吸血鬼の花嫁 guerre4アジア・オセアニア

種類 シリーズ
担当 中畑みとも
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 3万円
参加人数 12人
サポート 0人
期間 11/14〜11/18
前回のリプレイを見る

●本文

 ――吸血鬼。
 それは長い牙を持ち、その牙で人間の生き血を吸う化け物である。
 不老不死とも蘇った死者とも言われ、見境なしに人間を襲い、血液を奪うと恐れられているが、それは伝説上の存在として一般に伝えられている、かつての吸血鬼像だ。
 現在の吸血鬼は、ある『絶対なる掟』を守り、必要以上に人間の血を求めはしない。なぜなら、それは彼らを生かし、人間との調和を目指すうえで大切な条約だからである。

 そう、彼らは伝説上の存在ではなく、人間の中で、人間と同じように生きている。
『花嫁の掟』という、ただ一つの掟を守りながら。


 さて、『guerre』シリーズ第4話です。今回も宜しくお願いしますねー。
 詳しい設定は1話のものを見て頂くとして‥‥今回も次回予告のコンテを用意してますんで、是非目を通しておいて下さいね。


●次回予告
 イノヴェルチ壊滅に向けて動き出すAS。
 街では都市伝説が拡大し、少しずつ不安が広まっていく。
 若き刑事たちはASと協力し、噂の出所を探ることに。
「こんな事をして何になる? 吸血鬼が住み難くなるだけだろう?」
「そんなの、生まれた時からだ」
 人間を憎むTVたちは、ついに一般人をも狙い始め、
 吸血鬼を憎む声が増え始める。

必須配役
 AS:イノヴェルチについて調べていく(数名)
 人間の刑事:ASと協力する(2名)
 VH幹部:吸血鬼は皆悪だと思っている(1名)
 強力なTV:SCを凌げる程の強いTV ※イノヴェルチ幹部(1名)

通常配役
 SC:TVを捕らえるために戦う(数名)
 VH:VH幹部の部下。思いは様々だが、幹部の命令には絶対(数名)

その他配役
 TV:人間を憎むTV(数名)
 人間:大切な人を吸血鬼に奪われてしまう(数名)

●今回の参加者

 fa0470 橘・月兎(32歳・♂・狼)
 fa0607 紅雪(20歳・♀・猫)
 fa0612 ヴォルフェ(28歳・♂・狼)
 fa0796 フェイテル=ファウスト(21歳・♂・狐)
 fa1521 美森翡翠(11歳・♀・ハムスター)
 fa3366 月 美鈴(28歳・♀・蝙蝠)
 fa4031 ユフィア・ドール(16歳・♀・犬)
 fa4264 月白・蒼葵(13歳・♀・猫)
 fa4265 月白・緋桜(13歳・♂・猫)
 fa4728 レイス アゲート(26歳・♂・豹)
 fa4769 (20歳・♂・猫)
 fa4807 葛城・郁海(20歳・♂・狐)

●リプレイ本文

●昼の交差点
「ねぇ、知ってる? 吸血鬼の噂。深夜に出歩いてるとね、吸血鬼に殺されるんだって」
「何それ? B級のホラー映画?」
「違うよー。ほら、D組でさ、彼氏と駆け落ちしたとかって噂の子いるじゃん? あれさ、実は駆け落ちじゃなくて、誰かに殺されたんだって。目撃者とかいるらしいよ。真っ黒い羽生やして、大きな牙で首を食い千切るんだって」
「えー? マジで? でも何でニュースとかならないわけ?」
「やっぱアレじゃない? FBIとかが揉み消してるとか。化け物の事を隠蔽してるとか」
 まっさかーと笑いながら歩いていく女子高生達を、神崎章吾(レイス アゲート(fa4728))が真剣な顔で見ていた。


