●リプレイ本文
●銭貸島
「頼まれていた酒をたんまり持ってきたぜ。新入りだがよろしく頼む!」
渡し舟に乗って銭貸島に辿り着き、伊達正和(ea0489)がゴロツキ達にどぶろくを手渡した。
「‥‥そっちにいるのは罪人か? 悪いが身体検査をさせてもらう」
険しい表情を浮かべながら、ゴロツキ達が舟に乗り込んでいた冒険者達の身体を触る。
「おいおい、カタイ事は言いっこなしだぜ! これで多少の事は目を瞑ってくれ!」
ゴロツキ達の肩を抱き、正和がニヤリと笑う。
「‥‥いや。最近、何かと物騒でな。面倒だとは思うが、勘弁してくれ」
清十郎が逃亡した事でゴロツキ達は警戒しており、必要以上に正和達の身体をペタペタ触る。
「おっと‥‥、これは何だ? 罪人の割には物騒なモノを持っているな」
一條北嵩(eb1415)の懐から柊の小柄を見つけ出し、ゴロツキがいやらしい笑みを浮かべて彼を睨む。
「‥‥親の形見って言うんでね。情けで持たせてやったんだよ。すまなかったねぇ」
わざとガラの悪い態度で接し、山浦とき和(ea3809)がゴロツキ達を威嚇した。
「何だ、テメエは? ふざけた事を言っていると、そんなクチが叩けねえようにしてやるぞ!」
不機嫌な表情を浮かべながら、ゴロツキがとき和の胸倉を掴む。
「やめろ! ‥‥彼女は御頭の女だぞ。そんな事を言ってタダで済むと思っているんじゃないだろうな!」
険悪なムードになったため、正和が咄嗟に嘘をつく。
「お、御頭の女‥‥。す、すみませんでしたっ! そうとは知らず大変なご無礼を‥‥。えっと、これもお返ししやす。‥‥ですから、この事は穏便に‥‥」
途端にゴロツキ達の表情が青くなり、慌てて彼女に土下座をする。
「さあてねぇ‥‥、態度によっちゃ考えてやってもいいが、あたいのこんな口を叩いちまったんだからねぇ‥‥。このまま見逃したら御頭がなんていうか‥‥」
勝ち誇った様子で笑みを浮かべ、とき和がえっへんと腰に手を当てる。
「うへええええ! そこを何とかっ! お願いしやすっ!」
地面に何度も頭を擦りつけ、ゴロツキが必死になって謝った。
「だったら早く荷物を運びな! 使えない奴らだねぇ!」
わざと大声を出した後、とき和がクスクスと笑う。
「‥‥おい。ちょっと、やり過ぎじゃないか」
心配した様子で彼女に近づき、正和が気まずくツッコミを入れる。
「だって、こんな事‥‥。滅多に出来ないでしょ。ちょっと‥‥、癖になるかも」
苦笑いを浮かべながら、とき和がぺろっと舌を出す。
「でも、とき和さんのおかげで、僕達の身体検査はしないつもりみたいだね。何だか物凄く怯えているし‥‥」
罪人として銭貸島に降り立ち、六道寺鋼丸(ea2794)がクスリと笑う。
念のため両手を縄で縛られているが、簡単に外せるようになっているため、もしもの場合はすぐに動けるようになっている。
「そりゃあ、そうだろ。御頭の女って言ってあるからな。これでしばらく時間は稼げるはずだ」
深々とお辞儀をしているゴロツキ達の横を通り過ぎ、正和が樽の積まれた荷車を引いて食料庫にむかう。
留守番役として舟に、とき和をひとり残して‥‥。
●食料庫
「もう大丈夫ですよ、皆さん」
樽の中に入ったままデティクトライフフォースを使い、所所楽林檎(eb1555)が仲間達にむかって声をかけた。
林檎達の入った樽は食料庫に運ばれており、正和が入り口を見張っている。
「ふぅ‥‥、ようやく外に出られるようですね。一時はどうなるかと思っていましたが‥‥」
樽の中から顔をゆっくりと出し、瀬戸喪(ea0443)がホッとした様子で溜息をつく。
食料庫は埃まみれになっており、まったく掃除がされていない。
そのかわり酒樽の置かれた場所は小奇麗で、ゴロツキ達が普段から酒浸りなのがよく分かる。
「まぁ、いいんじゃないか。無事にここまで来れたんだし‥‥」
鬼神ノ小柄を懐の中にしまい、リフィーティア・レリス(ea4927)が辺りを睨む。
食料庫を放火する事でゴロツキ達の注意が逸らせるはずなので、山のように積まれた藁の近くで火打石をカチカチさせた。
「どうせ火をつけるなら、食料庫を出てからにしてくださいね。僕達まで丸焼きにされたら困りますし‥‥」
冗談まじりに微笑みながら、喪が愛用の鞭を懐にしまう。
