香港山海経2−3アジア・オセアニア

種類 シリーズEX
担当 成瀬丈二
芸能 3Lv以上
獣人 3Lv以上
難度 難しい
報酬 26万円
参加人数 13人
サポート 0人
期間 04/22〜05/06
前回のリプレイを見る

●本文

 2006年、春になって12才の少年、リューキ・王は寛いでいた。
 香港山海経の主演も決まり、前回のリハーサルも仲間に食われっぱなしだったものの、相応の形となったと、自負している。
 だが、しかし。父親の書いた構図の中から一歩も出ていない、そんな気がしてならない。
 それでも、今はヒロイン役の年上の女性が見つかった事で満足するとしよう。少なくともひとり二役で、ラブシーンを演じるよりははるかにましだ。
 しかし、本編での彼女との掛け合いが少ない事にも、リューキは不満足であった。
 そんな彼の元に映画で殺人的なスケジュールを送っている父のファーナス・王からメールが届く。
 作品中盤の本番、ロケハンの撮影許可が出た。もう、日程も各員に送ってある。
 添付されたメールには2週間以上のスケジュールがぎっしり詰まっていた。
「もう、ダド。強引なんだから」
 ピンピンにはねた癖っ毛を押さえつつ、リューキは父への返信メールを打ち返すのであった。
 また、獣人達が夜騒ぐ。
 カット18スタート。

●今回の参加者

 fa0104 水守竜壬(24歳・♂・竜)
 fa0154 風羽シン(27歳・♂・鷹)
 fa0225 烈飛龍(38歳・♂・虎)
 fa0295 MAKOTO(17歳・♀・虎)
 fa0378 九条・運(17歳・♂・竜)
 fa0642 楊・玲花(19歳・♀・猫)
 fa1267 もりゅー・べじたぶる(27歳・♂・パンダ)
 fa1453 御堂 陣(24歳・♂・鷹)
 fa1738 鉄劉生(25歳・♂・虎)
 fa1761 AAA(35歳・♂・猿)
 fa1782 森宮・千尋(22歳・♀・狐)
 fa1889 青雷(17歳・♂・竜)
 fa2997 咲夜(15歳・♀・竜)

●リプレイ本文

 森宮・千尋(fa1782)演じる所のチヒロの声が大学の講義室に響き渡る。
「はい、今日の講義はここまで。レポートの提出は再来週までなのを忘れないでよ」
 チヒロの表の顔は大学教授にして、裏の顔はトレジャーハンター。
 とはいえ、表の顔の大学教授も、講習の面白さや、容姿の華やかさも手伝い、人気と信頼を集めるものであった。
 外見が22才にしか見えず、教え子の大学生達に親近感を及ぼし、実年齢の20代でのこの地位は裏で得た現金の賜物である。
 そんな彼女も、あの衝撃の裏切りの日々から始まった、宝玉探索に行詰り、教授部屋で頭を抱える所にかかる声。
「よっ、ちょうどいいところに。チヒロ、博覧会のペアチケットがはいったんだが。相方がいなくてよ、よければ‥‥あれだ、一緒にいかねぇか?」
「有り難うシェイフェイ」
 同僚である鉄劉生(fa1738)演じる所のリー・シェイフェイの誘いで都心のデパートで開催されている古代の宝石の博覧会へ向かっていた。
 そこの目玉である陳列物300カラットの見事なルビー── シャイニングルビーの事は前から知っていたが、シェイフェイと実物を見て宝玉ではと疑いAAA(fa1761)演じるところの謎の猿面の賢者。トセイに携帯電話で連絡をする。
「あの俺は?」
「ご免なさい。アポイントメントがあるの。食事はまた今度ね」
 シェイフェイを置き去りにして愛車を運転しながら、携帯電話に耳を傾ける。
「トセイ? チヒロよ。そう、噂のシャイニングルビー、どうやら本物の火の宝玉みたいなの。確認したいんだけど木の宝玉を持った仲間と来てくれない?」
