吸血鬼の花嫁 fait5アジア・オセアニア

種類 シリーズ
担当 中畑みとも
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 3.6万円
参加人数 8人
サポート 1人
期間 08/10〜08/14
前回のリプレイを見る

●本文

 ――吸血鬼。
 それは長い牙を持ち、その牙で人間の生き血を吸う化け物である。
 不老不死とも蘇った死者とも言われ、見境なしに人間を襲い、血液を奪うと恐れられているが、それは伝説上の存在として一般に伝えられている、かつての吸血鬼像だ。
 現在の吸血鬼は、ある『絶対なる掟』を守り、必要以上に人間の血を求めはしない。なぜなら、それは彼らを生かし、人間との調和を目指すうえで大切な条約だからである。

 そう、彼らは伝説上の存在ではなく、人間の中で、人間と同じように生きている。
『花嫁の掟』という、ただ一つの掟を守りながら。


 ついに最終話です! 皆様、本当に有難う御座いました!



●次回予告
 生き残ったデュック・シスより明かされる秘密。
 クロウの真意と、吸血鬼の未来。
 吸血鬼と人間との戦争の中、クロウと対峙する主人公。
「貴方に断ち切れますか? この滅びの鎖を」
 果たして未来は吸血鬼のものか、人間のものか。それとも…
 戦いが、終わる。


必須配役
 主人公VP:クロウを倒そうとする(1名)
 仲間:主人公を助ける(数名)

連続配役
 人間の刑事:主人公を助ける
 VH幹部:戦争に参加し、人間を守る
 強力なTV:戦争に参加し、人間を襲う

通常配役
 AS・SC:戦争に参加する者、主人公を助ける者、戦争を止めさせようとする者
 吸血鬼:ASに反旗を翻し、人間を襲う(前回仲間役の方でもOKです)

NPC配役
 AS幹部:クロウ・イルバヌス(クレーエ・フォン・アーベントロード)
 背の高い白髪の男。AS上位幹部である『デュック・シス(6人の公爵)』の一人で主人公が尊敬する上司であったが、実はイノヴェルチのリーダーだった。

(仲間はAS所属の有無、吸血鬼・花嫁、関係なく配役可能。ただし一般の人間・VHは不可です)
(必須配役は連続出演可能な方を希望しております。連続配役は前回シリーズでその役をやった方が出る場合、その役でお願い致します。必須ではありません)


●設定
 詳しい設定は『第1話』を参照下さい。

●今回の参加者

 fa0470 橘・月兎(32歳・♂・狼)
 fa0607 紅雪(20歳・♀・猫)
 fa0612 ヴォルフェ(28歳・♂・狼)
 fa0684 日宮狐太郎(10歳・♂・狐)
 fa1521 美森翡翠(11歳・♀・ハムスター)
 fa3366 月 美鈴(28歳・♀・蝙蝠)
 fa5030 ルナティア(17歳・♀・蝙蝠)
 fa5757 ベイル・アスト(17歳・♂・蝙蝠)

●リプレイ本文

●アンバサッド
「吸血鬼は‥‥元は人間だった」
 年配の男が語り出す。その横にアジア系の女が立ち、洸耶(橘・月兎(fa0470))とルナ(紅雪(fa0607))が話を聞いている。
「昔、吸血こうもりに血を吸われ、狂犬病ウィルスに感染した男がいた。狂犬病ウィルスは発病すると致死率100%と言われる強力なウィルスだ。だが、その男は昏睡状態になったにも関わらず、ある日突然目を覚ました」
「そして男は、耐えられない程の喉の渇きを覚え、傍にいたナースの血を吸い取った」
「まさか‥‥」
 年配の男とアジア系の女の話に、ルナが呟く。
「男は病院内の人間を次々と襲い、最後は太陽の光の下に灰となった。襲われた人間は殆どが化け物となったが、血を吸われても無事だった者達が少数存在した。それが、現在の吸血鬼と‥‥花嫁の祖先だ」
 洸耶がハッと息を飲む。
「そして人間は吸血鬼と花嫁を恐れ、隔離し、監視した。それが、アンバサッドの本来の姿だ」


●街
 悲鳴と戦闘音が飛び交う中で、ディアン(日宮狐太郎(fa0684))とアルベルティーア(ルナティア(fa5030))、ウィリアム・ストーカー(森ヶ岡 樹)が戦っているが、戦況は悪い。
「ハンターはサクリフィスを! 頭部を壊せば、動きは止まります! サンクシオンはトレートル消去を優先しなさい!」
 鋭い指示と共に現れたのはセフィリス(月 美鈴(fa3366))だった。後ろでは応援のサンクシオン達が戦っているのを見て、ディアンの表情に喜色が浮かぶ。
「どうやらここが最前線のようね‥‥加勢に来たわ‥‥」
 セフィリスが連れて来た応援のお陰で、確実にサクリフィスの数は減っていた。


