ワルキューレリーグR2アジア・オセアニア

種類 シリーズEX
担当 切磋巧実
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 9.9万円
参加人数 8人
サポート 2人
期間 03/13〜03/17
前回のリプレイを見る

●本文

●TVCM
 ――その名はワルキューレリーグ。
 これは4人リーグを2ブロックに分かれて行う『総当り』戦である。
 そこに派生するものとは何か? それは戦略である。
 先に弱い相手を倒すか、強い相手に挑むか。
 テクニックを磨く鍛錬を積めば、逆転の可能性もある訳だ。
 システムはポイント制。つまり試合で勝てば1ポイントとなる。
 リーグ戦を繰り広げた後、最終的にポイントが多い選手が最強となるのだ。
 開幕は桃の節句と雛祭りの時期を予定していたが、WEAの情報を検索した結果、既に選手でスケジュールが入っている者が数名いた為、13日に変更。桜や卒業等をテーマに出来るかもしれない。
 様々な想いを胸に、ワルキューレが降臨する――――。

●試合形式
 グローブを嵌めての2分2ラウンド制。
 2ノックダウンシステム。
 投げ、関節技は無し。膝蹴りOK。手足以外での攻撃、及び背後からの攻撃は反則。
 勝負はKO・TKO・判定で決定。
 エンターティンメント性を高くしており、衣装は組み技が無い為自由(但し金属物が付いたものは禁止)。

●募集区分
・ワルキューレ(格闘技未経験者参加OK)
 試合を行う選手です(これまで出場していなくても参加OK)。
【コスチューム】
 自由(但し、クリエイトと連携していない場合、描写は最小限とさせて頂きます)。
【対戦相手】明記して下さい。
【格闘スタイル】空手とかテコンドーとか。
【自己PR】インタビューや対戦前のスクリーン等で表現される予定です。
【試合の組み立て】どのように試合を組み立てるのか明記。
 少し書式を変えましたので間違えないようお願いします。
1:戦術傾向【前半】【中盤】【後半】に(攻撃重視・ガード重視・避け重視)を割り振ります。

2:1ラウンド12回の行動をカテゴリーから【前半】【中盤】【後半】に4回ずつ割り振ります。
◆カテゴリー<上段ジャブ><上段ストレート><上段フック><上段アッパー><中段(ボディ)ジャブ><中段(ボディ)ストレート><中段(ボディ)フック><中段(ボディ)アッパー><前蹴り><横蹴り><後ろ蹴り><下段廻し蹴り><中段廻し蹴り><上段廻し蹴り><後ろ廻し蹴り><膝蹴り><踵落とし><ガード><避け><その他>
*<その他>とは格闘スタイルによる専門的な攻撃手段がカテゴリーに無い場合に使います。但し、コンビネーション、グローブで使えない技、カウンターは該当しません。
 因みに互いにパンチ系が交わった場合、身長や技量から判断し、自動的にカウンターとなります。
 また、12回分を攻撃系で散らせば、コンビネーションになります。

3:結果的に以下のような戦術書式となる筈です。
1R
【前半】(攻撃重視)<下段廻し蹴り><上段ジャブ><上段ストレート><中段廻し蹴り>
*解説:兎に角攻撃を優先。相手の攻撃が放たれも攻撃します。

【中盤】(ガード重視)<下段廻し蹴り><ガード><下段廻し蹴り><下段廻し蹴り>
*解説:<下段廻し蹴り>を放つ予定だったが、攻撃が来たのでガードを優先します。但し、技量が相手と同等か秀でていた場合のみ有効です。必ずカテゴリーから<ガード>を1回選択しなければなりません。

【後半】(避け重視)<避け><下段廻し蹴り><上段フック><上段アッパー>
*解説:<避け>の後、<下段廻し蹴り>を放つ予定だったが、攻撃が来たので避けを優先します。但し、技量が相手と同等か秀でていた場合のみ有効です。必ずカテゴリーから<避け>を1回選択しなければなりません。

【得意技(コンビネーション等)】
 得意技は有利に展開した選手がフィニッシュで発動できます。
 サポート参加があれば、特訓したとして、対戦者と同じレベルだった場合、有利に展開できるかもしれません。体力/格闘/軽業 から1つ選択して下さい。

