【黙示録】目指すのなら荒野がいい

■キャンペーンシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:29 G 32 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月10日〜02月01日

リプレイ公開日:2009年01月18日

●オープニング

『一面の白い鳥の羽が降り注ぐ下、このほこらが褐色の光と共に砕け散る夢であった。そして、女性らしき声で、新たな時代に新たな試練が訪れる、下の門が開かれる心せよ』
 これが高尾山の大天狗“大山伯耆坊(たいぜんほうきぼう)”が去年見た夢であった。それらの解釈は『天使』の類が打ち倒され、前後はどうあれ祠──天狗の隠れ里奥深くに座する、『荒神』黄竜の目覚める事への警告だというものであった。

 一方で、黄竜、大山津見神(おおやまつみのかみ)を封印している、魔法円には古代魔法語で下記の門限が刻まれていた。少なくとも古事記以前に作られた品である。
 文句は以下の通り。
『風の司、級長津彦が、ここに大山津見神を戒める。大地の司、竜脈の守護者。大いなる眠りに微睡め。
 千年の年を経る内に精霊の荒御魂は地に還らん。千年の時を隔てぬ内は大気の精よ、理に逆らえども、大地を押さえよ。大和の守護者を配し、神狩りに備えん。
 黄竜よ、汝の怒りは正当なり。されど伝説は終わり、歴史が刻まれん。神も魔も等しく、光と闇の狭間に消えゆかん。人の時代が始まりし時は我らは既に消えゆく定めなり。故に重ねて言う、汝に罪無し。
 我が神霊がこの地を守り、汝の眠りを永久なる守護者として守らん。我を呼び起こす事なかれ。我が目覚めし時、千年の眠りを待たずして、戒めは消えゆかん。更に重ねて語る、汝に罪無し。人に罪在り』

 先日の下級デビル『羅刹』が三桁の数という、明らかに凶兆と呼べる大進撃があり、冒険者たちの活躍によって討ち取れていった。
 とはいえ、羅刹は詰まる所下級デビル。これが群れを成したとしても、腕の立つ冒険者の前には鎧袖一触。
 しかし、霊夢の解釈などで、冒険者たちに考えがあるらしい。今はまだまとまっていないが、年の明けた今となれば、一区切りついたであろう。
 大山伯耆坊は、少年修験者の体をしている、鴉天狗の十郎坊に江戸の冒険者ギルドにこのふたつの事項についての解釈を出来る人材。
 そして、デビルと深いつながりがあるらしい結社、皇虎宝団が攻め来る、その迎撃にも人手を集める様、指示を出した。この忍者を使い捨てにする集団はワンパターンだが、いつ足下をすくわれるか判ったものではない。
 十郎坊は江戸へと足を向けた。
 これが冒険の始まりである。
 

