香港山海経1−3アジア・オセアニア
種類 |
シリーズEX
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担当 |
成瀬丈二
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
9.9万円
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参加人数 |
15人
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サポート |
0人
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期間 |
01/26〜02/09
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前回のリプレイを見る
●本文
ファーナス・王は関係者への礼是封の準備に余念が無かった。撮影スケジュールの関係上、正月を挟んでの慌ただしいものとなるのだ。
尚、礼是封とは日本で言うお年玉の事であるが、香港の新年の祝いは既婚者から未婚者に与えるモノであり、子供限定ではない。未婚ならば何歳でも貰えるのだ。
また、香港では、宴の席で無礼講というものが無く、酒の席で酔っぱらった人間は、自分をコントロールする能力が欠如していると見なされる。
無論、夜を徹して行われる爆竹、打ち上げ花火の連打も忘れてはならない。
一応、これらは日本の豆まきの様な鬼を退けるという意味合いもあるのだが。
お呼ばれなどしたりしたら、縁起を担いでコイン型のチョコレート等、甘いお菓子を持って行くのも、風習の内。
「さて、リューキ、準備は出来ているぞ?」
「本当に映画でも女装しないと駄目?」
恥じらう様に紅いチャイナドレスを着込んだリューキがファーナスの前に現れる。
はっきり言って似合っていた。
「だって、今年はもう初中だよ」
初中とは要は小学校の上、中学校である。
「今まで出た映画だって、堂々としていたじゃないか? まあ、お前の良きパートナーが、ルーロンのキャラを立たせる素晴らしいアイディアを持ち込んだら話は別だ」
「本当だよね。ボクはみんなを信頼しているから」
「だが、現実は時として非情だ。お前の主演姿がメイキングフィルムの中だけに終わらない様、頭を巡らせる事だな」
ファーナスは言い放つと、ペントハウスから香港の街並みを見下ろした。
カット9スタート。
●リプレイ本文
風羽シン(fa0154)の回すカメラの中で人外の戦いが繰り広げられていた。
黄金の装飾と貴色である黄色に身を包んだ壮年の男と、その男の側近兼護衛を皆葬り去り、尚かつ元主であった壮年の男に牙を剥く、ひとりの傷だらけの青年。特徴的なのは左目の下にある古傷であった。だが、それ以外にも全身の傷がその戦歴を物語っていた。
パイプオルガンの荘厳なカノンが鳴り響く中、虎の獣人と化した天将リー・ウェンフー(烈飛龍(fa0225))の牙が目にも止まらぬ速度でファーナス・王演ずる所の天帝が構えた三叉戟の防御をかいくぐる。
しかし、その一撃は竜人と化した、天帝の尾により払いのけられる。 しかし、黒竜である天帝の尾も只では済まず、鱗ごと肉がえぐり取られる。
空中に飛んだ天帝がウェンフーに問う。
「かつて、天界一の弓取りと謳われたお前が何故に私を討つ‥‥?」
「おそれながら、天帝という座に溺れすぎ、全てを蔑ろにし過ぎた、暗君の末路と思っていただこう。ツケが回ってきたのだ」
言葉を発したのは、その戦いを見守っていた、まだ若い黄金の竜人――土の宝玉の守護者『ガンロン(九条・運(fa0378))』であった。
「この身体に走るは天の秩序を守らんが為についた傷。忠節に冤罪を持って報いるなら天の秩序などまやかしに過ぎぬわ。
ならば、この俺が秩序を立ててやろう。『天』が我を滅ぼそうというのなら、『天』ごと喰らい尽くしてやろう」
言ってウェンフーは壁を蹴って中空に舞う。
「是非も無しか‥‥」
天帝は胸一杯に気を集める。
ウェンフーの大胆な跳び蹴りが首に決まった瞬間、天帝の口から迸る光がウェンフーを打つ。
「むっ!」
しかし、そのまま首に極まった二段蹴りは天帝であった“物”を壁に叩きつける。
竜虎相打ち、立ち上がりしは虎。
「ウェンフー様!」
