●リプレイ本文
●本日開店、ミンメイ堂!
「暫く見ない間に、またすっかりと落ちぶれてしまったな! ‥‥だが、案ずるな! 我々が来たからにはもう安心だ!」
豪快な笑みを浮かべながら、ゴルドワ・バルバリオン(ea3582)がミンメイの肩をバシバシと叩く。
ミンメイはチラシを完成させるために徹夜をしたため、半分ほど魂が抜けたような表情を浮かべている。
「よお、ミンメイ! 店開くんだってな? おめでとう! これからもずっと安くて美味い魚を届けるように言っておいたから、店で使ってくれよな!」
獲れたてぴちぴちの魚介類をミンメイに届け、鷹波穂狼(ea4141)がニカッと笑う。
穂狼の持ってきた魚はどれも新鮮で、漁師仲間と掛け合って安価で仕入れる事が出来るようになっている。
「おお、アリガトある! これでお店も安泰アル!」
満面の笑みを浮かべながら、ミンメイが心から穂狼に感謝した。
「おっ、そいつぁ目出度ぇな! ‥‥んでもってまた騙されたのか? そんなドジッ子な所もカワイイぜ、ミンメイちゃん!」
満面の笑みを浮かべてミンメイに抱きつき、朝宮連十郎(ea0789)が幸せそうに頬擦りした。
ミンメイは恥ずかしそうに頬を染めているが、まったく嫌がっている様子はない。
「この度はミンメイ書房の開店オメデトウゴザイマス。私に関わると破滅するトカ、実は騙した悪徳商人はマブダチだったトカ言う事は一切アリマセン。本当です、この子鹿のような純真無垢な瞳を見てクダサイ‥‥ウフ」
深々とミンメイに頭を下げ、クロウ・ブラッキーノ(ea0176)が怪しく瞳を輝かす。
クロウの背中には悪徳商人のオーラが漂っているが、今回の一件とはまったく無関係らしい。
‥‥多分。
「何となく見た事のあるような気がするアル‥‥。似たような顔をした兄弟とか、親子とか、いないアルか?」
胡散臭そうな表情を浮かべ、ミンメイがジト目でクロウを睨む。
「もしも関係があるんだったら、俺も黙っちゃいないぜ! ‥‥本当の事を話してくれ」
指の関節を鳴らしながら、穂狼がクロウに迫っていく。
「他人の空似だと思いマスよ。よく言うじゃアリマセンか。世の中には似たような顔をした人間が最低3人はいるって‥‥」
物凄いスピードで視線をそらし、クロウが乾いた笑いを響かせる。
「‥‥怪しいな。まっ、信じてやるよ」
クロウの視線を追いながら、穂狼が大きな溜息をつく。
「とにかくチラシを配っちまおうぜ。あんまりのんびりしていると、お客を逃がしちまうだろうから‥‥」
面倒臭そうな表情を浮かべ、リフィーティア・レリス(ea4927)がチラシを渡す。
チラシは粗悪な紙で作られており、デザインもやけに胡散臭い。
「オ〜〜ッ、これはまた‥‥奇妙奇天烈なデザイン! まるで悪の秘密結社の募集記事みたいだね」
ミンメイの作ったチラシを見つめ、ミヒャエル・ヤクゾーン(ea9399)が大袈裟に驚く。
「おいおい‥‥。これじゃ、せっかくの客が逃げてしまうぞ。よしっ! 我輩が見本を見せてやろう! こう言うものは、やっぱりインパクトが大事だからなっ! ぬおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
極太の筆を取り出し雄たけびを上げ、ゴルドワがチラシに魂を注ぎ込む。
チラシには『うまいめし、うまいさけ、かくやす!』と書かれており、今にもゴルドワの雄たけびが聞こえてきそうな文字である。
