香港山海経1−2アジア・オセアニア
種類 |
シリーズEX
|
担当 |
成瀬丈二
|
芸能 |
2Lv以上
|
獣人 |
2Lv以上
|
難度 |
易しい
|
報酬 |
6.7万円
|
参加人数 |
15人
|
サポート |
0人
|
期間 |
01/06〜01/20
|
前回のリプレイを見る
●本文
「ねえ、ダディ? 主役は良いけど‥‥不満はないし、格好の舞台だけど。どんな服装すればいいの?」
11才のリューキ・王(−・うぉん)が、彼を長男とする、父親のファーナス・王(−・うぉん)に尋ねる。
「とりあえず、破れやすい格好だな──獣人化した時に、問題のない格好だ」
「僕の役名、何になるかな? みんなに任せて大丈夫かな?」
「なーに三人よれば何とやら‥‥というではないか? とりあえず、今度は長期滞留になるな。まあ、就労ビザはWEAから手を回して3ヶ月の待機期間を無視して貰ってだな。 業務内容に関する英語の文書もネットを漁れば、翻訳エンジンのひとつやふたつ見つかるだろう。
とりあえずだな、今回のリハは最初の拳法仙人のぶつかり合いだな。市街での屋台に、バイク、自転車、自家用車何でもありの戦いだ。リハーサル地は400メートル四方。
ごちゃついた空間だ。
まあ、尤も香港の下町を再現しただけだがな。
そして、肝心な事は悪役強化週間だ。
魅力的なライバルキャラが居なければ、話にはならん」
「で、天帝関係ってどうするの?」
リューキが尋ねた。
「なーに、私が倒されるシーンをワンカット入れて、後は、“星の戦争”の如く長く耐え難い状況説明字幕を入れる。観客がポップコーンを食べ終わった直後に、ガツンとアクションを叩き込む。それが最初のアクションシーンだ」
大丈夫、理屈じゃないんだ。
DVDなどを使って、自宅で細かいストーリーを繰り返して、執拗に見ながら追う分にストーリーは破綻していても、劇場で、ポップコーンを頬張りながら見る分には勢いだけで突き進む
それがファーナスの映画論であった。
テイク7スタート。
●リプレイ本文
「かつて、天界一の弓取りと謳われたお前が何故に私を討つ‥‥?」
リーの傍らには名前を知られぬ黄金の竜人、九条・運(fa0378)の姿があった。
ここは天界。
人の世とは写し合わせの世界にして、同時に上方世界である極楽。
しかし、その極楽でもより多くの富を手にしようと戦いは続いていた。
その中、尤も果敢にして、尤も慈悲深いと言われた、ひとりの天の将軍──天将として天帝の覚えもめでたく将来を嘱望されていたカリスマ的存在、リー・ウェンフー(烈飛龍(fa0225))が居た。
だが、彼は身に覚えのない罪を着せられ、弁解の余地もなく突然幽閉。
これは彼の声望を妬んだ別の天将が彼を陥れる為に周到に企まれた罠であった。
天界での全てを失し、彼の宿敵がより高い地位へと登る。
彼を信じ、助け出してくれたかつての部下と共に幽閉先から脱出。
宿敵への復讐の為に力を欲していた彼は天界の片隅に封じられていた五行の『宝玉』に目を付け、それを我がモノにせんとその一つを護る一族に接近。
彼らから信頼を受け、天帝にも連なる一族の娘ファンランを娶り、『宝玉』の在処を掴む。そしてある日、野望の牙を露わにし、急襲を掛けて宝玉の一つを入手。
宝玉により増幅された力を背景に他の『宝玉』を護る一族を次々に襲う。
襲われた一族は最後の手段として、『宝玉』を護り手ごと人界に転生させる。
追跡しようとしたが、彼の野望に気付いた『妻』ファンランによって瀕死の傷を負い、宝玉も奪い返される。身籠もっていた妻は宝玉ごと人界へと落ちていった。
