奏デ歌ウ想イ―終曲・後アジア・オセアニア

種類 シリーズEX
担当 香月ショウコ
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 9.9万円
参加人数 13人
サポート 0人
期間 03/22〜03/26
前回のリプレイを見る

●本文

●『奏デ歌ウ想イ』の世界
 奏歌楽士とは、『奏』『歌』という特殊な能力を使用し『歪』と戦う者達のことである。『奏』を使用する者を『奏士』、『歌』を使用する者を『歌士』という。
 この『奏デ歌ウ想イ』は、彼ら奏歌楽士達の戦いの記録を記す特撮番組である。

 『歪』とは、特定の形を持たず宙に浮く影のような存在である。楽士達は世界各国にある楽士協会に所属し、そこから下される指令によって『歪』退治を行う。

●出演に当たって
 出演者には以下注意点各種を踏まえてテンプレートを埋め、番組の登場人物を設定してほしい。

【能力】「奏」もしくは「歌」を選択。
【ジャンル】能力の種類を設定。いずれか一つ。
 奏‥‥白兵(+5)、単体射撃(+3)、複数射撃(+2)、散弾/扇状/放射(+1)、回復(+3)、補助(+3)
 歌‥‥単体射撃(+4)、複数射撃(+3)、散弾/扇状/放射(+3)、回復(+3)、補助(+4)、修復(+5)
【射程】能力の射程を選択。いずれか一つ。
 奏‥‥短(+5)、中(+3)、長(+1) ※短:0〜1m 中:1〜12m 長:12〜100m
 歌‥‥短(+4)、中(+4)、長(+2)
【効果】4つのパラメータに合計20ポイントを1〜15の範囲で振り分けてください。
 威力/効果:破壊力、回復力等。
 速度:演奏・歌唱から発動までの速度。射撃であればその弾速。
 持続:その能力が発動してからどれだけの間効果を持って存在し続けるか。
 安定:発動確率、効力の安定、妨害に対する抵抗。
【回数】能力を一日に使用できる回数。
 ジャンルと射程を決定後、()内の数値を足した数。
 パラメータポイントを2点消費することで使用回数+1することも可。
【その他】能力についての注意点
 『奏士』と『歌士』の掛け持ちは不可。しかし、『奏士』なら『奏』、『歌士』なら『歌』の複数習得は可。
 能力ジャンル・射程の変更は可。但し、以下の二つの条件を遵守すること。
 ・ジャンルが『威力→威力』『効果→効果』は有。『威力→効果』『効果→威力』は無。
  つまり、攻撃系と補助・修復・回復系能力を跨ぐことは出来ない。
 ・1つの回の中でジャンルを変更するのは不可(テンプレの都合上)。

<キャラクターテンプレート>
キャラ名:
能力:能力・ジャンル・射程/効果:威力・速度・持続・安定・回数
備考:

※皆さんが演じるのは奏歌楽士です。一般人、マイスターは現在選択できません。

※フリー楽士オプション
 今回、参加者はフリーの楽士を選択することが出来ます。フリーの楽士となる方は以下の制限に注意して設定を作ってください。
 ・無条件で『奏歌』の持続+1、使用回数+2。
 ・3人以上での『共鳴』『共声』『共音』の発動・参加不可。
 フリーの楽士は協会に属さず、一人で戦うことに慣れた楽士のことを指します。よって協会を離反した・除名されたことでフリーの扱いにはなりますが、直ちにフリー楽士オプションの対象になるわけではありません。オプションが適用されるようになる基準は決まっていませんが、協会に所属しなくなってから最低でも半月以上を目安にしてください。

※連続戦闘オプション
 『終曲・前』と『終曲・後』は間に日を挟まない連続した物語です。そのため、『奏歌』の使用回数が回復していません。
 今回の参加者の皆さんは一律、能力の使用回数が半分(端数切捨て)の状態でスタートします。継続参加の方は残り回数を明記する必要はありません。新規で参加の方は、テンプレートの回数の部分には減った回数の方を記入してください。

●終曲
 新人楽士達の士気は崩壊した。今後個別での行動はあるだろうが、組織だって立ち塞がらない彼らに感じる脅威は非常に小さい。
 次席楽師、市村 七海は捕縛された。新人楽士の育成を担い、今回は彼らを統率していた彼女は、最後には新人楽士達を守るためにその能力を使い切った。
 『転送弦』の在り処は判明した。また、その結界強度も確認した。言えるのはただ一言、『破壊困難』。対処法は結界の主を倒すか、『結界解除』、日本協会を丸々吹き飛ばすレベルの攻撃を加えること。

