ElDorado/VerdeBarco 3アジア・オセアニア
種類 |
シリーズ
|
担当 |
中畑みとも
|
芸能 |
2Lv以上
|
獣人 |
1Lv以上
|
難度 |
普通
|
報酬 |
3万円
|
参加人数 |
7人
|
サポート |
0人
|
期間 |
03/03〜03/07
|
前回のリプレイを見る
●本文
龍によって守られ、魔法によって栄えている世界、エルドラード。
その世界には5つの国があった。
氷雪の国、ノルド・ノルテ。
常夏の国、ユーク・スール。
鉱山の国、デュシス・オエステ。
芸術の国、オスト・エステ。
黄金の国、セント・セントロ。
「本当に来るんだろうな」
「あの王子の事ですから」
問いかけた猫背の老人にニヤリと笑うのは、黒いローブを着た男だ。その答えを受けて、老人が恍惚と遠くを見つめる。その手元には、光り輝くブレスレットが幾つもぶら下っていた。
「あの吸い込まれそうな美しい緑色の光! 魔力をも感じる繊細な細工! あの腕輪こそ、私の求めていたものなのだ! 必ず! 必ず王子の手から奪うのだ!」
興奮したように叫ぶ老人に頭を下げ、ローブの男が去って行く。そして、老人の声も聞こえない距離まで来ると、呆れたように肩を竦めた。
「面倒なのを選んじまったなぁ。馬鹿王子から腕輪盗って来るだけだと思ってたのに、案外護衛強かったし。‥‥まあいいか」
呟いて、向かうのは地下室だ。そこには、鎖に繋がれた一人の少年がいた。
「あんたも災難だなぁ。王子に似てるってだけでこんなとこに捕まっちまって。まあ、もう少しの辛抱だ。きっと王子様が助けに来てくれるって」
第3話『誘拐! 王子のそっくりさん』
セント・セントロへ着いた王子達は、慌てふためく憲兵から「オスト・エステの王子が誘拐された」という話を聞く。気になった王子達はその探索に乗り出すのだが‥‥
●必須キャスト(連続出演可能な方を望む)
・王子(主人公)1名(王子そっくりさんは、王子役の方の2役になります)
・付人1名
・護衛1名
・護衛見習い1名
・王子捜索隊2名
●追加キャスト(連続出演可能な方を望む)
・黒いローブの男
裏の世界で『何でも屋』をやっている組織の一員。戦闘技術に実力はあるのだが、仕事には何だかやる気がない。その反面、暴れる事は大好きだったりするという、気紛れな性格。
※追加キャストは、今後のシリーズで連続して出演する役柄です。演じて下さる方は連続出演可能な方を望みます。ただし、希望者がいない場合は、無理に配役しなくても構いません。
※その他キャストは自由に設定して頂いて構いません。
参考/猫背の老人、憲兵、ローブの男の配下 など
●設定
第1話を参照して下さい。
●リプレイ本文
「ちょ、ちょっとお待ち下さい!」
セント・セントロへ到着した一行は、門を潜った途端に憲兵に止められた。信じられないものを見るかのような憲兵の表情に、アンサラー(ノエル・ロシナン(fa4584))が片眉を上げる。
「何か?」
「い、いえ! よくぞご無事で! 今、憲兵長を呼んで来ますので、どうかこちらへ!」
丁寧ではあるが、焦った様子の憲兵に連れられ、やって来たのは門の中に作られた小部屋だった。一行が首を傾げていると、バタバタと憲兵長がやって来る。
「アンサラー王子! ご無事で何よりで御座います!」
「‥‥早速バレバレだな」
「当たり前でしょ? 変装も何もしてないんだから、アンサラーを知ってる人ならすぐ判るわ」
「というか、それ以前に何やら不穏な気配がするのですけれど」
微妙にずれた感想を呟くアンサラーに、ピアノ(美森翡翠(fa1521))が返すと、クロウディア・フォン・フローライト(エルティナ(fa0595))が眉を顰めた。
「何かあったんですか?」
「それがですね。昨夜、ユーク・スールの王子を誘拐したとの声明文が届けられまして」
アプラ・ティサージュ(氷咲 華唯(fa0142))の問いに憲兵長が答えると、一行はお互いの顔を見合わせる。それに、ピアノが皆ずっと一緒だったという事を伝えると、憲兵長は安堵した様に肩を落とした。
