ロック野郎ぜ 巣立ちアジア・オセアニア
種類 |
シリーズ
|
担当 |
緑野まりも
|
芸能 |
3Lv以上
|
獣人 |
1Lv以上
|
難度 |
普通
|
報酬 |
9.4万円
|
参加人数 |
7人
|
サポート |
0人
|
期間 |
04/16〜04/20
|
前回のリプレイを見る
●本文
「‥‥はい‥‥はい‥‥ええ、お願いします‥‥いつもお世話になります‥‥いえ‥‥ありがとうございます‥‥それでは」
雑居ビルの一室、足花プロの事務所で電話をする足花雄三。その表情は真剣で、電話の相手に敬意を払っている様子だ。しばらく話をしたあと、深い礼の言葉を述べて電話を切った足花は、小さくため息を漏らし煙草に火をつけた。
「これでいい‥‥あとはあの子が選ぶことだ‥‥」
「え!? ヴァニプロの社長さん!」
その日突然電話があり、NASUKAはヴァニシングプロダクションの社長、緒方・彩音と会うことになった。ヴァニプロは、以前に足花がスカウトマンとして所属していたところで、独立し新しいプロダクションを起こした後も子会社として様々な協力を行っていた。NASUKAもその関係で、ヴァニプロに顔を出すことがあり、社長の緒方とも面識はあった。しかし、向こうからわざわざ会いたいと言ってくることは初めてであり、NASUKAは戸惑いつつ、指定されたカフェへと向かうことになった。
「こんなところに呼び出してすまないね」
「い、いえ‥‥本日はお、おひがらもよく、ごきげんうるわ‥‥」
「はは、堅苦しい挨拶は抜きで行こう。今日はちょっと大事な話があって来てもらったんだ」
「は、はい‥‥」
緊張するNASUKAに、緒方は気さくな感じで話しかける。大手プロダクションの社長と言ってもまだ若く、現役のスカウトマンとして動いている緒方は、くだけた感じを装いながらNASUKAの目をジッと見つめた。
「単刀直入に行こう‥‥うちに、正式に入らないか?」
「え‥‥」
NASUKAは最初何を言われたのかわからなかった。うち、つまりヴァニプロに正式に入る。それは、日本のロック業界でトップになるための登竜門に等しく、しかも社長じきじきのスカウトならかなりの期待をされているということだろう。この業界に入れば、誰もが夢見る夢の一つとも言えた。
「え、でも‥‥俺は足花プロに所属してますし‥‥」
「そうだな、だからうちに移籍‥‥という形になる」
「移籍‥‥」
しかしNASUKAは、その話に舞い上がるどころか、移籍という言葉に酷く動揺した。
「な、なんで俺なんかを‥‥?」
「君の歌声は美しいと思う。荒削りだが、磨けば今までに無い輝きを放ってくれると私は思っている。うちなら、君の美しさを世界に広めることができると思うのだが」
緒方の顔は、完全にスカウトマンの顔になっていた。それが、冗談ではなく本気なのだと物語っているようだ。だが、NASUKAはこの話に現実味がもてないようであった。ヴァニプロに移籍ということは、足花プロを離れるということである。それは、どん底から自分を見つけ出し、ここまで育ててくれた足花を裏切ることになるのではないか、という思いがNASUKAの表情を暗くした。
「‥‥それと、うちに移籍してもらえるということになった場合、いま君が所属しているバンド『Wheel of Fortune』からは脱退ということになってもらうと思う」
「えっ!」
「もちろん、『Wheel of Fortune』も大変素晴らしいバンドだと思っているよ。しかし私は、君にはバンドという枠にはまって欲しくはないと思っているんだ。ソロとして様々な場所で活躍して欲しいと思っている」
「そ、それは‥‥」
『Wheel of Fortune』からの脱退、それこそ考えられないことだった。大切な仲間、そして仲間と共にいられる居心地のいい場所。しかも、彼女はかつて、信じていた仲間に裏切られたとも同然の行為で以前のバンドから抜けさせられた経験がある。それがトラウマのように、NASUKAがバンドから抜けることを拒否させる。
「この話はお‥‥」
「今日のところはこの辺で。時間はあるからよく考えてみて欲しい。君の将来にとって、どうのような選択をすればいいのか‥‥をね」
