●リプレイ本文
●ミンメイ
「しふしふですよ〜☆ 今年も一年お疲れ様ですよ〜☆」
ごるびーと一緒にイカを齧りながら、ベル・ベル(ea0946)が乾杯の音頭を取る。
於通の取り計らいで料亭を借りる事が出来たため、ベル達は全く懐が痛まず忘年会を開く事になった。
「みんなでパァーッとやるアル! 幾ら食べてもタダあるよぉ〜!」
瞳をランランと輝かせながら、ミンメイが幸せそうに料理を食べる。
今日まで食費を切り詰めて来たため、来年の分まで食べるつもりでいるらしい。
「‥‥忘年会か。まあ、年末くらいはハメを外してもいいだろう‥‥。妙にスポンサーの意図が気になっているんだが、過度に恩を着せてくる事がなきゃ良しとするか」
お土産のスルメをごるびーに渡し、龍深城我斬(ea0031)が疲れた様子で溜息をつく。
色々な意味で嫌な予感はしているが、このまま何も手をつけずにいても、同じ結果が待っているような気がするため、あまり深くは考えない事にした。
「た、確かにスポンサーの意図は気になるアルね。何だか嫌な予感がしている‥‥アル」
青ざめた表情を浮かべながら、ミンメイが乾いた笑いを響かせる。
「こんな事で挫けていては駄目だぞ、ミンメイ殿! 早く立ち直って、ミンメイ堂を経ち直さねば‥‥。むっ、ミンメイ殿! 大丈夫か!?」
『ミンメイ堂』という言葉を聞いた瞬間、ミンメイの魂がひょろりと抜けたため、ゴルドワ・バルバリオン(ea3582)がハッとした表情を浮かべ、彼女の身体を前後に揺らす。
「あらら‥‥、心の傷に触れちゃったようね。こういう時は美味しい料理でも作って、ミンメイちゃんに元気を出してもらおうかしら☆」
苦笑いを浮かべて袖をまくり、郭梅花(ea0248)が魚河岸に言って仕入れた魚を捌くため、愛用の包丁を持参し調理場に向かう。
「まー、そんなに落ち込むなって、ミンメイちゃん! 梅花の作った美味い料理を食べつつ、飲んで騒いで嫌な事、悪い事、全部吹っ飛ばしちまおうぜ!」
ちゃっかりミンメイの肩を抱き、朝宮連十郎(ea0789)が酒を飲む。
ミンメイはしばらくボ〜ッとしていたが、連十郎の気配に気づいて顔を真っ赤にしながら離れていく。
「ありゃ!? ミンメイちゃん! 別に恥ずかしがる事は無いんだぜ! お、おい!」
どんどん離れていくミンメイに驚き、連十郎が慌てた様子で右手を伸ばす。
「だ、駄目アル。そういうのは旦那さんになる人限定アル。男の人に触れたら妊娠しちゃうアルよ」
やけに連十郎を警戒しながら、ミンメイが身体をガタガタと震わせた。
「だ、誰がそんな事を‥‥」
唖然とした表情を浮かべ、連十郎がダラリと汗を流す。
「冗談のつもりで言ったんですが、まさか本当に信じてしまうとは‥‥」
連十郎の杯に並々と酒を注ぎ、神楽聖歌(ea5062)が気まずくコホンと咳をした。
「お前か犯人は‥‥」
飲んでいた酒を吐き捨て、連十郎が拳をぶるりと震わせる。
「きゃ〜、ですよ〜」
壁まで聖歌が逃げていったため、ベルも面白がって後を追う。
「お、おい! みんなで逃げるな! 余計にミンメイちゃんが怖がるだろ!」
慌てた様子で立ち上がり、連十郎がベル達にむかってツッコミを入れる。
「まぁ、落ち着け。ごるびーまで怯えているぞ」
連十郎の肩をぽふりと叩き、我斬が彼の杯に並々と酒を注ぐ。
「がっはっはっ! まぁ、そんなに落ち込むな。わしが美味い鍋を御馳走してやろう」
豪快な笑みを浮かべながら、ゴルドワがその場で鍋を準備する。
「あら? これから鍋? だったらあたしも手伝うわよ☆」
刺身の盛り合わせをポンと置き、梅花がゴルドワの鍋を手伝おうとした。