・実況
 状況を視聴者に伝える方です。選手のキャッチコピー等明記。
 殆ど実況で状況が伝えられます。自分の個性を出せるよう台詞を決めておくのも一興です(実況がいなければ地の文章で表現されます)。

・控え室リポーター
 選手の控え室をリポートする人です。普通は遠くから様子を窺うのみですが、勇気があれば突撃して見ましょう(笑)。どんな事を訊ねるのか事前に打ち合わせて下さい。

・解説者
 格闘技を生業としている方で、試合の状況に解説を入れる方です。
 ワルキューレリーグは素人も参加可能な格闘技ですので、無名でなければ担当できます。

・セコンド
 選手につくセコンドです。出番は少ないですが、セコンドがいると対戦中にアドバイスを受けて有利に展開できるかもしれません。体力/格闘/軽業 から1つ選択して下さい。
 因みにサポートで特訓するより、セコンドの方が有利です。
 尚、紗亜弥やリザーバーを入れても特殊効果(?)は発動しません。
 リザーバーのセコンドも試合を行っていなければ可能です。

・紗亜弥トレーナー(サポート参加)
 エキシビジョンマッチで紗亜弥が指名された場合、トレーナーとして1日を使い特訓する事が可能です。
 尚、彼女のレベルはサポート参加者の数で変化します。体力/格闘/軽業 から1つ選択して下さい。
 紗亜弥を介して他のリザーバー選手の特訓も可能です。

・ラウンドガール
 選手のつかの間の休息時に、リングで彩りを与えます。

●リザーバーNPC:枠が合わない、エキシビジョン希望などに指名できます。
*紗亜弥(演歌歌手)
 闘う演歌歌手。事務所に騙され嫌々出場したり合宿を経て、成長を見せたか!? デビュー1周年を迎え、更なる躍進を目指す。

*フォビトン・フルート(女優)
 アルマイトの旗も一段落。格闘家へ転進か? セミロングヘアの眼鏡美少女。

*法衣 麻奈華(学生)
 やる気はあるがチャンスに恵まれない未知数の格闘大好き娘。誕生日がクリスマスイブでなかなか複雑な人生を送って来たらしい。因みに去年も複雑だったようだ。
 結構ドジっ娘らしい。

●今回の参加者

 fa0203 ミカエラ・バラン・瀬田(35歳・♀・蝙蝠)
 fa1449 尾鷲由香(23歳・♀・鷹)
 fa2321 ブリッツ・アスカ(21歳・♀・虎)
 fa2910 イルゼ・クヴァンツ(24歳・♀・狼)
 fa3251 ティタネス(20歳・♀・熊)
 fa3392 各務 神無(18歳・♀・狼)
 fa3996 サマーラ・タマナ(24歳・♀・犬)
 fa4300 因幡 眠兎(18歳・♀・兎)

●リプレイ本文

●main theme
 ――花道を彩るは梅の樹だ。
 軽くならず、柔らかくもなく、適切に調整されたライティングに落ち着いた色彩を放っている。
 ワルキューレリーグ第2戦を飾るメインテーマは『華』。会場の照明が落ち、アナウンスが響く。
<只今より、ワルキューレリーグ第2戦第1試合を開催します!>
 花道に描かれた、梅、桃、桜といった春の花が咲き乱れる中、闘いは始まろうとしていた。

