ロック野郎ぜ 父の命日アジア・オセアニア

種類 シリーズ
担当 緑野まりも
芸能 1Lv以上
獣人 3Lv以上
難度 やや難
報酬 8.2万円
参加人数 8人
サポート 1人
期間 03/27〜03/31
前回のリプレイを見る

●本文

「おやじ、ここでいったい何があったんだ‥‥」
 その日、NASUKAは人里離れた山奥の山道へと来ていた。山を抜けるように作られた、クネクネといくつものカーブで構成された道。そのカーブの一つで、NASUKAはガードレールに持っていた花束を供える。今日は父親の命日だった。
「数年前の事故‥‥おやじはバイクでこのカーブを曲がりきれずガードレールを突き破り‥‥転落した」
 ガードレールの下を見下ろせば、遥か下に広がる広大な山林。ここから落ちれば、いくら獣人といえどただでは済まないだろう。NASUKAの父、飯岡真那斗はここで亡くなった。一般的な報道では、彼はこの山道でスピードを出しすぎ、カーブを曲がりきれずにガードレールを突き破って転落死したとされている。
「あのおやじがそんな事故起こすはずが無い。やっぱり、噂通り‥‥」
 しかし、獣人側への情報はそれだけではなかった。実際には崖下で事故車は発見されたが、彼の死体は見つかっていない。そして、彼は事故の直前及び直後まで何者かと戦っていた形跡が残っており、それらを調べた結果、ナイトウォーカーに襲われたのではないかという見解が示された。
「おやじ、あんたなにやってんだよ! あんなに強かったじゃないか! それが、こんなところで‥‥」
 彼が落ちたとされる崖下へと叫び、拳を強く握ってギリと奥歯を鳴らすように噛み締める。悔しさ、悲しさ、怒り、様々な感情が入り混じった表情。NASUKAは感情が溢れそうになるのを、目元を拭って抑えようとする。
「お前‥‥なんでここにいる」
「ヒロ? お前こそ、なんでここに‥‥」
 そこに、一台のバイクが止まる。ヘルメットを脱いだ相手は、かつてNASUKAがボーカルを務めていたロックバンド『Venus』、そのボーカルの座を奪い取ったHIROだった。HIROは不愉快さをあらわにしてNASUKAを睨みつけ。NASUKAは驚いた様子でHIROを見つめ返した。HIROはガードレール下に供えられた花束に視線を移して、より一層顔を顰める。
「マナトの供養のつもりか? この親不孝が!」
「な! なんで、お前にそんなことを言われなくちゃならないんだよ!」
「なんで? なんでだと! マナトがお前のことをどう思ってたか知らないのか! 男に生まれていれば、自分の歌を継げると思ってたんだぞ! なんで、男に生まれなかった!」
「っ!! し、しかたないだろ、そんな‥‥」
「仕方ない!? はっ! たしかに仕方ないよな! だったら、なんでロックを始めた! なんで、なんで! 女のお前がマナトの歌を歌うんだよ! お前が、お前さえいなければ、マナトを継ぐのは僕だったはずなのに!」
「えっ‥‥」
 HIROの言葉に動揺するNASUKA。父の事と、激しい感情をぶつけられ、何を返したらいいかわからない。
「‥‥‥」
 しかしその様子を、息を潜めながら森の陰から伺う、一つの影があることに二人はまだ気づかなかった。

「なに!? ナスカが行方不明だと!」
 足花はその電話を受け、驚きの声をあげる。昨日、NASUKAはオフだった。父親の命日ということで、東北の山道にある事故現場へ行くという話しは聞いていたが、一日経っても戻らず様子を確かめたところ、消息が不明らしい。
「それで、山道にナスカのバイクが放置され、何者かに襲われた跡があると‥‥」
 足花は顔を顰めた、獣人は絶えず命の危険がある。いつNWに襲われるかわからないからだ。足花は一瞬、最悪の状況を思い浮かべた。
「なに? 『Venus』のヒロのバイクも近くに止められていた? あの男、妙にうちを目の仇にしていたからな。またなにか‥‥とにかく、すぐに捜索のための人を集める。ああ、いつもすまない、あとはこちらで何とかする‥‥」
 電話を切る足花。その表情には、焦りの色が出ている。
「くそ、あの子にもしものことが遭ってみろ‥‥絶対に許さんからな」
 足花は、相手が何かもわからないまま、そう呟いた。

