【黙示録】目指すのなら荒野がいい

■キャンペーンシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:29 G 32 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月24日〜02月15日

リプレイ公開日:2009年02月03日

1話 2話

●オープニング(第1話リプレイ)

 時は風雲急を告げる睦月。所は高尾山の天狗の隠里。
 集いし英雄、女傑達は大山伯耆坊に向き合う。精気溢れるこの人妖が、昨年見た夢の解釈の思案に困り、江戸の冒険者ギルドから集い集めた面々であった。
 清原静馬(ec2493)が切りだす。
「年も改まった事ですし、面子が変われば解釈も変わるかもしれません。
 年経た大天狗に霊夢を見せる存在など片手で数える程しかいないはず」
 根拠はない。しかし、静馬は言い切った。
「『女性らしき声で』となればセーラ神、まあ仏教では『弥勒菩薩』ジーザス教で言う所なら『聖なる母』で決まりでしょう。
 また『一面の白い鳥の羽が降り注ぐ下』とありますが。セーラ神絡みで白い鳥の羽を持つ存在はエンジェルです。
 何らかの形でエンジェルが事態に介入してくる暗示でしょうか」
 疑問に疑問系で応えられても正直困る。
「『褐色の光』はシェリルさんの考え──
 ここで静馬はシェリル・オレアリス(eb4803)の方を見やる。年相応に見えないシェリルが静馬に目配せして続きを促す。
「──通り、地の精霊魔法の発動する時に伴うのと同じ性質の発光現象でしょう。
 若輩者とはいえ一応自分自身が精霊魔法の使い手であるのに思い至らなかったのは恥ずかしいかぎりです。この地が黄竜を封じている事を考え合わせると、こう考えるのが自然でしょう。『褐色の光』は黄竜の復活を示しています。
 この霊夢にはデビルを暗示させる要素は無いようです。デビルに関する警告ではなく、セーラ神による大山伯耆坊に対しての宣戦布告とみなす事もできます。黄竜はデビルではなくエンジェルの手で解放され祠が崩壊する。そして、黄竜解放の影響で地獄の門が開かれる」
「で、弥勒菩薩は何故、地獄の門を開こうとする──?」
 沈黙する静馬に代わってマグナス・ダイモス(ec0128)が重々しく口を開く。
 山に籠もっている大天狗さえ存在を知られている、究極の正義の執行者『パラディン』の弁である。
 その重み値千金。
「非常に難解なお告げと碑文ですが再解釈を行います。
 大山伯耆坊が見たという、夢のお告げは、戦乱が激化し天の意思が届かぬ時代、地に嘆き、苦しみの負の念が溜まり、地の精霊力が乱れ、カオスに近づき、地獄門が開かれる時代、それを食い止める為の試練が下される。
 その試練を潜り抜け、ほこらの崩壊を食い止めよと意味」
 ほこらの崩壊を、静馬は神々の意図であると解釈し、マグナスは試練の失敗と判じた。この差は大きい。
「魔法円は、地の精霊力は、風の精霊力より上位に当たる筈が、理を覆し風が地を封じる封印。故に反逆する物を封じた封印に近く、影響を受けるので神や魔の復活による干渉は、封印を弱める結果になる──時代を過去に戻さず、人の時代を続け、眠りし神を起こす事を禁じる。
 全ては人の業こそ、封印を弱める最大の毒。
 戦乱を鎮め、人の世の業が神の怒りを呼び覚ます事を防ぐべしと解釈します。その為なら何度でも剣をとりましょう。俺に出来るのはそれだけ。明日に続くものを信じ、阿修羅神の高みを目指すのみです」
「翻訳をした者の責として一言言わせてもらおう」
 正月太り? の身を揺すり大沼一成(eb5540)が言の穂を継ぐ。
「気になる『千年』と言うの単語。それは単なる比喩であろうよ。千年を長期間と読み替えても意味は通じるじゃろ?