ゴルドワの鍋は得体の知れないものが入っており、手伝うつもりでいた梅花の表情も笑顔のまま凍りついている。
「おぉ、よく見ればごるびー殿ではないか。餌を貰っていないせいか、ひょろひょろだな!?」
ごるびーの耳から魂が抜け出そうになっていたため、ゴルドワがムンズと掴んで魂の抜けかけたミンメイを睨む。
(「‥‥この魂をあっち(ミンメイ)の身体に押し込み、あっちの魂をこっち(ごるびー)の身体に詰め込むとどうなるのだろうか!?」)
瞳をキュピィーンと輝かせ、ゴルドワが悪巧みをし始める。
「妙な事を考えちゃ駄目だよ。色々な意味で怖いから‥‥」
苦笑いを浮かべながら、梅花がゴルドワにむかってツッコミを入れた。
仮に成功したとしても面倒になる事は間違いないので、ツッコミを入れてゴルドワの悪巧みを未然に防いでおく。
「ごるびーさん、今日はたっぷり食べてくださいね。‥‥次は春になるまで食べられないのですから」
ごるびーの頭をヨシヨシと撫でながら、志乃守乱雪(ea5557)がニコリと微笑んだ。
「‥‥きゅ!」
キョトンとした表情を浮かべ、ごるびーがスルメをかじる。
どうやらごるびーは冬眠を経験した事がないらしく、乱雪の言葉を別の意味(貧乏生活)で受け取ってしまったらしい。
「それにしても色々ありましたよね、この一年‥‥」
差し入れに持ってきた酒を振舞い、聖歌がしみじみとした表情を浮かべる。
(「‥‥ふむ今年も色々と在ったなあ、那須で鬼退治が終わったと思った矢先に九尾の復活、十矢隊の解散‥‥ミンメイのそれとはまた趣が違うが、ろくな事は無かったな。九尾とは今年中に退治したかったが、こちらからは動けないと来たもんだ。‥‥今は待つしかねえか。その内来る機会を逃さんためにもな)」
ひとりで思い出に浸りながら、我斬がのんびりと酒を飲む。
「よっしゃ! 景気づけに宴会芸でも披露するか! 準備はいいな? 二匹とも!」
宴会場の雰囲気を盛り上げるため、連十郎が飼い犬の柴太郎と柴次郎に玉乗りをさせる。
フラフラとしながら、必死で玉乗りをする二匹。
ごるびーも拳を握ってスルメをかじり、二匹の玉乗りに釘付けだ。
「そういえば朝宮さん、先日の武闘大会を見ましたよ。惜しかった‥‥ですね‥‥?」
含みのある笑みを浮かべ、乱雪が連十郎の横に座る。
「な、何の事かな?」
気まずい様子で視線を逸らし、連十郎がコホンと咳をした。
「武闘大会で何かあったアルか?」
キョトンとした表情を浮かべ、ミンメイが不思議そうに首を傾げる。
「‥‥ちょっとダンスを少々な。まぁ、いいじゃねえか、そんな事‥‥」
わざとらしいボケをかまし、連十郎がむりやり話題を変えようとした。
「それがですね。準決勝までは腕っ節のお強いところを見せていたのですが、決勝戦で当たった華国の女性に色目を使って、しばらくじっと鞭で打たれていまして‥‥。もちろんすぐに審判が入って試合が止まったのですが‥‥」
横目で連十郎の顔を見つめ、乱雪が楽しそうに話をする。
「‥‥ほう、連十朗。武闘大会の決勝で負けたか。‥‥しかもかすり傷を負っただけでかい。‥‥まぁ、毒蛇手はその辺が厄介だが、もっと軽装備なら受け切れたろうに」
武闘大会の話題に耳を傾け、我斬がちびちびと酒を飲む。
「結論としては、連十郎は変態と言う事アルね」
連十郎から貰った招き猫を抱きしめ、ミンメイがジト目で怪しくニヤリと笑う。
「ご、誤解だよ、ミンメイちゃん! あれは未遂‥‥、いやいや、言葉のアヤって奴で別にセクハラしようとした訳じゃないから信じてお願いっ! 俺にはミンメイちゃんだけだからっ! そうだ俺はミンメイちゃんを愛してるんだっ!」
