ロック野郎ぜ! 飛翔編アジア・オセアニア

種類 シリーズ
担当 緑野まりも
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 4万円
参加人数 8人
サポート 2人
期間 05/04〜05/10
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●本文

「どうも、足花プロの足花雄三です、ごぶさたしております。今度うちで、新しいバンドを売り出すことになったのですが‥‥そうですか、いえまた今度お願いしますよ」
「よぉ、足花だ。実は、うちのプロダクションで新しいバンドを売り出すことになったんだが‥‥‥ああそうか、うん、いや忙しいところ悪かった。また今度声を掛けさせてもらうよ」
「足花プロですが、今度売り出す新しいバンドのプロモーションを‥‥はい、はい、ではまた‥‥」
 雑居ビル3階、足花プロダクションでは、社長兼マネージャーの足花雄三が朝からずっと電話を掛け続けていた。新しく結成されたロックバンド『Wheel of Fortune(運命の輪)』を売り出すため、関係各社に声をかけているのだ。
「是非このデモを聴いてみてください。聴けば私の自信の意味もわかっていただけると思いますよ」
 午後には、直接会社に出向きデモテープを手渡して売り込みを行う。足花は、自分の選んだバンド、必ず売れると信じて必死に売り込むのだった。

「足花さん、急に呼び出してどうしたんだ?」
「君達のデビューが決まったぞ」
「!!」
 数週間後、NASU達バンドメンバーを呼び出した足花は、はっきりとした言葉で皆に言い渡した。突然のことに驚く一同だが、その視線は期待で足花を見つめている。
「『神霊装甲ヴァルキュリア』というアニメの新OPに君達の曲が使われることになった。これに合わせて、『Pixy Records』からCDを発売する」
「アニメ!? 俺達がやってるのはロックだぜ?」
「いまはアニメやドラマにもロックの曲が使われることが多い。これはチャンスだぞ、君達の名をメジャーに押し上げるのにこれほどの仕事はないはずだ」
「む、それはたしかにそうだけど‥‥」
 今回の仕事がいかに重要か説く足花に、NASUは困ったように言いよどむ。いざメジャーデビューとなったとき、本当に自分達の歌が通用するのか、NASUに不安が生まれたのだ。
「大丈夫、君達は私が扱ってきたアーティストと比べても、十分メジャーで通用すると自信持って言える。だから、君達も自信を持つんだ」
「足花さん‥‥」
 足花の言葉に、顔をあげて見つめるNASU。その瞳は、決意を決め強い光を放っていた。
「それでだ、デビューに向けて新曲を作ってもらうことになるが、今回はアニメの製作会社の指定したテーマに合わせてもらう。テーマは『戦い』『飛翔』『復活』、これに合わせた曲を作ってくれ」
 足花がデビュー曲の条件を出す。一同は、『Wheel of Fortune』のデビューに相応しい曲を作ろうと気持ちを一つにするのだった。

「NASU、少し話がある。ちょっと残ってくれないか」
「あ、ああ、なんだい足花さん」
 メンバーが、事務所を後にしたあとに、一人残ったNASUに足花が視線を向ける。じっくりと頭からつま先までNASUを見つめた後、足花は小さくため息をついた。
「NASU、君は女性だな?」
「!! だから、俺は男だって‥‥!」
「いい加減にしないか! 硬派なロックを目指している君が、女性であることに負い目を感じていることはわかる。しかし、君がいつもいっている、「ロックは魂で歌う」という言葉はどうした! 性別なんて関係ないはずだろう?」
「‥‥‥」
「メジャーにデビューするにしても、君が性別をいつまでも偽れるわけじゃない。現に、私や、一部のメンバーはうすうす感づいているようだ」
「‥‥だけど俺は、女だからって舐められたくない‥‥対等にやってくためには、俺は男じゃなくちゃいけないんだ!」
「‥‥君がどうしてもというのなら、『性別不詳』としてやっていくことも出来るだろう。だが、本当に君はそれでいいのか‥‥?」
「俺は‥‥」
 足花の言葉に、NASUの心は揺れ動くが、その表情は俯いて見ることはできなかった。
「ふぅ‥‥デビュー直前のバンドのボーカルを迷わすようなことを言うべきではなかったかもしれないが‥‥しかし、これはNASUにとっても、仲間達にとっても早く解決させるべき問題だからな‥‥」
 NASUが帰った後、タバコをくわえた足花は、天井を見上げながら紫煙を吐く。
「あとはメンバー次第だな。NASUと彼らが本当に理解しあって、心を通わせたとき、本当のロックができる‥‥はずだ」

