ヴァルキリーインパクトアジア・オセアニア

種類 シリーズEX
担当 切磋巧実
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 3.6万円
参加人数 10人
サポート 2人
期間 07/17〜07/21
前回のリプレイを見る

●本文

●TVCM
 ――これまで多くの戦乙女を誕生させた番組が、新たな局面を迎えた。
 最強の戦乙女を決定するトーナメント戦もいよいよクライマックス!!
 互いに格闘技の知識は素人! 戦乙女の原石として選ばれるのは!?
 旋風は吹き荒れるか!? 危険な香り漂う戦乙女の運命は!?
 女子プロレスラー相手にバイオリニストは如何なる旋律を奏でるのか!?
 そして!!
 気高き薔薇へ紡ぎ出されるは勝利の歌か敗北の歌か!? 優勝する乙女は果たして!?
 さぁ、ラストバトルだ! ヴァルキリー達よ、最後の戦に身を焦がすがいい!
 只今、ヴァルキリーインパクトでは出場者募集中!!
 ☆尚、番組の対戦カードは選手の事情により予告なく変更される場合があります。

●彼女は見守る者それとも‥‥
「いよいよトーナメント最終戦ですね!」
 TVCMを観ながら紗亜弥は拳を握り締める。
「まるで自分が出場するみたいだな。可能性はゼロではないけどな」
「合宿にも参加して皆さんと一緒に練習して来たんです。ドキドキする胸の高鳴りはきっと同じだと思います」
 TV画面を見つめる少女の瞳は研ぎ澄まされたような雰囲気を醸し出していた。TV局の誘いで同行させた合宿だったか、彼女なりに何かを学んで来たようだ。
「なんか頼もしくなって来たな。演歌が駄目になったら格闘家に転職するか?」
「え? そ、そんなぁ! 駄目なんて言わないで下さいよぉ」
 紗亜弥はやっぱり紗亜弥だった‥‥。

●試合形式
 グローブを嵌めての2分2ラウンド制。
 2ノックダウンシステム。
投げ、関節技は無し。膝蹴りOK。手足以外での攻撃、及び背後からの攻撃は反則。
 勝負はKO・TKO・判定で決定。
 エンターティンメント性を高くしており、衣装は組み技が無い為自由(但し金属物が付いたものは禁止)。制作サイドである『ヴァルキリークリエイト』と打ち合せて下さい(プロデューサーは季節的に夏っぽく希望はしているようです)。

●募集区分
・ヴァルキリー(格闘技未経験者参加OK)
 試合を行う選手です(これまで出場していなくても参加OK)。
【コスチューム】
 自由(但し、クリエイトの方と連携していない場合、描写は最小限とさせて頂きます)。
【対戦相手】明記して下さい。
【格闘スタイル】空手とかテコンドーとか。
【自己PR】インタビュー等で表現される予定です。
【試合の組み立て】どのように試合を組み立てるのか明記。
1R:(前半)(中盤)(後半)
2R:(前半)(中盤)(後半)
【得意技(コンビネーション等)】
 得意技は有利に展開した選手がフィニッシュで発動できます。
 サポート参加があれば、特訓したとして、対戦者と同じレベルだった場合、有利に展開できるかもしれません。

・実況
 状況を視聴者に伝える方です。選手のキャッチコピー等明記。
 殆ど実況で状況が伝えられます。自分の個性を出せるよう台詞を決めておくのも一興です(実況がいなければ地の文章で表現されます)。

・控え室リポーター
 選手の控え室をリポートする人です。普通は遠くから様子を窺うのみですが、勇気があれば突撃して見ましょう(笑)。後は選手との駆け引きです(プライベートな事なので打ち合せて置きましょう)。リポーターがいなければ描写されません。

・解説者
 格闘技を生業としている女性で、試合の状況に解説を入れる方です。
 ヴァルキリーインパクトは素人も参加可能な格闘技ですので、無名でなければ担当できます。

・セコンド
 選手につくセコンドです。出番は少ないですが、セコンドがいると対戦中にアドバイスを受けて有利に展開できるかもしれません。
 尚、紗亜弥を入れても選手が入っても特殊効果(?)は発動しません。