「何だか襲い掛かってきそうな文字だな。まぁ、これで何とかなるだろ。とりあえずチラシを配るときは愛想よくしてくれよ」
ゴルドワの仕上げたチラシを纏め、レリスが仲間達に配っていく。
ミンメイの店は歌って踊れる居酒屋であるため、その事を強調しなければならない。
「ウソのようなホントの話が聞きたければミンメイの店に行きな! 絶対に損はさせねぇぜ!」
『天下無双の旗』を持ち、穂狼が村人達にむかって声をかける。
村人達の中には興味を持った者もいたが、いまいちインパクトが足らないようだ。
「よしっ! それなら我輩に任せておけ!」
自信に満ちた表情を浮かべ、ゴルドワが自分の胸をポンと叩く。
ゴルドワはチラシの隅に穴を開けて紐で繋ぎ、屋根に上るとファイアバードで屋根から屋根へ飛び移り、空中からチラシを豪快にバラ撒いた。
途中でチラシが燃えてしまわないようにゴルドワが紐の先を掴んでいるが、勢いがあり過ぎてチラシの一部がメラメラと燃えてしまう。
「ぬおおおおおおおおおおお、一生の不覚ー!」
どんがらがっしゃん。
‥‥そしてゴルドワは沈黙した。
まるで流れ星のようにして転がり落ち‥‥。
「相変わらず無茶をするな。‥‥やり過ぎだぞ」
頭を抱えて呟きながら、穂狼がボソリとツッコミを入れる。
「あれってマズイんじゃないのか」
ゴルドワの落ちた方角を指差し、連十郎が大粒の汗を流す。
「‥‥長屋の屋根を直撃アルね」
驚いた様子で目を丸くさせ、ミンメイがプルプルと身体を震わせる。
「ま、まぁ‥‥、いい宣伝にはなっただろ。修理代は請求されそうだけど‥‥」
呆れた様子で頭を抱え、レリスがミンメイの肩をぽふりと叩く。
「うちとは無関係‥‥アルよ‥‥はははははっ‥‥」
烈火の如く怒り狂った住民達から逃れるようにして、ミンメイが小動物のような表情を浮かべて首を振る。
ゴルドワが店のチラシを配っていたため、言い逃れは出来ないのだが、ミンメイは涙目になって無関係である事を強調した。
「やっぱり用心棒とか必要じゃねえか。俺だったらタダでいいぜ、ミンメイちゃん。女の子の一人暮らしは何かと物騒だしな! 寝る場所とコイツらの餌代なら問題ない。俺が何とかするからさ」
本来の目的を気づかれないようにするため、連十郎が円らな瞳の柴犬を2匹抱き寄せる。
柴犬達はきゅいーんとした表情を浮かべ、ミンメイの乙女心をガッチリと掴む。
「えっちな事は駄目あるよ。とにかく今はチラシ配りに専念するアル‥‥」
顔を真っ赤に染めながら、ミンメイがコクンと頷いた。
ジャパンに来てから色々と勉強したためか、色の何たるかもだんだん理解して来たらしい。
「それじゃ! ショーの時間だよ!!」
次の瞬間、ミヒャエルがライトで光球を数個ほど作りだし、指でリズムを刻んで歌を歌い、立ち位置の手前からムーンウォークを始めると、素早く反転したあと立ち止り、右手で高々と天を指差し左手を股間へ持っていく。
「ポォォッ〜〜!」
一瞬の沈黙。
‥‥村人達が身構えた。
「オ〜〜ッ、なんて『ぐれ〜と』で『びゅ〜ちほ〜』なんだろう。皆、僕の踊りに魅了されてしまったんだね。なんて罪深いんだろう僕ってば‥‥」
恍惚とした表情を浮かべ、ミヒャエルが自分の才能に惚れる。
若干、村人達が引いているが、ミヒャエルが気にせずダンスを踊りだす。
「旦那サン‥‥、良いコが揃ってますョ。ウフ‥‥」
そんな中、クロウが男達を集めて何やら怪しい話を始めていた。
小悪魔チックな笑みを浮かべ‥‥。
●いよいよ開店、ミンメイ堂!
