香港山海経3−2アジア・オセアニア

種類 シリーズEX
担当 成瀬丈二
芸能 3Lv以上
獣人 3Lv以上
難度 難しい
報酬 26万円
参加人数 11人
サポート 0人
期間 06/19〜07/03
前回のリプレイを見る

●本文

「あーあ、もう少し身長が欲しいなぁ」
 ファーナス・王がドーパミン大放出しながら、シナリオを詰めていると──どうせ、現場では破棄されるのがお約束ではあるが──リューキ・王がぼやいた。
「何を言う。リューキはもう少し身長が低い方が良いくらいだぞ。そうすれば、昔の衣装を使い回せるじゃないか?」
 驚いたようにファーンが問い返す。
「昔の衣装って‥‥女の子のだよね。じゃなくて身長のバランスの関係上、リンホァンより高い身長が欲しいなぁ‥‥って」
「無理だな」
 ファーンは断言する。
「だって、思春期だよ、反抗期真っ盛りだよ。1週間に1インチ、身長が伸びてもいいじゃない。お父さんのDNAはどこ行ったの?」
「きっと劣性遺伝だったのだろう。まあ、いいではないか。お前は主役デビューを果たし、うちにもガッポガッポと金が入ってくる。次回作を考えないとな。やっぱり、上海山海経あたりか? 転生した面子がまた同じ事を繰り返す。ハッタリは香港山海経の100倍で」
「その理論で行くと、ハッタリはデビュー作から100万倍になっているね」
 1年1作のペースである。
「リューキ──大事な事を言っておくぞ。お前は十分に反抗期だ」
 等というお莫迦な会話をよそにファーンの今年の最高傑作が具現化しようとしている。──カット24スタート。

 映画のリハーサルですが、事実上、これを香港山海経3−3で調整されたものが、本編となります。
 話の筋を追うなら、香港山海経1−3、同2−3を参照してください。同1−2、2−2はあくまでリハーサルですので、本編とは直接の関係はありません。
 最終話となる、3−3は7月に公開予定です。リクエストが多ければショートで打ち上げ会など行うかもしれません。

●今回の参加者

 fa0104 水守竜壬(24歳・♂・竜)
 fa0154 風羽シン(27歳・♂・鷹)
 fa0225 烈飛龍(38歳・♂・虎)
 fa0295 MAKOTO(17歳・♀・虎)
 fa0378 九条・運(17歳・♂・竜)
 fa0642 楊・玲花(19歳・♀・猫)
 fa1267 もりゅー・べじたぶる(27歳・♂・パンダ)
 fa1453 御堂 陣(24歳・♂・鷹)
 fa1761 AAA(35歳・♂・猿)
 fa1889 青雷(17歳・♂・竜)
 fa2997 咲夜(15歳・♀・竜)

●リプレイ本文

「困った。前回の打ち合わせで決めた枢要な面子がやってきていない!」
 ファーナス・王(fz1002)はそう言うと空いたカメラ席に、サングラスに覆われた目を向け、しばし無言でいた。
「どうします‥‥監督!」
「──監督!」
「構わん、俺が打って出る! 撮影開始だ、ハッタリとアドリブで無茶をこなすぞ!」
 暗転。
『香港山海経、C131−T1』
「ルーロン! どうかな? これ?」
 色鮮やかな小間使いが着るような七分丈のズボンのマイクロチャイナに身を包んだ、髪の毛をふたつのお団子に結い上げた、幼いイメージのリンホァン(咲夜(fa2997))がルーロン(リューキ・王(fz1001))の前に姿を現す。
 微妙に覗く脚が健康的である。
「う、うん。似合っているんじゃないかな?」
 ドギマギしながら応えを返すルーロン。
 アルカイックスマイルを湛えながら、後ろから姿を見せるランファ(楊・玲花(fa0642))が深淵の如く、黒く艶やかな長髪を後ろで纏めた格好で──。
「もう、この期に及んで、男装させるのも不憫かと──」
「そ、そうかな?」
「ランファ姫様に失礼な事を!」
