映画をとろう3アジア・オセアニア

種類 シリーズ
担当 松原祥一
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 難しい
報酬 なし
参加人数 10人
サポート 0人
期間 04/30〜05/04
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●本文

 某月某日。
 映画好きが集って、自分達で撮る映画の話をしていた。
 一本うん億円、うん十億円の商業映画でなく、映画会社もスポンサーも絡まない低予算の自主制作映画。
 何の束縛も無く好き勝手に撮れるのは楽しい。
 話すうちに夢は際限無く膨らむ。
 もちろん、酒の席で話すのと実際は違うものだ。いざ撮り始めれば現実的な問題は山盛り。拘りぬいた挙句に延期、分裂、空中分解‥‥未完成の道を辿る場合も少なくない。仮に完成しても、上映のアテも無い。
 それでも趣味としての映画作り、或いは映画界のステップとして自主映画を作る人は多い。

「やってみようよ」
 誰かが言った。
 監督も、脚本も、俳優も、カメラも美術も音楽も何もかも未定である。
 すべて白紙のキャンバスに、これからみんなで色をつけていく。
 果たして、どんな映画が出来上がるだろう。

 二回の会合で、遅々とした歩みだが前進する。
「あたしの案は、匂宮の話を聞いて思いついた話なんだ。
 同じ臓器提供者から移植を受けた複数の人間が、それと知らずに臓器提供者の家族と関わりを持ち、協力しながらその家族を助ける為に奔走する話」
「大事な所だから、もう少し活発な意見が欲しいんだがな」
「そんな言われても、脚本関係に素人が口出ししてもね」
 四人がシナリオを出して、そのうち二人に推された亜真音ひろみの案をシナリオにして。
「僕は、次回でもいいかと思いますけど」
「しかしな、監督も決まらんのではあの大学生達と話が出来ないじゃないか?」
「俺は森屋さんを推薦する訳だが‥」
 監督はカメラマンの森屋和仁が選ばれる。
 ゆっくりと、ただし否応なく彼らの映画作りはスタートされる。
 コンテスト出品も視野に入れて、より現実的な様々な問題に直面する。

「とりあえず、色々集めてきたけど‥‥?」
 毎年、日本では大小様々な映画祭が開催されている。映画作りも多様化し、自主制作映画を応援する人々も増えている。国内で応募可能なコンペ部門を持つ者だけでも結構な数だが、国外も含めるとそれこそ選択肢は無限だ。権威ある国際映画祭であろうと出品するだけなら不可能では無い。


「連絡もらって、とんできたんですけど」
「悪いね。次の会合には呼ぶから、話はその時にさせてくれるかな」
 都内某大学の映画サークルが、彼らの映画作りに興味を持って参加したいとやってきていた。少し話を聞いた所では例年秋の学祭に自主映画を上映しているのだが、今年は人員不足や様々な事情で製作困難な状態にあり、彼らの映画作りに参加させて貰えば渡りに船と考えているらしい。
「会員は何人?」
「4人です」

●今回の参加者

 fa0189 大曽根ちふゆ(22歳・♀・一角獣)
 fa0523 匂宮 霙(21歳・♀・蛇)
 fa0917 郭蘭花(23歳・♀・アライグマ)
 fa1181 青空 有衣(19歳・♀・パンダ)
 fa1339 亜真音ひろみ(24歳・♀・狼)
 fa1533 Syana(20歳・♂・小鳥)
 fa2315 森屋和仁(33歳・♂・トカゲ)
 fa2564 辻 操(26歳・♀・狐)
 fa3043 礼花(18歳・♀・トカゲ)
 fa3611 敷島ポーレット(18歳・♀・猫)

