奏デ歌ウ想イ―舞曲・後アジア・オセアニア

種類 シリーズ
担当 香月ショウコ
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 3.6万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 01/12〜01/16
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●本文

●奏デ歌ウ想イ
 『歪』。それは世界に生じた歪みとも、もともと存在していたが気づかれなかった歪な部分とも。『歪』が世界に生まれた瞬間、調和は乱される。
 世界の調和のため、日夜人知れず『歪』と戦う奏歌楽士たち。
 この『奏デ歌ウ想イ』は、彼ら奏歌楽士たちの戦いの記録を記す特撮番組である。

●『奏デ歌ウ想イ』の世界
 奏歌楽士とは、『奏(ソウ)』『歌(カ)』と呼ばれる特殊な能力を使用して『歪(イビツ)』と戦う者たちのことである。
 『歪』とは、特定の形を持たず宙に浮く影のような存在である。これが人や物に取り付くことによって、『歪』として本来の力を行使し世界の調和を乱しはじめる。

 『奏』『歌』とは、楽士たちが行使する特殊な能力で、専用の特別な楽器を弾く、または歌を歌うことで発動する。
 楽器という増幅装置がある分『奏』は強力な力を行使できるが、楽器の形状や大きさにより取り回しの利きにくい状況があるという弱点をもつ。また一般人には奏歌楽士たちや『歪』の存在を知られてはならないため、楽器が無ければ力を発揮できない奏士は時にただの人間でしかない。
 対して『歌』は歌士が歌える状態であればいつでも発動可能だが、白兵戦用の武器を生成することを苦手とし、また増幅装置が無いぶん一部の強大な楽師を除き行使する能力の威力では『奏』に見劣りしてしまう。

●出演に当たって
 出演者にはこれらと以下注意点各種を踏まえてテンプレートを埋め、番組の登場人物を設定、毎回提示される目的の達成を目指してほしい。

【能力】「奏」もしくは「歌」を選択。
【ジャンル】能力の種類を設定。いずれか一つ。
 奏‥‥白兵(+5)、単体射撃(+3)、複数射撃(+2)、散弾/扇状/放射(+1)、回復(+3)、補助(+3)
 歌‥‥単体射撃(+4)、複数射撃(+3)、散弾/扇状/放射(+3)、回復(+3)、補助(+4)、修復(+5)
【射程】能力の射程を選択。いずれか一つ。
 奏‥‥短(+5)、中(+3)、長(+1) ※短:0〜1m 中:1〜12m 長:12〜100m
 歌‥‥短(+4)、中(+4)、長(+2)
【効果】4つのパラメータに合計20ポイントを1〜15の範囲で振り分けてください。
 威力/効果:破壊力、回復力など。
 速度:演奏・歌唱から発動までの速度。射撃であればその弾速。
 持続:その能力が発動してからどれだけの時間効果を持って存在し続けるか。
 安定:発動確率、効力の安定、妨害に対する抵抗。
【回数】能力を一日に使用できる回数。
 ジャンルと射程を決定後、()内の数値を足した数。
 パラメータポイントを2点消費することで使用回数+1することも可。
【その他】能力についての注意点
 『奏士』と『歌士』の掛け持ちは不可。しかし、『奏士』なら『奏』、『歌士』なら『歌』の複数習得は可能。

<キャラクターテンプレート>
キャラ名:
能力:能力・ジャンル・射程/効果:威力・速度・持続・安定・回数
備考:

※皆さんが演じるのは原則として楽士協会所属の奏歌楽士です。一般人、フリーの楽士は現在選択できません。

※マイスターオプション
 今回、参加者の内1名のみ楽師を選択できます。ただし今回は臨時なので、次回以降は楽師設定での参加は出来ません。
 楽師となる方は以下のオプションから一つを選び、備考に記号を記入してください。
A:パラメータポイントに+8(パラメータ上限15はそのまま適用)
B:射程の追加(短→短・中 中→短・中or中・長 長→中・長)
C:指揮歌付与(仲間とテレパシー的通信が可能。通信相手は全体でも限定でも可)

※連続戦闘オプション
 『舞曲・前』と『舞曲・後』は間に日を挟まない連続した物語です。そのため、『奏歌』の使用回数が回復していません。
 今回の参加者の皆さんは一律、能力の使用回数が半分(端数切捨て)の状態でスタートします。継続参加の方は残り回数を明記する必要はありません。新規で参加の方は、テンプレートの回数の部分には減った回数の方を記入してください。
 なお、前回ずっと気絶していた方は使用回数満タンから開始できます。