傷が癒えた彼は己の復讐の為に行動を開始する」
そして──。
ここは何処でもなく、何処でもある街──。
強いて言うならば、中国と、イギリスを混濁させた、人々のバイタリティが息づく街。
そこへひとりの少年が現れた。
中性的な面差しの金髪碧眼とアンバランスな、くたびれた武道着は、ボタンの留め金を全て外している。
リューキ・王演じる所のキャラであった。役名はルーロンという。
俳優側からはウォンロンという役名を押す声が多かったが、王監督の独断で、似たような名前が多いので、竜の如しという名前の意味にされたのだ。
「山から出てきたのは初めてだけど、これが街か‥‥」
そこへ美しい黒髪を靡かせて、横合いから突き飛ばされる楊・玲花(fa0642)演じる所のランファがルーロンにぶつかるる。
彼女が飛び出した路地から、上半身に文字に見えない事もないボディペインティングを施した、金髪の若者、今回は名無しのチンピラ、運である。
手に持った鉄パイプが凶悪そうである。
「おい、お前! 見せ物じゃないんだ、とっとと失せな!!」
「大丈夫です。自分の事は自分で出来ます」
ランファはそのまま、体勢を立て直そうとするが、よよと崩れ落ちる。
そのシーンを睨め上げる様に撮影する風羽シン(fa0154)であったが、アクションシーンが始まるという緊張感に思わず唇を湿す。
「男の子はね、そういう風に言われると、何かしてやりたくなっちゃうんだって、父さんが言っていた」
ルーロンがランファを後ろに庇いながら、徒手空拳で立ちはだかる。
「は、坊主がいきがってら」
そこへモリュー役の、もりゅー・べじたぶる(fa1267)がグラサンにだらしないスーツ、そして青々とそり上げたスキンヘッドを照明に晒しながら、運の後から現れる。
「見つけたぜ。早いとこ観念してブツを渡しな」「ブツと聞いては黙っていられないわね」
AAA(fa1761)演じる所の、猿面を被った、謎の人物、トセイが屋根の上から現れ、飛び降りながら空中で一回転すると運に一蹴り食らわせる。
「ランファ、ここは逃げなさいよ──少年、あなたもよ、キャッ☆」
「史上最強のミジンコ相手に、そうは上手く行くかな? どうだ、俺のステップを見切れるか!」
呆気なく、モリューはルーロンに足を引っかけられて、派手に吹き飛ばされる。
自分から、体術を駆使して敢えて3メートルほど吹き飛んだモリューは──。
「クェアプ」
と、一言悲鳴を上げると悶絶した。
そこへ天から降ってくる声。
「ふ、だらしがないな。だが、俺は女を逃がした事はない」
黒のスーツを着込んだ赤毛の水守竜壬(fa0104)演じるホァンヤオが隣に位置する商店の屋根から、トセイと鋭い視線をぶつけ合う。
だが、彼の傍らには茶色の髪を風に嬲らせるままの、チヒロを役名とした森宮・千尋(fa1782)が付き添い、親密さを示すかのように腕を組んでいる。
「ま、まさか! 拳法仙人四天王まで出てくるなんて」
トセイが一瞬狼狽する。
「いや、今日は特別にね──リー様までお越しになられたよ」
銅鑼の鳴る音が響き渡り、四天王を束ねる反逆の天将、リー・ウェンフーが姿を現す。
黒いスーツにマント風に羽織ったコートをなびかせつつ、堂々とした態度で登場。
シンはその一挙手一投足をここぞとばかりに撮りまくる。
魅せる事を主眼に置いて、スローモーション、マルチアングル、決めポーズでのズームイン等、印象付ける様にこれでもかと演出を盛り込む。
悪のカリスマ、それが全て──。
「虫けらどもが──貴様らには、四天王をぶつけるまでもない」
「では、リー様、私の出番は?」