「ガンロン‥‥さすがは天帝という所か、危うく相打ちに持ち込まれる所であった。しかし、勝ったのは俺だ‥‥しばし、傷を癒やすため、眠りに就かねばならないようだがな」
──ここは天界。
人の世とは写し合わせの世界にして、同時に上方世界である極楽。
しかし、その極楽でもより多くの富を手にしようと戦いは続いていた。
その中、尤も果敢にして、尤も慈悲深いと言われた、ひとりの天の将軍──天将として天帝の覚えもめでたく将来を嘱望されていたカリスマ的存在、ウェンフーが居た。
だが、彼は身に覚えのない罪を着せられ、弁解の余地もなく突然幽閉される。
これは彼の声望を妬んだ別の天将が彼を陥れる為に周到に企んだ罠であった。
天界での全てを失くし、彼の宿敵がより高い地位へと登る。
彼を信じ、助け出してくれたかつての部下と共に幽閉先から脱出。
宿敵への復讐の為に力を欲していた彼は天界の片隅に封じられていた五行の『宝玉』に目を付け、それを我がモノにせんとその一つを護る一族に接近。
彼らから信頼を受け、天帝にも連なる一族の娘ファンランを娶り、『宝玉』の在処を掴む。そしてある日、野望の牙を露わにし、急襲を掛けて宝玉の一つを入手。
宝玉により増幅された力を背景に他の『宝玉』を護る一族を次々に襲う。
襲われた一族は最後の手段として、『宝玉』を護り手ごと人界に転生させる。
追跡しようとしたが、彼の野望に気付いた『妻』ファンランによって瀕死の傷を負い、宝玉も奪い返される。身籠もっていた妻は宝玉ごと人界へと落ちていった。
傷が癒えた彼は己の復讐の為に行動を開始する」
そして──。
シンのディスプレイの中では、西暦2006年1月29日、いや旧正月の香港は爆音と喧噪でごった返していた。
徹底的にカメラワークはリューキを子供として捉え、それを話の展開に従い、大人と対等の目線で覗き込むというものである。
その中を唄い、舞う銀髪の若い女『おのた(fa2802)』の脚を目にして、森宮・千尋(fa1782)の演技指導通り、顔を赤くして転倒する少年がいた、どこぞの深山から出てきたルーロン少年である。
雑踏の最中を歩き回り迷う中、不思議な道観に出くわすルーロン。中国の宗教、道教の実践者、道士の格好である道服を着込んだ女道士(葉月竜緒(fa1679))が、より若い青い道服を着込んだ、フェンレイ(青雷(fa1889))の指示を受けて参拝に来た客の応対に走り回っている。
そこへゼクスト・リヴァン(fa1522)演ずる所の刺客が、上下共に黒の中華服を着込んで、襲いかかってくる。
「はっ!」
「疾ぃ!」
唐突な襲撃にも咄嗟に殺気を感じて、身構えるルーロン。
だが、その横合いからフェンレイが気で操っている直剣がふた振り、飛来してくる。
触れた途端、疾風と雷に巻かれて爆散する刺客。
これはいい絵が撮れましたね、とHDレコーダーを片手にほくそ笑む、フォックス・ウォン(風光 明媚(fa1500))。
「山から出てきたのは初めてだけど、これが街か‥‥思ったより、何でもありなんだな──」
「む、邪悪な気配は消え去ったか! 悪行は許さん! む、あんたは?」
「ルーロン。──今の技、あなたの?」
「見て驚かないとはな? 技ではないが、如何にも俺の道術だ」
言って、足下の焼けこげた符を見て、唸るフェンレイ。
「一体、今の騒ぎはなんでしょう? あれ、道士様‥‥」
チヒロがマグナムボトル片手に慌てて、躍り出る。
「何でもない。さあ、忘れなさい、ちょっと動いたので喉が渇いたな、一杯頂けないか?」
「どうぞどうぞ、ただの水ですけど」
「木気を育むは水気。五行の理に敵っている」
「は、坊主がいきがってら」
そこへモリュー(もりゅー・べじたぶる(fa1267))がグラサンにだらしないスーツ、そして青々とそり上げたスキンヘッドを照明に晒しながら、ウォンの後から現れる。
「見つけたぜ。早いとこ観念してブツを渡しな」
「ブツと聞いては黙っていられないわね」
AAA(fa1761)演じる所の、猿面を被った、謎の人物、トセイが屋根の上から現れ、飛び降りながら空中で一回転するとガンロンその10に一蹴り食らわせる。崩れ落ちるガンロンその10。
「ふたりともここは逃げなさいよ──お嬢さん、あなたの事よ、キャッ☆」
「史上最強のミジンコ相手に、そうは上手く行くかな? どうだ、俺のステップを見切れるか!」
彼等の周囲を超高速で巡り、無数の残像を生み出すモリュー。
しかし、呆気なく、モリューはルーロンに足を引っかけられて、派手に吹き飛ばされる。
