【LP】仲間という事アジア・オセアニア

種類 シリーズ
担当 言の羽
芸能 1Lv以上
獣人 4Lv以上
難度 難しい
報酬 14.5万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 07/31〜08/04
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●本文

 課題の為に調べ物をしていたら遅くなった。たったそれだけ。それだけの事が、彼女を――染谷洋子を、逼迫した状況の中に追いやった。

 かつん、かつん、と踵の鳴る音が夜の住宅地に響く。それは非常にゆっくりとではあるが、確実に、物陰に隠れる洋子へと近づいてきている。
 誰か。洋子は心中で助けを請うが、深夜に程近い頃合の住宅地はほとんどが眠りに落ちており、ひっそりと静まり返っている。学生が多く集まる地域は芸能界に属する友人が遊びに来るには不都合だからと、核家族が大半の地域に住居を定めたのが仇となった。一定の間隔で立っている電灯のおかげで足元の判別はつくものの、それはつまり、彼女が今いるブロック塀の影から逃げ出そうとしてもその姿を容易に追われてしまうだろうという事。
 洋子にはわかっていた。かくれんぼの鬼のように彼女を探しているあの靴音の主は、獣人だ。しかも恐らく、危険な。
 はやる心臓を押さえつけ、乱れそうになる呼吸を必死に鎮める。それでも彼女の脳裏には、先程見てしまった場面が、幾度も幾度も浮かび上がってくる。

 ◆

 ――昼間なら子供が楽しそうに遊んでいる公園、しかし夜は誰もいないはずのそこから、聞こえてきた妙な音。好奇心がつい疼いて、首を伸ばして覗き込んだ。
「まったく、お前が駄々をこねるからこういう面倒な事をしなきゃならない」
 公園にも電灯があった。スポットライトのようなその光の下に、男の背中が見えた。男の向こうに横たわっていたのは、スカートという服装から判断して、女性だった。そして女性と男の間には、もう一人、別の男がいた。男がもう一人の男を背中から抱きかかえて、その右腕を意のままに動かしているようだった。
 振り上げられ、振り下ろされる、右腕。その度に女性の体がまな板の上に乗せられた魚のようにはねた。
「母親の起こした騒動の事だけじゃ足りなかったか。今のお前の立場、わかっていると思っていたんだが‥‥なあ、良?」
 男に操られるもう一人の男の右腕の先が、光に反射してきらりと光った。刃物としか思えなかった。
「ほら、ちゃんと見ろよ。いいか。俺とお前は、とっくの昔に共犯なんだよ」
 また振り下ろされた。もう女性の体ははねなくなっていた。
「逃げられると思うなよ。逃げようなんて気は起こすな。これでも俺は、お前の事を可愛がっているつもりなんだぞ?」
 洋子はようやく気づいた。鼻に届いている鉄のにおいの正体に。鉄製遊具の錆びのにおいだと思っていたが、そんないいものではなかった。
 血。血のにおい。鼻から喉へ、体の隅々にまで、どろりとまとわりつくような。
 ダメだ。ここにいてはダメだ。事態を察した洋子の足は、すぐさま公園から離れようと動き出そうとした。途端、乾いた落ち葉を踏んでしまった。

 ◆

 振り向いた男の瞳に灯っていた闇色の炎。あれは狂気。冷静なる狂気。あんなもの、戦闘に秀でていない自分には到底太刀打ちできやしないと洋子は思う。
 このまま隠れてやり過ごせるだろうか。だが足音は徐々に近づいている。もう、すぐそこまで。
 終わりだ。絶望に洋子の背筋が凍りつこうとしていた。
「‥‥零夜さん」
 違う声がして、足音が止まった。
「なんだ、効果が切れたか」
「こんな事、している暇はないでしょう‥‥さっきの、どうにかしないと‥‥」
「こっちのほうが楽しいんだけどな」
「‥‥‥‥」
「ああ、わかったわかった、証拠を残せば動きにくくなるって言うんだろう? 可愛い後輩の忠告だ、ここは素直に聞くとしよう」
 おどけた声と共に、足跡は去っていく。
 だからといってすぐに気を許して飛び出すわけにもいかず、洋子はまたしばらくの間、息を潜め続けた。
 ――どこかで見た顔だと、男が楽しそうに口元を歪ませているとも知らずに。