・紗亜弥トレーナー(サポート参加)
 対戦相手がおらず、エキシビジョンマッチ希望がある場合、紗亜弥が相手となります。但し、募集区分を担当していない、または出番の少ない方に限らせて頂きます。
 尚、彼女のレベルはサポート参加者の数で変化します。【体力】【格闘】【軽業】のいずれかを鍛えた事で1ポイント能力に加算されます。

●今回の参加者

 fa0160 アジ・テネブラ(17歳・♀・竜)
 fa1449 尾鷲由香(23歳・♀・鷹)
 fa2814 月影 愛(15歳・♀・兎)
 fa3034 牙龍(32歳・♂・竜)
 fa3116 ヴィクトリー・ローズ(25歳・♀・竜)
 fa3251 ティタネス(20歳・♀・熊)
 fa3342 不破・美影(18歳・♀・狐)
 fa3392 各務 神無(18歳・♀・狼)
 fa3489 森木 久美(18歳・♀・熊)
 fa4130 ジャスティスタイガー(23歳・♂・虎)

●リプレイ本文

●支離滅裂?
「え? 駄目なのかな?」
「駄目に決まってますよぉ。アヤさん初日しかいられないじゃないですか? サポートで試合当日のインタビューに参加できませんよぉ」
「‥‥紗亜弥さん、相変わらず訳のわかんない事を言うのね。じゃあ、花束贈呈も?」
「だめですよぉ」
 そんな訳で、スケジュールの空いていない、泉 彩佳の予定は実現不可能であった。

