映画をとろう2アジア・オセアニア

種類 シリーズ
担当 松原祥一
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 難しい
報酬 なし
参加人数 10人
サポート 0人
期間 03/31〜04/04
前回のリプレイを見る

●本文

 某月某日。
 映画好きが集って、自分達で撮る映画の話をしていた。
 一本うん億円、うん十億円の商業映画でなく、映画会社もスポンサーも絡まない低予算の自主制作映画。
 何の束縛も無く好き勝手に撮れるのは楽しい。
 話すうちに夢は際限無く膨らむ。
 もちろん、酒の席で話すのと実際は違うものだ。いざ撮り始めれば現実的な問題は山盛り。拘りぬいた挙句に延期、分裂、空中分解‥‥未完成の道を辿る場合も少なくない。仮に完成しても、上映のアテも無い。
 それでも趣味としての映画作り、或いは映画界のステップとして自主映画を作る人は多い。

「やってみようよ」
 誰かが言った。
 監督も、脚本も、俳優も、カメラも美術も音楽も何もかも未定である。
 すべて白紙のキャンバスに、これからみんなで色をつけていく。
 果たして、どんな映画が出来上がるだろう。

 初会合では10人が揃い、皆の方向性を話し合った。
 様々な意見が出されたが、まだ何も知らない同士。初回は顔合わせのみとして誰が監督をやるかなど役割分担は先送りとなった。
 それでも映画の為の準備は徐々に始まる。
 おそらく現代劇になるという予測から、見切り発車でロケ先などの下見を始める彼ら。

 二回目の会合が近づいた或る日。若い男女が映画作りを始めた面々のもとを訪れた。
「映画を作ると聞いたんですけど」
 2人は都内の某大学の学生で、サークルの会長と副会長をしている。
 映画研究会に所属する彼らは先日、ルーファス=アレクセイからこの映画作りに参加しないかと誘われた。具体的な話を聞きたいという彼らを、後日仲間と話して連絡すると告げて取り敢えず帰した。
「うーん、決めなきゃならんことが山盛りなわけだが‥‥」

さて、どうなる?

●今回の参加者

 fa0189 大曽根ちふゆ(22歳・♀・一角獣)
 fa0523 匂宮 霙(21歳・♀・蛇)
 fa0917 郭蘭花(23歳・♀・アライグマ)
 fa1181 青空 有衣(19歳・♀・パンダ)
 fa1339 亜真音ひろみ(24歳・♀・狼)
 fa1511 ルーファス=アレクセイ(20歳・♂・狐)
 fa1533 Syana(20歳・♂・小鳥)
 fa2315 森屋和仁(33歳・♂・トカゲ)
 fa2321 ブリッツ・アスカ(21歳・♀・虎)
 fa2564 辻 操(26歳・♀・狐)

●リプレイ本文

「スケジュール?」
「はい。あの、皆さん事務所も違いますし普段は別の仕事ですから、集れる日も限られてくるじゃないですか。クランクインはまだ先ですけど、今から考えておいた方がいいかと」
 おっとりした口調で話す大曽根ちふゆ(fa0189)に、郭蘭花(fa0917)は頷いた。
「あー、確かに‥‥」
 初回の会合から大分間が空いた。それには色々と事情があるが、スケジュールを管理する者が居ないのも理由の一つだろうか。ただ、スケジュール管理も楽なことではない。
「必要かもね」
「良かった。そう云っても貰えるなら、あたしもやりがいがあります」
 大曽根の本業はマネージャーだ。ある意味、この映画では最も割を食う仕事で、また必要な存在だろう。
 初仕事として彼女はスケジュールに関して色々と調整を入れたい意向を参加者に伝えた。今回の会合に来る事になっていた者は10人だったが、1人は連絡が取れなかった。