必死になって言い訳をしながら、連十郎がいきなりミンメイに告白した。
「ひ、卑怯アル! 不意打ちは暗殺者のする事アルよ!」
恥ずかしそうに頬を染め、ミンメイが大きく頬を膨らませる。
「まぁ、確かにミンメイちゃんのハートを狙うって意味じゃ、暗殺者って‥‥違う、違う! 誤解だ、ミンメイちゃん!」
冗談まじりに微笑みながら、連十郎がハッとした表情を浮かべて汗を流す。
「やっぱり暗殺者アルか!」
連十郎をポカスカと殴り、ミンメイがそっぽをむく。
「はやや〜☆ 一体、どうしたんですか〜?」
桜色に頬を染め、ベルがフラフラと飛んできた。
どうやら酒の匂いを嗅いでいるうちに、酔っ払ってしまったらしい。
「何だか身体が熱いですよ〜」
惚けた表情を浮かべ、ベルが服を脱いでいく。
「だ、誰かベルちゃんを止めるアル〜!」
そして、ミンメイの悲鳴が宴会場に響くのだった。
●清十郎
「それにしてもいろいろありましたね‥‥。ミンメイ様も随分と災難に遭われましたが、来年はいい年でありますように‥‥」
今年の出来事を思い出しながら、嵯峨野夕紀(ea2724)がミンメイの幸せを祈って両手を合わす。
宴会場の中心には清十郎が亀甲縛りのまま転がされ、まるで花瓶のようにして口に花を銜えている。
「お、おい! わしの事は無視かいっ!」
大粒の涙を浮かべながら、清十郎が口に咥えた花を吐く。
「そんな事を言っても身体は正直ですね。何をそんなに興奮しているんですか?」
わざと清十郎の事を辱め、瀬戸喪(ea0443)がニコリと微笑んだ。
特に清十郎の身体に変化はないのだが、喪の言葉で明らかに動揺している様子である。
「な、な、何を言っているのじゃ! わしは何も‥‥うぐっ」
縛られたままのため、身体の状態が確認できず、清十郎が気まずい様子で視線を逸らす。
「‥‥別に隠す必要はありませんよ。清十郎さんの事なら誰よりも知っているつもりですから‥‥ね」
含みのある笑みを浮かべながら、喪が清十郎の身体に指を這わせていく。
「やめ‥‥やめるのじゃ!」
恥ずかしそうに身体を仰け反らせ、清十郎が顔を真っ赤にしながら首を振る。
「止めるも何も‥‥嫌がっていないようですが‥‥?」
服の中に指を滑りこませながら、喪が清十郎を見つめてクスクスと笑う。
「お、おい、夕紀! お前はわしを助けようとは思わんのか! ‥‥って言うか助けてくれ! 頼む! お願いしますから!」
不機嫌な表情を浮かべて夕紀を叱りつけた後、清十郎が掌を返したかのように助けて欲しいと懇願した。
「‥‥そんな野暮な。私だってそのくらい分かります。嫌よ、嫌よ、も好きのうち、ですね」
清十郎にツッコミを入れ、夕紀が黙々と料理を食べる。
「うぐっ‥‥」
言葉に詰まる清十郎。
‥‥どうやら返す言葉がないらしい。
「於通さんだって、それが分かっていたから、このような嗜好の宴会を用意してくれたのですよ。楽しまなくっちゃ損じゃないですか♪」
縄のラインを指でなぞり、喪が爽やかに答えを返す。
「‥‥わしは全然、楽しくないぞ」
恨めしそうな表情を浮かべ、清十郎がブツブツと文句を言う。
「随分とお喋りな花瓶ですね。漢は寡黙な方が好まれますよ」
畳に転がっていた切り花を拾い、喪がジリジリと迫っていく。
「お、おい、それって、まさか‥‥。ぎゃあああああああああ!」
そして、清十郎の悲鳴が宴会場に響くのだった。
色々な意味で‥‥断末魔。
●於通
「高級な食材に‥‥最高の料理人‥‥、しかも食べる場所が立派な料亭と来ているでござる‥‥。於通殿には何もしなくていいと言われているでござるが‥‥、やっぱり腕がウズウズとするでござるな」