●第一試合:イルゼ・クヴァンツ(fa2910)vsサマーラ・タマナ(fa3996)
 奏でられてゆくは、雅楽を取り入れた荘厳な旋律だ。奈良時代に朝鮮や中国などから伝来した音楽であり、日本で模したものと謂われる音色の中、白い胴衣と黒い袴姿のイルゼがスポットライトを浴びる。胴衣の前は肌蹴ており、褐色の胸元に巻かれた白いサラシが鮮烈だ。
 艶やかな入場に歓声や声援が飛び交う中、リング上部モニターに、感情を顕さないミステリアスな赤い瞳の娘が映る。
「向こうは格闘家‥‥(格闘センスで劣るとしても)負けはしません」
 相変わらず自分内で処理して結果のみ口に紡ぐ不思議娘は、ほやんとしながらも、しっかり挑発しているように見えただろう。
 花道を歩く中、梅の花が舞うと共に胴衣を払い、もろ肌脱ぎでリングへあがった。
 続いてベースの旋律が鳴らされ、タイの古典音楽風の音色が奏でられてゆく。スポットライトに照らされたのは、サマーラ。黄色い半袖Tシャツと、左右に赤いラインを一本描いたハーフスパッツに筋骨凛々しい褐色の肢体を包んでおり、格闘スタイルを物語る如く、ウェーブの効いた長い茶髪の額に赤いモンコンが巻かれている。
 悠然と花道を進む中、モニターに映し出されるのは、瞑想したままモンコンを結って貰う厳かな光景だ。準備が整うと鋭い眼光を開き立ち上がる。
「戦う前から勝った負けたの結果論は言いたくないけれど、どちらにしても醜態はさらさないようにしたいね。神には嫌われたくないからね」
 カメラに意気込みを伝えると、サマーラは控え室を出て行く――――。
 共にオリエンタルな雰囲気を醸し出す褐色の戦乙女同士の闘い。
<ワルキューレバトルR1――ready Go!!>
 ――前回逃げ回ったから向こうも意識してくるはず‥‥。
 ゴングと共に優麗な銀髪を靡かせ、イルゼが肉迫と共に上段ジャブを放つ。上半身の艶やかな露出も相俟って、軽快に映った事だろう。俊足の曲芸師にタイミングを崩され、サマーラの赤いモンコンがグローブの洗礼に揺れる。
 ――私の避けが間に合わない!? ‥でしたらッ!
 出端を挫かれたムエタイ選手は下段廻し蹴りを返そうと袴に包まれた脚を狙った刹那、半身に転じたイルゼの横蹴りが腹部に衝撃を与え、褐色の肢体が吹っ飛んだ。更に風を切る如く追撃する赤い瞳が迫り、サマーラは躱すべくステップを踏む。
 ――速いッ!?
 褐色の足が踵を返すと共に腰を大きく捻り、薙ぎ振るわれた上段廻し蹴りに再びウェーブの効いた茶髪が揺れた。次いで薙ぎ落とされる下段廻し蹴りのモーションが残像を描き、サマーラ避けられないと踏むや、下段廻し蹴りに入る。ダメージを重ねた故の思考低下が影響したかは定かでないが、軸脚を蹴られたムエタイ選手は一瞬宙を浮き、マットに崩れた。
<ダウン!>
 身長はイルゼより低いとはいえ、筋骨逞しさを浮かび上がらせる褐色の娘がダウンした事に客席からどよめきがあがる。サマーラは直ぐに立ち上がりファイティングポーズ。試合は続行された。
 しかし、前半の速攻と裏腹に、一瞬の間を置いた後、銀髪の曲芸師は避けに転じる。踏み込む下段廻し蹴りをステップで躱し、そのまま踏み込むと袴に包まれた膝がボディを狙う。
 ――ガード‥‥!?
 サマーラはグローブを固めてガードに入ったのだ。赤い瞳が隙を窺う。
 次の瞬間、ムエタイ選手は鈍い衝撃を叩き込まれ、一瞬呼吸が止まった。ガードの隙を見極めたイルゼの膝が炸裂したのである。苦悶の表情を浮かべながらも前蹴りで吹っ飛ばそうとした刹那、既にステップと共に間合いを開き、銀髪の曲芸師は脚を薙ぎ振るっていた。瞬時にグローブを下ろしてガードに転ずるが‥‥。
 ――くッ、間に合わないのですか!?
 激しい衝撃音が会場に響き渡り、サマーラが揺れる。
 この瞬間、格闘センスに秀でたイルゼは確信した。
 ――相手は避けもガードに間に合わない‥‥スピードも私が上‥油断しなければ‥いける!
 ――私も素人ではありません‥‥勝てなくとも神に恥じない闘いをするまでですッ!
 サマーラは猛攻に転じてゆく。前蹴りを横に踏み込まれ躱され、下段廻し蹴りより先にボディへジャブを繰り出されても、銀髪目掛けて上段フックを振り被る。しかし、グローブが捉えたのは流れる銀髪が突風に舞う光景。次の瞬間、俊足の膝が突き刺さり、二、三打の連撃から、マットを蹴ってのバク宙気味にサマーソルトキックが繰り出され、イルゼの袴が優麗に翻る。
 見栄えを意識した技を顎に浴び、ムエタイ選手はマットに沈んだ。
<ダウン!! 2ダウンによりイルゼ選手のポイント獲得となります!!>