 二回目の会合場所も参加者の誰かの部屋だった。
 朝から各人がバラバラにやってきて、揃った頃には昼飯時になっていた。
「いい匂いだな」
 料理好きの郭蘭花が自慢の腕前を揮い、皆の分の昼食を作った。
「お代わりもありますから、いっぱい食べて下さいね〜☆」
 旬には少し早いが良い筍があったので筍ご飯と、具沢山のあったかい豚汁。人数が多いのでご飯や味噌汁の椀はかなりいい加減になった。
「美味いな。仲間と同じ釜の飯を食うのはいつも美味い」
 亜真音ひろみ(fa1339)が本当に美味そうに食べるので蘭花の顔が綻んだ。食事の後は全員で片付けを行い、そのあと皆で膝をつきあわせて車座になった。

 議題は映画のシナリオについてだ。
 匂宮 霙(fa0523)、亜真音ひろみ、森屋和仁(fa2315)、ブリッツ・アスカ(fa2321)がシナリオ案を出していた。四人のうち本業の脚本家は匂宮だけで、監督志望の森屋を別にしても亜真音やアスカは普通ならシナリオは門外漢だ。それも自主映画らしさと言えよう。
「じゃあ、座った順番てことで、霙君から発表していくか」
 カメラマンの森屋がそう言うと、呼ばれると思わなかった着物姿の匂宮は怪訝な表情を浮かべた。
「その事は話したはずだが」
「ん。事情は聞いたが初めて聞く者もいるからな、頼む」
 匂宮が案を取り下げたいという話は聞いていた。だが森屋としてはシナリオ決めはこれからの方向性を大きく左右する事だけに慎重に行いたかった。
「ふむ」
 匂宮は納得した様子で、腕を組んでどこから話すかを考えている。
「‥‥一言でいえば、死に続ける話、ということになる。
 最初に或る人が死ぬ。その死の瞬間に立ち会った者もしくは臓器を提供された人に死の記憶が伝染し、更にその人が死亡した時にも別の人にその人と前の人の二つの死の記憶が伝染していく‥‥、それが連鎖する話だ。映画として盛り上がりにかける点は、手直しが必要だがな」
 意見を言うのはまず皆の話を聞いてからという事で、次に亜真音が話す。日頃から武術で引き締まった体の彼女の本業はバンドヴォーカル、勿論これまで脚本を書いた事は無い。
「あたしの案は、匂宮の話を聞いて思いついた話なんだ。同じ臓器提供者から移植を受けた複数の人間が、それと知らずに臓器提供者の家族と関わりを持ち、協力しながらその家族を助ける為に奔走する話。
 これなら役は好きな設定が使えるし、家族と関わる物語は自由に出来ると思う」
「ひろみ君の案は霙君の物を原案にしてる訳だが、二人の合作という事で良いのか?」
 森屋が尋ねる。腕を組んだままで匂宮が答えた。
「いや合作とは考えてないな。ただ亜真音さんの案は中々面白そうだし、俺は自分の案はおろして彼女の案を推すつもりでいるよ」
 それで匂宮の案を推す者が居た場合はややこしくなるが、議論は後回しにして三番目に森屋のシナリオ案を発表する。
「俺の提案は、死後の世界の一歩手前の世界を描いたパニックホラーだ」
「死後の世界の一歩手前? 煉獄みたいなもんか?」
「宗教的な話じゃない。臨死体験なんかで、川向こうで既に死んだ筈の人が手招きして、凄く行きたいんだが踏みとどまると目が覚めて命拾いする話があるだろう?
 そんな風に死にかけの人間の精神が集る空間があって、そこで生き残れた者だけが現世に戻れる決まりがある世界があるとする。事故で死に掛けた主人公はその世界でパニックになりながら世界の謎を徐々に解いて、本当に生き残る為に戦う‥‥」
 森屋はその世界のルールや生き返る条件、それに今考えている展開などを説明した。話の途中から「難解な話はパス」と公言している格闘アイドルのアスカが何度も首を捻る。
「うーん‥‥。何となくは分かるんだけどさ、いまいちイメージがわかねぇって言うか」
「無理しなくていい。俺も、どこまで分かり易く出来るか不安があるのは確かだ」
 他人にイメージを伝えるのは難しい。より多くの人に観て貰う事を考えるなら、難解さは大きなデメリットになるが。