●最強トーナメント最終戦
 真夏の砂浜をイメージしたCGが浮かび上がる中、波の効果音と共に水を印象付ける青と、燃える炎を印象づける赤に彩られたタイトルロゴが模られた。
 天井に設置されたカメラが捉えるは、花道に描かれた北欧神話に出てくる波の乙女の一人『ブローズグハッダ』だ。血まみれの髪という名前が示す壮絶さの中にも美しさを漂わす絵画からズームアウトしてゆくと、花道の側面に波が模られ、大海原をイメージした紺碧の会場を映し出す。舞台演出を務めたクリエイターの力作である。
『(只今より、第1回ヴァルキリーインパクト最強決定トーナメント、最終戦を開始します! 選手入場!!)』
 アナウンスに歓声がセッションを奏でる中、カメラは再び花道を捉えた。
 深海をイメージした『Water World』の静かでミステリアスな旋律が響き渡り、徐々に大海原をイメージした雄大なリズムへとシフトしてゆく。同時に上部モニターが自己PRインタビューの風景を映し出した。セミロングの茶髪を揺らし、褐色の娘が円らな瞳を向けて微笑む。
「まあ、ここまで来たら後はやるだけ、だよ。さすがに全敗で終わるのはカッコ悪すぎるし、最後くらいは勝って終わりたいかな」
 薄闇にガッシリとしたシルエットが浮かび上がり、花道を歩いてゆくに合わせて照明が次第に明るさを放つ。どよめきと声援の中、照らし出されるはウェットスーツに身を包んだティタネス(fa3251)だ。テーマはダイビングらしく、ゴーグルやシュノーケルに足ヒレのフル装備である。
(「いよいよ最終戦か‥‥頑張るぞ!」)
 リング脇まで歩みを進めた刹那、スポットライトが降り注ぎ、高波の描かれた大海原に浮かぶ小さな孤島を想定したリングが映った。そう、戦乙女達の戦いは大海に囲まれた逃げ場のない孤島で繰り広げられるだ。
 ティタネスは長身を屈めて足元のギミックを作動させると、足ヒレがワンタッチで外れ、ゴーグルとシュノーケルを放り投げながら軽やかにリングへ跳び込む。見掛けによらぬ軽快さは観客からどよめきが上がる程だ。
 続いてユーロビート系の旋律が奏でられてゆく。夏の夜をイメージした『Night Shade』がアップテンポのやや激しいリズムを刻む中、モニターに映し出された少女は、プログラムの選手ではない。
「えっと、CD買って下さい‥‥」
『違うでしょ紗亜弥さん、戦う自己PRだよ!』
「えぇっ!? そんな急に言われても‥‥」
 客席からどよめきと笑いが漏れる中、ティタネスと同様に照らし出されたのは、セパレートタイプの水着に肢体を包んだ演歌歌手の少女だ。元々グラビアアイドル用に作られた衣装だが、プロポーション的にも遜色なく、彼女の衣装を何着も作成したクリエイターだった為、時間も掛からなかったらしい。尤も、急とはいえ、野外でもないのに水着姿を晒す事になった当人はとても恥かしそうだ。
「(もぉ〜せめてワンピースにして下さいよぉ。やっぱりHです‥‥あ、PRしなきゃ)CDよろしくお願いします」
 派手にならない色合いに抑えた水着の前で手を組み、声援にペコペコとお辞儀しながら応えていた。褐色の娘も動揺を浮かばせる。
「あたしの相手が紗亜弥? 選手が間に合わなかったって事か‥‥」
『(ヴァルキリーインパクトR1 レディ)』
「「「「「「「「「「ゴーーッ!!」」」」」」」」」」
 観客達が腕を高く突き掲げると共に割れんばかりの掛け声を張り上げた。同時にゴングが鳴り響き、タレントの原石vs格闘素人演歌歌手の試合が繰り広げられてゆく。
(「合宿でトレーニングは積んだみたいだが、やり難いな。最初はやっぱり様子見かな。それに身長差考えるとパンチは使いにくいから、とりあえず――――」)
 ――アヤが教えた通りにやればいいんだよ☆ 合宿の成果も見せなきゃね♪
(「そ、そんなこと言われても蹴りって‥‥もっと近付かなきゃ‥‥!? きゃふッ!」)
 ティタネスの前蹴りをボディに叩き込まれ、紗亜弥が勢い良くロープへ吹っ飛んだ。褐色の足は力加減が出来るほど格闘センスが優れていない。
(「あぁっ、前蹴りはマズイか。じゃあローキックで」)
「きゃあぁッ!」
 太腿に薙ぎ振るわれた下段廻し蹴りに、今度は容易く体勢を崩した。
(「えぇっ!? そんなに強かったか? 泣いたりしないだろうな‥‥」)
 ティタネスの脳裏に不安が過ぎった刹那、マナーを知らない観客からブーイングが飛ぶ。紗亜弥はルックスとプロポーションを売りにして演歌界にデビューした少女だ。まして地味で一方的な試合ほどツマラナイものはない。
(「しかし、落ち着いて考えると、あたしが前蹴り狙える間合いをキープしてればそうそう反撃は受けないんじゃないだろうか?」)
 スピードとパワー、そして身長差においても、ティタネスは有利である。問題は格闘センスに乏しい事であり、これまで戦った相手はセンスで上手(うわて)だった。今回のように互いに素人なら話は別だ。
 その後も牽制のローや前蹴りを放ち、ラウンド終了を告げるゴングが鳴り響いた――――。
 続いて2Rが始まる。
(「駄目だよぉ、こんな大きい人に何も届かないし‥‥わっ!?」)
(「あたしが大きく押してる! 今度は逆に間合いを詰めていこう!」)
 一気に跳び込んで来たティタネスに紗亜弥はグローブで顔を庇い身を固めた。続いて少女を強襲したのは鈍い衝撃だ。長い黒髪が舞い、腹部を突き上げるインパクトに呼吸が出来ず瞳を見開くとガクリと膝を折る。
『(ダウン!!)』
(「連打だよ、丸ボタン連打で立ち上がるんだよ紗亜弥!」)
(「悪いな、ダウンが取れそうなら、やっぱり狙っていきたいよ!」)
 膝を戦慄かせて立ち上がった少女に、再びボディーブローを叩き込み、崩れる瞬間に右アッパーを放った! 次の瞬間、マウスピースが宙を舞い、紗亜弥が仰向けに沈んだ。
『(ダウン! 2ダウンによりティタネス選手の勝利とします!)』
 どよめきと歓声の中、2ダウンにより試合終了を告げるゴングが鳴り響く。
(「あたし、勝ったよ。久美さん‥‥」)

