ヴァルキリーインパクトアジア・オセアニア
種類 |
シリーズEX
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担当 |
切磋巧実
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
9.4万円
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参加人数 |
9人
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サポート |
1人
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期間 |
11/01〜11/05
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前回のリプレイを見る
●本文
●TVCM
――ヴァルキリーインパクト。
これは立ち技のみの女子格闘技である。
これまで多くの戦乙女を誕生させた番組が、春と共に新たな局面を迎えた。
最強の戦乙女を決定するトーナメント戦の開幕である。
そして、再び大晦日合わせで、第2回最強トーナメント戦が始まろうとしていた。
テーマはWEF合わせで『ハロウィン』。
さぁ、準備は整った! ヴァルキリー達よ、戦に身を焦がすがいい!
只今、ヴァルキリーインパクトでは出場者募集中!!
●概要
トーナメント出場は8名の枠となる予定です。
これは全3回として大晦日を飾る為です。枠に入らない場合、エキシビジョンマッチや他の割り当てに務めて頂けると助かります。
●試合形式
グローブを嵌めての2分2ラウンド制。
2ノックダウンシステム。
投げ、関節技は無し。膝蹴りOK。手足以外での攻撃、及び背後からの攻撃は反則。
勝負はKO・TKO・判定で決定。
エンターティンメント性を高くしており、衣装は組み技が無い為自由(但し金属物が付いたものは禁止)。制作サイドである『ヴァルキリークリエイト』と打ち合せて下さい。
●募集区分
・ヴァルキリー(格闘技未経験者参加OK)
試合を行う選手です(これまで出場していなくても参加OK)。
【コスチューム】
自由(但し、クリエイトの方と連携していない場合、描写は最小限とさせて頂きます)。
【対戦相手】明記して下さい。
【格闘スタイル】空手とかテコンドーとか。
【自己PR】インタビュー等で表現される予定です。
【試合の組み立て】どのように試合を組み立てるのか明記(各60文字まで)。
1R:(前半)(中盤)(後半)
2R:(前半)(中盤)(後半)
【得意技(コンビネーション等)】
得意技は有利に展開した選手がフィニッシュで発動できます。
サポート参加があれば、特訓したとして、対戦者と同じレベルだった場合、有利に展開できるかもしれません。体力/格闘/軽業 から1つ選択して下さい。
・実況
状況を視聴者に伝える方です。選手のキャッチコピー等明記。
殆ど実況で状況が伝えられます。自分の個性を出せるよう台詞を決めておくのも一興です(実況がいなければ地の文章で表現されます)。
・控え室リポーター
選手の控え室をリポートする人です。普通は遠くから様子を窺うのみですが、勇気があれば突撃して見ましょう(笑)。プライベートな事は事前に打ち合わせを☆
・解説者
格闘技を生業としている女性で、試合の状況に解説を入れる方です。
ヴァルキリーインパクトは素人も参加可能な格闘技ですので、無名でなければ担当できます。
・セコンド
選手につくセコンドです。出番は少ないですが、セコンドがいると対戦中にアドバイスを受けて有利に展開できるかもしれません。体力/格闘/軽業 から1つ選択して下さい。
●リザーバーNPC:枠が合わない、エキシビジョン希望などに指名できます。
*紗亜弥(演歌歌手)
闘う演歌歌手。事務所に騙され嫌々出場したり合宿を経て、成長を見せたか!? 最近デビュー1周年を迎えたらしい。
*フォビトン・フルート(女優)
SteelGraveのTV版アルマイトの旗宣伝に来日か!? セミロングヘアの眼鏡美少女。
*法衣 麻奈華(学生)
「わ、わ、わたしっ、つ、つ、つつ、つよくなりたいんですっ」