「‥‥ここならしばらく大丈夫かな?」
「くそ‥‥なんで僕がこんな目に‥‥」
 山林で偶然見つけたほら穴、NASUKAとHIROはそこに身を隠した。NASUKA達は、山道で突然NWに襲われ、なんとか逃げられたが山林で道に迷ってしまった。しかも、HIROが足を怪我してしまいNASUKAが肩を貸して、ここまで来たのだ。
「僕がなんで‥‥僕が‥‥くそ、くそ、くそ!」
「そんなこと言ったってしかたないだろ。なんとか助かる方法を」
 悪態を吐き続けるHIROに、NASUKAは冷静な声で返し、対処を考えようとする。その様子に、最初憎々しげにNASUKAを見つめていたHIROだったが‥‥。
「僕を置いていけばいいだろう‥‥お前一人ならなんとか山林を抜けられるはずだ」
「馬鹿言うなよ。怪我人を放っておけるわけないだろ」
「なんでだよ! 僕はお前を‥‥。お前だって、僕が憎いだろ! お前の居場所を奪い取り、何度も潰そうとした僕が!」
「‥‥そりゃ、お前を恨んだことだってある‥‥だけど‥‥俺には新しい仲間ができた。そして、いつまでも過去のことをウジウジ悩むより、未来を見据えて生きていくほうが大事だって気づいたんだ」
「‥‥‥」
「それに、お前言ったよな、俺がおやじの歌を歌ってるって。でも違う、俺は俺の歌を歌ってるんだ。俺の、俺だけのロックを‥‥。どんな状況だって諦めない、そして、どんな嫌な奴でも見捨てない、かならず何とかする、それが俺のロックだ。だから俺はお前を見捨てない」
「ふん‥‥」
「それに、きっと俺の仲間達が、異常に気づいて助けてくれるさ。あいつらならきっと‥‥」
 NWは動きは速くないが、怪力を持っていた。なんとか今は逃げることができたが、戦闘経験の薄いNASUKAでは倒すことはできそうにない。しかも、夜通し逃げ続け、食料も無い状態では、どんどん体力は落ちていく。そして、いずれこの場所もNWに見つかるだろう。それまでに、なんとか助けが来なければ‥‥。
「頼むぜ‥‥みんな‥‥」

●今回の参加者

 fa0379 星野 宇海(26歳・♀・竜)
 fa0510 狭霧 雷(25歳・♂・竜)
 fa0760 陸 琢磨(21歳・♂・狼)
 fa1634 椚住要(25歳・♂・鴉)
 fa3014 ジョニー・マッスルマン(26歳・♂・一角獣)
 fa3398 水威 礼久(21歳・♂・狼)
 fa5387 神保原・輝璃(25歳・♂・狼)
 fa5538 クロナ(13歳・♂・犬)

●リプレイ本文

「奴が近づいてくる気配‥‥見つかった!?」
 隠れていたほら穴の中で、NASUKAはNWが近づいてくる気配に表情を曇らせる。あれから数日、息を潜めてなんとかやり過ごしていたが、それもそろそろ限界のようだ。
「おいお前、どうするつもりだ?」
「俺が囮になってここから引き離すよ」
「お、おい! っ!!」
 そう言って、NASUKAはほら穴を出て行く。HIROが慌てて呼び止めるも、NASUKAはそのまま穴の外へと姿を消した。
「さぁ、俺はこっちだ! 鬼ごっこに付き合ってやるぜ!」
 そして、NASUKAの精一杯の大声が、森の中に響き渡るのだった。

