映画をとろう4アジア・オセアニア

種類 シリーズ
担当 松原祥一
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 難しい
報酬 なし
参加人数 8人
サポート 0人
期間 06/23〜06/27
前回のリプレイを見る

●本文

 某月某日。
 映画好きが集って、自分達で撮る映画の話をしていた。
 一本うん億円、うん十億円の商業映画でなく、映画会社もスポンサーも絡まない低予算の自主制作映画。
 何の束縛も無く好き勝手に撮れるのは楽しい。
 話すうちに夢は際限無く膨らむ。
 もちろん、酒の席で話すのと実際は違うものだ。いざ撮り始めれば現実的な問題は山盛り。拘りぬいた挙句に延期、分裂、空中分解‥‥未完成の道を辿る場合も少なくない。仮に完成しても、上映のアテも無い。
 それでも趣味としての映画作り、或いは映画界のステップとして自主映画を作る人は多い。

「やってみようよ」
 誰かが言った。
 監督も、脚本も、俳優も、カメラも美術も音楽も何もかも未定である。
 すべて白紙のキャンバスに、これからみんなで色をつけていく。
 果たして、どんな映画が出来上がるだろう。

 のろのろとした亀のような歩みではあるが、会合もこれまで三回を数え、監督も決まりシナリオも形になってきた。
「そろそろ、撮影プランを決めたいけれど」
「脚本できたの? もう、俳優はやること無いからさ、練習だけでもやってみたいんだけど」
 撮影がぶっつけ本番になりかねない所なので、その前に稽古をして皆の息を合わせておくのも悪くない。実際、この面子がどれほどの演技が出来るかも良くは知らないのだ。

「‥‥という訳で、そろそろ予算が必要なんだが」
「とりあえず、皆から5万くらいずつカンパを募ってみるか?」
 自主映画と言っても、撮るもの次第で制作費は桁も違う。数十万円でも十分に撮れるし、数百万円でも全然足りないかもしれない。誰かが数字を弾き出す必要があるが。

●今回の参加者

 fa0189 大曽根ちふゆ(22歳・♀・一角獣)
 fa0523 匂宮 霙(21歳・♀・蛇)
 fa0917 郭蘭花(23歳・♀・アライグマ)
 fa1181 青空 有衣(19歳・♀・パンダ)
 fa1339 亜真音ひろみ(24歳・♀・狼)
 fa2315 森屋和仁(33歳・♂・トカゲ)
 fa2321 ブリッツ・アスカ(21歳・♀・虎)
 fa2564 辻 操(26歳・♀・狐)

●リプレイ本文

●脚本
 都内某所の喫茶店。
「ロック歌手、空手が趣味の女子高生、女医で犯罪者、それに家族と‥‥」
 匂宮 霙(fa0523)は愛用のノートパソコンにメンバーから聞取りした単語を打ち込んでいく。これにテーマに添った意味を持たせ、幹も枝も葉もつけてホンに仕上げるのが匂宮の仕事である。
「皆忙しいのは分かるが‥‥ふむ、何とかやるか」
 漏れる溜息を噛み殺し、白髪雪肌の脚本家は総身に気合いを入れ直す。暫くして、待ち合わせの相手がやってきた。着物姿の匂宮は何かと目立つから迷う風もなく森屋和仁(fa2315)は近づき、向かいの椅子に腰をおろした。
「すまない、随分待たせたようだな」
「脚本を考えたかったのでな、早く来た。俺の方こそな、本来なら俺が書くべきなんだが」
 匂宮は演技練習用の台本を森屋に任せてしまった事を申し訳無く思っていた。その分、脚本作りには力を入れている。森屋は別の話をした。
「夕方から、そこの公園で練習するんだが霙君も見に来るか?」
「見たいが、そちらは任せるよ。出来るなら今月中に撮影に入りたいのでな、脚本に専任したい」
 製作の遅れは彼らの気を逸らせていた。そのためか、今回は少々変わった進行をとっている。
 脚本作りと、俳優達の役作りを同時に行っているのだ。演技練習を森屋が監督して、そこで作られた役柄と匂宮が作る脚本の整合性を二人で取る事で、脚本完成と同時に撮影が行えるようにとの考えだ。まあ、無茶な話である。
 テーブルの上に匂宮の脚本と森屋の演技練習用の仮脚本を広げ、ひとしきり打ち合わせを行った後で、匂宮が少し悩む表情を浮かべてから、切り出した。
「被移植者が3人いるだろう?」
 彼らが臓器提供者から何を貰ったのか、その部位や理由について匂宮は考えていた。専門知識に拘るのは止めようと最初に決めていたが、全く避けて通れる訳でも無い。
「彼らは移植が必要な病気だったが、同じドナーに救われている」
 そこにはドラマがある。そしてもう一つ、ある意味この映画で最大の重要人物の設定がそこにある。
「ドナーの設定か?」
 森屋が呟くと、匂宮は腕を組んで思案顔になる。
「結婚間もない夫婦か、親子はどうかと思っている」
 その案には難が無いではなかったが、森屋は役者の意見を聞いてみることにした。
「移植された臓器の事も意見は聞くつもりだが、今はどう考えているんだ?」
「俺の希望は‥‥敵役の女医には家族への愛情を一番感じて欲しいから心臓だな。あとは、視ることが出来るから角膜も良さそうだ」
 森屋が店を出た後も匂宮は残って脚本を書いた。
 携帯電話にマネージャーからメールが届く。フリマの出品物についてだった。
「ふむ、何か出品できそうな物はあったかね?」
 メールには取りに来ると書かれていて、匂宮は髪をかきあげて困り顔になる。

