吸血鬼の花嫁 fait4アジア・オセアニア

種類 シリーズ
担当 中畑みとも
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 07/11〜07/15
前回のリプレイを見る

●本文

 ――吸血鬼。
 それは長い牙を持ち、その牙で人間の生き血を吸う化け物である。
 不老不死とも蘇った死者とも言われ、見境なしに人間を襲い、血液を奪うと恐れられているが、それは伝説上の存在として一般に伝えられている、かつての吸血鬼像だ。
 現在の吸血鬼は、ある『絶対なる掟』を守り、必要以上に人間の血を求めはしない。なぜなら、それは彼らを生かし、人間との調和を目指すうえで大切な条約だからである。

 そう、彼らは伝説上の存在ではなく、人間の中で、人間と同じように生きている。
『花嫁の掟』という、ただ一つの掟を守りながら。


 色々予定崩してしまって申し訳ないです。何とか4話まで来ました。
 最終話まであと1話なんで、今回も宜しくお願いします!


●次回予告
 大量のサクリフィス出現に、街中がパニックになった。
 明かされたASの真実に、反旗を翻す吸血鬼達。
 人間に牙を向ける吸血鬼を先導するクレーエ。
「強き者が世界を支配する。とても自然な事ではないですか」
「そんなの、ただ悲しいだけじゃないか!」
 吸血鬼としての自分自身の在り方に悩む主人公達。
 吸血鬼と人間の戦争が始まる。


必須配役
 主人公VP:クレーエを止めようとする(1名)
 仲間:主人公を助ける(数名)

連続配役
 人間の刑事:主人公を助ける
 VH幹部:戦争に参加し、吸血鬼を倒す
 強力なTV:戦争に参加し、人間を襲う。

通常配役
 AS・SC:戦争に参加する者、主人公を助ける者、戦争を止めさせようとする者
 吸血鬼:ASに反旗を翻し、人間を襲う(前回仲間役の方でもOKです)

NPC配役
 AS幹部:クレーエ・フォン・アーベントロード
 背の高い白髪の男。AS上位幹部である『デュック・シス(6人の公爵)』の一人。主人公が尊敬する上司であったが、実はイノヴェルチのリーダー。

(仲間はAS所属の有無、吸血鬼・花嫁、関係なく配役可能。ただし一般の人間・VHは不可です)
(必須配役は連続出演可能な方を希望しております。連続配役は前回シリーズでその役をやった方が出る場合、その役でお願い致します。必須ではありません)


●設定
詳しい設定は『第1話』を参照下さい。

●今回の参加者

 fa0470 橘・月兎(32歳・♂・狼)
 fa0607 紅雪(20歳・♀・猫)
 fa0684 日宮狐太郎(10歳・♂・狐)
 fa1521 美森翡翠(11歳・♀・ハムスター)
 fa3225 森ヶ岡 樹(21歳・♂・兎)
 fa5030 ルナティア(17歳・♀・蝙蝠)
 fa5253 日乃 葉響(19歳・♀・猫)
 fa5757 ベイル・アスト(17歳・♂・蝙蝠)

●リプレイ本文

●月夜の道
 ディアン(日宮狐太郎(fa0684))の拳が地面を叩く。皮膚が破れるのを見て、アルベルティーア(ルナティア(fa5030))がその手を押さえ、優しくディアンを抱き締める。
 静かな暗闇に電子音が響いた。洸耶(橘・月兎(fa0470))が携帯電話を取り出す。
「ルナか? どう‥‥判った。すぐ行く」
 微かな溜息に、アルベルティーアが不安気に顔を上げる。それに洸耶は無表情で呟いた。
「戦争が始まった」


