恋の素描〜First loveアジア・オセアニア
種類 |
シリーズ
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担当 |
風華弓弦
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
やや難
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報酬 |
4.9万円
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参加人数 |
10人
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サポート |
0人
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期間 |
01/23〜01/29
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前回のリプレイを見る
●本文
●『恋の素描〜Last like,First love』
−−彼女が、浚われた。
彼に残されたのは、ペンダント。
そして、眼前には自分の命を狙う男。
−−借りたモノは、返すモンだ。
ペンダントを彼女へ返し、彼女を奴らから取り返す。
自分の中で渦巻く感情を、今は置いて。
そうとも。便利屋サゴン・ジオが受けた仕事は、彼女を‥‥ムン・ミエを保護する事なのだから−−。
●『First love』アウトライン
『登場人物A:サゴン・ジオ。男。年齢20代後半。職業、便利屋。
ナンという相手から、「家族であるムン・ミエを保護して欲しい」という依頼を受ける。彼女を保護するものの、ホーク・ヤンによってミエを浚われる。組織を張っていた刑事クォンと共に、後を追う事となる』
『登場人物B:ムン・ミエ。女。年齢20前後。職業、学生。
両親は共に行方不明。幼年期の記憶が欠落している。兄ナンに頼まれたジオに「保護」されたものの、ホーク・ヤンに連れ去られる。ミエの混濁した記憶において、「二人のナン」は同一人物として混同されている』
『登場人物C:クォン・チャン。男。年齢20代中盤。職業、刑事。
ナンを追うために、「ナンの家族」であるミエをマークしていた。同僚によってミエが連れ去られた事で、ジオと共闘することとなる』
『登場人物D:ナン。男。年齢20代後半。
「ミエの兄」を自称し、ジオにミエの保護を依頼した。影ながらミエを守ろうとする彼もまた、「幼年期を共に過ごしたナン」である』
『登場人物E:ホーク・ヤン。男。年齢20代後半。裏組織のトップ。
クォンの同僚の刑事ファ・フェイシンであり、ミエの本当の兄ナンでもある。変装に長け、そのために「彼に素顔はない」と噂されている』
●フィナーレに向けて
オムニバス形式の短編ドラマ『恋の素描』は、全五回をもって最終回を迎える。
プロデューサーから『前後編』のプランが持ち上がり、残り二回で『最終話』を構成する。今回はその後編‥‥名実共に最終回となる。
「フタを開けたら、ジオ以外の全員が裏の組織に属し、その中で抗争をしている−−それでは現実味がなく、視野が狭すぎる。
かといって、複雑奇抜すぎるのも、尺に収まらなくなる」
それが前編で脚本家が危惧した事項。
故に、注意事項が一つ。それは「表世界との接点が保たれている」事。
新たに、後編に追加されるキーが一つ。それは「ナンが二人存在する」事。
監督の指示により、その二点が脚注として後編の−−未完成の台本に書き加えられた。
スタジオは、既に登場人物達を待っている。
そして最後の結末は、役者次第−−。
●リプレイ本文
●Staff Telop
Cast
サゴン・ジオ:蘇芳蒼緋(fa2044)
ムン・ミエ:小鳥遊真白(fa1170)
クォン・チャン:加賀谷 勇(fa2669)
ナン:風見・雅人(fa0363)
ファ・フェイシン(ホーク・ヤン):つぶらや左琴(fa1302)
『赤い死神』:ディノ・ストラーダ(fa0588)
パク・ファオン:七瀬・瀬名(fa1609)
ミエの母ユエ:星野 宇海(fa0379)
Staff
小道具・大道具・殺陣指導:重杖 狼(fa0708)