●第二試合
 夏空の下を悠々と飛ぶ鷹をイメージした『Fly To The Summer Sky』の旋律が、勇壮な中にも爽やかさを感じさせながら響き渡った。花道に姿を見せたのは、ライフセーバー風のスッキリ纏まったウェットスーツに身を包む、尾鷲由香(fa1449)だ。迷彩柄のオプションを装備しており、さながら戦場の特殊潜入兵のような出で立ちである。第一試合と同様に、ブラウンショートヘアの娘が拳を滾らせ自己PRする光景を映す。
「今回は蹴り技を中心に攻めていくぜ!」
 由香が軽快にロープを飛び越えてリングに着地する中、夏のビーチをイメージした元気で可愛らしいポップス系の旋律が流れ出した。『Summer Girl』のメロディと共に、紺色のスポーツタイプワンピース水着に肢体を包む、月影 愛(fa2814)が花道を歩いてゆく。愛らしい風貌と低い身長の少女は一見中学生のように窺え、水着にネームでも入っていればスクール水着を連想させる危うさを醸し出していた。左側に纏めて揺った黒い長髪が歩調と合わせて揺れる中、モニターが私服姿の愛を映す。
「いつも応援ありがとうございまーす♪ 今回もがんばりまぁーす♪ 今度は水着だからポロリがあったらサービスって事で☆ また、ビデオの方もよろしくねぇ〜!」
 円らな赤い瞳でウインクする少女の過激な発言に、客席の野郎共が歓喜に沸き、声援を注いだ。何やらパッケージを掲げる者もいるが、照明が薄暗かったのは幸いである。
(「今度もきつそうな試合だぁ‥‥。でも、がんばる!」)
 リングに上がって胸元でグローブを抱く少女を捉え、緑色の眼光が研ぎ澄まされた。
「(少しは身のこなしも軽くなったが、いつだかのスパーリングでアイツを負かした相手か、気を引き締めていかないとな)アイ、良い試合にしような」
 グローブを嵌める前に歩み寄り、手を差し出す由香。求められた握手に応えようとした刹那、少女はセクシーに肢体を撓らせ、色っぽく指で招く仕草で挑発した。流石はAV女優。危うい色香に、野郎共がどよめきと共に、デジカメを一斉に向ける。
(「ごめんね☆ 尾鷲さん。冷静に来られたら真面目に勝ち目無い様な気がするのよね」)
『(ヴァルキリーインパクトR1 レディ)』
「「「「「「「「「「ゴーーッ!!」」」」」」」」」」
 ゴングが鳴り響くと、間合いを詰めた由香が跳ぶ。腰を十分に捻って薙ぎ振るわれるは後ろ廻し蹴りだ。突風の如く放たれた蹴り技に、愛は避けを試みる。
(「速いッ! あれ!?」)
 胸元を風の刃が吹き抜けた。挑発が功を成したのか? しかし、次の瞬間、赤い瞳は相手を見失う。気付いた時には既に姿勢を低く構え、大きく踏み込んだ由香が少女の腹部を捉えていた。突き出される双拳のグローブが叩き込まれ、鈍い衝撃と共に円らな赤い瞳が見開く。
「けふッ!!」
 後方によろめく愛。刹那、踏み込みから膝のバネを活かしてグンと風を切り、足が振り上げられた。それは既に少女の身長を凌駕しており、天を向けてピタリと止まる。
 ――軸足を狙えば!
 カウンターを狙うものの敏捷性はスタントマンが上だ。まるで上空から獲物に急降下する鷲の如く、由香の踵落としが愛の肩に爪を食い込ませた。危うく膝を着きそうになるAV女優。
 ――身体が軽いぜ!!
(「マズイよ! スピードが違い過ぎる! こうなったら!」)
 刹那、愛の行動に客席がどよめいた。「わーっ」とでも声をあげるように少女は、あからさまに逃げ回り出したのだ。正に小動物を追う鷲の如く、由香の廻し蹴りや踵落としが追う。あまりの滑稽さに客席から笑いが溢れる始末だ。
『(月影 愛選手に注意1!!)』
 だが、レフリーは許してくれない。次に注意を受ければ戦意喪失と見なされ敗者の宣告を受けるだろう。そんな中、時間を費やし、1R終了のゴングが鳴り響いた。
 ――続く2Rのゴングが鳴り響く。
(「もう注意されないようにしなきゃ‥‥」)
 愛は由香を中心に捉えて時計周りに動きながらグローブを固めた。避けが間に合わないならガードに徹するというのか。しかし、格闘センスに差があればスピードも劣る少女へ突風の如く洗礼を叩き込み、肉迫と同時、ガードを弾いた隙間から膝蹴りやアッパーが放たれた。愛らしい風貌に苦悶の色がセクシーに浮かぶ。
(「あぁん! これじゃ、ヤラレ放題じゃないのよ! えぇいッ!!」)
 肩を向けて一気に駆け出す愛。自爆覚悟のショルダータックルで起死回生に挑む!
(「ヤケになられちゃ困るんだよな」)
 由香は突進に合わせて体捌き、続けて太股裏へとローキックを薙ぎ放った。ガクンと体勢を崩す少女へ踵落としを叩き込み、バックステップで間合いを合わせて回し蹴りの連撃を炸裂させる。
『(ダウン!)』
 愛がうつ伏せ状態からゆっくりと身を起こす。何気に怠慢な動作が艶かしいのは気の所為か。
(「‥‥ま、まだ、私の躯は壊れていないんだから!」)
 声援が降り注ぐ中、最後の力を振り絞ってラッシュを仕掛けた。左右の廻し蹴りからサービスの如き垂直の蹴り上げを見せ、続けて左右のフックを薙ぎ振るう。
(「当たれ! 当たれ! 当たっちゃえ! くはぁッ! はぅッ! あふっ!」)
 ラッシュは由香の放ったミドルキックで止まった。続けて疾風の如き右ストレートと左アッパーを叩き込み、廻し蹴りが唸る!
『(ダウン! 2ダウンにより尾鷲選手の勝利とします!)』
 ぺタリと腰を落としたままの少女に手を差し出す由香。
「大丈夫か?」
「うん‥‥」
 手を握り立ち上がらせると、そのまま愛の手を掲げて声援と拍手に応えた。
 戦いには負けたが、スクール水着シチュエーションのビデオが売れた事だろう。

