ロック野郎ぜ 音楽番組アジア・オセアニア

種類 シリーズ
担当 緑野まりも
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 7.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 02/13〜02/17
前回のリプレイを見る

●本文

 雑居ビルにある足花プロの事務所では、いつものように社長の足花雄三が煙草を銜えながら仕事をしていた。事務所には彼のほかに従業員は居らず、つまり彼は社長であり、経理であり、所属アーティストのマネージャーでもあった。人件費を極力抑えて、なんとか経営が成り立つ貧乏プロダクション、それが足花プロである。
 しかし、貧乏だからといって、仕事が無いわけではない。むしろ、足花雄三という男は、業界では腕の立つスカウトマンとしてそれなりに有名で、彼が見つけプロデュースしたバンドやグループのほとんどは、成功を収めているし。かつてはヴァニシングプロに所属し、十分な実績をあげていたという経歴も持っている。そのこともあり、足花プロはヴァニプロの子会社ということにもなっている。
 だが、一向に足花プロが大きくなることはない。というのも、彼は彼自身が管理できる1組のグループしか、プロダクションに所属させていないのだ。二人三脚と言えば聞こえがいいかもしれないが、やはりプロダクションが小さいままでは活動にも限界がある。そのため、彼が見出し育てたグループは、自然と大きなプロダクションへと移って行くのだった。彼はそれを「巣立ち」と呼んでいる。
 そんなわけで、今日も足花は少ない収入をやりくりしながら、プロダクションの管理を行っていた。
「足花さん、こんちゃ〜っす」
「挨拶ぐらいしっかりしろ。年頃の娘が、ったく‥‥」
「なんか言うことがオッサン臭いよ。だいたい、俺はずっとこれで通してきたんだから、いまさら変えようがないって」
「だからといってな、社会人として挨拶ぐらいしっかりできないと‥‥」
「はいはい、俺は場所と相手によっては、ちゃんと挨拶ぐらいしますよって」
「‥‥‥」
 足花が一仕事終えた頃、唯一の所属アーティスト『Wheel of Fortune』のボーカルNASUKAが事務所に現れた。足花の軽い説教を聞き流して、NASUKAは来客用のソファへと腰を下ろす。足花はその態度に、なんとなく眉間を押さえるが、あまりしつこくは言わないことにした。
「で、北海道はどうだった?」
「おぅ、寒かったけど楽しかったぜ! 美味い物も食べられたしな」
「そうか、仕事もちゃんとしてあったし、メンバーとの交流もできたなら良かったな」
 そういう足花は、楽しそうに頷くNASUKAを見て、目を細めた。もしかすると、わざわざ北海道までPVの撮影に向かわせたのは、他のメンバーとの音楽以外での交流をする機会、という目的もあったのかもしれない。
「それで、次の仕事だが」
「ん、音楽番組の出演だろ? 前にも出たから大体わかってるよ」
「そうだ」
 足花の言葉に、わかっている様子で答えるNASUKA。事前に渡されたスケジュール表のとおりに、仕事はある程度決まっている。その他にも細かいスケジュールはあるが、そういったものはある程度自己管理できるよう教えてある。まぁ、それが最終的には「巣立ち」を意識させることになるわけだが。
「まぁ、基本的には前に出たときと変わらないんだがな」
「ん?」
「季節柄、番組の方でちょっとした特別企画が組まれてるようでな」
 と言って、足花は局から渡された番組の概要が書かれた紙をNASUKAに見せた。
「はぁ? バレンタイン企画『愛の手作りチョコレート作り』だぁ?」
「そう、番組内で出演者がチョコレートを作って、視聴者プレゼントにするらしい。もちろん、複数作って自分用にするのもかまわないそうだ」
 その概要を見たNASUKAは呆れたような声をあげる。手作りチョコレートを番組で作ってプレゼントという企画に、呆れているのだ。それ以外にも、バレンタインにちなんだ話題をするとも載っている。
「って、もしかして、これを俺にやらせようってわけじゃないだろうな!?」
「面白そうじゃないか、せっかくだし参加してみてはどうだ?」
 ふと気づいたように顔を顰めるNASUKAに、足花は気楽な口調で企画参加を勧めてみる。ちなみに企画への参加は強制ではなく、希望者となっている。
「じょ、冗談じゃない。俺はお菓子作りなんてやったことないんだ。だいたい、バレンタインにチョコをあげる相手なんていないし」
「なんだ、あげる奴いないのか? 別に、好きな奴とかでなくても、いつも世話になってるとかでもかまわんと思うが。いままで、そういうのあげた事はないのか?」
「無い‥‥。元々、男として活動してたから、ファンから貰うことはあっても、あげることは‥‥」
 と言って、頬を掻くNASUKA。照れたように少し頬が赤くなっている。その様子を、面白そうに見ていた足花だったが、少し残念そうに聞き返す。
「じゃあ、この企画には参加しないんだな?」
「しないよ。俺のスタイルじゃないし」
「スタイルじゃない‥‥か。たまには女の子らしい所も見てみたかったんだがな‥‥。オジサンもたまには女の子からチョコを貰えたらと、少し期待してたんだぞ‥‥」
「なんか言った?」
「いや、なんでもない‥‥」
 残念そうな足花の呟きに、NASUKAは聞こえなかったように小さく首を傾げる。
「まぁ、まだもう少し時間がある。興味があったら参加してみろ」
「だから無いって! んじゃ、そろそろ時間だから練習にいくわ」
 足花の言葉に、NASUKAは苦笑しながら首を横に振って、事務所を後にするのだった。