「あ、俺は!」
NASUKAが断りの言葉を言おうとしたそのとき、緒方はタイミングよく立ち上がり、そう言葉を残して立ち去ってしまった。NASUKAは言いそびれた言葉を吐き出せず、大きくため息をつくのだった。
「なあ足花さん‥‥」
「ん、なんだ?」
それから数日後、NASUKAは事務所を訪れた。
「もし、もしだぜ! 俺が‥‥その、どこか別のプロダクションに移籍する‥‥ってことになったら、足花さんはどうする?」
「なんだやぶからぼうに。そう言った話があるのか?」
「もしだよ! もしそういうことになったら、足花さんはやっぱり俺を引きとめようとするのか?」
結局、緒方の話をまともに考えることができなかったNASUKAは、足花に相談することにした。足花にちゃんと引きとめる言葉を掛けてもらえれば、ここに残ることを決断できそうだったからだ。しかし‥‥。
「そうだな、お前が自分の将来のために選んだことなら、私はそれを尊重する。引き止めるようなまねはしないよ」
「え‥‥? だって、この事務所には俺しかいないじゃないか! 俺がいなくなったら、あんたどうするつもりだよ!?」
「どうもしない、私は新しい奴を見つけ出し、育てるだけだ。いままでだってそうしてきたしな。まぁ、騒がしいのがいなくなって、少しは静かになるか? ははは」
「‥‥‥」
NASUKAにとって、足花の答えはあまりに意外で、冗談めかして笑う足花がとても遠い存在に思えて肩を落とした。
「ああ、それより、今度の仕事はすごいぞ。大きめなコンサート会場でのシングルライブだ。ヴァニプロの協力で実現したんだが、うちだけではまだちょっと難しいところだったな」
「ヴァニプロ‥‥」
足花からでたヴァニプロという単語に、NASUKAは再び激しい悩みに頭を痛める。ヴァニプロに移籍することは、自分の人生にとって大きな転機だ。将来を考えれば、願っても無いチャンスなのだろう。そして、自分が思うほど、足花には自分は大事ではないのではないかと思い、気持ちは激しく揺れ動いていた。
「‥‥私の力だけでは、お前を導いてやれる限界がある。その先に進むには、決断しなくてはならない時が必ずある‥‥」
「え‥‥? なんか言った?」
「おいおい、ちゃんと仕事の話を聞きなさい。それで‥‥」
一瞬、足花は鋭い眼差しで小さく呟いた。NASUKAはそれを聞きそびれてしまい、再び聞き返したときには、足花は普段どおりの表情で仕事の話をしていた。
「‥‥みんなに話があるんだ」
それからまた数日後、NASUKAは仲間の前で正直に移籍の話をすることになる。自分はどうしたらいいのか、皆の気持ちはどうなのか。
●仕事内容
コンサート会場でのライブ ヴァニプロの協力によって実現したファン1万人を集めた単独ライブ。会場は屋内で、チケットはすでにソールドアウト状態の模様。『Wheel of Fortune』にとって、初めての大規模ライブとなる。
●リプレイ本文
「おはようございます、あ、ナスカさん」
「和磨‥‥と要、おはよ‥‥はぁ」
「おはよう‥‥覇気が無いな」
練習スタジオ、陸 和磨(fa0453)と椚住要(fa1634)が入ってくる。NASUKAが挨拶を交わすが、どこか上の空の態度に、和磨と要は顔を見合わせた。
「これ、今度のライブでやる新曲です。残り間近ですが、きっちり仕上げていきましょう」
「う、うん‥‥わかってる」
和磨が、新曲の歌詞と楽譜を手渡すが、NASUKAはやはり上の空でボーっと渡されたそれを見つめる。
「またあの事で悩んでいるのか?」
「‥‥‥」
「言葉にしてみろ。それだけで少しは気持ちに整理がつくものだ」
「うん‥‥」
要の問いに無言で肯定し、暗い表情を浮かべるNASUKA。要は相談を聞くとばかりに、静かにNASUKAが話し出すのを待つ。NASUKAは、ぽつりぽつりと、今後のことや、仲間の気持ち、ファンの気持ちなど、不安を口にする。それに対し、要はそれぞれの道のメリット・デメリットをアドバイスするが、明確な答えは出さない。
「なぁ、俺はどうしたらいいんだろう?」
「‥‥‥」