●第三試合
 メタル系の激しい雷雨をイメージした『Here Comes The Storm』の、やや暗く激しい感じの旋律が流れ出すと共に、漆黒のスーツに白いコートを羽織った、各務 神無(fa3392)が姿を浮かばせた。照明を次第に浴びる中、夏と海をイメージした舞台に合わせて、優麗に流れる銀髪にサンバイザーを被っている。
 続いて流れたのは、三味線の音を活かした和風ロックの旋律だ。花火大会をイメージした『Fireworks』は、適度に『音のない間』を織り込んで響き渡ってゆく。リズムに合わせて、森木 久美(fa3489)が、短く切り詰めた浴衣姿で現われ、団扇や水風船を舞い躍らせながら、お祭り気分を醸し出す。衣装の下にスパッツを履いているが、元気に躍動する少女のしなやかな足は健康美を覗かせていた。
 神無はノーコメントだったが、モニターに自己PRする茶のショートヘア元気娘が胸元で両手を固め、はきはきとした声を気合一杯に響かせる。
「今回も私より強い人が相手で緊張していますが、精一杯頑張りたいと思います!!」
 対照的な両者がリングに上がると、新人プロレスラーの少女は四方にお辞儀して声援に応えた後、バイオリニストの才女へ頭を垂れた。良い娘モード全開に中年ファンが増したであろう。
「精一杯頑張りますので、どうぞ宜しくお願いします!」
「あ、えぇ、こちらこそ宜しくお願いします」
『(ヴァルキリーインパクトR1 レディ)』
「「「「「「「「「「ゴーーッ!!」」」」」」」」」」
 ――気合入れて頑張るぞーっ!
 ゴングと共に久美の瞳が研ぎ澄まされ、一気に間合いを詰めた。ローから踏み込み、パンチ、キックとリズミカルに畳み掛ける。序盤からのラッシュに客席もヒートアップだ。しかし、神無は猛攻を冷静に対処、フェイントを混ぜた可変蹴りの牽制で強打を外してゆく。
(「アヤと同じプロレスラーだけど、戦法や得意スタイルまで同じとは限らないからね。観察させて貰ったよ」)
 ラッシュに合わせて蹴り技で応え、打ち合いの様相へと転じた。多彩な蹴り技に久美はパンチのレンジに踏み込めず、互いに蹴り技での攻めが続く。まるでテコンドーの試合だ。
(「多くは受け流されると思ったけど、積極的に攻めて来るなんて! それに、やっぱり巧いね」)
 威力は同等だとしても、受けるダメージに個人差はある。次第に元気娘の身体が悲鳴をあげる中、ゴングが鳴り響く。
 多少のダメージを受けたものの、銀髪の少女がロープへと戻る。待つのは紗亜弥だ。
「今回もふせきのきせきですか?」
「ははっ、此処だけの話、最後だから勝つ事よりも楽しむ事を優先して大して布石も用意していない。
勿論負けるつもりは無いよ‥‥勝負は此処から。ホロケウカムイの‥‥大神の牙を見せてあげるよ」
 穏やかな赤い瞳を次第に研ぎ澄まし、コートを勢い良く脱ぐと、何かを期待した観客がどよめく中、セコンドへ渡す。
「終わったら返してね☆」