 まだ、解決しなければならない事項は存在する。

 新人楽士達の抵抗が無くなった代わりに、集まってきた敵増援。彼らは『歪』調律の実戦を潜り抜けてきた戦士達である。彼らをうまく退けなければ、作戦は失敗する。
 主席楽師、桐原 藤次も健在である。彼は『転送弦』の下にはおらず、おそらく『楽譜』の守りについていると思われる。
 その状況下で、『楽譜』か『転送弦』を破壊しなければならない。結界の主を倒すにはまず該当する楽士を探す必要があるが、心当たりは一人もいない。『結界解除』の少年については協力が得られるか、能力の残りがどれだけか、そして張られている結界が何枚なのか不明なのが不安材料である。高破壊力の攻撃は、果たしてそれが可能なのかどうか、そして協会の崩落に自分達も巻き込まれるのが難点である。

「何のために奏でるのか。誰のために歌うのか。歪みを叩くハンマーに、気持ちの歪みは許されない。‥‥奏歌楽士よ、調律せよ!」

●今回の参加者

 fa0847 富士川・千春(18歳・♀・蝙蝠)
 fa1276 玖條 響(18歳・♂・竜)
 fa1359 星野・巽(23歳・♂・竜)
 fa1465 椎葉・千万里(14歳・♀・リス)
 fa2122 月見里 神楽(12歳・♀・猫)
 fa3319 カナン 澪野(12歳・♂・ハムスター)
 fa3369 桜 美琴(30歳・♀・猫)
 fa3742 倉橋 羊(15歳・♂・ハムスター)
 fa4371 雅楽川 陽向(15歳・♀・犬)
 fa4769 (20歳・♂・猫)
 fa5241 (20歳・♂・蝙蝠)
 fa5498 雅・G・アカツキ(29歳・♂・一角獣)
 fa5538 クロナ(13歳・♂・犬)

●リプレイ本文

●決断
「転送弦の破壊は、不可能と考えて行動を組み立てたほうが良さそうですね」
 転送弦の設置されていた部屋から出た一行は、暁(雅・G・アカツキ(fa5498))の張った身隠しの結界を利用して移動していた。目的地は決まっていないが、とりあえず周辺を探索しつつ、別行動の隊を待つ。
「弦が無理なら楽譜叩きゃいいんだろ。増援が来る。あいつら待ってる時間はねえぞ。どうすんだ」
 景山 千歳(忍(fa4769))の言葉に、灯(倉橋 羊(fa3742))が決断を急かす。既に自身の中でどうすべきか、行動の指針は出来上がっているようではあったが。
「楽譜を狙った方が良さそうなのは分かりますが‥‥強敵がいそうですね。まだ僕達は主席楽師と会っていません。楽譜の守りには主席楽師がいると見て間違いないでしょう」
「だが、諦めるわけにはいかない。破壊できる確証が得られない転送弦に執着するよりは、楽譜を探した方が早いだろう」
 これからの行動は決まった。鵠夜(玖條 響(fa1276))が言うよう主席楽師とやり合うことになる可能性もあるが、転送弦の結界と主席の戦闘力を比較する術が無い現状、どちらが効率の良い作戦だと決めることは出来ない。楓雅(星野・巽(fa1359))を先頭に、転送弦の部屋から近く、かつ物々しい雰囲気の部屋を探すことになった。
「おそらく、次席楽士達との戦いはもう終わっていると思いますよ。ボリスもアドリアンもいますし。『不協和音』の巻き添えを喰っていなければ、皆無事でしょう」
 実際のところ巻き添えを喰ったというのが一番現実味のある状況なのだが、千歳は次席楽師と新人楽士達の対処にまわった面々のことをそう推測する。
「転送弦に一発ぶち込んだわけですし、俺達の所在はもう協会の楽士には知られているでしょう。本格的に物量で押し潰される前に合流して、さっさと決着をつけてしまうのが最善なのですが」
「そういえば」
 楓雅が一言呟いて足を止める。それに続いて、皆も何事かと立ち止まる。
「合流場所を決めてない」
 あーあ。地下4階でって言っても、どこよ?
「大丈夫、その辺は一応手配しておきましたよ」
 と、千歳。