孫・華空(fa1712)が演じる、スン・モーファンが、黒衣に頭の金の輪、そして肩に担う、棍を弄びつつ首魁たるウェンフーに問う。
「そうだな‥‥ひょっとしたら、唯一俺の相手足り得る可能性のある、あの猿面の男、あいつとならやっても敵わんぞ」
「承知」
言うや否や、モーファンは壁を駆け下りる。
白衣に眼鏡姿のフォックス・ウォンこと風光 明媚(fa1500)はその後ろ姿を見送りつつ、自分の配下に指示を出す。
「行け、改造獣仙達!」
「ま゛」
ジャイアント・ベアことザビエール神父(fa2268)が元プロレスラーだった経歴を物語るかの様な、逞しい上半身裸姿に、下半身は黒レザーズボンにブーツで固め。
更にゴッツイ肩パットに連続殺人鬼を思わせる古風なアイスホッケーのゴーリーのホッケーマスク。
しかし、これではザビエルの広言する、目指す所は、子供が思い出しただけで、夜にトイレに行けなくなるような、演技を目指すのは無理であった。
「ぉーほっほっほっほ! ついに、ついに、ついにフォックス様から指示が出たわ、行くわよジャイアント・ベア」
一方、レディ・ポイズンを演じるヴァジュラ・ソーマ(fa1097)は、きついメイクで顔を覆い。合皮のボンテージ衣装に装い、頭上で風切り音を鞭で鳴らす。
「さあさ、とっとと宝玉をお渡しなさい」
ランファに鞭を振り下ろそうとするが、身を挺して庇うルーロン。武道着の背中が破れるかと、思いきや。
その鞭の先端を発止と掴まれていた。美の限界のギリギリ手前までなナイスバディの持ち主、MAKOTO(fa0295)演じるホンファである。
力任せの引き合いになるが、途中で鞭をホンファが放し、レディ・ポイズンは近くの料理店に頭から飛び込む。
店のオーナー役である鉄劉生(fa1738)が中華鍋と中華包丁を持って飛び出してくるが、レディ・ポイズンの異形に押されっぱなし。
「な、何するアルね?」
「ぉーほっほっほっほ、こうするのさ」
言って、リュウセイを抱えて、放り出そうとするが、後ろから、Jを演じる御堂 陣(fa1453)がレディ・ポイズンの膝に、自分の膝を突き込む。
「Jの前で乱暴狼藉は許せないな。それにここのメシは上手いんでな」
言って背中へ、ピストルを続けて撃ち込む。
もちろん、空砲であり、銃声だけが激しく響き渡る。
弾着の痛みに耐えながら、血糊を吐き出すレディ・ポイズン。
一方、ルーロンは何とか、ジャイアント・ベアと互角に渡り合っている。
「ぐぅおおー!」
「何で傷つけ合わないといけないんだ! 手は握り合う為にあって、拳を握る為にあるんじゃないんだ」
だが、知性を剥奪されたジャイアント・ベアの猛攻には避けるので手一杯。
更に運が乱戦に加わってくる。
あえて、攻撃を受けて後ろに自分から吹き飛ぶことでルーロンのダメージは最小限に食い止めているが、長く持ちそうもない。
「君は早く逃げて!」
「でも、傷ついたあなたを置いていく事など出来はしませんわ」
ランファは気丈に振る舞う。
「リー様、いい加減遊びが過ぎるんで、俺も行きますね。見ている方が面倒くさい」
ホァンヤオが上半身のスーツを一動作で脱ぎ捨てると、今まで優男のイメージを作っていた、装飾品が飛び散り、照明に乱反射する。
彼の拳法仙人の真の姿は竜人であった。
「地上に降りたと聞いてたが、ガキのお守りやってるとはね‥‥玉を渡せば見逃してもいいけど? で、どう?」
ホンファは一言の元に断じた。
「その方が楽かも知れない。だが、断る‥‥変化──」
(くっ、火の宝玉さえあれば‥‥拳法仙人の力を引き出せるのに)
言いながらも、ホンファは念じるが、転生の果てに火の宝玉は見失ってしまった。