●繁華街
 ピンッと細い光が張って、人を襲おうとしていたサクリフィスの首が飛んだ。血を弾き飛ばしながら、銀糸はウィリアム・ストーカー(森ヶ岡 樹(fa3225))の持つカフスボタンへ戻って行く。
 その様子を、横転した車の上に座った美琴(美森翡翠(fa1521))がにこやかに笑いながら見ていた。
「1人で守りきれると思ってるの?」
 美琴の手に光球が生み出され、ウィリアムに投げつけられる。ウィリアムがそれを横に飛んで避けると、サクリフィスがその牙を向けて来た。ウィリアムが咄嗟に懐から銃を出し、サクリフィスの眉間を打ち抜く。仰け反るサクリフィスの後ろから美琴の赤黒い鞭が襲い掛かり、鞭についた茨がウィリアムの左肩を抉る。
 悲鳴を上げるウィリアムに、クスクスと笑いながら美琴が再び鞭を振り上げ、その茨をウィリアムの首に向かわせたとき、茨ごと鞭を掴んだ者がいた。ウィリアムがハッとして顔を上げる。
「楸ちゃん!」
 楸(日乃 葉響(fa5253))が掴んだ鞭を引き、ブンッと振り回す。その勢いに美琴の身体が浮き、壁に叩き付けられる。
「ウィル! 生きてる!?」
「い、生きてるよ!」
 ウィリアムの答えに、満足気に頷いた楸は、茨で傷ついた手の平から滴り落ちる血で双剣を作り上げると、向かって来た美琴の持つ銀の短剣を防いだ。
「貴女、吸血鬼なのにどうして人間なんて庇うの?」
「は!? 何のこと!?」
 ギィンと音を立てて、楸が美琴を弾く。美琴は宙で体勢を整え、足場の悪い場所に体重を感じさせず着地する。
「人間は裏切り者って事よ。‥‥いえ、アンバサッドが、かしら」
「どういう‥‥」
「アンバサッドは吸血鬼を保護するものではなく、監視するために人間たちによって作られたのですよ」
 美琴の後ろに現れたクレーエに、楸は目を見開いた。その言葉にも、トレートル側にクレーエがいる事も信じられないという様子の楸に、クレーエが微笑む。
「その昔、人間と吸血鬼はその支配を賭けて争っていました。沢山の人間が、吸血鬼が死に、いつしか人間は吸血鬼へ停戦を求めてきました。吸血鬼に血を吸われても化け物にならない特異体質の者を捧げる代わりに、普通の人間は襲わないでくれと言って来たのです」
 語って、クレーエはウィリアムの後ろを見た。そこには息の荒い洸耶がいる。
「貴方方花嫁は、人身御供だったのですよ」
「黙りなさい。昔はそうでも今は、花嫁は私達吸血鬼にとって大事なパートナーよ」
 言って、クレーエに襲い掛かったのはルナ(紅雪(fa0607))のサーベルだった。クレーエの胸を貫く。と、クレーエの身体が無数の白い羽根へと変わり、ルナの身体を包む。
「ルナ!」
 洸耶の叫びに、羽根がルナの背後でクレーエを形作る。それにルナが気付いた時、クレーエの掌底によってルナは吹っ飛ばされ、ビルの壁に激突し、地面に落ちる。
「身体が鈍っているようですね。戦いを厭うからそうなるのです」
 その言葉に、ルナへ駆け寄った洸耶がクレーエを睨み付ける。
 と、突然白い霧が立ち込め、美琴が眉を顰めた。それにクレーエがフッと笑うと、霧を貫いてアルベルティーアが飛び出した。赤く細い鋼糸が翻ったかと思うと、それはファントム(ベイル・アスト(fa5757))の銀製の義手に絡めとられる。
「くっ! あんた達‥‥おかしいわ!」
「おかしいのは貴殿らだ。人間は一度、滅びを知った方がいい」
 同時に、飛び掛っていた楸の双剣も美琴に止められている。
「ふざけないで! 人間だって、私たちと同じ命なんだから!」
「そう? 人間は私たちを化け物としか見てないわよ」
 フンと笑う美琴を楸が、鋼糸を引き千切るファントムをアルベルティーアが引き付けると、薄れる霧を裂いてディアンがクレーエの頭上に現れた。驚く美琴とファントムを楸とアルベルティーアが押さえている間に、ディアンの剣がクレーエの首を切り落とす。それに楸が「やった!」と拳を握ると、ルナが叫んだ。
「駄目よ、ディアン!」
 クレーエの首がにやりと笑うと、身体が白い羽根へと変わり、首に集まっていく。目の前で再生される身体に、ディアンが目を見開く。
「ど、どういう事!?」
「これを見て」
 言って、ルナは畳んでポケットに入れていた一枚のプリントを広げて見せた。
「アンバサッド‥‥吸血鬼監視組織の設立時に反対し、処刑されたグループのリストよ。グループの名前はイノヴェルチ、リーダーはクロウ・イルバヌス‥‥クレーエ・フォン・アーベントロードの本当の名前‥‥いえ、生前の名前と言った方がいいのかしら」
 その言葉に、仲間が息を飲み、クレーエが微笑む。
「死んだ筈なのに、今ここに存在している貴方は、一体何者なの?」
 パン、パンとゆっくりとした拍手の音が響く。その音の主であるクレーエはルナへ感心するような笑みを向けた。