●アンバサッド
「‥‥そんな話が流れてるの?」
「まだ噂の域を出てはいないようですけどね」
 神崎の報告を聞いたセフィリス(月 美鈴(fa3366))は書類を手に持ったまま振り返った。横には同じように書類を見ていたルナ(紅雪(fa0607))と、パソコンの前で何やら作業をしていた洸耶(橘・月兎(fa0470))がいる。
「女子高生は噂広げるの早いわよ?」
「その前に‥‥目撃者がいると言ったな。誰かが噂を広めているという事か?」
「恐らくイノヴェルチね。全く‥‥頭が痛いわ‥‥そんなに人手があるわけじゃないのに‥‥」
 ルナと洸耶の言葉にセフィリスが頭を抱えて溜息を吐き、ルナを見た。それにルナが肩を落とす。
「睨まないでよ‥‥こっちだって病気になりたくてなったんじゃないんだから‥‥」
「‥‥別に睨んではいないわ‥‥ただ健康な人材が欲しいなと思っただけよ‥‥」
「まあ、セフィリス。ルナも熱が下がってる間はこうして手伝ってくれてるわけだし‥‥」
 眉を顰めて額を抑えるルナを見て、不機嫌そうなセフィリスを洸耶が宥める。それに神崎が肩を竦めた。
「それじゃあ、私は笠島くんの様子を見てから、署に戻ります。あまり役には立たないかもしれませんが、噂の出所なんかが判ればお知らせしますね」
「ええ‥‥宜しくお願いするわ‥‥」
 言って、神崎は軽く頭を下げると部屋を出て行った。その背中を見送り、セフィリスが洸耶を振り返る。
「‥‥それで‥‥どうなのかしら?」
「アンバサッドに登録されているヴァンピールと花嫁で、イノヴェルチへの関与のある可能性の人物は、過去の事件からも照らし合わせても4、5人ってところだな。ただ、ヴァンピールの方はまだしも、花嫁の方はアンバサッドに登録されていない者もいるからな」
「登録されてるのは、契約したヴァンピールからの申請か、花嫁である事をアンバサッドの人員が確認できた者しかいないものね。だからこそ、吸血鬼と花嫁が出会える事は運命的だという人もいるのだけど」
「‥‥とりあえずは可能性のある人物の監視、ね‥‥ハンター達の動きも気をつけないと‥‥」
 溜息を吐いて、セフィリスは部屋付きの電話を取った。


●アンバサッド病室
 神崎がドアをノックして入った部屋では、笠島智也(葛城・郁海(fa4807))がベッドの上で始末書を書いていた。
「調子はどうですか?」
「あ、神崎さん。もう大丈夫ですよ。医者もそろそろ退院していいって言ってたし‥‥」
「では、今のうちに休んでおいた方がいいですよ。退院したら、山のように仕事がありますから」
 にっこりと笑う神崎に、がっくりと肩を落とした笠島は、再び始末書を睨み付けた。殆ど八つ当たりのようにガシガシと始末書を書く笠島に、神埼がふと口を開く。
「笠島くんは吸血鬼の事を、どう思っていますか?」
「へ?」
「まだ噂ですが、吸血鬼の存在が一般に広まりつつあります。人間を喰らう化け物としてです。実際に吸血鬼に遭遇した笠島くんならどう思いますか? やはり怖いですか?」
 問われて、笠島はペンを持つ手を止めると、少し困ったような顔で振り返った。
「‥‥まあ、正直怖いですよ‥‥銃も効かなかったし、殺されかけたわけですし‥‥何人も殺してるみたいですし。でも、俺を助けてくれたのも吸血鬼なわけだから、何とも言えないです」
「‥‥そうですか‥‥」
「けど、人間だってそうじゃないですか? 悪い奴もいれば良い奴もいるんですし。少なくともセフィリスさんは俺を助けてくれたんですから、怖いとは思ってないです」
 言って、始末書に目を戻した笠島に、神崎は目を伏せて呟いた。
「皆が、そう思ってくれればいいんですが‥‥」