●リプレイ本文

 キッチンでカメラマンの郭蘭花(fa0917)と女優の青空 有衣(fa1181)の二人がお茶の支度をしている間に、集った者達はシナリオの話を始めた。
「やっぱり、アクションは欠かせない訳だろう?」
 着物姿の脚本家匂宮 霙(fa0523)が既定の方針を確認するように言った。
「貴方が推した亜真音さんが言った事だし‥」
 タレントの辻 操(fa2564)は眺めていたカメラのパンフレットから顔をあげる。
「アスカさんもその点は賛成してた訳だから、方向性としてはアクション重視で決まりでしょ。しかし、撮影用のカメラって高いわ。これ、誰かに借りる訳?」
「それならたしか、蘭花が持ってると言ってなかったか」
「‥マジ? へぇ、百万はするんでしょ」
 感心した辻は、ティーカップとスコーンを載せたトレイを運んできた郭に笑顔を向けた。
「本職だもの。あたしので足りなかったら、レンタルのアテはあるけど監督の意見は?」
 皆に紅茶を渡す郭の視線に気付いて森屋和仁(fa2315)は頷いた。
「‥‥まあ、二台あれば撮影の幅は広がるか。だけど予算もそうそう多く無い事だし」
「予算の話は後でいいだろう。避けて通れぬ問題とは言え、シナリオと一緒くたで語るのも面白くない」
 匂宮がそう言ったのでカメラの件は棚上げ。話をシナリオに戻した。基本は亜真音ひろみ(fa1339)の案に決まったが、それは話の大枠が決まっただけで脚本はまだ無いに等しい。
「ホンは脚本家の領分じゃないの?」
「予算もプロデューサーも監督も役者も‥‥誰も俺に意見を言わずホンが出来たら、楽だな。最終的に脚本をまとめるのは俺の仕事と自任しているが、こいつは全員のモノだ」
 そう前置きして、匂宮は自身の考えている所を話した。
「家族が犯行の現場を目撃してしまい、目撃者を消す為に犯人に襲われるとかかね。亜真音さんの言うように、臓器提供者が犯人に関わる証拠みたいなのを持っていてそれを探す、または抹消するために危害を加えるというのもあるな」
「なるほど〜。アクション物なのですね」
 脇に座って匂宮の話を聞いていた初参加の礼花(fa3043)が発言する。のんびりとした笑顔を皆に向ける。
「あの、自分は助監督希望ですけど、やれる事があれば何でもやります。宜しくですよ〜♪」
 職業はスタッフ見習いと言っていた。身長が低く童顔なので若く見られがちだが、キャリアはそこそこだ。今回は彼女の他にもう1人、新人スタント俳優の敷島ポーレット(fa3611)が新しく会合に参加している。
「敷島さんと亜真音さんは午後には来るそうですよ。二人とも映画の撮影場所を探してくれてるみたいで」
 マネージャーの大曽根ちふゆ(fa0189)のPDAには参加者達のスケジュールが入っている。普段は別の仕事をしているメンバーの為に、日程管理は大曽根に一任されていた。
「シャナ君は?」
 青空はこの場に居ない和楽器奏者の事を尋ねた。
「今日は来ると言ってましたから、少し遅れているのだと」
 和楽器奏者のSyana(fa1533)は携帯電話を持たないので移動中は連絡が付かない。他にも何人か携帯を持たない人達に、大曽根は出来れば持つようにと言っていた。
「無いといけない?」
「不便でなければ、要らないものですけど。マネージャーとしては、困りますね」
「その事なんだけど、少し更新してみたの」
 パソコンを借りた青空は、彼女が作ったサイトの画面をそこに映した。
「いちいち電話やメールの確認だと大曽根さんの負担が重いと思ったからさ。今は結構安いスケジュール管理ソフトもあるんだよ。‥‥ここにスケジュールが空いている日とか、現在やろうと思う、やっている仕事とかをリスト形式で挙げて、随時皆に更新してもらえば把握も楽になるかと思うんだけど」
「確かに使えれば便利ですね」
 青空の説明を聞いて、大曽根は色々と試してみた。全員が集るまではと雑談が多くなる。結局、Syanaが来たのは正午過ぎで、そのあとすぐロケ地探しに行っていた敷島と亜真音もやってくる。
「お、良いタイミングで戻ったみたいやね。今日はカレーか」
 匂いに気付いて敷島は顔を綻ばせる。匂いの元は本日の昼食、郭のこだわりのカレーライスだ。大曽根と青空が手伝い、ちょうど二人が皿を並べているところだった。
「‥‥いい加減な気持ちでは困るわよ」
 カレーを作った郭が、遅れてきたSyanaを叱っていた。
「すみません。そんなつもりじゃ無いんですが、急に忙しくなってしまって」
 申し訳無さそうに頭を下げるSyana。このGWは仕事に追われているらしい。来たばかりで帰らなければいけないと言うSyanaに郭が注意したようだ。
「え、気付かなくてごめんなさい。あの、何日が都合が悪いのですか?」
「月末月初は外して貰えると‥‥」
 大曽根はSyanaの予定を聞いてメモを取る。皆、本業は別にあるからスケジュール管理は大変だ。郭は表情を曇らせた。午前中のシナリオの検討でも準備不足からか皆の意見が纏まりきれず、匂宮に頼りきりな感があった。
「一度作るからには、最後までとことん付き合うつもりだけど‥‥あまりいい加減な作り方するようだったら、あたしは抜けさせて貰うかもしれないから‥‥その辺よろしく」
 厳しい言葉に一瞬、場がヒヤリとした。何事も無かったように郭はキッチンに戻る。
「学生さん達が来ましたよー。‥‥あれ、何かありましたかー?」
 のほほんとした表情で礼花が顔を出す。
「別に何でも無いわよ。‥ま、こういうのも面白いしね」
 笑顔で辻が言うので、礼花は少々気にはなったが頷いた。ともあれ今日集る予定の全員が揃ったので、カレーを食べながら話を詰めることになる。

