映画をとろう7アジア・オセアニア

種類 シリーズ
担当 松原祥一
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 難しい
報酬 なし
参加人数 8人
サポート 0人
期間 11/19〜11/23
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●本文

 某月某日。
 映画好きが集って、自分達で撮る映画の話をしていた。
 一本うん億円、うん十億円の商業映画でなく、映画会社もスポンサーも絡まない低予算の自主制作映画。
 何の束縛も無く好き勝手に撮れるのは楽しい。
 話すうちに夢は際限無く膨らむ。
 もちろん、酒の席で話すのと実際は違うものだ。いざ撮り始めれば現実的な問題は山盛り。拘りぬいた挙句に延期、分裂、空中分解‥‥未完成の道を辿る場合も少なくない。仮に完成しても、上映のアテも無い。
 それでも趣味としての映画作り、或いは映画界のステップとして自主映画を作る人は多い。

「やってみようよ」
 誰かが言った。
 監督も、脚本も、俳優も、カメラも美術も音楽も何もかも未定である。
 すべて白紙のキャンバスに、これからみんなで色をつけていく。
 果たして、どんな映画が出来上がるだろう。


●それから
「今回は撮影を中止しようと思う」
 前回の会合での監督の一言は、無理な製作を止めて巻き直すという意味では現実的な選択だったが、落胆が無いと言えば嘘になる。
 遅々として進まぬ映画作りに焦りも見え始めた。
 皆、他に本業を抱えた上で、全くのボランティアに近い映画制作だから遅れるのも無理は無いと言えばそれまでだ。撮り始めたらあっと言う間だが、それでも何年もかかる場合もある。

「だけど、ちょっと違うなぁと思うんですよ」
 映画制作に参加している大学生は現状に不満を感じていた。
「悪いですけど、優柔不断ていうか‥‥いえ、そんな無茶言うつもりは無いですけど、僕達もそんな時間があるわけじゃないんで」
 時間の制約を感じる学生達は、止めたいと言い始めた。
「でもやっと脚本が出来てこれからなのに」
「脚本があっても、役者が揃わないじゃないですか。そういうのもう嫌なんですよ」
 4人の大学生は都内某大学の映画サークルの会員だ。
 会員不足で今年は映画が撮れないと悲歎にくれていた彼らにとってこの映画制作は願ってもない話だった。しかし目標にしていた秋の学祭には間に合わず、何処まで行くか分からない不安が募った。
「じゃあ、そういう事なんで‥‥」
 頭を下げて出て行く4人。

 最初から覚悟していた話ではある。
 映画作りはプロアマ問わず、空中分解する事も珍しくない。
 ここが正念場か。


 さあ、どうする?

●今回の参加者

 fa0523 匂宮 霙(21歳・♀・蛇)
 fa0917 郭蘭花(23歳・♀・アライグマ)
 fa1181 青空 有衣(19歳・♀・パンダ)
 fa1339 亜真音ひろみ(24歳・♀・狼)
 fa1533 Syana(20歳・♂・小鳥)
 fa2315 森屋和仁(33歳・♂・トカゲ)
 fa2321 ブリッツ・アスカ(21歳・♀・虎)
 fa2564 辻 操(26歳・♀・狐)

