●リプレイ本文
●ごるびーの奇妙な冒険 ─未来への遺産─
ゴッゴゴ‥‥ゴッゴゴ‥‥ゴッゴゴ‥‥。
ごるびーの前に怪しげな帽子を被ったシフールが現れた。
「きゅっ!」
警戒した様子でカンフーの構えを取る、ごるびー。
……二人の間に稲妻が走り、しばらく緊張した空気が漂った。
「このティアラ・クライス、いわゆる冒険者商人に類する‥‥アイテム交換で 対価以上のものを手に入れ シャークな真似をした事がある‥‥。だがこんなおれにも はき気のする『悪』はわかる!! 『悪』とはてめーの弱さゆえに 逃亡し 築きあげた信用を踏み倒すやつの事だ!! ‥‥ だから ゴルビー貴様を鍛える! ‥‥って聞いてねぇ!」
途中でごるびーが眠っている事に気づき、ティアラ・クライス(ea6147)がバシィッとツッコミを入れる。
ごるびーは驚いた様子で飛び上がり、慌てて左右を見回した。
「ごるび〜ちゃん、久しぶりですよ〜」
喜びのあまりきゅむっと抱きつき、ベル・ベル(ea0946)がニコリと微笑んだ。
ごるびーも突然の不意打ちに驚き、心臓が飛び出しそうになっている。
「おひさしぶりですね、ごるびーさん。お元気でしたか?」
おっとりとした笑みを浮かべ、大宗院鳴(ea1569)がごるびーの頭を優しく撫でた。
最近のごるびーはストレスからも解放されたのか、うっすらと毛が生え始めているようだ。
「俺が京都に行っている間、キノコに現を抜かしていたそうだな」
見世物小屋の主人から貰ったヒーリングポーションを一気に飲み干し、本所銕三郎(ea0567)がごるびーと握手をかわす。
ごるびーは何故かキリリッとした表情を浮かべ、銕三郎を見つめてコクンと頷いた。
「ごるびーと遊んでおると荒んだ心が和むのぉ‥‥」
しみじみとした表情を浮かべ、馬場奈津(ea3899)がごるびーと遊ぶ。
ごるびーはいきなりぴょこっと立ち上がり、何かにむかって歩いていく。
「残念だがこれは食べ物じゃないぞ。よく出来たイカの絵だ。世の中には全長数メートル‥‥いや、それどころか優に10メートルを超える巨大イカが居るって噂もある。どうだ、興味はあるか?」
イカの絵の描かれた看板を指差し、久留間兵庫(ea8257)がごるびーの顔色を窺った。
ごるびーは涎をダラダラと流し、イカの絵に釘付けになっている。
「二ヵ月半ぶりですね、ごるびーさん。こんなにフカフカになって‥‥、感激ですっ!」
嬉しそうにごるびーと抱きつき、志乃守乱雪(ea5557)がニコリと笑う。
ごるびーと旅立つ場所を決めるため‥‥。
‥‥彼女達は集まった。
●着ぐるみどっきり作戦♪
ごる ごる ごるびーがやってくる♪ あなたの村にも♪ やってくる♪ ごーる、ごる、ごる、ごーるびー♪ 円らな瞳が愛らしい♪
見世物小屋の主人が作詞した奇妙な歌に合わせ、一條北嵩(eb1415)が着ぐるみ姿で仲間達を引き連れ現れた。
「きゅきゅきゅ……」
あまりの恐怖でおしっこを漏らし、ごるびーが瞳をウルウルさせる。
一瞬、喰われると思ったのか、恐怖で体が動かない。
「そんなにビックリしたのか? 一応、戸板に文字を書いておいたんだが……読めないよな、カワウソじゃ」
ごるびーが驚いた時のために用意したおいた戸板を見つめ、貴藤緋狩(ea2319)が苦笑いを浮かべて溜息をつく。
戸板には『ごるびーと着ぐるみ劇団が君の町にやって来る! ただいま後援者募集中』と書かれており、野次馬達が興味を持ってその戸板を見に来ている。
「こんな位で驚いてちゃ、世界を股にかける芸人(芸動物)にはなれないぞ、ごるびー! 立て! 立つんだ、ごるびー!」
パタリと倒れたごるびーを見つめ、北嵩が呆れた様子で渇を入れた。
「‥‥」
しかし、ごるびーはピクリとも動かず、死んだフリをしてやり過ごそうとしているようだ。
「今は試練の時です、ごるびーさん‥‥。気合を入れてファイトですっ!」
拳をギュッと握り締め、レヴィン・グリーン(eb0939)がごるびーの事を応援する。
ごるびーはうっすらと目を開けていたが、レヴィンの声に驚き目を閉じた。
「ひょっとして、この着ぐるみが原因か」
