香港山海経2−2アジア・オセアニア

種類 シリーズEX
担当 成瀬丈二
芸能 3Lv以上
獣人 3Lv以上
難度 やや難
報酬 9.9万円
参加人数 13人
サポート 0人
期間 03/20〜03/24
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●本文

 ファーナス・王(ファーナス・ウォン)は悩んでいた。
 さすがにみな忘れているだろうが、彼は映画以外の場面では謹厳実直な父親であり獣人なのである。
(本当にこのまま息子を主役の上に、ひとり二役の男女役をやらせていいのだろうか?)
 監督としてやっている時はノリと勢いだけで動いているが、アルコールが入って思考がある程度、活発になると物思いに耽る事もある。
 だが、公言したことを今から卓袱台を返す方法はない。何しろ代案が無いのだ。
 とにかく、今はリハーサルに専念しないと。
 デパートでのシャイニングルピーの争奪戦。手はずは決まっており、あとはいつもの面子を集めて撮って、再ミーティングの上、本番に移るだけ。
 あくまでリハーサルであり、本番ではない。使えるカットがあったら、そのまま流用するが、代理人などが来られても正直困惑するだけである。どう、打ち合わせられても結局当人ではないのだから。
「だが、役者とスタッフに現場の空気を感じてもらうにはやむを得ない」
 ファーナス・王は決断した。
 カット14スタート。

●今回の参加者

 fa0104 水守竜壬(24歳・♂・竜)
 fa0154 風羽シン(27歳・♂・鷹)
 fa0225 烈飛龍(38歳・♂・虎)
 fa0295 MAKOTO(17歳・♀・虎)
 fa0378 九条・運(17歳・♂・竜)
 fa0642 楊・玲花(19歳・♀・猫)
 fa1267 もりゅー・べじたぶる(27歳・♂・パンダ)
 fa1453 御堂 陣(24歳・♂・鷹)
 fa1738 鉄劉生(25歳・♂・虎)
 fa1761 AAA(35歳・♂・猿)
 fa1782 森宮・千尋(22歳・♀・狐)
 fa1889 青雷(17歳・♂・竜)
 fa2997 咲夜(15歳・♀・竜)

●リプレイ本文

 森宮・千尋(fa1782)演じる所のチヒロの声が大学の講義室に響き渡る。
「はい、今日の講義はここまで。レポートの提出は再来週までなのを忘れないでよ」
 チヒロの表の顔は大学教授にして、裏の顔はトレジャーハンター。
 とはいえ、表の顔の大学教授も、講習の面白さや、容姿の華やかさも手伝い、人気と信頼を集めるものであった。
 外見が22才にしか見えず、教え子の大学生達に親近感を及ぼし、実年齢の20代でのこの地位は裏で得た現金の賜物である。
 そんな彼女も、あの衝撃の裏切りの日々から始まった、宝玉探索に行詰り、教授部屋で頭を抱えるが同僚の鉄劉生(fa1738)の誘いで都心のデパートで開催されている古代の宝石の博覧会へ向かっていた。
 そこの目玉の陳列物300カラットの見事なルビー、シャイニングルビーの事は前から知っていたが、リュウセイと実物を見て宝玉ではと疑いAAA(fa1761)演じるところの謎の猿面の賢者。トセイに携帯電話で連絡をする。
「あの俺は?」
「ご免なさい。アポイントメントがあるの。食事はまた今度ね」
 リュウセイを置き去りにして愛車を運転しながら、携帯電話に耳を傾ける。
「トセイ? チヒロよ。そう、噂のシャイニングルビー、どうやら本物の火の宝玉みたいなの。確認したいんだけど木の宝玉を持った仲間と来てくれない?」
「判ったわ。じゃあルーロン(リューキ・王(fz0001))と、フェンレイ(青雷(fa1889))を連れて行くわ。本物なら四天王より早く、確保しないと」
「じゃあ、出来るだけ早く、合流するわね── ところで、トセイ、疑問があるんだけど?」
「何?」
「あなた、どうやって携帯電話の身元照会したの? 疑問に思うんだけど」
「‥‥あのね、世の中にはみっつくらい知らなくても幸せに生きられる事があるのよ、これがそのひとつ、のこりふたつは自分で見つけなさい‥‥ゴホッゴホッ── 」
「トセイ! 大丈夫なの、ねえ!」
「ただの花粉症よ── 気にする事ないわ」
「良い医者、紹介できるわよ── こう見えても大学教授なんてやっているせいで顔は広いんだから」
「大丈夫、自分の事は自分が一番把握しているわ、じゃあ、また後で」
 電話を切ったところでフェンレイが立ちつくすのにトセイは気づいた。
 周囲は吐血で真紅に染まっている。