●今回の参加者

 ea3597 日向 大輝(24歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb4803 シェリル・オレアリス(53歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 eb5540 大沼 一成(63歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ec0128 マグナス・ダイモス(29歳・♂・パラディン・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ec2493 清原 静馬(26歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 時は風雲急を告げる睦月。所は高尾山の天狗の隠里。
 集いし英雄、女傑達は大山伯耆坊に向き合う。精気溢れるこの人妖が、昨年見た夢の解釈の思案に困り、江戸の冒険者ギルドから集い集めた面々であった。
 清原静馬(ec2493)が切りだす。
「年も改まった事ですし、面子が変われば解釈も変わるかもしれません。
 年経た大天狗に霊夢を見せる存在など片手で数える程しかいないはず」
 根拠はない。しかし、静馬は言い切った。
「『女性らしき声で』となればセーラ神、まあ仏教では『弥勒菩薩』ジーザス教で言う所なら『聖なる母』で決まりでしょう。
 また『一面の白い鳥の羽が降り注ぐ下』とありますが。セーラ神絡みで白い鳥の羽を持つ存在はエンジェルです。
 何らかの形でエンジェルが事態に介入してくる暗示でしょうか」
 疑問に疑問系で応えられても正直困る。
「『褐色の光』はシェリルさんの考え──
 ここで静馬はシェリル・オレアリス(eb4803)の方を見やる。年相応に見えないシェリルが静馬に目配せして続きを促す。
「──通り、地の精霊魔法の発動する時に伴うのと同じ性質の発光現象でしょう。
 若輩者とはいえ一応自分自身が精霊魔法の使い手であるのに思い至らなかったのは恥ずかしいかぎりです。この地が黄竜を封じている事を考え合わせると、こう考えるのが自然でしょう。『褐色の光』は黄竜の復活を示しています。
 この霊夢にはデビルを暗示させる要素は無いようです。デビルに関する警告ではなく、セーラ神による大山伯耆坊に対しての宣戦布告とみなす事もできます。黄竜はデビルではなくエンジェルの手で解放され祠が崩壊する。そして、黄竜解放の影響で地獄の門が開かれる」
「で、弥勒菩薩は何故、地獄の門を開こうとする──?」
 沈黙する静馬に代わってマグナス・ダイモス(ec0128)が重々しく口を開く。
 山に籠もっている大天狗さえ存在を知られている、究極の正義の執行者『パラディン』の弁である。
 その重み値千金。
「非常に難解なお告げと碑文ですが再解釈を行います。
 大山伯耆坊が見たという、夢のお告げは、戦乱が激化し天の意思が届かぬ時代、地に嘆き、苦しみの負の念が溜まり、地の精霊力が乱れ、カオスに近づき、地獄門が開かれる時代、それを食い止める為の試練が下される。
 その試練を潜り抜け、ほこらの崩壊を食い止めよと意味」
 ほこらの崩壊を、静馬は神々の意図であると解釈し、マグナスは試練の失敗と判じた。この差は大きい。
「魔法円は、地の精霊力は、風の精霊力より上位に当たる筈が、理を覆し風が地を封じる封印。故に反逆する物を封じた封印に近く、影響を受けるので神や魔の復活による干渉は、封印を弱める結果になる──時代を過去に戻さず、人の時代を続け、眠りし神を起こす事を禁じる。
 全ては人の業こそ、封印を弱める最大の毒。
 戦乱を鎮め、人の世の業が神の怒りを呼び覚ます事を防ぐべしと解釈します。その為なら何度でも剣をとりましょう。俺に出来るのはそれだけ。明日に続くものを信じ、阿修羅神の高みを目指すのみです」
「翻訳をした者の責として一言言わせてもらおう」
 正月太り? の身を揺すり大沼一成(eb5540)が言の穂を継ぐ。
「気になる『千年』と言うの単語。それは単なる比喩であろうよ。千年を長期間と読み替えても意味は通じるじゃろ?
 要は黄竜の怒りが浄化されるまで封印を維持せよという事じゃ。
 むしろ気になるのは『大和の守護者を配し、神狩りに備えん』の神狩りと、大和の守護者の方じゃ。
 神狩りとは皇虎宝団を指してるんじゃろうか? つまり元々神、今風に言えば高位の精霊を狩る集団がジャパンに存在していたのじゃろうか」
 文語体成立以前のジャパンでは、人知を超えた存在。英傑、精霊、悪魔、大妖、不死者などが、まとめて神と称されていたようだ。
 現に級長津彦は自分を人間であり、故に没して転生したと言っている。本人の弁ならば経津主神としての生も送っている。
「皇虎宝団とは、これにデビルが結びついたものなのかも知れんな。
 何れにせよ、太古から黄竜の封印を解こうとする勢力が存在した訳じゃ。
 しかし、精霊を狩る、もしくは黄龍の封印を解く事で、どの様な利があるのか判然とせぬがな。大和の守護者とは、フッ‥‥私等の様な物好きの事かな」
 一成は聴衆の反応を待たずして舌を動かす。
「『我を呼び起こす事なかれ』か。つまり黄竜の封印は脆い。風の司自ら──風の司の級長津彦と呼ばれた上級精霊の部分か、それは後で判ずるとしようかのぅ──が、直接封じねば為らぬほど無理をしている訳じゃ。そして何者かによって封が破られる事を予想しておられたのじゃろう。
 級長津彦は黄竜の怒りを肯定しいる。非は人にあると断じている。
 私が思うに級長津彦は、しばらく黄竜を抑えておくので、最終的には人が何とかせえという事なんじゃないかのう」