●舞曲
 動きは内部から始まった。
 外からダミーの『歪』を含めた部隊が楽士協会日本支部を襲撃するのとほぼ時を同じくして、協会には防護結界が張られた。それは外部からの侵入・攻撃を防ぐためのシールドであり、同時に内部からの脱走者を食い止めるための檻である。
 だが、その檻はつい先程破られた。捕らえた楽士達が皆歌士であったことから、『奏』を交えない奏歌では破壊されない構造になっていたにも拘らず、である。
 その頃、外では協会の部隊が敵を撃破していた。ダミーの『歪』は38全てが破壊され、10人の敵楽士は戦線を離脱した。だが完全には撤退せず、ある程度後退した所で動きを止めている。内部から脱出した部隊と合流するためだろう。
 協会は、外で敵と戦闘していた楽士の一隊に追撃を命じた。協会内に待機していた楽士達は敵の脱走の際に戦闘に巻き込まれ指揮系統を乱され、再編成には時間がかかる。外で戦っていた38人の楽士の半数以上もまた、敵の迎撃に力の多くを使い、再び戦えるようになるには1日を要する。

 奏歌楽士たちに下された指令。それは、外の敵、或いは脱走した敵のどちらかを襲撃してその合流を防ぎ、それが出来なければ味方の再編成が終わるまで撤退させぬよう妨害を行うこと。
「今回、協会の指揮による戦闘を行うには手数が足りません。よって、追撃部隊に臨時の楽師を置き、現場指揮の一切を任せます。作戦の失敗による責は私、楽士協会日本支部次席楽師、市村 七海がとります。思い切り暴れてきなさい。
 ‥‥世界の調和のために。我らの敵を、調律せよ!」

●今回の参加者

 fa0847 富士川・千春(18歳・♀・蝙蝠)
 fa1814 アイリーン(18歳・♀・ハムスター)
 fa2122 月見里 神楽(12歳・♀・猫)
 fa2478 相沢 セナ(21歳・♂・鴉)
 fa2847 柊ラキア(25歳・♂・鴉)
 fa3319 カナン 澪野(12歳・♂・ハムスター)
 fa4579 (22歳・♀・豹)
 fa4717 金緑石(21歳・♂・狐)
 fa5241 (20歳・♂・蝙蝠)
 fa5335 叶 侑那(17歳・♂・豹)

●リプレイ本文

●追撃〜遭遇
「蛍兄成分が足りないぃっ!」
 気絶から回復し、城崎 香佑(金緑石(fa4717))から『歪がわさわさ来て、倒して、偽者だった』という説明というより手抜きの粗筋のような説明を受けた旭 貴朔(柊ラキア(fa2847))は、仕事はある程度理解しつつも状況はまったくもってチンプンカンプン。優しく説明してくれる先輩はここにはおらず。
「それじゃあ代わりに」
「ゴーンは間に合ってますから! こっちに!」
「何で俺」
 こんな美樹 秋緒(檀(fa4579))と二宮 千鶴(欅(fa5241))、貴朔のやり取りを背に、怯えているカナン・藤堂(カナン 澪野(fa3319))も置いといて、如月 春燈(富士川・千春(fa0847))は敵楽士の追撃方法について考えていた。外部からの襲撃による混乱があったとはいえ、敵の本拠地最深部から脱出し果せるくらいの力を持った相手だ。少数、かつ消耗した自分達だけでどうすればうまく時間を稼ぐことが出来るか。
 と今まで斬り込み隊長的な立場だった春燈が考えているのは、現場での指揮者として臨時に置かれることになった楽師の身分を彼女が受けたからだった。本部から増援としてやって来た皇 翠(叶 侑那(fa5335))がそのことを彼女に告げた。
「とりあえずどんな作戦をとるにしても、行動は開始しましょう。作戦は動きながらでも考えられるわ」
 アイリーン・クィンス(アイリーン(fa1814))の助言。確かにそのとおりだ。綿密に作戦を立てても、いざ実行する時対象に追いつけなければ仕方ない。
「そうね。よし、じゃあ舞、チャクラムを‥‥舞?」
 辺りを見回すも探す葉月 舞(月見里 神楽(fa2122))の姿は見当たらない。数を数えてみても9人。
「「敵の偵察にGo!」と言って一人カッ飛んで行きましたが‥‥あれは楽師の指示ではなかったのですか?」
 先の歪ダミーらの襲撃時には正面部隊におり、今はこの追撃部隊に再編成されたフィン・スターニス(相沢 セナ(fa2478))が報告。彼が舞のことを知っていたならば、この戦いが初陣である彼女が一人偵察に出されるなどということは無いと分かっただろうが。残念ながらこの楽士の業界、年齢と能力は比例するものではない。年齢と経験はある程度関係するにしても。
「なっ‥‥もうっ、一人で帰るより楽師の近くが安全とか言ってたのは誰よーっ!」
「マイスター・ハルヒ。遅れましたが、増援としてこの部隊に配属されました、フィ」
「ごめん、自己紹介は後で! 皆、追いかけるわよ! 走ってあのスノボに追いつけるかしら‥‥」
「‥‥了解しました、楽師」
 逃げる敵の追撃といえば慌しいものだが。慌しい理由はどこかもっと別のところにもあるような気がする。