自分から、体術を駆使して敢えて3メートルほど吹き飛んだモリューは──。
「クェアプ」
と、一言悲鳴を上げると悶絶した。
そこに含み笑いが響く。
「いやはや。君達の戦いの記録は取らせて貰ったよ、チヒロお芝居はその辺でいいんじゃないかな?」
茂みから現れたフォックス・ウォンが、データは取り終えたとばかりに、目を細めながら立ちあがる。
「まずい‥‥拳法仙人四天王まで出てくるなんて──」
謎の猿人仮面のトセイは焦りを隠せない。
「いやいや、今日はリー様まで出張ってきて貰っているんだ。それと僕の作品をね」
言うと路地の角から無数の少年が現れる。
風体は、黄色を基調にした功夫着に白地に金ラメでバリバリに装飾を施し、それを着て街中歩くのは人として恥ずかしくないのか? と誰しもが思わず問いかけたくなる程悪趣味な長外套。黄色の鞘に収められた双手剣。
ガンロンの中途半端なコピー形態であった。
「しまった気づかなかった」
フェンレイが騒ぐ。
「ねえ、これ一体どうなっているの?」
背中合わせにルーロンも猫足立ちになって身構える。
「どうやら、運命の歯車が噛みあったようね」
トセイは自嘲げに語る。
「絶望するにはまだ早い!」
靴から旗袍、リボンまで赤一色で統一され、巨大な爆乳を揺らしながら、ホンファ(MAKOTO(fa0295))が現れる。既に虎の半獣人姿であった。
「は!」
中国拳法をも取り込んだ空手の形からガンロンその1からその5までを一呼吸で五肢全てを使い薙ぎ払う。
思わず見とれるルーロン。
「何やっているんだ!」
ガンロンその6からその7までを、打ち払いつつ、女性の動きに精彩を欠くルーロン。
一旦は薙ぎ払われ、地面に倒れ伏すガンロンその1からその5。しかし、大地の精を吸い、見る見る内に立ち上がり、ホンファに襲いかかっていく。
次々と払いのけるが、相手も次々と立ち上がってくる。
「土の宝玉の守護者の外法ね! ガンロン、そこまで堕ちたの」
トセイが叫びつつ、その8からその12までを相手取る。
「宝玉さえあれば、獣人変化出来るものを──伝承が正しければ、完全に獣化した者の一撃には耐えきれない筈」
「その程度の相手も録にできないのか? ルーロンよ」
「誰だお前は?」
何も言わず含み笑いを返すだけのウェンフー。
水・蒼遥(fa0501)が代役を演じている、拳法仙人四天王のひとりが頭からすっぽりとローブを被ったままウェンフーに声をかける。
「次は俺も出たい。俺個人としてもあのガキを叩き潰したいからな‥‥」
そんな彼を半ば抑制するかのように、また、半ば煽るかのように片手を上げるウェンフー。
銃声が響いた。J(御堂 陣(fa1453))の放った、一撃である。
しかし、その弾丸はウェンフーの足下に着弾するに留まった。
「莫迦な!? このJが!」
「愚かな──敢えて支配者に弓引こうとは‥‥」
「ならば、答えはこれだ──!」
言って、Jは背中を向け、走り出す。
「逃げるか──恐怖するというのは支配者に対しては正しい反応ではあるな。見逃してやる。どうするルーロン、宝玉の正当なる後継者よ?」
「負けない、戦う──そして勝つ!」
言うとフェンレイの懐の木の宝玉が光り出した。
「やっぱり、守護者としての使命は終わりか? 後継者が現れたのだな」
そして、生まれてこの方、何時も身につけていた宝玉をリューキに放る。
「木の守護者、フェンレイが命ず、正しき後継者に渡り、その力を発せよ、後継者の名はルーロン也!」
ルーロンの影に触れた瞬間、木の宝玉は青い光を放ち、一瞬にして、ルーロン一匹の白竜の獣人へと変貌させていた。
目は青く、鬣が金髪な所に少年の面影を残している。
次の瞬間、吐き出された光の息は全ての命なき者を破壊し尽くした。
むろんガンロン達も全滅である。
「成る程、木気は土気を相克上、滅ぼす配当にある。だがな、それだけでは勝てぬな」
「あなたは一体?」
「リー・ウェンフー」
そこへけたたましいクラクションの音。
Jがピックバンを拝借して、逃走手段に用いたのだ。
「みんな乗れ! 逃げるぞ、このやばい連中から」
運転しているのはチヒロである、あの戦いのヤバサを敏感に感じ取り、咄嗟に河岸を変えたのであった。
「君達の戦い方や技は全て見させてもらったよ。
今日は退かせても貰うが、いずれ君達の前に最強の拳士をお披露目しよう」
と、手を振りながらフォックス・ウォンは語り続けた。さて最強拳士の正体とはいかなる物か?
