何故か玄武が二人いるように見えるのだが‥‥」
大粒の汗を浮かべながら、錬金(ea4568)が目を細めた。
幻を見ているのかも知れないが、玄武と同じ格好をした者が増えている。
「いや、気にするな。もしもの場合を考えて影武者を用意していたりしたからなぁ」
乾いた笑いを響かせながら、玄武が気まずい様子で頬を掻く。
この数ヶ月間、色々な事があったため、説明するのも面倒らしい。
「まぁ、わしも色々と噂は聞いている。そんな時こそ‥‥、ぱぱらぱっぱはー。とーらーやーきー!! これを食べて白虎衆にぎゃぶんと言わせてやりましょうぞ」
生地が虎模様になっているどら焼きを高々と掲げ、金が間の抜けた声を辺りに響かせた。
「おおっ‥‥、随分と高価な菓子を持ってきたんだな。でも、これって白虎というより、虎だろ?」
どら焼きをマジマジと見つめ、玄武が不思議そうに首を傾げる。
「‥‥安心せい。これはわし特製の白餡じゃ」
満面の笑みを浮かべながら、金が玄武の肩をぽふりと叩く。
そのため、玄武は覚悟を決めて一気にどら焼きを平らげた。
「むむ‥‥、それは拙者達に対する挑戦でござるな。白虎衆の名に懸けて、この試練は負けられないでござる!」
玄武達のやり取りに気づいて闘志を燃やし、沖鷹又三郎(ea5927)が拳をギュッと握り締める。
又三郎はどんな料理を作っている時でも服を汚さず修行を積んできたため、今回の試練には他の参加者達よりも自信があるらしい。
「ふたりとも何か大切な事を忘れていませんか? 前回の試練で我々が玄武の印を手に入れている事を‥‥。このまま白虎の印を狙いますぞ!」
自信に満ちた表情を浮かべ、ルミリア・ザナックス(ea5298)がニヤリと笑う。
そのため、朱雀も満足した様子で、コクコクと頷いている。
「そう言えば、朱雀殿。コレは大事に持っておくべきものなのですか? いえ、五輪祭を狙う謎の敵とか居たので気になっただけですが‥‥」
険しい表情を浮かべながら、ルミリアが玄武の印を朱雀に見せた。
「念のため朱雀衆のアジトに預けておくといいわ。何処かで刺客に襲われてもシャレにならないからね」
いつもよりおっとりとした表情を浮かべ、朱雀がルミリアをニコリと微笑んだ。
そのせいでルミリアは嫌な予感が脳裏を過ぎり、『この試練でヘマをしたら半殺し』という言葉が浮かぶ。
「皆さん、大変なようですね。その点、わたくしはリラックスして参加する事が出来ますが‥‥。白虎さんはとても心の広い御方。勝負の勝ち負けよりも、いまは五輪祭が再開された事を喜んでいますわ」
試練で指定されている白装束を身に纏い、南天流香(ea2476)が1番のスタート地点に立つ。
今回の試練ではスタート地点が三ヶ所あり、そのうちの一箇所だけトラップが仕掛けられていない。
そのため、自分の選択したコースが重要になってくる。
「はっはっはー、漢の白装束と言えば、これじゃろう、やはり!!」
ばばぁっ、と鎧と袈裟を脱ぎ捨て、金が目にも眩しいほどに清々しい純白の褌、『漢の褌』一丁の姿になって1番のスタート地点に立ってポージングを決めた。
麒麟衆の審判は各参加者がスタート地点に立った事を確認した後、カメ吉をバンジーさせて悲鳴で試練の開始を告げる。
「ようやく続きが出来るか、長かったな」
キヨシ城攻略にも使った巣羽射駆(すぱいく)を履き、龍深城我斬(ea0031)が一番のスタート地点から走り出す。
幸いここにはトラップが仕掛けられていなかったが、2番では納豆、3番では水飴がスタートと同時に降ってきた。
「ぬお‥‥、水飴が‥‥。これではピュアリファイを掛けても完全に汚れを取る事が出来ないかも知れないようでござるな。ベトベトとして気持ちが悪いでござる」
青ざめた表情を浮かべながら、又三郎が3番から5番のコースを進む。
しかし、そこにもトラップが仕掛けられており、又三郎は頭から泥水を被ってしまう。
「こ、これは‥‥!?」
ハッとした表情を浮かべながら、流香が慌てた様子で後ろに下がる。
それと同時に河童達が行く手を阻み、手に持った桶で泥水を掛けてきた。
「‥‥5番は泥水か。それじゃ、こっちは‥‥」
6番のコースを迷わず選択した後、我斬が左右に蛇行しながら進んでいく。
しかし、6番のコースにはトラップが仕掛けられており、上下左右から無数の槍が飛び出した。
「避けてみせる!」
素早い身のこなしで槍をかわし、我斬がホッとした様子で汗を拭う。