やる気はあるがチャンスに恵まれない未知数の格闘大好き娘。 誕生日がクリスマスイブでなかなか複雑な人生を送って来たらしい。
●リプレイ本文
●第二回最強決定トーナメント開幕
――開催日はハロウィンの夜。
TV局の都合で日を周ってからの放送だが、この戦いの記録は31日に繰り広げられたものである。
カメラが花道に描かれた魔女の絵を映し出す。若く美しく気高い雰囲気の魔女を際立たせるように、古城も描かれていた。まるで、これから始まる戦いの舞台であるかのようにも感じられた事だろう。
会場の照明は落とされており、花道には淡い色合いのライトが浮かび、戦乙女達の明るく賑やかな雰囲気ではなく、抑え目な大人の色気を醸し出す。周囲に設置された蔦やランタンの小道具もコミカルではなく、シックなデザインが施されていた――――。
●エキシビジョン:エレクトラ・テーム(fa3793)vs法衣 麻奈華(リザーバー)
<只今よりエキシビジョンマッチを開催します! 選手入場!!>
闇に包まれた会場にアナウンスの声が響き渡る中、『Dangerous Flower』のややスローテンポの妖艶で蠱惑的な旋律が低音を効果的に奏でながら流れてゆく。甘い香りで魅惑するような曲に浮かび上がるは、アルラウネをモチーフにした毒々しい赤い花弁を連想させる衣装のエレクトラだ。花道の上部モニターの中で、妖艶な美女が不敵に微笑む。
「今日は相手がデビュー戦みたいですけど、全力で戦うのが礼儀。もちろん、負ける気はないわよ。選手としてもエンターテイナーとしても‥‥女としても、ね?」
カメラに投げキッス☆ 客席の野郎共が雄叫びの如き声援に沸くと、実況の声が響き渡る。
『美しき花は妖しの花。あなたも一夜の夢に惑わせましょう』
エレクトラはリングにあがると、アルラウネのドレスを色っぽく脱いだ。濃い緑基調のバトルスーツに魅惑的な肢体を包む美女が観客の声援に応えてゆく。
続いて流れ出すのは『Dancing Pumpkin』のあまり派手さはないがノリのいいポップロックだ。姿を現わすは、ジャック・オ・ランタンをモチーフにした黒いスーツ風の衣装に身を包む少女。不気味さを強調するかのように、かぼちゃマスクを被っての入場である。
(「がまんですよ! 麻奈華! 勝てばもっと華やかに演出してもらえるんだから! わッ!」)
視界が悪いのか、早々に躓き滑稽に倒れまいと踏ん張る姿に笑いが洩れた。コメディキャラの彩りが濃くなる中、マスクを配慮してか、モニターに映る麻奈華は部分的に捉えられ、意気込みを紡ぐ。
「エキシビジョンに指名して頂けたのですから、頑張るしかありません! このチャンスを無駄にしないよう精一杯やります! (ゴツっ★)痛ッ‥‥」
『やっと掴んだチャンスを活かせるか!? 美しき戦乙女達が、夜の国で姿を変え激突します!』
麻奈華はリングに上がるとかぼちゃマスクを剥いだ。目立つ特徴は見当たらないものの、少女特有の色香とピュアな雰囲気を醸し出していた。新人戦乙女に、妖艶な特徴だらけのエレクトラが近付く。
「よろしくね☆ いいデビュー戦を飾れる事を祈っているわ」
「あ、宜しくお願いします!」
差し出された褐色の手を握り、慌てて頭を下げる麻奈華。勢い余ってエレクトラのはちきれそうな胸元に頭を埋めてしまった光景には、客席からどよめきがあがった。ズズッとそのままの体勢で顔をあげる少女が、上目遣いで頬を染め、はにかむ。
「す、すみません‥‥」
「構わないわ☆ 外してくれると助かるけど」
<Round1 ready Fight!!>
ゴングと共にエレクトラはグローブを突き上げてアピールすると、優麗な白髪を靡かせて駆け出した。対する麻奈華も遅れを取ってはならないと間合いを詰める。刹那、アルラウネの美女が跳び、脛をパンプキン少女の胸元に叩き込んだ。稲妻レッグラリアートの特攻をまともに食らって吹っ飛ぶ。
<ダウン!>
(「なに? 素人じゃないんでしょ? スリップ?」)
エレクトラが赤い瞳を驚愕に見開く中、立ち上がった麻奈華がファイティングポーズを取る。今度は慎重に様子を窺うようだ。するとアルラウネの美女は微笑み、『来い来い』と言わんばかりに手招きして挑発。
――挑発? でも、ここで乗らないと話にならないですよね! えぇいッ!