●今回の参加者

 fa0336 旺天(21歳・♂・鴉)
 fa0379 星野 宇海(26歳・♀・竜)
 fa0453 陸 和磨(21歳・♂・狼)
 fa0510 狭霧 雷(25歳・♂・竜)
 fa0760 陸 琢磨(21歳・♂・狼)
 fa1634 椚住要(25歳・♂・鴉)
 fa2778 豊城 胡都(18歳・♂・蝙蝠)
 fa3608 黒羽 上総(23歳・♂・蝙蝠)

●リプレイ本文

「デビュー決定ー!! ッシャラァ!」
「思ったよりも早くデビューが決まりましたね」
 足花から、『Wheel of Fortune』のデビューについて聞かされた一同は、事務所を出た後そのことで盛り上がっていた。旺天(fa0336)が、歓喜の声をあげてガッツポーズをし、周囲の歩行者を驚かせてしまったりもする。そんな旺天に苦笑しつつ、狭霧 雷(fa0510)も嬉しそうに頷いた。
「さて、今日はお先失礼するっスよ! 早く新曲作んねーと! ぉおし、燃えてきたぁ!」
「あ、旺天さん! これからレティスさんにアニメについて話を‥‥行ってしまいましたか」
 そんな感じでウズウズしていた旺天は、早く曲作りをしたいと、居ても立ってもいられずに走り出す。雷が声をかけるが、結局旺天はそのまま凄い勢いで走り去ってしまった。
「せっかちなやつだ。まぁ、気持ちはわからないでもないが‥‥」
 椚住要(fa1634)が、苦笑しつつ旺天を見送る。本当は、皆も走り出したいほどに早く活動をしたいのだ。
 その後、『神霊装甲ヴァルキュリア』に声優として参加しているレティス・ニーグに、アニメについての話を聞いた一同は、早速新曲作りの活動を開始するのだった。

「黒羽さん、まだ残ってたんですか?」
「クロでいいよ。俺は入ったばかりで、まだ皆と上手く合わせられない。足を引っ張らないためにも、居残りでも何でもして練習しないと、だからな。狭霧さんは?」
「私も雷でいいですよ。私も同じです、早く皆さんに追いつかないといけませんから、できるかぎり練習に時間を割いてます」
 練習スタジオで居残り練習をしていた黒羽 上総(fa3608)に、雷が声をかける。二人とも、遅くまで練習を繰り返し、早く追いつこうと努力していた。
「なぁ、雷さん。少し聞いてもいいか?」
「なんでしょう?」
 共に練習を繰り返し、お互いが打ち解けた頃。上総は雷に疑問を問いかける。
「そこのモア‥‥」
「秘密です」
 いつの間にか飾ってある、30cmほどの高さのモアイ像を指差す上総に、きっぱり言い放つ雷。笑顔が少し怖い‥‥。
「あ、いや、そのことじゃなく‥‥NASUってさ、女なのか?」
「‥‥そう、思いますか?」
「会った当初は、男かと思ったが、一緒に付き合ってる間に‥‥なんとなくだな」
「私にはわかりません、確かめたわけでもありませんしね。ただ、NASUさんは、NASUさんですから‥‥私はそれでいいと思うのですが」
 上総の問いかけに、雷は苦笑を浮かべて自分の考えを述べる。今のままでいい、自信をもって欲しいと。
「‥‥俺は、性別を偽っていたとしても自分の意思で決めたことならいいと思う。結局、実力主義のこの世界で、性別なんて些細なことだろう」
 雷の話を聞いて、上総はつまらないことを聞いてしまったと自嘲気味に肩を竦めて、再び練習に戻る。雷もギターの練習に戻るが、自分にしか聞こえない声で呟いた。
「でも‥‥偽ろうとするということは、やっぱり気にしてるってことなんですよね‥‥」