身に纏っていた『まるごとオオカミさん』の着ぐるみを脱ぎ捨て、北嵩がごるびーの身体をツンツンとつつく。
「あ‥‥、あり得る‥‥。ごるびーのヘッポコぶりは、語り種になるほどだしな」
苦笑いを浮かべながら、緋狩が『まるごとレヲなるど』を脱ぎ捨てた。
ごるびーは警戒した様子で薄目を開けているようだが、いまだに死んだフリをして決して動こうとしない。
「本当にごるびーさんって臆病なんですね」
『まるごとネズミー』を脱ぎ捨て、レヴィンがクスリと笑ってごるびーを起こす。
ごるびーは恥ずかしそうに頬を染め、小さくコホンと咳をした。
「ごるびーくん、あなたはカワウソを超えラッコへと進化しなければならないわ。ラッコといえば海、海といえば砂浜よ。そして、砂浜といえば特訓! さあ、砂浜にむかってレッツゴーよ」
ごるびーの肩を抱き、陣内風音(ea0853)が瞳をキラリと輝かせる。
「ごるびー君の武者修行の旅‥‥、この世の果てまで付き合っちゃいましよう♪」
そう言ってレオーネ・アズリアエル(ea3741)が瞳をキュピーンと輝かせた。
何故か含みのある笑みを浮かべつつ‥‥。
●裸のごるびー
「‥‥噂に聞いた所によると、カワウソなのに色々と苦労してきたらしいな」
ほろりと涙を流しながら、緋狩がごるびーの頭を優しく撫でる。
ごるびーもしみじみとした表情を浮かべ、カワウソ語(?)で今までの出来事を語っていく。
「まあ‥‥、カワウソの分際で彼女がいるのは気に入らんが‥‥。おっと、思わず頭を握り潰しそうになった、すまんな?」
爽快な笑みを浮かべながら、緋狩が慌ててごるびーの頭から手を離す。
ごるびーはドクドクと血を流していたが、何故か愛想笑い(?)を浮かべている。
「‥‥ん、なんじゃ、ごるびー? 何をプルプル震えておるのじゃ」
含みのある笑みを浮かべ、奈津がごるびーの肩を叩く。
ごるびーは瞳をウルウルと潤ませ、何事もなかった様子で首を振る。
「いつのまにか新しい技を会得していたんだな。‥‥知らなかった。今度、俺も『まるごとごるびー』を着て試してみるかな‥‥」
感心した様子でごるびーを見つめ、銕三郎がボソリと呟いた。
「ところでごるびーちゃんは旅に出るですか? 私はごるび〜ちゃんと一緒にしょこくまんゆ〜の旅に出て、一緒に修行したいですよ〜☆」
ごるびーのまわりを飛びまわり、ベルがニコリと微笑んだ。
「修行の旅‥‥か。俺としては野良カワウソも悪くないと思うんだが‥‥。今のコイツでは何処へいっても生き抜く事は難しかろう。‥‥カワウソのクセに泳げないし‥‥」
苦笑いを浮かべながら、銕三郎がごるびーの頭をぽふぽふと叩く。
「泳ぎは誰かが教えるとして、あたしはごるびーくんのボディーを鍛えるわ。ごるびーくんが打たれ弱いのは、ボディーの鍛え方が甘いからよ。ボディーを鍛えれば何でも出来る。さぁ、特訓よっ!」
ごるびーの背中をポンと叩き、風音が夕日にむかって走り出す。
しかし、ごるびーは回れ右をすると、コソコソとした様子で逃げていく。
「何処に行くんだ、ごるびーくん」
ごるびーの首根っこを掴み上げ、北嵩がジト目で睨みつける。
「ごるびーさんには大切な方がおられるのでしょう? その方の為に1歩ずつ進んでいきましょう」
逃げ腰のごるびーを引きとめ、レヴィンが優しく呟いた。
「そんなに心配そうな顔をするな。俺達がついているだろ」
落ち込むごるびーを慰めながら、兵庫がごるびーにスルメを渡す。
ごるびーは嬉しそうに飛び上がり、すぐさまスルメに喰らいつく。
「そうですわ。歓楽街なんてどうでしょうか? お父様はよく、遊郭という場所に行ってらっしゃるようですが、そこでは色んな方とお話して楽しい時を過ごすそうです。わたくしも一度、依頼で遊郭と云う場所に行きましたが、綺麗な方に素敵な衣装と化粧をしていただきました」
世間知らずな笑みを浮かべ、鳴が遊郭に行く事を提案した。
「さすがに遊郭はマズイだろ。ごるびーが妙な技を覚えたら怖いしな」
苦笑いを浮かべながら、兵庫がごるびーを抱き上げる。
ごるびーはスルメを平らげてしまったため、物欲しそうな目で兵庫の顔を見つめている。
「まずは、カワウソとして一人前になってもらうか‥‥ん? 一匹前か?」