 すぐさま鉄拳制裁を加えようとするリンホァンの一撃を難なく掌底で受け止める、ルーロン少年。
 そこでランファは雷に打たれたように立ちつくすと、唇から言葉を漏らし始める。
「ルーロン‥‥‥‥汝の目指すべき場所はポーリンジーにあり。地の守護者と悲しき王、が宿命として立ちはだかるでしょう」
 次の瞬間──糸の切れた操り人形の様に、その場に崩れ伏せるランファ。
「何? 今の?」
 ルーロンがランファを抱え起こしながらリンホァンに尋ねるが、リンホァンが返すには時々、このような心ここにあらず的なことになるらしい。その間の記憶もしっかり残っているそうだが。
「陰陽の乱れがあったようですが!? 何か?」
 道服に着替え直したフェンレイ(青雷(fa1889))が慌てて飛び込んでくる。
 もっとも体格の良い彼がランファを抱え起こそうとするが、その頃にはランファも意識を取り戻す。
「話は追々。ですが、準備の出来次第、あの男を撃つ為、ポーリンジーに向かいましょう」
「お体の方は? 霊媒体質の様ですが」
 フェンレイが尋ねるとランファは謎めいた笑みを浮かべ。
「大丈夫です。ルーロンにはルーロンの、フェンレイにはフェンレイの宿命がある様に、これが私の負うべき宿命です。ご安心を」
「それでも──」
 と、言ってフェンレイは懐から取り出した黄色い呪符をロウソクの火で焙り、灰にすると近くにあった水差しの水に混ぜ、青い液体を作り出す。
「お心遣い、感謝します」
 ランファはリンホァンがコップに注いだ、その液体を一息で飲み干すと。フェンレイに礼を述べる。
「何が待っているか判らないけど、行こうポーリンジーへ」
 ルーロンが断を下すと、フェンレイが懐から、無数の黄色い呪符を取り出して空中に投げる。それは球状に組み合わさり、一同を包み込む。
「縮地──フェンレイが命ず。我らをポーリンジーに速やかに運び給え、急々如律令」
 フェンレイの呪句が終わると一同は、ポーリンジーの夜の中にいた。
 大階段はすっとばし、座している大仏の前である。

「さて──ここから、どうやって探したものか?」
 ルーロンが呟くと同時に、夜空の星が降り注ぐが如く、無数の直剣の雨が一同の上に降り注ぐ。
 呪符を展開し、凌ぐフェンレイ。片端から見切り、見事な体術でさばくルーロン。しかし、リンホァンは──。
「姫様!」
 己の上に覆い被さり、美しい黒髪を血に染め、それでも尚、ランファはリンホァンを守り続けていた。
「‥‥良かった、リン、いえ、リンホァン様を護ることが出来て‥‥」
「いやだよ、そんなの! 大丈夫、きっとフェンレイが──」
 リンホァンの激情に駆られた言葉にランファは儚く微笑み──。
「‥‥お聞き下さい。わたしは天帝の娘などではありません。本当の皇女はリンホァン様、あなたなのです。わたしは宝玉の守護者の生き残りとして、皇女の記憶を封じ、お護りしてきました。
 本来なら、リンホァン様が死するその時まで姿を現すつもりはありませんでした。
 でも、宝玉を見つけ出す為に、ウェンフー一党に狩り立てられた我々は逃げるように各地を転々とするしかなかったのです」
「駄目だ手遅れ──」
 フェンレイが呪符をまさぐるが、ルーロンは一本の剣を懸命にランファの身体から引き抜こうとする。
 そんなルーロンに愛おしげな視線を向けて、ランファは一言。
「‥‥『運命の子』にリンホァン様を託します」
「うぉぉぉぉっ!」
 絶叫するルーロン。ランファ死亡‥‥。
「愁嘆場はそこまでか?」
 月を背景にガンロン(九条・運(fa0378))が宣告する。
 月光に乱反射するは、黄金の鱗。肩の辺りにプロテクターの様に凝り固まった鱗の数々。
 一方、リンホァンは自らの心臓の動悸を止めることが出来なかった。今までとは違う何か、頭の中にあふれ出る懐かしいイメージ。天帝に愛された日々の数々、そして、その脇で微笑むランファ?