「バレンタインチョコか‥‥」
 練習スタジオからの帰り。NASUKAはなんとなく入ったデパートで、バレンタインフェアの売り場が目に入り小さく呟いた。
「ん〜‥‥いちおう、俺も女として認知されてるわけだし。日ごろの礼もかねて、メンバーにチョコをあげるのもアリかなぁ‥‥?」
 そんなことを言いながら、チョコをあげる自分を想像して、照れ臭そうに頭を掻く。女の子らしい行動というのに、どうにも抵抗があるようであった。
「いまさら、俺が女っぽく振舞ってしょうがないし‥‥でも、密かに期待とかされてて、あげなくてガックリこられても悪い気がするし‥‥う〜ん‥‥」
 結局、その日NASUKAは、バレンタインチョコをあげるかあげないかでずっと悩むのだった。

・出演者募集
 音楽番組『歌え! ロック天国』では、ロック業界で活躍中のアーティストを中心に、アーティストを募集しております。

・番組内容
 番組名『歌え! ロック天国』
 現在ロック業界で活躍中のアーティストを紹介し、トークなどを交えながら、曲の紹介を行う歌番組。トーク及び曲の紹介は、50人ほどの観客を呼んだスタジオにて行われる。

・特別企画
 今回は『バレンタインデー』企画として、『愛の手作りチョコレート作り』を行います。出演アーティストの中から希望者(男女可)数名に、特設されたキッチンで実際にチョコレートを作ってもらいます。

●今回の参加者

 fa0336 旺天(21歳・♂・鴉)
 fa0379 星野 宇海(26歳・♀・竜)
 fa0453 陸 和磨(21歳・♂・狼)
 fa0510 狭霧 雷(25歳・♂・竜)
 fa0760 陸 琢磨(21歳・♂・狼)
 fa1634 椚住要(25歳・♂・鴉)
 fa1641 上月 真琴(20歳・♀・狼)
 fa3398 水威 礼久(21歳・♂・狼)