駆け出すパンプキン少女を捉え、エレクトラの前蹴りが制すると、ジャブやワンツーを繰り出して逆に肉迫した。麻奈華の頭を左右のグローブで固め、アルラウネの美女が一気に腰を入れる。叩き込まれたのは首相撲からの膝だ。呼吸を奪われた少女が再び豊満な谷間に傾く中、ショートアッパーが彼女を浮かせた。白髪の美女が赤い瞳を研ぎ澄ます。
――ちょっと!? このままダウン!?
立ち技のみの格闘技の場合、力の差は開始数秒でKOを招く事もある。
麻奈華の身体が仰け反った瞬間を捉え、エレクトラは強引に彼女の片膝に飛び乗ると、膝蹴り――シャイニングウィザード――を叩き込んだ。駄目押しの洗礼を浴びた少女がマットに沈む。
<ダウン! 2ダウンにより、エレクトラ選手のTKO勝利とします!>
どよめきと歓声の中、アルラウネの美女は声援に応えると、朦朧とした意識の麻奈華へ歩み寄る。
「大丈夫?」
「ふぁい‥‥あ、全力で戦って頂き、有り難う‥‥ございました‥‥」
フラリとよろめく少女は再び温かい膨らみに倒れ込んだ。
●Aブロック第一試合:ブリッツ・アスカ(fa2321)vs各務 神無(fa3392)
篠笛のソロで流れた。篠笛と三味線の音色が印象的な『INAZUMA Striking!』の凛々しくも激しいリズムの和風ロックが響き渡る中、雷光の如く点滅するスポットライトに照らされたのは、モチーフを鬼としたアスカだ。ボーイッシュルックスながらも魅惑的な肢体の娘は、黒いタンクトップを身に着けており、スパッツに雷イメージのジグザグ虎縞模様のベストを羽織った腰巻姿で花道を歩いてゆく。
上部モニターに端整な風貌が映し出されると、何故か客席から娘たちの黄色い声援が飛んだ。
「確かに他の仕事もしてるけど、俺は、あくまで自分の本業は格闘家だと思ってる。だから、それ以外がメインの相手にだけは絶対負けたくないし、負けられない! 格闘家としての意地と誇りに賭けて戦う。つまらなくても確実に勝ちに行くことを許してくれ。今日だけは‥‥鬼になる!」
カメラを見据える眼差しに再び歓声が沸きあがる。さすが格闘アイドル女優。
続いて流れる旋律は、アップテンポの疾走感のあるロックだ。やや暗い曲調の中に、月光を受けて光る牙のようにフルートの澄んだ音色を煌かせる『Silver Fang』が奏でられると、モチーフが人狼の神無が月明かりに照らされるように浮かび上がった。普段通りのスーツとコートに身を包み、愛らしさとは異なる雰囲気の狼耳を装着しており、腕や足回りに獣毛のアクセントが施されている。後方を共に進むのは、演歌歌手の紗亜弥だ。
火の点いていない煙草を咥えた聡明な雰囲気を醸し出す銀髪の娘がモニターに映し出された。
「ん‥‥全力は尽くすよ。取り敢えず、私が愉しめる位にはね。‥‥こう言うのは苦手なんだ、これ以上の事は言えないよ」
『万聖節の夜、黄泉より還るは滅びし銀狼。その魁偉、禍風の爪牙を稲妻に剥く!』
<Round1 ready Fight!!>
――ここでまず勢いに乗れれば!
ガードを固めて一気に鬼娘が間合いを詰めた。狼娘がバックステップを踏むものの、雷光の如き勢いに捉えられ、隙の少ないローキックが唸る。対する神無はフェイントを交えた可変蹴りで牽制するものの、太股は強襲に戦慄く。
――なるほど、蹴りが得意って事はあるようだね。
――守りに入る訳にはいかないんだよ!