●アンバサッド
「クロウの目的は何なんですか?」
 洸耶の問いに、アジア系の女が目を細める。
「今、吸血鬼の数が減少している理由を知っているかえ?」
「吸血鬼ウィルスが弱まっているからだ。人間の血が混ざれば、ウィルスは弱くなる。純粋な吸血鬼など数える程しかいない。近い将来、確実にウィルスは消えてなくなり、吸血鬼は滅びる」
「クロウは滅びを回避する為に‥‥?」
 厳しい視線でアジア系の女と年配の男を睨むルナを横目に見つつ、洸耶が問う。
「いや、この滅びは止める事は出来ないだろう‥‥クロウもそれは判っている。だからこそ問うているのだ。滅びるべきなのは吸血鬼か人間か。戦争を始めたのは、それを確かめるのに最も最悪の手段だからだ」
 年配の男が静かに溜息を吐いた。それにアジア系の女が続ける
「クロウの問いに答える事が出来なければ、この争いは終わらぬよ」


●街
 少しずつではあるが、風向きがディアン達に向き始めていた。
「セフィリスか‥‥面倒だな‥‥」
 呟いたのは、ビルの上にいたロスト(ヴォルフェ(fa0612))だった。その姿がフッと消え、セフィリスの横に現れると、大鎌を作り出した。大鎌がセフィリスの首を斬り飛ばそうとするが、ルナのサーベルに阻まれる。ルナとロストは暫し睨みあうと、どちらともなく飛び込んだ。
 ロストとルナはぶつかっては離れ、お互いの間合いを知り尽くしているかのように戦う。その間に入ってしまったサクリフィスが攻撃のとばっちりを受けて悲鳴を上げる。それにロストが舌打ちして、ルナの懐へ飛び込んだ。
「ここは邪魔が多いな」
 呟いて、ロストは驚くルナの腕を掴んで瞬間移動した。


●野原
 広い野原にルナとロストが現れる。
「ここなら、邪魔が入らない」
 フッと笑うロストに、ルナがサーベルを繰り出した。ロストはそれを後ろへ飛んで避ける。
「随分と動きが鈍ったな‥‥そんな攻撃で俺が倒せると思うのか?」
「倒すわ」
 ロストに、ルナが何かを決意した表情で見返す。それにロストが不敵な笑みを向け、大鎌を構えた。
 ルナがロストへ迫る。振り下ろされる大鎌を避け、ルナがロストの腹部へサーベルを払う。ロストはそれを大鎌の柄で受け、そのまま力を込めてルナを弾き飛ばす。
 弾き飛ばされたルナは受身を取りながらも転がり、ロストの背後へと回る。が、ロストは近づいたルナの腹部へ大鎌の柄を叩き込んだ。衝撃に息を飲むルナの肩口を大鎌が切り裂く。ルナがロストの間合いの外まで下がり、血の滴る肩を抑えた。
 痛みに呻きながら、ルナがロストの腕をがっしりと掴んだ。ロストがハッとするのと同時に、ルナの腕から真っ赤な炎が吹き出る。
「‥‥貴方を止めるにはもう、これしかないの」
 呟いて、ロストをルナが抱きしめると、大鎌がジュッという音を立てて蒸発した。炎は瞬く間に広がり、ルナとロストの身体を包む。
「一緒に逝ってあげる‥‥シリウス‥‥」
 ルナが呟き、目を閉じる。その脳裏に浮かぶのはこちらへ微笑みかける洸耶の姿。
「ごめんね、洸耶‥‥私の最後の我侭を許して‥‥」
 炎が一段と高く燃え上がった。