「俺は別に無理してヴァニプロに行く事はないと思いますよ?」
それまで、なにも口を挟まなかった和磨が、NASUKAの問いに答える。NASUKAは、その言葉にハッとしたように和磨を見つめる。
「和磨?」
「今のままで自分なりのやり方を見つけて活動して行くのも一つの手ですよ? 兄さんなんか自分でプロダクション立てたりしてますしね? それでもやれる事はいっぱいあるんです」
「今までどおりやれることやる‥‥いや、俺達だけでももっと大きなことをやってやるって気持ちは大事だよな。要はどう思う?」
「お前が本当にやりたいことなんてお前にしか分からん。もっと強くなれ。そんな大事なことを人に聞いて決めているようじゃ、移るにしろ残るにしろこの先やっていけないぞ。まぁ‥‥個人的には、ナスカとはもうしばらくやりたいとは思っているが‥‥」
「そっか‥‥」
和磨と要の言葉に、まだ悩みは晴れないが、自分の居場所がここにあることに少し嬉しく感じるNASUKAだった。
しばらくしてメンバーも集まり、NASUKAは星野 宇海(fa0379)と歌の練習、ボイストレーニング、それと何故か筋トレなどをこなしていく。
「ほら、どうしましたのナスカさん! もっと声を出して!」
「あ、うん‥‥!」
「ふぅ、少し休憩を取りましょう。はい、水分取って」
「ありがと‥‥」
練習中、何度か宇海に注意されるNASUKA。まだ、頭の中の悩みのせいで、調子がでないようであった。そんなNASUKAの世話を焼きながら、宇海が世話話を始める。
「私も移籍はしたことありますわ‥‥非常に心苦しかったですわ」
「うん‥‥」
「でも自分の夢の為に決断しましたの」
「決断か‥‥でも難しいよ、どちらかを選ぶなんて」
「何をしたいのか? 何を最優先したいのか? ココでやりたいのか、もっと色んな可能性を試したいのか。自分の心だけと向き合ってご覧なさい。難しくてもしなくてはならない、人生って決断の連続ですもの‥‥」
「決断の連続‥‥自分の心だけと向き合うか」
練習の休憩中、一人でいるNASUKAの背中を水威 礼久(fa3398)が叩いた。
「どうしたよ、まだ調子出てねえんじゃね? もしかして、今度のライブのでかさにビビッてんのか〜?」
「あはは、そりゃクレイスもじゃないッスか?」
礼久の軽口に、一緒にいた旺天(fa0336)が笑い声をあげる。
「てめ! お前だって、ライブの話してたら震えてたじゃねえかよ!」
「そ、そりゃ、武者震いッスよ!」
「はは‥‥うん、まぁ、いままでで一番でかいライブだしな」
礼久と旺天は、お互いを小突きあいながら冗談を言い合う。それを見ながら、NASUKAは少し曖昧に笑った。
「ナスカ、うちの姉貴さ、知ってるだろ? ロックが主体なのに恩のある人がいるからってポップスの大手事務所入っててよ。それなのに馴染みのライブハウスの親父さんの為にヴァニプロ入りを目指すのが親孝行じゃないかと悩んでてさ。でもどこにいても伝えようとしてる事は変わってない、自分の唄はどこでも唄えるさ。おまえがヴァニプロに入るんなら入ればいい、俺たちとやりたいんならいつだって集まるから、俺達に遠慮する必要なんてないぜ」
「そッスね。別に『Wheel of Fortune』じゃなくても、俺っち達は一緒にできるッスよ! まぁ、俺っちは移籍しろともするなとも言わないつもりさー。これはもうナスカの人生を左右する重要度SSSの大問題ッスからね。俺っちがあーすれこーすれと言える話じゃあないさ。つーことで、過去のしがらみだの今のバンドのことだのは取り合えずすっ飛ばして、ナスカという一人のボーカルがどうしたいのか。それだけ考えて決めればいいッスよ」
「お前ら‥‥」
二人に一気に捲くし立てられ一瞬ポカンとするNASUKA。しかし、その言葉はちゃんと伝わったようで、小さく笑みを浮かべて頷く。
「それより、ライブの演出なんだけどよ。奈落から飛び上がるように登場したりやりたいよな、紙吹雪降らせたり!」
「いいッスね! せっかくだし、宙を舞っちゃうのもどうッスか! こうナスカの背中にワイヤーつけてさー!」