●リプレイ本文

「なぁタカミ、あの企画に出るってマジか?」
 音楽番組出演に向けての打ち合わせの日、NASUKAは星野 宇海(fa0379)に、何気ない口調で問いかけた。
「もちろん、マジですわよ。ファンサービスは大事よ? それに、日ごろお世話になってる、バンドの皆様にもお礼を兼ねてお渡ししたいところですしね」
「ふ、ふ〜ん‥‥お礼か‥‥」
 笑顔で答える宇海に、NASUKAはそっけなく相槌を打つが、わざと視線を逸らしているようで少しぎこちない。その様子に気づいた宇海は、NASUKAの顔をまっすぐ見てニッコリと微笑んで。
「ナスカさんも一緒にどうですか?」
「えっ、お、俺はちょっと‥‥そういうのは」
「そういえばナスカの女の子らしい姿って見たことないな、せっかくバレンタインの企画なんだし、俺達にもナスカの作ったチョコ食べさせてくれよ、なっいいだろ?」
「いいッスね! 折角だし、ナスカも出てみたらどうッスか? 大丈夫。ちゃんと生暖かい目で見守っとくッスから!」
「お、俺は元々女の子らしいところなんて‥‥って! 生暖かいって何だよ!? ま、まぁ、でも、お前らがどうしても出て欲しいってんなら、出てやらなくてもないかな‥‥」
「それはよかった。私も事前にチョコ作りのレクチャーなどでお手伝いしますよ」
「ライが教えてくれるなら心強いかな」
 二人の話を聞いていた水威 礼久(fa3398)と旺天(fa0336)が、大げさに頷いてバレンタイン企画への参加を促す。その言葉に少し反発しながらも、内心は仲間が自分のチョコを欲しがっている様子に嬉しいようで、少し恥ずかしそうに頬を掻きながらも参加を承諾する。その言葉を聞いて、初日は何故か疲れたようにダウンしていた狭霧 雷(fa0510)も、ニコリと微笑んで手伝いを申し出た。
「それでは、企画の参加は宇海さんとナスカさんと琢磨さんということで連絡しておきます」
「あれ? タクマも参加すんの?」
「する事になってしまったらしい」
 雷がまとめに入る。NASUKAは陸 琢磨(fa0760)が参加すると聞いて、驚いたように琢磨を見る。琢磨はいつものようにしかめっ面で頷いただけだった。
「は〜い、チョコ作り私も参加したいです〜」
「だめだ」
「だめです!」
 そんな中、助っ人として参加した上月 真琴(fa1641)が挙手をして参加を表明する。しかし間髪入れず、琢磨と弟の陸 和磨(fa0453)がそれを却下する。
「琢くんひど〜い。私も琢くんに手作りチョコあげたいのに〜」
「‥‥‥」
「あ、あの、番組には俺達以外の人も参加しますし、企画の参加も人数制限が‥‥」
「そっか、じゃあしかたないですね〜」
 その言葉に抗議する真琴。無言の琢磨に、和磨が慌てて言い訳する。その言い訳にあっさり納得する真琴。琢磨は珍しく大きくため息をついて胸を撫で下ろしたようだった。

「バレンタイン特別企画! 愛の手作りチョコレート作り〜!」
 女性司会者の企画紹介と共に、参加者達がキッチンへと出てくる。
「‥‥参加してくださったのは以上のみなさんで〜す。それでは、さっそく始まってもらいましょう。クッキングスタート!」
 参加者の紹介が終わると、司会者の掛け声と共にチョコレート作りが開始される。NASUKA達も作業に取り掛かった。調理の間も、司会者から各参加者に質問がされる。
「ナスカさんは、今日はどういったチョコを?」
「え、え〜と‥‥と、トリュフを」
 NASUKAは雷に教わったとおり、トリュフを作ろうとしているようだ。
「星野さんは、お料理はお得意なんですか?」
「私お菓子作りは得意ですの♪ 『菓子類』だけは!」
「琢磨さんは、そ、その、何を‥‥」
「チョコを果物に絡めた物を。ナマは無理だから、ドライフルーツを使っている」
 何故か菓子類だけと強調する宇海と、険しい表情のまま手際よくドライフルーツをチョコに絡める琢磨。司会者が少し怯えているようなのは気のせいか。
「あら、ナスカさん、そこはこうしたほうがいいですよ?」
「え、あ、雷に教わったのに忘れてた」
 その後、途中何度か宇海にフォローされるNASUKAだったが、なんとか無事チョコレート作りを成功させたようだ。