尚も畳み掛けるアスカのローキックは止まらなかった。しかし、同じ攻撃はそうそう浴びせられるものではない。狼娘は脛でガードを行い、時にカウンターの蹴りを放つ。カウンターに注意していたものの、鬼娘は洗礼を叩き込まれる。だが、ダメージは低いようだ。神無の赤い瞳が戸惑いを見せる。
――私の攻撃が効いていない? くッ、まだ狙うか!
執拗に相手の軸足にローキックを浴びせるアスカ。刹那、鬼娘の左ローは十分に腰を捻った刈るような下段回し蹴りに変わる。それでも狼娘のガードは揺るがず、蹴り合いの攻防が続く中、ゴングが鳴り響いた。
――相手の攻撃を見切って的確にガードするんだよ。
マリアーノ・ファリアスの言葉がアスカの脳裏に過ぎる。彼女は試合の為に少年と訓練を続けたのだ。
(「悪いなマリス‥‥なかなかガードとまではいかないよ。けど、訓練の効果かな、やれそうな気がする」)
鬼娘はセコンドと会話を交わす神無を見据えて不敵な笑みを浮かべた――――。
(「‥‥どういう事だ。私のパンチや蹴りでは倒せないのか?」)
「大丈夫ですか? 神無さん」
冷静に戦況を分析する中、紗亜弥が心配気に顔を覗き込んだ。1Rは素人から見ても神無が劣勢なのが分かる。銀髪の娘は薄く微笑む。
「アスカさんは静よりも動の気質みたいだからね。禍風とは速さの事じゃない。その本質は、惑乱させ絡め取る事にあるのだからね」
「?」
<セコンドアウト Round2 ready Fight!!>
――いっけえぇぇッ!!
アスカはゴングと同時に走り込み、宙を舞うと側頭部狙いの変形浴びせ蹴りを放った。だが、分析眼に秀でる神無は防御に徹しながらバックステップで防いだ。しかし、鬼娘も想定内。失敗しても転倒した相手に攻撃は加える事が出来ない。スリップで仕切り直せる筈だ。
『Fight!!』
レフリーの声と共に、再びアスカが狼娘の足を狙う。刹那、神無の赤い瞳が獣の色を見せた。タイミングを合わせて攻勢に出たのだ。対する鬼娘もローキックを中心に手数で攻める。激しい打撃戦に会場が沸いた。
――見誤ったかな? 打たれ強い相手ほど厄介なものはないからね!
――ローでダメージを与えたのは序盤のみ! だったら攻め続けるしかない!
互いに力を出し切るような攻撃が続く中、一瞬グラリと揺れたのは狼娘だった。勝機を見たアスカは左足を軸に踵を返すと、腰に捻りを加えた右下段後ろ回し蹴りを薙ぎ放つ。しかし、得意技は神無の脛に防がれ、ゴングが鳴り響いた。
判定はドロー。1分間の延長戦の中、スタミナに分があったアスカが勝利を掴んだ。
●Aブロック第二試合:MAKOTO(fa0295)vs尾鷲由香(fa1449)
ダークヒーローでも登場しそうなメロディが流れてゆく。『Mistress』のやや落ち着いた感じの力強い旋律が奏でられる中、モチーフが魔女の衣装で照らされるは、MAKOTOだ。優麗に流れる金髪に唾の広めな黒い帽子を被っており、全身を漆黒の外套に覆う姿は正にミステリアスである。
モニターに類希な美女が映り、意気込みを紡ぐ。
「春の時よりウェイト増えてるけど、鈍くなってる訳じゃないんでそこん所ヨロシク♪」
グッと親指を突き出し微笑む画面の中、花道を歩いていたMAKOTOはリングまで後10m位の所に差し掛かると帽子と外套を脱ぎ捨てダッシュ! ロープを飛び越えてリングに降り立った。
照明を浴びて声援に応えるは、ベルトを多用したボンテージ風戦闘コスチュームに包まれた魅惑的な肢体だ。エレクトラと対戦したなら、或る意味では華やかな試合となったかもしれない。