「判ったわ。じゃあルーロン(リューキ・王(fz1001))と、フェンレイ(青雷(fa1889))を連れて行くわ。本物なら四天王より早く、確保しないと」
「じゃあ、出来るだけ早く、合流するわね──ところで、トセイ、疑問があるんだけど?」
「何?」
「あなた、どうやって携帯電話の身元照会したの? 疑問に思うんだけど」
「‥‥あのね、世の中にはみっつくらい知らなくても幸せに生きられる事があるのよ、これがそのひとつ、のこりふたつは自分で見つけなさい‥‥ゴホッゴホッ──」
「トセイ! 大丈夫なの、ねえ!」
「ただの花粉症よ──気にする事ないわ」
「良い医者、紹介できるわよ──こう見えても大学教授なんてやっているせいで顔は広いんだから」
「大丈夫、自分の事は自分が一番把握しているわ、じゃあ、また後で」
 電話を切ったところで、部屋に入ってきたフェンレイが立ちつくしているのにトセイは気づいた。
 周囲は吐血で真紅に染まっている。
「火気の乱れを感じたのですが──」
 フェンレイが奉じる、五行説に於いては、火は五労ならば血に配当し、位置なら南、色なら赤に相当する。
 さすがに道士だけあって敏感に感じたのだろう。
「ルーロンには言わないで──知ったら、あの子、悲しむし。あたしを戦いに行かせまいとするわ」
 フェンレイは無言で懐から、青い呪符を取り出すと──。
「木気の力が籠もっている呪符です。五行では、木気から火気が生じるとされています。トセイさんの足りなくなった火気を補ってくれるでしょう」
「すまないわ──、ところで木の宝玉を持ってデパートまでルーロンと一緒に行かない? チヒロちゃんから連絡が有って、どうやら、火の宝玉が見つかったみたいなのよ」
 そこでルーロンの元を訪れるトセイ、先ほどまでのやつれようはひた隠しにしている。
「どう? 功夫は積んでる? ちょっとチヒロちゃんから情報が入ってね、火の宝玉らしい宝石が見つかったの。そこで確かめに行くのだけれど、行かない? いえ──行かないと、きっと後悔するわ」
「そこまでトセイさんが言うなら」
 ルーロンがトセイに向き直る。
「いい表情(カオ)してるわね、そうあなたは自分の運命と闘わなくてはならないのだから──」
「ルーロン、天の定めならお前に運命の出会いが訪れる」
 フェンレイはルーロンの顔を見ると、予め立てておいた八卦の相を告げるのであった。
 チヒロと合流し、デパートの展示会に再び入り込もうとする面々であったが、トセイの前に警備員が立ちはだかる。
「失礼ですが、不審ですので、その面を外して頂きたい」
 トセイは頭を掻きながら、ここで無関係な人間を巻き込むのも問題だが、かといって仮面の中を見られたくないという計算もあって、警備員に大人しく連れられていく。
「確かに山中から出てきたばかりの男の子に、道士というのはちょっと目立つわね、服の一式位見立ててあげるから、シャイニングルビーの確認の前にショッピングね♪」
 尚、道士には籠もって常時、修行を積んでいる、いわばフルタイムの道士と、冠婚葬祭が有った時のみ道服を纏い祭事を行う、パートタイマー的道士に分けられるが、どちらにしろデパートには道服は目立つ。
 小一時間、チヒロは(若いツバメを囲うってこんな気分かしら──それにはちょっとふたりとも幼すぎるけどね)などとプチマダム気分に浸り、上から下までふたりの衣装を都心に居ても目立たないレベルにまで落とした。
「へへーっ田舎者」
 咲夜(fa2997)演じるところのリンホァンが古い服をどうしたモノか、迷っているルーロンに声をかける。
 ダブダブのジャケットに、七分丈のジーンズにスニーカー。頭には野球帽を被っている。
「た、確かに田舎者だけどさ、それの何が悪いのさ」