「火気の乱れを感じたのですが── 」
 フェンレイが奉じる、五行説に於いては、火は五労ならば血に配当し、位置なら南、色なら赤に相当する。
 さすがに道士だけあって敏感に感じたのだろう。
「ルーロンには言わないで── 知ったら、あの子、悲しむし。あたしを戦いに行かせまいとするわ」
 フェンレイは無言で懐から、青い呪符を取り出すと── 。
「木気の力が籠もっている呪符です。五行では、木気から火気が生じるとされています。トセイさんの足りなくなった火気を補ってくれるでしょう」
「すまないわ── 、ところで木の宝玉を持ってデパートまでルーロンと一緒に行かない? チヒロちゃんから連絡が有って、どうやら、火の宝玉が見つかったみたいなのよ」
 そこでルーロンの元を訪れるトセイ、先ほどまでのやつれようはひた隠しにしている。
「どう? 功夫は積んでる? ちょっとチヒロちゃんから情報が入ってね、火の宝玉らしい宝石が見つかったの。そこで確かめに行くのだけれど、行かない? いえ── 行かないと、きっと後悔するわ」
「そこまでトセイさんが言うなら」
 ルーロンがトセイに向き直る。
「いい表情(カオ)してるわね、そうあなたは自分の運命と闘わなくてはならないのだから── 」
「あ、ルーロン。女難の相が出ている、気をつけた方がいいよ」
 フェンレイが場を和ますかの様に、笑いながら、ルーロンの顔を見る。
「女難? ── チヒロさんの事かな?」

 チヒロと合流し、デパートの展示会に再び入り込もうとする面々であったが、トセイの前に警備員が立ちはだかる。
「失礼ですが、不審ですので、その面を外して頂きたい」
 トセイは頭を掻きながら、ここで無関係な人間を巻き込むのも問題だが、かといって仮面の中を見られたくないという計算もあって、警備員に大人しく連れられていく。
「確かに山中から出てきたばかりの男の子に、道士というのはちょっと目立つわね、服の一式位見立ててあげるから、シャイニングルビーの確認の前にショッピングね♪」
 尚、道士には籠もって常時、修行を積んでいる、いわばフルタイムの道士と、冠婚葬祭が有った時のみ道服を纏い祭事を行う、パートタイマー的道士に分けられるが、どちらにしろデパートには道服は目立つ。
 小一時間、チヒロは(若いツバメを囲うってこんな気分かしら── それにはちょっとふたりとも幼すぎるけどね)などとプチマダム気分に浸り、上から下までふたりの衣装を都心に居ても目立たないレベルにまで落とした。
「へへーっ田舎者」
 咲夜(fa2997)演じるところのリンホァンが古い服をどうしたモノか、迷っているルーロンに声をかける。
 ダブダブのジャケットに、七分丈のジーンズにスニーカー。頭には野球帽を被っている。
「た、確かに田舎者だけどさ、それの何が悪いのさ」
 悪童っぽい表情を浮かべるリンホァン。
「そういう所が田舎者の悪ささ── だいたい」
「失礼でしょう、止めなさい、リン」
 楊・玲花(fa0642)演ずる所のランファが、しっとりとした黒髪と、高貴な印象を与えるチャイナドレスに身を包んで現れた。
「私はランファと申します。あなた方と同じくシャイニングルビー目当てかと思われますけど、私達も目標は同じです。最後まで同じ道は歩む事は有りませんが、あの叛逆者を討つためなら── 手を取り合って、少なくともお互いの道が分かれるまでは進んでいけるのではないでしょうか?」
 ランファが高貴な物言いで3人に宣言する。
「お前ら姫様の前で何やってるんだ、頭を下げないか!」
 リンホァンが手を上げる。
「お止めなさい── リン」
「は、はい」
「結構、奥深くまで知っているようね── 宝玉の関係者?」
「復讐者と言った方がいいかもしれないわ── 今は」
「ウェンフー相手に!?」
 ランファの言葉に、ルーロンはあの猛々しい男を思い出して喘いだ。
「みだりに名前を口にするのは感心しませんが、そういう事です」
「ならば、手を組める。戦力は少しでも欲しいのよ、きっとトセイもそう言うわ」
「トセイ‥‥── 懐かしい名前を」
「姫様の為に戦えるのだから、光栄に思えよ」
 リンホァンが煽る。
「ただ、復讐の為に生きる‥‥それが正しい事とは思えない」
 ルーロンの言葉にランファは儚げな笑みを浮かべる。
「トセイにあったら、よろしく‥‥と伝えておきなさい。リン、行くわよ」
 ふたりは静かに去っていった。
 ふたりの後ろ姿を見送りながらフェンレイは胸の内で呟いていた。
(もう、他の宝玉を発見したのか‥‥共振していた気がする?)