「最後はアスカの案だな」
 皆の視線にはにかみつつ、アスカが自分の考えた内容を話す。
「俺のシナリオは、事故で内部の時間と空間の結合が滅茶苦茶になった建物に人間が閉じ込められる話だ。
 建物はある程度広くて‥大学の研究棟みたいのがいいな。で、巻き込まれた面々は異変に気づいて、何とかそこから脱出しようとするんだけど時間も空間も無茶苦茶だから一筋縄じゃいかない。窓を空けたらトイレだったり、一度遭って分かれた相手と記憶が食い違ったり‥‥これだと撮影は殆ど建物の中になる8からロケ地の確保は楽になる」
 限定空間を上手く利用しようとする発想は低予算映画ではお馴染みのものだ。まだ予算の話はしていないが、湯水のように使えるとは誰も思っていない。
「とりあえず、案はこれで出揃ったかな?」
「そうだな」
 匂宮が連鎖する死の記憶の物語、亜真音が臓器移植で繋がる人々の話、森屋が臨死空間パニックホラー、そしてアスカが時間と空間がパッチワーク状になった建物からの脱出劇。
「意見は誰から言う?」
「別に誰からでも構わないんじゃない。この企画に上も下も無いんだし」
 和楽器奏者のSyana(fa1533)が手を挙げた。
「亜真音さんの案、僕は面白いと思いました。ですが、テーマが臓器移植となると脚本の段階でかなり勉強が必要になるんじゃないですか」
「俺は臓器移植と言っても医者の映画を考えてはいないんだ。アクション要素を強くしたい。だからってリアリティは必要ないと考えてる訳じゃないが、その程度だな」
 ひろみの答えにアスカが反応した。
「そこは俺も賛成だ。動きが乏しいと分かり難い」
 プロレスのリングにも時々あがるアスカの持ち味は本格派の格闘アクションだ。
(「アクション無かったら俺の出番無いしな」)
 まだ撮影が始まっていないので皆の実力は未知数だが、アスカには純粋な演技勝負なら下から数えた方が早い自覚がある。おそらくこの中で演技力なら女優の青空 有衣(fa1181)が一番だろう。マネージャーの大曽根とマルチタレントの辻 操(fa2564)も結構芝居が出来るらしい。
「一つに決めないといけませんか?」
 青空が手を挙げた。
「私は森屋さん提案のホラーに、アスカさんのタイムパラドックス要素を取り込めたら面白いんじゃないかと思うよ。それで主人公も複数人にすれば、友情とかも描けると思うんだけど、どう?」
「森屋さんとアスカさんの話は、自分達の世界観で出来るから合わせて考えるのもありかな」
 シャナはアスカを推して、青空は森屋+アスカ案を考えた。カメラマンの郭、マネージャーの大曽根は皆の決定に任せる風で、辻も黙っていた。
「大事な所だから、もう少し活発な意見が欲しいんだがな」
「そんな言われても、脚本関係に素人が口出ししてもね。下手に言って、小田原評定も困るわよ」
 辻の意見も分からぬ事ではない。そうなると、シナリオ提出者の意見が大きい。
 所が、先に匂宮が自案よりも亜真音案を推していて、森屋も亜真音案を推す気でいた。シナリオ候補四人のうち三人の票を取った事で、映画のシナリオは亜真音ひろみの案を主体とすることに決定する。
「ひとまず、シナリオはその線で行くか。まあ、一歩前進という所だが‥」
 匂宮は眼鏡の端を持ち上げて微笑とも苦笑とも思える笑みを浮かべた。まだまだ決めるべき事は沢山或る。
「監督も決めなければならんよな」
「え、今回監督も決めるんですか? 僕は、次回でもいいかと思いますけど」
 まとめ役は必要だが、性急に決める必要も無いんじゃないかとシャナが言う。
「しかしな、監督も決まらんのではあの大学生達と話が出来ないじゃないか?」
 匂宮が言うと、大学生の事ではそもそもの発案者が来ていないが、みんな気にはしていたので仮初でも代表者としての監督は必要だろうか。
「‥‥」
 辻はまだ早いと思っていたが、この場は沈黙した。彼女は監督が必要と言った人間だが、ただ代表者とした人間が動かなくて消えていく自主企画は珍しい事ではないが。