 ・ ・ ・

「ハックシュン!」
「どーしたん? 湯冷めしたんか? いや、湯冷めしそうなんはパパの方か」
「俺はあんなDHAたっぷりなゲテモノの子じゃねえ」
 その頃地上階では。二宮 千鶴(欅(fa5241))と朝香 凛(雅楽川 陽向(fa4371))が次席と戦ったメンバーと合流していた。今までどこにいたのかと如月 春燈(富士川・千春(fa0847))に尋ねられた凛は「迷子になっとった」と答えたが、それは正しくない。一応、千鶴の弁護をしておく。
 千鶴は、春燈や灯達より先に再突入を行った。それはある人物からの指示で、やって来るだろう増援の数や姿の見えない主席楽師の動きを把握するため。そのために色々と動き回っていたのを、調査と知らずほわんとついて来た凛が迷子と誤解しただけである。
「まだ増援部隊と主席が残ってる、この人数だと主席はちょっと辛いかもな」
「増援も楽譜も、主席をシメたったらエエと思っとったんやけどな。下に降りたのと合流せんとあかんかな」
 アルーシュカ(椎葉・千万里(fa1465))の乱暴発言だが、現在それを咎める人間はいない。エレオノーラ(桜 美琴(fa3369))はボリスをボコボコに蹴飛ばしており(罪状は『耳を塞いだこと』。百烈キックの刑)、それをカナン・藤堂(カナン 澪野(fa3319))が止めようと一人であわあわしている。その惨状をアドリアンは一人腹を抱えて笑っており、他の面々は皆作戦会議中。『転送弦』の在り処や増援の配備状況、主席の所在についてなど。
「ラグナはやっぱり知らないか〜」
「うん‥‥ごめんね」
 気にしない気にしないっ、と葉月 舞(月見里 神楽(fa2122))が肩をバンバン叩いてガックガクと振っているのはラグナ・イスラ(クロナ(fa5538))。ついさっきの戦いで新人楽士達の中にいた、舞の友人である。初の実戦を先程体験したラグナは少しばかり気持ち的に疲れていたが、明るくそれまでと変わらない舞の振る舞いに少しホッとし‥‥そしてそろそろ目が回ってくる。
「とりあえず、地下4階に行かなきゃならないわね。主席楽師と戦うのにも増援をどうにかするのにも、戦力が足りないわ」
「そうね。こっちも刑の執行は終わったから、心置きなく行けるわよ」
 ボロ雑巾と化したボリスを放置して、やって来るエレ。
「んー、でも、今皆は地下4階のどのへんにおるんやろ? いつ、どこで待ち合わせとか決めてへんよね」
「俺が聞いてる。向こうに行ってる千歳から、状況によって何箇所か」
 ん? と首を傾げるロシア組。千歳と千鶴の間に接点が見出せない。
「いや、ついさっき言われて知ったんだけど、母方の従兄弟同士だったらしいんだよね。俺、今まで知らなかったんだけどさ」
 再突入の直前、増援や主席について調べてくれと頼まれた時に明かされた真実。ということは。
「千歳にも目玉の血が流れてるのねー」
「母方のって言っただろ。つーかその前に茶碗オヤジ関係無ぇ」
「ま、それはそうとして、ちゃっちゃと行きましょうか」
「スルーかよ」
 レッツゴー、と一人逆方向へ歩き出す舞を春燈が連れ戻しに行き、次席楽師市村 七海監視のためにボロ雑巾を残して移動を開始する一行。ボリスの発動が遅い能力は、これから先使い勝手が悪いという理由による。
「ねえ、僕達はこれから地下4階に行くんだけど‥‥一緒に来てくれないかな。時間が、無いんだ」
 一方で。『結界解除』の少年にカナンと凛が話しかける。強力な結界が張ってあるという『転送弦』。『楽譜』の在り処は未だ不明だが、どちらも日本協会にとって重要なものだとすれば『楽譜』にも結界が張ってある可能性は充分ある。精神支配『楽団』の発動まで時間的猶予の無い今、少年の協力は得ておきたかった。
「『楽団』を見過ごすんは、歪に取り憑かれた君みたいな人を何万人も作るようなもんなんや。自分が自分でなくなるんは嫌やから、うちは戦う。君は、どうするんや?」
「僕は小さい頃から楽士の世界にいたから、他の世界のことはあまり知らないけど‥‥君は僕の知らない色んな世界を知ってるんだよね。その世界を守るためにも、力を貸してほしいんだ」
 その言葉たちに、少年は。