 ・ ・ ・

「別に舞が倒さなくったって、先輩がどうにかしてくれるっ!」
 一人チャクラムで先行し追撃対象に追いついた舞は、そのままスピードを緩めることなく敵の集団の側面を通過する。幾つか攻撃も飛んでくるが、殆どは舞にぶつかる前に消えていく。普通の喧嘩なら12mは相当な距離だが、今の舞にとっては瞬時に通過できる。だから問題は長射程の高速弾、または誘導弾。だがそれらは飛んでくる様子が無い。無理に接近して白兵武器で叩き落されなければ、チャクラムの効果時間分は間違いなく稼ぐことが出来る。
「舞! 大丈夫!?」
 チャクラムもそろそろ消えるかというころ、タイミングよくかかった声。
「大丈夫だよっ、舞は誰にも止めれない♪」
 でもたまには止まってくれ。誰かの心の声が聞こえるようで聞こえない。
 乗るチャクラムを滑らせ春燈達の方へ向かう舞。そこへ飛んでくる攻撃はアイリーンの結界が弾き飛ばして。
「『焔の輝き 速き熱さと 孤高の強さ』」
「『炎龍双飛』!」
 舞が強制連行的に後方へ引っ張られるのと入れ替わる形で貴朔と千鶴が前に出る。基本陣形は前から中射程、短射程、長射程。生み出された火球が敵の部隊に降り注ぐ。
「どんどん撃ってください! こっちは幾らでもリロード出来ますから!」
 幾らでも、というのは間違いではあるが、しかしこの場では翠の言うことはほぼ正しい。能力の回数切れを起こした楽士は多少鍛えていてもやはりただの人間。あまりにも拙い戦い方をしなければ、翠という補給担当者がいるこちらが圧倒的有利。
 飛んでいく火球はしかし、敵の楽士が張った結界により防がれる。だがお返しとばかり向かってくる電撃や光の矢、饅頭もアイリーンの結界が防ぎ切る。
「向こうにも結界の歌い手がいるのね‥‥」
「マイスター・ハルヒ。どうやら、向こうの本隊も動き始めているようです。決着をつけるならば、急ぎましょう」
 サクソフォーンから発した波動で周囲の状況を把握したフィンの報告。
 中・長距離では持久戦。ならば。
「斬り込みましょう!」
 バチリと春燈のエレキギターに電撃が奔ると、それがトライデントを形作る。香佑もチェロの弓をハルバードに変えて。

