吸血鬼の花嫁 guerre5アジア・オセアニア

種類 シリーズ
担当 中畑みとも
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 3万円
参加人数 11人
サポート 0人
期間 12/09〜12/13
前回のリプレイを見る

●本文

 ――吸血鬼。
 それは長い牙を持ち、その牙で人間の生き血を吸う化け物である。
 不老不死とも蘇った死者とも言われ、見境なしに人間を襲い、血液を奪うと恐れられているが、それは伝説上の存在として一般に伝えられている、かつての吸血鬼像だ。
 現在の吸血鬼は、ある『絶対なる掟』を守り、必要以上に人間の血を求めはしない。なぜなら、それは彼らを生かし、人間との調和を目指すうえで大切な条約だからである。

 そう、彼らは伝説上の存在ではなく、人間の中で、人間と同じように生きている。
『花嫁の掟』という、ただ一つの掟を守りながら。


 さて、『guerre』シリーズ最終話です。最後も宜しくお願いしますねー。
 詳しい設定は1話のものを見て頂くとして‥‥今回も次回予告のコンテを用意してますんで、是非目を通しておいて下さいね。


●次回予告
 捕まえたTVからイノヴェルチのアジトを聞き出したAS。
 イノヴェルチを壊滅させる為、アジトへと攻め込むASとVH。
 壮絶な戦いを経て、強力なTVらの消去に成功する。
 しかし、安堵する彼らに気付かれぬ場所で、
 TV達は強大な力によって復活させられていた。
「さぁ、歯車は回り始めた‥‥」
 闇の力を持った人物が動き始める。

必須配役
 AS:イノヴェルチに攻め込む(数名)
 人間の刑事:ASと協力し、噂の出所を探っている(2名)
 VH幹部:吸血鬼は皆悪だと思っている(1名)
 強力なTV:SCを凌げる程の強いTV ※イノヴェルチ幹部(1名)

通常配役
 SC:アジトに突入する(数名)
 VH:VH幹部の部下。思いは様々だが、幹部の命令には絶対(数名)

その他配役
 TV:イノヴェルチメンバー(数名)
※強大な力を持った人物はシークレット扱いなので、NPCが演じます。

●今回の参加者

 fa0470 橘・月兎(32歳・♂・狼)
 fa0607 紅雪(20歳・♀・猫)
 fa0612 ヴォルフェ(28歳・♂・狼)
 fa0796 フェイテル=ファウスト(21歳・♂・狐)
 fa3366 月 美鈴(28歳・♀・蝙蝠)
 fa4031 ユフィア・ドール(16歳・♀・犬)
 fa4264 月白・蒼葵(13歳・♀・猫)
 fa4265 月白・緋桜(13歳・♂・猫)
 fa4728 レイス アゲート(26歳・♂・豹)
 fa4769 (20歳・♂・猫)
 fa4807 葛城・郁海(20歳・♂・狐)

●リプレイ本文

●アンバサッド
 廊下をセフィリス(月 美鈴(fa3366))が歩いてくる。その先には洸耶(橘・月兎(fa0470))とルナ(紅雪(fa0607))が待っていた。
「‥‥イノヴェルチのアジトが判ったらしいな」
「ええ‥‥やけに素直に吐いてくれたわ」
「罠、じゃないの?」
 ルナの問いに、セフィリスが一つ溜息を吐いて答える。
「‥‥どちらにせよ、私達には有力な手掛りどころか、駒も少ない状態なんだもの。“Nothing ventured nothing gained”よ」
 言って、セフィリスが開いたドアの向こうには、数十人のサンクシオン達が銀色の武器を掲げていた。

 アンバサッドの地下にある拘置所にするりと、まるで猫のように忍び入って来たのは久遠(月白・緋桜(fa4265))だった。数個のランプのみが闇を照らす格子の中には、鉄に銀を混ぜて作った鎖で手足を縛られた悠羅(月白・蒼葵(fa4264))が座り込んでいる。
「‥‥不様な姿だな、悠羅」
「よく入って来れたね」
「これでも訓練したんだ。‥‥あんたを倒す為に、必死に」
 くすりと笑う悠羅に、久遠が痛みを堪えるような顔で睨みつけた。
「どうして‥‥何でトレートルなんかに‥‥!」
「久遠。‥‥外して」
 問いかける久遠に、悠羅は鎖に縛られた両手を掲げる。
「ここじゃあ見つかり易い。‥‥私を殺したいんでしょう?」
 まるで『久しぶりだから一緒に買い物にでも行きましょう』と笑いかけるようなその口調に、久遠は少しだけ目を逸らして、サーベルを翻した。