「‥‥しゃあねえなぁ。それじゃ、別の作戦を考えておくか」
面倒臭そうな表情を浮かべ、レリスが火のついた藁を踏む。
「それにしても、この服‥‥。妙な臭いがしているな。まさか清十郎の服じゃ‥‥」
囚人服の臭いを嗅ぎながら、北嵩がダラリと汗を流す。
‥‥何だか嫌な予感がする。
まるで清十郎に抱かれているような気分‥‥。
「忘れましょう。多分、その予感は当たっていますから‥‥」
自分達の入っていた空樽を奥まで運び、林檎が手前にある酒樽の中に眠り薬を入れておく。
‥‥作戦の決行は深夜。
ゴロツキ達の酒盛りが始まった頃だ。
●鉱山
「お勤めご苦労。そろそろ交代の時間だ、兄弟。こいつでも飲んで、ゆっくりするといい」
鉱山の入り口に立っているゴロツキ達の肩を抱き、正和が睡眠薬入りの酒を渡す。
とき和が御頭の女であるという噂が流れていたため、正和達はほとんど怪しまれる事なく、鉱山の中へと入っていった。
「どうやら‥‥、うまく行きそうだね。早く清十郎を逃がしてくれた人達と合流しよう」
辺りの様子を確認しながら、鋼丸が松明の明かりを頼りに進んでいく。
「‥‥残念だが、それは不可能だ」
鋼丸の肩を叩いた後、正和が残念そうに首を振る。
「それじゃ、まさか‥‥」
ハッとした表情を浮かべ、鋼丸が正和をジロリと睨む。
「ああ、見せしめに殺されてしまったらしい」
小さくコクンと頷き、正和が気まずく視線を逸らす。
「とにかく偽金の証拠を掴もうぜ。このままじゃ、死んでいった奴らは犬死だしな」
偽金作りの証拠を掴むため、北嵩が忍び歩きで辺りを睨む。
鉱山の奥では見張りのゴロツキ達が酒盛りをしており、何も知らずにゲラゲラと笑っている。
「‥‥どうしますか? このまま不意打ちを仕掛ける事も出来ますが、騒ぎになったら面倒ですよ‥‥」
ゆっくりと鞭を握り締めながら、喪が妖しくニヤリと笑う。
「あたしが囮になりましょうか? 鉱山に女の身で向かうこと自体が異端でしょうから、充分目を引くとは思いますけど‥‥」
自分が囮になる事を提案し、林檎がゴロツキ達の前に出ようとした。
「いや、そんな事をしたら林檎さんがどんな目に遭わされるか分からない。もう少しだけ様子を見た方がいいんじゃないのかな?」
すぐさま林檎の肩を掴み、北嵩が黙って首を横に振る。
「か、火事だあああああ!
それと同時に慌てた様子でレリスが現れ、食料庫が放火された事を叫びながら奥の方へと走っていく。
「なんだ、テメェは?」
不機嫌な表情を浮かべ、ゴロツキ達がレリスを囲む。
「や、役人が島に乗り込んで来て、食料庫に火をつけられちまったんだ! ここも危ねぇ! 早くここから逃げるんだっ!」
必死に外を指差しながら、レリスが身体を震わせる。
「な、何だとっ!? わざわざ知らせてくれて、すまねぇな。それじゃ、お前も死ぬんじゃねえぞ!」
レリスの演技にすっかり騙され、ゴロツキ達が慌てた様子で逃げていく。
「‥‥行ったか。俺の演技もそんなに悪くはなかっただろ? いまのうちに証拠を見つけ出さないと‥‥」
ホッとした表情を浮かべ、レリスが偽金の証拠を掴むため、ひとりで鉱山の奥にむかう。
「で、でも、このままじゃ、とき和さんが‥‥」
気まずい様子で汗を流し、鋼丸がとき和の事を心配する。
「船なら島の反対側に回してある。すぐに見つかる事はないだろう。それよりも早く証拠を手に入れる方が先だ」
仲間達の事を急かしながら、レリスが鉱山の奥に辿り着く。
鉱山の奥では男達が偽金作りをしており、レリス達の姿に気づくと驚いた様子で騒ぎ立てる。
「この島は役人達によって制圧された。大人しく偽金の原版を渡すのなら、お前達の減刑も考えてやろう」
あまり時間がなかったため、正和が思い切ってハッタリをかます。
男達はお互いの顔を見合わせた後、諦めた様子で道具持っていた道具を放り投げ、正和に偽金の原版を手渡した。
「‥‥俺の演技もそんな悪くはなかっただろ?」
そう言って正和がニヤリと笑い、原版を抱えたまま仲間達を連れて鉱山を脱出した‥‥。
その後、正和達が持ち帰った原版によって、銭貸島で行われていた偽金作りが明らかになり、役人達の手によって金貸しをしていた男達が捕らえられ、強制労働させられていた男達もようやく自由を得るのであった。