ロック野郎ぜ! 対決アジア・オセアニア
種類 |
シリーズ
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担当 |
緑野まりも
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
8.2万円
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参加人数 |
9人
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サポート |
0人
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期間 |
06/09〜06/13
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●本文
かつて、飯岡真那斗という名のロックシンガーがいた。メッセージ性の強い歌詞と、心を揺さぶるような激しいシャウトで若い世代の人気を得た歌手である。しかし彼は、34年という短い生涯を惜しまれつつも閉じた。
僕は当時、忙しく家に戻らない父と、毎日のように遊びに出かける母のため、両親の愛というものを知らずに育った。そのせいか、僕は毎日を無気力に過ごし、打ち込めることも見つけられずにいた。
そんなとき、僕は彼に出会った。当時の彼は、まだ世間に認められる前の新人で、小さなライブハウスを回っては、いくつも門前払いを食らい。それでもあきらめずに歌い続けていた。
出会いは偶然だったと思う、僕は中学の塾の帰りで、彼はライブの帰りだったようだ。
「坊主、男だろ、なにしけた面してんだ!」
彼は僕にそう叫び、無理やり引っ張ってては、公園で歌を歌った。無気力な僕を叱咤激励するような歌に、そして胸を打つシャウトに、一瞬で惹かれてしまった。
それから僕は、彼のライブに足しげく通うようになる。いままでこれほど熱中したものはなく、彼と彼の歌うロックというものに、強い憧れを抱くようになった。
「自分の歌の力だけでトップへ上り詰める、それがロックってもんだろ!」
ある日、僕が父親の経営している音楽プロダクションでデビューできるように頼んでみると言ったとき、彼はそう言って断った。自分の歌に絶対の自信と信頼を置いているようだ。現に、彼は数年で人気ロックシンガーとして業界から認められる存在となった。
あれは、僕にとって運命の日と呼べる日だったかもしれない。彼がポツリと呟いた言葉だ‥‥。
「俺の子供も、お前みたいな男だったら、ロックをやらせたんだがな‥‥」
「‥‥だったら! 僕が! 僕がロックを歌うよ! そして、アンタみたいなロックシンガーになってやる!」
彼は驚いたような顔を僕に向けた、初めてあった頃の無気力な僕と見比べていたのかもしれない。
「そうだな‥‥お前ならきっと、すばらしいロック野郎になれるかもな!」
そのあと、僕はロックシンガーになるべく、歌の勉強を始めた。音楽プロダクションの父親も利用し、有名な教師を呼んでは歌の基礎からみっちりと勉強した。才能もあったらしく、僕は瞬く間に実力をつけていった。彼に早く追いつきたかったからだ。しかし‥‥。
「真那斗が急死!?」
バイクでの事故だったらしい、飯岡真那斗は34歳という短い生涯を閉じた。結局僕は、彼に一度も自分の歌を聴いてもらえぬまま、彼と別れることとなってしまった。
人生の目標を失い、僕は昔に戻ったように無気力状態になった。あれほど努力した歌でさえ、もう歌う気にもなれなかった。そんなある日、ヤツと出会った。
「真那斗!? 違う‥‥ヤツは!!」
偶然だった、路上ライブでヤツが歌っていたそれは、かつて無気力な僕に彼が歌った歌と同じだった。彼の面影を残す顔立ちと、彼と同じ強さを持った歌声‥‥一瞬でわかった、ヤツが真那斗の娘であると。
「‥‥僕が‥‥僕が求めてやまなかった物を、何でアイツが! 女のアイツが持ってるっていうんだ!」
彼への憧れ、尊敬、そういったものが反転して、ヤツに対しての羨み、妬み、憎しみへと変わっていった。