苦笑いを浮かべながら、銕三郎がスケジュールを組んでいく。
イカを釣るのも重要だが、せめて泳げるようにはしておきたい。
「それとごるびーさんの臆病も治しておきたいですね。そのほうがそれんちゃんも喜ぶと思いますし‥‥。ファイトですよ、ごるびーさん」
二枚目に美化されたごるびーを思い浮かべ、鳴がニコリと微笑み励ました。
「まずは海‥‥、その次は山‥‥、という感じで行きましょうか。色んな場所に行って新たな芸を覚えるのです。それには芸をする動物の情報を集める必要がありますが‥‥こんな事もあろうかと、私が日々収集してきた、関東の人気動物の噂は、すべてこの『お雪ちゃんのわくわく動物日記』に書き留めてあるのです! 秩父の山を転がり、空を飛ぶ岩亀、下野の森の大ナメクジ、足尾のモーと鳴く大ヤマアラシ‥‥といったネタは胡散臭いので没として、日光のサル達なんてどうでしょうか? 日光のサルは猿軍団と呼ばれており、生存率5パーセントの厳しい訓練をくぐり抜けた命知らずの地獄のコマンドー軍団だと言われています」
『お雪ちゃんのわくわく動物日記』をペラペラとめくり、乱雪がごるびーの肩をぽふりと叩く。
この本に書かれている事は出所の怪しい噂ばかりだが、すべてが嘘というわけではないらしい。
「そもそもごるびー君は波乗りに挑戦したり、スケートにチャレンジしたり、すねこすり技を覚えようとしたり、河童になりきってみたり、江戸近辺でやれる事はほとんどやりつくしたわ! これ以上鍛えようとしたら、それこそ長旅に出て広い世界を知らなくちゃ駄目ね」
今までの事を思い出し、レオーネがボソリと呟いた。
「一応、こっちも華厳の滝に打たれて精神修行ツアーとか、富士の樹海をさまよってサバイバル体験コースとか‥‥色々と考えてみたけど、一歩間違うとあの世まで旅立ってしまいそうなのがねぇ‥‥」
大粒の汗を浮かながら、レオーネが困った様子で溜息をつく。
あまり厳しいとごるびーが逃亡するため、徐々に厳しくしておく必要がある。
「確かにそれは言えますね。本当なら私もここで山篭りを提案したい所ですが、それでは芸を鍛えるというより、マッチョなカワウソになってしまいますし‥‥」
危険な映像を思い浮かべ、乱雪が腕を組んで考え込む。
今回の旅はごるびーの芸や精神力を鍛える旅なので、肉体ばかりを鍛えてしまうと見世物小屋に戻った時に支障が出る。
「そんな生易しい事を言っていたら、ごるびーは腑抜けになるだけよっ! 真っ白な灰になるまで戦いなさいっ! 逃げようとしたらあたしの幻の拳が、心を折って魂を打ち砕く事になるんだから‥‥」
激しく首を横に振り、風音が警告まじりに呟いた。
「と、とにかく段階を踏んで鍛えていこう。いきなり修羅場じゃ、ごるびーだってヤル気が減退するだけだしな。最初はイカ釣りなんてどうだ?」
北嵩の背中をかじりながら、緋狩が新たな提案をする。
ごるびーも緋狩の提案に納得したのか、嬉しそうにコクコクと頷いた。
「どうでもいいが、何故‥‥背中を噛む?」
ジト目で緋狩を睨みつけ、北嵩がボソリと呟いた。
「いや、背中をかじってくれって言っただろ」
キョトンとした表情を浮かべ、緋狩が普通に答えを返す。
「違うっ! 俺は背中を掻いてくれといったんだ。一体、何を勘違いしているんだか‥‥」
呆れた様子で溜息をつきながら、北嵩が愚痴をこぼして背中を掻く。
本当は北嵩が方言で『かじる(かく)』と言ったため、緋狩が勘違いしてしまっただけなのだが、北嵩はまったくその事には気づいていない。
「とにかく行き先は決まったようじゃな。わしとしては京都にむけて修行の旅に出るべきだと思っていたのじゃが、見世物小屋の主人がまだ手放したわけじゃないからのう。まずは海に行って修行じゃな」
ごるびーを抱き上げ、奈津がひょいっと馬に乗せる。
「それじゃ、しょこくまんゆうの旅に出発ですよぉ〜☆」
拳を高々と掲げ、ベルがニコリと微笑んだ。
「んじゃ、占ってみようかな」
そう言ってティアラが水晶剣を召喚する。
「剣のかみさまのいうとおりうー♪ じゃーとりあえずあっちにGO」
そして、ごるびーの旅は始まった。
様々な不安要素を含みつつ‥‥。