映画をとろう5アジア・オセアニア

種類 シリーズ
担当 松原祥一
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 難しい
報酬 なし
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/20〜08/24
前回のリプレイを見る

●本文

 某月某日。
 映画好きが集って、自分達で撮る映画の話をしていた。
 一本うん億円、うん十億円の商業映画でなく、映画会社もスポンサーも絡まない低予算の自主制作映画。
 何の束縛も無く好き勝手に撮れるのは楽しい。
 話すうちに夢は際限無く膨らむ。
 もちろん、酒の席で話すのと実際は違うものだ。いざ撮り始めれば現実的な問題は山盛り。拘りぬいた挙句に延期、分裂、空中分解‥‥未完成の道を辿る場合も少なくない。仮に完成しても、上映のアテも無い。
 それでも趣味としての映画作り、或いは映画界のステップとして自主映画を作る人は多い。

「やってみようよ」
 誰かが言った。
 監督も、脚本も、俳優も、カメラも美術も音楽も何もかも未定である。
 すべて白紙のキャンバスに、これからみんなで色をつけていく。
 果たして、どんな映画が出来上がるだろう。


「それで予算は集ったの?」
 前回の会合で行った金策の結果、31万円がある。
 映画の制作費としては、ちょっと‥‥いや、だいぶ足りないか?

 監督と脚本家が本作りに四苦八苦し、役者達は夜の公園で演技練習を始めた。回り始めた歯車は止まらない。良し悪しはともかく、結末に向かって続いていく。
「撮影を始めよう」
「‥‥まじですか?」

 さあ、今回はどうなるか?

●今回の参加者

 fa0523 匂宮 霙(21歳・♀・蛇)
 fa0917 郭蘭花(23歳・♀・アライグマ)
 fa1181 青空 有衣(19歳・♀・パンダ)
 fa1339 亜真音ひろみ(24歳・♀・狼)
 fa1533 Syana(20歳・♂・小鳥)
 fa2315 森屋和仁(33歳・♂・トカゲ)
 fa2321 ブリッツ・アスカ(21歳・♀・虎)
 fa2564 辻 操(26歳・♀・狐)

●リプレイ本文

●予算とモチベーション
 都内某所、喫茶店。
「ちょっと‥‥少なすぎやしない?」
 カメラマンの郭蘭花(fa0917)が呆れたように言う。
 自主制作映画の恒例の打ち合わせにて、現在の制作費が31万円と聞いての反応だ。本心はちょっと所ではないと思っている。
「‥‥そうですよね」
 映画作りに参加している大学生が相槌を打つ。気にしていたが、言い出せなかったという顔だ。
「集らなかったのは仕方無いわ。カツカツは予想していた事だしね」
 蘭花がそう言うと、バンド歌手の亜真音ひろみ(fa1339)が封筒を取り出した。
「これ良かったら使ってくれ」
「預からせてもらうよ」
 マネージャーが来ていないので、監督の森屋和仁(fa2315)が封筒を受け取る。
「こういうの、バラバラじゃなくて一人いくらって決めた方がよくないですか?」
 話を聞いていた音楽家のSyana(fa1533)が言った。シャナは前回忙しくて来られなかったので、今回は皆の話によく耳を傾けていた。
「‥既にだいぶ曖昧だからな」
 森屋が思案顔で言うと、マルチタレントの辻 操(fa2564)が突然立ち上がった。
「もう、ダメ。堪んない、辛抱出来ないの!」
 辻は豊満な体を揺すり、切なげな表情で訴えた。封筒を叩き付けるように森屋に渡す。
「お預け食った犬同然なのよ、私。そろそろ撮影なんでしょうね?」
 苛立ちを含んだ声で言い、彼女は監督と脚本家の匂宮 霙(fa0523)を交互に眺める。早く演らせろと目で語っていた。
「俺も今回から撮影に入るべきだと思う」
 格闘アイドルのブリッツ・アスカ(fa2321)も撮影開始に賛成だった。
「脚本が無い状態で撮影なんて無茶だよ。どこまで使える画が撮れるかも分からない。だけど、やらなくちゃ分からないこともあるだろ?」
 アスカと辻の視線を正面から受け止める森屋の表情はサングラスで分からない。
「‥‥」
 この時点で、匂宮の脚本はまだ完成していない。監督としては悩む所だが、森屋は決断した。
「分かった。演技練習も続けるが、実際の撮影に入っていこう」
 森屋の答えに場の空気が弛緩した。心配は山積みだが、今回集ったメンバーの大半はモチベーションを維持するためにも撮影開始しかないと思っていた。
「脚本が出来ていないのは完全に俺の責任だからな‥‥本当に申し訳ない」
 匂宮は仲間達に謝罪を口にした。匂宮も撮影開始は已むを得ないと思っていたから監督の決定に異論は唱えない。
「ようやく、か‥‥それじゃ、あたしは準備するわね。経費節約は仕方無いけど、プロとしてクオリティの高いものはちゃんと作るから安心して」
 自分の出番に蘭花は朗らかに言った。
「でもどうするんです? 予算少なくしてクォリティ下げないなんて魔法みたいなこと出来るんですか?」
 シャナの疑問に、蘭花は眼鏡の奥で意地の悪い笑みを浮かべた。
「出来る範囲で、工夫するってことよ。背に腹は代えられないけど、お金の代わりに頭と身体を使うことはできるわよね」
 勿論、カメラマンが一人でやれる創意工夫には限界がある。役者達にも相当の負担を強いることになるだろう。
「だから撮影の時は、一発勝負で行くつもりでお願いね。演技のプロじゃないあなた達に言うのは、酷ではあるのだけど‥‥」
 蘭花は心中で溜息をついた。出演者は、プロの俳優でない者の方が多いのだ。ちなみに、予算を心配したシャナと匂宮もそれぞれ身銭を切り、これで制作費は66万円になった。