●第二試合:各務 神無(fa3392)vs尾鷲由香(fa1449)
 響き渡った旋律は暗かった。ベースを用いて重低音を奏でつつもスピーディな疾走感の伴うリズムを刻み、神無がスポットライトを浴びる。漆黒の男性用スーツに羽織った白いコートは、動きを阻害しないよう薄手の素材で軽量化を果たしており、衣装担当の工夫が梅の花に合わせて優麗に翻る様が美しい。
 続いて奏でられたのは三味線の音色だ。春の嵐をイメージした春風繚乱にして勇壮で壮大な感じの旋律と共に、迷彩柄のヘソ出しタンクトップにパンツ姿の由香がスポットライトに照らされた。
「技は向こうが上だがスピードはこっちが上なんだ。荒鷲の異名のごとく暴れてやるさ!」
 モニターに映る娘が緑色の瞳を研ぎ澄まして拳を滾らせる。対戦の後は勝敗に関係なく握手を求める爽やかさに、ファンも増え出した事だろう。
 リングに上がると由香が神無に近付く。
「戦うのは初めてだな、よろしく」
「‥‥そうですね、こちらこそ宜しくお願いします」
<ワルキューレバトルR1――ready Go!!>
 ゴングと共に両者一気に間合いを詰める。神無が無名の古流蹴術による前蹴りの体勢に転じるが、間合いは由香のものだ。テコンドーの派手な動作で中段廻し蹴り(カウンデ・トルリョチャギ)が銀狼の脇腹を捉え、優麗な長髪が舞う。
 ――ダメージは浅いな!
 ――遅いぜ!
 神無の中段廻し蹴りより先にモーションを描いた由香の上段廻し蹴り(ノプンデ・トルリョチャギ)が弧を描き、銀狼の脳を揺らす。次いで荒鷲は鋭利な爪の如き下段廻し蹴り(ナジュンデ・トルリョチャギ)を叩き込み、体勢が崩れた所に踵落とし(ネリョ・チャギ)を突き刺した。バイオリニストとて下段廻し蹴り、上段廻し蹴りと叩き込むつもりだったのだが、後手に回る分、リーチの差も生じてか攻めに転じる事が出来ない。紗亜弥が驚愕に瞳を見開く。
 ――各務さんッ!
(「‥‥ふむ、流石に速いか‥鷲を名乗るだけはある。それにテコンドーの心得も有りなら蹴術は得意な部類か。ジークンドーの心得も加えるなら、総合的にも中々の強敵‥‥だが」)
 神無がマットに沈まず構える中、由香は俊足で飛び込むと、後ろ廻し蹴りを薙ぎ振るう。弾けるような衝撃音が鳴り響く中、観客がどよめいた。
 ――なにッ!?
 衝撃で銀髪が靡く中、怜悧な赤い瞳が睨む。荒鷲の蹴りはグローブでガードされたのだ。直ぐさま体勢を整え、スタントマンの娘はノプンデ・トルリョチャギ、ナジュンデ・トルリョチャギと連撃に躍動する。しかし、強烈なインパクトを響かせるものの、神無のガードを崩しはしない。防戦一方だが、全ての猛攻を弾く様は観客に感嘆の声をあげさせる程だ。
 ――ハァハァ‥チクショウ! 何で当たらないんだよ! ‥‥ッ!?
 激しい蹴り技の応酬を繰り出す中、赤い瞳が鋭利に研ぎ澄まされる様を由香は見た。
『私は、狼の牙が鷲を捉えられないなんて事は無いと思いますよ』
 神無の脳裏に過ぎるは、少女のような風貌ではにかむ瞬華の声。
(「‥‥瞬華の言う通り、喩え大空の鷲が相手であろうと狼の牙が届く事を証明してみせる」)
 1ラウンド全てを攻め続けるには、それなりのスタミナは必要である。ノプンデ・トルリョチャギを弾いた後、銀狼が荒鷲の横腹に牙を剥いた。腹部の痛みに苦悶の色を浮かべる中、ゴングが鳴り響く。
 コーナーに戻ると、セコンドの少女は起死回生に興奮気味だ。
「すごいですよ! このままガードして隙を狙ってダウンしましょう☆」
「相手が2Rも攻め続けるならスタミナは奪えるよ。だが、どこかで間を置くならスタミナは回復する。1発じゃ倒れてくれそうもないからね。ここは一気に攻める!」
