●リプレイ本文
●ミンメイ堂の危機
「ミンメイちゃん‥‥なんで、お金なんか借りたのよ? 困っているんだったら、あたし達が何とかしたのに‥‥」
真っ白に燃え尽きたミンメイを見つめ、郭梅花(ea0248)が苦笑いを浮かべて呟いた。
ミンメイ堂にあった金目のものはすべて持っていかれてしまったらしく、彼女の着ている服にも赤紙がペタンと張られている。
「まさにミンメイ堂の危機って奴だな! ミンメイには色々世話になってるから協力するぜ! それにしたって新鮮な魚とカワイイ女の子と美味い酒が揃ってるのに何で売れねぇんだ? ちょっと帳簿を見せてみろ。どれどれ‥‥ってオイ! これじゃ、返せる訳ねえだろ!」
目の前にあった帳簿をペラペラとめくり、鷹波穂狼(ea4141)が慌てた様子でミンメイを睨む。
帳簿には借金の返済記録も記されているのだが、10日に10割ほど返済しなくてはならないため借金を返すどころか増えている。
「これって明らかに高利貸しのやり口ですよね。しかも10日に10割なんて‥‥返せる訳がありません」
どんよりと落ち込むミンメイを見つめ、嵯峨野夕紀(ea2724)がなむなむと両手を合わす。
高利貸しの連中は言葉巧みにミンメイを騙し、契約書にサインさせた事が容易に想像できるだろう。
「それじゃ、こうしている間にも借金はどんどん膨らんでいく訳ですよね。‥‥彼らの持っている証文がある限り‥‥」
琴宮茜(ea2722)の何気ない言葉が、ミンメイの心にグサリッと刺さる。
‥‥後悔先に立たず。
ミンメイの脳裏に覚えたての言葉が過ぎる。
「そんなに落ち込むなって! まだ、この店が残っているだろ」
落ち込むミンメイを慰め、リフィーティア・レリス(ea4927)が気まずい様子で汗を流す。
「とにかく店を盛り上げるか。このまま落ち込んでいても仕方ないだろ」
苦笑いを浮かべながら、阿武隈森(ea2657)がミンメイの背中をぽんと叩く。
「そ、そうアルね。が、頑張るアル」
瞳に浮かんだ涙を拭い、ミンメイがコクンと頷き拳を握る。
「それじゃ、早速準備しよっ♪」
ミンメイのまわりを飛び回り、シュテファーニ・ベルンシュタイン(ea2605)がニコリと微笑んだ。
店のものはほとんど持っていかれてしまったが、仲間達が色々と持ってきてくれたため、あるものだけで何とかやっていけそうだ。
「今の季節だと‥‥やっぱり枝豆とか冷や奴‥‥後は川魚の塩焼きかなあ? 鰻って言うのもあるけど、どうやって調理をしよう‥‥」
持参した鰻を調理場にもって行き、郭梅花(ea0248)が困った様子で腕を組む。
「とりあえず上手く裂いて焼いてみようかな‥‥うわっ! 脂がすごい! これは‥‥しっかり脂を落としながら焼かないと、くどくて食べられないわね‥‥」
焼きあがった鰻を見つめ、梅花が大きな溜息をつく。
もう少し工夫を施せばうまくいきそうな感じだが、そうするためには少し時間がかかりそうな雰囲気である。
「なんつーか、タレとかつけたら美味そうだな。でも醤油じゃ‥‥‥‥、何か一味足らないか」
鰻を一口サイズに切り分け、穂狼が色々な味を試してみた。
どれも不味くはないが、イマイチである。
「残念ですが他の方法を考えなくてはなりませんね。このままでは料理が完成する前に‥‥店が‥‥」
給仕姿で準備を始め、夕紀がさらりと呟いた。
「ば、馬鹿っ! せっかく立ち直ったミンメイにトドメをさす気か!」
大粒の汗を浮かべながら、レリスが慌てて口を塞ぐ。
「残念ですが‥‥手遅れです‥‥」
落ち込むミンメイを指差し、茜がレリスの顔を見る。
「‥‥遅かったか」
ミンメイの背中をぽふりと叩き、レリスが気まずい様子で頬を掻く。
「とにかく‥‥だ! 一気に客を獲得するためにも『3日間限定、酒飲み放題』イベントを企画し実行しようと思っている。ミンメイ堂の酒は全て無料で飲み放題。――但し、自分に飲み比べで勝った客のみ、という制限付き。負けたら飲んだ分だけ支払ってもらう方式って、どうだ?」
自分の企画を説明しながら、森がニコリと微笑んだ。
「こうなったらワタシも覚悟を決めたアル‥‥。死ぬ気で‥‥、いや、生まれ変わったつもりで頑張るアル!」
拳をギュッと握り締め、ミンメイが瞳をキラリッと輝かせる。
「それじゃ、私はミンメイ堂を盛り上げる歌を作るね」
優しく竪琴を奏でながら、シュテファーニがミンメイの胸に擦り寄っていく。