●真実の光
「このフルートの音‥‥皆、ちょっと待って!」
「どうしたんですか?」
 演奏をやめた春燈に翠が尋ねる。が、返答は来ず、ただ相手の音を聞くだけ。少しして秋緒に向けられる春燈の視線、頷く秋緒。
(「まさかとは思っていたけど‥‥ね‥‥」)
 内部から結界が破られたこと、これだけの事件になっても一度も姿を見かけないことから、そういう事態は想定していた。灯などなら正面部隊にいたが弾切れで引っ込んだことも考えられたが、楓雅は。
 しかし。敵の姿はどう見ても見知った彼らではない。どこかで見た事があるがどうしても名前を思い出せない誰か、といった風体のやつらばかり。
「アイリーンさん、『明鏡止水』をやろう!」
「分かったわ」
 言って、アイリーンは結界の歌を紡ぎ始める。春燈や秋緒が何に気付いているのかは分からないが、それはきっと必要なことなのだろう。
「広域は神経を使うから気乗りはしないんだけど‥‥『その盾は戦士たちに城砦の如き守護を与えん』」
「『number of times recovery』」
 飛んでくる攻撃をまず通常結界で防ぎ、翠の能力使用回復を挟んで『共音』、『明鏡止水』用の結界を構築し始める。
「『その新世界は全ての命を受け入れ包み込まん』」
「『enclosure release fix』‥‥」
 アイリーンが形成した超巨大結界に、翠が歌を重ねる。対象を『リセット』する翠の歌は、結界内の『歪められた』事象をリセットする。
 時間の経過と共に劣化していく結界は秋緒の『奏』で崩壊と共に再生し、カナンの『歪み』を捕らえる光が内部を満たす。
(「失敗できない、大事な『共音』‥‥でも!」)
 舞が生み出した巨大な氷のチャクラムが、光満ちるドームにピッタリと嵌る。それは真実でない姿全てを映す鏡。
「割れろぉっ!」
 香佑がハルバードを大上段に大きく振りかぶり、完成した偽りの鏡に最大の一撃を見舞う。衝撃を受けた鏡は砕け散るのではなく光る粒子となって地に降り注ぐ。
 妨害・工作系の能力による偽装を消去する『共音』。結果‥‥

 ・ ・ ・

 現れたのは、見知った仲間達だった。
「け、蛍兄‥‥?」
 呆然とする貴朔。憧れている蛍雪が追撃中の敵と一緒にいるということは‥‥
「もしかして、日本協会の裏切り者っ!?」
「裏切りー! 裏切りー!」
「ちょっと、貴朔落ち着きなさい!」
 舞の一言が引き金になって、目の前の不明な事態に答えを見つける貴朔。秋緒の注意も最早聞こえない。
「長男命令発どぉー! 千鶴&香佑、我に続けーっ!」
「弟なのか。‥‥命令ラジャー」
「いいのか。そもそも、何の兄弟なんだ」
 勿論、ゴーンの。
「貴朔、ここに麻痺効果のトッピングがいるからついでに混ぜるぞ」
「‥‥え? 僕も兄弟なの?」
 千鶴に抱えられたカナンは微妙に嬉しそうだが、決して名誉な称号ではない。この兄弟は問題児のラベルだ。
「『土の安らぎ 風の気まぐれ 水のささやき』‥‥」
「『四方蓮華』!」
 貴朔の3属性弾と千鶴の炎、カナンの麻痺光のセットが、向こう側へ向かって放たれる。
「落ち着きなさい! 向こうから攻撃もしてきませんし、何か理由があるかもしれないでしょう!」
 ゴーン! ゴーン! ゴーン! と3連発。但し、頭を抱えるのは千鶴と香佑。本来喰らうはずだったカナンは香佑が庇い、何とかゴーン兄弟への名実共にの入団は避けられた。
「落ち着きなさい」
 香佑がカナンの前に出てきたのは、貴朔と千鶴を止めようとしていたからだ。向こうにいるのは見知った仲間で、貴朔達は仲間に向けて攻撃を放っている。止めるためにはどうすればいいか。手には武器があった。
「落ち着けば、しっかり出来る子でしょう。後ろから見てるから知ってるのよ」
 一方で、カナンも同じく千鶴に抱えられたまま二人の邪魔をしようとしていた。それは、相手の中に従兄弟の姿を認めたためだった。『四方蓮華』3人集にゴーンが決まり、うちカナンの分は香佑が代わりに受けたことで、秋緒、香佑、カナンの思惑は叶ったことになった。攻撃は止まった。
 そして、もろに喰らったはずのゴーン兄弟長男は。
「『苦し狂音 全ての根源 還り闇』」
 ゴーン効かず。バカンス没収などの裏切りの際には、貴朔は平常時以上の戦闘力を発揮するのだ。その戦闘力増加分は何とタイヤキ6つ分!
「なんて、コミカルな場面ではありませんね」
 フィンの次元を超えたツッコミ。
 貴朔の突き出した掌から放たれたのは漆黒の弾丸『滅の歌』。それはぶつかったものを消失させる、新米時代に封印させられた『歌』。
 蛍雪に向けて撃ち出されたそれは、リディアが張った結界を貫きながら消えた。しかし、攻撃は一発では終わらない。蛍雪と楓雅が放った動きを止めるための攻撃も効かず、次の結界は自分も張らねばとアイリーンも構える。
「止めなきゃ!」
「私に任せてください、楽師」
 貴朔が再び『歌』を紡ぐ。そして、次の瞬間。
「かかった‥‥これで!」
 くい、と貴朔が両手を空に伸ばす。真上へ飛んでいく黒い弾丸。そのまま左足を上げたり、首をかくかく曲げたり。
「使用回数を温存しておいて正解でしたね」
 フィンのサクソフォーンから放たれた波動に捕らわれた貴朔は、今はフィンの思うとおりに操られるまま。『マリオネット』による貴朔ダンスは、効果時間いっぱいまで続けられた。