続いて流れるは、星空の下を吹き抜ける一陣の風をイメージしたアップテンポの曲だ。『Midnight Wind』の旋律に乗って、蝙蝠をモチーフにした由香がスポットライトを浴びる。濃い焦茶のバトルスーツに肢体を包み、腕には黒長手袋、足にはブーツを、背から肩、腕にかけて蝙蝠の羽根が絡みつく刺繍が施されていた。モニターに精悍な風貌が映し出される。
「今回は負けねぇぜ!」
『大鷲はハロウィンの夜、因縁の対決の為に姿を変える! ウィッチとバットガール! 今宵生き残るのはどちらだ!?』
「MAKOTO、よろしくな(勝てばブリッツと、か)」
「ヨロシク、良い試合にしようよ」
<Round1 ready Fight!!>
蝙蝠の如く一気に駆け出したのは由香だ。魔女は向かって来る距離に合わせてローキックを放つ――刹那、蝙蝠娘の足が視界から掻き消えた。空を切るMAKOTOの下段蹴りの中、宙を舞う由香が飛び後ろ回し蹴りを薙ぎ放った。十分に腰を捻った一撃に、魔女が揺れる。続けて姿勢を低くした所から大きく踏み込んでの腹部に双拳返し突きを叩き込み、体勢の整わないMAKOTOに畳み掛けてゆく。しかし、踏み込んだ勢いから繋げて振り上げたしなやかな足は、魔女の肩に叩き落とされる前にワンツーの連打に阻止された。由香の顔が苦悶に歪む。
――調子に乗り過ぎたか‥‥突きが効かなかったな。
――二ヶ月でココまで腕上げるとは‥‥流石!
互いにダメージを重ねる中、双方のローキックが唸った。スピードが速い分、由香の放つ膝裏を狙った蹴りが先に衝撃を与えたが、MAKOTOの薙ぎ振るう脹脛を捉えた強打も互角のインパクトだ。軸足が戦慄く蝙蝠娘が踵落としに転じられぬと、魔女はボディにジャブを繰り出した。グラリとスタントマンが揺れる。
――今だ! 防御ごと叩き伏せる様に打撃を捻じ込むんだよ!
ローキックとワンツーを散らせて特攻を掛けるMAKOTO。一撃が重い分、スピードは鈍い。由香は避けられぬと見るや受け流しに転じると、強靭な脚力とバランスを活かして、膝から下のスナップを利かせ、踵で引っ掛けるような掛け蹴りを放つ。テコンドーでも高等テクニックの蹴り技だ。身長は僅差、魔女の脳を激しく揺さ振る中、続けて胸部に廻し蹴りを薙ぎ放った。ゆらりと傾き魔女はガクリと膝を着く。
<ダウン!>
何とか立ち上がり、MAKOTOがファイティングポーズを構える。由香がスピードに乗って攻めて来る分、1Rが長く感じられた。
――肘が殆ど使えないのは痛いな〜。何とか自分のペースを掴む!
レフリーの声と共に、先に動いたのは由香だ。ローキックからワンツーのボディ狙いに踏み込むと、魔女はサイドキックで応戦。蝙蝠娘が吹っ飛ぶ中、間合いを詰めるべく追撃を試みる。しかし、ショートレンジは彼女も狙っていた間合いだ。
――スピードはこっちに分があるんだ!
しかし、蹴りに足を腫らすものの、打撃にMAKOTOは怯まない。膝蹴りからアッパーへ繋げる洗礼を受け流すに適わず、由香が揺れる中、太股裏へのローキックを軸にした踵落としを繰り出すと、回し蹴りの連撃に意識が跳んだ。
<ダウン!>
蝙蝠娘が立ち上がって構えた刹那、ゴングが鳴り響いた。
<Round2 ready Fight!!>
――パンチはそれほど効かないようだね。なら、持てる全てを使い畳み掛けるよ!
――全力で最後まで攻め続けるッ!
戦況は振り出しに戻った。由香のスタミナ不足は否めないが、彼女のスピードが完全に捉えられた訳ではない。蝙蝠娘が懐に飛び込むのを迎撃する事は適わず、顎へのフックと肝臓へのパンチを同時に叩き込まれた。しかし、ダメージは少ない。対してMAKOTOはローキックを薙ぎ放つものの、由香のガードに受け流される。刹那、緑の瞳が研ぎ澄まされた。
――尾鷲の名前は伊達じゃない!