「後は良く冷えたお酒を出せば完璧ね。あたいは調理場に篭って料理を作るから、間違っても邪魔をしないでね」
愛用の包丁を握り締め、梅花が仲間達に警告した。
既に店が開いているため、のんびりしてはいられない。
「んじゃ、夏らしく店を盛り上げてみっか!」
クーリングで作った氷を刀でスライスし、穂狼が店先に客を集めて器に盛った氷に甘葛の汁かけて売っていく。
「もう少し刺激が必要だな。せっかくだからミンメイはこれを着てくれるか。店がなくなるかどうかの瀬戸際だ。恥ずかしくなんてないだろ!」
そう言って穂狼が半被を投げる。
「まさか裸に半被アルか!?」
恥ずかしそうに頬を染め、ミンメイがゴクリと唾を飲み込んだ。
「さすがにそこまでやれとは言わねえよ! 俺と同じような格好をすればいいだけさ」
苦笑いを浮かべながら、穂狼が褌を手渡し微笑んだ。
「店のため‥‥と言う訳ですね。‥‥頑張りましょう」
ミンメイの肩をぽふりと叩き、夕紀がコクンと頷いた。
「マ、マジあるか!? わ‥‥、分かったアル。これもお店のためアルね。あははははは‥‥」
青ざめた表情を浮かべながら、ミンメイがダラリと汗を流す。
「あんまり無理するなよ。そんな事をしなくたって‥‥、オイ! まさか俺に女装しろって言うんじゃないだろうな。‥‥なんだよ、その目は。勘弁してくれよ」
仲間達が満面の笑みを浮かべて近づいてきたため、レリスが身の危険を感じてジリジリと後ろに下がっていく。
「諦めましょう。‥‥運命です」
可愛らしい衣装を用意し、茜がレリスの逃げ道を塞ぐ。
そして‥‥しばらくした後、悲鳴が響く。
‥‥レリスはとても可愛くなった。
「それじゃ、借金を返すために頑張るか。もちろん、報酬はいらないぜ。その分、借金の返済に充ててくれ」
最初にもらった報酬を返し、森がミンメイの肩を叩く。
「そ、それは駄目アル! ただでさえ色々と迷惑をかけているのに、これでタダ働きなんてさせたら、一生トラウマになっちゃうアル。これは少ないけれど感謝の気持ち。これだけでも受け取って欲しいアル」
激しく首を横に振り、ミンメイが森に報酬を手渡した。
感謝の気持ちをこめながら‥‥。
●取り立て屋の屋敷
「おおっ、何という事だ! まさかこんな大ピンチになっていようとは! ここは我輩も一肌脱ごうではないか!!」
取り立て屋の住む屋敷に踏み込むため、ゴルドワ・バルバリオン(ea3582)が法螺貝を吹き鳴らす。
取り立て屋の屋敷はミンメイから搾り取った金で改築でもしたのか、やけに豪華な飾り物が門の前に置かれている。
「しかも俺達が無報酬で働くって言うのを断ってまで渡してくれた‥‥この報酬‥‥。無駄にする訳には行かないよな」
一緒に連れてきていた柴犬の頭を撫で、朝宮連十郎(ea0789)が涙を拭う。
報酬を手渡した時に見せたミンメイの表情が忘れられず、連十郎が思い出のアルバムの中にしまって大事にする。
「返済記録を見る限り、借金はきちんと返していますね。10日に10割の利率でなければ、とっくに返済しています。それどころか借りたお金の数倍‥‥いや、数十倍は払ってますね」
帳場の写しをペラペラめくり、神楽聖歌(ea5062)が溜息をつく。
「こういう時はガツンと‥‥揉み手で行くといい‥‥」
話している途中で気配を感じ、柊鴇輪(ea5897)が少し逃げ腰になる。
鴇輪は屋敷に忍び込み、屋根裏に潜んでいるつもりだったのだが、途中で腹が減って摘み食いしていた所を取り立て屋達に見つかり、酷い目に遭わされていたので色々と警戒しているらしい。
そのため屋敷から逃げる事が出来たのも、ほとんど奇跡と言えるだろう。
「やっぱり暴力はイケませんネ。何事も平和的に解決せねば‥‥」
ゲッソリ痩せこけた家畜犬・ヤプワを引き連れ、クロウ・ブラッキーノ(ea0176)が屋敷の扉をドンドンと叩く。
その間もヤプワが息絶えようとしているが、気合と根性で何とかその場に立っている。
「なんじゃい、わりゃあっ!」
扉がぶっ壊れるほどの勢いで開き、ようやく取り立て屋の男達が顔を出す。
それと同時にヤプワの魂がひょろりと抜け、楽しそうに空を飛びまわる。
「ぬおっ! これは一大事っ!」
すぐさまヤプワの魂を掴み取り、ゴルドワが慣れた手つきで元に戻す。
「一体、何をやっているんだ、お前達‥‥」
ゴルドワとヤプワのやり取りが分からず、キョトンとする取り立て屋達。
一見するとゴルドワが一人芝居をしていたようにしか見えないため、取り立て屋達にとっては何が何だか分からない。