●人気のない粗大ごみ置き場
「ねぇ、気付いてた? 父さんが殺されてから、アンバサッドはずっと私達を監視してたのよ」
 久遠に背を向ける悠羅は、そう言って肩越しに久遠を振り返った。
「母さんが倒れた日も‥‥奴等は見ていたのに何もしなかった‥‥奴等は母さんを見捨てたのよ‥‥! 人間も‥‥一人で必死に私達を育てていた母さんに、言われもない中傷をぶつけて‥‥知ってた? 久遠‥‥母さんが倒れたのは、精神的苦痛によるストレスが原因だったの」
 悠羅の言葉に、久遠が息を呑む。握り締めたサーベルの柄から、ぎりっと嫌な音がした。
「全てが憎かった‥‥そんな私に、あの方は手を差し伸べてくれた‥‥憎ければ壊せばいい、憎い者がいない世界を作ればいい‥‥全ては主上の為に‥‥アンバサッドも、人間もいない世界を作る為に‥‥」
「悠羅‥‥」
 口元に緩やかな笑みを浮かべて呟く悠羅に、久遠が悲しいような痛いような、呆然とした顔をする。しかし、意を決したように久遠は目を閉じ、次に目を開けたときは既にハンターの目になっていた。
「もう、言葉では私を止める事はできない」
「‥‥ああ、判ってる」
 すらりと久遠が右手でサーベルを抜くと、悠羅の爪がナイフのように鋭利なものへと変わった。久遠がサーベルを振り上げ、悠羅の首を狙う。それをしゃがんで避けた悠羅は、爪を久遠の脇腹に突き刺した。そのまま肉を抉ろうとするのに、久遠は持っていたサーベルを捨てて、悠羅の腕をがっちりと掴んだ。一瞬、2人の目が交差する。そして、悠羅が爪で自らの腹を傷つけて血色のサーベルを取り出すのと同時に、久遠がもう一つのサーベルを抜いて悠羅の背中に振り上げた。
 嫌な音がして、2人の動きが止まった。久遠の太股を串刺しにした悠羅のサーベルが、溶けるように血液に戻る。ずるりと久遠に縋り付くように崩れ落ちた悠羅の背中からは、銀に光るサーベルが心臓を貫いて生えていた。
「‥‥強くなったね、久遠‥‥」
 か細い声で呟いた悠羅を、久遠が荒い息を吐きながら見下ろす。それに悠羅は血塗れになった口元を緩め、目を細めた。
「‥‥ああ‥‥久遠、何だかいい香りがする‥‥甘くて‥‥母さんみたい‥‥」
「姉さん‥‥」
「主上‥‥申し訳、ありません‥‥でも、私はもう、疲れました‥‥」
 だんだんと小さくなっていく声に、久遠は悠羅の身体を抱きしめた。