●洸耶の診療所
 次々と運び込まれる怪我人に、洸耶が慌しく動いている。と、洸耶の手が止まり、ルナの名を呆然と呟いた。


●街
 ディアンがトレートルを殴り飛ばすと、トレートルは数人のサクリフィスを巻き込みながら吹き飛び、ビルに激突する。
「何で邪魔するの!?」
 その様子を瓦礫の上からイライラと見ていたのは美琴(美森翡翠(fa1521))だった。銀色のダーツをディアンへ投げ飛ばすが、一瞬先にその間へと入っていた銀色の腕によって弾き返された。
「‥‥無事か、少年」
「ファントム! 貴方、裏切るの!?」
 腕の持ち主はファントム(ベイル・アスト(fa5757))だった。ファントムを睨み付ける美琴の肩に白い手が置かれる。
「どういうことですか、ファントム」
 現れたのは、クロウ・イルバヌスだった。ファントムがクロウを見上げる。
「今更ながらに気付いたのだ。今の私を見て、彼女がどう思うかを」
「貴方の最愛なる者を殺した、愚劣なる人間を助けるのですか?」
「そんなの、吸血鬼だって同じだ! 吸血鬼だって‥‥沢山の人間を殺して来た! 人間も、吸血鬼も、同じだ!」
 ディアンの叫びに、後ろでナイフを構えていたウィリアムも続く。
「そうだよ! 吸血鬼だからとか人間だからとか、そんなの小さな事で! 喧嘩とか仲直りとか、時間はかかったってどうにかできるんだから! 貴方だって、そういうのも見てきたんじゃないですか!?」
 荒い息で啖呵を切るウィリアムに、ディアンが嬉しそうな目を向ける。
「すぐに人間を信じる事は出来ない。だが今は彼らの言葉を信じようと思う」
「‥‥ならば私は貴方を殺さねばならない」
 クロウが残念そうに呟いて手の平を差し出す。と、その手の平から白い羽が飛び出し、ファントムへ襲い掛かった。
 ファントムが羽根を叩き落す。同時に、駆け出していたクロウがファントムの懐に飛び込み、手刀を繰り出した。それをファントムは身を捻って避け、クロウの腹部へ蹴りを入れる。クロウは後ろへ飛びながら受けてダメージを軽減すると、向かって来たファントムの拳を掴み取った。銀腕の拳を受けたクロウの手から煙が上がる。
「貴方とて『銀腕』の私に無傷で‥‥とは思っていますまい?」
「そうですね」
 クロウがにっこりと笑い、空いている手を翻す。クロウの手刀が、まるで剣のようにファントムの腕を叩き斬った。クロウは銀腕を投げ捨て、焼けた手の平から焦げ付いた羽根を振り落とす。
 ディアンがクロウに飛びかかる。繰り出される拳をクロウは難なく受け止め、ディアンを蹴り上げた。次に、横から飛び出して来たアルベルティーアの銀の短剣をひらりと避ける。
 アルベルティーアと、体勢を整えたディアンがクロウに襲い掛かる。それにクロウは肩を竦め、後ろへ飛んで美琴の元へ戻ろうとする。が、アルベルティーアの霧に阻まれた。
「この霧は、お前を絶対に逃がしたりはしない!」
 霧を貫いて、アルベルティーアの短剣がクロウに迫る。クロウはそれを避け、アルベルティーアの腹部に肘を叩き込んだ。ディアンが頭上からクロウへ拳を振り下ろすが、これも避けられる。
 地面を叩いたディアンの拳から血が流れるが、ディアンは気にせず、クロウへ拳を突き出す。飛び散る血が、ジジッと音を立てて震える。
 ディアンがクロウへラッシュを繰り出す。同時にクロウの背後にアルベルティーアが迫った。クロウが避けようとするが遅く、腰に短剣が突き刺さる。
 クロウは舌打ちし、アルベルティーアを振り払うと、短剣を引き抜いた。バッと白い羽が舞った直後、霧を裂いて飛び出し、クロウの身体を押さえたのはファントムだった。
「うああああ!」
 飛び上がったディアンが拳を振り上げる。ディアンの拳から流れる血が燃え出し、身の丈ほどの炎の大剣を作り出した。ディアンはそれをしっかりと握り締める。
 ディアンの大剣がクロウの頭にめり込み、その身体を真っ二つにした。クロウの身体が、裂かれた部分から次々と白い羽根に変わり、剣の炎に炙られて灰になって行く。
 力を出し切ったファントムがゆっくりと崩れていく。燃えていく白い羽根を見て目を閉じた彼を、強い光を目に宿したディアンが支えた。


●墓場
 一つの墓の前に、洸耶が立っていた。洸耶がジッと墓を見つめる横から、花束が添えられる。見れば、墓を見下ろしているのはアルベルティーアだった。アルベルティーアはルナとシリウスという2つの名が書かれた墓を見て呟いた。
「2人、一緒にしてあげたのね」
「‥‥既に灰になってしまった遺体は‥‥どちらが誰なのか、判らなかったからな‥‥」
 疲れたような洸耶の声に、アルベルティーアが洸耶を見て、そのまま墓へ顔を戻した。そして一つ瞬きをすると、静かにそこを立ち去った。
 洸耶は、アルベルティーアが去った後も、一人、墓の前に立っていた。