 ・ ・ ・

「皆、無事か?」
「何ともないけど‥‥いきなり冗談じゃねえよ、ったく」
 壁に空いた直径2m程の穴。そこから大きく離れた場所で、灯達は息をついていた。
 暁の結界の残り回数も少なくなり、ここまで結界に頼らず身を隠しつつ進んできた。そこで発見したのが、今そこで穴の空いている壁の部屋。穴の部分は元々、扉があった。
「自分が弱いって宣言するのも癪だけどさ、あいつら待つべきじゃねえの。‥‥この人数でアレに向かったら死ぬと思うんだけど?」
 アレ。主席楽師、桐原 藤次。藤次が放った一撃が、扉ごと壁を抉ったのである。その威力の他に、不安要素が一つ。ロシア協会の特殊部隊のリーダー、シードルが受けた傷は藤次からのものだったらしいが、その傷の様子と壁の壊れ方を見ると同じ能力とは思えないのだ。
「シードルさんが使うドール(いわゆる『式神』のようなもの)に近い何かを持っている可能性がありますね。幾ら強い奏歌楽士でも、一人で何十何百を相手に出来るわけではありません。能力の回数に限界がありますから」
「つまり、予備の武器として奏歌の詰まった歩く手榴弾を持っているようなイメージですね?」
 鵠夜の回答に、千歳が頷く。シードルに大怪我を負わせた攻撃と今の削岩攻撃、どちらがどちらかは分からないが。
「だが、急がなければ『楽団』を発動されてしまう。何とかして『楽譜』を破壊しなければ」
 楓雅がそっと壊れた壁の端から部屋の中を覗き込む。部屋の奥には藤次。そしてその後方には青白く発光する円柱状の物体。その中心に何か塊が浮かんでいる。これがおそらく『楽譜』だろう。
 ふと、藤次と目線が合う。顔を引っ込める楓雅。
「急がなきゃいけないのは分かってるけど、玉砕するかもしれない状況で突っ込むのはいただけないわ」
「こいつと同じこと言うのアレだけど、結果求めるなら、何よりもまず『生きて』帰らなきゃ負けだというのが我が家の信条。退くぞ。あいつらも来れば、また何か方法も見つかるかもしれないだろ」
「方法って、何の?」
 楓雅の服の袖を引っ張って戻ろうとした灯の目の前で、千歳が女の子の声で喋る。
 と、思いきや。後ろからひょっこり現れるアルー。そして上の階で次席楽師達と戦っていた面々。長身の千歳に小柄なアルーが隠れていただけだった。


 場所を変えて一段落。
「主席の能力は結界じゃないの?」
「ここ初めて来たよ! エレベーターには地下3階までしか無いんだもん」
「おそらくな。もしそうだったら『楽譜』にも結界を張っているはずだ。だがそんな雰囲気は無かった」
 春燈の問いに楓雅が答える。そう、藤次のいた部屋からは『転送弦』の部屋で感じたほどの圧力は感じられなかったのだ。実際は結界の一枚や二枚張ってあるのかもしれないが、『転送弦』の結界と比べれば分厚い鉄板と和紙ほどの差があるだろう。
「あれでは威圧感に気後ればかりしてしまって‥‥」
「『転送弦』ってあっち? 見に行ってもいい?」
 そう鵠夜が言うあの結界。確かにあれは異常だった。結界がそこにあるだけのはずなのに、藤次の存在感や威圧感を簡単に凌駕していた。例えるならば、こちらに銃を向けている人間よりも、その辺に落ちている弾丸一発の方を恐ろしく感じてしまうような。
 ‥‥そしてさっきから観光中の舞はどっかにいなくなる前に捕まえておくのが吉。春燈、逃がすなよ?
 日本の春は暑い、と服の襟元から外気を入れようとしているアルーだが、全く心地よくならない。ロシア出身の彼女にとっては暖かいかも知れないが、実は鬱陶しい程には暑くも蒸してもいない。ただ、何かまとわりつくような圧迫感が地下4階にはあった。
「結界の主をボコるんが一番簡単そやけど、それが主席でもなく、誰やら分からへん、と。やったら、日本の楽士全部と主席シメたって、全員正座でエレの歌聴かせたったらええんや。皆泣いて謝るで」
「じゃあ、その時はアルーにも協力してもらうわよ?」
「うちの歌聴いたら皆泣いて讃えるで? エレと一緒にせんといて」
「じゃあ、試してみましょうか」
 千歳が二人に言う。は? と顔を上げると、既に皆一方向に視線を向けていて。
「‥‥敵?」
 ラグナが小さく呟いた。