「あの時同様にまた生き延びたか、往生際の悪い」
 ガンロンは翼を広げ、天空から大地へと堂々と降り立とうとする。
「土の宝玉──まさか貴様が、その胸中に宿していたとはな、だがこれで合点はいった。『宝玉は強き意思に応じる、それを輝かせたという事は真に認められたのだろう‥‥だが」
 さざ波の様なガンロンの言葉が一転して、激情に駆られ──。
「俺は認めん! 認めない! 認めるものか! あいつ等が掴み取り、俺達が守ろうとした理想郷に、堕落と、怠惰と、腐敗をのさばらせた一族など‥‥‥‥決して認めるものか!!」
 翼を広げ大地に刺さっていた剣を抜き放つ。
「返してもらうぞ! 土の宝玉を! 土の守護者である我が最後の誇りを!」
「父様を裏切り──天界に混乱と破壊をもたらした反逆者の言葉、ただの我が儘じゃないの? ランファ様を討つ理由がそれ? 決して許さない。ルーロン、フェンレイ──これは私の戦い、ランファ様の──仇を討つ為に。だから、決して手を出さないで」
 言いながらもリンホァンの肌を鱗が包み、背中からは皮膜の翼が、腰からは尻尾が、頭からは角が。そして全身を覆っていく竜鱗。
 リンホァンはルーロンと同じく竜人であった。
「許さない!」
「同じ言葉をそっくり返すぞ!」
 ガンロンと間合いを詰めるリンホァン。
 剣と爪が激しく打ち合う。
 土の宝玉がリンホァンの身体をブーストし、目にも止まらぬ速度で、拳を打ち付ける。 ガンロンの剣を一呼吸で両断し、彼に焦りを感じさせる。
「その力──我が手にすべきもの、返してもらおう」
「返してもらうのはこっちよ! ランファ様を返しなさい!」
「所詮、子供か!」
 とはいえ、境内に突き刺さった無数の剣を抜いては折られ、反撃に転じるヒマの無いガンロン。
 しかし、竜人同士の戦いは、経験の蓄積でガンロンに分があった。身を翻すと、空中に舞台を移動する。
 続けて飛び立つリンホァン。
「逃げるつもり!?」
「まさかな──地の守護者として為すべき事をやるまでの事だ」
 そのまま、ガンロンは尻尾で大地に叩きつける様にリンホァンを打ち据える。
 バランスを崩して、大地に伏せるリンホァン。
「もらったぞ!」
 そのままガンロンはリンホァンの、のど頸を掴むと、片手で宙づりにする。
「所詮は腑抜けた一族この程度だったな」
「父上の事を莫迦にするなんて──」
「敗者の弁を聞いている時間はない。何しろルーロン、奴を相手にせねばならないのでな。ウェンフー様から認められた相手だ。殺し甲斐がある、こんな小娘とは違ってな!」
 ガンロンは断言すると、胸骨の下から突き上げるように貫手を入れ宝玉を抜き取る。
 黄金に輝く宝玉の明かりが一同を照らし出す。
 口元から血の滴を流したリンホァンの身体をガンロンはルーロンの方へ放り投げる。
別れが済んだ所へ、土、金、水の3個の宝玉を浮かべ、ルーロン側の2つと共鳴させ、
「最後だ、機会をやる。望む未来在るならば、我が剣を越えて見せよ伝承者! さもなくば討たれて塵となれ!」
 命も絶え絶えなリンホァンはルーロンの腕の中に収まる。
「リン、死んじゃ駄目だ。まだ、まだ、言っていない言葉があるのに──」
「その言葉聞けそうにないね。ご免、へまやっちゃた──ルーロン‥‥‥‥‥勝って‥‥‥‥‥」
 ルーロンの腕の中で、リンホァンの身体が重みを増した。
「あッ! あッ! あッ! あッ! あッッ!!」
「ルーロン!」
 涙を拭わぬまま、叫ぶフェンレイ!