一方で、半獣化したトセイとモーファンの戦いが続く。ふたりとも塀、壁を自在に走り回りながらの立体的な、目まぐるしい戦いが続く。
伸縮自在の如意棒を操り、間合いを自在に操るモーファンは壁に立ったまま、手首の捻りだけで、トセイを追いつめようとするが、トセイは壁に立ったまま、ヒョウタンから酒を呷り、トリッキーな動きでそれを回避していく。
間合いを取れなくとも、確実に仕留めようとするモーファンであったが、逆に自分の間合いに入り込まれ、手刀を突き立てられようとする! 彼女はその一撃を尻尾で辛うじて巻き止める。
硬直時間は1分に及んだ。
互いに拳法と仙術を極めた者が為しえる極地、拳法仙人への変身、獣人化をその間に行う。
キンシコウをベースとした獣人に姿を変じていくモーファンは正しく悪の孫悟空であった。
そして、変化が終わった次の瞬間。
「足が残っているのよ!」
トセイは不安定な体勢から膝蹴りを浴びせるが、モーファンは指一本で受け止め、更に尻尾でそのままトセイを壁に叩きつける。
「莫迦な‥‥全力の一撃を──?」
「ひょっとして、今のが全力のつもりかな? 老いぼれは駄目ね」
言って如意棒で仮面を弾き飛ばそうとするが、ウェンフーがワイヤーアクションで、空中を渡りながらやってくる。
「老いたな──かつての友が見苦しいぞ」
「あなたは変わらないわね‥‥」
ウェンフーの言葉にトセイは苦しげに返す。
閑話休題。ホンファとJは息の合った即興プレイを見せ、改造獣仙を追いつめるが、後ろからフォックスが流線形のラインで、先端に開口部の無い、銃のようなモノを取り出して、レディ・ポイズンとジャイアント・ベアに向け、光線を浴びせる。
「あーあ。思ったより、30秒もタイムロスしとる、とっとと片付けときな。30秒あれば、ホァンヤオなら女のひとりも口説けるで」
言いながら、人の肉体に獣の野生を兼ね備えた、獣人へと変貌を遂げていくフォックスと、その配下達。
フォックスは名前の通り狐の獣人に、ジャイアント・ベアも熊の獣人に、レディ・ポイズンは牛の獣人へと姿を変じていった。
むくりと立ちあがる改造獣仙達。
それを見ていたホァンヤオも竜を模した獣人へと姿を変えていく。
「ちょっと行くからな、待ってろよ」
「私も行くわよ」
チヒロは裏手の階段を回って、道路へ降り立つ
Jも、ピストルを弾倉が空になるまで撃ち尽くすが、レディ・ポイズンもさしたるダメージはないという風で、反撃の一打を浴びせる。
角に貫かれ弾き飛ばされる。
「んっふふふ‥‥いいわァ、いいわよォ! さあ、もっと良い声で鳴きなさい!」
「こりゃあ拙いなあ。よし、戦術的撤退だ!」
形勢は逆転した。
(壁に辛うじて立っている)トセイに(ワイヤーアクションで浮いている)ウェンフーは引導を渡そうとするが、その零距離からの裏拳を食らいながらも、トセイはショートレンジの肘打ちを直撃させるが、ウェンフーは避けようともしなかった。明らかに相手の間合いを侵している事を知っていてである。
ウェンフーは囁く。
「天帝をも討った、我が究極の一撃受けてみよ、絶奥義──」
「待て!」
清んだ少年の声が響き渡った、ルーロンである。
「それ以上、その人に手を出してみろ、男だったら、受けた恩は命で返すものなんだ!」
「随分と短い命の様だな。それだけの素質があれば、ホァンヤオの片腕も勤まっただろうに」
ウェンフーは後ろも向かずに、トセイに止めを刺そうとする。
飛び込むルーロン。
それよりも早く、ランファが短刀を持って腰だめに突き刺す。
「これ以上は、させません!! 父上の敵!」