●決戦
 次々にやって来たのは、奏歌楽士達。来たそばから投入されているらしく数人ずつの登場だが、それでも侮ることは出来ない相手だということを、千鶴や楓雅などはよく知っていた。彼らは歴戦の楽士達。一人ひとりがほぼ自分達と同じくらいの力は持っている。
「あら、嫌だ‥‥。これは歌無しではキツそうねぇ? アルー、行くわよ!」
「もう好きにすればええよ」
「『燃え上が』‥‥」
「お嬢ちゃんまだ止めとけ! 命が惜しくねぇのか!?」
 歌の準備を始めた二人に威力上昇の歌をかけようとした凛が、アドリアンに止められる。何で? と凛は首を傾げるが、そのへん分かっているカナンや千歳、ラグナはホッと息をつく。

「          !!!」

「‥‥っ、今だお嬢ちゃん、テンション上がるやつを‥‥嬢ちゃん!?」
「ちょっとタンマ‥‥」
「やる直前に一度、やると言ってほしかったですね」
 見事に全滅。

 閑話休題。

「『燃え上がる 炎の力 手に掴む』『広き地を 風の翼で 駆け巡り』『動かざる 岩になろう この想い』『輝ける 光纏いて 武神なる』」
 残っている全ての力を使って、味方に能力向上の歌を歌う凛。そして回数を温存したいエレと共に後方に下がり、そして。能力の回数回復。
「ふふふ‥‥覚悟してねぇ♪」
「Σ( ̄□ ̄)」