次の瞬間、トドメとばかりの鉄球が飛んできたため、我斬が悲鳴を上げて吹っ飛んだ。
「5番に続いて6番もトラップ。ならば正解は‥‥ここだ!」
覚悟を決めて4番のコースを突き進み、ルミリアが勝ち誇った様子でニヤリと笑う。
いまのところルミリアは選択ミスをしていないため、このままゴールする事が出来れば1位である。
「ま、負けませんよぉ〜!」
手拭いを使って顔を拭い、流香が9番のコースを選択する。
しかし、そこには蜘蛛の糸が仕掛けられており、流香はあっという間に身動きが取れなくなってしまう。
ちなみに又三郎は8番のコースを選択して落とし穴に落ちた。
「はっはっはっはっ! この勝負‥‥、貰った!」
7番のコースを選択し、金が堂々とゴール地点の線を踏む。
「クッ‥‥、途中に選択肢が間違っていなければ、俺も一着だったのに‥‥」
悔しそうな表情を浮かべ、我斬が拳を地面に叩きつける。
この試練に勝利したのは、金とルミリア。
我斬は無念の3着。
「む‥‥、この姿を最も見せたい方が此処に居られぬとは‥‥寂しいものだが、仕方あるまい‥‥。 朱雀殿、やりましたぞーーーー!」
そう言ってルミリアが勝利した喜びを噛み締めるのであった。
●虎の試練
「何だか五輪祭もすごく久しぶりね。ブランクが長いけど、勘は戻ってるかしら?」
朱雀衆の仲間達に挨拶をした後、アイーダ・ノースフィールド(ea6264)がスタート地点に立つ。
この試練は虎の絵が描かれた屏風の合間を通っていくのだが、1枚だけ本物の虎が眠っており、この虎に一番近づけた者が勝者となる。
「ぱっと見た感じ、どれも本物の虎に見えるな。まるで屏風から飛び出してきそうな勢いだ。よほど実力のある絵師が描いたものだな、これは‥‥」
コースに並んだ屏風を見つめ、ゲレイ・メージ(ea6177)が口を開く。
この屏風は江戸でも有名な小野・於通と清十郎の合作で、リアルさを追求しているため遠めでは本物と見分けがつかない。
「白虎お姉様のためにも頑張らねば〜」
緊張した様子でスタート地点に立ち、南天桃(ea6195)が深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
観客席には白虎を含む首領達の姿があり、桃達に期待の眼差しを向けている。
「それじゃ、先に行かせてもらうわよ」
カメ吉の悲鳴と共に競技が開始され、アイーダが2番目の屏風を目指して走り出す。
屏風から屏風までの距離があるため、1番の屏風に虎が眠っていた場合は逃げられない。
「これは速さを競う競技ではない。‥‥何も急ぐ事はないだろう」
猫のムーンを撫でた後、ゲレイが隠れ身の勾玉を使って気配を消す。
ゲレイは何処まで移動するか決めていなかったため、そのままスタート地点で待機する事にした。
もちろん、これでは1位にはなれないのだが、虎に襲われて失格になるよりはマシなので、確実に得点を得る事が出来る。
「虎さんはお友達なので〜今回は勝負に出てみるですよ〜♪」
楽しそうに鼻歌を歌いながら、桃が8番の屏風を目指してアイーダに続く。
この場合、9番目の屏風に虎が隠れていなければ失格になってしまうため、ある意味では『賭け』である。
「‥‥無謀な賭けね。虎に襲われたら無傷じゃすまないのに‥‥」
呆れた様子で溜息をつきながら、アイーダが2番の屏風で立ち止まる。
これでアイーダは確実に得点を得る事が出来たので、後は競技の結果発表を待つばかりだ。
「5番の屏風を越えたようだな。それじゃ、虎は一体、何処に‥‥」
桃が5番目の屏風を越えていったため、ゲレイがクールな表情を浮かべて眉をひそめる。
ゲレイのいる位置からではどれも本物の虎に見えるため、桃が脱落するかどうかも分からない。
「え〜っと、ここで止まってみるですよぉ〜」
満面の笑みを浮かべながら、桃が8番目の屏風で立ち止まる。
本物の虎は9番目の屏風に眠っていたため、桃は見事に虎の試練をクリアした。
●白虎の試練
「白虎の試練‥‥、俺達が取るんだ。他忍軍に取られては、白虎に合わす顔がない」
自分自身に言い聞かせるようにしながら、南天輝(ea2557)が白虎の試練に参加する。
白虎の試練は彼女が一番欲しいものを持ってくればいいだけだが、それだけ難易度が高く一歩間違えば減点を喰らってしまう。
「残念ながら、白虎の欠片は渡せません。玄武の試練では欠片を手に入れる事が出来ませんでしたが、逆に考えればどの衆でも試練にさえ勝てばチャンスがあるという事です」
