ElDorado/VerdeBarco 5アジア・オセアニア

種類 シリーズ
担当 中畑みとも
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 3万円
参加人数 7人
サポート 0人
期間 06/09〜06/13
前回のリプレイを見る

●本文

 龍によって守られ、魔法によって栄えている世界、エルドラード。
 その世界には5つの国があった。
 氷雪の国、ノルド・ノルテ。
 常夏の国、ユーク・スール。
 鉱山の国、デュシス・オエステ。
 芸術の国、オスト・エステ。
 黄金の国、セント・セントロ。


「くく、無駄だ。最強の魔術師となった私に勝てるわけがない!」
 エメロートトルーネを使い、龍となった魔術師は、勝ち誇ったように吼えた。その額には、緑色の石が輝いている。下ではエメロートトルーネを取り返さんとする者が、剣を向けていた。
 その後ろで、地下から上がって来たジンは塵で真っ白になったローブを叩いた。
「ふぃー、しんどい。俺、死にそう。ちょっとこれは予想よりも大分酷いんだけど‥‥王子様、倒せるかねぇ。倒して貰わないと、俺も仕事終わんないんだけど」
 と、ぶつぶつと呟くジンの横に、何処からか一匹の蝶々が飛んで来た。それを振り返ったジンは、嫌そうな顔を向ける。
「‥‥逃げないって。ちゃんと最後まで見届けるよ、仕事だもん。‥‥それは王子様が依頼するなら別だけど、自主的にはやらないよ。‥‥うーん‥‥まあ、死なれても困るし、ピンチの時には、ね。じゃあさ、報酬、ちょっと上げてよ校長様」


第5話『奪還! 盗まれし秘宝』
 エメロートトルーネを使い、龍となった魔術師。王子達は龍を倒し、エメロートトルーネを取り返す事が出来るのか!?


●必須キャスト(連続出演可能な方を望む)
・王子(主人公)1名
・付人1名
・護衛1名
・護衛見習い1名
・王子捜索隊2名

●NPC
・ジン
 裏の世界で『何でも屋』をやっている組織の一員。戦闘技術に実力はあるのだが、仕事には何だかやる気がない。その反面、暴れる事は大好きだったりするという、気紛れな性格。どうやらこの連続した一件には、とある人物が関係しているようだが‥‥

※その他キャストは自由に設定して頂いて構いません。
参考/大会参加者で、龍を倒すのに協力してくれる者 など

●設定
第1話を参照して下さい。

●今回の参加者

 fa0142 氷咲 華唯(15歳・♂・猫)
 fa0595 エルティナ(16歳・♀・蝙蝠)
 fa1521 美森翡翠(11歳・♀・ハムスター)
 fa1715 小塚さえ(16歳・♀・小鳥)
 fa4584 ノエル・ロシナン(14歳・♂・狸)
 fa4909 葉月 珪(22歳・♀・猫)
 fa5757 ベイル・アスト(17歳・♂・蝙蝠)