「久美さん、向こうも食らっていたんだ! 頑張れば勝てるよ!」
 久美のセコンドについているティタネスがエールを贈った。元気娘が気合を注入する。
「はい! そうですね。完全燃焼して来ます!」
『(セコンドアウト! R2 レディ‥‥)』
 同時に間合いを詰めると、神無は蹴り技を散らせた。対する久美は上段への攻撃は受け流し、下段への攻撃を展開させる――筈だった。
(「捌き切れない!? あぅッ! これじゃパンチの間合いにも入れないよ!」)
 銀の狼が飛び掛かり、縦横無尽に爪を疾らせ、浴衣の少女に洗礼を叩き込む。退こうにも執拗に攻め続ける神無! ローへのフェイクを才女にガードさせ、渾身のハイキックを狙うその時だ!
 ――いける!
 銀の狼が牙を剥いた。下半身の各関節に捻りを以て放つ強烈な蹴り技が炸裂し、久美が吹っ飛ぶ。本人曰く蹴りによる纏絲勁らしいが、螺旋の駆動を容易に行えるものではない。
『(ダウン!)』
 狙い通りの技かは定かでないが、神無が判定で勝利を納めた。
「有り難うございました!」
 最後まで礼節を重んじる少女が元気な声を響かせ頭を下げる。互いに握手を交す中、惜しみない拍手が鳴り響いた。