ジロリと輝を睨みつけながら、ルーラス・エルミナス(ea0282)が拳をギュッと握り締める。
今回は妙に玄武衆の応援が少ないため、色々な意味でルーラスにも負けられない理由があった。
それとは逆に白虎衆の応援には熱意があり、背後に虎を背負っているような印象を受ける。
まさに、トラ、トラ、トラ。
「えーっと、そう言えば持って行くのは一人一品なんでしょうか? 説明には『一人一品』とは書かれていなかったので‥‥」
琴宮茜(ea2722)の一言でカメ吉が谷底へと突き落とされた。
どうやら『説明し忘れて』いたらしい。
「‥‥無事だといいな。奇跡が起きて‥‥」
なむなむと両手を合わせながら、デュラン・ハイアット(ea0042)が溜息をつく。
麒麟衆の河童忍者はエリート揃いなので、こんな状況でも生きていたりするのだが、二度とアジトに戻ってくる事はないだろう。
「それじゃ、試練を始めるか。まずは俺だな。‥‥白虎、これが何だか分かるか? サーコートofレイク‥‥、これは湖の乙女の祝福を受けているらしい。まぁ、俺は湖の乙女の祝福よりも白虎の祝福を受けたいな」
『本当は試練でない時に渡したかったがね』と言って輝がウインクする。
「お、惜しいです。このコートは薄青色‥‥、すなわち青龍をイメージしています。せめて純白のコートだったら満点だったんですが‥‥」
申し訳無さそうな表情を浮かべ、白虎がコートの評価を下す。
白虎も本当は輝のコートに満点を出したいのだが、審判として正式な評価を出さなければならないため、評価を下した後もションボリしている。
「クッ‥‥、しまった!? 色までは考えていなかったな。そう言えば白虎の着ている衣装はほとんど白だもんな」
納得した表情を浮かべ、輝がコートを受け取った。
「なかなか厳しい評価ですね。でも、いまさら品物を変えるわけには行きません。私は友人から戴いた異国の品で勝負します!」
必勝鉢巻をつけて勝利を誓い、ルーラスがブレイブ・サーコートで身を引き締め、アデプトリングを嵌めて気合を入れる。
ルーラスが用意したのは真珠のティアラ。
他にもアイテムを持ってきてはいるのだが、迷いに迷って真珠のティアラを白虎に渡す。
「‥‥なるほど。貴族の愛した逸品ですね。わたくしの趣味がよく分かっているようですわね。これは高得点を狙えますわ」
真珠のティアラを手に取り、白虎がニコリと微笑んだ。
真珠の色は白。
白虎の好きな色である。
「むむ‥‥、これは負けられませんね」
バックパックを覗き込みながら、茜がローレライの竪琴を取り出した。
茜もルーラスと同じように他にも候補があったため、ここで減点されてしまうとショックが大きい。
「‥‥ローレライの竪琴ですか。つまり河ですね。個人的には風と関係のあるものがいいのですが‥‥」
ローレライの竪琴を鳴らし、白虎がボソリと呟いた。
茜が竪琴を選んだ事自体は間違っていなかったのだが、風と関係していなかった事が大きなマイナスポイントらしい。
「‥‥最後は私か」
クールな笑みを浮かべた後、デュランがコホンと咳をした。
「江戸ネット・デュランの押し売りショッピング!の時間がやってまいりました。長くなった髪の毛、邪魔なので切ろうと思ってバッサリやったら、滑稽な姿になった事はありませんか? 今回はそんな貴方にピッタリの品がこちら! 取り出したるはビーナスシザー! この魔法の鋏は髪の毛を切る時に何故か上手く切り易いという物だ。それでは早速、河童の大丸君で実践を‥‥」
しかし、大丸君の頭には皿が‥‥。
「あー、えー、まあ、こういう事もあるが。他にも色々使えるだろう。ジャパンの諺で、ほら、何と言ったか。‥‥アレだ。確か『何とかと鋏は使いよう』とか言ったな。まあ、兎に角気に入ってくれれば幸いだ」
引きつった笑みを浮かべながら、デュランが心配した様子で白虎の顔色を窺った。
白虎は‥‥ノーコメント。
こうして白虎の試練はルーラスの勝利で幕を閉じるのであった‥‥。
●白の試練
金(玄武衆) 10
ルミリア(朱雀衆) 10
我斬(青龍衆) 3(1位が2人いたため)
流香(白虎衆) 2
又三郎(白虎衆) 1
●虎の試練
桃(白虎衆) 11
アイーダ(朱雀衆) 5
ゲレイ(青龍衆) 3
●白虎の試練
ルーラス(玄武衆) 20
輝(白虎衆) 11
茜(白虎衆) 6
デュラン(朱雀衆) 0
●総合評価
白虎衆 31(白虎の印入手)
玄武衆 30
朱雀衆 15
青龍衆 6