 悪童っぽい表情を浮かべるリンホァン。
「そういう所が田舎者の悪ささ──だいたい」
「失礼でしょう、止めなさい、リン」
 楊・玲花(fa0642)演ずる所のランファが、しっとりとした黒髪と、高貴な印象を与えるチャイナドレスに身を包んで現れた。
「私はランファと申します。あなた方と同じくシャイニングルビー目当てかと思われますけど、私達も目標は同じです。最後まで同じ道は歩む事は有りませんが、あの叛逆者を討つためなら──手を取り合って、少なくともお互いの道が分かれるまでは進んでいけるのではないでしょうか?」
 ランファが高貴な物言いで3人に宣言する。
「お前ら姫様の前で何やってるんだ、頭を下げないか!」
 リンホァンが手を上げる。
「お止めなさい──リン」
「は、はい」
「結構、奥深くまで知っているようね──宝玉の関係者?」
「復讐者と言った方がいいかもしれないわ──今は」
「ウェンフー相手に!?」
 ランファの言葉に、ルーロンはあの猛々しい男を思い出して喘いだ。
「みだりに名前を口にするのは感心しませんが、そういう事です」
「ならば、手を組める。戦力は少しでも欲しいのよ、きっとトセイもそう言うわ」
「トセイ‥‥──懐かしい名前を」
「姫様の為に戦えるのだから、光栄に思えよ」
 リンホァンが煽る。
「ただ、復讐の為に生きる‥‥それが正しい事とは思えない」
 ルーロンの言葉にランファは儚げな笑みを浮かべる。
「トセイにあったら、よろしく‥‥と伝えておきなさい。リン、行くわよ」
 ふたりは静かに去っていった。
 ふたりの後ろ姿を見送りながらフェンレイは胸の内で呟いていた。
(もう、他の宝玉を発見したのか‥‥共振していた気がする?)
 そして、数多の豪奢の宝石の中にあって尚、一際輝く大粒の紅玉“シャイニングルビー”の姿を一同は眼にした。
 そして、自分の手の中で震えている“木の宝玉”に、フェンレイは確信した。これは“火の宝玉”だと。
「どう、本物?」
 チヒロが悪戯めいた表情で訪ねる。
「はい、本物です」
「じゃあ、善は急げというからね、トセイと合流しだい入手の手筈を整えないと」
 肝心のトセイはチヒロの車の前で待っていた。
「適当に撒いてきたのよ」
 早速、チヒロは警備情報を裏から仕入れ──無論、タダではない──その夜に仲間と潜入する事に決定する。
 フェンレイはデパートの直前で、カジュアルな格好のどこから出てきたのか不思議なくらい大量の数十枚の黄色の呪符を出して見せ。
「呪符も術も用意はできてます、行きましう。」
 と宣言する。
 トセイが警備員に連れて行かれた時に覚えた上司の声を完璧に模倣して、人払いをするように誘導した間に、チヒロがセキュリティーシステムを沈黙させ装備万端盗みに入った。
「待っててね宝玉さん、ハンターとしての腕の見せ所よ」
 チヒロの顔付きが変わる。
「チヒロさん何だか生き生きしている」
 ルーロンが昼間との豹変ぶりにおどろいていた。しかし、それ以上に一同を驚かせたのは火の宝玉の守護者であるホンファ(MAKOTO(fa0295))の変貌ぶりであった。
 現地に近付くにつれて表情を、より鋭利な刃物の様に研ぎ澄ませて行き、デパート到着と共に宝玉の共鳴より早く『この感覚!』と最上階にあるシャイニングルビーの元へ駆け出し──シャイニングルビーのケースに触れようとした所で、『‥‥見つけた』と、万感の思いを篭め眺める。
「余程思い入れが有ったようね。でもチヒロさんに任せておきなさい」
 チヒロの視界には赤外線ゴーグル越しに複雑に入り組んだ光の網が見て取れる。
 その狭間にマニュピレーターを差し込んでいきながら、確実にセキュリティをつぶすチヒロ。