短刀はへし折れたが、ランファに一撃浴びせようとした、ウェンフーの動きが一瞬止まる。
「お、お前は?」
黄金に光り輝き、ルーロンとランファの怒りに同調するかのように照らし出した。
「これは“土の宝玉”か!」
打ち合わせ通り、シンはカメラのセッティングを素早く変更して、ルーロンの変身シーンを本来の1分間から、6秒という10倍の早さにして撮影する。
現れたのは青い目を持つ、真っ白な竜人であった。鬣が僅かに金色を帯びているのみ。
衝動に突き動かされるまま口から、白金色の波動を打ち出す。
不敵な笑みを浮かべて、それを振り向きもせず受け止めるウェンフー。
ようやくルーロンに振り返ると、コートを翻し、煤を払うのみ。
そして──。
「‥‥‥‥温いな。その適度の攻撃でこの私を倒せるとでも思っているのか? もう少し楽しめるかと思っていたが、とんだ期待はずれだな。せめて苦しまずに天に送ってやろう──」
そして、大きく身体を開くと、重い、体重を乗せたケリをルーロンに浴びせる。
腕を十字に組んで防御するが、衝撃を吸収しきれず後ろに吹き飛ばされるルーロン。
そこへ派手に鳴らされるクラクションの音。
ミニバンである。
「勝負はついたわ、獣化して甚振るなんてあんた達やりすぎよ!」
チヒロの声が響いた。
運悪く視界外にいたリュウセイは弾き飛ばされるが(もちろん、これはリュウセイの衣装を纏った発泡スチロール)。
運転しているのはチヒロであり、助手席で、彼女に弾倉を入れ替えたピストルを突きつけている、Jである。
後ろには、巻き込まれた人間達が乗っていた。 車で逃走するのを見た
「あ!?」
と、チヒロの存在に気がついたホァンヤオは建物上階から翼を広げ、追跡しようとする。
しかし、交通規則など無視して走っている車に追いつく術はなく、無情に6分が過ぎ、完全にホァンヤオは振り切られる。
「あいつら‥‥チヒロを!」
「全く、拳法仙人を相手にしてこんなミニバン程度で威嚇になると思っているの?」
チヒロが毒づく。
「拳法仙人‥‥を知っているとは‥‥あなた、ただ者ではないわね?」
トセイも息を荒げながら尋ねる。
「私はただのトレジャーハンターよ。オーパーツも仕事の内。因みに表の顔は大学教授よ。だから、世界の裏も表も、両方の事情にも精通しているわけ」
「五行玉って何ですか?」
ルーロンが唐突な展開に驚きつつも尋ねた。
「リー様、あの様な輩、お申しつけ下されれば、拳法仙人の力で一掃できたものを──」
ホァンヤオが膝を突いてウェンフーに訴える。 ウェンフーがコートの残骸を脱ぎ捨て、ホァンヤオに突きつけた。
「これは血! まさか!? まさか、リー様が血を流すなど! 有り得ない」
「捨てておけ。あの程度の実力ならば、いかに宝玉の力を借りようと我らの敵にはならぬ。
今は未だ所在の解らぬ宝玉の在処を探し当てるのが先決だろう。
いずれ、あちらからこちらに宝玉を差し出す為に、のこのことやってくるだろうしな」
「は!」
「という事でリハーサルのラッシュの感想だが?」
と、ファーナス・王が聞けば、一同は悪役強化週間というのに、配下が少々増えただけというのに、首を傾げていた。
「予算の問題もあるが、エキストラを大量に増やすのは獣人を前に打ち出す映画としては、推奨しかねるのでね。WEAと打ち合わせて変身シーンを一連の流れで見せるには、無理があるだろうと判断したのだよ」
シンはそれを聞いて。
「‥‥確かに悪の側には、戦力だけでなく、強さとカリスマって危ない魅力が必要だよなー。さて、取り敢えずハッタリかまして、客を引き付けるとしますかね」