 そして、数多の豪奢の宝石の中にあって尚、一際輝く大粒の紅玉“シャイニングルビー”の姿を一同は眼にした。
 そして、自分の手の中で震えている“木の宝玉”に、フェンレイは確信した。これは“火の宝玉”だと。
「どう、本物?」
 チヒロが悪戯めいた表情で訪ねる。
「はい、本物です」
「じゃあ、善は急げというからね、トセイと合流しだい入手の手筈を整えないと」
 肝心のトセイはチヒロの車の前で待っていた。
「適当に撒いてきたのよ」
 早速、チヒロは警備情報を裏から仕入れ── 無論、タダではない──その夜に仲間と潜入する事に決定する。
 トセイが警備員に連れて行かれた時に覚えた上司の声を完璧に模倣して、人払いをするように誘導した間に、チヒロがセキュリティーシステムを沈黙させ装備万端盗みに入った。
「待っててね宝玉さん、ハンターとしての腕の見せ所よ」
 チヒロの顔付きが変わる
「チヒロさん何だか生き生きしている」
 ルーロンが昼間との豹変ぶりにおどろいていた。しかし、それ以上に一同を驚かせたのは火の宝玉の守護者であるホンファ(MAKOTO(fa0295))の変貌ぶりであった。
 現地に近付くにつれて表情をより、鋭利な刃物の様に研ぎ澄ませて行き
 デパート到着と共に宝玉の共鳴より早く『この感覚!』と最上階にあるシャイニングルビーの元へ駆け出し── シャイニングルビーのケースに触れようとした所で、『‥‥見つけた』と、万感の思いを篭め眺める。
「余程思い入れが有ったようね。でもチヒロさんに任せておきなさい」
 チヒロの視界には赤外線ゴーグル越しに複雑に入り組んだ光の網が見て取れる。
 その狭間にマニュピレーターを差し込んでいきながら、確実にセキュリティをつぶすチヒロ。
「これで終わり── ホンファ、もうケースに触っても大丈夫よ」
 しかし、下の方からざわめき出す気配。
 耳をつんざく警報音が鳴り出す。
「この手回しの良さはガンロン(演:九条・運(fa0378))ね、もうトレジャーハンターの美学がわかってないんだから」
「みんな上に逃げて!」
「きみは!」
 唐突に現れたランファと、リンホァンの姿にルーロンは唖然とする。
「あなた方の後ろから入らせて頂きました。拳法仙人達が来ている様です」
 ホンファはその言葉に切り裂くような口調で。
「キミ達はどうでもいい。僕はあの日誓った── 己が全てに代えても、邪なる者に火の宝玉を渡さないと」
「守護者たるものそうで無くては── 」
 ランファは謎めいた笑みを浮かべる。
 下にいる黄金竜人の集団── 。
 警報に驚いて戻ってきた警備員の集団に対し、向かう腕は引き抜き、逃げる足はもぎ取り、振り回しては脳天をかち割りと、非人間的な所業に耽りつつ、続々と上に上がってくる。
「ホンファ、せめて宝玉を── 」
 チヒロが叫ぶが、ホンファは吹き抜けの階段を飛び降りつつ、無数の敵に飛びかかっていく。
「こうなったら── 」
 ケースをたたき壊すチヒロ。
「熱い!」
 シャイニングルビー、いや火の宝玉に手をさしのべたチヒロの手は、黄金の獣毛に包まれていく。
「獣! 私も獣になるの?」
 金毛に半ば覆われた、狐へと変貌していく。
「ふふふふ、そうで無くては戦い甲斐がないというもの── 逃すか! どこまでも追ってやる」
「誰だ!」