「これで終わり──ホンファ、もうケースに触っても大丈夫よ」
 しかし、下の方からざわめき出す気配。
 耳をつんざく警報音が鳴り出す。
「この手回しの良さはガンロン(演:九条・運(fa0378))ね、もうトレジャーハンターの美学がわかってないんだから」
「みんな上に逃げて!」
「きみは!」
 唐突に現れたランファと、リンホァンの姿にルーロンは唖然とする。
「あなた方の後ろから入らせて頂きました。拳法仙人達が来ている様です」
 ホンファはその言葉に切り裂くような口調で。
「キミ達はどうでもいい。僕はあの日誓った──己が全てに代えても、邪なる者に火の宝玉を渡さないと」
「守護者たるものそうで無くては──」
 ランファは謎めいた笑みを浮かべる。
 下にいる黄金竜人の集団──。
 警報に驚いて戻ってきた警備員の集団に対し、向かう腕は引き抜き、逃げる足はもぎ取り、振り回しては脳天をかち割りと、非人間的な所業に耽りつつ、続々と上に上がってくる。
「ホンファ、せめて宝玉を──」
 チヒロが叫ぶが、ホンファは吹き抜けの階段を飛び降りつつ、無数の敵に飛びかかっていく。
「ボクも!」
 ルーロンが階段を駆け下りようとするところへカットインするひとつの影。
「ランファ様の邪魔だけはするなよ、ルーロン」
 ホァンであった。
「何を!」
 言いながら、互いに背中合わせになってガンロンの群れと戦い出す。
 その乱戦ぶりを見かねたチヒロは──。
「こうなったら──」
 ケースをたたき壊す。
「熱い!」
 シャイニングルビー、いや火の宝玉に手をさしのべたチヒロの手は、黄金の獣毛に包まれていく。
「獣! 私も獣になるの?」
 金毛に半ば覆われた、狐の獣人へと変貌していく。
「ふふふふ、そうで無くては戦い甲斐がないというもの──逃すか! どこまでも追ってやる」
「誰だ!」
 御堂 陣(fa1453)演じる所のJが振り向くと、そこにはスキンヘッドにサングラス、黒スーツに黒革の靴と漆黒のスーツを身に纏った、もりゅー・べじたぶる(fa1267)演じるところのモリューがいた。
「史上最強のミジンコ──」
 最後まで聞く事無く、Jが銃弾を情け容赦なく浴びせる。
「お前の銃口の向きなど手に取るようにわか‥‥クエァプッ!!」
 そのまま、モリューの階段落ちスタート。面白いように転がりながら、ガンロンの群れの中へと落ち込んでいき、整然とした動きに踏みつぶされていく。
「ち、キリがない!」
 倒れても倒れても立ち上がってくるガンロンの群れの中、ホンファが焦っていると、チヒロが上から宝玉を落とす。
 その赤い光に包まれると、ホンファは金色に黒縞を墨流しにした虎の獣人へと変化する。
「火の宝玉よ、我に力を」
 次の瞬間。ホンファの両腕が炎に包まれる。
 熱くはない。ただ、全ての敵対者を焼き滅ぼす破邪の炎だ。
 その彼女の拳が一閃するところ、ガンロンの群れはただの土へと帰していった。
「あれなら大丈夫そうね」
 チヒロは言って、一同を屋上へと導く。
「そうかな?」
 給水塔の上に片膝を立てて座り込んだ影は水守竜壬(fa0104)演じるところのヤンルェ。
 半獣化した四天王である──もちろん拳法仙人。
「よぅ、お嬢さん。そんなに急いで誰かと待ち合わせかい?」
 と、逃亡経路を塞ぐように給水塔を軽やかに飛び降り、そのままプレッシャーを与えつつ、ヤンルェは改めて口を開く。
「愚かな女だ。拳法仙人の力に目覚めたか? 一時の迷いで裏切らなきゃこんな苦労はしねぇのに」
 ルーロンは叫ぶ。
「これはチヒロさん自身が選んだ道だ。それを阻むなら!」
「どうするんだい、坊や‥‥。それと残りの宝珠も既に俺らの手の内だ。今から俺らと戦って奪い取るのか? そいつは分が悪いだろ?