●リプレイ本文

 都内某所。
 懐かしさを覚えるレトロな喫茶店。
 UTR250を駐車スペースの脇に置いた歌手の亜真音ひろみ(fa1339)はドアを開け、カランコロンと独特の鐘の音を聞きながら中に入った。
「お――」
 メンバーは概ね揃っていた。
 脚本家の匂宮 霙(fa0523)、カメラマンの郭蘭花(fa0917)、音楽家のSyana(fa1533)、女優の青空 有衣(fa1181)、格闘アイドル女優のブリッツ・アスカ(fa2321)、マルチタレントの辻 操(fa2564)。
 久しぶりの顔もある。最近会合の人数も減っていたが、危機感もあるかもしれない。
「遅れてすまない」
 最近バンドの人気が出てきて仕事量が増えていた。仲間達に謝りつつ亜真音は空いてる椅子に座った。全員で座れるテーブルは無いので、彼らは隣り合った二つのテーブルを占拠していた。
「森屋さんがまだですが、大体揃ったので先に話を進めましょう」
 スーツ姿の若い青年、Syanaが口火を切る。
「脚本の完成と撮影再開について、今日決めたいと思います。まず撮影プランなんですが、ここまで何かと遅れて来ていますので、皆さんに協力して欲しいのですが」
「どういう事だ?」
 亜真音が聞くと、中国風のワンピース姿の郭蘭花が手を挙げた。
「あたしが提案したの。予算と時間の都合もあるから、撮影のロスを無くしたいって」
 同じ場所で複数のシーンを撮影する場合、時系列は無視して連続して撮る事が多い。その方が時間と費用を何倍も節約できるが、やりすぎると役者や監督の負担も大きい。蘭花は敢えてかなり圧縮したプランを提案した。無茶な所もあるが、この位は仕事でもやっている事だ。
「それで、私も撮影の事で考えてる事があるんだよね」
 出演者の一人である青空 有衣も、撮影の腹案を用意していた。テーブルの上に匂宮の脚本を開いて説明する。
「映画の冒頭部の、『雑誌記者噂を掴む』から、ココとココ、『実行犯捕まり世間の目病院へ』までの部分を先に撮っちゃえないかと思うんだけど、どうかな?」
 事件の発端に当たる部分だが、主人公達が殆ど出てこないので現状では役者が足らない。それを有衣は先に撮ると言う。
「ここの配役は雑誌記者の妹って事で私が記者役やってさ。実行犯役を動きの俊敏なアスカさん、その他病院関係の情報提供者とか病院上層部とか、シルエットとかで登場しそうな役を皆で分担すれば撮れるはずっ」
 熱っぽく話す有衣。
 蘭花のプランとはやや反するが脚本の練り込みや、圧縮した撮影計画作りには時間がかかる。その間の空隙を埋める意味はあるが。
「序盤は青空さんの言うような演出を使っていくしか無いと思う」
 匂宮が有衣に賛成する。和装の脚本家は大学生達が抜けたのを己のせいと気にしている節があった。そして大学生達の脱退で、先ず困ったのがこの冒頭部なのだ。
「振り上げた凶器だけ映すようなシーンばかりなら、撮影の負担も少ないと思うがどうだろう?」
 匂宮に専門家としての意見を求められて、蘭花はうーんと考え込む。代わりに発言したのは、青空と同じく出演者のブリッツ・アスカ。
「俺は反対だ」
 格闘アイドルとして最近有名になり始めた彼女だが、自主映画作りにも変わらず参加していた。
「撮影は再開するべきじゃない」
 断言するアスカに、彼女とは演技の稽古で良く話す亜真音が続きを促した。
「それも意見だな。ブリッツの考えを聞かせてくれないか」
「‥‥気ばかり焦っても今までと同じだろ。それじゃ駄目だ。俺達がいつ完成するか分からない事やってるから学生は止めたんだろ」
 ぐだぐだの原因は、目標設定がいい加減過ぎることだとアスカは言った。そして問題はなるべく早くと言うだけで、期限を全く切っていない事にあると。
「僕達が焦って失敗すると言いたいんですか」
 苛立ちからSyanaの声はつい荒くなる。険悪な雰囲気だ。
「ならあんた、問題を放りっ放しで失敗しないなんて言えるのかよ?」
 アスカは製作期間をまず余裕のある物に見直し、撮影はそれからだと言った。期間がキツキツでは不慮の事態に対応出来ないから、これなら守れるという余裕を持たせるべきだと提案する。
「今更、一月二月の遅れを気にしても仕方無いだろ」
「それじゃあ遅れるのを半ば認めたと同じですよ」
 話し合いは揉めた。
 なかば予想していた事ではある。
「‥‥」
 辻 操は仲間達の話しに耳を傾けている。辻は意見を言う気は無かった。それぞれの意見には理屈が在るし、意見が多すぎればそれだけ揉める。彼女は皆が妥協し、結論が出たら従うつもりで待っている。
(「‥‥‥‥おや?」)
 しかし、一向に話がまとまらない。拗れたら一回では無理かとも思っていたが、それ以前に議論が進まない。居るべき人がここに居なかった。
「監督、遅いね。何かあったのかな‥‥?」
 腕時計を見つつ有衣が首をかしげる。監督の森屋和仁(fa2315)がこの場に居ないので、議論は平行線になっていた。
「変ですね。電話してみます」
 Syanaが携帯電話を取り出し、森屋のアドレスにかけてみた。
「あ、監督‥‥シャナです。今何処ですか? 皆待っているんですが‥‥」
『済まないが、俺は欠席させてもらう』
「え?」
 驚くSyanaに仲間の視線が集る。
「どういう事ですか? なんとか急いで完成させないといけないんですよ」
『‥‥済まない。少し考えを纏めたいんだ』
 森屋が携帯を切った後も、Syanaは暫く呆然としていた。
「森屋さん、何だって? 風邪とか急用で今日は来れないの?」
「‥‥よく分かりません」
 Syanaの顔は途方にくれていた。
 結局、監督が来ないのでは結論を出す事も出来ず議論は中途半端で流れた。
(「‥‥やれやれ」)
 辻は言葉に出さず溜息をついた。
(「森屋監督、逃げたのかしらねぇ。まあ、ありがちだけど‥‥」)
 まさしく映画のような展開というのだろう。実際に体験すると在り難くも無いが。