「あんなヤツに渡さない! 真那斗の歌は、僕が‥‥僕が受け継ぐべきなんだ! あんなヤツいらない! 真那斗だってそう思ってるはずだ!」
「大丈夫かHIRO?」
「ん、夢‥‥か」
ロックバンド『Venus』のリーダーIWANに起こされたHIROは、小さく呟くと頭を振った。
「最近、なにか色々しているようだが、疲れているんじゃないか?」
「ふん、IWANには関係ないことさ。僕のことは僕が一番わかってる。それより、これが次の仕事だよ」
「『歌え! ロック天国』‥‥テレビの歌番組か」
「そう、僕達をもっとよく知ってもらうための番組さ。そして‥‥僕の実力をヤツに思い知らせる‥‥」
「HIRO?」
「まぁ、そのまえにヤツらの信用が地に堕ちてしまうかもしれないけどね」
不審な表情を浮かべるIWANを無視して、HIROは顔を歪めたような笑みを浮かべるのであった。
ある日の足花プロダクション事務所、ロックバンド『Wheel of Fortune』は、発表されたデビュー曲の売れ行きも好調、先日の単独ライブも成功と人気は急上昇といった感じであったのだが‥‥。
「こんなつまらないことで、君が気を病むことはない」
「う、うん、でも俺のせいで他のメンバーにも迷惑を‥‥」
俯いたNASUKAに、怪我の完治したプロダクション社長の足花が優しく声をかける。事務所の机には、『人気ロックバンドのボーカルに、ニューハーフ疑惑!?』という見出しのゴシップ誌が置かれていた。内容は、「最近、人気急上昇中のロックバンド『Wheel of Fortune』のメインボーカリストNASUKAは、マイナー時代に男として活動していた。本当の性別がどちらかは定かではないが、ファンを偽っていたことは確かであろう」というものである。
「この間のライブ、君の昔のファンも大勢来ていた筈だ。彼らは、君が男性か女性かなんて気にしていない。求めているのはそんなものではなく、君の歌だからだ」
「わかってるさ! でも、世間から見れば、こんな記事を見れば信用にも‥‥」
「信用なんてものは、君達の歌で勝ち取ればいい。私は、君達はそれだけの実力があると信じているよ」
「足花さん‥‥ありがとう」
足花の言葉に応えるようにNASUKAは顔を上げ、微笑を浮かべる礼を述べる。
「さて、仕事の話をさせてもらおう。次の仕事だが、『歌え! ロック天国』というテレビの歌番組に出演が決まった」
「テレビ!?」
驚くNASUKAに、足花はニッコリと笑みを浮かべ。
「ロックをメインにした歌番組で、毎回ロック業界で活躍するアーティストをゲストに呼び、トークと歌の紹介をする番組だ。君達のデビュー曲が好調のため、出演の依頼が来たというわけだ」
「で、でも、俺、テレビなんて‥‥それにトークって言われてもなに話していいか‥‥」
「トークの内容などは、メンバーと相談して決めていけばいい。君達が一般に知られる良い機会だぞ」
「う、うん‥‥わかったよ」
足花の説明に、困った様子ながらも頷くNASUKA。その様子に、ポンポンと肩を叩いて足花は笑みを浮かべる。
「‥‥しかし、同じ日に『Venus』も出演か‥‥面倒なことにならなければいいが‥‥」
NASUKAが帰った後、足花は一人顔をしかめて出演者のリストを見るのであった。
●リプレイ本文
「御前等‥‥其処で愚痴愚痴と騒いでいる小娘に首輪でも付けて、散歩なり映画なり遊園地なりに連れて行け」
というわけで、『Wheel of Fortune』のサブボーカル陸 琢磨(fa0760)の提案により、メンバーはNASUKAを連れて遊園地へと来ていた。
「なぁ、本当に俺達こんなことしてていいのか?」
「いいのよ、たまには息抜きをしないと疲れてしまうでしょ? それに、気持ちの切り替えしないと、ね?」
「そうですよ。たまには休むことも、良い演奏を行う秘訣です。久しぶりの遊園地、楽しみですね」
遊園地の入場ゲートを前に、不安そうに問いかけるNASUKAに、コーラス担当の星野 宇海(fa0379)とドラムの豊城 胡都(fa2778)が、笑みを浮かべながら諭すように答えて、ゲートをくぐらせる。