 どうだ? 今ならまだお前だけなら戻ることも出来るぜ? その宝珠を渡してくれるなら、な」
 とやや強引なナンパ風にチヒロを自陣に戻るよう誘いをかける。
 断られるはずがない、といった風な自信たっぷりの表情で。
「ごめんねヤンルェ、恨みより新たな希望を信じたいの」
「それが──‥‥答えか。しかし、フツーならお前の意思も尊重したい。だが、今は事情が違う。‥‥解ってるのか? 人間が宝珠を使えば命を削るんだぞ」
「そんな‥‥信じたくない」
 だが、大量のガンロンを裁ききり、体力を消耗したホンファが合流したのを見てヤンルェは。
「小煩いのが出てきたな。悪ぃが俺は振られたばっかですこぶる機嫌が悪い。その宝珠渡すだけじゃ済まねぇから覚悟しろ」
 と一転して、ガラリと表情を真剣に。
「やつらと一緒にいて、そんな姿になることを繰り返さねばならないなら、俺は力ずくでもお前と、その宝珠を頂いていく」
 まず、ヤンルェは宝珠を受け取ったホンファを狙い、攻撃しては上空退避で相手を翻弄。
「体力莫迦の虎仙に真っ正面から挑む様な莫迦な真似はするか!
 守護者と宝珠なんて最悪の組み合わせに誰が真っ向から突っ込むか。‥‥虎に翼がなくて残念だったな」
「卑怯者!」
「罵倒とはいえ、美人から声をかけられるのは嬉しいな」
 上下左右、立体の全てを活かした攻撃に命を確実に削られていくホンファ。
 響き渡る銃声。
 弾丸がヤンルェの頬をかすめる。流れ落ちる血を、舌で舐め取りつつ。
「やばいな──」
 続けざまに拳銃を撃ち放つJ。
「ホンファ、今の内に退くんだ!」
「遅すぎたよ」
 ヤンルェが笑う。
 ホンファの血飛沫を前にJは叫ぶ。
「火の宝玉よ、俺にも力があれば、一瞬でいい、力を貸してくれ!」
「宝玉よ、Jに力を! 代償は私が支払います。守護者の力と引き替えに!」
 倒れそうになるのをただ気力だけで押さえ込みながらホンファは宝玉に自分の気と、念を送り込む。
 スライドが開き切るまで銃を撃ちながらの絶叫するJ。
 次の瞬間、背中に鷹の翼を持った鳥人が誕生した。
「ち、厄介な」
 弾倉交換しながら空を舞うJを見て、ヤンルェは相手が距離を置きつつタイミングを見て攻撃し即座に離れる。
「高機動に加え、飛び道具か。厄介だな‥‥。この姿は正直醜くて嫌なんだが」
 言って竜人の姿を現すヤンルェ。
 その空中戦での経験の差に銃器では限界を感じ、飛びつこうとするJ。
「お遊びはここまでだ」
 銃を捨てて向かってきた所へ、待ってましたとばかりにムエタイをベースとした足技主体の格闘戦に持ち込む。
 Jの死角を狙って、上下左右を生かして回り込んだり、通常横移動での攻撃を縦にシフトしたり空中戦をぎりぎりまで戦い抜く。
 嬲られるJ。
 しかし、最後の瞬間、尻尾に腕を絡ませる事に成功する。
「このまま、離さない!」
「く!! 誰が野郎と心中なんか‥‥離せ!」
「J! 死んじゃ駄目だ!」
 ルーロンの言葉にJはルーロンにはニヤリと不敵な笑みを向ける。
 逆境でこそニヤリと笑う男の矜持ってやつを見せ付けたれ!