「この跡‥‥ただの野生動物のものとは考えられん。とすると、NWか‥‥」
 NASUKAの失踪現場、残されたバイクと付近の様子を確かめた陸 琢磨(fa0760)は、自分の経験から照らし合わせてNWの存在を示唆する。
「兎に角、ナスカさんの発見と保護が最優先です。NWと接触した場合、交戦は避けてすぐに退避して下さい」
 狭霧 雷(fa0510)は用意したトランシーバーを各人に渡し、そう指示を出す。NASUKAの捜索に赴いた『Wheel of Fortune』のメンバーとその協力者達は、3班に別れて山林を捜索することになった。
「大丈夫、地形も全て頭に入ってる。いざという時の避難場所もバッチリさ。絶対見つけて見せる、レティスも心配してたしな。この地図も彼女が用意してくれたんだ」
 水威 礼久(fa3398)は、先に現地で情報収集してくれたレティス・ニーグのことを口に出し、自分達以外にも心配し協力してくれる者がいることを心強く感じている。
「ダウジングの結果は東とでたが‥‥」
「この跡も東側ですし、たぶん間違いなさそうですわね」
 地図の上で円錐形のアクセサリでダウジングしていた椚住要(fa1634)が結果を伝えると、星野 宇海(fa0379)が大きな何かが通った跡の方角と照らし合わせて頷く。
「クロがナスカさんのことをよく知っていれば連絡できましたのに‥‥」
 NASUKAへの知友心話に失敗したクロナ(fa5538)が残念そうに呟いた。ちゃんとした面識の無いクロナとNASUKAでは、知友心話で会話することはできなかったのだ。
「仲間との絆‥‥か。助けたいっていう思いの強さはさすがに負けるぜ。もちろん、報酬分の仕事はさせてもらうけどな」
「怪我人が出たらミーに任せておくNE。早く助けてあげまSHOW!」
 神保原・輝璃(fa5387)は、『Wheel of Fortune』のメンバー達の意気込みに感心したように呟き、ジョニー・マッスルマン(fa3014)は鼓舞するように白い歯をキラリと見せてサムズアップした。
「では捜索を開始しましょう。一応プロモ撮影という名目ですが、銃器の使用には気をつけてください」
 雷の言葉に全員が頷き、NASUKA達の捜索が開始された。

「目ぼしい手がかりが無い以上、俺達は手当たり次第に探すしかないな」
「そうですNE。草の根分けても探し出しまSHOW。それでもしNWと遭遇してしまったら、頼りにしてますYO!」
「その筋肉は飾りかよ?」
 三組に別れ森に入った後、輝璃とジョニーは周囲に気を配りながら捜索を行っていた。ジョニーの軽口に苦笑を浮かべながら、輝璃達は慎重に森の中を歩いていく。
「待て、何かの気配がするぜ‥‥」
「ナスカさん達ですKA? それとも‥‥」
 そうしてしばらく捜索を行っていると、輝璃は何者かの気配に気づいた。ジョニーも、期待と緊張に顔を引き締めながら、その気配の主を探ろうと意識を集中させる。見通しの悪い森の中、気配が徐々に二人に近づいていき‥‥。
「NWか!」
 ガサリと音を立てて木々の間から姿を現したのは、頭部と手足が虫のような外骨格に変化した猪のようなNWであった。輝璃とジョニーは武器を構え、NWの動向を探ろうとする。
「む‥‥見失ったか‥‥」
「深追いは禁物NE。いまは皆との連絡と、行方不明者の救出が先ですYO」
 そんな二人にNWも気づいたようで、すぐに踵を返し姿を消してしまう。すぐに襲ってこないところを見ると、NWは別の誰かを狙っていることが予想される。つまりNASUKA達は無事である可能性が高いことを示していた。

「ナスカさん達を襲ったのは猪のNWだそうです。NWはまだ二人を探しているようなので、たぶん二人はまだ無事でしょう」
「ナスカの匂いはこっちからするぜ。血の匂いも混じってるから、もしかすると怪我をしているのかも‥‥急ごうぜ!」
「気持ちはわかりますが、お一人で突っ走らないでくださいね」
「くっ、分かってるさ、今回は慎重に行動する。二次遭難者にはならないさ」
 雷、礼久、宇海の三人は、ジョニー達の連絡を受けてより緊張を高めた。礼久は、鋭敏嗅覚で高めた嗅覚でNASUKA達の匂いを追うが、ついつい焦って先へ進んでしまいそうになるのを宇海に止められていた。そして、いざというときにすぐに合流できるよう、現在位置を地図で確認しながら進む三人。
「匂いが近くなってきているような気がする‥‥」
「あ、あそこ! ほら穴がありますわよ!」
 しばらくして、宇海が鋭敏視覚によってほら穴を発見する。急いでそこへと向かう三人だが。
「だ、誰だ!?」
「あなたはヒロさん?」
「おい! ナスカは、ナスカは一緒じゃないのか!?」
「クレイスさん落ち着いて。ヒロさん、ナスカさんとは一緒ではないのですか?」
「あいつの仲間か‥‥。あいつは‥‥」
 ほら穴にいたのはHIROだけだった。焦りで強く詰問する礼久を抑えながら、雷が落ち着いた声で問いかけると、HIROは少し前にNASUKAが囮となってNWを引き離したことを話した。
「囮!? ナスカの奴、俺よりも無茶なことを!」
「はい、はい、ナスカさんがNWに襲われている危険があります、急いで見つけ出してください。ええ、怪我人がいますのでジョニーさんはこちらに‥‥」
「ヒロさんは私が見ていますわ。お二人は早くナスカさんを!」
 ギリと焦りで歯を鳴らす礼久。雷はすぐに仲間と連絡を取り指示を出す。そして、宇海が残ってHIROの様子を見ることにして、礼久と雷は再びNASUKAの後を追うことにした。

