吸血鬼の花嫁 fait3アジア・オセアニア

種類 シリーズ
担当 中畑みとも
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 06/10〜06/14
前回のリプレイを見る

●本文

 ――吸血鬼。
 それは長い牙を持ち、その牙で人間の生き血を吸う化け物である。
 不老不死とも蘇った死者とも言われ、見境なしに人間を襲い、血液を奪うと恐れられているが、それは伝説上の存在として一般に伝えられている、かつての吸血鬼像だ。
 現在の吸血鬼は、ある『絶対なる掟』を守り、必要以上に人間の血を求めはしない。なぜなら、それは彼らを生かし、人間との調和を目指すうえで大切な条約だからである。

 そう、彼らは伝説上の存在ではなく、人間の中で、人間と同じように生きている。
『花嫁の掟』という、ただ一つの掟を守りながら。


 お待たせ致しました、第3話撮影開始で御座います。
 何かもう色々と大変なドラマですが、漸く半分まで来ましたんで。
 今回も宜しくお願いしますね!


●次回予告
 サクリフィス出現現場にいたことで、掟破りの罪も着せられた主人公。
 同時に、主人公に加担したとしてAS内の仲間が次々と拘束されて行く。
 動きの取れない主人公は、最後の綱として上司に協力を求めるが‥‥
「何で、どうして!?」
「それが真理だからです」
 月の光の下で、白い鴉が笑った。


必須配役
 主人公VP:無実の罪を晴らす為、真犯人を探す(1名)
 仲間:主人公を信じ、助けるが拘束されていく(数名)

連続配役
 人間の刑事:主人公を信じ、協力する
 VH幹部:ASの異変を感じ、主人公を見張る
 強力なTV:何者かの命を受けて暗躍している

通常配役
 AS:主人公を疑い、逮捕しようとする(数名)
 SC:主人公を追いかけるも、何故か捕まえるに至らない(数名)

NPC配役
 AS幹部:クレーエ・フォン・アーベントロード
 背の高い白髪の男。AS上位幹部である『デュック・シス(6人の公爵)』の一人。主人公が尊敬する上司であり、主人公を助けようとしている。

(仲間はAS所属の有無、吸血鬼・花嫁、関係なく配役可能。ただし一般の人間・VHは不可です)
(必須配役は連続出演可能な方を希望しております。連続配役は前回シリーズでその役をやった方が出る場合、その役でお願い致します。必須ではありません)


●設定
詳しい設定は『第1話』を参照下さい。

●今回の参加者

 fa0470 橘・月兎(32歳・♂・狼)
 fa0472 クッキー(8歳・♂・猫)
 fa0607 紅雪(20歳・♀・猫)
 fa0612 ヴォルフェ(28歳・♂・狼)
 fa0684 日宮狐太郎(10歳・♂・狐)
 fa3225 森ヶ岡 樹(21歳・♂・兎)
 fa3366 月 美鈴(28歳・♀・蝙蝠)
 fa5030 ルナティア(17歳・♀・蝙蝠)

●リプレイ本文

●夜の道
 ディアン(日宮狐太郎(fa0684))とウィリアム・ストーカー(森ヶ岡 樹(fa3225))がサンクシオンから逃げるために走っていた。足が縺れたウィリアムが転び、ディアンが引き摺り上げる。
「も、駄目‥‥ディアン、君だけで‥‥」
「馬鹿野郎! 楸がくれたチャンスなんだ。今のうちに逃げないと‥‥」
「楸ちゃん‥‥」
 ふと振り返るウィリアムの目に、キラリと光るものが映る。それにウィリアムの腕を掴んだディアンが慌てて走り出した。
 それを建物の屋上から見下ろしている人物がいる。縁に座り込み、足を宙に浮かせてぶらぶらとさせているその人物は、洸耶(橘・月兎(fa0470))にそっくりな男だった。
「こんな所にいたのか。勝手な行動は謹んで欲しいんだけどな」
 背後から男に声をかけたのはロスト(ヴォルフェ(fa0612))だった。その声に男がふっと口元を歪ませると、男の体が闇色へと変わり、次の瞬間に現れたのは茶髪の子供だった。
「結構楽しかったよ。次は誰にしようか。君の奥さんにでも変わる?」
「‥‥冗談で終わらせるつもりなら許すが?」
「あはは、冗談、冗談」
 楽しげに笑う子供を、ロストが無表情で見下ろす。
「イグニス。クロウ様からの命令だ。次の作戦に加われ」
「はーい。じゃあ、行ってきまーす」
 ロストの言葉に、イグニス(クッキー(fa0472))は明るく返事を返すと、無数の蝙蝠となって闇へ消えて行った。それを見送ったロストは、疲れたように溜息を吐いた。