魔女のハイキックが繰り出される瞬間、蝙蝠が舞う如く顎狙いの跳び膝蹴りを叩き込んだ。金髪を舞い躍らせ仰け反るMAKOTOに前蹴りが浴びせられ、派手に吹っ飛ぶ。
――やっぱりスピードの違いかな‥‥。
パワーは絶大な威力を誇るが、どうしても後手に回る為、スピードに乗った洗礼にダメージを蓄積させる結果となる。あと僅かにでも打たれ強ければ、蝙蝠は舞う事しかできなかったかもしれない。
――ここで決めるぜ!
由香は魔女の脇腹へミドルキックを薙ぎ放つと、右ストレートと左アッパーのコンビネーションから十分に腰を捻った廻し蹴りを叩き込んだ。激しい攻防の中、ゴングが鳴り響く。
判定の結果は僅差で由香が勝利を得た。
「危なかったぜ」
蝙蝠娘が握手を求めると、MAKOTOは力強く握り返す。
「パンチも使うなら、もっと磨いておくんだね。次は負けない」
不敵に微笑む魔女の瞳は、何かを掴んだように輝いていた。
●Bブロック第一試合:竜華(fa1294)vs月影 愛(fa2814)
中華風の旋律が奏でられる。中国伝統楽器の二胡を取り入れた『Reddish Moon』は、やや遅めのテンポで刻まれて、妖しくも美しいメロディーを流してゆく。淡いライトに浮かび上がるは、吸血鬼をモチーフとした竜華である。アジアンクロスのシックな色合いのチャイナドレス風衣装は、豊かな胸元を浮き上がらせ、背中は大胆に開いており、動き易いよう入れられた深いスリットがセクシーだ。
モニターの中で美女が意気込みを告げる。
「日頃のクンフーの結果を見せて、武術師としての活動をアピールしたいわね。武術は鍛錬・求道あるのみ、この試合を経てより高みを目指すわ。目指せ戦乙女! よね」
普段は軽めだが、武術に関しては真面目らしく、凛々しい顔立ちに緑の瞳を研ぎ澄ませた。
竜華はリングに上がると、男性ファンの声援に応えるように投げキッスのサービスを振り撒く中、激しさと可愛らしさを併せ持つ旋律が響き出す。気紛れな黒猫をイメージした『Crossing Your Way』の曲は、猫の足音を表現したマリンバの音色がポイントだ。入場するのはケット・シーをモチーフとした愛。猫耳と尻尾を施されたセパレートの衣装に細身を包み、曝け出した腰から白い肌が覗く。
(「うーん、この衣装も可愛いからいっか♪」)
打ち合わせ時間が無かった為、丈の短い魔女っ子風ドレスを用意して来たのだが、音楽も猫に統一されていた為、今回は作成された衣装となった。仕事柄頼まれる事には慣れているのだろう。
黒猫をイメージした肘下までの長手袋をあげて声援に応え、同様に黒い長靴風ブーツで軽やかに花道を歩いてゆく。
上部モニターで少女が元気な声をあげた。
「またまた、参加しますー♪ がんばるから、応援よろしくねー! ビデオもよろしくねー☆」
ウィンクと共に投げキッス☆ 気の所為か、薄闇でパッケージを掲げる野郎共と本数も増えているようだ。正直、竜華にとって面白い光景ではない。
「なに? あんな乳臭い小娘のどこがいいの?」
『妖艶なる女吸血鬼vs愛くるしい子猫娘! 対極に位置する美しき戦乙女の戦いは既に始まっているようだ!』
<Round1 ready Fight!!>
愛が我流格闘『艶武』の構えを取る中、八極拳を基本とした中国拳法の足取りで竜華が間合いを詰める。刹那、一気に踏み込むと共に、妖艶なる女吸血鬼が胸元目掛けてグローブを叩き込んだ。様子を窺っていた猫娘がくの字に曲がり、愛らしい風貌を歪める。
――かふッ! やっぱり受けられないかぁ‥‥。だったら!