 紗亜弥は不安だった。確かに神無の分析も一理ある。しかし、攻めを重視するという事は、相手も攻め続ける場合、結果的にダメージを重ねる事になるのではないか?
<セコンドアウト‥‥ワルキューレバトルR2――ready Go!!>
 ――負けは怖い、でも進まなきゃ強くはなれない、だから突き進むまでさ!
 神無同様、由香も訓練に汗を流した。凛とした風貌の娘――ひろみ――はアドバイスする。
『格闘の技術は対戦相手が上だがスピードはイーグルが上、一撃の重さに怯んで持ち味を潰すより攻め続けろ。止まったら的にされるだけだぞ! 体力なんて気にしないでね』
「うおおぉぉッ!!」
 荒鷲は鳴きながら一気に間合いを捉え、踵落としを銀髪へ叩き込んだ。上段廻し蹴りのモーションに入っていた神無は頭上に叩き込まれた衝撃に脳を揺らす。重い蹴りなら体勢を崩してマットに崩れていたかもしれない。堪えた銀狼が下段廻し蹴りを薙ぎ振るうが、先に爪を煌かせたのは由香だ。脚へ叩き込まれた衝撃にガクンと体勢を崩す。次いで膝蹴り(ニーリフト)という嘴が狼のはらわたを抉り、次の瞬間、腰を回転させての後ろ蹴りが炸裂!
「各務さんッ、ガードですよッ!」
 少女の不安は的中した。スピードが同等ならカウンターで隙を貫く事も出来たかもしれない。しかし、後手に回る分、相手がガードに転じない限り、攻めるという行為は自滅に近いものだ。
 例えるなら、この闘いは自在に翼をはためかせて狼の軌道を逸らしつつ、上空から爪の洗礼を浴びせるようなものだろう。スピードが追い着かない限り、地上で鮮血を散らせながら、グルグルと周り翻弄されるしかない。だが、それはダメージを与えればの話だ‥‥。
 ――なにッ!? まさか‥‥。んな訳あるかよッ、沈めえぇぇッ!!
 ――ここまでだな‥‥分析は‥完了した。
 荒鷲が飛び掛り、上段アッパーを顎に放つ。次いで中段ストレートが銀狼に叩き込まれた刹那、観客がどよめいた。腹部に一撃を与えられたにも拘わらず、神無は上段廻し蹴りを返したのである。脳を揺らされ、由香が体勢を崩す。
 ――なんだ‥‥この重い蹴りは!? あれだけ叩き込んだのに‥‥まさか!?
 踏み止まり、再び中段で腹部を捉える。だが、次の瞬間、視界がグラリと揺れた――――。
<ダウン!>
 客席がどよめきと歓声に沸く。圧倒的に優勢に見えた荒鷲が銀狼の爪で地面へ押さえつけられたのだ。戦慄く足を堪え、ファイティングポーズを構え、由香が微笑む。
(「ハァハァ、一撃の重さに怯んで持ち味を潰すなだと? 体力なんて気にしないで、か‥‥。止まったら的‥‥。けどさぁ、何度叩き込んでも倒れず、オマケに返して来たらどうすんのさ‥‥あんまり格好悪いとこ見せられないな‥‥。それでも戦わなきゃならないんだろうな。全力で!」)
 ――動きが鈍ったかな。スタミナの疲弊とダメージの影響か‥‥。
 膝蹴りを突き刺した後、荒鷲は羽ばたき間合いを取る。その瞬間に狼の爪が上段廻し蹴りとして薙ぎ振るわれると、スタントマン娘が揺れたまま、後ろ廻し蹴りを薙ぎ放つ。確かにインパクトは足に感じたものの、神無は下段廻し蹴りを叩き込んだ。再び体勢を崩す由香に上段廻し蹴りが炸裂する。
<ダウン!! 2ダウンにより各務選手のポイント獲得となります!!>
「参ったな、力負けしたとはな」
 由香は苦笑しながら手を差し出すと、神無が握手に応える。
「流石、鷲を名乗るだけはありますね。私も打ち負けていたかもしれません」
「もうリーグ戦で闘う事はないけどさ、これからの試合は全て勝つつもりでいくぜ! 弱いって事はまだ強くなれるって事だろ?」
 荒鷲が不敵な笑みを浮かべてがっしりと握り返す中、銀狼は聡明な風貌を和らげた。
 ‥‥そうですね――――。