●アンバサッド会議室
「‥‥私の報告が信用ならない、と?」
「君の今までの功績を見れば、信じてやりたい。だが、この件に関しては君の意見ばかり聞いてはいられないのでね」
 両腕を白い鎖で拘束されたアルベルティーア(ルナティア(fa5030))を、傍らに杖を置いた年配の男が見る。それに、アジア系の女が続ける。
「ディアンが一般の人間を襲う様子を目撃した者もおるのですよ」
「っ!? 誰ですか、そんな出鱈目を言ったのは!?」
「サクリフィス消去に動いていたサンクシオン数人です。確かにディアンだったと言うておる」
 その言葉に、アルベルティーアが洸耶に化けた男の存在を思い出し、必死の思いで口を噤んだ。
「‥‥連れて行きなさい」
 サンクシオン達に両側を捕らえられたアルベルティーアは、小さくディアンの名を呟いた。


●アンバサッド一室
「手間を取らせて悪かったね。怪我は大丈夫かい?」
「大丈夫です。それほど酷い傷ではありませんでしたから」
 答えて、洸耶は書類を持って椅子から立ち上がる男を見上げた。
「今日はこれで結構だよ。君を襲ったトレートルについて、何か判ったら知らせよう」
「‥‥有難う御座います」
 あっさりと言って部屋を出て行こうとした男は、ふと思い出したように振り返った。
「ああ、そうそう。ルナの事なんだが、どうやら自宅謹慎を食らったらしいな。君、聞いていたかい?」
「‥‥いえ、何も」
「そうか。まあ、長老殺害犯と親しかったらしいから、それで捜査から外されてるだけみたいだし、そんなに心配する事はないだろうけどね」
 にっこりと笑って、男が部屋を出て行く。それを見送って、洸耶は携帯電話を取り出した。


●ルナの自室
 部屋の中で、ルナ(紅雪(fa0607))とセフィリス(月 美鈴(fa3366))が向かい合って座っていた。
「‥‥アルベルティーアは犯人隠避容疑で能力を封じられ拘束‥‥楸はまだ見つかってはいないけれど、逃亡幇助と蔵匿容疑で懲罰房行きは決定‥‥」
「私は自宅謹慎なだけ、まだマシってわけね」
 セフィリスの言葉にルナが溜息を吐いて、チラリと携帯電話を見る。
「‥‥洸耶にも、一応貴女が謹慎中であることは知らせてあるわ‥‥」
「ええ、ありがとう」
「それと」
 言って、セフィリスは大きなカバンから大量の書類を取り出すと、ルナの目の前のテーブルに積み上げた。
「‥‥自宅謹慎中でも、仕事は出来るでしょう?」
「セフィリス‥‥貴女ね‥‥」
「こっちは万年人手不足なのよ‥‥ただでさえ人探しに人手を割かれてるのに‥‥」
 ぶつぶつと文句を言うセフィリスに苦笑しつつ、ルナが書類を捲る。と、そこにはクレーエ・フォン・アーベントロードの写真と詳細が書かれていた。一瞬、目を見開いて、ルナはセフィリスを見る。それに、セフィリスは少しだけ目を横に動かし、天井の隅を見ると、何も気付かなかったかのように続けた。
「‥‥文書データ化以前の吸血鬼リストよ‥‥トレートルになって消去された者も、そうでない者も混ざっているから、選り分けてデータ化して欲しいの‥‥これだけの量をデータ化するとなると、時間がかかり過ぎるから‥‥」
「暇な者にやらせようってわけね?」
 何気なく答えつつ、ルナはクレーエの写真を隠すように書類を捲った。クレーエの詳細については既にデータ化されている筈で、セフィリスがわざと紛れ込ませなければ、この中に入っているわけはない。クレーエ以外にも、他のデュック・シスの詳細も入っていた。
「‥‥それじゃあ、頼むわね?」
 セフィリスが立ち上がって部屋を去って行く。それをルナは見送って、パソコンのスイッチを入れた。


●ルナの自室前
 ドアを閉め、セフィリスが自分にしか聞こえない小さな声でぼそりと呟く。
「油断していたとはいえ、長老を一瞬で殺害出来る能力を持ち‥‥長老と親しい人物なんて‥‥デュック・シス以外に考えられないのよ‥‥」