「本日最後のゲスト、『Wheel of Fortune』の皆さんです」
 トーク席に呼ばれた一同は、司会者の紹介に簡単に挨拶をして席に着いた。新曲や今後の活動についての話をしたあと、話はPVについてに移る。
「新曲にあわせてPVも撮影したようですが、なにか裏話でもあれば」
「北海道は広くて白くて寒くて美味かったぜ」
「あまりに寒くて実は衣装の中にカイロとか入れてたさー。それでも寒かったけど。あ、あと食べ歩きやってる間タクマが終始不機嫌ぽい表情だったのが逆にちょっと面白かった‥‥あ、いやウソデス。ゴメンナサイ」
 待ってましたとばかりに礼久と旺天が、北海道のことを話し始める。しかも調子に乗りすぎて、琢磨に睨まれ慌てて首をすくめたりもする。
「まぁ、色々と食べ歩きしたり北海道では皆さん楽しみましたからね。そのため、ちょっと製作経費をケチって寒かったりもしましたけど」
「みんなで旅行なんて初めてですからね、未公開ですけど色々と面白い映像もあるんですよ。流石にナスカさんのものはありませんが、男性陣の寝顔ならしっかりとこのデジカメに‥‥」
 和磨も楽しそうにそのときの事を語り、雷はいつも持ち歩いているデジカメを取り出してニコリと笑う。
「未公開部分も機会があれば是非拝見させていただきたいですね。次に、皆さんのバレンタインの思い出を聞かせてもらえますか?」
「バレンタインの思い出はせっかくチョコを貰ってもいつも甘党の姉貴にそのチョコを食べられてた事だな。姉貴、今じゃ俺よりチョコ貰ってるからそんな事もなくなったが。あ、今年? 今年は本命から義理チョコでも貰えればと思ってるぜ」
「‥‥そういえば、私も弟のチョコを掠め取っていた記憶が‥‥いえ、何でもありませんわ〜。モテる家族を持ちますと、この日は一日中チョコまみれですの」
「コレと言って印象に残っているような思い出はないかな。一応ファンから貰ってはいるが、数も特別多いわけでもないし。つまらない話ですまないが‥‥」
「‥‥去年は凄かったです‥‥色々な意味で。えぇ、鼻血が止まらなくなるくらい」
 礼久、宇海、椚住要(fa1634) 、和磨とそれぞれバレンタインの話をする。特に和磨は随分と顔を赤くして、一体何があったのかと司会者に随分と突っ込まれたりした。そんな中、旺天に話が回ってくると。
「バレンタインは‥‥この日はあれッスね。俺っちがいかにネタキャラかを再認識する日ッスね。取り敢えず、10円チョコとかコンビニのテープくっ付いたままの板チョコとか送ってくるのやめて欲しいッス。わりと本気で惨めな気分になるッスから‥‥」
 どよ〜んと、一気にテンションが下がった旺天が、恨み言のように言葉を漏らす。さすがに司会者もどうコメントしたらいいか困ってしまう。
「あ、あの、旺天さん‥‥」
「つーかお前らバレンタイン神父に謝れ! 喪に服せ!」
「あ、あはは、では最後に皆さんに他のメンバーへのコメントをお願いできますか」
「え、えっと、そうッスね‥‥。宇海さんは‥‥やっぱあれッスね。みんなのお母さん的存在。つか寧ろお母さんまんま? 色んなとこに気を配って世話焼いてくれる、ありがたーいお人さー」
「そう言ってくれる嬉しいですわ。では私は和磨さんに‥‥和磨さんは、これからが楽しみな優しい好青年ですわ♪ 音楽も人生も成長期、という感じがしますわね〜期待してますわ」
「ありがとうございます。じゃあ、俺は雷さんに‥‥とても誠実な方です。ギターもとても上手く、俺は雷さんのギターは好きですよ? 其れにPV製作では俺も少しお手伝いしましたけど、殆ど雷さんが頑張って下さった様な物ですし、本当に色々とお世話になっています。性格も穏やかですし兄さんとは違う意味で落ち着きがある人ですね」
「私なんてまだまだ‥‥でも嬉しいですよ。では琢磨さんへ‥‥自分にも他人にも厳しい方ですが、何だかんだ言って、メンバーの事を気にかけてるんですよね?」
「ふん‥‥俺は要にだな‥‥俺としては助かる人物でもある。個人練習での伴奏もそうだが、何より落ち着きがある分付き合い易い。反面多少のトラブルに関して我関せずのけらいが在るのは否めんがな? それとナスカ、はっきり言って落ち着きがない上に思慮が足りない犬娘だ。実力はそれなりだが冷静さに欠けるのが難だ。歌っている際に感情が入り過ぎてしまう事もある。其れは長所であり短所でもあるが改善の兆しはあるので先ず先ずと言った所だな。纏める才能は皆無、但し他を惹き付ける才能はなきにしろあらず、と言った所だな」
「うわ、やっぱりキッツイな。でも、実力は少しは認めてもらってるってことかな? これからも用努力だな」
「随分と前向きに考えるようになったな‥‥。俺は上月さんにだな‥‥ボーカルが増えれば曲を作る時の自由度も広がるし、深みも増すから今回の加入はありがたい。期待している」
「はい、がんばりますね。では、私は礼久さんに‥‥今回初めての参加でお会いしたので実は良くわかりません。でも和くんと一緒でベースを凄く頑張ってらっしゃいますし、とても誠実な人だな、とは思いましたよ〜♪ 其れととても明るい人だな〜って。成長が楽しみですね〜♪ あとナスカさんに‥‥第一印象は、お転婆さんですね〜。元気があって良い事だと思いますよ? とても可愛らしい女の子です〜♪ でももう少し言葉遣いに気をつけてみましょうね〜♪ 今のままでも個性的で可愛らしいですけどね?」
「くっそー、なんか褒められてる気がしねぇ。ちょっと、こんなとこで頭撫でんなよ!」
「なんか改めて言われると照れるよな。じゃあ、俺は旺天に‥‥今は唯一のドラムになっちまって大変な部分もあるかもしれないが俺と一番テンションが合うのがテンだな、頼りにしてるぜ、兄弟!」
「もちろんッスよ、兄弟!」
「皆さんありがとうございました、ではそろそろ歌っていただきましょう。『Wheel of Fortune』の新曲で、『SNOW CRYSTAL』」