●撮影計画
 さて、監督からは撮影開始を告げられたが‥‥。脚本が未完成だから撮影計画の立て方が難しい。アスカも言っていたが、折角撮った画が無駄になるという事は十分に考えられる。しかし、余計な撮影が許されるほど予算は無いのだ。
「どのシーンを撮るかも重要だけど、問題なのは密度よ。無難でスカスカのシーンを撮り溜めたって、何の意味もありはしないからね」
 辻が言う。出来るならこの映画の象徴的なシーンから撮るべきだと。何もかもが同時進行なら、理解してない所を撮影するのは無駄である。
「とりあえず撮ってみて、取り溜めたものからカット数を割り振ったり、修正したり追加してさ、作品を組み立てることは出来ないかな?」
「思うままに撮って、編集で作品にしようっての? それで物語が破綻しないのは天才だけね」
 亜真音は思いついた意見を述べたが、否定された。
「アクションシーンだ! 話の核心はまだ無理だが、アクションの密度なら任せてくれ。それに見栄えのするシーン撮っとけば、今後の宣伝や金策にも使えるだろ」
 アスカは力説する。彼女は前回出た青空とのアクションシーンを今回で形にしたいと思っていた。スポンサー集めの宣材にでもなれば御の字と考えていたのだが。
「アクション関係は細かい打ち合わせが必要だし、カメラワークも考えなければならん。今はアクションは練習だけにした方がいいと思うんだが」
 森屋は逆にアクションの無い場面から撮るつもりだった。
「うーん、動きが必要なシーンなんかは予め分かってないと撮れないわね」
 蘭花は森屋の意見に頷く。撮影用のカメラはかなり重い。しかも一台キリだから、綿密な打ち合せ無しでは迫力あるアクションシーンを撮るのは困難だ。しかも‥。
「あの‥‥青空さん、来れないみたいですよ」
 相手が居ないのではアスカは自案を取り下げるより無かった。
「それで、アクション無しって‥‥どの部分のどのシーンから撮るのかしら?」
 辻の質問に、森屋はそれが問題だとばかりに腕を組んで頭上を見上げる。
「‥‥暴れるわよ?」
 幸いにも辻の暴走は防がれた。匂宮がこういう展開を予想して、映画の冒頭部分と森屋の仮脚本に加筆した幾つかの場面を先に書き上げて来ていた。一読して、仲間達は驚いた。
「臓器提供者をここで出すのか!?」
「誰がやるの?」
 匂宮の脚本には、主人公達に臓器を提供する新聞記者の女性が犯罪に巻き込まれて死ぬまでの経緯が書かれていた。