●最強トーナメント決勝戦
『(只今より、ヴァルキリーインパクト最強トーナメント、決勝戦を行います!』
 一際力の篭ったアナウンスに歓声が沸き上がる中、古代ギリシャ音楽の荘厳さを活かしたスローテンポな旋律が流れ、薄闇に少女の姿が浮び上がる。ゆっくりと花道を歩くに合わせ、鎖から解き放たれるが如く、曲調は一気にアップテンポに変わり、『Unchained』がロック風のリズムを奏で出した。次第に照明が光を増し、白のホルターネックビキニに褐色の魅惑的な肢体を包む、アジ・テネブラ(fa0160)に降り注ぐ。
 モニターのアジがやや垂れ目の円らな青い瞳を向けて言う。
「今回、実力以上の相手をすると思います‥‥ですけど、私は負けません‥‥大切な人や支えてくれた人達のためにも」
 声援を浴びる中、優麗な銀髪を三つ編みに纏めた戦乙女は、右腕、左太腿に黒ベルトを巻いており、腰部分のベルトに布の前垂れ、飾り的意味で豊満な左胸にウレタン製(当初はプラスチックだったが、材質が固い為、変更された)の胸当てを装着し、さながら古代戦士を彷彿させる姿だ。
 次第に青い瞳が研ぎ澄まされ、視界にガッシリとした肩でロープを広げて待つ虎のマスクにショートタイツのプロレスラーが映る。セコンドを務めるジャスティスタイガー(fa4130)だ。
「兎にも角にも、決勝戦だ。私はアジ君を勝たせる為に‥‥いや、アジ君やファンの皆と共に勝つ為に、この一戦、セコンドとして全力を尽くすよ」
「うん」
 ロープを潜る僅かな間に瞳を交差させるパートナー。リングで声援に応える中、アナウンスと共に『Summer Squall 〜 Queen Rules!』の旋律が流れ出した。夏の眩しい日差しを表現するメロディは、次第に雷雲が沸き起こる様を奏でてゆく。アジが整った顔を向けると、照明に浮かび上がるは、紫色の水着風の布地が少ないリングスーツに褐色の肢体を包む、ヴィクトリー・ローズ(fa3116)だ。極力動きの邪魔にならぬよう調整された衣装は、魅惑的なボディを妖艶に映し出しており、声援の中、突然の嵐の如くハードロックが掻き鳴らされ、激しく変わり易い夏の天気を、気紛れな女王に見立てて奏でられた。カメラが共に歩いて行く、牙龍(fa3034)を捉える。
 ――セコンド?
 少女が青い瞳を凝らす中、モニターが赤毛の若い女を映すと、金髪の男が割って入った。
「彼女の気を散らさないで欲しいな、美人のお嬢さん。ローズは強いぜ、料理も上手いし酒付き合いも良い、それにこのナイスバディーだ。真っ赤な髪に褐色の肌ってのがグッと‥‥」
(「チッ、カットされてたか。オマケにヤジまで飛んでやがる。妬くな妬くな♪」)
「おちゃらけ野郎だが、プロレスラーだな」
 同じ道を歩く者として、タイガーは牙龍を知っているようだ。
『(セコンドアウト! ヴァルキリーインパクトR1 レディ)』
 リングの傍で由香が拳を滾らせる。
 ――ローズ、勝ってくれよ、あたしが弱かったと思われないために!
「「「「「「「「「「「ゴーーッ!!」」」」」」」」」」」
 ゴングと共にアジは素早さを活かしてヒット&アウェイの前蹴りで距離を取った。しかし、ダメージには至らず、尽く膝を上げた脛で弾かれる。だが、これは銀髪の乙女が相手を焦らす作戦だ。
 ――来た!
 ローズはレバー狙いのミドルキックを薙ぎ振るう。同時にアジが間合いを詰めて直撃を外す――筈だった。
(「タイミングが乱れたの!? リーチの差!?」)
 僅かにダメージを抑えたものの、放たれた蹴りが銀髪を揺らす。ローズの蹴りは重い。体勢を崩したアジにノーモーションのストレートを繰り出した。ガードするが僅差で顎へ炸裂! 古代戦士がロープへ飛ばされる。更に追撃するべく薔薇の蔦が鞭の如く撓り、ジャブ、フック、ストレートと左右に散らせて洗礼を叩き込んだ。銀髪が舞い、褐色の肢体が踊る。
 ――マズイな。アジ君のスピードが追い着いていない‥‥。
(「なんてパンチだよ‥‥これじゃ、巧く間合いをキックに持っていけない! くふッ!」)
 レバーブローの鈍い衝撃に、青い瞳が見開かれた。思わず膝を着きそうになるアジ。
 ――頑張れ! 姉ちゃん!!
 会場入りした日にエールを送った恋人の声が脳裏に甦り、銀髪が弧を描くと共にカウンターのフックを叩き込んだ。ダメージは浅いものの、薔薇の洗礼が一瞬止まる。しかし、アジの消耗も激しく、ここでゴングが鳴り響いた。
「ハァハァ、私、クーリン君に約束したんだよ‥‥だけど‥‥」
「相手はどちらかと言うとインファイタータイプだ、危険打を貰わない為に距離を取るのは良い。しかしそれだけでは限界がある、何れ至近距離で闘わざる状況が来るのは想像に容易い。相手の技術を遥かに凌ぐくらいに、前蹴りやミドルキックの完成度が高ければ自分の距離で戦い続ける事も可能だが、それは無理というものだろう」
 そう。アジの前蹴りは脛で全て受けられていた。ではどうすれば良いか?
「これは私の経験と知識によるものだが‥‥『試合の前半から、相手の土俵で勝負を仕掛けるべし』」
「え?」
「例えるならこうだ。3回仕掛ける内2回は前蹴り等で仕掛けても良い。しかし、残りの1回は相手の得意なパンチの距離で仕掛ける。そうすれば勢いに乗らせる事も無いし、後半にKOされる事も無くなると思う。アジ君には防御だけでなく回避の技術もあるのだから、出来ない事はないだろう」
「うん、私負けない!」