「基本になる臓器提供者の家は生活臭があった方がいいやろ? で、うちはこのメンバーの誰かの家が使えたらなぁ思うんやけど?」
 敷島はスタントとして出演希望だが、積極的にシナリオに意見を出した。
「メンバーには僕達も入ってるんですか?」
 会合に初参加した学生の1人が手を挙げる。敷島は頷いてから、仲間達を見回した。
「こっちでは頭数に入れさせて貰ってるよ。嫌なら断ってくれて構わない」
「それは嬉しいっすけど‥‥」
 互いに顔を見合わせる大学生達に、森屋が言った。
「今日の所は話を聞いてもらうだけで十分だ。よく考えて決めてほしい」
 学生達の参加に異議を唱えている者は居ない。逆に、この映画の不足分を補う助っ人になると考えていたから、下に置かない扱いだ。学生達も納得したのか熱心に耳を傾ける。
「敷島さんの、被移植者の中の一人が家族に危害を加える案だがね‥‥思いついたんだが、犯人をグループにして、その一人を被移植者にしてはどうだろう。受け継いだ記憶から湧き上がる家族への愛情に悩まされ、最後には仲間を裏切る事になるとか」
「面白いやないですか。うちはええと思いますわ。それで、撮影に使えそな廃ビルに目星つけてきたんやけど見て貰えます?」
 匂宮の話に敷島が賛成して、イメージの参考にとロケ地候補のビデオを見せた。
「撮ったのはあたしだから、写りが悪いのは勘弁してくれよ」
 敷島はカメラを持ってなかったので、亜真音のデジタルビデオカメラを使った。
 シナリオに明示されている場所は『病院』『家族の家』くらいだが、撮影場所は何処でも良い話だ。病院も、それらしく見えるなら大学の構内でも構わない訳だからロケ地の選択肢は多い。予算を考えれば海外ロケは無謀だが、国内なら候補地は無数に在る。
「配役の希望も受け付けてる?」
 ロケ地候補の話で花が咲いた所で辻が監督に質問した。
「やりたい事を聞かせてくれるのは有り難いよ」
 森屋が言うと、彼女は出演者が若いので自分は年長者の役回りを希望すると言った。
「アクションはどうだ?」
「激しいのはついてけないから、若い子に任せるわ」
 辻の年齢で年増扱いされたら私はどうなんだと誰かが思ったとか思わないとか。
「任されました‥‥って練習次第で辻さんも出来ると思うなぁ。どう練習してみない?」
 女優で格闘技もプロ級の青空は出演希望者達に演技練習をしないかと持ちかけた。
「ふーん、時間が無駄に過ぎるよりはマシか‥‥」
 ともすれば脚本が出来上がるまで役者希望者達は暇である。互いの親睦を深める意味でも悪くない提案かもしれない。
「配役の事で、あたしから一つ皆に相談がある」
 思い出したように亜真音が言った。
「アイベックスの本間加代さんに出演して貰えないかと思ってるんだ」
「青空POPsの?」
 亜真音は頷いた。新人ミュージシャンの紹介を目的にした青空ライブの責任者と、自主映画は直ぐには結びつかないが亜真音は本気らしい。お世話になった人というから、何か想いがあるのだろう。
「本間さんが映画に参加したいと言ったのか?」
「いや、まだあたしだけの考えだ」
 亜真音のマネージャー役として出演交渉を考えているという。言ってみれば友情出演だが、まだ準備段階で内容もはっきりしないものに出てくれと頼むことは彼女自身、気が引けていた。
「本人が出たいと言えば、こっちに断る理由は無いな」
「有り難う。話してみるよ」
 このあと亜真音はアイベックスに行ったが本間は不在だった。亜真音も最近はそこそこ知名度も上がってきて忙しく仕事以外でアポを取るのは容易くは無い。青空POPsの仕事の時に会って頼むしか無いだろうか‥。
「ふむふむ、亜真音さんは芸能人役ですかぁ。他には、どんな役があるのでしょう?」
 礼花に質問されて、匂宮は片目を瞑って思案顔を見せる。
「職種は限定しないが‥‥そうだな、『臓器提供者の家族』『被移植者』『家族を襲う犯罪者』は最低限必要か。ファンタジーで言い換えればお姫様、勇者に悪い魔法使いと言った所だが」
 三人で十分という事は無い。それなりに人数は必要かと考えている。
 役者希望は青空、辻、敷島、亜真音とそれに今日は来てないブリッツ。補欠としてマネージャーの大曽根も芝居経験があるし、学生達も出来れば出たいと思っているようだ。
「あの‥‥お役に立てるなら自分もエキストラとかなら出来ると思います」
 控え目に言った礼花だが。配役は脚本が形になるまで待たねばならないだろうか。腕を組む匂宮の肩を軽く辻が叩いた。
「テーマとアプローチする方向が明確なら、自ずとストーリーに対しての役の配置も楽に決まるわ。頑張ってよシナリオ担当」
「ふむ‥‥」