●イノヴェルチの教会
「‥‥判った。死体の処理はアンバサッドにでも任せておけ。お前は先に帰還しろ」
 ぱちんっと携帯電話を閉じたレクサス(忍(fa4769))は、目の前に聳え立つ教会を見上げた。屋根に伸びる十字架はボロボロで崩れかけている。レクサスは錆付いた教会のドアを開く。
「吸血鬼の癖に教会に隠れるとはな‥‥」
「あらら。君が先かぁ」
 教会の中にいたのはロスト(ヴォルフェ(fa0612))とルディリア(ユフィア・ドール(fa4031))だった。サーベルを抜くレクサスを見てあからさまに面倒臭そうな顔をしたルディリアに苦笑しつつ、ロストが前に出る。と、それを遮るようにユストゥス(フェイテル=ファウスト(fa0796))が現れた。
「‥‥貴殿の探し相手は私だろう?」
 その姿に殺気を叩きつけるレクサスに、ユストゥスはロストに「先に行け」と目線をやる。ロストがルディリアを伴って教会の奥へと消えて行くと、レクサスがユストゥスを睨み付けた。
「ユストゥス‥‥今日こそは逃がさん」
「‥‥逃げるつもりもない」
 サーベルを翻して突っ込んでくるレクサスから、ユストゥスが飛び退る。説教卓に飛び乗ったユストゥスが自らの腕をナイフで切りつけ、そこから2本のサーベルを取り出した。
 レクサスがサーベルで説教卓を両断する。その一瞬前に飛び上がったユストゥスがレクサスへ斬り付けた。ガチリと剣同士がぶつかり合い、鈍い音を立てる。火花が散って、レクサスの身体が吹き飛ばされた。それを追いかけるユストゥスに、一瞬で体勢を整えたレクサスもサーベルを構える。お互いの刃がお互いの肩を貫いた。
 肩に走った痛みに、がくりとレクサスの膝が崩れる。それにユストゥスがもう一方のサーベルを突くと、ガキンっと音がして銀の刃がユストゥスの目を襲った。レクサスが取り出してサーベルの防御へと使った鉤爪が折れたのだ。破片がユストゥスの首や目を抉り、ユストゥスがたじろぐ。
「終わりだ‥‥っ!」
 レクサスがユストゥスの肩からサーベルを抜き取り、ユストゥスの身体を床に押し付けた。そしてそのまま心臓に銀の刃を突き立てる。ごぼりとユストゥスの口から血が噴出す。
「最後に一つ聞く‥‥貴様らの目的は何だ?」
「‥‥悩め。それが我らの目的だ‥‥」
 既に死色となっているユストゥスに、レクサスが訊ねる。それにユストゥスはふっと笑い、目を閉じた。銀の触れた場所から少しずつ腐食して行くのを見下ろし、レクサスは眉を顰めた。


●警察署
「神崎さん」
 がやがやと慌しい署内に入り、コートを脱ぎつつ自らの席へと近づいた神崎章吾(レイス アゲート(fa4728))は、部屋の外で手招きをしている笠島智也(葛城・郁海(fa4807))に気付いた。まだ完全に傷が治っていないのか、微妙に動きがぎこちない笠島に神埼が挨拶をすると、笠島が別の部屋へ神崎を引き擦り込む。
「若者中心に広まってるって事なんで、もしかしたらって思って探してみたんです。そしたらビンゴですよ」
 言われて、神埼が見せられたのはパソコンの画面だった。その画面にはゴシックな雰囲気の文字で『ヴァンパイアフォレスト』と書かれている。その下には大きな牙を持った蝙蝠のアニメアイコンがぱたぱたと羽を動かしている。
「掲示板だけがあるサイトなんですけど、スレッドは様々ですね。吸血鬼に復讐したいとか、失踪した知り合いは吸血鬼に殺されたとか、吸血鬼になりたいとか仲間に入りたいとか。」
「はぁ‥‥それは何とも‥‥無秩序な感じがしますね」
「ただの吸血鬼ファンサイトにしては、どうも奇妙なんですよね。何か、伝説上ではない、現在の吸血鬼に対しての情報が、あまりにも詳しすぎて‥‥現在の吸血鬼はある組織に統括されている、なんてのも書かれてるんですよ。これって、明らかにアンバサッドの事ですよね‥‥」
 笠島の言葉を聞きながら、神埼がサイトをスクロールする。そして、そのページの下部に申し訳程度に書かれていた名前に目を止めた。
「管理人‥‥クロウ、ですか‥‥」
 名前の下で、白い鴉のアイコンが赤い目を瞬きさせていた。