 言葉なんかは── 要らない。
「地獄への道連れが男で悪いが、付き合ってもらうぜ色男!」
 Jはデパートの壁面のヤンルェを硝子窓を叩きつけるようにしながら、滑走していく。
 月光に乱反射する無数の硝子片が舞い散っていく。
(ヤンルェ‥‥)
 チヒロが涙を流しながら、隣のビルへと飛び移っていく。
 その最中で宝玉の範囲から逃れたのか、獣から人へと星明かりに照らされながらも、姿を変えていく。
「Jーっ!」
「許しを戴き見極めを行っていたが‥‥失望したぞ伝承者」
 ガンロンのオリジナルである四天王が、黄金の翼を広げ、半獣化状態で出現。
「貴様が真に宝玉を使いこなせていれば、誰も死なせる事無く退けられた」
 ルーロンを怒りと失意を篭め見据え──。
「だが貴様には出来なかった」
 腰の双手剣をガンロンは抜き。
「地上に落ちたとは言え守護者も居た、時有らば自ずと解するかと思っていたのだがな」
 白と黒と金の光に包まれ完全獣化。
「使えないのであれば用は無い」
 青眼の高さで剣を構える。
「冥府への手土産だ! 土の守護者たるこの俺が宝玉の真の力を見せてやる!」
 懐から金と水の宝玉の発する、白と黒の光が渦巻き。
「送ってやるよ!仲間の所にな!!」
 一気呵成に攻め立てようとする。
 しかし、ホンファが立ちはだかる。
「莫迦な! この剣を正面から受けるだと──素手で」
「ホンファさん勝てるよ、凄いよ!」
 喜ぶルーロンにトセイが一喝する。
「違う、あれは捨て身だ」
「貴様まで続けて死ぬ気か!」
「ヤンルェに受けた傷で残された血はもう少ない。この場は私に任せて早く! 火の宝玉を頼む」
 とルーロンに宝玉を渡し、皆を退かせる。
「自分の本当の求めに願いに純粋であれば宝玉は力を貸してくれる」
 最後にホンファは微笑みながら。
「かつて私は護りきれずに見失った──だが、いまや迷いは微塵も無い! 今度こそ護りきる!」
 言いつつ、ガンロンに挑む!
 剣に幾度斬られても倒れる事無く前進し打撃を放ち続ける。
 ガンロンは何度斬り突き払い撃ち込もうとも倒れぬ相手に焦りを覚え、徐々にだが剣戟の質が疾くされど荒くなってゆく。
「何故倒れぬ、何故動ける、何が貴様を動かす!?。そうか、守護者としての矜持か!」
「違う、信じているから、ルーロンを! あいつはただの小竜じゃない!」
「ホンファさん‥‥ホンファさん──ホンファさーん!」
 爪と鋼の乱打戦。
 徐々に熊歩虎爪の如き動きに変わって行き、自身の絶招へと変じる。
 爆発を伴う震脚から放つ爆炎を纏った頂心肘『抜山蓋世』でガンロンを吹き飛ばす。
 そして彼は炎上しながら吹き飛ばされ、屋上入り口の壁に叩きつけられる。
 が、倒れる事無く踏み留まり全身に土、金、水の順に気を纏い炎を打ち消す。
「見事だ火の守護者、貴様の矜持、とくと見せてもらった──守護者としての矜持、それは我が内にも輝きし誇り。己が宝玉を正しき者に、正しく世界を紡ぐ者に委ねるまで我は散らぬ」
 双手剣で身体を支えながら己の分身たる量産型を消滅させ気を吸収。
 満身創痍の身でルーロン達を討とうとするが──次の瞬間、空間が歪んだ。
「御身が出ずともこの者達は私が!」
「良いガンロン。傷を癒せ」
 と言い放つと、烈飛龍(fa0225)演じる所のウェンフーが、空間の歪みの中から、全員にプレッシャーを与えつつ登場してきた。
 その歪みからガンロンは撤退する。
 そしてウェンフーは。
「くくくく──! 自らの実力も弁えずに大言壮語をはく未熟者ども。真の恐怖とはいかなるモノかその身を持って味わうがよい!」
「させぬ!」
 トセイが一歩前に出る。しかし、猿面の下からは血を吐き出す。
「トセイさんまで、やめて下さい。そこまでして──」
 ルーロンが涙を流しながら前に出ようとするが、軽妙な足裁きでトセイは決して前を取らせない。
 しかし、一歩ごとに肺から逆流した血が滴っていく。
「久しぶりね、古き友よ」
「老いぼれたか‥‥トセイ」
「老いるのは天然自然の事。死もまた同じ事。宝玉を得て、何を望む? 天帝を滅ぼし、人々の恨み辛みを背負って生きるが望みか?」
「何故だと? 我が天帝の背いたのは私心私怨などではない!