「‥‥高利貸しのお世話になっていると言う噂は本当ですか‥‥?」
店の開店準備を手伝いながら、嵯峨野夕紀(ea2724)がボソリと呟いた。
「ほ、本当アル‥‥」
気まずい様子で汗を流し、ミンメイが借用書を夕紀に渡す。
借用書には『黒の人』からミンメイがお金を借りた事になっており、べらぼうに高い利率がついていた。
「これって計算が間違ってますね。ほら‥‥、ここと‥‥ここ‥‥」
借用書をマジマジと見つめ、琴宮茜(ea2722)が気になる部分を指摘する。
「お、おお‥‥、これで利率が10分の1にっ!」
瞳をランランと輝かせ、ミンメイが茜に感謝した。
「それでも利率がこれだけありますから、毎月このくらいは返さないといけませんね。ちなみにこの利率だとギリギリ問題のないレベルなので、相手に文句を言う事は出来ませんが‥‥」
頭の中でソロバンをパチパチと弾き、茜が素早くミンメイに答えを返す。
「は、はううう‥‥」
魂の抜けた表情を浮かべ、ミンメイがテーブルに突っ伏し溜息をつく。
「まぁ、そんなに暗い顔をするな。せっかく店が出来たんだ。みんなで借金を返そうじゃないか」
ミンメイの肩をぽふりと叩き、阿武隈森(ea2657)が開店の準備をし始める。
「ほらほら、そんな顔ばかりしていたら、幸福が逃げてしまいますよ。私も金貸しの仕事をしていますから、きちんとして返済プランを立てておきますから‥‥」
苦笑いを浮かべながら、神楽聖歌(ea5062)が落ち込むミンメイを慰めた。
「そ、そうアルね。こんなに立派なお店を持てたんだから、大船に乗ったつもりで頑張るアル!」
滝のような涙を流し、ミンメイが拳をギュッと握り締める。
「ミンメイのため‥‥てるてる坊主‥‥自殺する?」
ミンメイを勇気づけるため、柊鴇輪(ea5897)がてるてる坊主を吊るしていく。
てるてる坊主はタセラリと垂れ下がっており、まるで首を吊っているようにも見えている。
「‥‥何だか不吉アルね」
どんよりとした空気を漂わせ、ミンメイがモロにヘコむ。
「落ち込み過ぎだよ、ミンメイちゃん〜☆ ほらほら、スマイル、スマイル〜☆」
ミンメイの頬をむにむにと引っ張り、郭梅花(ea0248)が無理矢理スマイルを作る。
「わ、分かったアル。それじゃ、開店の準備を始めるアルよ〜」
ブンブンと首を振って悪い雑念を吹き飛ばし、ミンメイが元気よく立ち上がって店の準備をし始めた。
「お品書きを見る限り、随分と無駄がありますね。赤字を出さないためにも、最初は少なめにしておきましょう」
注文頻度の高いものだけ書き写し、夕紀が新しいお品書きを作っていく。
全く注文がなかった場合、処分しなければならない食材が出るため、なるべく無駄になるものは省いておく必要がある。
「逆に注文頻度の低い料理は予約制にしておきましょう。これならどんなお客が来ても対応する事が出来ますし‥‥」
特別なお客にも対応出来るようにするため、茜が予約専用のお品書きも作っておく。
こちらは店に来たお客に配るため、紙の質は若干だが下げてある。
「まずは酒場の経営を安定させる事が先ですね」
今日の出費を計算し、聖歌がボソリと呟いた。
ミンメイには経営の才能がないため、このままでは赤字続きである。
「せっかく手に入れた店だ。とにかく地道に行くしかないな」
店の中に酒樽を運び込み、森が疲れた様子で汗を拭う。
森が用意した酒は人気の銘柄が多く、それほど強くないものに絞り込んである。
「そうアルね。高望みしたら自爆アル」
ようやく元気を取り戻したのか、ミンメイがテキパキと作業を進めていく。
「んじゃ、サクラ、ヤル」
血の染みた着物を身に纏い、鴇輪が野良犬達を連れて店を出る。
「ま、待つアル! そんな格好で店に入ったら、他のお客が寄り付かないアルよ」
鴇輪の腕をギュッと掴み、ミンメイがダラリと汗を流す。
「最近の流行、取り入れてみた」
まったく悪びれた様子もなく、鴇輪が野良犬達と一緒に『にへら』と笑う。
「‥‥色々な意味で賭けですね」
ある意味インパクトがあるため、茜がミンメイの判断を待つ。
「やっぱり駄目アル! お店の中で大人しくしているアルよ」
大粒の汗を浮かべながら、ミンメイが鴇輪をズルズルと引きずっていく。
「野良犬もついて来たようですね」
ピョンスカと蚤の跳ぶ野良犬達を指差し、夕紀がミンメイにツッコミをいれた。
「うひゃあああ、勘弁してくださいアル〜」
口からにゅるんと魂が抜け落ち、ミンメイが困った様子で悲鳴をあげる。
「初日から食中毒は勘弁してね。厨房を任された以上、衛生管理は大事だから‥‥」
茹で上がった空豆をテーブルの上に置き、梅花がクスクスと笑って厨房に戻っていく。
「わ、分かったアル〜。みんなもよろしくアルよ〜」
店の中をパタパタと走り、ミンメイがグルグルと目を回す。
「よっし、任せとけミンメイ。俺がこの店を江戸一番の居酒屋にしてやるからな」
そう言って森がミンメイの肩を力強く叩くのであった。