「さぁさぁ! 基本無くして成功無しですわ〜頑張りましょうね♪」
 いまやバンドのお母さんとなっている星野 宇海(fa0379)は、パンパンと軽く手を叩き、笑みを浮かべて練習を促す。一同も、その雰囲気になれているのか、小さく笑みを浮かべながら各自が自分の練習を行っていた。
「調子はどうです琢磨さん」
「ああ‥‥まぁまぁだな」
「あ、歌唱には体力も必要よね? 鉄アレイ無いかしら?」
「まて‥‥いくらなんでも鉄アレイはないだろう‥‥」
「あはは、字海さんには敵わないなぁ」
 字海はニッコリと微笑んで、陸 琢磨(fa0760)に調子を伺う。ベースの陸 和磨(fa0453)と歌唱の練習をしていた琢磨は、練習の成果に頷くが、なにやら鉄アレイを探し始めた字海に困ったように顔をしかめた。それを和磨が、可笑しそうに笑い声をあげる。
「あ、あの、字海さん‥‥僕の演奏になにか‥‥?」
「いえいえ、ドラムって面白そうねぇっと思いまして、トントントン♪」
「‥‥字海さん。それじゃ、小太鼓ですよ〜」
 その後、ドラムの豊城 胡都(fa2778)を熱心に観察しては、スティックを持って余っている(旺天の)ドラムを(太鼓のように)叩いてみたりと、ちょっとお茶目な字海。バンドのムードを和ませ、デビューの緊張を和らげようとしているようだ。
 そんな字海が、特に気にしているのは、デビューが決まった日からどうにもおかしいNASUであった。ここ数日の練習では、歌声にいつもの覇気がなく、なにか悩んでいる様子である。
「‥‥NASUさん、ちょっとこちらに来てください!」
「字海!? な、どうしたの、そんな引っ張るなよ!」
 字海はNASUの腕を掴み、別室へと引っ張っていく。彼女には、悩んでいる様子に思い当たる節があったのだ。