 なかなか帰ってこない彼女の事を心配した同居人からの電話が来るまで、彼女はそこから動けなかった。

●今回の参加者

 fa0510 狭霧 雷(25歳・♂・竜)
 fa0761 夏姫・シュトラウス(16歳・♀・虎)
 fa0911 鷹見 仁(17歳・♂・鷹)
 fa0918 霞 燐(25歳・♀・竜)
 fa1206 緑川安則(25歳・♂・竜)
 fa1718 緑川メグミ(24歳・♀・小鳥)
 fa2648 ゼフィリア(13歳・♀・猿)
 fa3134 佐渡川ススム(26歳・♂・猿)

●リプレイ本文


「おはようございまーす」
 ジョギング仲間と挨拶を交わす佐渡川ススム(fa3134)の頬には、くっきりと手形がついている。間違いなく、すれ違った主婦の話の種にされるだろうが、自業自得なのでこの場に仲間がいたとしても同情さえしてくれないだろう。ただでさえ傷心の洋子から胸のサイズを聞きだそうとして、咲の平手打ちを喰らったのだから。
「ほんの冗談なのに、怖いねえ」
 呟き、公園に入る。洋子が殺人を目撃した現場だ。誰もいない事を確認して帽子を深くかぶりなおし、両手をポケットに突っ込んで、半獣化する。
(「さすが、と言っていいかはわからんが‥‥何もないな。ニュースにもならないわけだ」)
 ここで人が死んだというのに、普通の時間が流れている。証拠や痕跡は処分されており、視力を高めたくらいではわからないように片付けられていた。ルミノールを使えば血の痕跡くらいは出てくるだろうが。
 ススムは思う。零夜は道を踏み外し、思考回路は尋常ではないが、至って冷静なのだろうと。ただ、タチが悪いのは言うまでもない。

 軽いブレーキ音と共に車が止まったのは、ファッション系専門学校の校門前。登校する生徒達の注目のなか、不釣合いな服装の緑川安則(fa1206)が降り立った。彼は周囲の安全を確認すると、車の後部ドアを薄く開けて中の人物を呼ぶ。
「大丈夫みたい。行くよ」
「‥‥うん」
 東雲咲が降りて、次いで染谷洋子がおずおずと降りる。鞄を心細そうに抱きしめる親友の姿に、ここまで車を運転してきた安則の心は痛む。
「いつ頃終わるのかしら?」
 助手席の窓を開けて、内側から緑川メグミ(fa1718)が二人に声をかけた。
「何時に、っていうのは難しいかな。課題の進み具合にもよるし」
 うつむきがちで言葉数も少ない洋子の分まで咲が喋る。
「そうか。なら、終わったら携帯に連絡をくれ。迎えに来る」
「勿論、何かあったらいつでも電話してくれていいのよ。すぐに駆けつけるわ」
「ありがと。それじゃ、行ってきます」
 笑顔で手を振る緑川兄妹に背を向けて、洋子と彼女の手を引く咲が遠ざかっていく。試験期間中との事で、見学と称しても校内に入れないのが歯がゆかった。