ぼやくシンを余所に、ところで水守くん? と、ファーナスから竜壬に話が振られる。
ホァンヤオに関しての事の様だ。
「日本人はあまり気にしないようだが、中華系では名前の男女の別は結構気にされる」
要はホァンヤオのホァン=凰は鳳凰の女性版なので、女性名なのではないか? 日本版なら突っ込まれないようだが、香港で上映する分には悪く言えば、オカマ扱いされかねない、との指摘である。
「ま、無難な所では鳳凰の鳳、フォンをお勧めするね」
続けてファーナスは。
「後、リーに拾われた身で彼を兄、師と慕っており一方で地上に降りた面々を酷く軽蔑。
負けず嫌いの努力家だが人に見られることを嫌い、表向き軽い性格を演じる。
女好きはそのままだが、実は心に決めた人がいるらしい、との事だが、この3つの設定だが、2時間ない映画の中、どういったエピソードを考えているかね? 逆にエピソードを考えなければ、女好きの実力派でも短い映画ではキャラは立つと思うのだが?」
「考え過ぎか? 悪役強化週間だろう?」
「いや、皆強化されすぎたのだ、ハッタリではなく、バランスの問題だ。映画としての」
「モリューはコミックリリーフとして出るには今回だけでは不足だな。スタッフか俳優かどちらかを選ぶか、両方極めるかを選択した方が良い」
もりゅーは言われて頭を掻く。
「やっぱり、やられ役だけというの問題ですかね?」
「シリーズ化すれば、定番ギャグになる。だが、シリーズ化を前提というのも問題だ」
「悪役は蹴散らされてこそ華だと、思うんですけどね?」
シンは割り込んで。
「あのなー、正義側は単に悪役に勝つだけじゃ駄目なのよ? こんなに強く、華のある相手に、どうやって勝つのかってプロセスが必要な訳。 まー、ぶっちゃけ言っちまうと『ハッタリに、倍のハッタリで返せ』だな。観客の度肝を抜く様なハッタリを如何に出せるかって勝負だぜ」
「じゃあ、ハッタリのあるミジンコを目指します!」
「その意気や良し!」
ファーナスは日の丸扇子を広げた。
「リュウセイは五行の宝玉に関する小ネタ全部とルーロンの辛く耐えがたい特訓シーンを考えてくれ。これはエース君もだがな」
逆にチヒロの方からリクエストがあった。正確には確認であるが。
「運やリュウセイを、跳ねる迫力を増すために、逃走の最初に、後輪を空回りさせ、煙を出したいんだけど?
本当にそれをやると勢いが付きすぎるかもしれないのでタイヤか地面に煙が出やすい細工をして欲しいとスタッフの方に相談してみたんですけど、どうなってます?」
「どうにかなった、CGで処理する、安心したまえ。で、ザビエル君は本気で客を悪夢に陥れたいならば、獣人化してようやくプロ並みという水準の演技力を引き上げるか、自分の演出を変えたまえ。最後にリューキだが」
ファーナスの声に皆の目がリューキへ向く。
「主演俳優なのにキャラが立っていない。次回、本番の撮影でもこれなら、運に主役を代わって貰って、お前はヒロインだ」
淡々とした声であった。
そんなリューキに声をかけるエース。
「ちょっと遅くなっちゃったけど、まずはリューキにお年玉を渡そうかしら?」
年賀袋の中にエースの生写真3枚セットを入れたモノを渡し──。
「少ないけど取っときなさい」
と言いつつ渡すエース。
中身を見て固まるリューキ。
「肌身離さず持っていてくれると嬉しいわ」
「‥‥う、うん。できれば、今度はメールで欲しいな、そうすれば携帯で見られるから──」
「そおう☆ じゃあ、今度は前教えて貰ったアドレスに送るわね」
こうして新年は開けた。だが、冒頭のシーンの撮影本番は香港の正月、旧暦の正月とぶつかる事となる。
長い1年になりそうであった。