●リプレイ本文

 会場中に爆発音が響き、悲鳴を上げて観客達が逃げて行く。それを背後に感じながら、アンサラー(ノエル・ロシナン(fa4584))は頭上に浮かぶ龍を睨み付けた。
「王子! これは一体、どういう事ですか!?」
「話せば長くなるから後で説明するが、とりあえず奴の額にあるのがエメロートトルーネだ!」
「つまり、敵ですね!? ‥‥フラムクヴェル!」
 舞い降りた龍の爪を剣で受け流しつつ、アプラ・ティサージュ(氷咲 華唯(fa0142))は精神を集中させた。すると、持っていた剣に炎が宿り、アプラはそれで龍の足を斬りつける。パッと黒い血が飛び散るが、傷自体は浅い。
「くっそぉ、堅いなぁ」
「魔法剣だから傷付けられましたけど、通常の攻撃は効かないと見た方がいいですわね」
 言いながら、クロウディア・フォン・フローライト(エルティナ(fa0595))が腕を振ると、アンサラーとアプラの身体の周りを薄い水色の光が包む。
「紛い物の龍とは言え、面倒だな‥‥アプラ! 時間を稼げ! クラウはピアノを‥‥!」
 指示を出すアンサラーを、龍の繰り出した竜巻が襲う。アンサラーはそれをギリギリで避けるが、竜巻は後ろに隠れていたピアノ(美森翡翠(fa1521))へと向かって行く。
「しまった! ピアノ!」
「きゃっ‥‥!」
 眼前に迫る竜巻に、ピアノが吹き飛ばされそうになる。と、ピアノと竜巻の間に誰かが滑り込み、片膝を立てて地に手の平を当てた。
「シールド・マグナ・マテル!」
 呪文と同時に、ピアノの周囲に白い魔法陣が浮かび上がり、その円をなぞるように岩の壁が現れる。竜巻が壁に当たって霧散すると、呆然とするピアノの前に立ったのはラウラ・キアーラ(小塚さえ(fa1715))だった。
 ピアノが無事でホッとするアンサラーの横を、シスター服が猛然と駆け抜ける。
「もう少しでアルヴィレオ様に賞金をお届け出来る筈でしたのに! 人の恋路を邪魔するなんて、龍だろうと何だろうと許しませんわ! 食らいなさーい!!」
 走り様、無数の細かい氷柱を作り出したのはアリア(葉月 珪(fa4909))だった。杖を振りかざすと、氷柱が龍へ降り注ぐ。
「まだまだぁー!!」
 突き刺さる氷柱に崩れる龍へ追い討ちをかけるように、アリアが杖で宙に円を描くと、龍の頭上に魔法陣が現れ、そこから巨大な氷柱が落ちて来た。龍が氷柱に潰され、岩造りのステージがバキバキと割れると、氷柱が落ちた衝撃が風となってアンサラー達を襲う。
「アリア! 少しは周りにも気を配って下さい!」
「え!? 何か言いました!?」
 衝撃波を壁で受け流しつつ、ラウラがアリアに注意を促すが、アリアは龍を倒す事に躍起になっているせいか、周りの音が聞こえないようだった。そんなアリアにラウラが呆れたように溜息を吐く。
「ラウラがいれば、アリアもいるか。そりゃそうだな。しかしこれは好都合だ。クラウ! ピアノはラウラに任せて、お前もアプラと一緒に時間を稼げ! とびっきりのをお見舞いしてやる!」
「アンサラー! あんまり無茶しちゃ駄目よー!」
 口元に両手を当てて叫ぶピアノに、アンサラーが軽く肩を落とすと、気を取り直したように両手を掲げた。
「大丈夫かしら、アンサラー‥‥腕輪の力もないのに‥‥」
「腕輪というと、石がはまっていたアレですか?」
 ピアノの呟きに、ラウラがアンサラーを見る。両手を空へ伸ばすアンサラーの手首にはめられた腕輪には、普段の輝きはない。
「小さい頃、アンサラーの魔力は自分じゃコントロール出来ないくらい強くて‥‥あの腕輪はそんな時に陛下から賜ったものなの。あの腕輪のお陰で、アンサラーは魔力をコントロール出来るようになったのよ」
「なるほど‥‥魔力の制御、それが腕輪の‥‥エメロートトルーネの力というわけですか。人間が龍になれたとしても、龍の強大な魔力を制御する力は人間にはない。だからこそ、エメロートトルーネが必要だったと‥‥」
 ラウラが考え中に、龍が大きな口を開けた。周囲の塵をも飲み込みながら、龍の口に強い光が集まって行く。
「まずいっ!」
 ラウラが慌てて魔法陣に手を当てるのと同時に、龍の口から強い光線が発射された。辛うじて避けたアンサラー達の姿を目の端に捉えると、光線が岩の壁にぶつかる。
「ラウラさん!」
「ピ、アノ様‥‥私の側を、離れ、ないで下さ、い‥‥相手の魔力、が、強すぎ、る‥‥盾の維持で、精一杯‥‥っ!」