 ・ ・ ・

「よし、それじゃ、話を聞きに行きましょう」
「え? ちょっと、あの人達には抹殺指令が出てるんですよ!?」
 秋緒の言葉に、翠が反論する。だが。
「ええ、抹殺指令は出ているわ。でも『彼ら全員に』とは限らないわ。脱走者が対象だけれど、中には止むを得ず同行している人もいるかもしれないでしょう?」
「止むを得ず‥‥人質、ってことですか?」
「その可能性も、考えられるでしょ?」

●それぞれの道
 彼らの事情を聞いて、追撃部隊の皆は一様に驚いた。当然である。それまで拠り所としていた自分達の所属する協会が、何の前触れも無く所属員を消そうとしてきたというのだから。加えて、カナンが改めて言うまでもなくイリヤと共にいた楽士達はロシアの楽士だと名乗ったが、彼らが言う『日本協会が秩序を守る集団ではなくなってきている』という情報。こちらに関しては、どこまで信じていいのか不安ではあるが。
「は? 何よそれ、旅に出るってどういうこと!?」
 それは春燈の耳に入った兄と灯の言い争い。
「灯、お前も協会へ戻れ。お前の力では無理だ」
 一人歩く灯に、楓雅が声をかけた。しかし、灯は無言で首を振って。
「俺は俺の納得できる答えを探さないとだめなんだ。協会にいたら、いつか馴れてどうでも良くなって、わけのわからないものに染められて終わるだけだ」
 俺は姿を消すと言う楓雅と、その楓雅にお前は残れと言われている灯。そもそも、旅に出る必要性が分からない。春燈は灯の尻を蹴っ飛ばして。
「灯、そんな事言い始めるくらいだからちゃんとした理由はあるんでしょうね!? 皆が納得できる理由を5文字以内で言ってみなさい!」
「じゃ、止める理由を5文字以内で言ってみろよ」
「そっ‥‥それは‥‥」
「旅に出るって言ったって、オレはお前らの敵になりに行くわけじゃないからな。間違えんなよ」
 背を向けて離れていく灯の背に春燈は、
「セッション相手が欲しくて寂しくなったら、いつでも戻ってきていいわよ」
 それだけ、声をかけて。
 兄も、譲らないだろうな。

 ・ ・ ・

 追撃部隊10名、全員帰還。脱走者達を止めることは出来ず。
 また、脱走者達に人質として取られていた者1名、人質を盾に付き従わされていたもの3名救出、共に帰還。
 戦闘中行方不明、生死不明の者。如月 楓雅、遠野 静流、久瀬 灯、イリヤ・フォルトフ、以上4名。

 脱走者達は本隊と合流、そのまま逃走。以降、足取りは不明。

 ・ ・ ・

 報告書を纏め上げ、秋緒は軽く一息をつく。本来は春燈が纏めるものだが、彼女が作った第一弾は報告書と言うより感想文だった。
「これからどうなるのかしらね」
「分かりませんけど‥‥1度イギリスの知人をあたってみようかと思うわ。第3者的立場が、物事が一番良く見えそうな気もするし」
 纏めの手伝いをしていたアイリーンは、まず誰に聞いてみるべきか記憶を辿る。

 ・ ・ ・

「申し訳ありません、奴らを取り逃がしました」
「‥‥少し、計画を急がなければならんな。イギリスや中国の協会も感付いたようだ。そのうち、動き出すだろう」