「素晴らしい。流石フェルナ嬢。天国にいるお父上もさぞお喜びになっておられるでしょう」
「‥‥貴方、まさか」
「ええ‥‥協力を跳ね除けたばかりか、私の邪魔をもし始めたので舞台から退場して頂きました。あの方も貴女が生まれる以前は人間を見下しておいででしたのに、娘が人間を信じるなら親も信じねばならないとか貴族吸血鬼にあるまじきお人好しな発言をなされましてね。ああ、長老も似たような事を仰っておりましたよ。弱者と強者が共存など、出来るはずがないのに」
「長老を殺したのはあんただったのね!」
「まさに人間の想像する吸血鬼像、だな」
 楸が叫ぶ中、ルナが放心したようにがくりと膝をつき、洸耶が憎憎しげにクレーエを睨み付ける。それに、俯き加減だったディアンが呟いた。
「俺‥‥難しいことはよくわからないし、今となっては真実なんてどうだっていいとさえ思えるよ‥‥けど‥‥」
 ディアンがゆっくりと顔を上げ、真っ直ぐクレーエを睨み付ける。
「大切な仲間達を傷つけるヤツは誰であろうと許しはしない。‥‥それがクレーエ様でもだ。戦争なんて馬鹿げたこと、止めさせてやる!」
 ガントレットを構えたディアンがクレーエへ飛び掛る。その拳をファントムが止め、クレーエへちらりと目を向けた。
「卿。ハンター共が集結したようです」
「いい頃合ですね。それでは美琴。逃げ惑う人間達を殺しに行きましょうか」
 その言葉に、ウィリアムがハッとする。その視線の向こうで、クレーエと美琴の姿が掻き消えた。
「ウィル! 行け!」
「で、でも」
「そうよ、行きなさい、ウィル! あんた警察でしょ! 警察は市民を守るのが仕事なんでしょ!」
 ディアンがファントムから距離を置き、その横に楸がつくと、アルベルティーアがウィリアムの手を取った。
「行きましょう。私も手伝うわ。これ以上人間を殺させてたまるもんですか」
「‥‥判った。でもディアン! これだけは言わせて!」
 ウィリアムの声に、ディアンがちらりと目だけで振り返る。
「僕は! どんな事があっても! 君の! 味方だから!」
 その言葉に、ディアンはゆっくりと手を上げると、ぐっと親指を立てた。ウィリアムとアルベルティーアが走り去って行く。
「俺達はアンバサッドへ行こう。所属している花嫁や、味方になる吸血鬼たちもいるだろうから」
「‥‥そうね。デュック・シスに聞きたい事もあるし」
 言って、ルナがクレーエの消えた空を睨み付け、走り出した洸耶を追いかける。その気配を背中に感じ、楸がファントムに不敵な笑みを向けた。
「よし! 戦争阻止作戦、開始!」
 双剣を構えた楸がファントムに迫る。その剣をファントムが義手で受け止め、力を流し、バランスを崩した楸を蹴り付けた。ディアンがガントレットをつけた拳を繰り出し、ファントムがそれを防御している間に体勢を整えた楸が、ファントムの背後から双剣を構える。
「貴殿はなぜ、そこまで人間を信用できる?」
「吸血鬼も人間も同じだからだ!」
「同族を下らない理由で容易く殺す人間など‥‥我々と同じ筈がない。そう‥‥彼女のような人間がいた事こそが稀有だったのだ」
 背後に迫る楸の双剣を飛んで避け、ファントムの銀腕がディアンに手刀を繰り出す。ディアンはそれをガントレットで防御し、楸の横に構える。
「貴方にだって、大切な花嫁がいたんでしょ? どれだけ特異な体質を持っていたとしても花嫁は人間よ。‥‥人間を憎む事は、その花嫁すら憎む事になる」
「吸血鬼にだって、いい奴もいれば悪い奴もいる。人間だってそうだ。でも、悪い所ばかり見てたってしょうがないじゃないか。俺は‥‥俺は、どちらも知っていた上で人間達を信じていたい。だって、そうじゃないと悲し過ぎる」
「‥‥悲しい、か」
 ファントムが銀腕を翻し、ディアンに迫る。ディアンを背後に庇った楸の双剣がそれを受け止め、飛び上がったディアンがファントムを蹴り飛ばす。塵を巻き上げながら地面を滑り、体勢を整えたファントムが銀腕を見下ろした。
「そうだな‥‥彼女が人間共に殺された時、酷く悲しかった。悲しくて、彼女を殺した人間を憎んだ」
「そんな悲しみを沢山産み落とそうとしているクレーエ‥‥クロウに、お前は何とも思わないのか?」
 ディアンの言葉に、ファントムが銀腕の拳を握り、ディアンの間合いを詰める。近距離で繰り出される手刀をガントレットで防ぎつつ、ディアンが叫んだ。
「悲しいから、憎いから、自分の都合だけで他人の命を奪っていい筈がないだろ! そんなの、お前が憎んでる奴らと同じじゃないか!」
 繰り出される銀の手刀をディアンの左手が掴んだ。ジュッという音と共に、ディアンの手から煙が上がる。楸がハッとした顔をし、ディアンの右拳がファントムの顔を殴った。
 ファントムの身体が吹っ飛び、瓦礫に突っ込む。唇の端が切れ、滲む血もそのままに、ファントムは空を見上げる。
「私は‥‥」
 ファントムはそのまま、動かなかった。