●演技練習
 都内某所、夕暮れの公園。
「やっと色々時間が取れるようになってさ」
 準備運動で身体をほぐす青空 有衣(fa1181)は心底嬉しそうに言う。今回の面子では一番若いが、唯一の本業として演技を教える立場だ。
「まずは発声練習を近所迷惑にならない程度にね。セリフ読み中心で、森屋さんが脚本を用意してくれたからそれ使おう」
 彼女の生徒となるのはロック歌手の亜真音ひろみ(fa1339)と格闘アイドルのブリッツ・アスカ(fa2321)の二人。
「ああ、基礎からみっちり頼む。折角、あたしに近い役柄を貰ったんだ、こなしてみせたい」
 亜真音は道場で稽古を付けて貰う時のように真剣な顔だ。有衣の表情が綻んだ。その意気は好ましい、3人とも体育会系だし、徹底的に稽古するのも愉しいだろう。尤も、この練習の目的は慣れる事と相性を見ることだからそこまで我が侭は言えないだろうが。
 発声練習を始めると、さすがに亜真音の声がいい。青空がそう言うと、ひろみは虚をつかれた顔をした。
「あたしなんて、まだまださ」
 人狼族は有名なヴォーカルが多い。その中では自分程度はあり来たりだと言う。
「ふーん、そうなんだ」
 その感覚は理解できた。今の自分の何倍も何十倍も、上手い人がいる。自分がどこまで行けるかなど分からないが、現状に満足するには早すぎる。だから道楽では無い、自らのステップアップの為に、皆この映画作りに参加したはずである。
「差し入れ持ってきたよー」
 マウンテンバイクに乗った郭蘭花(fa0917)がやってきた。甘い物が欲しいだろうと思った蘭花は、今回も自作のデザートを作ってきた。
「こっちが杏仁豆腐マンゴーソースがけ、それから冷やし汁粉に‥‥あ、こっちは梅ようかんよ」
 蘭花は嬉々として仲間達の前にデザートを並べていく。
「‥‥凄いな。カメラマンじゃなくても喰っていけるんじゃないか?」
「ふふふ、料理カメラマンも悪くないとは思うけどねー。あ、食べるときは熱いお茶でどうぞ‥‥蒸し暑いからと言って冷たいお茶とかジュースを飲んじゃ、返ってバテるわよ〜」
 蘭花の差し入れで生気を回復し、撮影練習は深夜まで続いた。