「って、ちょっ! 待て! カブキじゃねーんだから、んなのできるか! ったく、マジに聞いてたらすぐにこれなんだもんなぁ! ぷっ、はははは!!」
「あはははは! いや、この演出案マジなんだけど?」
「うはははは! って、ええ!? いつものジョークじゃなかったッスか!!」
そんな天然だかなんだかよくわからないクレイスのボケに、NASUKAと旺天は大笑いするのだった。
「あれ、まだ残ってたんだ?」
「ナスカさん。はい、久しぶりですし人の数倍練習しないと」
「右に同じ」
深夜、NASUKAがふとスタジオへと戻ると、豊城 胡都(fa2778)と黒羽 上総(fa3608)が居残りで練習をしていた。
「でも、本当によかったです‥‥」
「‥‥なにが?」
話をしていると、ふと胡都が安心したように微笑んだ。NASUKAはわからない様子できょとんとし。
「僕、長い間いなかったのに今回皆が仲間だって受け入れてくれて‥‥嬉しかったです」
「‥‥そんな、あたりまえだろ! 一緒にいないからって仲間外れなんかにしないし、忘れたりしない、離れてたって仲間は仲間だろ」
胡都の言葉に、NASUKAはニッと笑って頷く。それに、胡都も微笑みながら頷き。
「はい、ですからどんな形でもナスカさんが僕達の仲間なのは変わりませんし‥‥支えられるところは支えていきたい‥‥と思ってます」
「あ‥‥」
返された言葉に、NASUKAは言葉を失った。自分が、移籍をすれば仲間でいられなくなる、そんなふうに不安に感じていたことを思い出した。そして、その不安をかき消してくれる言葉だったからだ。
「ナスカは何をもって『裏切り』とする? 仲間から離れて音楽活動をする事を言うのなら、俺は既に『裏切り者』だ。俺は既にAGに所属してる。が、こうして皆と演奏をしている。これはある意味AGメンバーに対する裏切りだ。だが、俺はコレを裏切りだとは思わない。むしろ成長の過程だ。色々な人と組み、演奏し、新たな音楽に触れる事でより高みを目指す。その為の通過点だと‥‥。傍から見れば詭弁でしかないがな」
「高みを目指す‥‥」
上総が淡々と語り、最後に苦笑を浮かべる。その話は、NASUKAの感じる罪悪感、それをもっと前向きに考えられる話だった。前のバンドを追い出されて『裏切られた』と感じた自分、しかしそのおかげで新しい仲間と出会い、確実に成長した自分。
「音楽を通じて人々に思いを届けたいのか、仲間と演奏していたいのか‥‥ナスカは何が一番したい? その為にはどうすべきか考えれば答えが見えてこないか?」
「俺が一番したいこと‥‥か」
『This is Wheel of Fortune!!』
暗闇の中に浮かぶ、大きな文字。そして、スモークが満ちたステージから眩しいほどの光が放たれる。逆光となった観客達へと、8人のシルエットが浮かび上がった。
ウオオオオォォォォォーーーー!!!
満員の観客から上がる大きな歓声。それを浴びながら、旺天のスティックのリズム音がライブの始まりを告げる。
「見上げ空へ羽ばたく‥‥ FOREVER SOUL!」
NASUKAの高く飛び立つような歌声が響き渡り。旺天の豪快さと、胡都の繊細さが合わさったWドラムが曲を盛り上げる。観客達は最初から全開で、『Wheel of Fortune』の演奏に酔いしれた。
「みんな! 今日は来てくれてありがとう!!」
一曲目が終わり、NASUKAが感謝を伝えると、大きな歓声があがる。1万人という大人数の歓声が、まるで波の様にメンバー達に押し寄せてくる。それは今まで感じたことの無いような、とても気持ちのいい波だった。
その後も、NASUKAはステージ上を走り回り、滝のように汗を流しながらも、幸せそうに歌い続ける。『SNOW CRYSTAL』、『旅立つ君に』などバンドの代表曲以外にも、様々な曲を歌い、場のテンションはどんどんあがっていく。『YOU SAY』では、胡都がピアノ音源でキーボードを弾き、黒革のチャイナドレスを纏った宇海が綺麗に歌い上げ。観客の中には涙を流す者さえいた。
「あれ‥‥いつのまにか、次が最後の曲になっちまった‥‥」
時間を忘れたように歌い続けたNASUKA。ふと気づけば最後の曲、本当に残念そうに呟くNASUKAに、観客達も同じ気持ちのようで。