連打を抑えながら一発一発に渾身の力を注ぐ打撃に、カウンターを合わせるべくジャブを放つ。しかし、身長差が有り過ぎた。猫娘のパンチが届く前に女吸血鬼の重いパンチが炸裂する。
――ダメぇッ、このままじゃやられっぱなしだよぉ。
――逃げないか‥‥。正面から来るなら、受けてたつ!
正に抗う乙女の鮮血を狙う吸血鬼の様相が続いた。
愛は何とか牽制のジャブを交えて懐に飛び込もうとするが、スピードの伴わない接近は竜華の恰好の間合いだ。牙の如く鋭い膝が突き刺さり、打ち下ろしの強打に迎撃される。愛の細い足が覚束ない。
――ハァハァ、どうしよう‥‥接近できないよ‥‥。
カードが決まった時点で、彼女は苦しい戦いになる事を分かっていた。
――それでも精一杯がんばるよ♪
――愛‥‥この娘の瞳は未だ死んでいない。可愛いじゃない!
ダメージを蓄積させた猫娘に吸血鬼が襲い掛かる! 相手が回避し辛い中心にパンチを打ち込み、ガードを弾き、薙ぎ振るう蹴りは白い足を赤く腫らした。ストンと愛の腰が落ちる。
――やんっ!?
<ダウン!>
ペタンと座り込む中、カウントが数えられてゆく。一瞬放心状態に陥った猫娘が腰をあげてファイティングポーズを構えた時、ゴングが鳴り響いた。
<Round2 ready Fight!!>
――艶武のセクシーな感じも出してないし、ビデオの売り上げ貢献もしなきゃ!
それは我流故のデタラメな動きだった。受けと避けを混ぜながら接近を試みるステップは迎撃されるものの、まるで踊りのようだ。グローブを薙ぎ振るい、蹴りを放ち、竜華に相殺されながらも、健気に挑み続けてゆく。既に蓄積されたダメージも大きい。ガクンと愛の膝が折れた――次の瞬間、しゃがみ込んだまま廻し蹴りを薙ぎ放った。しかし、それが彼女の最後の攻撃――――。
飛び込みに合わせた膝が炸裂したのだ。小柄な少女の懐を狙った洗礼は予想外の部位に叩き込まれ、乙女は血を奪われて舞う。
<ダウン!>
仕事に支障を来たす傷では無いようだが、愛が立ち上がる事は無かった。
――愛‥‥艶武、見せてもらったよ‥‥。
●Bブロック第二試合:アジ・テネブラ(fa0160)vs因幡 眠兎(fa4300)
中世ヨーロッパをイメージした荘厳たる旋律が響き渡った。若干クラシックの要素を取り入れた『Master of the Night』のハードロックが奏でられる中、モチーフを悪魔としたアジがスポットライトを浴びる。露出の抑えられた濃い紫色のナイトドレスはスカートが愛らしく揺れないよう施しが成されており、背中に小さな悪魔のイメージする禍々しい翼を生やしていた。
上部モニターに映る少女が胸元に垂れる三つ編みを揺らしてはにかむ。
「今夜はイメージとは違いますけれど‥‥よろしくお願いしますね? 今夜私は悪魔になります‥‥♪」
『百合が示す名はリリス、百合の戦乙女は万聖節の夜に古の悪魔の姿をとる』
次いで流れるは、中国音楽の要素を取り入れつつも、全体としてやや軽快な感じの『Jump Up!』の旋律だ。姿を浮かばせるはキョンシーをモチーフとした眠兎。紫基調のカンフー着に身を包み、お札の貼られた帽子を被っている。芝居にまで余裕が無いのか、流石に両手を前に突き出してピョンピョンと跳ねたりはしない。
上部モニターで、童顔の少女が波打つ柔らかそうな黒髪を揺らしながら拳を掲げ意気込んだ。
「対抗戦での汚名を返上! 憧れの舞台だからね、無様な姿は見せられないよ」
『憧れのリングに予告通り姿を見せた挑戦者! 第1回最強トーナメント戦準優勝の悪魔を下す事ができるか!?』
<Round1 ready Fight!!>
アジが我流独特の構えを取る中、眠兎は小柄な身体を更に丸めて、ガードを固めたピーカブースタイルで低い姿勢を保ち機会を窺うようだ。ジリジリと互いに間合いを詰めてゆく。
――ミントさんも様子見かな‥‥。なら、足を封じさせてもらうね!