●深夜の路地裏
 大きな赤いリボンを振り乱して走っているのは美琴(美森翡翠(fa1521))だった。必死にやって来た路地裏では、煙の上がる銀色の銃を持った青年と、銃口を突き付けられて倒れている男がいた。美琴が倒れている男に駆け寄り、銃口から庇う。
「貴方、ハンターね‥‥」
「吸血鬼など、皆死んでしまえ!」
 叫んで、青年が引き金を引く。美琴は飛んで来た弾を両手から生み出した熱弾で溶かすと、ワンピースの裾からダーツを取り出して青年の額に投げつけた。ダーツは過たず青年の額に突き刺さり、青年は後ろに倒れて行く。
「美琴。彼は大丈夫だから。ルディ、美琴を」
「ロストさん‥‥っ!」
 駆け付けて来たロスト(ヴォルフェ(fa0612))が、気絶している男を運んで行くように部下に指示をしている。泣きながら男を追いかけようとする美琴を、ロストに呼ばれたルディリア(ユフィア・ドール(fa4031))が連れて行く。それを横目に、ロストは事切れている青年を軽く蹴った。後ろにはいつの間にか近づいていたユストゥス(フェイテル=ファウスト(fa0796))と悠羅(月白・蒼葵(fa4264))がいる。
「悠羅、ユストゥス。この死体から血を抜いて、どこか目立つ場所に捨てて来てくれ」
「了解した」
 ユストゥスはそう答えると死体を持ち上げた。落ちていた銀色の銃を、手袋をした悠羅が拾ってユストゥスと共に去って行く。二人を見送ったロストは美琴を落ち着かせるルディリアに近づいた。
「ロストさん‥‥私、人間を許せません‥‥お父さんやお母さんだけでなく‥‥叔父さんまで‥‥許さない、絶対に!」
 憎々しげに呟く美琴に、ルディリアが伺うようにロストを見る。それにロストは美琴を見下ろして片眉を上げた。


●アンバサッド一室
「‥‥何ですって? ‥‥判ったわ、有難う‥‥」
 携帯電話を耳に当てて眉を顰めたセフィリスは、礼を言って電話を切ると深い溜息を吐いた。そこに、書類を片手に持った洸耶とルナが部屋に入って来る。
「おはよう、セフィリス。相変わらず早いな」
「‥‥何かあったの?」
「‥‥章吾‥‥神崎刑事からの連絡で‥‥今朝、商店街の真ん中で、身体中の血液が全て抜かれた死体が発見されたそうよ‥‥ご丁寧にも、首筋に大きな牙の跡が残されていたらしいわ‥‥」
「何だって?」
「目撃者が多過ぎるから、今回は隠蔽もできないわ‥‥まずいわ、後手に回り過ぎてる‥‥仕方ないわ‥‥こうなったら‥‥」
 緊張した面持ちで問うルナと洸耶に、セフィリスはぶつぶつと呟いて思案すると洸耶を振り返った。
「洸耶。‥‥貴方に協力して貰いたい事があるの」


●同時刻、アンバサッド廊下
 セフィリス達がいる部屋の前で、気配を消してドア越しに耳を傾けているのは久遠(月白・緋桜(fa4265))だった。何やら話している三人の様子を伺い、久遠は一瞬眉を顰めると、さっと身を翻し、誰にも気づかれる事なく姿を消した。


●イノヴェルチ
 前髪を掴んで、退屈そうに枝毛のチェックをしているルディリアに近づいて来たのはロストだった。
「様子はどうだい?」
「美琴ちゃんの叔父さんだっけ? 彼は銀も抜いたし、まあ大丈夫でしょうって。でも美琴ちゃんの方はやる気満々みたい。どうするの? 今余計な事したら、マズイんじゃないの?」
「そうだなぁ。支障が出るようなら止めるよ」
「‥‥まあ、あたしはお金さえ貰えればどうでもいいけどー」
 言って、ルディリアは前髪を指で弾くと、軽く伸びをしながら部屋を出て行った。それと入れ違いに、ユストゥスと悠羅が入って来る。
「美琴はどうした?」
「あの子ならさっき出て行ったよ」
「ありゃー」
 悠羅の言葉に、ロストは大して困ってもいないような素振りで額に手を当てた。それにユストゥスが伺うような視線をやる。
「しょうがないな。ハンター達に狙われても困るし。ユストゥス、君は悠羅と共にちょっと騒ぎを起こしててくれ」
「アンバサッドとハンターの気を惹かせるのか。了解した」
「頼んだよ」
 二人をにこやかに送り出したロストは、ふと真顔になると「さて‥‥」と呟いた。