「ええーいっ!」
 大きく振りかぶって、舞が特大のチャクラムを放つ。それは敵楽士達に高速で向かっていくが、あまりの速さに浮き上がって外れ‥‥いや。敵の頭上で停止するチャクラム。それは心なしかさらに巨大化をしているようで。
「‥‥これは攻撃だっ! 回避しろっ!」
「させないよっ!!」
 落下を始めるチャクラムを回避しようと動き出した敵楽士達に、ラグナの弓から放たれた風の散弾が襲い掛かる。回避に意識を割いていた者達は散弾に打ち据えられ、散弾に気付き躊躇した者はチャクラムの下敷きとなった。
「鵠夜!」
「分かっています。彼らも真実を知らない。出来る限りは手加減をしますよ」
 楓雅が振るう太刀からは鎌鼬が無数に発生し、それが倒れている楽士達と、新たに後方から現れた楽士達に向かっていく。そこに鵠夜の放った地走りの一撃が乗せられ、炸裂する。共鳴『鈍風』。当たった者の動きを大幅に鈍らせるそれは、態勢を立て直しきれなかった楽士には直撃し、しかし参戦直後の敵には結界や能力による迎撃で防がれる。
「やはり、敵も考え無しに突っ込んでは来ませんか」
「そんなの関係ねえ、まとめてぶっ飛ばしてやる!」
 弦を引き、弾く。灯の弓からは矢は放たれず、しかし一直線に光の衝撃が放たれる。『舞華二連』。その名の通り、光の衝撃で敵の体勢を崩した後に続いて放たれる第二撃が射線上の相手を吹き飛ばす。
「さ、ビリビリッとトドメいくわよ、カナン!」
「分かりました、春燈さん」
 春燈のエレキギターとカナンのヴィオラから異種の光が放たれる。電撃的な、電撃そのものの速さで到達した春燈の放射電撃が、続くカナンの戒めの光の回避を許さない。共鳴『Hydrozoa』は能力そのものの持続力は高くないが、効果終了後も長く身体に残る痺れがこの状況においては効果的だ。
「おいおい、随分と派手にやらかしてくれてるじゃねえか!」
 粗方片付いたかと思われたその時、さらに聞こえてくる声。同時に飛来する複数発の光弾。鵠夜や如月兄妹は跳んでかわし、カナンを暁が引っ張り上げて後方に配置。放たれた弾丸の主を探すと、灯達がここに来るのに降りてきた階段付近に、ギターを構えた大男がいた。
 そして、その前方に既に戦闘態勢で向かってくる二人の若い男。一人は青く光る西洋剣を、一人は赤いハルバードを構え。
「『ど け』」
 アドリアンが放った一撃は、しかし突然二人の前に現れた小さな光に吸い込まれて消える。かと思えば、遥か遠くで二つ、爆音。『空間』を操る女性歌士の仕業だった。
「面倒な相手ですね。千鶴、やれますか?」
「即席だから完成度に期待はするなよ」
「大丈夫ですよ。俺達はその辺のデコボココンビとは違います」
 その辺のデコボココンビ。灯と楓雅とか、暁とカナンとか、エレとアルーとか。
 千鶴と千歳が同時に歌を紡ぎ始める。放たれるのは無数の炎弾。だけではない。
 盾の一枚や二枚では防ぎようの無い数の炎。その中に混じって、千歳の透明な弾丸も繰り出される。目に見えている分だけでも回避が面倒なのに、さらに不可視の攻撃が含まれている共声『千乱千炎』。
 敵の二人は一度足を止め、各々に壁際に身を寄せる。それだけで回避など到底出来るはずも無いが、しかし。響いた少女の歌が『防御』を可能にした。
「これは‥‥『修復』の歌?」
 修復の歌は一般に、歪の調律中に周囲の環境へ被害を与えた際、それを復元するために用いられる。だが、この時は。
 敵楽士に迫る数多の弾丸。しかしそれは直撃せず、彼らの前に突如現れた結界に阻まれる。その結界は先ほど、楓雅と鵠夜の『鈍風』を防ごうと他の楽士が展開した結界。
「奏歌の修復なんてね‥‥くー、私の歌がまだ残ってれば‥‥っ」
 『修復』の能力は用いるエネルギー量が少なく、連続使用が利く。エレの歌が使えれば多少有利な展開に持ち込めるが、しかし使えるのはせいぜい後一回。この後に主席戦や『楽譜』『転送弦』を残している現状、温存しておきたかった。
「この、だったら結界ごと‥‥」
「待て灯、無駄遣いをするな。この後にまだ仕事が残っているんだ」
 青い剣の男と鵠夜が対峙し、春燈が赤い長柄斧の男を牽制する。このままでは負けはしないが勝ちもしない。そして、時間がかかればかかる程『楽団』の準備は進み、苦しい状況になっていくのはこちらだ。
 だが。持久戦に持ち込めば有利になるというのを敵は知らない。敵楽士達も『楽団』の存在を知らないということが、勝機となった。
 二人の男はそれぞれの相手と間合いを離し、タイミングを計るかのように構える。同時に後方で、二人の歌士が歌を紡ぐ。『共音』。
「そうそう良いようにばっかさせへんでっ」
 その歌の一つに、ノイズで妨害をかけるアルー。その妨害は成功し、中断される歌。そして。
「‥‥ちっ!」
 停止する『共音』。『共鳴』『共声』『共音』は威力が大きいが、その分弱点がある。その発動に参加する者達のタイミングがしっかりと合わなければ、まともに放つことが出来ないのだ。アルーの妨害で一つのパートが躓き、残りの三つがそれをフォローするか、無視するかで迷った。結果、大きな隙が生まれる。
 楓雅と春燈が長柄斧の男を追い詰め、鵠夜が青い剣の男を捕らえる。多少卑怯な手ではあるがこの二人を人質に呼びかけた投降に、残りの仲間の楽士達は応じた。後は念のため楽器を奪い、カナンの能力でそこらに転がしておく。

 ・ ・ ・

「『燃え尽きて 残る事なし 灰となる』『人知れず 風に消えゆく 定めかな』『砕け散り 欠片となろう 儚きよ』『永遠の 闇に誘われ 夢を見る』‥‥こいつもおまけや、黄昏っ! 『紡がれし 天駆ける光 輝きて 果て無き闇へ 誘い導かん』」
 凛の妨害歌と共に、壁の穴から鵠夜が飛び出した。一直線に藤次へ向かうことはせず、まずはジリジリと間合いを詰める。と、そこに藤次が投げ込む『何か』。それは床に落ちると大きく炎を撒き散らし、爆裂する。
「こちらが、手榴弾の方でしたか‥‥」
 藤次の攻撃を回避することだけを頭に入れ、走り回る鵠夜。直後、楓雅が部屋に突入。位置的に挟み撃ちをする形で移動する。
 藤次の左右に展開した二人。その二人が接近と離脱を繰り返し、藤次の注意を引く。そこに、舞のチャクラムが霧を撒き散らしつつ飛来する。視界を遮るその霧の向こうからは、続き千歳と千鶴の弾丸も飛んできている。
「フン‥‥甘いな」
 壁を破壊した『何か』を、チャクラムに向けて投げつける藤次。それはやはり強烈に爆発すると、チャクラムだけでなく後続の弾丸までも巻き込んで破壊する。その隙を突こうと楓雅と鵠夜が駆け出すが、しかし藤次の楽器から放たれた漆黒の矢がそれを阻んだ。
 藤次の楽器。それは紐のついた、振り回すことで音の鳴る『犬笛』。その軌跡をなぞるように空間に黒いラインが現れ、そこから次々に黒い矢が放たれるのだった。