疾風の如く妖美な悪魔が踏み込み、褐色のローを薙ぎ放った。弾けるようなインパクトが響き渡る中、一気に銀髪の少女は間合いをアウトレンジに広げる。俊敏な動きに、キョンシーの少女は強引に飛び込むものの間合いが詰まる事が適わない。逆に牽制のローが唸り、会場が沸く。
――アジさん速いな。完全に自分の間合いをキープしている‥‥。
スピードと身長(リーチ)差。次第にアジのローは脛でブロックされるようになるが、褐色の悪魔は接近を許さない。静かな攻防が続いたその時――――。
――ッ!?
間合いを詰めに掛かったアジに、眠兎は僅かにガードを下げた。客席がどよめく中、二人は互いに隙を覗かせたまま膠着状態に入る。真剣での決闘の如き緊迫感がリングを包んでゆく。思わずレフリーが「ファイト!」と声をあげるのに戸惑う程だ。
――なぜ攻撃して来ないんだよ? 誘っている!?
ここでゴング。
<Round2 ready Fight!!>
接近戦を挑むべく跳び込む眠兎。しかし、アジは1R同様に牽制しながら距離を置く戦術を変えなかった。キョンシー娘のグローブは空を切るのみで、望むべき状況にならない。
――また同じ? このまま時間切れの判定になれば私が負けちゃうじゃない!
試合は中盤に差し掛かった刹那、褐色の悪魔は澄んだ青い瞳で相手を見据えた。眠兎の詰めに牽制のローキックは唸る気配は無い。ウィービングに長い黒髪を揺らしながら、マルチタレントの少女が踏み込んだ。褐色のボディに狙い定め、グローブを叩き込む! 同時にアジのグローブが唸った。
――カウンター!?
一気に打ち合いの様相と化すリングに会場が沸きあがり声援や歓声が渦を巻く。
スピードのアジに、パワーの眠兎。しかし、マルチタレントの少女は牽制のローを食らい過ぎていた。踏ん張る脚力の鈍ったパンチは威力を低減させてゆく。況して最大の判断ミスは、彼女がボクシングスタイルに固執し、足技を攻防に考慮していなかった事かもしれない。
――くッ、パンチは重いけど、そればかりじゃ私を倒せないよ!
ボディを狙うべき頭部からグローブが離れた刹那、褐色の悪魔は苦悶に歪む青い瞳を研ぎ澄ませると、鞭の如きハイキックの洗礼を浴びせた。グラリと揺れる眠兎。空かさずアジは間合いを取ると、ローの連撃から十分に腰を捻り、体重を掛けた跳び後ろ回し蹴りを叩き込んだ。
<ダウン!!>
褐色の悪魔もボディブローのダメージは軽くない。再び戦慄く足を起こしてキョンシー娘が立ち上がりファイティングポーズを構える中、ゴングが鳴り響いた。僅差の攻防だが判定はアジの勝利だ。
「とっても良い試合だったよ‥‥またもう一回勝負しよう‥‥!」
差し伸べられた褐色の手に、眠兎は怪訝な色を赤い瞳に浮かべて小首を傾げる。
「一回だけ? 次は負けないからね!」
悪癖をチラリと覗かせながら、少女は微笑み握手に応えた。
●トーナメント結果
次回対戦カードは棄権が無い限り、画面に表示されているものとなります。
・Aブロック決勝:ブリッツ・アスカvs 尾鷲由香
・Bブロック決勝:竜華vsアジ・テネブラ
・Aブロック3位決定戦:各務 神無vs MAKOTO
・Bブロック3位決定戦:月影 愛vs 因幡 眠兎
NEXT:1125公開予定