映画をとろう8アジア・オセアニア

種類 シリーズ
担当 松原祥一
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 難しい
報酬 なし
参加人数 6人
サポート 0人
期間 12/31〜01/04
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●本文

 某月某日。
 映画好きが集って、自分達で撮る映画の話をしていた。
 一本うん億円、うん十億円の商業映画でなく、映画会社もスポンサーも絡まない低予算の自主制作映画。
 何の束縛も無く好き勝手に撮れるのは楽しい。
 話すうちに夢は際限無く膨らむ。
 もちろん、酒の席で話すのと実際は違うものだ。いざ撮り始めれば現実的な問題は山盛り。拘りぬいた挙句に延期、分裂、空中分解‥‥未完成の道を辿る場合も少なくない。仮に完成しても、上映のアテも無い。
 それでも趣味としての映画作り、或いは映画界のステップとして自主映画を作る人は多い。

「やってみようよ」
 誰かが言った。
 監督も、脚本も、俳優も、カメラも美術も音楽も何もかも未定である。
 すべて白紙のキャンバスに、これからみんなで色をつけていく。
 果たして、どんな映画が出来上がるだろう。


●それぞれのおもい
 都内某所の喫茶店。
 いつものように自主映画作りの仲間達が集まり、打ち合わせを行っていた。
「冒頭部の、『雑誌記者噂を掴む』から、ココとココ、『実行犯捕まり世間の目病院へ』までの部分を先に撮っちゃえないかと思うんだけど、どうかな?」
「現状で役者が足りなくない部分のリストを作ってみたんだが、目を通してくれるか」
「なあ、俺は撮影再開は時期尚早だと思うんだよ」
「撮影プランを圧縮する話が出てるんだって?」
 彼らの映画製作は必ずしも順調ではない、むしろ現状では最悪の結果になる可能性が高い。
 数日前に製作の遅れに嫌気が差して、これまで参加していた大学生が4人辞めたばかりだ。元々、スタッフに余裕があった訳では無い。結構な痛手である。
「いつ完成するか分からない事やってるから学生は止めたんだろ」
「失敗すると言いたいのか?」
「今更、一月二月の遅れを気にしても仕方無いだろ」
「それじゃあ遅れるのを半ば認めたと同じですよ」
 多少険悪な雰囲気も漂っていた。配役の変更、撮影計画の見直し、脚本の修正‥‥考える事は多い。打ち合わせは長引いたが、中々まとまらない。
「監督、遅いね。何かあったのかな‥‥?」
 音楽担当のシャナが監督の森屋の携帯にかけてみた。
「あ、監督‥‥シャナです。今何処ですか? 皆待っているんですが‥‥」
『済まないが、俺は欠席させてもらう』
「え?」
 驚くシャナに仲間の視線が集る。
「どういう事ですか? なんとか急いで完成させないといけないんですよ」
『‥‥済まない。少し考えを纏めたいんだ』
 森屋が携帯を切った後も、シャナは暫く呆然としていた。
「森屋さん、何だって? 風邪とか急用で今日は来れないの?」
「‥‥よく分かりません」
 シャナの顔は途方にくれていた。


 製作の遅れ、スタッフの離散、そして監督の不在。
 彼らの映画はこのまま空中分解してしまうのだろうか。


 さあ、どうなるか?

●今回の参加者

 fa0523 匂宮 霙(21歳・♀・蛇)
 fa0917 郭蘭花(23歳・♀・アライグマ)
 fa1181 青空 有衣(19歳・♀・パンダ)
 fa1339 亜真音ひろみ(24歳・♀・狼)
 fa2315 森屋和仁(33歳・♂・トカゲ)
 fa2564 辻 操(26歳・♀・狐)