「主席の能力って、『空間』系なのかなぁ? シードルさんが受けたっていう攻撃も、主席とは別の方向から来たんだよね?」

 カナンが呟いていた言葉。それは藤次の奏を言い当てたものではなかったが、しかし『別方向から来るかもしれない』という忠告は正しかった。
 くい、と藤次が紐を引いて犬笛を手の中に納める。すると、楓雅と鵠夜の傍を通過した後壁際で停止していた漆黒の矢が、再び速度を上げて背後から飛んで来た。
「ぐっ‥‥!」
「鵠夜!」
 漆黒の矢を回避し損ねた鵠夜に、楓雅の叫びが響く。漆黒の矢は鵠夜の右腕と右足に深く突き刺さり、血が止め処なく流れる。動きの鈍る鵠夜に、藤次の犬笛が向けられ。
「‥‥終わり、ですね」

 あなたが。

 迸る衝撃は、放たれる前からその存在を主張する『共音』の雄叫び。千鶴の残る力を結集して作られた炎の龍が、舞の形作る水の龍が、春燈の放つ雷の龍が、カナンの光の帯と絡み合いながら藤次に向けて突撃する。
(「派っ手な技やねえ‥‥」)
 アルーが自身も歌を載せつつ、驚愕する。『双龍陣』、それは以前、日本協会を守る強力な結界を力尽くでぶち抜いた強力無比な『共音』。構成員は違えど、威力は落ちない。寧ろ、今回はパワーアップしている。
 藤次が次々に『何か』を放って相殺を試みる。だが、アルーの『リサイタル』によって発動する威力がまちまちになっているそれは、藤次の目算を誤らせる。追加で、ありったけの『何か』を用いらざるを得なくなる藤次。舌打ちの音など轟音にかき消されて聞こえず。

 突入前の作戦会議。藤次の戦闘力については詳細は分からなかったが、パッと見の破壊力などからエレが分析するに、予備の武器を持っているにしてもそれほどの数は無いだろうと予測されていた。
 だが、真正面から戦うにはやはり不利。そのため、楓雅と鵠夜が先に突撃して藤次を多少でも消耗させておき、残りの面々は後方援護に見せかけて『双龍陣』の準備をしていたのだった。
 そして、藤次の注意が逸れた瞬間。策は成った。

 『双龍陣』の強大なエネルギーを、藤次は全武器を投入して押さえ込んだ。結果、噴出した衝撃に周囲に立ち込める粉塵。『双龍陣』は無効化され、同時に、藤次の『何か』も全て出尽くした。
 だから、ここで。
「オレの全力の一撃‥‥好きなだけ味わえよ!!」
 晴れ始めた粉塵。その向こうで、灯が構える弓。放つは最大出力。
 藤次は撃ち込まれる光の矢に、漆黒の矢を続けて放つ。ひとつ、ふたつ、突き刺さる黒。それは光の矢を消し去ることはしなかったが、しかし照準を藤次から大きく逸らさせる。
 が。
 直後、爆音。さらに続いて解放される力。藤次から外れた灯の矢は、藤次の後方にあった『楽譜』を直撃、破砕した。やはり満足な結界は張られておらず、そのために藤次がその場を動かずに守り続けていたそれは、蓄えられていた奏歌のエネルギーを一度に放出する。
「もう、アンタは守ってあげないとか言ってる場合じゃないわね‥‥っ!」
 暁が持てる最大の力で結界を展開する。楓雅と鵠夜も、既に後方へ戻ってきていて。こちらへ向かってくる光の波動を、暁の結界が受け止める。
 ひび割れ、端から砕けていく結界。崩落する天井、吹き飛ぶ壁。結界の最後のひとかけらが消滅するのと、力の奔流が収まるのはほぼ同時だった。
「‥‥あれが全体に撒き散らされた力でよかったわ‥‥一箇所穴が空いただけとか、指向性のものになってたらアタシ達、蒸発してたわよ‥‥」
 ほんの一瞬前とは全く様子の違ってしまった部屋の光景に、皆呆然とするばかりだった。
 ここは地下4階のはず。なのに、青い空が見えていた。