●街
 悲鳴が飛び交い、人々が逃げ回っている。軍隊らしき人間が襲い来るサクリフィスや吸血鬼を銃で撃っているが、あまり効果はない。だが、その中に入り混じるヴァンパイアハンターによる攻撃は確かに効いていた。
 そこに霧が立ち込める。白い霧が広範囲でサクリフィスや吸血鬼を包むと、動きが止まった。赤と銀、二色の鋼糸が翻り、サクリフィスや吸血鬼を切り刻んでいく。そこにいたのはアルベルティーアとウィリアムだった。
「吸血鬼が何をしに」
「彼女は味方です! 吸血鬼の中にも、味方はいるんです!」
 アルベルティーアを睨み付けるハンター達に、ウィリアムが叫ぶ。
「邪魔なのよ、貴方達」
 美琴の短剣が迫り、アルベルティーアが咄嗟に飛び退った。追って、銀色の光が翻る。それを紙一重で避け、アルベルティーアが応戦する。
 その間、ウィリアムは遅い来るサクリフィスをハンターと協力して倒していた。しかし次々とやって来るサクリフィスに、次第に押され気味になる。
「ちょ、ちょっと、これは、厳しいよ」
 ゼイゼイと荒い息のウィリアムが呟くと、サクリフィスが襲い掛かってきた。眼前に迫る爪にウィリアムが思わず目を閉じると、切断音と共にサクリフィスの首が飛んだ。驚くウィリアムの前で、サクリフィスが次々と吸血鬼達に倒されて行く。
「アンバサッドがどうだって知るか! 俺達は今までずっと花嫁に助けられて来たんだ!」
「ティファさん! 援護に来ました! アンバサッドにはルナさんが向かってます!」
 数人の味方吸血鬼が加わった事で、戦況が一転する。それに舌打ちをした美琴に、アルベルティーアは鋼糸を繰り出した。美琴が短剣を投げ付け、鋼糸を弾く。
「うわあ!」
 短剣が、ウィリアムの足元に刺さる。それにハッとしてアルベルティーアが目を反らした一瞬に、美琴の姿はなくなっていた。アルベルティーアが軽く息を吐く。
「ウィル。それ、拾って置いたら?」
「ええっ!?」
「鋼糸だけじゃ、懐に入られたとき対処できないでしょ」
 言われて、ウィリアムが恐る恐る短剣を拾い上げる。慣れない手つきで短剣を構えるウィリアムに、アルベルティーアはサクリフィスへ鋼糸を投げ付けた。


●アンバサッド
 静かだった。外に面した窓を開けて耳を澄ませば、確かに悲鳴が聞こえる筈なのに、密室にそれは届かない。
 ルナと洸耶の目の前で、杖を突いた年配の男と、アジア系の女が立っていた。その足元には3人の男女が絶命している。
「‥‥貴方方も、クロウの仲間だったのですね」
「正確には傀儡、だの」
「儂等はただ、クロウが楽に動けるように生かされておっただけだった。事が終わった以上、死を待つのみ」
「事が、終わった? 始まったのではなく?」
 洸耶が怪訝に目を細めると、年配の男がフッと笑った。
「人間と吸血鬼に戦争を始めさせる。クロウのやりたい事は終わった。後の結果がどうなろうと、奴にはどうでもいいことなのだよ。どちらにしろ、吸血鬼は滅び行く運命なのだから」
「戦争はちょっとした嫌がらせ、と言ったところかのう」
「何処が“ちょっとした”よ! 数え切れない程の死人が出ているのよ!」
 激怒したように叫ぶルナを、洸耶が制する。
「貴方方は、何を知っているんですか」
 その言葉に、年配の男の杖が、カツンと床を叩いた。