ウェンフーは宝玉の力を借り、必死の思いで手下に辛勝したルーロンに対しては──。
「天帝の一族に連なる血を持つからどれくらいのモノかと思えば‥‥。
全く喰らい甲斐もない雛鳥だな。あの程度の実力ならば、いかに宝玉の力を借りようと所詮我らの敵にはならぬ。今は未だ所在の解らぬ宝玉の在処を探し当てるのが先決だろうな。
いずれ、あちらからこちらに宝玉を差し出す為にのこのことやってくるだろうしな。
その時にはもう少し喰らい甲斐のあるようになってくれると良いのだがな」
──とウェンフーは意味深な台詞を吐いて周囲の期待を煽るのであった。
トセイの指示の下、バンは市街を抜け、鉄劉生(fa1738)が薪を割っているキャンプ地へと到着。
「トセイ、いい加減酒は止めたらどうだ?」
との声を無視して、トセイは親しげに──。
「よう、確か、ログハウス一軒欲しいっていてたな、前?」
「後は彫像かね」
「よし、この坊主に10日で作らせましょう」
「おい、手配とかは」
「無問題」
こうして、都会の明かりがうっすらと見える中、ルーロンの修行が始まった。一切の重機を用いず、自分自身の身体のみでログハウスを組み立てていく
木材等を一人で担いで運び、それを拳で地中に埋め込む、的な流れで建物を組み立てていく。
その横には巨大な岩石が鎮座してあって、そっちも日々、手刀で削り取られていく。
1日目、斧代わりに手刀で木を切り倒そうと振り回してた、少年の右手の小指側が裂けた。トセイは無視して酒を飲んでいる。
そして、疲れ、眠りこけようとしたルーロンに石を削りだし、完全な球を作り出すよう指示を出す。2日目、左手が裂けた。3日目‥‥4日目‥‥。
最初の内は木を一本倒すのにも時間がかかったルーロンの動きが、段々洗練されていくような流れ。
しかし、その中でも山菜摘みに行った陣がクマに襲われ、深傷を負う。看病したいとルーロンは食い下がるが、トセイはそれを拒否する。
「ルーロン。功夫は一日にして成らず。他事も同じ」
修行最終日に、いつの間にか小さいながらも寺院風の建築物ができあがっているって寸法。
岩石は艶のある球体へと姿を変え、どことなく成長した風貌のルーロンがそれらを背景に夕陽に佇むような風景がトセイの視界には映った。
「ところで、どうしてみんなルーロンって僕の名前を知っているんだ、あの妙な相手まで」
それは──そこまで言ってトセイは言葉を濁した。
そして、一瞬にして迸る闘気。その闘気から無数のトセイが生まれ、全方位、上下左右を搦めた同時攻撃を咬ます。
しかし、ルーロンは空中に巨大な輪を作るように手を動かすと、その攻撃を受け止めた。
「レッスン終了。良くやったわ」
そして陣の敵のクマを覚え立ての八極拳で葬って、陣の為にスタミナメニューを作るのであった。
しかし、陣を傷つけた熊には二頭の子熊がいた。これをどうするかも皆の未来を占う上では大事では無かろうか?
「名前は玉もちに決めてもらって、CG処理をベースに演出処理。
火:コブシに紅の気をまとって目にもとまらない連続攻撃を繰り出す。朱雀の加護
水:頭部に黒の気をまとって、心眼による無敵回避。青龍の加護
木:全身に緑の気をまとって、擬態能力が可能になる。玄武の加護
土:足に黄の気をまとって、ビルの柱をも砕ける蹴りができる。麒麟の加護。
金:全身に白の気をまとって、防御力の強化。白虎の加護。
という事だが、リュウセイ君?