 要は黄竜の怒りが浄化されるまで封印を維持せよという事じゃ。
 むしろ気になるのは『大和の守護者を配し、神狩りに備えん』の神狩りと、大和の守護者の方じゃ。
 神狩りとは皇虎宝団を指してるんじゃろうか? つまり元々神、今風に言えば高位の精霊を狩る集団がジャパンに存在していたのじゃろうか」
 文語体成立以前のジャパンでは、人知を超えた存在。英傑、精霊、悪魔、大妖、不死者などが、まとめて神と称されていたようだ。
 現に級長津彦は自分を人間であり、故に没して転生したと言っている。本人の弁ならば経津主神としての生も送っている。
「皇虎宝団とは、これにデビルが結びついたものなのかも知れんな。
 何れにせよ、太古から黄竜の封印を解こうとする勢力が存在した訳じゃ。
 しかし、精霊を狩る、もしくは黄龍の封印を解く事で、どの様な利があるのか判然とせぬがな。大和の守護者とは、フッ‥‥私等の様な物好きの事かな」
 一成は聴衆の反応を待たずして舌を動かす。
「『我を呼び起こす事なかれ』か。つまり黄竜の封印は脆い。風の司自ら──風の司の級長津彦と呼ばれた上級精霊の部分か、それは後で判ずるとしようかのぅ──が、直接封じねば為らぬほど無理をしている訳じゃ。そして何者かによって封が破られる事を予想しておられたのじゃろう。
 級長津彦は黄竜の怒りを肯定しいる。非は人にあると断じている。
 私が思うに級長津彦は、しばらく黄竜を抑えておくので、最終的には人が何とかせえという事なんじゃないかのう」
 シェリルが負けじと言葉を紡ぐ。
「魔王マンモンが裏で糸を引いているのは間違いないとしても、神の使徒としても、ひとりの女としても、好きにはさせれないわね。
 下の門は、仏教でもジーザス教でも、下の世界は地獄なわけだし、地上と地獄と繋がるということかしら。
 もし、黄竜の封印地に門───そうね、異国風に言えばゲート───みたいなものがあるならば、デビルが執拗に高尾を狙っているのも黄竜の復活だけが目的ではないってことになるわね。
 大山津見神の封印は千年を経つことで、魂の穢れを浄化するタイプのものじゃないかしら。
 たしか、彦之尊に級長津彦を探す切っ掛けを与えた、大精霊でも、老いて消えるくらいだから、相当時間が経っているのは確かね。
 正確な刻限はわからないけど、白虎さんか、古い天狗さんの伝承に富士山の爆発か、大地震──何れも地脈の暴走と考えられますので──の記憶もしくは記録が残っていないか調べてみて、そこから封印の刻限を推測してみるわ」
 答えはありすぎて判らないであった。あまりにも多くの謀がデビルや鬼によってなされ、その大半が竜脈を血で汚すものが多かったからだ。
 最大規模は、百年くらい前。フランクのアキテーヌ分王国と繋がっていた月道が閉ざされた富士の大噴火であろうか? 近くならば同じく富士山での九尾の狐の掃討作戦らしい。これは正確ではないが。
 日向大輝(ea3597)はとりあえず、口に思った事を昇らせる。
「夢のほうはよく分かんねぇ、褐色の光だから地の魔法だとは思うんだけど、出所が黄竜なのか別の誰かなのかなので話が全く変わってくるからな。
 でも、魔法円のほうは一成さんが言っていたって辺りから、最初に用意された封印は大気の精に、大和の守護者、そして級長津彦の神霊のみっつが大事な要素なんじゃないかな。
 大気の精による押さえは白乃彦が今行ってる封印。
 大和の守護者ってのは『大和』は『倭』だから行方知れずの構太刀。
 この時、入れ違いで江戸城に構太刀が居る事を大輝は知らない。
「それで気になるのが『神狩り』‥‥これが外からやってくる、神を狩るものからの守護なのか、もしも黄竜が目覚めたときに狩るものなのか‥‥とりあえず、どっちにしてもみっつの中で多分最大の級長津彦の神霊の力が消えたのが封印が解ける原因だって考えると
。大山伯耆坊と白乃彦の力は、出し切っちゃってる以上構太刀は重要になってくると思う。
 もちろん契約者の慧の協力も必要になってくるし。
 構太刀を捜すにしても級長津彦の神霊を戻すにしても一度長千代と大久保長安のとの接触が必要ってのが俺の考えだ」
「構太刀か──」
 そこまで大山伯耆坊が言った所で、シェリルが咄嗟に一言、聖句を唱え、合唱すると白い淡い光に包まれる。
 オレンジ色の光に包まれたマグナスも咄嗟にジャイアントソードに指を滑らせ、全てを斬り裂く魔力を付与。
 一成もふたりの視線に天狗でもなく、修験者でも無い影を見つけると合唱。黒い淡い光に包まれる。
 世界三大神の神聖魔法が同じ場所で唱えられるのは非常に希有な光景かもしれない。
 大輝と静馬の志士コンビは肩を並べて戦線を構築。
 なぜなら───。
 シェリルが構築した存在最強の法力によって構築されたホーリーフィールドが一刀のもとに破壊されたからだ。