 今回の会合ではシナリオの一部が決まり、学生達の参加が決定事項となった。スケジュール管理の土台が出来、出演希望者による演技練習という提案が出された。脚本、予算、配役、撮影計画は次回持ち越しである。
 翌日、亜真音・森屋・郭・辻の四人が学生達の通う大学へ見学に訪れた。
「ここが自分達の部室です」
 サークルの会長を務める後藤が案内したのは部室棟の片隅の殺風景な部屋だった。
「何にも無いわね。‥‥撮影機材はここには置いて無いの?」
 部屋の中を見回して辻が尋ねる。彼女の主な目的は映画制作に足りない機材の物色だ。
「このロッカーの中です」
 開けて見て辻は気付かれないように顔を顰めた。思ったより物質的援助は期待出来ないようだ。
「昔はこんなんじゃ無かったんですが‥‥」
 会員が四人と聞いて想像はしていたが、この映画サークルは風前の灯火であるらしい。過去にはアマチュアの映画祭で幾つも賞を取った時代もあったそうだが、近年は落ち目が続いていた。確認した所、会長を含めて現在の会員の中に獣人が居ない。
(人間入れると撮影が面倒だけど‥‥)
(それは、普段の撮影でも同じだろう。今の時代、獣人だけという訳には行かん)
 大きなサークルよりは付き合いやすいとも云えるかもしれないが。
 さて、どうなるか。


 次回、会合予定は6月15日。その少し前に連絡が届くはずだ。