カメラ・車両:ウルフェッド(fa1733)
音楽:星野 宇海
・
・
・
●Broken
目の前に立ち塞がった男は真紅のスーツを纏い、白木の杖を手にしていた。
女と見紛う顔立ちは薄氷の笑みを刻み、死の影を従えている。
退くも向かうも結末は同じと彼の勘が警告を発し、ジオは身構えたまま『死神』と睨み合う。
向こうが一歩進めば、一歩下がる。忌々しげに口唇を噛むジオに、『死神』は悠然と笑む。
危うい均衡を破ったのは、一発の銃声だった。
獲物と自分の間を裂いた銃弾に、『死神』は首を廻らせて邪魔者を見る。
「動くな。次は当てるぞ」
拳銃を構え、見据えていたのはクォン。
男が僅かな隙を見せた瞬間に、ガラスの割れる音が響いた。
振り返れば獲物の姿はなく、割れた窓が黒々とした口を開いているのみ。
「‥‥チッ」
「お前もナンの関係者のようだな。事情を聞かせてもらおう」
舌打ちをする彼に、クォンが迫る。必要ならば、鉛玉で無力化する事も辞さないだろう。
だが、『死神』は動揺の色を見せなかった。
訝しむクォンの疑問は、すぐに解けた−−銃弾の雨が更なる静寂を引き裂いたのである。
『死神』は身を翻し、サブマシンガンを構えた女の元へと向かう。
「あの女‥‥確か、ミエの親戚のファオン‥‥」
その女に、クォンは見覚えがあった。しかし『死神』が退く様子に今は疑問を置き、彼は壊れた窓へ駆け寄る。
「おい、大丈夫か?」
呼びかけると、くぐもった返事があった。
「あいつは?」
「引き上げたぞ」
そうかと答えて、縁の下から男が這い出してくる。
「やれやれ、あんたのお陰で助かったよ。ありがとな」
クォンに苦笑しながら、ジオは服の土埃を叩いた。
●絆
車はゆっくりと減速し、やがて静かに止まった。
ドアが開き、冷たい空気が流れ込んでくる。
「‥‥ミエ」
名前を呼ばれて、ミエは目を開けた。途端に頭の芯に鈍い痛みが疼き、彼女は小さく呻く。
「大丈夫や。ほら」
名を呼んだ金髪の男が、車を降りるミエに手を貸した。
陽射しが降り注ぐそこは何もない空き地なのだが、どこか懐かしい空気が漂っている。
「‥‥ここは?」
「僕のお気に入りの場所や」
彼女を支える男−−ファが、どこか柔らかい表情で呟く。彼の横顔を、まじまじとミエは見つめた。
「どうして‥‥」
「昔々、ここに一軒の家があった。
その家の庭では、二人の男の子と女の子がよく遊んでいた」
ぽつりぽつりと、男は語る。三人の子供達のうち、一人の少年が或る男の元へと養子に出された事。子供を渡した見返りに、親は大金を得た事。養子となった子供は、ただ養父の組織を継ぐだけの為に、人の感情を伴わない様々な英才教育を施された事。
ただ淡々と語る全てを、横顔をじっと見たままでミエは聞いていた。
「生きる為に、子供はそれに従った。親と養父への恨みを支えにして」
それからファは、彼女を見る。その表情には、先の柔らかさも始めに目にした笑顔もなく。
「その顔をみると、今の話を信じたようだな? 作り話だ。俺に家族はいない」
「なら、何故私にその話を?」
「そうだな‥‥ただ、君に幸せになって欲しいと思っただけだ。作り話の子供みたいにならない様にな」
背中を向けてそれ以上の問いを拒否し、ファは携帯を取り出す。
「死神に、ワンチャンスの舞台をやろう。それから、後でクォンにも電話するか。仮にも、同僚だからな」
どこか楽しげな言葉を聞きながら、改めてミエは空き地に目をやった。
何の変哲もなく空虚だが、どこか暖かな空間。気がつけば、あれほど酷かった頭痛もいつの間にか治まっている。
「ナン‥‥」
不意に、兄の名前が零れ落ちた。理由はわからない−−彼女がこの男についてきてしまった理由と同じように。
「ホーク・ヤン様、お迎えに上がりました」
「きたか、レイ」
落ち着いた声に、ミエは振り返った。
気付かぬうちにもう一台の車が止まっていて、女が男に一礼している。
(「この人‥‥どこかで?」)
思い出そうとすると、また頭の奥がチリチリと疼く。まるで、何かを警告するように。
「行こうか、ミエ。舞台が整うまでに、少し時間がある」
彼女の思考を遮るように、ホーク・ヤンと呼ばれたファが声をかけてくる。支えられるように、ミエは女の車に乗った。
「彼女が、ミエ‥‥」
ドアを閉め、運転席に向かうレイの呟きは、誰にも聞かれることなく風に散る。