●イノヴェルチの教会裏
「待ちなさい!」
 完全包囲された教会から抜け出したロストとルディリアの前に現れたのはレイピアを構えたルナだった。その後ろにはセフィリスと洸耶の姿もある。
「シリウス‥‥!? 何故、貴方がここにいるの?」
「やあ、久しぶり」
 赤い月の光で浮かび上がったロストに、ルナが愕然とした。飄々とした態度のロストとは対照的に唇を戦慄かせるルナに、セフィリスが眉間に皺を寄せる。
「‥‥どんな関係かは知らないけれど‥‥彼は敵よ」
「‥‥判ってるわよ、そんなことは!」
「ルナ‥‥っ」
 不安そうな洸耶の声を後目に、ルナが地を蹴る。一足飛びにロストの間合いへと入ったルナはレイピアを突き付けるが、ロストはそれをひょいっと避け、ルディリアを後方に押しやると、懐からアーミーナイフを取り出した。
「シリウス、答えなさい! 貴方は‥‥貴方達は何を考えているの!?」
 レイピアとナイフが火花を散らしながらぶつかり合う中で、ルナがロストに叫ぶ。しかし、ロストはその問いに優しげに微笑みだけで何も言わない。その表情に、ルナがぎりりと歯を食いしばる。
 近距離で応戦していたルナが急に身体を引いた。それに体重をかけてレイピアを押し返していたロストが体勢を崩す。次の瞬間、ルナは渾身の力を込めてロストの懐へ飛び込んだ。ロストはそれに避ける様子もなく、ナイフで防御体勢へと入る。レイピアは大して強度もないナイフを折り、ロストの手を貫通させ、胸に突き刺さった。ロストが血を吐いて崩れ落ち、ルナは驚いたように身を引いた。
「どうしてなのよ‥‥貴方なら避けれた筈でしょう!?」
 ボトボトと口から血を落とすロストに、ルナが憤るような声を上げる。それに、ロストは肩を竦めて顔を上げると、様々な感情の混ざった表情のルナを見上げた。
「ルナは優しいね‥‥でも、君達はもうすぐ全てを知る事になる‥‥そのときはきっと‥‥」
 言いかけ、ロストの身体がぐらりと傾いだ。微かに塵を巻き上げながら地面に倒れたロストの身体は、もう動く事はなかった。それにルディリアがトコトコと近づき、ロストの顔を覗き込む。
「ルディリア‥‥」
「あーあ、皆やられちゃった。これでイノヴェルチも終わりだね。ま、いっか。散々楽しませて貰ったし」
 あっけらかんとした口調のルディリアに、洸耶が眉を顰めた。セフィリスが無表情でルディリアに近づく。
「‥‥貴女には聞きたい事が山程あるの‥‥一緒に来て貰うわ‥‥」
「イ・ヤ。あんた達みたいに、ずーっと影の中で縛られて暮らすなんて耐えられないもの。だからね」
 セフィリスにべーっと舌を出し、ルディリアが取り出したのは銃だった。そしてそれを何の躊躇いもなく頭の横につけると、引き金に指をかける。ハッとした洸耶とルナが飛び出そうとした瞬間。
「バイバイ」
 少しくぐもった銃声と共に赤黒い血が飛び散って、セフィリスの身体がロストの死体に倒れこんだ。その様子を、3人は何ともいえない表情で見ていた。


●アンバサッド
 教会に突入してから数時間後。携帯電話を切ったセフィリスはぼんやりと椅子に座っているルナと洸耶に振り返った。
「アジトにいたトレートル達の消去は全て終わったわ‥‥脱走したトレートルも死体で発見したそうよ‥‥恐らくハンターね‥‥とりあえず、これでイノヴェルチ壊滅‥‥ってところかしら」
 報告するその声には、言う言葉程の安心感は感じ取れなかった。それを判っているのか、洸耶は目を伏せ、ルナは深い溜息を吐く。
「‥‥本当に‥‥これで終わったのかしら‥‥」
 ルナの言葉が、沈黙の下りる部屋に静かに響いた。


●暗い樹海の奥
 さらさらと灰が風に散って行く。樹海の中で、若い男が面倒臭そうに袋に入った灰を捨てていた。若い男は、湿った地面に灰を乱暴にばら撒き終えると、すっと闇に消えて行く。
 その様子を、木々の陰から1羽の真っ白な鴉が見ていた。鴉は若い男が消えるのを見送り、地面に溶けようとする灰に近寄った。すると、灰がふわりと舞い上がり、鴉の周りに集まる。周囲に散らばっていた灰も集まって来て、小さな竜巻が二つ出来た。その竜巻が次第に人の形を作り始める。
「‥‥2人か。ユストゥスは2度目だったな」
 呟く鴉の前に現れたのは、死んだ筈のユストゥスとロストだった。2人は閉じていた目を開くと、鴉へ膝を付き、頭を下げる。鴉の影が歪みながら膨らみ、白髪の男へと変身した。
「さぁ、歯車は回り始めた‥‥共に世界を変えようではないか」
 2人を見下ろした白髪の男はにやりと口元を歪め、満足そうに赤く染まった満月を見上げた。