 校門そばから人通りの少ない道へと車を移動させながら、霞 燐(fa0918)は息を吐いた。ナイトウォーカーならともかく、人を、殺している場面に遭遇した。高校を卒業したばかりの少女にはつらいものがあるはずだ。おまけに「零夜」と「良」という男達。十中八九、彼らだろう。
「‥‥浮世の鬼と化したか。残念だな‥‥」
 それはつまり、戻らない、戻れない、という事。
 打ち合わせの時、燐は咲と洋子への説明を済ませていた。近藤零夜と水元良が誰で、二人の親友である葛原みちるとどんな繋がりがあるのか、そして彼らがしてきた行い‥‥特に先日のみちる誘拐についての経緯を。
 動揺した咲は「まさかあれの事が」と漏らした。
「二人はみちるの体内にあるオーパーツが、みちるの命を繋いだ事を知っている‥‥だがそのオーパーツが何なのかは知らなかった。親達による情報操作か?」
 知友心話での内緒話でわかったのはそこまでだった。嘘をついているようには見えなかった。

「殺人」
「ええ。ですので、みちるさんに護衛を置いておきます。目撃者は顔を見られており狙われている可能性が高く、霞神社にて保護しています」
 みちるの所属プロダクション、その一室。狭霧 雷(fa0510)はみちるのマネージャーに事のあらましを話していた。ただし一部を伏せ、一部を偽って。二人の会話をはらはらと見つめるみちるの横には、護衛という名目で鷹見 仁(fa0911)が並んでいる。マネージャーは仁を一瞥すると、雷に向き直った。
「まあ、かまいませんよ。彼が近くにいるとみちるちゃんもいつも以上に頑張れるみたいですし」
 みちるの顔が音を立てて赤くなる。その顔を仁が覗き込んで「そうなのか?」と尋ねれば、ますます紅くなり、台本で恋人の視線を遮った。しかもそのまま部屋を走って出て行ってしまったので、慌てて追いかける事に。
 扉が閉じた後、部屋に残されたマネージャーと雷はお互いに、あくまでも笑顔で会話を続ける。
「で、目撃者というのは誰です? 私も詳しい話を聞きたいのですがね、マネージャーとして」
「今はその人の安全が優先です、しばらくはお話するわけにはいきませんね」
 ひょっとしたら同属嫌悪かもしれない二人のやり取りは、静かで激しいものだった。

 その一方で、階段の踊り場まで逃げた挙句に捕まったみちるはどうしていたかというと。
「何も逃げなくても」
「うん‥‥」
 人目がないのをいい事に、毎度のごとく仁の腕の中だった。
「不謹慎な事を承知で言うけど、俺はまたこうしてみちると一緒にいられて、嬉しいよ」
「‥‥それは、私も‥‥」
 おずおずと見上げてくる、頬を紅く染めた彼女。ヤバイ、と言葉が仁の脳裏に浮かんだ時には、もう動いていた。
 階段には冷房など効いていない。高い湿度、室温。だが気にせずに一層強く抱きしめた。
「俺は、みちるには笑っていてほしいんだ。だから、洋子も咲も‥‥みちるも、きっと守ってみせるさ」
「うん‥‥やっぱりジン君は頼もしいな」
 上のほうから足音が聞こえ、慌てて離れなくてはならなかったのが残念ではあったが。
「何をしてるんや、あんたらは」
 ため息混じりに声をかけてきた足音の主は、新人という形でみちるの傍につく事にしたゼフィリア(fa2648)だった。階段の手すりにもたれて呆れる彼女を前にして、仁とみちるの視線が泳ぐ。
「そろそろ移動の時間やないか?」
「いけない、荷物を持ってこないと!」
 ばたばたと駆け出すみちるに、仁とゼフィリアも後に続く。
 ゼフィリアはみちるの背中を見ながら、彼女の義父である徹の言葉を思い出していた。吐露された後悔の念は、それだけの信頼されているのと同時に、同じ過ちを繰り返さないよう阻止する役目を自分に望んでいるのだと、彼女には思えて仕方なかった。
(「‥‥うちはまだ子供やで、責任でか過ぎや」)
 弱冠13歳の少女には重過ぎる内容だった。だがそれだけ、徹にとっても重荷であったという事だ。