 御堂 陣(fa1453)演じる所のJが振り向くと、そこにはスキンヘッドにサングラス、黒スーツに黒河の靴と漆黒を身に纏った、もりゅー・べじたぶる(fa1267)演じるところのモリューがいた。
「史上最強のミジンコ── 」
 Jが銃弾を情け容赦なく浴びせる。弾着が派手に光り── 。
「お前の動きなど手に取るようにわか‥‥クエァプ!」
 そのまま、階段落ちスタート。ガンロンの群れの中へと落ち込んでいく。
「ち、キリがない!」
 倒れても倒れても立ち上がってくるガンロンの群れの中、ホンファが焦っていると、チヒロが上から宝玉を落とす。
 その赤い光に包まれると、ホンファは金色に黒縞を墨流しにした虎の獣人へと変化する。
 彼女の拳が一閃するところ、ガンロンの群れはただの土へと帰していった。
「あれなら大丈夫そうね」
 チヒロは言って、一同を屋上へと導く。
「そうかな?」
 給水塔の上に片膝を立てて座り込んだ影は水守竜壬(fa0104)演じるところのヤンルェ。
 獣化した四天王である── もちろん拳法仙人。
「よぅ、お嬢さん。そんなに急いで誰かと待ち合わせかい?」
 と、逃亡経路を塞ぐように給水塔を軽やかに飛び降り、そのままプレッシャーを与えつつ、ヤンルェは改めて口を開く。
「愚かな女だ。拳法仙人の力に目覚めたか? 一時の迷いで裏切らなきゃこんな苦労はしねぇのに」 ルーロンは叫ぶ。
「これはチヒロさん自身が選んだ道だ。それを阻むなら!」
「どうするんだい、坊や‥‥。それと残りの宝珠も既に俺らの手の内だ。今から俺らと戦って奪い取るのか? そいつは分が悪いだろ?
 どうだ? 今ならまだお前だけなら戻ることも出来るぜ? その宝珠を渡してくれるなら、な」
 とやや強引なナンパ風にチヒロを自陣に戻るよう誘いをかける。
 断られるはずがない、といった風な自信たっぷりの表情で。
「ごめんねヤンルェ、恨みより新たな希望を信じたいの」
「それが──‥‥答えか」
 大量のガンロンを裁ききり、体力を消耗したホンファが合流したのを見てヤンルェは。
「小煩いのが出てきたな。悪ぃが俺は振られたばっかですこぶる機嫌が悪い。その宝珠渡すだけじゃ済まねぇから覚悟しろ」
 と一転して、ガラリと表情を真剣に。
 まず、宝珠を受け取ったホンファを狙い。攻撃しては上空退避で相手を翻弄。
「体力莫迦の虎仙に真っ正面から挑む様な莫迦な真似はするか!」
 上下左右、立体の全てを活かした攻撃に命を確実に削られていくホンファ。
 その血飛沫を前にJは叫ぶ。
「火の宝玉よ、俺にも力があれば、一瞬でいい、力を貸してくれ!」
 スライドが開き切るまで銃を撃ちながらの絶叫J。
 次の瞬間、全身を羽毛に包まれ、鷹の頭を持った鳥人が誕生した。
「ち、厄介な」
 弾倉交換しながら空を舞うJを見て、ヤンルェは相手が距離を置きつつタイミングを見て攻撃し即座に離れる。
 その空中戦での経験の差に銃器では限界を感じ、飛びつこうとするJ。
「お遊びはここまでだ」
 銃を捨てて向かってきたら待ってましたとばかりにムエタイをベースとした足技主体の格闘戦に持ち込む。
 Jの死角を狙って、上下左右を生かして回り込んだり、通常横移動での攻撃を縦にシフトしたり空中戦をぎりぎりまで戦い抜く。
 嬲られるJ。
 しかし、最後の瞬間、尻尾に腕を絡ませる事に成功する。
「このまま、離さない!」
「猪口才な!」
「J! 死んじゃ駄目だ!」
 ルーロンの言葉にJは唇の端だけ持ち上げた笑みで返し── 。