 天帝は、天界の守護者である事を怠り、その慢心が佞臣を蔓延らせ、多くの功臣や心あるモノを宮廷より退けた。
 それにより乱れた天界を正す為には誰かが新たな秩序を立てる必要があったのだ。
 新たな秩序を立てる為には多少の犠牲は甘受せねばならない。
 なぜその程度のことが判らぬ!」
 トセイに代わり、ルーロンが叫ぶ。
「判らないよ、天だのなんだのって、眼に見えないものを盾に自分の戦いを正当化しているだけじゃないか」
「青いな──どかぬか」
「ルーロン。もう良いわ。これは私の戦いよ」
 言いながらもトセイを囲むように四本の光の柱が立ち上る。
 東には青い光。西には白い光。南には赤い光。北には黒い光がそそり立つ。
 そして、トセイ自身からは黄金の光が。
「トセイ、まさかそれは!?」
 闘気を膨れあがらせるウェンフー。
 その闘気にフェンレイからもらった呪符がトセイの懐で焼き切れる。
 赤い柱が見る見る内に歪んでいく。
「保ちなさい我が肉体! ウェンフー滅ぶならば共に──‥‥かつての友の誼だ。ルーロン、眼を逸らすな。これぞ拳法仙人究極の奥義! “五行殲龍波!”」
 光の柱は五匹の龍となり、互いに絡みあって、ウェンフーを直撃する!
 まばゆい光が香港の三分の一を染め抜いた。
 だが──。
 ウェンフーは虎の獣人としての本性を明かし、地面に膝をついていた。
 その身に受ければ、たとえ四天王であろうが命を落としかねない攻撃をあえて耐えきってみせるウェンフー。
「今の技が真に完成していたのならば、我とてもこの程度では済まなかったものを‥‥最後の最後で運がなかったな、古き友よ。火気の練り込みが完璧ならば五行全属性の攻撃を凌げなかっただろう」
「──無念」
 力尽きるトセイ。
 しかし、そこへ割り込む影有り。一番厄介に思っていたトセイが倒れて油断したところを、ランファに刺されるウェンフー。
「姫さま!」
 竜の翼と、角を生やしながらホァンが飛び込もうとする。
「竜──人?」
 ルーロンが叫ぶ間もなく、ランファを抱えて、ホァン、いやリンホァンが帰還してくる。
 そして、ルーロンは眼を疑った。今まで身を寄せ合っていたホァンの帽子が角が生えた事に伴い、吹き飛ぶと、つややかな黒髪が夜空を切り取ったのだ。
「え、女の子?」
 びっくりするルーロンにリンホァンは──。
「‥‥‥‥誰も男だなんて言ってないよ。なんだよ、僕が女の子だと何か悪いの?」
 と答えて、体をすり寄せようとする。ちょっとしたスキンシップのつもりだがルーロンは赤面し。
「あ、いや。その」
 一方、その間に無表情なまま、突き刺さった短刀を抜き、リンホァンの腕の中にあるランファの顔を見て、少し驚いたように呟くウェンフー。
「‥‥‥‥もう一度裏切るのか、ファンラン‥‥‥‥。いや、違うな。あれはそんな目をしていなかった。もっと真っ直ぐな目をしていた‥‥‥‥。‥‥‥‥我としたところがまだあんな女に囚われるとは‥‥‥‥」
 と、謎の台詞を吐くと、ゆっくりと首を振り、ヤンルェの遺骸に人差し指を向けると、ひと睨みし、炎の柱に変えて退場する。
「ルーロン、聞け」