「どうかした?」
 女医に声をかけられても、アスカは答えることが出来なかった。
「いや、なんでもねえ」
 凍った唇を動かして無理矢理に喋る。ぞんざい口調に、金髪の女医は不審げな顔を向けた。アスカは大学で空手をやっているほどの男勝りだが、礼儀を欠くような人物ではない。
「何でも無い顔はしてないようだけど。‥‥あなた、真青よ」
 アスカはお化けを見たような顔で振り返った。
「‥‥」
 だが何も言わず、溜息をついて女医は立ち去った。
「俺‥‥幽霊を見た。だけど、こんな事言える訳ない」
 アスカは悔しそうに顔を伏せた。

「くっ、また、あの映像‥‥」
 右手で顔半分を覆い、ひろみは激しく動揺していた。
「あたしは一体どうしたというんだ? 本当に、おかしくなっちまったのか?」
 ひろみは歌手仲間から、麻薬の中毒症状について聞いた事があった。断続的に襲ってくる幻覚、そして例え様も無い喪失感。まるで自分が自分でないような居心地の悪さ。まるで、今の自分にそっくりだ。
「ああー‥‥」
 つまり、ひろみはヤク中か。麻薬に手を出した事は一度も無いが、そう思い込んでいるだけなのか。ひろみの精神は幻覚と不思議な感情に蹂躙されて千々に乱れた。

「‥‥」
 遺影を見つめる有衣の目から自然に涙がこぼれた。
 葬式の時にも泣いたが、あれは周りの空気がそうさせた気がした。だから、ホッと気が緩んだ今、初めて泣いたような気がする。逃れられない愛別離苦、時間だけが解決すると人は言う。
「うっうっ‥‥」
 誰も居ない部屋で、声をあげて有衣は泣いた。どれほどそうして居ただろう。インターフォンが鳴っている事に気がついた。生憎と家には有衣しか居ない。涙を拭いて玄関に向う。

「私も見たことあるのよ、‥‥幽霊」
 辻 操(fa2564)は微笑を浮かべて言った。
「驚いた、先生でも冗談言うんだな。それとも‥‥あんた、俺に合わせてくれてるの?」
 アスカは女医の言葉を疑っていた。辻はアスカに親切だが、どこか嘘っぽいところがある。
「‥‥失礼な反応ね。夏に怪談なんてベタな話、私も嫌だけど真面目な話よ」
 辻は大真面目な顔で幽霊の話をしたが、頭の中では、別の事を考えていた。

「どなたですか?」
 ドア越しに覗くと、扉の外には黒髪の見知らぬ女性が立っていた。酷く思いつめた表情をしている。
「あたしはひろみっ。あんたはあたしを知らないかもしれないが、あたしはあんたを知ってる!」
 有衣は背筋が寒くなった。近頃、彼女の周囲でおかしな事件が続いていた。空き巣に入られたり、夜道で誰かに後をつけられたり‥‥そして、ついに自宅に現れた。
「おかしな事を言わないで! 警察を呼びますよ!」
「違う! 信じてくれ、守りたいんだ、あたしの全てを懸けてでも!」
 ドアを強く叩くひろみ。殺されると有衣は思った。視界の隅に木刀が目に入る。震える腕を伸ばして木刀の柄を握ると、幾許か落ち着いた。こう見えても剣道三段の腕前だ。まず警察に電話して、しかしこの分ではパトカーが来る前に踏み込まれるかもしれない。
「頼む、ここを開けて、あたしの話を聞いて!」
 ひろみは焦っていた。自分が狂っていないと証明する為に一刻も早く有衣と話したかった。
「今開けるから‥‥」
 暫くしてドアが開き、木刀を構えた有衣がひろみの前に現れた。
「ああ、会いたかったよ」