 ステージへと移動した一同。それぞれ雪のような白い衣装を纏い、薄暗い照明に照らされている。そして、ステージには白い雪が舞い落ちてくる。やがて、真琴と宇海がメロディを高い声で歌い上げる。
「一寸先すら見えない大吹雪 もうどれくらい歩いてきたのか 全てのものが動きを止めた この凍てつく世界を」
 琢磨にスポットライトが当たり、クールな眼差しで静かに歌い上げる。
「懐かしい暖かさにすがろうとしても 伸ばした腕すらかき消す吹雪に そんな物があったのか それすらもう曖昧で 伝わらない想い 震える指先 かじかむ手に息を吹き掛け」
 今度はNASUKAにスポットライトが当たり、必死に手を伸ばすも何もつかめなかったように腕を掻き抱きながら、感情を込めて歌う。メロディが一瞬止まり‥‥。そして一気に照明が明るさを増す。
「僕達が信じた明日に 尽きることない声が聞こえる!」
『AWAKE!』
「いかなる凍えに晒されようと 失う事なかれ その熱き魂!」
『AWAKE!』
 激しい旺天のドラムアクション、一人で突っ走りそうになりながらも、それを抑えてそれぞれのメンバーに合わせてリズムを作る。観客達も、そのリズムに乗って腕を振り上げながら一緒に叫ぶ。
「「吹き荒む風に向かう VIOLENTLY! 身体を掻き乱されても VIOLENTLY!」」
 真琴と宇海のコーラスも合わさって、歌声に深みが増していく。
「「喩えどんなしがらみに囚われても 取り巻く全てを吹き飛ばして!」」
「「掴み取るのさ 一欠けらのSNOW CRYSTAL! 記憶の中のSNOW CRYSTAL!」」
 バックにクリスタルのようにキラキラと光る結晶の映像が映し出され。NASUKAと琢磨は、観客に向かって大きく手を伸ばす。
「「翼がある限り目指す場所に向かっていつまででも飛び続けられるさ!!」」
 要のギターソロが終わり、NASUKAは舞い散る雪を見上げるように顔を上げる。曲の余韻を残しながら、照明が暗くなっていくのだった。

 番組終了後‥‥。
「みんなお疲れさん! これは、みんなへの感謝の気持ち。俺を支えてくれてありがとう、そしてこれからもよろしくな!」
 ジャーン、といって取り出したのは、袋状に包装されたチョコレート。NASUKAは照れたようにはにかんだ笑みを浮かべると、それを全員に配った。
「うお〜、女の子からの手作りチョコッス! ナスカからでも感激ッス」
「俺から『でも』ってなんだよ」
 それぞれ、礼と喜びの言葉をかけて、チョコレートを口に含む。ちょっと甘すぎる感じもするが、雷が監修しただけあってそれなりに美味しいチョコレートだった。そんな中‥‥。
「琢くん、私も琢くんにチョコレート作ってきたの♪」
「な‥‥」
 真琴が琢磨に向かって、ラッピングされた何か異様なものを差し出した。一瞬、顔が引きつる琢磨。
「折角手作りして持ってきたんだから食べて欲しいな〜」
「‥‥‥」
 琢磨をじ〜っと見つめる真琴。琢磨は、その差し出されたチョコ‥‥かどうかもわからないようなものを受け取り、口に運ぶ。彼は無表情のままだったが、額からは冷や汗が流れているようで‥‥。そして、倒れた。
「に、兄さ〜〜〜〜〜〜ん!」
「あれ? あんまりの嬉しさに、失神しちゃったんですか〜♪」
「救急車を呼んでおきました。まぁ、身近に似たような人が居るので慣れてますから」
 その後は、色々と大騒ぎになっとかならないとか‥‥。

●ピンナップ


陸 琢磨(fa0760
バレンタイン・恋人達のピンナップ2007
沖田龍