「おい、何を考えている! 待て‥‥くそっ」
用件だけを告げて通話を切られ、忌々しげにクォンは携帯を閉じた。
「それで、相棒殿は?」
ジオに会話の内容を聞かれて、クォンは軽く頭を振る。
「ご丁寧に、呼び出しだ。場所も時間も指定してな」
襲撃者が去った隠れ家で、ジオとクォンは互いの情報を交換していた。
ジオからは、この依頼が顔も知らないナンと名乗る男に頼まれた事。
クォンからは、ある麻薬売買組織内での抗争にナンが絡んでおり、それを追うためにナンと関わりのあるミエをマークしていた事。ミエを連れ去ったファは、同僚の刑事である事。警察に確認してもファの消息は掴めず、代わりに放置された車が見つかった事。
「んじゃ、共同戦線って事で。彼女を助けに行くか!」
明るく言って、ジオは立ち上がる。ポケットの中にあるペンダントの感触を確かめながら。
「‥‥ジオ」
「あ?」
呼ばれて怪訝そうな顔をする男へ、クォンはグリップを向けて拳銃を差し出す。
「使い方は、判るな。ただし、あくまでも護身用だ。彼女を浚ったからには、何か思惑があるだろう」
「わかった」
重く答え、ジオは銃を受け取った。
『ナン。隙を見て、ミエを助けて欲しいの。場所は‥‥』
携帯から聞こえるのは、張り詰めた声。
相手に見える事はないがナンは一つ頷いて、窓の外へと目を向けた。
●DEAD or ‥‥
指定された場所は、廃工場だった。
油か何かの異臭が微かに漂っている中へ、ジオとクォンは足を踏み入れる。注意深く歩を進める二人の耳に、場違いな口笛が届く。
辛うじて瞬いている蛍光灯の下では、口笛を吹く赤い男が彼らを待っていた。傍らには、従うように小柄な女が控えている。
不吉な二人組を見据えながら、ホルスターから銃を出すクォンは顎をしゃくった。
「行け。あいつが俺達をここに呼んだからには、何か魂胆があるはずだ」
「いいのか?」
「ああ。その代わり、ちゃんとミエを保護しろよ。彼女は巻き込まれた被害者だからな」
刑事に頷くと便利屋は死の影を避けて、別のルートを探しに行く。
ジオが行ったのを見届けて、クォンは前進した。二人組は動く様子を見せず、ただ場にそぐわない子守唄の旋律だけが、寂れた空間に木霊する。
「お前の噂は聞いた事があるぞ。口笛と共に死を運ぶ、『赤い死神』」
口笛が途絶えた。赤い服の男は、口角を上げて貪欲に笑む。
「それなら、話は早い。ではまず、君からお休みいただこうか‥‥永遠にね」
苦笑して肩を竦めると、クォンは拳銃のスライドを引いた。
「覚えていないようだな? 次は当てる‥‥と言った筈だ」
遠くで銃声が聞こえたが、それに構わずジオは走る。
その彼の前に、また一人の男が現れた。
警戒して身を強張らせるジオへ、男は両手を広げて攻撃する意思のない事を示す。
「こっちだ、急いでくれ」
電話越しではあったが、その声にジオは聞き覚えがあった。
「あんたがナンか」
「今は、話している時間がないんだよ」
どこか焦る口調で踵を返し、ナンは先に進む。後を追って行くと、二階の事務所のような場所に出た。そこには見覚えのある姿が‥‥。
「ミエ!」
名前を呼ばれて、彼女はジオに振り返る。だが彼女を庇う様に、ホークが立ち塞がった。
「彼女を離せ!」
ジオが銃を構えるより早く、ホークが無造作に引き金を引く。
焼けるような激痛が腕を裂き、ジオの手から拳銃が落ちた。傷を押さえる掌の下から、赤い染みが広がっていく。
「もう、やめろ!」
ミエが制止の声を上げるが、なおもホークは銃を向けたままでジオに迫る。
「アレをどこへやった‥‥と聞いても、判らないだろうからな。始末してから、ゆっくり探させてもらおう」
落ちた拳銃を蹴って、遠ざけるホーク。黒い銃口を、ジオは歯噛みしながら睨む。
白刃が弧を描いた。
仕込み杖に収められていた凶刃が、抵抗もなく服を裂き、肉を裂く。
痛みを堪えて、クォンは銃を向ける−−目の前の男ではなく、サブマシンガンで彼の動きを封じようとするファオンへと。
タンッ! と短い銃声が、やけに大きく響いた。
銃弾を受けて、ホークの身体がぐらりと傾ぐ。
その胸から溢れ出す鮮血を、ジオも、ジオを庇おうとしたミエも、茫然と見つめていた。
硝煙の煙が微かに漂う銃−−ジオの銃を構えるナンは、更に引き金にかけた指に力をこめる。