「そうですか。どうやらデマだったようですね。安心致しました。お騒がせ致しまして、申し訳ありません」
「いや、ご苦労だった」
頭を下げる憲兵長に、アンサラーが労いの言葉をかけ、ふと考えるような仕草をした。
「ところで。その声明文とやらは、どんなものだったんだ?」
「は。何でも、王子を返して欲しくば、北にあるアグレーの屋敷まで来いというものでして」
「アグレーの屋敷って?」
「20年前に没落した貴族の事ですわね。確かに、北にはまだ買い手の付いていないアグレーの屋敷があった筈ですわ。とても趣味が悪いわりには重厚な作りで、何に使う術もなく、今は盗賊達がたむろす場所になっているとか」
「耳の痛い話では御座いますが、全くその通りで御座います」
ピアノへ説明するクロウディアに、憲兵長が首の後ろを掻く。
「そんな場所ですので、憲兵総出で救出作戦を練っていたのですが、いやはやデマで良かったです。まあ、この際ですので作戦を応用して盗賊達を一掃する事に致します。明日には作戦を決行致しますので、どうかそれまでは北に近づかないようにお願い致します」
それに一行が頷けば、憲兵長は安心したように去って行った。残された一行は顔を突き合わせる。
「何だか妙な事になってたんですね」
「クラウ、本当にデマだと思うか?」
「普通に考えれば、王子がこの場にいる時点でデマです」
「それじゃあ面白くないぞ」
「アンサラー‥‥誘拐事件に面白いも面白くないもないわよ」
呆れたように溜息を吐くピアノを後目に、アンサラーがにやりと笑った。
同時刻。アンサラー一行がいる部屋の窓外の下に、しゃがみ込んだアリア(葉月 珪(fa4909))とラウラ・キアーラ(小塚さえ(fa1715))の姿があった。身体の周りが薄い緑色の膜に包まれている2人は一見怪しい人だが、周囲の人々は2人に全く気づいていない様子だった。
「聞きました? アリア。誘拐事件も怪しいですが、それ以上にまた王子が突拍子もない面倒な事を思いつきそうな予感がするんですけれど‥‥って、アリア? 聞いてます?」
返事のない相棒にラウラが振り返ると、アリアはどこか遠くの一点を見つめていた。
「アルヴィレオ様‥‥アルヴィレオ様の気配が致します!」
「は? あ、ちょっ、アリア!」
パキンッという音と共にアリアの身体の膜が弾け、突然何もない所から出現したアリアに往来中の人がぎょっと目を剥いた。それに続くようにまた音がして、ラウラが現れる。ラウラは呆然としている人に誤魔化すような笑みを見せ、アリアを追いかけた。
「アルヴィレオ様!」
人波を掻き分け、アリアは声に振り返ったアルヴィレオ(水鏡・シメイ(fa0509))に勢いよく抱きついた。突然の事に驚きつつ、アルヴィレオはアリアを抱き留める。
「君達はいつぞやのお嬢さん達じゃないか」
「ああ、覚えていて下さったのですね! やはり愛し合う二人は、巡り会う運命に‥‥」
感激に目を潤ませているアリアを、追いついたラウラが「すみません」と謝りつつ、アルヴィレオから引き剥がす。
「こちらには何かご用事で?」
「この写真の子供を探してるんだが、知らないか? フラガラッハという名前なんだが」
営業用スマイルで問うラウラに、アルヴィレオが一枚の写真を見せた。そこに写っていたのは、内気そうに俯く、王子にそっくりな少年で、アリアとラウラの顔が引き締まる。
「‥‥この少年が、どうなさったのですか?」
「知り合いの孤児院の子供なんだがな。5日程前から行方不明らしいんだ。セント・セントロ行きの馬車に乗っているのを見た人がいて、ここまで探しに来たんだが‥‥」
「アリア‥‥これはもしかすると‥‥」
呟くラウラに、アリアが真剣な顔で頷く。
「アルヴィレオ様。この子の探索、私達にも手伝わせて下さいませ」
「いいのか? 君達も何か仕事があるんじゃないのか?」
「いいえ。これは私達にも関係がありそうな事柄ですので」