●空中分解寸前?
「で、どうすんだ?」
 アスカは笑顔で言った。
 場所は亜真音の自宅。ウヤムヤになった会合の後、亜真音が皆を食事会に誘った。ギスギスした仲間達の気分転換になればと準備していたらしい。
「どうするもこうするも、監督が逃げたんですよ。これで終わりです」
 虚脱から抜けたSyanaは立腹していた。あれ以来、森屋の携帯は留守電になっていた。
「監督‥‥イライラが溜まってたのかなぁ」
 有衣が腕を組んで悩む。
「私、舞台演劇をやってたから分かるんだけど、明確な自分の役割・仕事が無いって結構ツラいんだよね。役割が分担されてるって分かってても、誰かが頑張ってる時自分は見てるだけ。申し訳無く思う一方でイライラしちゃう。自分の出番はまだか、って」
「監督の話とどう繋がるのか分からんが、それで冒頭の撮影を提案したのか?」
 匂宮の問いに有衣は頷く。
「難しいことかもしれないけど、そういう時は皆に何かしら、その人にしか出来ない仕事を振るのが必要だと思って‥‥でも監督が悩んでるなんて思わなかったんだ」
「森屋さんの事だ、何か考えがあるのだろう‥‥」
 その考えが映画作りの中止でないとは匂宮は断言出来なかったが。
「‥‥で、どうすんだ?」
 アスカは再び笑顔で言った。
「不思議に元気だわね」
 台所を手伝っていた蘭花はアスカの笑顔に感心する。アスカは蘭花が持ってきた肉まんの皿を受け取りながら言う。
「不思議じゃない。俺から元気を取ったら何も残らない。状況は最悪ぽいが、後ろ向きに文句を言うのは俺のしょうに合わない」
「本物なら尊敬に値するわね‥‥そうね、自主映画で監督が逃げるなんて良くある話だけど。まだ決まった訳じゃないから」
 様々な問題点を再考する意味では、今回の失速も意味のある事もかもしれない。そう云って、雲散霧消する例も枚挙に暇が無いとしても。
「さあ、口に合うかどうかは分からないが食べてみてくれ」
 エプロン姿の亜真音が、大量の料理を持って現れる。
「肉じゃがにさばのみそ煮、キノコご飯に秋刀魚の塩焼き、ほうれんそうのおひたしと汁物は豚汁‥‥」
「うわっ、こんなに良く作ったね」
「豚汁は蘭花が作ったんだ。それに、あたしは、こんなことしか思いつかない」
 料理に目を輝かせる有衣に、亜真音は少し照れた表情で仲間達の茶碗にご飯をよそう。
「ちょっと感動。いただきまーす」
「おう。とりあえず飯だな。山盛りだ」
 アスカは丼を突き出した。
「太るわよ」
 呆れて言うのは辻。
「ブリッツ、あとで稽古付き合ってくれないか?」
 亜真音の言葉にアスカは秋刀魚をバリバリ食いながら頷いた。
「この状況で稽古するの?」
「雨降って地、固まるってね。結束が固くなればそれも怪我の功名だろ?」
 亜真音は楽観すぎだろう。現実はそんなに甘いものではない。
 それでも、可能性はゼロでは無いと信じられるだろうか。
「結局残ったのはこの面子なんだ、やってやろうじゃないか、抜けた奴らが羨むような作品作りをさ」



‥‥つづく。