●第三試合:ブリッツ・アスカ(fa2321)vsミカエラ・バラン・瀬田(fa0203)
 三味線で弾かれるロック調のリズムと共に、豊かな胸元の谷間を疾る赤い稲妻マークがスポットライトに照らされる。白のセパレート衣装に魅惑的な肢体を包むのは、ボーイッシュな魅力で女子からの声援も高いアスカだ。クォータースパッツの左右にも赤い稲妻が描かれており、衣装担当のアレンジが新たな魅力を備えている。
「一日早いホワイトデーに、最高の勝利をプレゼントできるよう頑張るんで、みんな、今回も応援よろしくっ!」
 モニターで愛らしく微笑み軽くウインク☆ 一斉に黄色い声援が桃の花と共に吹き乱れた。勿論、肉感的な肢体に甘いルックスは野郎共も見逃す訳はないが‥‥格闘アイドル娘の守備範囲は広いらしい。
 次いでベースの音色で奏でられてゆくのは、重低音をふんだんに使用し、ダークさをメインに捉えた先鋭さを入り混ぜた旋律だ。作曲担当は完全に任されて苦心しただけに、仕上がりも上出来だろう。
 漆黒のレオタードに黒いエナメルで作成した胸当て・肩当・腰鎧風の装飾が成され、両手を手錠で拘束したミカエラがスポットライトを浴びる。ゆっくりと花道を歩む中、羽織った薄手の漆黒ガウンが舞い翻り、背中の白い逆十字模様が異質な空気を放つ。それでも両手を拘束された美貌の戦乙女は退廃的な彩りを漂わせ、声援よりも息を呑む野郎共が多い事だろう。
 モニターの中で褐色の美貌が微笑む。
「初出場ですケド、南米系のこの体は、伊達ではアリマセンよ? 気後れは、していまセン」
<ワルキューレバトルR1――ready Go!!>
 ――倒すか倒されるかという自分の原点に戻った戦いをするッ、攻撃は最大の防御!
 一気に間合いを詰めるアスカに対し、ボクシングスタイルでステップを踏みグローブを固めるミカエラ。
 ――さあ、初めましょうカ!
 ――ガード!? 出来るもんならやってみなッ!!
 肉迫と同時に軸足を返し、稲妻娘が突風を巻く如き右下段廻し蹴りを薙ぎ放つ。刹那、ステップを踏んで避けに転じたのはミカエラだ。しかし、間合いを見誤ったか、アスカの脚が延びる。
 ――躱しきれないデスって!?
 炸裂したローキックに褐色の美貌が苦悶に染まった。尚も軸足を変えて左内股へ下段廻し蹴りを放つ。
 ――左右の下段で左脚を潰させて貰うよ!
 執拗に浴びせられる洗礼に、ミカエラの膝が戦慄く。避けたいが足が言う事を聞いてくれない。身長差は僅かに褐色の美女が上だが、リーチに影響する程ではなかった。
 ――カウンターが当たれバ御の字よネ‥‥いらっしゃい!
 グローブを固める中、緑色の瞳にアスカの中段廻し蹴りが映る。やがて脇腹を強襲する鈍い痛みに呼吸が止まった。次いで荒ぶる稲妻は閃光の如き下段廻し蹴りを叩き込むと、ついにミカエラの膝がマットを着く。
<ダウン!>
 戦慄く足を堪えて立ち上がるミカエラがファイティングポーズを構える。
 ――なんて重い蹴りカシラ? スピードは私の方が上なのに‥‥判断を見誤っているってコト?
 これはアスカの格闘センスが秀でている証拠だった。幾らスピードが勝っていても、相手の攻撃が放たれてこその『避け』。自然にロープに追い詰められれば間合いは殺され、格闘アイドル娘に捉えられてしまう。しかし、痛み故か、その事に褐色の美女は気付けなかった。
 ――よし、捉えたよ!
 再び間合いを詰めたアスカの下段廻し蹴りが炸裂し、上段ジャブを叩き込もうとした刹那、中段廻し蹴りが脇腹を強襲する。意識が遠退く中、腰を回転させて薙ぎ放つは後ろ廻し蹴りだ。強烈な洗礼にミカエラの艶やかな黒いストレートヘアーが舞い、脳を揺さ振る。
 ――だめ‥カシラ‥‥身体が思うように動かないワ‥‥。
 ――唸れッ! アッちゃん☆スペシャル!!
 アスカの眼光が煌いた刹那、一気に身体を回転させた。後ろ廻し蹴りなら当に薙ぎ放たれるものの、更に回転を加え、遠心力を利用する如く回転廻し蹴り――アッちゃん☆スペシャルがミカエラのボディを貫く。駄目押しのような一撃に褐色の肢体がくの字を描き、そのまま意識を失いマットへ沈んだ。
<ダウン!! 2ダウンによりアスカ選手のポイント獲得となります!!>