 その言葉にリンホァンから体を離し、トセイに覆い被さるルーロン。皆も集まってくる。
「トセイさん。死んじゃ嫌です!」
「‥‥お坊ちゃんだと思ってたケド‥‥そんな顔も出来るんじゃない‥‥聞くのよ、うごっふ。病み疲れたこの身では不可能だったけど、ルーロン、あなたならこの技を完璧なものにすることができる。そして、ウェンフーが最後に呟いたファンランとは母の名だ。ウェンフーは‥‥」
 そこまで言うと猿面が砕け散る。
 その下はは穏やかな笑顔で。大好きな酒を一口飲んでゆっくりと力尽きてゆく。
「ああ、良い生涯だったわ。ルーロン、良く聞くのよ、ウェンフーは──お‥‥」
 トセイはそこまで言って息絶える。
「トセイさーん!!」
 ルーロンは絶叫した。
 背中を向けたまま、フェンレイは周囲に呪符をばらまき、一同をチヒロが準備した逃走手段まで転送した。
「ルーロン。退きましょう。宝玉の最後のひとつを探さないと──」
「うん──判った」
 言って、ルーロンは仮面の破片のひとつを懐に入れる。
 トセイの肉体から小さな魂の欠片が少年のズボンの後ろポケットに入っていく。
「急々如律令──縮地」
 フェンレイの言葉と共に、青い光の中に全てが消え去る。
 そして、ルーロンのモノローグが被さる。
(ボクはもっと強くなりたい──)

 そしてやみわだの中、ウェンフーの呼吸のみが聞こえる。
 ウェンフーは未だに血をにじませている古傷に手を当てながら、一人想いに耽っている所に、仙女姿の亡霊が現れる。
 それを懐かしげに見つめるウェンフー。
「死んで尚、俺を惑わすつもりか、ファンランよ? 思わぬ敵を残したばかりか、今度は小娘に乗り移り、俺を傷つけるとはな。お前になら、我が大義を理解出来ると思っていたのだが‥‥‥‥」
 その問い掛けに悲しそうに何か言いたげに悲しげな微笑みを返す仙女──ファンラン。
 全ては闇の中へと消えていった。

「さあ、リニア編集だ。監督、動けるスタッフ全員借りますよ。こーゆーのは、頭が冷静な時にやったって通り一辺倒なモンしかできねぇからなー。少々ラリってる時の方が面白くなるって」
  と真偽の程が怪しい事を言いながら、風羽シン(fa0154)は撮影で生き残っているスタッフを全員招集をかけると、DVDの編集へと編集室を占拠する。
「しかし、Jの死に際のシーンが取り直しにならず、吹き替えだけで済んで良かった」
 とファーナス・王(fz1002)が呟く。
「あそこのCG、一番金が掛かっているんだよな」
 今までの所ではな──と付け加えるファーン。
「しかし、シンも若い。やはり、若さというのは一番ハッタリに欠かせない要素だからな。イマジネーションと、面の皮の厚さ位大事な要因だ。
 で、だ。
 ラストバトル、決まっているのはリンホァンが土の宝玉の所有者として狙われる事だけだ。あと、最後にルーロンが父親のウェンフーを論破して乗り越えて、後はモリュー以外は全員相打ちになる、事位かな」
 俳優一同に申し渡すのは。今度の集まりは最後の話を決める所から始まる。そしてリハーサル撮影、本番となるだろうと。
 日本に帰った一同を待っていたのはゴールデンウィーク最後の1日だけであった。
 決戦が始まる。