「俺は森屋さんを推薦する訳だが‥」
「‥‥」
 匂宮に名前を言われた森屋はサングラスで細かい表情は見えない。少し驚いているようでもあるが、監督志望の森屋としては悪い話でも無いのだ。
「私も森屋さんが適任だと思う」
 青空が言うと、特に反対意見も無かったので暫定的に監督は森屋和仁に決まる。現状では雑用役という感もややあるが、責任重大である。
「それで大学生達のことだけど、私は協力を取り付けておいて損は無いと思うけどどう?」
 青空が続けて言うと、シャナが意見を述べた。
「これから先に進む上で彼らの協力は嬉しいところなんですが‥‥まだどんな所で手伝ってもらうのか決められないですよね?」
 必要になった時にこちらから連絡するという事にしたらどうかとシャナは話した。
「厚かましく無いか。向こうにも予定があるだろう?」
「秋に学祭があるらしいよ。毎年何か上映してるんだって」
 ブログの更新――と言ってもまだ書ける事は多くないが――の傍らで大学生達の映画サークルを調べた青空の意見だ。
「どこの大学か聞いてたのか?」
「はい。ここがそのサークルのサイトですね」
 大曽根が持ってきたノートパソコンに、某大学の映画研究会のホームページが映し出された。
「どれどれ」
 かわるがわるサイトを覗く間に、大学生には一応連絡を取ることで皆の意見は一致する。
「これで大学の構内が撮影に使えるようになったら嬉しいけど」
「どうかな? あ、でも研究棟を撮影に使わせてくれたらいいな」
 シナリオの舞台にアスカは大学の研究棟をイメージしていた。大学生達にまだ細かい話は出来ないが、それで一応の反応を見るしか無い。
「あとは‥‥撮影期間の話はさすがにまだ無理か?」
「撮影プランは郭さんと作っていますが、まだ仮のものです。予算と期間が決まれば、必要な物の発注も行いたいのですけれど」
 パソコン上のデータを見ながら話す大曽根に、郭が頷く。
「アクション重視ってことだから、危険な撮影も多くならざるを得ないしね。特殊効果とか色々と準備が要るわ」
 予算の件はなるべく切り詰めるという事以外は未定のままだ。衣装や小道具はなるべく自前としても、さすがに撮影前にある程度の予算は作らなければいけないが。
 色々と話すうちに日が暮れてきた。そろそろ終わるかという頃に、青空が言い出した。
「この映画の目標だけど‥‥映画祭への出品で考えてみない?」
 今の所、この映画には目標が無い。正確には参加者それぞれに目標があるのだが、全員の目標として形は成していない。
 日本には数多くの映画祭や自主製作映画のコンペティションがある。
 アマチュア映画や自主制作映画を上映させてくれる映画館もあるが、最初から上映を目指すよりは映画祭出品により専門家から一定の評価を受ける道を選ぶ者は多い。映画祭で評価を受けてから、映画館で上映される方が都合が良いのは明らかだ。
「そう言えば、辻は映画祭観に行くと言ってなかったか?」
「まあね。スタートラインもまだだけど、ゴールのラインを見たかったから」
 日本の映画祭は秋が多い。辻は色々探して、町興しで行われている小さな映画祭に行ってきた。
「どうだった?」
「良い意味でも悪い意味でもお腹いっぱい」
 画面から迸る情熱と狂気は観る者によっては面白くもあり、退屈でもある。スタッフの力量で考えるなら、この面子ならば辻は自分が観て来た以上の物は出来ると思える。しかし、映画制作という集団作業においては個々の力量が最終的成果とイコールでは結ばれない。最高の俳優や脚本、予算をかけた映画が凡作駄作にしかならない事は多い。
「‥‥」
 げっぷが出るほど辻は苦労話を聞かされた。何より人間関係が重要だと。だが人間関係だけを気にして良作が作れるものかは彼女にも疑念がある。結局はやってみなくては分からないのだが。
「‥‥とりあえず、今から間に合いそうな映画祭いくつか見繕ってみましょうか」

 次の会合は4月下旬である。