多分九曜占星術辺りを入れたのだろうが──とファーナス。
日本人では五行、八卦、九曜まで入れ混じるのでは、深遠な妖怪小説でも書くので無ければ、訳が判らない。
という事で、木の宝玉は、青の気で、青龍の加護。水の宝玉は玄武の加護という事で済ませて貰った」
事後承諾ですまないが。ファーナスは済まなさそうに語る。
そして撮影が済んだ一同は香港の旧正月へと繰り出していく。
真夜中だというのに爆竹連鎖の音は鳴りやまない。
何でも香港はこの時期が一番冷え込むというのだが‥‥。
スタッフから何だかんだ言って礼是封が集まり、一同の懐を暖かにした。
「独り身じゃないんだよな‥‥」
飛龍は香港の百万ドルの夜景を見ながら独りごちた。
ファーナスの言葉が思い出される。
「次回は香港のランドマークで宝石の博覧会に出された、シャイニングルビーと銘打たれたシロ物が、実は火の宝玉という事で、その争奪戦となる。その為のミーティングを東京で行いたいので、皆宜しく頼む。
「送れたら素敵だな」
だが、肝心のルーロン少年に相応しい、ヒロイン役が決まっていないのも事実だ。
さあ、第2幕が『彼女』の出演シーンとなるだろか? ファーナス監督はいっそ一人二役でなどと言っているが、どこまで本気なのか判らない。
「似合ってて本人が微妙に嫌がってる女装って、傍から観てるネタとしては物凄く美味しいから温存しておく事に一票」
「結構鬼畜ね」
エースがさり気なく、運の言葉に棘を刺す。
「そうか、あ、もりゅー、例の返答だけど」
「先生! 俺に悪の極意を教えてください」
直球一直線で飛びかかってくるもりゅーに対し運の言葉は、主役を輝かせるための闇。
「やっぱりそうなる‥‥。俳優としてやっていくからには禅問答みたいなものがあってもおかしくはないとは‥‥。そう言っても、せっかく仕事貰ったんだー、俺はもっと俳優を極めるぞー」
ともあれ、リューキは努力家、女に弱いという弱点が付与されたのであった。
マコトからリューキ君へのアドバイスは特に無し。
「本編の修行の一つに発剄の向上訓練として八極拳の套路使うから形だけでも套路覚えといてね〜〜って位
それとは別に質問が一つ
何か武術やってる?」
「飛び道具以外の中華系は一通りやってるよ」
「ふーん、それなら‥‥いいか」
陣はそんな彼に──。
(さて、リューキに女装をさせておくわけにもいかない。
男は男らしくあるべきだ‥‥って、考え方が古いか?でも女装は無いだろ)。
「リューキ、心配するな。今のお前を大きく変える事は出来ないが、映画の中でのルーロンを急成長させる事は出来る。それが、ハッタリと言うやつだ」
「ダディの好きそうな理論だね」
「そうだな。だが、それを通じてお前も強くなれる」
お竜は今にもテーブルを転倒させそうな、アンクルをリューキの為に示す。
「あの? これ?」
「日本の風習のお年玉という奴や、良く鍛えておく事ですわ」
閑話休題、リュウセイは──。
「いや〜、香港でこれを迎えれるなんていいなぁ。芸能人最高!!」
と、仕事も終えてはしゃぎまくる。
一方、シリアスなエースは──。
「アタシはリューキには、『ファーナスの息子』で終わって欲しくないと思ってるの。
少年が不意に見せる大人の男の側面。そんなハッとするような主人公をリューキには期待したいわ」
と、赤く塗られたアルミ箔を剥がしつつ、リューキと向かい合うのであった。
「大人か‥‥いつからが大人なんだろう?」
リューキはそう呟いた。
チャイナドレス姿のチヒロが囁く。
「もうすぐバレンタインね、香港でもやり方は違っても盛り上がるんでしょう?」
「いえ、そうでもありませんよ。ネットを見ている限り」
「そう‥‥リューキ君は気になる女の子って居るのかな?」
と、微笑を浮かべるチヒロ。
でも、自分の中の何かを探している風情であった。顔が紅潮する。
「今の感情を忘れないで、この気持ちを演じるの」
最後はみんなで貰ったコイン型チョコレート(冷蔵しておいたのだ)を税関を潜る前に食べようと必死になっている。
虫歯はともあれ、甘味で太らないかが大事であった。
これが撮影の顛末である。