●第四試合:ティタネス(fa3251)vs因幡 眠兎(fa4300)
<只今より、ワルキューレリーグ第2戦、最終試合を開始します!>
 桜の樹が花道を彩る中、春風をイメージした軽快な明るい音色で三味線が弾かれ、ガッシリとした巨体を桜色のトップスと黒のハーフスパッツに包んだセパレート衣装のティタネスがスポットライトに照らされた。褐色の肢体に華やかに吹き荒れる桜吹雪がエキゾチックに映える中、モニターで人懐っこそうな円らな瞳がカメラを捉える。
「『勝つと思うな、思えば負け』って聞いたんだけど、はなから負けるつもりでやるのも変だし、ここは引き分け狙いで! ‥‥カメラさん、なんで笑ってんだ?」
 訝しげに頬を膨らます姿が天然振り爆発だ。ティタネスがリングに上がると共に、旋律が奏でられる中、紅いジャケットと黒いショートパンツ姿の小柄な少女に客席がどよめく。眠兎は褐色の巨人と闘うには、あまりにも小さかったのである。ジャケットの背中で火の玉の刺繍と『Cannonball』の文字が颯爽と揺れるが、歓声というより声援が飛ぶ。
(「今回はまたパワーのありそうな人が相手なんだねぇ‥‥ついでにリーチも‥‥って言うか、あそこまでタフな人と闘うのは初めてじゃないかな? まぁタフさなら私もちょっと自信があったりするんだけど」)
 心情と裏腹に、モニターに映し出されるあどけない風貌は円らな赤い瞳を研ぎ澄ませて挑発気味だ。
「どっちが勝っても恨みっこなし! 立ち技ルールの所為で片手落ちだからって、手加減はしないよ」
<ワルキューレバトルR1――ready Go!!>
 ――何にしても、全力でやれそうだね‥‥お互い。
 一気に踏み込んだティタネスがカポエイラ風に砲弾の如きベンサォン(前蹴り)を押し出す。ボクシングスタイルで身体を揺らす眠兎は余りにも小柄であり、誰もが間合いに入る前に迎撃されると予想しただろう。強烈なパワーを浴び、結った長い黒髪が衝撃に舞い、突風を見事に食らった。しかし、倒れない。二本の足で踏ん張り、火花でも迸らんばかりの勢いで飛ばされるものの、堪え凌いだのである。固めたグローブの隙間から円らな赤い瞳が覗き、あどけない風貌が微笑む。これまで何度も一撃でダウンした選手を見て来ただけに、観客はどよめき、褐色の巨人が茶の瞳を驚愕に見開く。
 ――ガード!? 上手い人相手に守りに入ってもやられるだけだし、開き直ってガンガン攻めるよ。
 追い討ちを掛けるべく自分の間合いに捉えて再び放つベンサォンの巨砲。眠兎は再び飛ばされるものの、鉄壁のガードは懐を貫かせたりしない。だが――――。
 ――リーチの差とスピード‥‥このままじゃ踏み込めないか‥‥ッ!!
 次いで褐色の巨人が旋風と化し、アルマーダ(後ろ廻し蹴り)を薙ぎ振るい、マルテーロ(上段廻し蹴り)に繋げた。強烈な衝撃音に眠兎が揺れるが、マットに沈む事はない。完全にガードしているのだ。少女の風貌が確信に緩む。
 ――速くて派手だけど、動きは素人そのものだね。でも油断は禁物‥‥来たっ!
 再度押し出すベンサォンを繰り出すティタネス。眠兎は懐に入るべく躱しながら間合いを詰めに転じた。しかし、砲弾を装甲で防ぐ事は出来ても、回避するのは困難である。褐色の洗礼に小柄な肢体が吹っ飛ぶ。が、幼い風貌は苦悶に彩られていない。褐色の巨人が再び驚愕する。
 ――今のは当たった筈! 浅かった? もう一度ッ!