 必死で魔法陣に力を注ぐラウラを嘲笑うかのように、龍は尚も光線を発射し続ける。と、そこに横へ回ったクロウディアが剣を振りかざした。 
「エアリアルブロークン!」
 無数の風の刃が龍に襲い掛かる。まともに食らった龍が体勢を崩し、光線の力が弱まると、クロウディアとは逆方向に回って来たアプラが高く飛び上がり、叫び声を上げながら龍の首へ剣を振り落とした。衝撃に耐え切れず、光線が消える。
「チャンスッ! 食らえ、シュトルム・ウント・ドランク!」
 アンサラーの声に、龍の周囲四方から巨大な氷の竜巻が生まれる。瓦礫を巻き込みながら襲い掛かってくる竜巻に、龍が雄たけびを上げた。
「私は‥‥最強の魔術師だ!」
 四つの竜巻がぶつかり合う。と、その中心にいた龍が思いっきり羽を広げ、竜巻を打ち消した。同時に、強烈な風が周囲に広がる。
「うわっ!」
「王子!」
 魔法を使った直後で隙のあったアンサラーが、風の衝撃をまともに受けてしまう。アプラが慌てて手を伸ばすが遅く、アンサラーの足が地面を離れた。アンサラーが叩きつけられる衝撃に備えて頭を抱えるが、衝撃は来ない。
「大丈夫か?」
「‥‥お前は、グラム」
 アンサラーを受け止めたのは漆黒の外套を纏った男、グラム(ベイル・アスト(fa5757))だった。アンサラーと男に向かって龍が光線を向けると、グラムがそれに手を翳す。
「我が手に集え、灼熱の劫火‥‥メギド・フレイム‥‥!」
 光線と、男が放った炎がぶつかり合い、相殺する。それにアンサラーがグラムを見上げた。
「お前、何でこんな所にいるんだ?」
「挨拶だな、アンサラー。助けてやったのに。‥‥まあ、修行の旅というやつだ。お前と違って、きちんと陛下に許しを貰った上での、な」
 フッと笑って、グラムが龍を見る。
「修行の一環として武闘会に参加したはいいが、厄介な事になったようだな。‥‥紛い物の龍が、驕るなよ‥‥!」
 ふわりと踊るように手を回すと、グラムの周囲に炎が現れた。炎から次々と火球が飛び出し、龍を襲う。
「やれ、アンサラー」
「言われるまでもない!」
 グラムに言われて、アンサラーが魔力を集中する。それを阻止しようと龍が攻撃をしてくるが、グラムとアリアの防御壁に防がれ、アプラとクロウディアに体勢を崩される。
 アンサラーの身体から緑色の魔力が吹き上がる。徐々に魔力が高まっていくが、それに比例してアンサラーの表情が苦しそうになる。
「アンサラー!」
 堪らずピアノが叫ぶが、アンサラーは魔力を高めることを止めない。その様子をピアノがハラハラと見ていると、後ろでガラリと瓦礫の落ちる音がした。
「ありゃ。何か大変な事になってるな」
 瓦礫の下からひょいっと顔を出したのはジンだった。アンサラーの表情を見て、眉をハの字に落とす。
「くそっ‥‥やはりエメロートトルーネがないとキツイか‥‥」
 アンサラーの顎を汗が伝う。その時、ちらりと目の端にジンが映り、アンサラーが片眉を上げた。
「大変そうだな。どう? 龍、倒せそう?」
「誰のせいだと思ってるんだ?」
 魔力を高めるのを続けたまま、アンサラーが近づいてきたジンに答える。すると、ジンが困ったように苦笑いしながら頭をかいた。その様子に、アンサラーがニッと口端を上げる。
「どうやら、退くに退けない様だな。手を貸すなら、今までの事パンチ一発でチャラにしてやってもいいぜ」
 アンサラーの言葉に、ジンが驚いたように目を見開く。それに、アンサラーは前を向き続けたまま言った。
「今まで手を抜いていたのは魔法を交えていれば判る。何が目的かは知らんし、お前が使った方法も気に食わんが、この状況がお互いにとって良くない事は同じだ。だろう?」
 言えば、ジンが「まあね」と呟いて肩をすくめた。
「だったら協力しろ。エメロートトルーネを抉り出して来い!」
「‥‥しょうがない、か!」
 ジンが走り出す。龍の攻撃を避けつつ飛び上がると、その首に取り付いた。暴れて魔法を連発する龍にボロボロになりながら、ジンが額の石に手をかける。
「やめろ、やめろ、ヤメロォォォ!」
 龍の叫びと共に、ジンが石を抉り出す。そして、その石をアンサラーに投げ渡すと、ドサリと地面に落ちた。
「これで終わりだ!」
 石を受け取ったアンサラーが、石を龍へ向けて魔力を高める。急激に膨れ上がった魔力は緑色の光となり、龍を包み込んだ。
「アンサラー!!」
 龍の断末魔に、ピアノの叫び声が重なった。