●リプレイ本文

 都内某所、某喫茶店。
 大晦日の忙しい時期に、自主映画を作る芸能人達が集っていた。
「ともあれ、森屋さんが戻ってくれて良かった」
 前回の会合で監督の森屋和仁(fa2315)が不参加を仄めかしてから、脚本家の匂宮 霙(fa0523)は心中穏やかでなかった。
「これで終わり‥‥かもね」
 最悪を想像した者も少なくなかったが、その森屋が今回シナリオの修正案を持って来た。
「これで打ち合わせが進められるな」
 和装の女脚本家は安堵の表情を浮かべる。映画作りの方は撮影中断から暫くが経ち、そろそろ再開の目処を立てておきたい所だった。
「それなんだけど、シナリオの話の前に一ついいかな?」
 手を挙げたのは女優の青空 有衣(fa1181)。
「‥‥予算の件か?」
 バンド歌手の亜真音ひろみ(fa1339)が苦い顔で言った。
 この映画の予算は、参加者のカンパだ。決して大きな額ではないし、撮影の遅れとシナリオの修正で相当厳しいという話を亜真音は聞いていた。
「あ、その事じゃなくて‥‥」
 青空は一瞬目を伏せた。
「今のままだと、何も決められないと思うんだ」
「‥はっ?」
 何を言いだすかと亜真音は驚いた。後ろの席にいたマルチタレントの辻 操(fa2564)はやばそうな雲行きに肩をすくめる。
「皆で話し合っても、いつもなあなあで終わっちゃうじゃない。今からシナリオの変更と言ったら、大手術だよ。多少強引でも、最終決定権を持った人を決めた方がいいと思うんだ」
 なるほど監督としては既に森屋が居るが、元々外部の人間への示しとして立てられたものだから、その権限はかなり曖昧だ。
「強い権力を持ったボスが流れを作っていく必要があると思うんだけど」
 そう云って青空は森屋に視線を向ける。
「どうかな、森屋さん? 一人で考えるわけじゃなく、皆の意見の内どれかを選び取る感じだけどね。結構キツイ仕事には違いないんだ」
「‥‥異論がある訳じゃないが、それは全員の考えなのか?」
 森屋が念を押すと、青空は首を横に振った。
「私の意見、提案だよ」
 森屋は少し考えて、この場では態度を保留した。
「そうね。今回はスタッフの集り悪いし、今急いで結論出さなくてもいいんじゃない?」
 カメラマンの郭蘭花(fa0917)の発言で、この件はひとまず棚上げされた。

 話を戻す。今日のメインは、シナリオの修正案だ。
「俺は、前回の会合を欠席して今後の事を考えていた。現在ある脚本に足りない人員をどうするか、適当に見繕うのか、適当な人員で足る役所なのか、それとも誰か新しく役に足る人間を募集するのか‥‥色々と考えた」
 森屋は改めて修正シナリオ案を全員に配った。
「ふむ‥‥」
 ざっと目を通した匂宮は着物の袖に手を入れて腕を組む。
「‥‥たしかにこれなら、少人数で撮影が可能だな。確保する撮影場所も少なくて済む」
 修正案では大幅にシーン数を切り詰められていた。いわば匂宮脚本のダイジェスト版だ。
「しかし、これにしても、やはり人数が足りなくは無いか? 少なくとも提供者となる男性が一人必要だと思うが」
 脚本家の指摘に森屋は頷く。
「ああ。その事を俺は何度も考えたんだが‥‥死亡に繋がる部分だけを撮影して、その後のシーンは作らない方向も考えている」
 彼らの映画は、同じ人物の臓器を移植された者達が臓器の記憶に導かれて臓器提供者の家族を困難から救うアクションストーリー。以前から臓器提供者の役が決まらなかった。
「今の四役は外せないしな」
 森屋は指折り数えた。
 臓器を提供された人物が二人、それに敵サイドに立つ人物と、臓器提供する人物の家族。これで4人だが、会合に集った出演者は青空、亜真音、辻の3人だ。
「アスカを入れて4人か」
「ブリッツは今回大切な試合があって来れない、運悪く会合と重なってしまったからな」
 と言ったのは亜真音。彼女はアスカと良く演技の練習をしている仲だ。
「それで、人数不足と知りながらこの案を持ってきたのよね。監督としては、どう考えてるの?」
 森屋から返ってきた答えは辻の予想通りだった。
「必要な配役の増員を図るか、それとも極力、今居る人数で撮影を続けるか、それをこの場で決めたい」
「どう違うの?」
「増員なら脚本の変更点は少なく済む。その代わり新しいスタッフの問題は残る。今の人数でやるなら話をもっと見直す必要があるな」
 どちらも簡単では無いし、一度決めれば後戻りは難しい。
 悩みどころだが、真っ先に亜真音が増員に賛成した。
「監督のシナリオも匂宮のシナリオも捨てがたいが問題は出演者不足だ。あたしは、足りない分は今いる人数で補うより、誰かを呼んで補う方がいいと思う」
「誰かって誰?」
 亜真音の脳裏を、以前出演を依頼した本間の顔が過ぎったが、勝手に進めた話なので言い辛い。
「その、ダメ元で前に会合に参加していたメンツに声を掛けてみるとかさ」
「駄目元ねぇ‥‥私は、増やすかどうかより、キッチリした形でシナリオを仕切り直すことだと思うわ。話を聞いたら、森屋さんも匂宮さんも今の脚本をベストとは思ってないみたいだし」
 言いながら辻は顔を顰めた。シナリオを掘り下げる作業はドロドロして時間がかかる。出来れば避けたい所だが、撮影優先はもっと困る。映画は完成しなければ価値が無いが、自主映画は作ればいいものでもない。
「私としては、今までの撮影を無駄にして欲しくは無いわね」
 仮に素材としては使えないとしても、役を変えられると痛い。今までの役作りが無駄になる。
「そう。あたしも予算の事が頭から離れないのよね‥‥。絶対的に予算が足りない今の状況じゃ、よほど上手いやりくりをしないと無理だもの」
 カメラ担当の郭は苦笑いだ。予算面から、郭は監督の修正案に賛成で増員に反対の立場を取る。人数が増えてシーンが多い程、無駄を削る労力は増える。逆に言うなら、増員するなら予算増も必須だ。
「その事なんだが‥‥」
 亜真音は制作資金について、彼女が所属するアイベックスの社長に頼んでみようかと考えていた。大手プロダクションが金を出せば製作環境は圧倒的に良くなる。人数も簡単に増えるだろう。その代わり、自主映画では無くなるが。
「予算は厳しいね。人集めの方は学生でもかなりの戦力にはなるよ」
 青空は今度は映研でなく、演劇部の学生はどうだろうかと話した。青空も含めて、メンバーには劇団出身者が何人か居るし、方々にツテを頼ればアマチュアレベルなら増員は難しくない。
「‥‥ふむ」