 再び突き出すベンサォンの後、シャパ(横蹴り)の強襲で間合いを詰めさせないティタネス。確実に捉えているものの、アルマーダにすら眠兎はダメージを見せない。刹那、脇腹に強烈な痛みを覚え、苦悶の色を浮かばせたのは褐色の巨人だ。アルマーダを堪え凌ぎ中段廻し蹴りを叩き込んだのである。
 ――やっぱり相手が巧いって事かな?
 ティタネスは攻め手をベンサォンとシャパに切り替えると、やはり弾き飛ばす事が出来た。
 ――ここで一気に畳み掛ければ!!
 アルマーダを再び薙ぎ放つ褐色の巨人。刹那、炸裂した衝撃と共に弾かれた眠兎が流れるままに下段廻し蹴りを強引に薙ぎ返す。その姿は容姿と身長差も相俟って壮絶に映った事だろう。
 その時、会場がどよめいた。ティタネスがバランスを崩され、リングに崩れたのである。
<ダウン!>
 苦悶の色を浮かべ、褐色の脚を戦慄かせながら立ち上がり、ファイティングポーズと共に試合は続行された。一気に間合いに捉えた褐色の巨人がマルテーロを叩き込み、再び堪えて天に向ける如き上段ジャブを振り上げた刹那、ゴングが鳴り響く。
(「巧く躱せないか‥‥でも、見た目よりは‥だね。判定に持ち込めれば‥‥」)
 ――どうすれば‥‥。
(「蹴りは全て当たっていた筈‥‥倒れないのは効いていない証拠かな? あたしの蹴りが効かない?」)
<ワルキューレバトルR2――ready Go!!>
 ゴングと共に客席が津波の如くどよめいた。
 ティタネスが寄せ付けぬように前蹴りや横蹴りで弾き飛ばす。それでも眠兎はダウンする事なく踏ん張り、再び飛び込んで行ったのである。正に兎が熊に挑むような対戦に観客が沸く。
 ――どうして倒れない!? しつこいんだよッ!
 褐色の巨人が中盤にも前蹴りの応酬で弾き飛ばすと、腰を回転させて背中を覗かせ、薙ぎ振るわれた後ろ廻し蹴りが眠兎に炸裂した。体格差で揺れるものの、赤い瞳が迫る。
 ――捉えられる!!
 横に揺らされたまま肉迫する眠兎のフックが褐色の脇腹に叩き込まれた。しかしティタネスの風貌は歪みはしない。褐色の巨人は慌ててバックステップ、直ぐに体勢を整え間合いを開くと上段廻し蹴りを薙ぎ振るった。炸裂音が会場に響く――――が、尚も小さな兎は飛び込んでゆく。
 ――貰ったよ!
 肉迫と同時に褐色の鳩尾にボディアッパーを炸裂させる。しかし、動揺の色を瞳に浮かべたのは眠兎だ。
 ――私のパンチも効いていない!?
 それは一進一退の攻防だった。ティタネスは蹴り技に拘り、後ろ廻し蹴りで応酬する中、眠兎はパンチに拘るかの如く、ジャブやボディアッパー、フックで応戦。どちらも倒れない激しい打ち合いに客席は沸いたが、決定打が見つからないまま、壮絶な攻防はゴングと共に終演を迎えた。
 勝敗は判定に委ねられる。結果は――――。
<判定――ティタネス‥‥因幡‥‥‥‥因幡、2対1により因幡選手のポイント獲得とします!>
 やはりダウンが大きく響いたのかもしれない‥‥。

 ――今回のポイント累計は表示の通り―――――
 イルゼ・クヴァンツ=2ポイントvsサマーラ・タマナ=0ポイント
 各務 神無=2ポイントvs尾鷲由香=0ポイント
 ブリッツ・アスカ=1ポイントvsミカエラ・バラン・瀬田=0ポイント
 ティタネス=1ポイントvs因幡 眠兎=2ポイント
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 今回の試合により幾つかの伝説は塗り替えられた。
 スピードだけでは勝てず、格闘センスも重要であり、戦術も不可欠という事である。
 次のステージまで如何なる訓練に汗を流すか? 闘いは始まったばかりに過ぎない――――。