「それはわかったけど‥‥宇海、なんで俺の腕を‥‥」
「ふふふ、デートみたいで楽しいですわね♪ ねぇ、和磨さん、恋人同士に見えません? それとも和磨さんと、NASUKAさんのほうがいいかしら?」
「いや、俺に聞かれても困ります‥‥」
NASUKAと腕を組んだ宇海、NASUKAを男性に見立ててカップルを装ってみては楽しそうに笑う。宇海の問いかけに、ベースの陸 和磨(fa0453)は困ったように頬を掻いて苦笑する。
「俺‥‥こんなところはじめて来た‥‥」
「よーし! 今日は遊園地で遊び倒すぜっ! 早く来いよ!」
「NASUKAさん一緒にジェットコースター乗りませんか? 来たことないなら観覧車とかもいいかもしれませんね」
「俺が周囲に気を配ってますから、NASUKAさんはめいっぱい楽しんでください」
「さぁ、いきましょう? みんな待ってるわ」
「ああ‥‥!」
ベース担当の水威 礼久(fa3398)が一番に飛び出し一同に手を振る。胡都も、いつもよりもはしゃいだ様子でNASUKAを誘った。和磨は危険がないよう気を配り、宇海はNASUKAに微笑みかける。そんな仲間達に、最初戸惑いを見せていたNASUKAも、笑顔を浮かべて楽しそうに歩き出すのだった。
「いまごろ、やつらは遊園地か‥‥」
「‥‥行きたかったのならば、ついて行けばよかっただろうに」
「馬鹿を言うな‥‥。和磨をつけておけば十分だ、あの愚弟でもNASUKAの護衛ぐらいはできるだろう」
NASUKA達が遊びに出かけていた頃。練習スタジオに残っていた琢磨の呟きに、ギターの椚住要(fa1634)が楽器の手入れをしながら声をかける。琢磨は憮然としたように言い放ち、ため息をついて肩をすくめる。
「俺っちも行きたかったっスけどね〜! 同じドラムの胡都と比べると俺っちが若干劣るッスからね。少しでも差を埋めるように頑張らんと!」
「あまり大人数で行って目立ってもいけないしな。居残って練習ってのもいいだろうさ」
同じく居残り組みのドラム担当旺天(fa0336)とベースの黒羽 上総(fa3608)も、自分のパートの練習に余念がない。
「それにしても、NASUKAは精神が不安定すぎる‥‥これだから女というヤツは」
「といいながら、いつもNASUKAのこと気にかけてるんっスよね〜、この人は」
「まぁ、この息抜きでNASUKAさんの気持ちがはっきりと安定してくれるといいんだがな」
呟きを旺天に茶化されて、ムッとした表情で睨みつける琢磨。その様子に苦笑しながら、いつもの調子のNASUKAを思い浮かべて頷く上総
「‥‥さぁ、雑談は終わりだ、そろそろ練習を始めるぞ。ボーカルは琢磨で、音あわせと微調整を行う」
そんな彼らに、要が淡々とした口調で声をかけ、練習を開始するのだった。
しばらく遊園地で遊んだNASUKA一行は、近くの公園で宇海持参の弁当をワイワイと騒ぎながら食べた。この頃には、NASUKAもすっかり元気を取り戻している様子であった。
「っと、そろそろ次行こうぜ」
「ここは‥‥」
「見てのとおりのストリートライブ広場さ。NASUKAも懐かしいんじゃないか?」
「ああ‥‥俺も、初めの頃はこんな場所で歌ってた。前のバンドの仲間もストリートライブで知り合ったんだ。はは、ホント懐かしい」
礼久の案内で来た公園の一角は、ストリートミュージシャンの集まる広場のような場所だった。いくつものアーティスト達が、各々好き勝手に自分の音楽を披露している。そんな様子に、NASUKAは目を細めて懐かしそうな表情を浮かべた。
「へぇ、みんな、こんなところでやっているんですね」
「あれ? 胡都さんは、こういったところにはきたことがないですか?」
「ええ、話には聞いていましたが‥‥。僕は、俗に言う『温室育ち』のドラマーですから」
和磨の問いかけに、苦笑を浮かべて答える胡都。
「でも、ロックの荒々しさはこういった場所で生まれるのでしょう。僕も見習いたいですね」
「さて、あとはあれの用意をしないとですね‥‥」
そう呟いた狭霧 雷(fa0510)は、現在NASUKAの実家へと来ていた。
「はじめまして、先日ご連絡させていただいた狭霧と申します。NASUKAさんとは、同じバンドのメンバーとして親しくさせてもらっています」