 場所を変えて新しく開店したラーメン屋に入った。
「シナリオをみんなで考えると言っても、森屋さん以外に演出の専門家は居ないだろ?」
「そうかなぁ」
 正確には森屋も本職は映画監督ではないが、技量は持っている。
「あたしも監督は森屋さんしか居ないと思うけど、青空さんが言いたいのは今の状況のままでは駄目って事でしょ?」
 郭の言葉に、青空は云々と肯いた。
「集まりが悪い時とか当事者が欠席の時とか、多いよね。皆で話してても消極的になる事あるし、意思決定する人は必要だと思うんだ」
「‥‥プロデューサーってことね」
 辻が言った。
「もしくは裏監督? まあ、確かにマネージメントが疎かだわね」
 辻も最近の流れは良くないと思ってはいた。プロデューサーを置いても機能しなければ同じ事の繰り返しだが。
「押し付ける気は無いんだけどさ。人集めとか必要な事は私も引き受けるつもり」
 決定権の無いまとめ役は只の貧乏くじ。一考の余地はあるだろう。更なる混乱を呼び起こすだけかもしれないが。
「はぁ、撮影再開いつになるかなー?」
「まだまだね」
「無理よ」
 今の脚本通りに撮るには役者が足りないし、監督も脚本かも納得してない様子だった。
「匂宮のシナリオは中身が複雑な分内容に深みはあるけど、撮影にはそれなりの時間が掛かるだろ。監督のは単純で分かりやすいけど、肝心のドラマの部分がちょっと薄く感じるよ」
 ラーメンを食べつつ、亜真音は二つの脚本に感想を述べた。
 試行錯誤を続けるこの映画作りは、亜真音らにとって全く無駄なものではないのだろう。映画が本業でない彼女達が今は脚本や演出の打ち合わせに無理なく参加できた。まだまだ匂宮や森屋の代わりが務まる程では無いが、経験は彼女の血肉となっている。


 シナリオについて皆の意見は分かれたが、撮影再開は時期尚早という事では一致した。まず完全版の脚本ありきで、人員や予算の問題はそれ次第だ。
 映画制作は年を越してしまったが、完成にはなお多くの時間を要するようである。
「正直、今の状況がこれ以上続くようだったら、流石にあたしもついて行けなくなるわよ‥‥」
 ラーメン屋を出た所で郭は夜空を見上げ、深々と息を吐いた。


‥‥つづく