 亡くなったランファの身体から抜け出て来たファンランの魂が、リンホァンを優しく抱き締める。
「‥‥ごめんなさい。わたくしに現世に干渉出来る力があれば、むざむざこの子を殺させはしなかったのに‥‥」
「あなたは一体?」
 フェンレイが問う。
「‥‥わたくしの名はファンラン。宝玉の守護者の一族に連なる者。そして、ウェンフーの妻であり、運命の子の母」
「母‥‥さん?」
「はい、ルーロン、あなたはウェンフーとわたくしの間に生まれた運命の子。
 勝手な願いだと解っています。でも、どうかウェンフーを止めて下さい。それが出来るのはあなただけです」
 ルーロンの脳裏に送り込まれるイメージ。
 ウェンフー(烈飛龍(fa0225))が臨月を迎えたファンランの前で微笑む光景。
 血まみれになって帰ってきたウェンフーを前に、泣きながら崩れ落ちるイメージ。
 最後の光景は、ファンランが村人に産着に包まれた嬰児を渡すものであった。
 その回想の中で、ルーロンが白鱗と白光に包まれた竜人へと変貌していく。
「ルーロン、これを!」
 フェンレイが木の宝玉と、火の宝玉を委ねる。
「ありがとうフェンレイ、でも今はガンロンを倒す!」
 ガンロンは境内から双剣を抜きながら。
「ほう、一皮むけたか? だが、所詮は子供! 何!?」
 一瞬の内にルーロンは間合いを詰めると、ガンロンの双剣をかいくぐって、腹部に痛打をくわえる。
「さすが、ウェンフー様の認めただけの事はある、しかし、甘い!」
 すかさず、返しの膝蹴りを喰らわせようとするが、その眼前に火の宝玉が光を放ち、目を眩ます。
 そのまま、光はガンロンの黄金の鱗を朱色に輝かせながら、ガンロンの胸部の経絡を照らし出す。
 ホンファ(MAKOTO(fa0295))の声がルーロンの耳元で聞こえる。
「狙いは一つ、己が全てを一心に束ね撃ち抜け!」
「征きます、征って勝ちます!」
「良い返事だ」
 ルーロンの全身が炎に包まれ、ガンロンの目前で燃え上がる!
「ホンファ‥‥あの女か、恐るべき守護者であったが、ここまでとはな勝負──!」
 言ってガンロンが天空に向けて剣を放り投げる。
 嵐の様に無数の剣がルーロン目がけて降り注ぐが── 。
 BANG、BANG! BANG!!
 無数の銃声が轟き、剣のことごとくをはじき飛ばす。
 突進するルーロン。
「女しか殺せないお前には決して負けるものか!」
 ガンロンの胸の経絡目がけて、激しい掌底の一打が決まる。
「これも天の意志か! 認めぬぞ!」
 ガンロンが叫ぶが、その声は徐々に力を失っていった。
 土の守護者ガンロン倒れる──。
「所詮守護者などその程度──という事!」
 天空より声が降り注ぐ。
 座する大仏が立ち上がり、その頭上に立つ影は──。
 モリュウ(もりゅー・べじたぶる(fa1267))。
 月光を反射するスキンヘッドにグラサン。黒いスーツ着用で強面な印象を与えようと努力している。
 更に今回は、ネクタイを取り、胸のボタンも多少外してワイルドな感じを演出。
 そして、今までの歴戦を物語るかの様に顔を覆い尽くす無数の傷。
「史上最強のミジンコだ。我が前にひれ伏せ! お前たちが力を得たように、俺も新しい力を得た。いくぞ、ビック・ブッダ!」
 巨体の一歩がポーリンジーを震わせる。
「ルーロン、いよいよ決戦です俺も守護者として最後の勤めを果たしましょう」
 モリュウとビッグブッダの対決の前に、ルーロンへフェンレイは── 。
「奴は俺が相手をします、あなたは先を急いでください。我が名はフェンレイッ、木の宝玉を守護せし拳法仙人っ!!」と名乗りをあげ、右手には境内に刺さっていた剣、左手には懐から取り出した呪符の束を構え挑む。
「はっはっはっは。ひとりとは猪口才な、ビッグ・ブッダの足の裏のシミにしてくれようぞ」
「それはやってみないと判らないな──勝負!」
 しかし、人並みに軽快に動くブッグ・ブッダの前にフェンレイは予想外の苦戦を強いられる。