雷は、NASUKAの母親に面会し、ことの事情を説明すると、彼女にカメラを向ける。
「NASUKAさんに誘ってもらって、私ももう一度夢に向えましたからね。彼女の歌の起源を知りたいと思ったんですよ。それではお願いします」
「みなさん、『歌え! ロック天国!』へようこそ!」
番組収録が始まり、50人ほどの観客のいるスタジオに、次々と出演者が入場していく。
「インディーズからのし上がった実力派バンド『Venus』!!」
『Venus』のHIRO達が入場すると、一際大きな歓声があがる。HIROは、余裕の表情を浮かべて観客に応える。
「運命の輪に結ばれた新進気鋭の革命児達! 『Wheel of Fortune』!」
ワー! やはり、歓声を浴びながら、NASUKA達も入場する。NASUKAは、凛々しい女性騎士、そんな印象を与える衣装を纏っていた。
番組では、先に『Venus』のトークが始まった。
「ええ、僕はボーカルが抜けた穴を埋めるために入りましたが、結果的にそれが良い方向に向かったようなのでとても嬉しいです」
「くっ!!」
「抑えてNASUKAさん、あんな言葉気にしちゃだめよ」
基本的にトークはHIROが受け答えをしているのだが、途中何度かNASUKAを挑発するとも取れる言動があった。そのたび宇海は、悔しさに歯を鳴らすNASUKAの手をそっと握って落ち着かせた。そして、その後『Venus』は難なくライブを行う。
「上手いですが‥‥あれは‥‥」
「ただ上手いだけっス、あんなのロックじゃないっスよ」
「仲間とバラバラ、そんな感じだな」
胡都は、彼らの歌に小さく感想を漏らす、しかしそこにはどこか自嘲気味な笑みがあった。旺天と上総もつまらなそうに呟いた。
さて、しばらくして『Wheel of Fortune』の出番が回ってくる。トーク席に呼ばれた一同は、NASUKAを中心に席に座った。
「さて、皆さんへの質問は‥‥」
司会者は、最初当たり障りのない質問を行い、それにNASUKAもしっかりと答える。メンバー達も、フォローやときおり茶々を入れて場を盛り上げていた。
「ところでNASUKAさん、貴方はかつて男性として活動していた‥‥というのは本当ですか?」
「‥‥‥本当だ」
「しかし、いまは女性として活動されてますね、何故ですか?」
「‥‥それは」
しばらくして、トークはNASUKAの過去についての話になる。予期していたとはいえ、一瞬言いよどむNASUKAだが‥‥。
「俺は‥‥死んだ父の『ロックは男のロマン』という言葉に縛られていた。けれど、今の仲間達に会って、それは違う、俺には俺のロックがあるんだってことを教えられたんだ。だから、皆にも俺の本当のロックを知ってもらいたくて‥‥」
「なるほど〜、ファンの皆さんもそれを聞いて嬉しく思っているでしょうね。さて、ここに一本のビデオレターがありますのでそちらをご覧ください」
「え‥‥」
司会者の紹介で、スタジオのモニターにNASUKAの母親からのメッセージが流れる。それは、雷が事前に収録しておいたビデオレターであった。母親は、NASUKAに父親の本当の言葉を伝える。「男だろうと、女だろうと、自分のロックを貫け」と。最初あっけに取られながらも、母の言葉に感動し、顔を俯かせるNASUKA。
「母さん‥‥親父‥‥ありがとう、俺のロックを貫くよ‥‥」
「ご覧のとおり、NASUKAさんは、数年前に惜しまれつつ事故でなくなったロック歌手、飯岡真那斗さんの娘さんです。彼女は、その意思を継ぎ、きっと素晴らしいロック歌手になるでしょう。それでは! 『Wheel of Fortune』に歌っていただきましょう! 『FOREVER SOUL』!」
司会者の言葉に、メンバーは席を立ちステージへと移動する。そこで彼らは、最高の演奏を披露するのだった。NASUKAは、全てを吹っ切り、自分のロックを生み出す。ついに、新しいロック野郎がここに目覚めるのだった。
「あんなビデオレターくらいで勝ったつもりになるなよ!」
HIROが最後に残した言葉、それが今回の成功を物語っていた。