●ウィリアムの家
「ティファが拘束された!?」
 携帯電話のメールを見て叫んだディアンに、ウィリアムがのんびりと飲んでいたコーヒーを噴出しそうになった。
「ど、どうしたの? ディアン」
「俺のせいだ‥‥」
 呟くディアンに、ウィリアムが少し零れてしまったコーヒーを拭きながら眉尻を下げる。
「ディアン‥‥」
「‥‥助けに行く」
「ちょ、ちょっと待ってディアン! 助けに行くって‥‥ディアン!」
 止めようとするウィリアムの腕を振り切り、ディアンが家を飛び出して行く。ウィリアムが慌てて追うが、家を出ると既にディアンの姿はなかった。


●アンバサッド外
 屋根から屋根へと伝い、ディアンは建物の裏側へと降り立った。そこは以前に自分が逃げ出した裏口で、ディアンは大きく深呼吸をすると、裏口を睨み付ける。
「ディアン?」
 と、突然背後から声をかけられて、ディアンは反射的に武器を構えた。しかし、次に見えた姿に安堵の息を漏らす。
「アニス!」
「久しぶりだね、ディアン。何だか大変な事になっちゃってるね」
 にっこりと笑ったのは茶髪の子供だった。その笑みにディアンは嬉しそうに子供の腕を掴む。
「アニスは信じてくれるよな? 俺は長老を殺してなんかいないって」
「うん、判ってるよ。アンバサッドに入りたての頃から一緒なんだもの。ディアンはそんな事する奴じゃない」
 力強く頷くアニスに、ディアンが腕を掴む手に力を込める。
「頼む‥‥協力してくれないか? ティファが、俺のせいで捕まってるんだ‥‥」
「うん、それも判ってる。だから、ここでディアンを待ってたんだ」
 そう言ってアニスが裏口を見ると、同時にドアが開いた。中からクレーエが顔を出し、にっこりと笑った。


●アンバサッド地下
「ティファ!」
「ディアン、どうして‥‥」
 部屋のドアを開けて入って来たディアンに抱き付かれ、アルベルティーアは戸惑うように顔を上げた。そこには2人を促すクレーエがいる。
「感動の再会は後にしなさい。監視の交代時間に穴を開けた事は、すぐにばれてしまう」
「クレーエ様! そんな事をしたらクレーエ様が‥‥」
「私は大丈夫だ。早く逃げなさい。アニス」
「はい! さあ、2人とも、ついて来て!」
 アニスの言葉に、ディアンがアルベルティーアの腕を掴んで走り出した。アニスが先導となり、人気のない道を走って、裏口からアンバサッドを出て行く。


●夕日の沈む道
 荒い息を吐きながら、ディアンに引っ張られてアルベルティーアが走る。
「ティファ、大丈夫か?」
「だい、じょうぶ‥‥」
 アルベルティーアの肌は焼けたように少し赤く、半比例するように唇は白くなっていた。既に太陽は見えないとは言え、空はまだ赤紫と紺のグラデーションを描いている。
「辛い? 弱くなったとは言え、まだ太陽の光が届くからねぇ」
 グラデーションをバックに、アニスが振り返る。その、どこか楽しげな口調に、ディアンが不審気に眉を顰めた。
「‥‥アニス?」
「君の能力は少し面倒だから。ちょっとハンデを貰ったんだ。ね、クロウ様」
 にっこりと笑うアニスの言葉に、ディアンが後ろにいるクレーエを振り返る。そこには、いつもの優しげな笑みを湛えたクレーエがいた。
「‥‥クレーエ様?」
「ディアン!」
 呼んだのはクレーエではなかった。クレーエの後ろに、駆けてくる洸耶の姿が見える。
「こんな所で何をしているんだ!」
「ティ、ティファを助けに‥‥ティファが拘束されたって聞いたから‥‥」
「誰がそれを?」
「え? こ、洸耶だろ? 教えてくれたの‥‥」
 洸耶の問いに呟いて、ディアンが携帯電話を取り出す。開いたメールにはティファが拘束された事を伝える文章と、送信先に洸耶の文字がある。
「俺じゃない」
 硬い表情で答える洸耶に、ディアンが呆然と顔を上げる。と、クレーエがにこりと笑った瞬間、アルベルティーアがディアンを突き飛ばした。
 肉を刺す音がして、アルベルティーアの肩に銀の刃が突き刺さる。
「ティファ!」
 崩れ落ちるアルベルティーアを、ディアンが抱き留めた。刃についた血を払うアニスを、ディアンが睨み付ける。
「アニス! お前‥‥!」
 にたりと笑うアニスに、洸耶が眉を潜めた。ズキリと、殴られた頭の傷が痛み、記憶が蘇る。カルテに向かう洸耶を、背後から殴った存在。茶色の髪と、無邪気な笑顔。
「怪我はもう平気? 一応手加減はしたんだけど、人間は脆いからね。そ・れ・と。僕はアニスじゃないよ」
 言うと、アニスの身体が闇色に変わる。次第に体型が変わり、現れたのは洸耶そっくりの男だった。驚愕に目を見開くディアンの目の前で、再び洸耶がアニスへと変わる。
「イグニスって言うんだ。これでも、イノヴェルチの幹部なんだよ。宜しくね」
 無邪気な笑顔を浮かべるアニスに、ディアンが何か言おうと口を開く。が、それはクレーエから響いた携帯電話の着信音に遮られた。徐にクレーエが携帯電話に出る。そして、二言三言話すと、携帯電話を閉じた。
「さて、大変な事になりましたよ。繁華街でサクリフィスが大量出現しました。‥‥ティファの脱走にサンクシオン達が呼び戻された直後に、ね」
 ニィッと笑ったクレーエの目には、優しさの欠片もなかった。