 刹那の斬撃の破壊力は魔法の防御を突破し、白い神聖力の欠片がはらはらと消えていく。
 咄嗟に続けて結界を構築使用するシェリル。しかし、敵はひとりではない。
 忍び装束に身を包んだ影は十。いずれもが気配を感じさせない見事な穏身。そして返り血を浴びない余裕。
「大天狗様──」
 血まみれになった鴉天狗十郎坊が倒れ込む。シェリルはソルフの実をいくつも嚥下し、魔力回復に勤しむ。大魔法の連発だ。命をつなぎ止めるには最大級の魔力を要求される。
 只でさえホーリーフィールド連発で消耗しているのだ。
 わずかに覗く松明のあかりの中に大輝少年は『おの』が十郎坊の腕の中にいるのを見た。守りたい──一念が反射的に体を動かす。
「わざと止めを刺さない──魔力の消耗が狙いか?」
 そのフォローをしつつ 静馬がとなりに立つマグナスに問う。
「判りません。しかし、平和を導く為でない戦いは──八部集のような超人ではない、凡夫の身に過ぎませんが──決して許しません。阿修羅神の名に於いて問う。正義無き戦いは即刻やめてください。退かねば武力介入します」
「我らは皇帝ルシファーと、その臣下たるマンモンの正義の名に於いて要求する、大人しく黄竜を開封しなさい」
 シェリルは予め付与していた精霊魔法により、魔力と敵意の両方から、岩を潜って潜入する存在がふたつあるのに気づいていた。
 そして、敵の総計が十二人である事。前方の敵勢十人は何れもレジストマジックなのか? 対魔法戦術に特化している事を。
(切り札は伏せてこそ意味があるのかもしれない)
 現に宣告した相手は一成のビカムワースを受けても平然としていた。
 淡い桃色の光に身を包み込みマグナスは宣告する。
「無縁仏も忍びない、墓碑には何と刻む」
「墓碑など不要、されど我ら皇虎兵団上忍幻十二人衆、霧月」
「霜月」
「雪月」
「雨月」
「風月」
「芽月」
「花月」
「草月」
「熱月」
「実月」
 マグナスは笑みを浮かべた。
「幻十一人衆だな」
 実月が一撃の前に葬り去られる。
「ふ、実月は幻十二人衆の中でもっとも小物」
 血煙の中、にらみ合いが続く。
──封印を守ってあいつのことも絶対守る、でびるでもかおすでも負けてられっかよ。
 大輝少年の慟哭とシェリルの祈りが響いた。
                                    つづく

●今回の参加者

 ea3597 日向 大輝(24歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb4803 シェリル・オレアリス(53歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 eb5540 大沼 一成(63歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ec0128 マグナス・ダイモス(29歳・♂・パラディン・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ec2493 清原 静馬(26歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 事態は風雲急を告げていた。大沼一成(eb5540)は前線のにらみ合いから距離を置き、合掌すると、深傷を負った鴉天狗『十郎坊』に魔法をかけていた。
「魔力を損耗するが、命には換えられんじゃろう」
 ポーションを買いに行けるほど悠長な状況ではなかった。
 黒く淡い光が一成を包み込む。
 その中、シェリル・オレアリス(eb4803)は己の身がひとつである事をふがいなく思っていた。
 一気の攻勢で数の不利を打破を狙う。
 とかこの吹雪。
 ちゃこの毒ガス。
 止めは、イタニティルデザート専門で前方を埋めて、対魔法特化組を潰す。
 それに加えて、幻十二人衆のふたつの奇襲を止めなければならない。
 精霊と竜とで戦線を張る。
 前衛に立っている者はいた。
 無視して潰す訳には──いかない。
 クェイクドラゴンの『ちゃこ』は実際に戦いに参加はしなかった。好戦的ではない存在に戦いを強いるには縁が薄かったようだ。
 清原静馬(ec2493)は自問自答する。
「忍者が正々堂々戦う筈が無い」
 幻十二人衆と名乗ったが、その身を晒したのは10人しかいない? 残るふたりは何処だ。
「こいつ等は囮か──本命は」
 口に出した瞬間に気付く。僕達が護っているのは大山伯耆坊と‥‥。
「白虎か!」
 目前の敵と相対したまま後退し一旦間合いを外そうとする。その場は仲間に任して白虎の元へ駆けつけようと心は猛る。
「やらせるかよ」
 次の瞬間、岩盤を波打たせながらひとつ、いやよっつの影が現れる。
(そこまで詐術を使いますか?)