「そんなに警戒しないでくだサイ。今回の交渉に来ただけですから」
やけに爽やかな表情を浮かべ、クロウが取り立て屋達の前に立つ。
「‥‥交渉だと?」
取り立て屋の男は胡散臭そうにクロウを見つめ、不機嫌な様子でフンと鼻を鳴らす。
「‥‥ソウです。このヤプワは現在、立派な燻製肉になる為に頑張らせているんですが、これを利子として献上しますから、もう少しだけミンメイ堂の取り立てを遅らせてはいただけないでしょうか?」
いまにも果てそうなヤプワを差し出し、クロウが取り立て屋の耳元で囁いた。
「‥‥この犬とか? 断るっ!」
ヤプワの首根っこをムンズと掴み、取り立て屋の男がニヤリと笑って放り投げる。
「負けませんヨ。アタックですっ!」
すぐさまヤプワに狙いを定め、クロウが華麗に飛び上がり、見事なアタックを決めて着地した。
「ぐはっ‥‥、やるな」
思わぬ反撃を食らって後ろに吹っ飛び、取り立て屋の男が血反吐を吐いて気絶する。
「こ、殺す気ですか!」
慌てた様子でヤプワを抱きしめ、聖歌がジロリとクロウを睨む。
「すみまセン。つい‥‥」
申し訳なさそうな表情を浮かべ、クロウが気まずい様子で頭を掻く。
「てめえら、やっぱり‥‥、ミンメイに雇われた冒険者だな。よく見りゃ、見覚えのある奴もいるしな」
いやらしい笑みを浮かべながら、取り立て屋の親玉らしき男が鴇輪の胸倉を掴む。
「あの時の‥‥変態か‥‥。元気そうで‥‥何よりだな‥‥」
取り立て屋の男に身体を揺さぶられ、鴇輪の頭がクラクラ揺らす。
「てめえのせいで俺の息子は‥‥ううっ‥‥」
屋敷で何か遭ったのか、取り立て屋の男が涙を拭う。
「悪い息子に‥‥お仕置きした‥‥。ばっちり‥‥だ‥‥」
勝ち誇った様子で胸を張り、鴇輪が蹴りを放って後ろに下がる。
「ぐおっ‥‥、イテェ! ‥‥畜生。そんな事をしてもいいのか。こっちにはこういうものがあるんだぜ」
懐から紙切れを取り出し、取り立て屋の男がニヤリと笑う。
「まさか、それは‥‥!?」
驚いた様子で声を上げ、聖歌がゴクリと唾を飲み込んだ。
「これが欲しいんだろ。だったら大人しくしやがれ!」
聖歌達の前で証文をチラつかせ、取り立て屋の男が怒鳴りつける。
「どうせミンメイ殿の金勘定の下手さを良い事に、法外な利子を取って私服を肥やしているのだろ。それで荒事になるなら、喜んで相手をしてやろう!」
全く動揺する事なく、ゴルドワが取り立て屋達の前に立つ。
「いい度胸じゃないか。これさえあれば‥‥ん?」
いつの間にか証文が褌にすりかえられていたため、取り立て屋の男が大粒の汗を流す。
「これ‥‥証拠‥‥。奉行所に持っていく。お前達‥‥終わり‥‥」
取り立て屋の男から証文を奪い取り、鴇輪が塀の上まで逃げていく。
「こらっ! 待ちやがれ!」
褌を握り締めながら、取り立て屋の男が拳をあげる。
「おっと、待ちな! お前の相手はこの俺だっ! ちっ、俺が間に合えば、取り立て屋ごとき一捻りだったのによ! ??何にせよ、俺のミンメイちゃんを苛める奴ァ、容赦しねぇ!」
強引に取り立て屋を引きずり下ろし、連十郎が指の関節をポキポキと鳴らす。
「俺を怒らせたら怖いぞ。おい、お前ら‥‥って、いねぇ!」
すぐさま手下にむかって声をかけ、取り立て屋の男が青ざめる。
「何でも急用とかで‥‥、みんなお帰りになりましたヨ。ウフッ」
爽やかな笑みを浮かべ、クロウが優しくキスをした。
「寄って集って卑怯だぞ!」
貞操の危険を感じ、取り立て屋の男が文句を言う。
「先に仕掛けてきたのはそちらですから‥‥。体を売れ‥‥気に入らない台詞ですね」
冷たい口調で答えを返し、聖歌が逃げ道を塞いでジロリと睨む。
「このまま奉行所に行くか。取り過ぎた分の利息を返すか、どちらか好きな方を選ぶといい。どちらを選んでも我輩は文句を言わん」
厳しい表情を浮かべながら、ゴルドワが腕を組んでその場に座る。
「ぶ、奉行所だけは勘弁してくれ! 今まで余計に取っていた利息をすべて返すからっ!」
自分の手下がいなくなってしまったため、取り立て屋の男が弱気な態度で答えを返す。
「だったら耳を揃えて返しやがれっ! ぶ・ぎょ・う・しょ・に行きたくなかったらな!」
不機嫌な表情を浮かべながら、連十郎が取り立て屋の男を怒鳴りつける。
その後、連十郎達によって余分に取られた利息がすべて回収され、冬の時代が訪れていたミンメイの懐にもようやく夏がやって来た。
みんなで旅行が出来るほど‥‥。