●繁華街
「何なんだ、こいつ等は!」
 悲鳴と発砲音が響く中、ウィリアムの先輩刑事が銃を構えていた。そこに、牙を剥くサクリフィスが襲い掛かる。先輩刑事が慌てて銃を構えるが遅く、先輩刑事は死を感じて目を瞑った。
 が、一向に訪れない痛みに、先輩刑事が恐る恐る目を開く。目の前に、ウィリアムの背中があった。ウィリアムの向こうで、サクリフィスが崩れ落ちる。
「‥‥サクリフィスは半分吸血鬼です。通常の銃弾より、銀の弾の方が効きますよ」
 そう言うウィリアムに、サクリフィスが襲い掛かる。ウィリアムはその爪を避けると、襟のカフスボタンを引き千切った。ややアンティークな雰囲気のあるカフスボタンから、細い銀糸が飛び出し、サクリフィスを切り結んだ。倒れるサクリフィスに、先輩刑事が悲鳴を上げる。
 ウィリアムはそんな先輩刑事にも目をくれず、ただ真っ直ぐ前を見ていた。そこには、サクリフィスを従えるかのように中心にいるロストがいる。
「‥‥ディアン。僕は、何があっても君の味方だから」
 ロストがゆっくりと踵を返し、去って行く。
「父さん‥‥僕に力を貸して!」
 ヒュルンッと、銀糸が舞った。


●ルナの自室
 ガタンッ! と音を立てて、椅子が倒れた。立ち上がったルナはパソコンのキーボードの上で拳を握り締める。
「これは、どういう事なの‥‥クレーエ様‥‥」
 ルナの睨み付ける先の画面には、数個のハッキングの後と、数千年前のアンバサッド設立時に反抗し、処刑されたトレートルの名が書かれている。その中にクロウ・イルバヌスの名前と共に、クレーエの写真があった。


●月の昇り始めた道
「‥‥貴様がイノヴェルチのリーダーだったんだな‥‥」
 その言葉に、苦しげに呻くアルベルティーアを抱いたディアンが目を見開いた。呟いた洸耶はクレーエを睨み付けている。それにクレーエはただ微笑むだけ。
「クロウ様。任務完了致しました」
 現れたのはロストだった。無邪気に笑みを返すイグニスの横に立つ。その姿に、洸耶が息を呑んだ。
「そうだな。そろそろ帰ろうか」
 言って、クレーエがゆっくりと、呆然と座り込むディアンの横を歩いて行く。その背中に、洸耶が声をかける。
「‥‥吸血鬼の存在を明かし、人間の恐怖と憎しみを煽って、何をするつもりだ。魔女狩りでもやらせるつもりか」
「そうだよ。た・だ・し。今度は狩られる方も全力で攻撃するけどね。楽しみだなぁ。‥‥吸血鬼と、人間の、セ・ン・ソ・ウ」
 答えたのはイグニスだった。いかにも楽しげな答えに洸耶が歯を食い縛る。
「‥‥何で」
 ぽつりとディアンが呟いた。
「どうして! クレーエ様! どうしてそんな事を!」
 ディアンの叫びに、クレーエがふわりと振り返った。クレーエの頭上に白い月が昇る。
「それが真理だからですよ、ディアン」
 ロストの影から無数の蝙蝠が現れ、イグニスとクロウを覆い隠すと、3人は闇の中に消えていった。