「どうだった? 相手の威力は?」
「ちょっと痛かったってカンジぃ‥‥」
「そうか。だが、あれはラッキーパンチってもんだ。確かにアジ嬢は素早いが、格闘センスはおまえが上と俺は見た。一発の重さも上だが、油断するな! おまえは打たれ弱い。ガードを忘れるなよ」
『(セコンドアウト! ヴァルキリーインパクトR2 レディ‥‥)』
 ゴングと共に牙龍がローズの士気を高めるため、英語の放送禁止用語をシャウトし、叱咤激励を響かせる中、二人のヴァルキリーがファイナルラウンドに挑んでゆく。歓声と声援も最高潮だ。
(「アッパーとボディへの対策は同じ事しか出来ない‥‥ううん、これが最善策だよね。あとは、ジャスティスさんのアドバイスに応えるのみだよ!」)
 タイミングが遅れ、隙間を突かれたとしてもガードしている分のダメージは僅かでも抑えられる。左右に銀髪を揺らして間合いを計るアジ。赤い薔薇がローや左ミドルの廻し蹴りを放つ中、前蹴りで牽制してゆく。
(「近付かせないってカンジぃ? But! 手応えはあるっていうかぁ、ダメージは与えているってカンジぃ! 左ミドル! ロー! OK?」)
 次々と左右に散らせて蹴りを放つローズ。魅惑的な肢体を躍動させる薔薇に、青い瞳が鋭さを増す。
 ――やってあげるわよ!
 前蹴りで仕掛けた後、アジが一気に飛び込んだ。互いのグローブが繰り出され、レバーブローの壮絶な打ち合いと転じた。観客達が一斉に沸く!
「バ(カ野郎! 打ち合うんじゃない! いや、ローズが退いたとしてもスピードは向こうが上だ。どちらもダイレクトに貰っていないなら、スタミナが切れるのは‥‥)」
 ――狙えるか!?
 バックステップで間合いを開けたのはアジだった。赤い髪が揺れ、左ミドルの蹴りが薙ぎ振るわれる! 1R同様銀髪の古代戦士が踏み込んだ。交差する眼差しの中、緑の瞳が眼光を放つ!
(「ミドルじゃない!?」)
 自分の腹部に迫った薔薇の鞭が視界から消えた――否、軌道を変えたのだ。捉えたのは――――。
「アジさんッ!!」
 ――怪我してほしくないけど、負けるのを見るのはもっと嫌。頑張れ! 姉ちゃん!
 頭部を揺らす衝撃と共に、少女のような恋人の顔が脳裏に甦っていた。ハイキックを警戒していたアジだが、変則技を見切れる程レベルは高くない。意識の飛び掛けた青い瞳に、残像を描きながらバックスピンキックを放つべく腰を回転させるローズが映る。
(「私は‥‥負けられないんだよ!」)
 回転する赤い薔薇へ銀髪が弧を描いた。放たれるはカウンターのソバットだ。もはや避けも間に合わないアジの起死回生の一撃! ジャスティスタイガーと牙龍が身を乗り出し、客席が息を呑む!
「きゃふぁッ!!」
 ロープに勢い良く吹っ飛んだのは銀髪の少女だった。空かさず畳み掛けるべくローズが肉迫するが、鳴り響いたのはゴングだ。
『(判定! ジャッジ‥‥勝者! ヴィクトリー・ローズ選手!!)』
 高らかに腕を掲げるローズに声援と歓声が降り注ぐ中、牙龍は手を組んで神に感謝の祈りを捧げ、薔薇の女王を労うべくロープを越えて駆け寄る。
「やったな! 正直、以前のおまえなら負けていたかもしれない。勝利へのハングリーさに勝利の女神が微笑んでくれたんだ」
 そう、ローズは最強に近い事に過信せず、格闘センスを鍛える為に貪欲だった。その結果、アジは僅かに及ばなかったのかもしれない。
「ハイタッチはお預けだな‥‥。ダウンしなかっただけよく頑張ったぞ‥‥」
 ――おまえはフリーシンガーだ、格闘家じゃない。否、セコンドの格闘経験に差があったのかもしれない。
 何れにしろ慰めにもならない言葉をマスクの中に呑み込んだ。今後は‥‥彼女の考え次第――――。
『(優勝のローズ選手と準優勝のアジ選手には賞金が贈られます! 第1回ヴァルキリークィーンのローズ選手とアジ選手に惜しみない拍手をお願いします!)』
 優麗な装飾の施されたヘルムを被ったローズと、アジが響き渡る拍手に応える。純粋に強者のカリスマ性へ声援を送る者がいれば、ルックスの良いアジに注ぐ声援も少なくない。
 そんな中、紗亜弥が彩佳に頼まれていた花束を二人の戦乙女に渡す。ローズに赤い薔薇、アジには白い百合だ。
 ここでリングにプロデューサーが上がった。二人と握手を交した後、マイクで声を響かせる。
『第1回トーナメントは終わりました。しかし、戦乙女の戦いが終わった訳ではありません! 第2回年末最強決定戦まで、暫らく単発でお送りしますが、選手の方、ファンの方共々、今後とも宜しくお願いします!』
 一つの大会は終わった。
 だが、それは新たな戦いの始まりかもしれない――――。