●アンバサッド
「本当にもう、頭が痛くなるわ‥‥今は猫の手も借りたいくらい」
 そう言って、セフィリスは持っていた書類をディアンへ渡すと、すたすたと廊下を歩き始めた。ディアンが慌てて追いかける。
「‥‥上層部は全員死亡‥‥だからと言って、なぜ私がアンバサッドを率いる立場にされなきゃいけないのかしら‥‥」
「人手が足りないからじゃない?」
 セフィリスとディアンが話しながら廊下を歩いている間も、次々にやって来た人達から書類を受け取り、いつしかディアンの腕には紙の山が出来ていた。1つの部屋に辿り着くと、ディアンは崩れそうになる書類を慌てて机の上に置く。
「これ、全部?」
「‥‥貴方にも手伝ってもらうわよ。言ったでしょ?‥‥猫の手も借りたいって‥‥」
 その言葉にディアンが嫌そうにだらーっと肩を落とすと、ドアがノックされ、1人の職員がセフィリスへ耳打ちした。それにセフィリスが頷いて、ディアンへ振り返る。
「‥‥ごめんなさい。ちょっと急用が出来たから行って来るわ‥‥」
「えっ!? ちょっ、セフィリス!?」
「大丈夫よ‥‥そのうちティファが来るから‥‥」
 言って、セフィリスは呆然とするディアンを残し、部屋を出て行った。


●森
 暗い森の中に、白いカラスがいる。そのカラスに近づいて来たのはセフィリスだった。
「セフィリスか‥‥何の用かな?」
 カラスから紡がれた声は、クロウのものだった。それに、セフィリスは無表情で答える。
「貴方を封印する為に来たのよ‥‥」
 直後、クロウは己の翼がボトリという音を立てて地面に落ちたのに気づいた。
「‥‥貴方は死人でも、その身体を構成するものは違う‥‥貴方の身体を構成している無数の人間の魂‥‥私の血は、魂ごと生物の存在を消去出来る‥‥」
 そう言うセフィリスの周りに浮かぶのは、小さな血液の粒だった。セフィリスの手首は傷つけられ、流れ出した血が宙へ浮かんでいた。
「君が長老の切り札だったというわけですか‥‥」
 白い羽根に血が染み込めば、ずるりと形が崩れ落ちる。そうして全ての羽根が散ってしまうと、後には白い光が残った。セフィリスが血の滴る手でその光を包み込むと、光は石へと変わった。


●公園
 人気のない公園で、美琴がブランコに乗っていた。
「どうして? アンバサッドは悪者の筈なのに!」
「違うよ、美琴」
 悔しげに叫んだ美琴の頭を、優しく撫ぜたのは黒コートの男性だった。美琴が男性を見上げ、「叔父さん」と呟く。
「悪いのは私達もアンバサッドも一緒だったんだ。アンバサッドはこれから良い方向へ変ろうとするだろう」
 男性の言葉に、美琴がきょとんとした顔で小首を傾げる。
「‥‥美琴、君は外国に行って隠れてなさい」
 男性はしゃがみ込み、美琴との目線を合わせた。
「君はまだ幼い。これから色々な事を学べる‥‥大丈夫、君のお母さんも一緒だから」
 その言葉に、美琴が男性の肩の向こうを見る。そこにいたのは日傘を差した女性だった。男性に促され、美琴が女性の下へ走り出し、その手を取って歩き始めた。


●アンバサッド
「あ、セフィリス! やっと帰って来た!」
 ドアを開けた瞬間、迎えたのは恨めしげなディアンの声だった。奥ではアルベルティーアが書類に埋もれている。
 疲れた表情の2人に、セフィリスがにっこり笑って、1つの小瓶を棚の中に入れた。と、そこに片腕となったファントムが部屋へ入って来る。
「もう怪我はいいのか?」
「義手はまだだが、他に大きな傷はなかったからな」
 その言葉に、ディアンがホッと溜息を吐く。
「貴殿らは、このまま人間と共に暮らすのか?」
「そんなの当然よ。私は人間が好きだから、人間と共存する生き方をやめるつもりはないわ。ディアンもそうでしょう?」
 問いかけられて、ディアンは満面の笑みで答えた。
「当然!」
 棚の中の小瓶には、白い小石が入っていた。