 今しも白虎へ襲い掛からんとした忍者へと飛び込み、渾身の力を込めた一撃を繰り出そうとするが、距離がありすぎる。
 日向大輝(ea3597)はさもありなんと判断していた。忍者が自分から真実を明かすはずがない。
「ばかしあいか! 忍者は油断ならないってか!?」
 そんなふたりにシェリルが警告を発しようとする。魔力の反応が増えた事に関して。シェリルは分析できなかったが、分身の術である。敵意をもった影は二体のみ。しかし、分身と本体とが卓越した体術により、入れ替わり立ち替わり場所を換え続けている。
 この事態は静馬の状況予測を上回っていた。ひと太刀浴びせれば終わるものではない。
 幾重もの魔法に長けているマグナス・ダイモス(ec0128)は、幻十二人衆熱月と斬り結びながら、己の適切に魔法を使う、という事に関して自分が如何に向いていないか。適切に──というのは向こうの力量が判っていて初めて出来る事である。
 やるべき事と、それに伴う選択肢が多すぎて、マグナスは逆に追い込まれていく。
 そこで目を見開き真言を唱える。
 朱色の闘気が渦巻き、大きく翼を広げた竜の姿を取った。パラディン最大の切り札、ドラゴンウォリアーである。
 熱月、霧月を圧倒していく。心技体、全てが人間の頂点に達する。
 しかし、臨界もあまりに早すぎた。
 十秒。そのあまりに短い時間がマグナスの精一杯である。
 しかし、その十秒間の間にシェリルは数多の精霊力に包まれ、虚空から大量の熱砂を生み出した。入り口が熱砂で埋まっていく。
 大輝少年と静馬の一刀が分身を捉えている間にふたつの影はレミエラの光を点らせながら、白乃彦目がけて突進していく。
 シェリルの展開したホーリーフィールドを破壊する。今度は移動に伴うチャージも付与されており、次々と結界を展開しようとするが、さすがに連続詠唱に確実に成功するほど、シェリルは生物離れしていない。
「させはせん。我が老い先短し命なれど、悪を滅ぼす礎とならん」
 白乃彦に凶刃が襲うのを、一成が一刀を己の肉体で受け止める。その動きが止まった所に追いついた静馬が一刀を浴びせた。倒れ伏す収穫月。
 それでも、残った影───葡萄月が尋常ならざる速度で白乃彦を襲う。
 オーラマックスと疾走の術の併用である。莫迦莫迦しいほどの脚力であった。
 シェリルが渡した聖なる釘を、十郎坊が懸命に守った少女『おの』が懸命に岩盤に打ち付けようとする。しかし、それを許すほどこの洞窟は脆くなかった。
 隠し持っていたソルフの実を嚥下してシェリルは懸命に魔力の回復を図る。自分にしか出来ない事が残っている内は。
 爆発的な突進から、葡萄月は納刀から抜き打ちの斬撃を放つ。掠めて斬る一瞬の一打。
 この技は本来、居合い抜きと突進を併用してはできない筈であるが、レミエラがそれを可能としているのだろう。
 人の首程度なら切り落とせる一撃であったが、白虎の体格は人のそれではない。故に即死は避けられた。
 だが、確実な効果があった。今まで集積されていた風の精霊力が制御を失っていく。
 それは、莫大な精霊力による封印崩壊を意味していた。
 祠から褐色の光が溢れる。
「大山津見神が!」
 自らに集積されていた魔力の喪失を感じると、大山伯耆坊が叫ぶ。
 砕け散る魔法円。無数の緑の古代魔法語が浮かび上がり、褐色の光の中に消えていく。
 そして、魔法円から顕現する巨影。そのまま、洞窟の岩盤を突破して天へと昇っていく。
 全長が何十メートルという単位では測りきれない。蛇のそれを何乗にも優雅に、そして威厳溢れさせた体幹。五本の爪を持つ四肢。頭に頂くは鹿の角。金ではなく、あくまでも黄色い鱗が総身を覆う。
 伝説に姿を現す黄竜──大山津見神であった。
「どうか鎮まり下さい──」
 大山伯耆坊が天空に舞い上がると、大山津見神に相対する。
「大山伯耆坊か──残念だが封印の中に居てさえ、地脈の汚れ、大地の叫びは聞こえてくる。この倭と大和の戦いの歪みは幾星霜へとも変わらぬ。大地と人間は共存出来ぬ」