言って、ラウラは「やっぱり面倒な事になりましたわ‥‥」と溜息を吐いた。
数時間後。アンサラー一行はアグレーの屋敷へと来ていた。
「確かに悪趣味だ」
「‥‥ですね‥‥」
「誰も使いたくない気持ちが判るわ‥‥」
一瞥して呟いたアンサラーに、アプラが思わず頷き、ピアノがげんなりと肩を落とす。目の前には細かなバラがぎっしりと描かれた壁に、ハート型の石を繋ぎ合わせて作られた屋根、窓枠の木が手を取り合う恋人の形に作られている屋敷があった。
「一応、国有の物にはなっていますが、取り壊すにもお金がかかるので放置されていますの。暴れて壊しても、感謝されこそすれ、誰も文句は言いませんわ。きっと」
言いながら、屋敷の中に入って行くクロウディアにアンサラー達が続く。悪趣味な外観に加え、内観も似たようなもので、一行の眉が情けなく下がる。
「待っていたぞ。アンサラー王子」
屋敷の奥から現れたのは、黒いローブの男だった。クロウディアとアプラがアンサラー達を後ろに庇う。
「貴様! 何者だ!」
ローブの男をクロウディアが睨み付けるが、ローブの男は気にした様子もなく、アンサラーに向かって手を伸ばした。
「私は君の腕輪に用があるのだ」
それに、アンサラーの目が鋭くなる。不安気に腕にしがみ付いて来るピアノを背中に押しやり、アンサラーが不敵な笑みを浮かべる。
「嫌だと言ったら?」
「人質の命がなくなるだけだ」
答えたのはローブの男ではなく、屋敷の奥から歩いて来た猫背の老人だった。その後ろから、屈強な男に引き摺られたフラガラッハ(ノエル・2役)が現れる。
「た、助けて!」
「うわ、本当に王子そっくりだ」
「どこが似ていますの? 王子とは気配も魔力も全く違っていますわ」
「‥‥俺はそういうの、よく判んないんで‥‥」
隙を作らないようにしながらも、クロウディアの言葉にアプラが苦笑を返した。
「腕輪を渡したら、そいつを解放するんだな?」
「勿論だ」
老人に言われて、アンサラーが腕輪を投げる。ローブの男がそれを受け取ると、腕輪を確かめた。
「素直で結構な事だ。さあ、ジン」
老人が『ジン』と呼んだローブの男へ手を伸ばす。が、ジンはにやりと笑うと、腕輪を懐へと入れた。
「何の真似だ、ジン」
「悪いが、契約は破棄だ。‥‥あんたの依頼金の二倍で、これを欲しがってる人がいるもんでね」
がらりと声のトーンを変えたジンは、ふわりと飛び上がると老人から距離を取った。慌てて老人が屈強な男へジンを捕らえるように命令するが、ジンが足元にあったレンガを屈強な男の頭に蹴り上げると、男は白目を剥いて倒れる。
「てことで、腕輪は貰っていくから」
「そうはさせるか」
アンサラーが魔力を集中させると、ジンの懐で腕輪が光り、ジンを中心に竜巻が発生した。それをジンが感心して見ている中、アプラがフラガラッハを助ける為に駆け出す。
「多少状況は変わったが、腕輪は返して貰うぞ」
竜巻が収縮して行き、ジンのローブが切り裂かれて行く。その中で、ジンがにやりと笑うと、腕を勢いよく薙ぎ払った。瞬間、竜巻が横に割れ、消えて行く。
「悪いね。俺に風は効かないんだ」
「アンサラー!」
驚くアンサラーにジンが腕を振りかざすと、強力な風が巻き起こり、アンサラーを守ろうとするピアノも、2人を庇うクロウディアも吹き飛んだ。その余波がフラガラッハと老人を襲い、吹き飛ばされるフラガラッハを抱きとめたアプラが、フラガラッハと壁の間にクッションとなった。
「アプラ! っの、野郎!」
痛みに息を飲むアプラに、アンサラーが叫ぶ。アプラに追い討ちをかけようとジンが再び魔力を集中させたとき、屋敷の奥からアルヴィレオが現れて、ジンを蹴り付けた。
「何がどうなっているのかは判らないが、あの子を傷つけさせるわけにはいかないんでな」
向かって来るアルヴィレオに、ジンが風の塊を作り出し、投げつける。が、アルヴィレオを守るように現れた氷のバリアによって、塊が霧散した。ちらりとジンが斜め上を見上げれば、天井の隅に浮かんだラウラに支えられて、手を翳しているアリアがいる。