悶々とした表情を浮かべながら、沖鷹又三郎(ea5927)が拳をギュッと握り締める。
宴会場には刺身の盛り合わせなどが届いているのだが、於通から何もしなくていいと言われているため、ストレスばかりが溜まってしまい身体がウズウズしているようだ。
「そんなに畏まらなくてもいいんじゃないか? 今日は料理人として来ている訳じゃないんだし‥‥、楽しんだっていいと思うぞ?」
美味い料理を食べて舌鼓を打ちながら、リフィーティア・レリス(ea4927)が又三郎の肩を抱く。
何もかも綺麗さっぱり忘れるつもりでいるため、於通の遠慮する事なく料理をバクバクと食べている。
「好きなだけ食べても構わないのよ。全部、私の奢りだから‥‥。せっかく用意した料理を残されても悲しいし、遠慮なく‥‥ね」
色気のある表情を浮かべ、於通が又三郎に擦り寄った。
「ううっ‥‥、それは分かっているつもりでござるが‥‥。やっぱり調理がしたいのでござる。別に料理の味が悪いという訳ではござらんが‥‥。料理人としての腕が唸るのでござる!」
とうとう我慢する事が出来なくなったため、又三郎が自前の包丁を取り出し調理場にむかう。
「これから始まるようだな。料理人同士の戦いが‥‥」
険しい表情を浮かべながら、レイナス・フォルスティン(ea9885)が酒を飲む。
‥‥料亭の料理人としてのプライドを懸けた戦い。
その勝負に挑むのは、もちろん又三郎自身。
ミンメイ流に例えれば『吃珍・殺死阿武』。
目を閉じれば血沸き肉踊る壮絶なバトルが容易に浮かぶ。
「どうせ戦いを繰り広げるのなら、ここでやって欲しいよな? 調理場でやられても、どちらが勝ったのか分かりづらいし、負けた方の料理人がそのまま料理として出されても怖いだろ?」
嫌な予感が脳裏を過ぎり、レリスが乾いた笑いを響かせる。
「確かにここの料理人は、この仕事をやる前は殺し屋をしていたわ。狙った獲物をバラバラに切り刻む事から『死の料理人』と言われていたほどよ。自分に楯突くヤツには、死を‥‥。これが合言葉のようだったわ」
まわりの様子を気にしながら、於通がコソコソと喋りだす。
誰かに聞かれてしまってはマズイのか、やけに辺りを気にしている。
「面白い経緯の持ち主だな。‥‥というか大丈夫なのか、この料理?」
料理を食べる手が止まり、レイナスがダラリと汗を流す。
料理の味は最高だが、色々な意味で気になってしまう。
「お待たせしましたでござるっ! 最高の料理が出来ました故、冷めぬうちにお召し上がりくだされ」
満面の笑みを浮かべながら、又三郎が手作りの料理を運んでくる。
「うわっと! お、驚かせるなよっ!」
驚いた様子で飛び上がり、レイナスが心臓をドキドキとさせた。
「まさか、勝ったのか? ここの料理人と戦って?」
戦いの結果が気になったため、レリスが恐る恐る聞いてみる。
「いやぁ、物分りのいい方で助かったでござる。料理に対する熱意を語ったら、喜んで調理場を提供してくれたでござるよ」
ホッとした様子で微笑みながら、又三郎が調理場での出来事を語っていく。
唖然とした表情を浮かべるレリス達。
又三郎の笑みとは対照的に、レリス達は引きつった笑みを浮かべている。
「こ、殺し屋に認められた料理人って一体‥‥」
又三郎の顔をマジマジと見つめ、レイナスがボソリと呟いた。
「そ、それよりも夜道に気をつけた方がいいんじゃないのか? 色々な意味で‥‥」
於通が話していた事を思い出し、レリスがハッとした表情を浮かべて辺りを睨む。
「それもそうね。あはははは‥‥」
レリスの言葉を理解し、於通が気まずく視線を逸らす。
そして宴会場を乾いた笑いが包むのだった。
ただひとりを除いては‥‥。