「くぅ‥‥はぁはぁ‥‥こ、こっちだ! こっちへこい!」
 そのころ、NASUKAは懸命に森の中を走っていた。すぐ後ろにはNWの姿、NASUKAはただほら穴からNWを引き離すために、声をあげながら走っていた。
「はぁはぁ‥‥すこ‥‥しは‥‥引き剥がせた‥‥かな‥‥? うわっ!!」
 ついに足がもつれて転倒するNASUKA。勢い余ってゴロゴロと転がり、泥だらけになって身を起こす。
「へ、へへ‥‥もう走れそうに無いや‥‥けど、まだ諦めないぜ‥‥かかってきやがれバケモノ!」
 迫ってくるNWに苦笑いを浮かべ、NASUKAは震える膝を我慢しながら、キッと睨みつける。
「この馬鹿娘が‥‥あんな口だけの腰抜けは棄てて来れば良い物を。其の場の勢いで如何にか成る程、殺し合いは甘くない。死の後悔は決して安くない、それだけは‥‥憶えておけ」
「‥‥相変わらずキッツイぜ」
 そのとき、一陣の黒い風が吹き抜けた。そしてNWの、外骨格に覆われていない肉が切り裂かれる。NASUKAの前に立ち、厳しい言葉をかけたのは琢磨だった。NASUKAは、その姿を信じていたかのように苦笑を浮かべた。
「お前を見つけたとき、一番に駆け出したんだ、許してやれ」
「要‥‥」
「クロが声が聞こえた方角を伝えたら、凄い速さで駆けてったです」
 続いて、要が翼を広げクロナを抱えながら降りてくる。NASUKAの声を、クロナが鋭敏聴覚で聞き分け、場所を特定できたのだった。
「クロナ、ナスカを頼む」
「はいです!」
 クロナは、疲労しているNASUKAを安全な所へと避難させる。その間、琢磨と要はNWの相手をした。
「効き目が薄いか‥‥ならばこれで!」
 マグナムの効き目が薄いと判断した要は、琢磨から預かった対NW用拳銃スレッジハンマーを放つ。ズドンという常識外れの反動を受けながらも、その弾はNWに命中し確かな手ごたえを感じる。
「いまだ!」
 NWが怯んだその隙に、琢磨は強化した脚力で一気に間合いを詰め、その拳をNWの額に押し当てた。瞬間、グローブが眩い光を放ち、押し当てたその状態から装甲を突き抜けるような突きが繰り出された。そのダメージに苦しむNW。しかし、琢磨も暴れるNWに吹き飛ばされる。
「ぐっ!」
 木に叩きつけられる琢磨。その隙に、NWは逃げ出そうとする。
「間に合ったぜ、ロケットアーム!」
 そこへ現れたのは礼久と雷。礼久の放ったロケットアームは、NWの頭上を越えて木にめり込んだ。
「もう少し狙いはつけましょうよ」
 雷は逃げるNWに波光神息を吐きかけて足止めする。しかし動きを鈍らせながらも、暴れて振り払おうとするNW。
「仕事なんでね、逃がすわけにはいかないな!」
 連絡を受け俊敏脚足で駆けつけた輝璃の、対NW用両手剣ダークデュアルブレードがNWに突き刺さる。そして、ついにNWは動きを止めるのだった。

 その後、ジョニーの神光霊癒で怪我人は完治し、NASUKAも衰弱していたが命に別状はなかった。HIROは憎まれ口を叩きながらも、NASUKAに一言「すまなかった」と残し、自分の仲間に保護されていく。こうして、事件は無事に解決するのだった。