「それが限界か! ビッグ・ブッダパ〜ンチ」
 モリュウが放たせた一撃を青い竜人に変化したフェンレイが呪符を展開させて受け止める。
 しかし、もろくも呪符の傘は巨大な拳の前に、四散する。
 拳がかすめて270段の階段を転がり落ちていくフェンレイ。
「どうしたどうした。それとも、こう言って欲しいのか? 無駄! 無駄! 無駄! 無駄ァ〜!!」
「守護者の力、拳法仙人を甘く見るな! お前はもう死んでいる」
 階段の途中で、フェンレイは階段に剣を突き立てて落下を食い止める。
 階段まで追い立てようとしたモリュウだが、見えない壁に突き当たる。
 改めて足下を見てみると、先程飛び散った呪符が綺麗な円形を描いて、ビッグ・ブッダを取り囲んでいる。
「まさか、仙術か!」
「拳法仙人は、拳法と仙術を極めているんだっ! 九天応元雷声普化天尊っ、雷帝よっ! 邪悪な輩に制裁をっ。雷法っ!!」
 フェンレイは叫び持っていた剣を自分に突き刺す。
「気でも狂ったか!」
 モリュウの言葉にフェンレイは返す。
「違う!! これが勝利の最後の布石だ!」
 フェンレイは最後の力でビッグ・ブッダに向かって血染めの剣を投げつけ、笑いながら生き絶える。その次の瞬間、剣が突き立った場所目がけて、巨大な落雷が降り注ぎビッグ・ブッダを粉砕した。
「無駄だ、あきらめ…、え? え? あんぎゃー」
 そのままビッグ・ブッダは階段を転落し、粉みじんとなった。最後にモリュウの手がピクピクと痙攣してエンド。
 一方、ルーロンはビッグ・ブッダの座していた座の中央に、遙かな闇の中へと続いていく螺旋階段があるのを見つける。
 宝玉達が告げる、決戦の場はここである、と。
「リンホァン、母さん、トセイさん──僕はやるよ」
 そのまま、螺旋階段を駆け下りていく。
 そして、地下の広間にたどり着く。
 待ち受けるは野性味に満ちた独りの男。
 ──ウェンフー。
「よくぞ我が許に辿り着いた、我が息子ルーロンよ。
 すでに知っておるのであろう。お前は我とファンランの間に生まれたただ一人の息子。本来なら我の後継者となるはずだというのに、なぜ我の道に立ち塞がる?」
「あなたのやっている事が間違っているからだ」
「間違いか。一方的に我を悪と断じる前に自らの頭できちんと考えてみるんだな。お前も我が息子なら事の善悪は判断が付くであろう」
「善悪の判断はつく──だから‥‥戦う」
「そうか? 考えてみるのだな、天界の守護者であり、何人にも犯されることの無いはずの天帝がなぜ、一介の天将に過ぎぬ我に破れたのかを?
 天は我を是としたのだ。我に逆らうことはすなわち天に逆らうことだ。天を味方に付けた我にお前が勝てるはずもあるまい。
 最後に一度だけチャンスを与えよう。我と共に歩むのなら、この手を取れ!」
「もうお止め下さい! 道に外れ、想いを斥け、鬼と成り、覇道を歩み続け叶えた野心に、孤高と孤独に彩られた願いに、何の意義が御座いましょうか!?」
「ホンファか‥‥。死して尚意見するというのか?」
 ルーロンが持っていたトセイ(AAA(fa1761))の仮面が光り輝き、トセイの霊が姿を現すと、ウェンフーに問答を仕掛けられる彼に、『バカねえ』というような顔で笑ってみせる。
 自分はこの場面で悩んでしまうような、小利口な弟子をもったつもりはない。
「なーにを、難しいことごちゃごちゃ考えているのかしらね、この子は」
 教えたことはただ一つ。バカ親父をぶっ飛ばすための拳の握り方だけだ――。
「もう、答えは決まっているのでしょう?‥‥だったら、しっかり、決めてきなさい!!」
 言って、光を纏ってルーロンの拳の中へと飛び込む。
「‥‥それがお前の答えか? 良かろう! 所詮は我が覇道を理解する事も出来ぬ小物でしかなかったと言うことだな。その決断を最後の瞬間まで後悔するが良い!」
 言って、獰猛な虎人の姿を露わにする。
「光栄に思うのだな。この姿を取らせたのは天帝と古き友のみなのだからな」
 解放した闘気で部屋を揺らす。