 森屋は出演者達の一通りの絡みを用意していたので、結局、撮影練習は一日では終わらなかった。
「まあ、今月中に撮影は無理だと分かってたけどねー」
 半泣きの蘭花はそれでも毎日差し入れを持ってきた。宣伝用の画像も撮り溜めているらしい。
「みんな頑張ってるよね。ひろみさん、毎日居残り練習までやってるのよ」
 青空が言う。実際の所、亜真音の芝居は下手だ。二日目から練習に参加した大学生達にも負ける。それでも、体力と根性は人一倍だった。
「頑張ったって、結果が出ない事にはな」
 亜真音は溜息をつく。弱音を吐く気はないが、成果はやはり欲しい。
「監督に相談したら?」
 辻が水を向ける。一人で悩んでも解決しない問題はある。辻自身も、役柄のキャライメージに悩んでいた。それだけ彼女の役は難しい。この面子の中で最もオールマイティな彼女故の役とも言えるが、際立たせるべき一点で迷っていた。
「シナリオ担当から指定が無いなら、自分で作るけどね」
「俺も意見があるんだ」
 皆の意見を聞いていた森屋に、アスカが手を挙げる。
「有衣と俺のアクションシーン入れてくれないか?」
 その発言に青空は少し驚いた。
「え? 私は剣道、アスカさんは体術だからちょっと噛み合わないかもだけど」
 亜真音は多少だが剣術も使うが、アスカは立ち技打撃系だ。
「相性も大事だけが、すべてじゃない」
 アクション重視のアスカは、この面子でどれだけ最高の技をみせられるかを考える。悪役の辻はアクションが不得手とくれば、少ない選択肢を相性だけで潰すのは忍びない。
「剣と素手の本気のアクションてのも面白いと思わないか?」
 さて課題は沢山出たが、次回までに考える事にして解散した。


●予算
 役者と監督と脚本家が練習に忙殺されている間、予算問題を任されたのはマネージャーの大曽根ちふゆ(fa0189)。
「まずは資金調達ですね」
 フリーマーケットやネットオークションで資金を作ろうという案が出されて、メンバーのスケジュールを管理する大曽根が品物を集めて回った。直接は練習に参加しない蘭花が手伝う。
「予算関係のことはあたしも気に掛かるしね。こういう現場じゃ、予測不可能な事態がちょくちょく起こるから、予算は潤沢とは言わないまでも、ある程度余裕無いと厳しいもの」
 実際、脚本が完全でない今はどれだけ予算がいるものか誰にも把握出来なかった。百万で足りるものか、一千万か、それとも‥‥。
「と言っても、あたしは大したもの出せないなぁ。知り合いの娘からサイン色紙とかをもらってきて‥‥あまり期待しないでね」
 蘭花は苦笑いを浮かべる。さて、どれだけ集るだろうか。

「大した物は持ってないが、とりあえずこれだけかな」
 森屋がヒップフラスコとサングラスを大曽根に渡す。
「あの、サインは‥‥」
「俺の? 冗談は止せよ」
 代わりに森屋は蘭花と彼で撮った演技練習の写真をHPに載せて、現在の製作状況とフリーマーケット関係の出店告知を行った。
「サイン? ああ、用意してある」
 亜真音は連夜の居残り練習にも関わらず、愛用の日用品とバイク用品、パワーリストなど出品物にサインして、更に出品物と一緒にうつったサイン入りのポラロイド写真まで添えた。
「人気が計られるみたいで恐いがな」
 亜真音より積極的に出品したのはアスカ。以前の試合で使ったグローブなど私物幾つか、パワーリストとサポーター、それにサングラスを全てサイン入りで出した。
「私はこの木刀だよ、芸能活動始めたときから持ってる思い出の品なんだ」
 青空は使い込んだ木刀を差し出した。血と汗を吸い込み、数々の敵を血祭りにあげてきた逸品である。サインと言われて、顔を赤らめる。
「えー、書いたことないよサインなんてっ」
 次は辻だが、品物を貰いに来た大曽根に辻は溜息をついた。
「正直、メジャーと言うほどでも無いからね」
 辻は品物やサインで稼げる身分ではないと、予算用に10万円を出した。
 最後に脚本作りで煮詰まっている匂宮の所に寄る。
「着物の古着とか‥‥は微妙か?」
 大曽根が曖昧な笑みを浮かべるので、匂宮は着物と羽織を出した。
「これ、受け取って下さい」
 最後の最後に、オークションの状況を眉間に皺を寄せて見ていた大曽根の所に学生達がやってきて茶封筒を渡した。20万、入っていた。
「‥‥厳しいですね」 


次回、会合予定は8月10日。その少し前に連絡が届くだろう。