「アルヴィレオ! クラウ! 奴を抑えとけ!」
言って、アンサラーが集中すると、強大な魔力が身体中から迸った。明るい緑色の魔力が、龍の姿を象る。
「今回はちょっとキレたぞ。‥‥凍って砕けろ! シュトルム・ウント・ドランク!!」
氷の竜巻が床を周りを凍りつかせながらジンに襲い掛かった。ジンの顔を隠していたフードが引き千切れ、宙を舞う。
竜巻が消えた時、アンサラーはピアノに支えられながら激しく息を乱していた。ぐっと胸を押さえ、大きく深呼吸する。
「あーあ。予想外の展開。こりゃ駄目だ。俺もう死にそう。腕輪は返すから見逃してくんない?」
ローブを引き裂かれ、緑の髪と目を現したジンは、身体中から血を流しながらも飄々とした声で言って、腕輪をアンサラーに向かって放り投げた。それを受け取ったアンサラーだが、腕輪を確かめて眉を顰める。腕輪に嵌め込まれていた筈の、一際大きな緑色の石が外されていた。
「おいコラ。石を返せ」
「腕輪は返しただろ? 石を返せとは言われてないもんな。んじゃ、そゆ事で」
ニィッと笑って、ジンが一陣の風と共に消え去った。それをアンサラーが睨み付ける。
「‥‥王子、どうするんですか?」
「探して取り返すに決まっているだろう。魔力で石の場所は感知できるからな」
「‥‥王子。暫く護衛の任を離れても構わないでしょうか?」
軽く肩を押さえつつ駆け寄って来たアプラにアンサラーが答えると、真剣な表情のクロウディアが言った。
「‥‥判った。行って来い」
「ちょ、アンサラー! いいの?」
「どうかしたんですか? クラウさん」
「ちょっと気にかかる事があるの‥‥王子の事、頼むわね」
戸惑うアプラとピアノを余所に、アンサラーは心得たように告げる。それにクロウディアが頭を下げると、タイミングを見計らってフラガラッハを連れたアルヴィレオが声をかけた。
「また会ったな、王子様。それと、この子を守ってくれて助かった。礼を言おう」
「そいつはお前の知り合いか?」
頷くアルヴィレオに、アンサラーがジロジロとフラガラッハを見る。フラガラッハが居心地悪そうにするのに、ピアノが肩を竦めた。
「影武者にできないかなとか考えてるんじゃないでしょうね」
「それもいいな」
「アンサラー!」
「ははは。悪いが、それは駄目だ。この子は孤児院に帰さないとならんからな。‥‥じゃあな、王子様」
「あ、あの! 有難う御座いました!」
言って、去って行くアルヴィレオ達を、アンサラーは黙って見送っていた。
屋敷から出て暫くして、アルヴィレオは通りにアリアとラウラの姿を見つけた。
「君達も手伝ってくれて助かったよ」
「そんな‥‥アルヴィレオ様の為なら‥‥」
頬を赤く染めるアリアに溜息を吐き、ラウラがアルヴィレオとフラガラッハを見る。
「憲兵には連絡をしておきました。あの老人は程なくして捕らえられるでしょう。その少年は証人となっていますので、申し訳ありませんが、もう少し滞在して貰う事になるかと」
「それはしょうがないな。判った。‥‥アリア、という名前だったか」
名前を呼ばれ、アリアがハッと顔を上げると、アルヴィレオがアリアを見つめていた。
「あの時、バリアを張ってくれたのも君だったんだな。有難う。‥‥縁があったらまた会おう」
にっこりと微笑まれて、アリアの顔が耳まで真っ赤になった。去って行くアルヴィレオを呆然と見つめるアリアに、ラウラは頭を抱えつつ「さー、任務に戻りますよー」とアリアを引き摺って行った。
人気のない森の中で、ジンがふわふわと揺れる蝶々に向かって話していた。
「腕輪ごとは無理だったけど、一応石は取って来たよ。‥‥何だっけ、それ。ああ、デュシス・オエステの。判った、じゃあ持ってく」
言い終わると、蝶々がフッと消える。それにジンが軽く息を吐いて、腕輪から奪った緑色の石を見た。
「緑龍の力を封印せし碧き涙、エメロートトルーネ‥‥かぁ。やっぱり面倒なの選んじまったなぁ」
キラリと、石が太陽の光を反射した。