 ルーロンも闘気を解放し、螺旋階段を吹き飛ばす。
「戻る積もりはない──という事か、良かろう」
 竜虎相打つ。
 ウェンフーが攻めれば、ルーロンは凌ぎきれず、天空に逃げる。
「それで逃げたつもりか甘い」
 空間を歪めて背後に出現し、鋭い爪で痛撃を加える。
「しまった!」
 空中からたたき落とされるルーロン。
「それで終わりか?」
「違う──!」
「ほう?」
「師匠の技が──トセイさんの技がどれだけ凄いか見せてやる!」
 宝玉がルーロンを囲む様に位置する。
「五行殲龍破か──トセイですら出来なかった技を一度見ただけで出来る訳がない、失望したぞ」
 しかし、ルーロンの周囲には五色の光の柱が立ち上りつつある。
「ふ。どの気も完全に練れていない。宝玉の力でも借りる気か?」
「いいえ、運命の子──ルーロンには、宝玉を凌ぐ力があります」
「ファンランか!? 死して尚‥‥」
「違います。ルーロンには心を通わせた友がいます。ひとりではありません」
 その声と共に光の不完全な柱にそれぞれよりそう影がある。
 ランファの霊は黄色い光の柱に同化しつつ。
「大丈夫、ルーロンなら出来るわよ」
 ホンファの御霊は──。
「精神を集中させろ、心を研ぎ澄ませ、自分を信じろ、大丈夫、君にならできる」
 両手で気合を入れる様にルーロンの両肩を叩き激励しながら、赤い光の柱に同化する。 リンホァンの魂魄は──。
「なに、ちんたらやってるの? 早くやっつけなさいよ」
 と白い柱に同化する。
 守護霊と化したJ(御堂 陣(fa1453))は黒い光柱に同化しながら──。
「本当に凄い男は、みんなの期待に応えられる男だぜ」
 とルーロンの肩を叩き。
 フェンレイの霊は──。
「出会ってから短い間だったが、楽しかった」
 言って青い光の柱に同化する。
 木火土金水──五行を彩る柱が完成した。トセイとは違う境地である。
 螺旋状に練り上げられたそれは、千の龍の形を取った闘気の固まりとなって、ウェンフーを消滅させようとする。
 しかし、ウェンフーの闘気がその龍を打ち消そうとしていく。だが、一箇所だけ打ち消せない場所があった。ランファが短刀を突き立てたそこ。
 その場所から闘気が侵入して牙と爪を突き立てていく。
「‥‥天は我を見放したのか? ‥‥いや、天が我に望んだのは古き秩序を壊すことのみだったと言うことか‥‥ならば、天に仕えた者の最後の矜持としてそれに従おう。さらばだ、我が息子よ。最強の男よ」
 そこに。ヤンルェ(水守竜壬(fa0104))の霊が現れ、ウェンフーの魂を導く。
「男同士で色気がありませんが、どうやら、こちらの方は待ち人来たらずのようでね。ま、生まれ変わっても、また楽しくやりましょう」
「それも悪くはないな」
 放たれた闘気の固まりは今だ暴走し、地下を破壊し尽くしていた。
「終わった‥‥」
「いいえ、始まりです。ルーロン。あなたは私の分まで生きなさい」
 ファンランの霊がルーロンを地上へと飛ばす。
「これで私も転生できます。さようなら──ルーロン」
 五色の光に照らされながら、ルーロンはリンホァンの側で目を覚ました。
 ホンファの以前の言葉が脳裏をよぎる。
──願いは純粋ならば叶うもの。
「宝玉よ。僕の願いを聞いて。リンホァンの魂をここに──」
 五つの宝玉は激しく光を発しながらひとつに融合し、黒ではなく玄い光を発していた。そのまま、リンホァンの心臓へと重なっていく。
「ルーロン? 勝ったのよね?」
 息を吹き返したリンホァンはそのままルーロンを抱きしめる。
「戦いは終わったよ。君がいてくれたから」
 涙を流すルーロン。
 その瞬間、朝日の最初の光が飛び込んできた。
 黄金の輝き。
 今日という日がどうなるかは判らない。しかし、香港というひとつの世界に新たな時代が始まったのは確実であった。

 撮影の最終調整は16日から、募集を始める。
 ファーンはそう言い切った。
 後は泣いても笑ってもこれが最後であった。