「字海! 突然どうしたの!?」
「少し、私の歌を聞いてくださいな‥‥朝霧立ち籠める夜明け前、吐く息は白く霧に紛れる」
「‥‥‥」
 別室へと連れ込んだ字海は、そこで歌を歌ってみせる。それは、バンドでよく練習曲に使っているNASU作詞の曲『The light of day(夜明け)』。字海は自分のプロとしての実力を懸けて、この曲をアカペラで歌い上げた。
「ふぅ‥‥これが『私の歌』ですわ。男とか女とか気になりまして?」
「え、あ‥‥いや、そんなの関係ないくらい素敵な歌だった‥‥よ」
 突然のことに、目を丸くして聞いていたNASU。字海の問いかけに、少し困ったように頬を掻いて答える。
「歌は魂、心で歌う物。『男でなければ』ではありません、『自分でなければ』ならないのですわ」
「う‥‥だけど、ロックは男が‥‥」
「甘えるのもいい加減になさいませ!」
「!!」
 パーン! 室内に軽快な音が響き渡る。字海の張り手が、NASUの頬を打ったのだ。頬を押さえ俯くNASUに、悔しそうに怒ったように打った平手を握り締める字海。
「はぁ‥‥みなさんも心配してい‥‥あら?」
 字海がため息をついてドアを開けると、ドアの向こう側で様子を見ていた琢磨達が室内に入りこんでくる。
「‥‥御前が男だろうが女だろうが俺には関係のない事だ。要は御前にやる気があるか如何かだ」
「其れはあまりにも歯に布を着せなさ過ぎじゃあ‥‥。女性にもロックをやられる方がいらっしゃいますし、良いと思うんですが‥‥ダメですか?」
「そうよ、キミ、女を舐めてるんじゃない? 自信が無いのを性別のせいにしないでよ。私達は男になんか負けないはずよ?」
 俯くNASUに対し、クールに言い放つ琢磨に、苦笑しつつ和磨がフォローを入れる。琢磨に呼ばれていた当摩晶も、厳しくも励ましの言葉をかける。
「女の子がロックは普通っていうか‥‥勝負するのは声だし‥‥女の子だからといって対等でありたい、気負わないで欲しいって寧ろ僕がそう思います」
「男じゃなきゃロックはやれないなんていうのは単なる甘えだ。要は‥‥覚悟があるかないかだ。本来お前が持っているはずの女性としての優しさや繊細さ‥‥それは音楽をする上で大きな武器になる。ただの意地でそれを使わないっていうのは、単純に勿体ないと思うがな。‥‥どうも今日はしゃべり過ぎたな」
 胡都は戸惑いながらも優しく、要はぶっきらぼうにそれでいて真摯に、NASUに言葉をかける。そんな仲間の言葉を、NASUは俯きながらジッと聞いていた。
「‥‥なんだよ、結局皆には俺が女だってバレてたのか。意地を張ってるのは俺だけだったんだ‥‥」
「NASU‥‥」
「足花さんにも言われて、ずっと悩んでた。けど、俺が男でいようとしたのは甘えだったんだ‥‥親父に対しての甘え‥‥」
 仲間の言葉に対し、とつとつと話し始めるNASU。彼、いや彼女の、ロックを始めるきっかけについて。
「ロック歌手だった死んだ親父がいつも言ってたんだ。ロックは男のロマン、俺が男だったら、ロックをやらせてたのにって。俺は幼い頃から聴いてきた、ロックが歌いたかった。親父のようなロックが歌いたかった。だから‥‥俺は男になろうとしたんだ。でも、それは甘えだ、親父の言葉に甘えてた。男になれば‥‥男だからロックを歌える。そうじゃない、女だって‥‥女だから歌えるロックもある‥‥そうだろ!」
「ああ、そうだ‥‥お前だから歌えるロックがある!」
「わかった、俺はもう自分を偽らない! 男とか女とかそんなの関係なく、自分のロックを歌うよ!」
 悩みを吹っ切ったように顔をあげるNASU。一同は、そんなNASUを喜びの表情で向かいいれるのだった。

「この曲はダメっスかぁ?」
「う〜ん、いい曲なんだけど今回のテーマならこっちかなって」
「あ、やっぱりそう思うっスか、あはは〜」
 それから、出来上がった数曲からデビューに相応しい曲を選んだ『Wheel of Fortune』の一同は、練習を繰り返し自分達の曲として仕上げていく。

 見上げ空へ羽ばたく‥‥ FOREVER SOUL!

 あの日僕は掴めなかった 描いた夢には届かなかった
 数え切れない今日が過ぎ 何度も明日が来てるのに
 僕が描いた望んだ未来は いつまでたっても訪れなかった
 数え切れない今日が過ぎ 何度も昨日に流れてるのに

 誰かに仕組まれた終わりなき戦いの果て
 立ち止まろうとしても内に潜むもう一人の自分が戦えと叫ぶ

 バラバラになりそうな心を繋ぎ止めてくれた君の言葉(ワード)
 俺の心に熱き魂の火が灯る

 鼓動揺さぶる WANT TO FIGHT!
 前を見据えて DONT GET AWAY!

 どんなに闘い傷ついたとしても いつか必ず甦る

 鼓動揺さぶる WANT TO FIGHT!
 心の翼広げて FLY OUT!

 そして再び飛び立っていく その翼を広げて
 何度も 何度も
 見上げ空へ羽ばたく‥‥ FOREVER SOUL!

 デビュー曲『FOREVER SOUL』は、アップテンポで爽快感のある、空を疾走するような曲に仕上がった。そして、NASUの歌もいままでは押さえ込んだ張り詰めたようだったのが、まるで自由に空を飛び立つような歌声に変化していく。
 こうして、新曲は完成し、無事に収録を終えた。NASUは、芸名を『NASUKA』と変え、女性ボーカルとしてメジャーへとデビューすることになるのだった。