●深夜のコンビニ
 煌々と明かりのついた店内では、店員と雑誌を立ち読みしている客の二人しかいなかった。店員が暇そうに欠伸をし、ふと店の入り口を見ると、そこに一人の女の子が立っているのが見えた。店員が訝しげに思った次の瞬間。女の子、美琴の両手に光球が生み出され、ガラスドアが弾け飛んだ。
 驚いて尻餅をついた客を見下ろした美琴は、客の顔目掛けてダーツを投げた。客はダーツに顔を貫かれ、倒れる。裏口から逃げ出した店員を追った美琴は、店員の足にダーツを投げつけ、その足を止めると頚動脈を狙って牙を突き立てた。徐々に身体が弛緩して行く店員に、美琴は血に濡れた牙を離す。
「貴様、吸血鬼だな」
 そこに現れたのはレクサス(忍(fa4769))だった。子供にしか見えない美琴にも殺気を弱めず、近づいて来る。
「ハンター‥‥殺してやる!」
 叫んで、美琴は短剣を取り出すと、レクサスに飛び掛った。美琴は小さな身体を生かして懐に飛び込むが、レクサスの銀の鉤爪に弾き飛ばされる。が、くるりと身体を回転させると、今度は指弾を繰り出した。レクサスはそれを避け、美琴に鉤爪を振り上げる。
 ギィンッという音と共に、折れた鉤爪が弾け飛んだ。レクサスがそれに気を取られた一瞬、美琴を救出したのはロストだった。
「ロストさん!」
「美琴。気持ちは判るが、今は時じゃない。帰るよ」
「逃がすか!」
 サーベルを抜き、飛び掛ろうとするレクサスに、ロストが手を掲げる。すると、ロストの身体が無数の蝙蝠へと変わり、レクサスを襲った。レクサスが思わず腕で庇う。次に顔を上げた時、そこに二人の姿はなかった。


●深夜の道路
 長いスカートを履いて、ストレートブロンドの髪を揺らした女性がバス停のベンチに座っている。その後ろに浮き出るように現れたのは悠羅だった。わざと見つかるように、サーベルでアスファルトを引っ掻く。
「いい声で叫んでね」
 ハッと振り返る女性に、悠羅がサーベルをゆっくりと振り上げる。普通の女性なら、ここで悲鳴を上げて逃げるだろう。騒ぎを起こすのが目的の悠羅はそれを求めて、あえて隙を見せていた。
 しかし、女性はサーベルを持つ悠羅を見ても叫び声を上げるどころか、護身用にしては大きな銃を取り出すと、サーベルの間合いから逃れ、悠羅に銃口を向けた。その身のこなしと、銃口の高さに悠羅が眉を顰める。
「こいつ‥‥しまった!」
 悠羅が女性の違和感に気付いたとき、周りから銃を装備したヴァンピール達が現れた。瞬く間に悠羅を囲み、銃口を突き付ける。
「‥‥有難う、洸耶‥‥ほら、バレなかったでしょ?」
 言いながら歩いて来たのはセフィリスだった。その横で、女性がブロンドのカツラを毟り取ると、そこに現れたのは洸耶だった。
「一般の花嫁を使うのが危険なのは判るが‥‥なぜ俺なんだ‥‥」
「貴方なら襲われても逃げられると思ったからよ‥‥」
「180センチ超えの女性がどこにいる」
「‥‥モデルなら180センチくらい、普通よ‥‥」
 セフィリスに言い包められて口を噤む洸耶を後目に、セフィリスは銃を突き付けられて動けない悠羅に近づいた。
「さて、と‥‥貴女にはいろいろと聞きたい事があるの‥‥」
 セフィリスの言葉に、悠羅がちらりと目を上に向ける。その視線の先にはユストゥスがいた。ユストゥスは徐にピアスに触れると、そこからルディリアの声が聞こえた。
「私だ。悠羅がアンバサッドに捕らえられた」
『え!? ホントに? 何やってるのかなーあの子は。えーっとね、美琴ちゃんはもう大丈夫だから、救出できるようだったら助けて、無理なようなら殺し‥‥あ、ちょっと待って』
 指示を教えようとしたルディリアの声が途切れ、代わりに聞こえて来たのは暗く低い男の声だった。
『ユストゥス。聞こえるかね?』
「我が君! ‥‥指示を」
『予定変更だ。準備は整ったよ。隠れ蓑はもう必要ない。彼らを招待して差し上げなさい』
「‥‥了解致しました」
 ユストゥスはピアスから指を離すと、悠羅を見下ろした。指示を伺う悠羅の目に頷いてみせる。悠羅はそれに目だけで答えると、大人しくアンバサッドに従った。
 その様子を、影から久遠が見ていた。
「姉さん‥‥姉さんは、必ず俺が‥‥」
 久遠は呟くと、アンバサッドを追うように闇に飛び込んだ。