 あまりにも深い諦観。それが一同にも重圧としてのしかかってくる。
「もっとも竜脈を歪めている地を砕いてくれよう。幾重にも月の精霊力が交差している地から」
 そう言うと虚空へと黄竜は姿を消した。大山伯耆坊の翼では追いつけない。
 混乱を想定していたらしい双角は呪文を唱えると、前進から黒い霧が吹き出し、姿を変容させる。一匹の小蟲となって戦乱から抜け出していた。
 オーラ、忍法、デビル魔法のみっつを行使できる相手である、生中な術者では太刀打ちできないだろう。それでも──。
「間に合わなかった──」
 シェリルが悲しげに呟く。洞窟からのぞく空は底抜けに蒼かった。
 そして、マグナスが切り伏せた実月、熱月、霧月。大輝少年が倒した収穫月の死体の蘇生をし、レジストマジックが効果を終えるのを待って、記憶を読み取る──そして、絶望的な事に気づいた。
 マンモンは己の直下まで信頼していないらしい。
 皇虎宝団の首領の名前はマンモン、そして葡萄月の『双角』そこまでは一致していた。
 皇虎宝団の本拠地の所在はそれぞれが自分の所領(それぞれが?ク士であった)
 皇虎宝団を支援している大名は、新田家、大久保長安、奥州藤原氏、武田家。と思考があった。そして、自分だけが正しく幻十二人衆を所有者である、マンモンの寵愛を持っていると信じ込んでいた。
 本物の伊織の消息と所在と、鳳凰鳥の翠蘭については誰も知らない。
 無力なまま、思考を読み取ると、後で下手人として引き渡す為、石化させる。
 しかし、祠の在った洞窟から運びだそうとした段階で、遠距離から鉄弓でそれぞれの頭を弓で射られてシェリルの手では治しようが無いほど、痛めつけられる。
 バーストシューティングによる遠距離狙撃だろう。双角はストーンによる無力化まで計算していたと見える。
「クローニングの出来る方が必要。それに江戸に注進を走らせないと──でも」
 シェリルはそこまで言って立ちつくした。
 江戸の誰に知らせるべきなのだろう。
 現在、江戸の支配者である伊達政宗に伝えるか? 少なくとも江戸での権威は彼である。
 それに幻十二人衆のひとりが言っていた可能性を正直に信じるなら大久保長安はクロかもしれない。
 以前、江戸の大戦で一緒に仕事をしたクローニングの使い手も長安の管轄らしいのだ。それに粉砕した人間を元に戻して尚かつ、修復できるだけの力量があるかも不明である。
「それでも今は出来る事を──」
 黄竜の大激震により傷ついた修験者、天狗達を直す。それが今のシェリルの精一杯であった。
「大丈夫だよね‥‥」
「おのは心配症だな。それにしても天狗の隠れ里も盛大に大穴が開いたな。こりゃ雪の日は大変だな。でも、今の江戸は雪じゃなくて、矢や雷がふるからどっこいどっこいかな。でも、これで天狗や白虎たちも、黄竜の封印だけに向けられていた注意を周囲に向けられる。
 思ってたんだ。とにかく、いい加減ここ数年の、ただ守って守っての、状況から脱する方策を、なにか考えないとダメだなって。ちょうどいい薬だよ。でも、おのに来て欲しい江戸は俺が守ってやる」
「大輝は一度した約束は決して裏切らないものね」
 無言で頷く大輝。
 風が渺々と唸っていた。
 黄竜の言葉は修験者たちも聞いていた。
 三々五々、その言葉を伝えに消えていく。
 江戸を近いうちに黄竜が襲撃するだろう。そして、月道の交錯する地点、江戸城を襲撃する。
 それは前兆として口伝えにされていく。
「やれやれ、年を取ると頑固になっていかんな」
 年をとって頑固になったのは誰か一成は補足を加えないまま、傷の跡を撫でた。白乃彦も癒されている。首を両断されていないが、当分は喋れないだろう。
 そして、一行は封印を守りきれないという失意の内に高尾山を後にした。
 後始末は自分でつけるという確信を抱きつつ。
 これが冒険の顛末である。

1話 2話