「一緒に地獄を見ろ!」
 デパートの壁面の硝子窓を叩きつけるようにしながら、滑走していく。
 月光に乱反射する硝子片が舞い散っていく。
(ヤンルェ‥‥)
 チヒロが涙を流しながら、隣のビルへと飛び移っていく。
 その最中で宝玉の範囲から逃れたのか、獣から人へと星明かりに照らされながらも、姿を変えていく。
「Jーっ!」
「許しを戴き見極めを行っていたが‥‥失望したぞ伝承者」
 ガンロンのオリジナルである四天王が、黄金の翼を広げ、半獣化状態で出現。
「貴様が真に宝玉を使いこなせていれば、誰も死なせる事無く退けられた」
 ルーロンを怒りと失意を篭め見据え── 。
「だが貴様には出来なかった」
 腰の双手剣をガンロンは抜き。
「地上に落ちたとは言え守護者も居た、時有らば自ずと解するかと思っていたのだがな」
 白と黒と金の光に包まれ完全獣化。
「使えないのであれば用は無い」
 青眼の高さで剣を構える。
「冥府への手土産だ! 土の守護者たるこの俺が宝玉の真の力を見せてやる!」
 懐から金と水の宝玉の発する、白と黒の光が渦巻き。
「送ってやるよ!仲間の所にな!!」
 一気呵成に攻め立てようとする。
 しかし、ホンファが立ちはだかる。
「莫迦な! この剣を正面から受けるだと── 素手で」
「ホンファさん勝てるよ、凄いよ!」
 喜ぶルーロンにトセイが一喝する。
「違う、あれは捨て身だ」
「貴様まで続けて死ぬ気か!」
「ヤンルェに受けた傷で動きが残された血はもう少ない。この場は私に任せて早く! 火の宝玉を頼む」
 とルーロンたちを退かせる。
「かつて私は護りきれずに見失った、今度こそ護りきる!」
 ガンロンに挑む!
 幾度斬られても倒れる事無く前進し打撃を放ち続ける。
 爪と鋼の乱打戦。
「何故、倒れぬ! 何故、前へ進む!?」
「信じているから、ルーロンをあいつはただの小竜じゃない!」
 ホンファの爪が胸板を貫いた。
「己、だが、只では死なぬ」
 ガンロンの喉笛を剣が貫く。
 そして最後まで互いに、倒れる事無く逝く。
「ホンファさん‥‥ホンファさん── ホンファさーん!」
 烈飛龍(fa0225)演じる所のウェンフーである。空間を歪ませるエフェクトと共に周囲の者全員にプレッシャーを与えつつ登場してきた。
「くくくく── ! 自らの実力も弁えずに大言壮語をはく未熟者ども。真の恐怖とはいかなるモノかその身を持って味わうがよい!」
「させぬ!」
 トセイが一歩前に出る。しかし、猿面の下からは血を吐き出す。
「トセイさんまで、やめて下さい。そこまでして── 」
 ルーロンが涙を流しながら前に出ようとするが、軽妙な足裁きでトセイは決して前を取らせない。
 しかし、一歩ごとに肺から逆流した血が滴っていく。
「久しぶりね、古き友よ」
「老いぼれたか‥‥トセイ」
「老いるのは天然自然の事。死もまた同じ事。宝玉を得て、何を望む? 天帝を滅ぼし、人々の恨み辛みを背負って生きるが望みか?」
 言いながらもトセイを囲むように四本の光の柱が立ち上る。
 東には青い光。西には白い光。南には赤い光。北には黒い光がそそり立つ。
 そして、トセイ自身からは黄金の光が。
「トセイ、まさかそれは!?」
「滅ぶならば共に──‥‥かつての友の誼だ。ルーロン眼を逸らすな、これぞ拳法仙人究極の奥義! “五行殲龍波!”」
 光の柱は五匹の龍となり、互いに絡みあって、ウェンフーを直撃する!