 会場に、先程までの戦闘が嘘のような静けさが広がっていた。そんな中、ガラリと瓦礫が動き、クロウディアが立ち上がる。
「大丈夫ですか? アプラ」
「な、何とか」
 近くにいたアプラを瓦礫の下から引きずり出したクロウディアは、その足でアリアも引っ張り出した。アリアがキョロキョロと辺りを見渡し、龍がいない事を確かめた後、ハッと気付いたように叫ぶ。
「こんなになっちゃったら、もう大会やれないじゃないですか! 賞金はナシ!? アルヴィレオ様ー!」
 悲痛な叫びを上げるアリアを呆れた様子で見ていたのは、ピアノを抱えて立ち上がったラウラだった。それに続き、グラムがアンサラーを引っ張り出す。
「アンサラー!」
 ピアノがアンサラーに抱き付く。良かったと呟きながら泣くピアノにアンサラーが微笑んで溜息を吐いた。
 ステージの真ん中、大きな穴が開いた中に、人間に戻って気絶している魔術師が倒れていた。


「それじゃあ、後始末宜しく」
「ああ。お前は早く帰った方がいいだろう。成人の儀、そろそろだろ?」
 グラムに言われて、アンサラーがピアノと顔を見合わせる。
「そうよ、アンサラー! 早く帰らなきゃ!」
「そうだ。俺もお前のパーティに呼ばれてるんだからな。主役がいないと困るだろう」
 早く早くと急かすピアノに、アンサラーが溜息を吐きながらグラムを振り返った。それにグラムが手を振ると、アンサラーはニッと笑って歩き出す。それにアプラとクロウディアが続き、ちょっと戸惑うようにラウラとアリアも追いかけると、グラムはゆっくりと手を下ろした。
「さて」
 グラムが呟けば、すぐ横の瓦礫が動いて、下からジンが顔を出した。
「想定外の事態になったようだが、一応魔術師の企みは明らかとなり、阻止されたな。任務完了だろ?」
「被害が凄い事になっちゃったけどね」
 瓦礫に半分埋まったまま、ジンが答える。
「やっぱ、気付いてた?」
「ああ。裏で動いている、魔法学校長直属の部下がいるという話は、聞いた事があったからな」
「そっか。流石、グラム・ノルド・ノルテ・イムラスカ様」
 呟いて、ジンはアンサラー達が去って行った方向へ目を向けた。
「次はどんな仕事が来るのかな。今度はあんた絡みじゃないといいけど。アンサラー・オスト・エステ・ファゴット王子」


「アンサラー! 急いで!」
「判ってるから落ち着け、ピアノ。お前一人が走ったところで国に着く時間がそれほど変わるわけでもない」
 はたはたと手を振るピアノに、アンサラーがゆっくりと答える。
「成人の儀が終わったら、少しは落ち着いてくれるといいんですけれど」
「そうですね。でも、もしまた旅に出る事になっても、お供しますけどね」
 前を歩くピアノとアンサラーを見ながら、クロウディアとアプラが微笑む。
「あーあ。アルヴィレオ様にプレゼント出来ると思いましたのに‥‥こうなれば一生懸命働いて、私のお給料で少しでもアルヴィレオ様に貢献できるようにしませんと‥‥!」
「結局、ジンの能力は判らずじまいでしたか‥‥仕方ありません。裏稼業で生きているのならそのうちにまた、勝負する機会もあるでしょう。諜報部員だって、裏稼業と言えば裏稼業ですしね」
 クロウディアとアプラの数メートル後ろでは、アリアとラウラが隣同士に歩きながらも別々の事を考えていた。
「とりあえず成人の儀は終わらせるとして‥‥その後はどうするかな。‥‥またコインにでも聞くか?」
 呟いて、アンサラーは空へ向かってコインを弾いた。