 専門学校の前には、生徒御用達の喫茶店がある。通りに面した壁はガラス張りになっていて、校門を見張るには適している。夏姫・シュトラウス(fa0761)がこの店に入り浸る事に決めたのも、そういった理由からだ。何時間も居座っているので店員が首を傾げているが、追い出されないよう適度に注文し、雑誌のページを時々めくる。
 学校の入り口は校門と裏門の2箇所。ただし裏門は搬入搬出用らしく、倉庫に直結しているとの事で通常は厳重なセキュリティの管理下にあるという。
(「という事は‥‥やっぱり‥‥正面‥‥」)
 ストローをくわえる動作の間に、門を視界に入れる。外は暗い。勿論、ほとんどの生徒は既に帰宅してしまっている。教師も同様だろう。だが咲と洋子からは、少し遅くなるという連絡が来た。思うように課題が進まないらしい。
 今なら校内に入り込んでもばれないだろうか。そう考えながら夏姫がジュースを吸い上げた時。車から降りたばかりの二人の男が、ごく普通に門の向こうへ消えていくのが見えた。
「‥‥っ!!」
 反射的に椅子から立ち上がった彼女は、折りたたみ式の携帯電話を開くと、急いで電話をかけた。

「できた‥‥」
 出力完了したレポートをクリップでまとめる咲。随分前に終了していた洋子がその労をねぎらう。
「お迎えを頼まないとね。あ、でもその前にお手洗いに行ってくるわ」
「待って、あたしも――電話?」
 ポケットの中で携帯電話が揺れたので、咲は足を止めた。
「もしもし‥‥ああ、安則さん。丁度今電話しようと‥‥はい? いや、意味がわからないんですけど」
 トイレは自習室を出てすぐ斜め前にあるものの、廊下は薄暗く、話し始めた咲を置いて一人で行くのは躊躇われ、とりあえず洋子は扉を開けて電話が終わるのを待とうとした。咲の意識が自分にないのが心細くて、ススムに渡されていた防犯ブザーを握り締める。
 かつん。足音がした。誰かが階段を上ってくる。警備員の見回りだと思った。だが違う。トイレよりやや奥にある階段、壁の影から現れた男の顔は――
 視線に気づいて、男も洋子を見る。そして唇を動かした。
「みぃつけた」

 けたたましいブザー音が空気を切り裂く。その音は電話の向こうにも届いたらしく、安則が叫んだ。
『雷君が受け止める! 窓から飛び降りろ!』
 ブザーを持った洋子が駆け寄ってくる。咲に迷っている暇はなかった。鍵を開け、窓も開け、洋子を抱えて宙に飛び出した。
 一瞬覚える浮遊感。直後襲ってくる落下の感覚。背筋を寒気が通り過ぎたが、地面で腕を広げて待っていてくれるのがわかったから、怖くなかった。
「乗ってちょうだい、移動するわよっ」
 勢いで転がりそうになりながらも、咲と洋子は車のドアを開けてスタンバイしているメグミのほうへまた走る。
 二人を追って飛び降りようとする零夜の牽制に、ススムのバイクが唸りをあげる。合間に雷も燐から借りたバイクにまたがる。安則の車が出発したのを見計らい、バイクも夜の街を駆け抜けていく。