 シェリルが負けじと言葉を紡ぐ。
「魔王マンモンが裏で糸を引いているのは間違いないとしても、神の使徒としても、ひとりの女としても、好きにはさせれないわね。
 下の門は、仏教でもジーザス教でも、下の世界は地獄なわけだし、地上と地獄と繋がるということかしら。
 もし、黄竜の封印地に門───そうね、異国風に言えばゲート───みたいなものがあるならば、デビルが執拗に高尾を狙っているのも黄竜の復活だけが目的ではないってことになるわね。
 大山津見神の封印は千年を経つことで、魂の穢れを浄化するタイプのものじゃないかしら。
 たしか、彦之尊に級長津彦を探す切っ掛けを与えた、大精霊でも、老いて消えるくらいだから、相当時間が経っているのは確かね。
 正確な刻限はわからないけど、白虎さんか、古い天狗さんの伝承に富士山の爆発か、大地震──何れも地脈の暴走と考えられますので──の記憶もしくは記録が残っていないか調べてみて、そこから封印の刻限を推測してみるわ」
 答えはありすぎて判らないであった。あまりにも多くの謀がデビルや鬼によってなされ、その大半が竜脈を血で汚すものが多かったからだ。
 最大規模は、百年くらい前。フランクのアキテーヌ分王国と繋がっていた月道が閉ざされた富士の大噴火であろうか? 近くならば同じく富士山での九尾の狐の掃討作戦らしい。これは正確ではないが。
 日向大輝(ea3597)はとりあえず、口に思った事を昇らせる。
「夢のほうはよく分かんねぇ、褐色の光だから地の魔法だとは思うんだけど、出所が黄竜なのか別の誰かなのかなので話が全く変わってくるからな。
 でも、魔法円のほうは一成さんが言っていたって辺りから、最初に用意された封印は大気の精に、大和の守護者、そして級長津彦の神霊のみっつが大事な要素なんじゃないかな。
 大気の精による押さえは白乃彦が今行ってる封印。
 大和の守護者ってのは『大和』は『倭』だから行方知れずの構太刀。
 この時、入れ違いで江戸城に構太刀が居る事を大輝は知らない。
「それで気になるのが『神狩り』‥‥これが外からやってくる、神を狩るものからの守護なのか、もしも黄竜が目覚めたときに狩るものなのか‥‥とりあえず、どっちにしてもみっつの中で多分最大の級長津彦の神霊の力が消えたのが封印が解ける原因だって考えると
。大山伯耆坊と白乃彦の力は、出し切っちゃってる以上構太刀は重要になってくると思う。
 もちろん契約者の慧の協力も必要になってくるし。
 構太刀を捜すにしても級長津彦の神霊を戻すにしても一度長千代と大久保長安のとの接触が必要ってのが俺の考えだ」
「構太刀か──」
 そこまで大山伯耆坊が言った所で、シェリルが咄嗟に一言、聖句を唱え、合唱すると白い淡い光に包まれる。
 オレンジ色の光に包まれたマグナスも咄嗟にジャイアントソードに指を滑らせ、全てを斬り裂く魔力を付与。
 一成もふたりの視線に天狗でもなく、修験者でも無い影を見つけると合唱。黒い淡い光に包まれる。
 世界三大神の神聖魔法が同じ場所で唱えられるのは非常に希有な光景かもしれない。
 大輝と静馬の志士コンビは肩を並べて戦線を構築。
 なぜなら───。
 シェリルが構築した存在最強の法力によって構築されたホーリーフィールドが一刀のもとに破壊されたからだ。
 刹那の斬撃の破壊力は魔法の防御を突破し、白い神聖力の欠片がはらはらと消えていく。
 咄嗟に続けて結界を構築使用するシェリル。しかし、敵はひとりではない。
 忍び装束に身を包んだ影は十。いずれもが気配を感じさせない見事な穏身。そして返り血を浴びない余裕。
「大天狗様──」
 血まみれになった鴉天狗十郎坊が倒れ込む。シェリルはソルフの実をいくつも嚥下し、魔力回復に勤しむ。大魔法の連発だ。命をつなぎ止めるには最大級の魔力を要求される。
 只でさえホーリーフィールド連発で消耗しているのだ。
 わずかに覗く松明のあかりの中に大輝少年は『おの』が十郎坊の腕の中にいるのを見た。守りたい──一念が反射的に体を動かす。
「わざと止めを刺さない──魔力の消耗が狙いか?」
 そのフォローをしつつ 静馬がとなりに立つマグナスに問う。
「判りません。しかし、平和を導く為でない戦いは──八部集のような超人ではない、凡夫の身に過ぎませんが──決して許しません。阿修羅神の名に於いて問う。正義無き戦いは即刻やめてください。退かねば武力介入します」
「我らは皇帝ルシファーと、その臣下たるマンモンの正義の名に於いて要求する、大人しく黄竜を開封しなさい」
 シェリルは予め付与していた精霊魔法により、魔力と敵意の両方から、岩を潜って潜入する存在がふたつあるのに気づいていた。
 そして、敵の総計が十二人である事。前方の敵勢十人は何れもレジストマジックなのか? 対魔法戦術に特化している事を。
(切り札は伏せてこそ意味があるのかもしれない)
 現に宣告した相手は一成のビカムワースを受けても平然としていた。
 淡い桃色の光に身を包み込みマグナスは宣告する。
「無縁仏も忍びない、墓碑には何と刻む」
「墓碑など不要、されど我ら皇虎兵団上忍幻十二人衆、霧月」
「霜月」
「雪月」
「雨月」
「風月」
「芽月」
「花月」
「草月」
「熱月」
「実月」
 マグナスは笑みを浮かべた。
「幻十一人衆だな」
 実月が一撃の前に葬り去られる。
「ふ、実月は幻十二人衆の中でもっとも小物」
 血煙の中、にらみ合いが続く。
──封印を守ってあいつのことも絶対守る、でびるでもかおすでも負けてられっかよ。
 大輝少年の慟哭とシェリルの祈りが響いた。
                                    つづく