 部屋の中にも周辺にも、藤次の姿は見えなかった。防護の結界も無くあの光に晒されたのだから、死亡したという可能性もあったが。しかし。
 楓雅が気付いた。『楽譜』の破片の中に、『楽譜』の中に浮かんでいた塊のようなものが含まれていないことに。瓦礫に埋もれて見つからないだけかもしれないが、だが藤次が持ち逃げしたという可能性も、生まれた。

●結末
 『楽譜』は破壊された。だが、まだ終わりではない。弾丸を全て駆逐しても、それを放つ拳銃自体を放置しておくことは出来ない。
 巨大なそれを見上げる『結界解除』の少年。目の前には『転送弦』。その結界が、少年の能力自体を忌み嫌うかのように威圧感を強める。
「結界の発動者も、増幅装置の類も見つけられず、か‥‥」
 呟く楓雅。とすれば、残されている手段は二つ。少年に『結界解除』してもらうか、諸共吹き飛ぶ覚悟で最大威力の『共音』を叩き込むか。だが『共音』では、自分達は吹き飛んだが『転送弦』は無傷という最低最悪な結末もあり得る。
「大丈夫です。何とか、頑張ってみます」
 少年のその言葉は嬉しいが、しかし心から信用して任せることは出来なかった。千歳には漠然と分かっていた。この結界の圧力を、新人楽士で、しかも今「頑張る」といった程度の少年が耐えられるはずはないと。途中で負けて諦めてしまうか、心が砕けるか。
 一歩、踏み出す。風速が強まったかのように、後ろへ押し戻そうとする力。実際風も吹いていなければ力もかかっていない。ただ、心理的な圧迫。
 さらに一歩、踏み出す。涙が出そうになる。汚い言葉の一つも吐きそうになる。
 もう一歩。踏み出したい。
 踏み出せる。
 踏み出した。
「残っとる歌、全部君にあげたるわ。少しは楽になったんちゃうかな?」
 『転送弦』の結界に触れるまで、あと4歩。
「大丈夫よ、一人じゃないわ。アタシも頑張るから」
 少年の前方に結界が展開される。その結界もすぐさま圧力に負け、崩壊を始める。だが、消えない。
 あと3歩。
「奏歌はどれも、一度に放つエネルギーが大きくなればなるほどエネルギーを消費する。対楽士の場合は対象を増やしてやれば相手のエネルギーを浪費させられるが、既に構築された能力であるこの結界は、エネルギーの消費量は変わらない。だが、エネルギー規定値のある結界にフル稼働以上の仕事をさせれば、一箇所に向けられる力は弱まるはずだ」
 鎌鼬が、地を走る斬撃が、電撃が、風の散弾が、結界に向けられる。
 あと2歩。
「この結界は、攻撃する意思のあるもの全部を対象にとるんだな? なら別に、奏歌でなくてもいいわけだ」
「一発、蹴りをかましてやるわよ!」
 あと1歩。
 あと1歩。
 あと1歩!
「「「いっけえぇぇぇぇぇ!!!」」」
 重厚に織り上げられた旋律に貫く指が触れたとき。
 大音響と共に、視界は眩い光で塞がれた。

 ・ ・ ・

 イギリス・中国両協会の部隊が到着して何か状況を聞きたそうにしているが、そんなものに構っていられるほどの余力は無い。楽士達は皆好き好きに、その辺で潰れていた。
 特に死にかけているのは灯。『転送弦』の結界破壊後、「威力が一番あるから♪」とエレの美声で回数を回復されたため。
「まあいいじゃない。陰謀はこれで全部終わり。『転送弦』も破壊出来たし、ハッピーエンドよ」
「全然ハッピーじゃねえよ‥‥お前も一度サシであれ聞いてみろ。『転送弦』の結界なんかデコピンみたいに思える」
 灯の言葉に春燈は笑って、さらに一つ質問を加える。
「じゃあ、あのお美しい歌声と『ゴーン』を比べたら?」
「‥‥‥‥分かんね」
 史上最大の難問。