 核家族ばかりの住宅街は相変わらず静かで、時折通る車等の音がやけに響く。けれどこの街の住人はそれには慣れっこ。その上、我が家に関わらないものには興味がない。‥‥日頃、子供を遊ばせている公園で、何が起こっていようとも。
「やれやれ。話もさせてもらえないのか」
 電灯のてっぺんに降り立った零夜は、蝙蝠の翼を一度はためかせた。その電灯を、ススムが垂直に駆け上る。大仰に肩を落として電灯を離れた零夜を待っていたのは、竜の翼を持つ者達――雷、燐、安則。舌打ちしながら翻した身に咲が殴りかかる。後方に跳ねてそれを避ければ、使える能力をフルに使った夏姫がすかさず爪を振り上げて、零夜も爪を伸ばして受け止めた。
「そんなに震えて‥‥耐え切れないでしょう、負けを‥‥認めて‥‥」
「‥‥簡単に引き下がると、思うのかっ?」
 夏姫と競り合っているのは右手。左の掌が彼女に掴みかかって、触れたかと思うと急に彼女の視界は大きく揺れた。
 危険を察して離れた夏姫の代わりに、咲の追撃。咲の隙を埋めるように雷も震えるナイフを煌かせる。
「ガードを忘れるな! 目的は護衛対象の護衛だ!」
 安則が叫ぶ。
 その護衛対象はというと、みちるの背中に隠れている。みちるはみちるで、いつでも逃がせるようにとゼフィリアとメグミが傍にいるし、壁のように鷹の翼を広げた仁が立ちはだかっている。
 後方で繰り広げられている激しい攻防とは反対に、どこかぼんやりとした良は、見た限り半獣化すらもしていない。不思議に思う仁だったが、これはチャンスなのだと、訴えかけてみる事にした。
「諦めるのか?」
 良はみちるを慕っている。だからそのみちるを軸にして話をすればうまくいくかもしれない。
「ストーカーに友人を傷つけられる‥‥自分に責任のない『罪』を、それでもみちるは背負って、前に進んでいる。お前はどうなんだ? 人から背負わされた『罪』の重さに負けて跪くのか? 頭を垂れて『罪』を受け入れ自分から罪を重ねていくのか?」
 重ねるならば明確な敵とみなし、容赦はしないと告げて、
「だけどお前が前に進みたいと望むなら、『罪』に負けたくないと願うなら、来いよ。一人で進むのが辛ければ俺やみちるや、皆がお前を助けてやる。だから、来い」
 その一方で手を差し伸べる。
 良はまっすぐ伸びた手をまたぼんやりと眺めていたが‥‥じきに、意思の光が灯った。
「‥‥みちるちゃんの選んだ人が、キミみたいな人でよかった‥‥いや、だからこそキミを選んだのかな‥‥」
 どこか遠くを見つめるような眼差しで、良は微笑み、右腕を動かした。一旦上着の内側に潜り、再び出てきたその手の先には、黒光りする銃器が。
「折角誘ってもらえたのに、ごめんね、僕にはこうする事しか思いつかない」
 銃口はぴたりとこめかみに当てられている。ひやりとした冷たさが伝わっている事だろう。引き金にかけられた指がわずかでも動けばどうなるか、想像する事は容易いく、想像するよりも前に、仁は駆け出していた。
「さよなら」
 だが元より迷いを捨てていた良には躊躇いから生じるタイムラグもなく、引き金は速やかに引かれた。
 銃声。赤いものが噴き出す。彼の端正な顔に浮かんでいた微笑みはその瞬間に凍りついた。銃撃の衝動、そして支える為の力を失った事で、体は大きく揺れ、左腕を下にして倒れた。
 ゆっくりと広がる血溜まり。
「いやああああああっ!!」
 絶叫はみちるの発したものだった。近づこうとして仁に阻まれて尚、良の名を呼ぶ。またも人の死を目の当たりにした洋子は気を失い、咄嗟にゼフィリアが支えるも、体格差によりもつれてメグミが助けに入る。
 零夜と戦っていた者達も動きも止まっていた。ほんの短い間ではあったが。零夜の立っていた地点に視線を戻すと彼の姿は既になく、公園の隣にある家の屋根にいた。その家の窓から先程までは消えていたはずの光が――いや、周囲の家々に、順に明かりが灯っている。流れ弾を恐れているのか、まだ外へは出てこないようだが。
「まずいわ」
「はよ逃げんと、みちるさんが」
 人気俳優の自殺、その場にみちるがいたと知れればマスコミに張り付かれてしまう。体力のある者は無い者を抱いて、速やかに公園から退去する。
「くそっ!」
 置いてはいけぬと安則が良の遺体を担ぐ横からススムが睨みつけても、零夜は無表情だった。