[映画冒頭部(予定)、匂宮霙の草稿より]
 一人の雑誌記者の女性が、ある病院が裏で黒い事を行っている情報をつかみ、その調査を行っている。
 調査の末、証拠となりえる品を得るが、病院側にばれてしまう。病院側は事件が明るみに出ないように証拠隠滅を図り、事故に見せかけて殺害する手段に出る。
 殺害には成功(記者は脳死状態)するが、すでに証拠品を隠しており、回収はできなかった。
 さらに記者殺害の実行犯が捕まってしまい、それによって世間の目が病院に向いてしまう。結果として事が収まるまでの間動きが取り辛くなり、証拠品の探索、消去が難しくなる。
 その間に記者の目、心臓、肺の臓器が3人に移植される。目はある歌手に、肺はある大学生。心臓が移植されたのは件の病院で事件に関わっていた医師の一人だった。

「事件の発端を、映画の始めで説明するのか。移植者達が狙われる原因だから、最初は分からずに中盤以降で明かす方が良くないか?」
「病院が悪いことをやってたんだな。黒幕は院長とかか?」
「って、だからドナーは誰が演るのよ」
 皆が口々に意見を言い始めた。匂宮は髪をかきあげて微笑し、それらに答えていく。冒頭部では主人公達の出番は多くは無い。また新しい役であるドナーや殺人犯は映画サークルの大学生から選ぶと言った。
「ずぶの素人では無いようだからな」
 予算の話以来、大学生達のモチベーションも落ち気味なのを気にしたのかもしれない。大学生達は仰天したが、他に代案も無かったから、映画は物語の発端シーンより撮影を始める。
「それじゃ、僕はこの脚本を参考に曲作りを進めますね」
 音楽担当のシャナはホンから映画のイメージに沿った曲作りを行う。仲間達に、欲しい曲のイメージを聞いて回るが、コレだというイメージが思い浮かばない。
「難しいものだね。完全な脚本か画があればイメージも固まり易いと思うけど」
 それとも独自の解釈をベースにした方が良いだろうか。


●撮影開始
 撮影現場で亜真音は誰かを待っていた。
「本間さんの仕事と被ってるけど、見に来てくれるかな?」
 亜真音は冒頭部で失明のシーンと移植の場面を撮った。演技力不足は目を覆うばかりだが、徐々に撮影に慣れる自分を発見する。撮影の後、木刀相手の殺陣を練習したいというアスカに付き合った。
「こんなものか」
 亜真音は多少だが、剣術の心得がある。木刀のかわりに模造刀を握る姿は様になっていた。
「いいぞ、そのまま俺に打ち込んで来い」
 対峙するアスカは真剣な顔で言った。
「無茶言うな。模造刀だって当たれば痛いじゃすまないんだ」
「だから練習になる」
 アスカはこの映画の中で素手で刀を無力化する法を考えていた。
(「まず攻撃を躱して懐に入る。無刀取りは無理でも、手を狙って刀を取り落とさせるか、足を払って転ばせるか出来れば‥‥」)
 口で言うほど簡単ではない。身体中に痣を作った。練習の時は撮影用カメラは回さないが、デジタルビデオカメラに撮ってチェックする。蘭花にも見て貰い、成功率は20%ほどだが何とか形はできた。
 アスカは自分の練習に付き合って貰ったお返しに、亜真音の練習も手伝った。亜真音の課題はアクションよりも、自分に欠けている演技力の強化だ。
「ああ‥‥や、やめてくれ! もう光を失いたくない!」
 事故で失明し、先端恐怖症になったロック歌手を演じる。
「ち、違う! その子は悪くないんだ! 全ては誤解なんだ、二人とも落ち着いて話を聞いてくれ!」
 演技はイモだが、繰り返すうちに台詞が板につく感じがした。
 果たして、どんな映像が取れたか。


次回、会合予定は10月5日。その少し前に連絡が届くだろう。