 まばゆい光が香港の三分の一を染め抜いた。
 だが── 。
 ウェンフーは虎の獣人としての本性を明かし、地面に膝をついていた。
 その身に受ければ、たとえ四天王であろうが命を落としかねないその攻撃をあえて耐えきってみせるウェンフー。
「今の技が真に完成していたのならば、我とてもこの程度では済まなかったものを‥‥最後の最後で運がなかったな、古き友よ。火気の練り込みが完璧ならば五行全属性の攻撃を凌げなかっただろう」
「── 無念」
 力尽きるトセイ。
 しかし、そこへ割り込む影有り。一番厄介に思っていたトセイが倒れて油断したところを、ランファに刺されるウェンフー。
 無表情なまま、突き刺さった短刀を抜き、ランファの顔を見て、少し驚いたように呟くウェンフー。
「‥‥もう一度裏切るのか、ファンラン‥‥。いや── 違うな。あれはそんな目をしていなかった。もっと真っ直ぐな目をしていた‥‥。‥‥我としたところがまだあんな女に囚われるとは‥‥」
と謎の台詞を吐くと、ゆっくりと首を振り、部下達の遺骸をひと睨み炎の柱に変えると、そのまま再び空間を歪めて退場する。
「ルーロン、聞け」
「トセイさん。死んじゃ嫌です!」
「‥‥お坊ちゃんだと思ってたケド‥‥そんな顔も出来るんじゃない‥‥」
「聞くのよ、うごっふ」
「病み疲れたこの身では不可能だったけど、ルーロン、あなたならこの技を完璧なものにすることができる。そして、ウェンフーが最後に呟いたファンランとは母の名だ。ウェンフーは‥‥」
 そこまで言って仮面が割れる。
 その下はは穏やかな笑顔で。大好きな酒を一口飲んでゆっくりと力尽きてゆく。
「ああ、良い生涯だったわ。ルーロン、良く聞くのよ、ウェンフーは── お‥‥」
 トセイはそこまで言って息絶える。
「トセイさーん!!」
 ルーロンは絶叫した。
 フェンレイは周囲に呪符をばらまき、一同をチヒロが準備した逃走手段まで転送した。
「急々如律令── 縮地」
 青い光の中に全てが消え去る。
 そして、ルーロンのモノローグが被さる。
(ボクはもっと強くなりたい── )
「カーット!」
 風羽シン(fa0154)がファーナス・王(fz0002)監督が一応のオッケーを出したのを確認した上で、カメラを止める。
「じゃあ、ダビングするから、各自持ち帰って良く検討するように」
(‥‥まぁ、大将の心配もご尤もだよなー。俺だって、もう誰がどの役やってんだか把握できなくなってるし)
 シンはそう考えながらも、メイキング映像の一環として、メイキングの一環で、各自役名も含めた自己紹介を全員分撮影。

「水守竜壬です。ヤンルェという軟派な四天王やってます。もっと色々やりたかったけど」
「烈飛龍だ。まあ、ウェンフーだ。ボスキャラだな。監督? こいつ本当に倒せるのか?」
「MAKOTO。ホンファやりぬきます。強い女って良いでしょう?」
「九条・運。ガンロンだな。実は一体だけ偽物が‥‥」
「楊・玲花。ランファとファンランやっています。色々あって謎が多いです」
「もりゅー・べじたぶるでーす。モリュウという地上最強のミジンコをやってます。監督? こいつ本当に死ぬの? あ、死なないそうです」
「御堂 陣。ガンナーです。まあ、渋いでしょ」
「鉄劉生、あれ? 名前出ていたっけ? これを撮ってる段階ではチヒロの同僚役です」
「AAAよん。仮面しているから判らないでしょうけど、トセイやっているわ」
「森宮・千尋。まんまでチヒロやっています。どういう風に死ぬのか、楽しみにしててね」
「青雷。フェンレイやってます。モリュウさんと相打ちという噂も出ています」
「咲夜でーす。リンホァンやってます。本当に女の子と判明するのか? 恋の行方は、楽しみにしててくださいね。あ、メイキングから見る人もいないか?」
「ファーナス・王だ。天帝やってました。もう、死んでます。都合悪くなったら復活しようかな?」
「リューキ・王です。ルーロンくんやってるんだ。周りの人のプレッシャーが強いので、呑み込まれないように頑張っていきたいと思ってます。一応、主役だし」
 一通り取り終えたシンは、シリアスな顔になって
「よーし、全員自分の役目はちゃんと把握したな? 皆、芸能人である以上、俺みたいにこの映画だけに関わっちゃいられないってのは理解してるつもりだ。だがな、これからもこの世界でメシ喰っていく以上、一度引き受けた仕事は完遂させようや? でなきゃ後で泣きを見るのは自分なんだからな。自分が貰った役は自分しかできないと心に決めて本番に参加してくれや」
 で、死んだ俳優はどうするばいいんだ?
 の問いにファーナスは笑って。
「最終決戦の時の守護霊役。王道だろう?」