「‥‥何故だ」
銃を構えたまま、クォンは顔を顰めた。
彼が狙ったのは、ファオン。しかし『赤い死神』の真紅のスーツが、更に深い赤い染みに汚されていく。
仕込み杖の刀が乾いた音をたてて床に落ち、ファオンは倒れようとする男の身体を受け止めた。
「‥‥ファオン。お前は、ゆっくり来いよ」
囁きと始めてみる彼の微笑みに、ファオンの表情がほころぶ。
「貴方だけ先に逝かせはしないわ、私は何処までも貴方に付いていく。だって、私は貴方のパートナーですもの」
声にはならないが、腕に抱いた男がくっと笑う気配がした。ファオンは銃を構えたままのクォンを見上げるが、彼女の目には殺意はなく−−それどころか、生気すらなく。
戟鉄を戻したクォンは銃を下ろし、二人の脇を通り過ぎて駆け出した。
立ち去る足音を聞きながら、体温の失われていく身体を抱きながら、ファオンは仕込み刀を手に取る。
「地獄に落ちようと、ずっと一緒に‥‥」
そして、後には静寂だけが残った。
「何故‥‥」
銃を持つ手を震わせて、ナンはがくりと膝をつく。
確かにホークに狙いをつけた筈なのだが、赤い血を流しているのは、女だった。
「自分の子供達が傷つけあうのを、これ以上、見たくなかっただけ」
苦しげなホークの髪を、レイが優しく撫でる。
「あなた達三人は、私の可愛い子供。ホーク‥‥いいえ、ナン。あなたは私の愛する自慢の息子よ‥‥悲しい思いをさせて御免なさい」
寝かしつけるように撫でながらレイは−−ユエは、子守唄を唄う。歌を聞くホークのまなじりに、うっすらと光るものが浮かぶ。
「母さん‥‥迎えにきてくれた‥‥」
安堵の笑みを湛えて、ふっとホークは深く最期の息を吐く。
「おやすみなさい、ナン‥‥そして、あなた達二人も、もう大丈夫ね」
ユエは涙を零すミエの手を取り、微笑んだ。
「あなたは、後悔しない生き方を‥‥」
「お母さん‥‥」
嗚咽を隠すように、遠くからサイレンの音が聞こえてくる。
「‥‥行くぞ」
低い声が、残された三人を促す。ジオが振り返ると、やや顔色の悪いクォンが脇腹を押さえてそこにいた。
「ナン。詳しい事情は、後でゆっくり聞かせてもらうからな」
「判っています‥‥ジオ、妹の事をよろしくお願いします」
そう告げるナンは刑事の前に腕を出すが、クォンは首を横に振る。
「妹の前だからな」
それだけ言って、彼はかつての同僚であった男の骸をじっと見下ろし−−ナンを連れて、踵を返した。
頭の中の霧は晴れて、遠ざかる懐かしい背中をミエは見送る。
「ほら、忘れ物」
ジオの差し出したペンダントを、ミエは寂しげに微笑んで受け取った。
−−昔、彼女には二人の兄がいた。
本当の兄ナンと、麻薬売買組織に両親を殺された為に引き取られた義理の兄ナン。
だが、実の兄は養子に出され、直後に難病を抱えた彼女は高額な医療技術で、健康を取り戻す。平穏に見えた生活も、今度は両親が消息を断つ。新しい麻薬の組成式が隠されたペンダントを、彼女に残して‥‥。
それが、彼女の思い出した事。
母の歌で蘇った記憶の、全てであった。
「家まで、送ろう」
優しい手が肩に置かれ、ミエはジオを見上げて頷いた。
●門出
「−−仕事だ、便利屋」
新聞の紙面を賑わせた「警察による麻薬売買組織の瓦解」の話題もすっかり下火となり、全てが平穏に回帰したと思われた、ある日の午後。
クォンがジオへの「仕事」を持ってきた。
「仕事だぁ?」
「ああ。ある人物を保護してほしい」
不遜に申し渡す刑事に、便利屋はため息をついて承諾した。
指定された場所で待っていたのは、見覚えのある女。
「‥‥ミエ?」
呆気に取られているジオに気付き、ミエは彼の元へと駆け寄る。
「助手として、私を雇う気はないか?」
「えぇー!?」
うろたえるジオの様子に、彼女は柔らかく、春の陽射しのように微笑んだ−−。
【Fin】
●別れ
そこにあった喧騒も緊迫も熱気も、今は既にない。
がらんどうの空間を、重杖とウルフェッドはしみじみと見つめていた。
「‥‥いい作品に、なっただろうか」
ぽつりと呟く重杖に、「勿論だ」とウルフェッドが答える。
この空間に立っているだけでも、様々な出来事が思い起こされるが−−今は、それを置いて。
二人は振り返る事なく、その場を後にする。
『恋の素描』の撮影に使われたスタジオの扉は、静かに閉ざされた。