「じゃあ、ラストの前にメンバー紹介! 普段は無口だけど、ギターを持つと饒舌になる、カナメ!!」
NASUKAの紹介に、苦笑を浮かべながらも軽くギターを弾いてみせる要。
「マルチに楽器をこなす、困ったときのなんとやら、カズサ!!」
「俺は便利屋じゃないぜ?」
まんざらでもない笑みを浮かべ、髪をあげて観客に挨拶する上総。
「目つきは怖いが礼儀正しいジェントルメーン、うちのビジュアル担当、カズマ!!」
「はは‥‥俺はビジュアル担当だったんですか」
困ったように笑いながらベースを弾く和磨。
「そして、ギャグ担当のクレイス!!」
「おい! ギャグ担当ってなんだよ!」
「冗談冗談、ムードメーカーで実は真面目な熱血漢! そしてシスコン!!」
「だからオチはいらねー!!」
ドッと笑い声があがり、ツッコミを入れながらも満面の笑みで早弾きを披露する礼久。
「いつでもハイテンション、天国まで逝っちまうドラマー、オウテン!!」
「イェィ!! 本気で逝っちまうッスよーー!!」
壊れそうなほど激しくドラムを叩く旺天。
「クールかと思えばホット、才能だけじゃなく努力も人一倍の秀才、コト!」
「秀才なんてことは無いと思いますけど‥‥あはは」
巧みに鍵盤を叩きつつ観客に手を振る胡都。
「そしてバンドの歌姫にしておか‥‥いや、お姉さん! タカミ!!」
「ふふ‥‥はい、皆さんにサービスですわ〜」
NASUKAが言い換えるのを満足そうに微笑み、観客に投げキッスを贈る宇海。
「というわけで、紹介も終わったし、じゃあ最後の曲‥‥っとそのまえに‥‥みんなに重大なお知らせがある‥‥」
そして、NASUKAは数日前に決断しメンバーに伝えたこと、自分が『Wheel of Fortune』を抜け、ソロ活動を行うことをファン達に報告する。NASUKAの言葉に、反応はバラバラだが、NASUKAは一生懸命自分の気持ちを伝えた。その気持ちのこもった声にファン達はやがて落ち着きを取り戻していく。
「だから、俺が『Wheel of Fortune』で歌うのはこれで最後になる。その最後の曲を、みんな聴いてくれ! 一生懸命歌うから! いままでで最高の思い出になるように! ラストソング『FLY AWAY』!!」
NASUKAの曲紹介と共に、旺天がドラムを叩き始める、そして要&上総のギターと、和磨&礼久のベース、胡都のキーボードがメロディを奏で始めた。
「何処かの誰かが言う SYMPATHY ボクが憧れた THE LYRICS!」
めまぐるしく点灯する照明の中、NASUKAはマイクを握り締めて強く激しく歌い始める。その声を聞いた観客達は、さっきの動揺など吹っ飛んだように激しく歓声をあげる。
「でもそれは絶対ボクの歌じゃない」
「WHY ボクはボクでありたいから」
「WHY ボクは僕の歌を歌いたいから」
「LETS ボクは昨日を踏みしめて」
一言一言力を込めて歌い上げるNASUKA。それを宇海のバックコーラスがしっかりと支えている。
「新たな風へ FLY AWAY!! 昨日のボクから FLY AWAY!!」
「これから見せる 誰も知らない MYSELF!!」
「憧れるだけのボクはもうない 此処に居るボクは‥‥」
「I CAN FLY AWAY IN MY WINGゥゥゥ!!」
激しいシャウト、飛び散った汗が光を反射しキラキラと光る。会場にNASUKAの声が響き渡り、余韻を残しながら消えていく。そしてあれほど明るかったステージは、照明が消え、闇がメンバー達を隠した。観客達はいつまでもいつまでも歓声を上げ続ける、そして‥‥。
「アンコール!」
「アンコール!」
観客達の声は一つになり、この夢を終わらせまいと叫び続ける。やがて、その合唱が最高潮に達しようとしたとき。照明が再び光を取り戻した。
「みんな! ありがとう!!」
NASUKAがマイクを握り締めて、大きく頭を下げた。観客達は歓声をあげて、『Wheel of Fortune』に祝福を与える。
「じゃあ、俺達の運命の輪を廻したあの曲を歌います! いくぜ!!」
そして、その日以降も運命の輪は廻り続ける、いつまでもどこまでも‥‥。