ワルキューレリーグR3アジア・オセアニア

種類 シリーズEX
担当 切磋巧実
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 難しい
報酬 10.4万円
参加人数 7人
サポート 0人
期間 05/01〜05/05
前回のリプレイを見る

●本文

●TVCM
 ――その名はワルキューレリーグ。
 これは4人リーグを2ブロックに分かれて行う『総当り』戦である。
 そこに派生するものとは何か? それは戦略である。
 先に弱い相手を倒すか、強い相手に挑むか。
 テクニックを磨く鍛錬を積めば、逆転の可能性もある訳だ。
 システムはポイント制。つまり試合で勝てば1ポイントとなる。
 リーグ戦を繰り広げた後、最終的にポイントが多い選手が最強となるのだ。
 開幕はGW。露出の高い鎧武者姿や鯉のぼりや柏餅の衣装‥‥というか着グルミも可能だろう。
 男の子の日でもある子供の日だが、様々な想いを胸に、ワルキューレは降臨する――――。

●試合形式
 グローブを嵌めての2分2ラウンド制。
 2ノックダウンシステム。
 投げ、関節技は無し。膝蹴りOK。手足以外での攻撃、及び背後からの攻撃は反則。
 勝負はKO・TKO・判定で決定。
 エンターティンメント性を高くしており、衣装は組み技が無い為自由(但し金属物が付いたものは禁止)。

●募集区分
・ワルキューレ(格闘技未経験者参加OK)
 試合を行う選手です(これまで出場していなくても参加OK)。
【コスチューム】
 自由(但し、クリエイトと連携していない場合、描写は最小限とさせて頂きます)。
【対戦相手】明記して下さい。
【格闘スタイル】空手とかテコンドーとか。
【自己PR】インタビューや対戦前のスクリーン等で表現される予定です。
【試合の組み立て】どのように試合を組み立てるのか明記。
 少し書式を変えましたので間違えないようお願いします。

1:戦術傾向【前半】【中盤】【後半】に(攻撃重視・ガード重視・避け重視)を割り振ります。

2:1ラウンド12回の行動をカテゴリーから【前半】【中盤】【後半】に4回ずつ割り振ります。
◆カテゴリー<上段ジャブ><上段ストレート><上段フック><上段アッパー><中段(ボディ)ジャブ><中段(ボディ)ストレート><中段(ボディ)フック><中段(ボディ)アッパー><前蹴り><横蹴り><後ろ蹴り><下段廻し蹴り><中段廻し蹴り><上段廻し蹴り><後ろ廻し蹴り><膝蹴り><踵落とし><ガード><避け><その他>
*<その他>とは格闘スタイルによる専門的な攻撃手段がカテゴリーに無い場合に使います。但し、コンビネーション、グローブで使えない技、カウンターは該当しません。
 因みに互いにパンチ系が交わった場合、身長や技量から判断し、自動的にカウンターとなります。
 また、12回分を攻撃系で散らせば、コンビネーションになります。

3:結果的に以下のような戦術書式となる筈です。
1R
【前半】(攻撃重視)<下段廻し蹴り><上段ジャブ><上段ストレート><中段廻し蹴り>
*解説:兎に角攻撃を優先。相手の攻撃が放たれも攻撃します。

【中盤】(ガード重視)<下段廻し蹴り><ガード><下段廻し蹴り><下段廻し蹴り>
*解説:<下段廻し蹴り>を放つ予定だったが、攻撃が来たのでガードを優先します。但し、技量が相手と同等か秀でていた場合のみ有効です。必ずカテゴリーから<ガード>を1回選択しなければなりません。

【後半】(避け重視)<避け><下段廻し蹴り><上段フック><上段アッパー>
*解説:<避け>の後、<下段廻し蹴り>を放つ予定だったが、攻撃が来たので避けを優先します。但し、技量が相手と同等か秀でていた場合のみ有効です。必ずカテゴリーから<避け>を1回選択しなければなりません。

【得意技(コンビネーション等)】
 得意技は有利に展開した選手がフィニッシュで発動できます。
 サポート参加があれば、特訓したとして、対戦者と同じレベルだった場合、有利に展開できるかもしれません。体力/格闘/軽業 から1つ選択して下さい。

・実況
 状況を視聴者に伝える方です。選手のキャッチコピー等明記。
 殆ど実況で状況が伝えられます。自分の個性を出せるよう台詞を決めておくのも一興です(実況がいなければ地の文章で表現されます)。

・控え室リポーター
 選手の控え室をリポートする人です。普通は遠くから様子を窺うのみですが、勇気があれば突撃っ(笑)。
 実況がいれば、掛け合いのように中継を結ぶ事も可能でしょう。
 但し、質問する事と選手の返答に相違ないよう、打ち合わせは必要です。

・解説者
 格闘技を生業としている方で、試合の状況に解説を入れる方です。
 ワルキューレリーグは素人も参加可能な格闘技ですので、無名でなければ担当できます。

・セコンド
 選手につくセコンドです。出番は少ないですが、セコンドがいると対戦中にアドバイスを受けて有利に展開できるかもしれません。体力/格闘/軽業 から1つ選択して下さい。
 因みにサポートで特訓するより、セコンドの方が有利です。
 尚、紗亜弥やリザーバーを入れても特殊効果(?)は発動しません。
 リザーバーのセコンドも試合を行っていなければ可能です。

・紗亜弥トレーナー(サポート参加)
 エキシビジョンマッチで紗亜弥が指名された場合、トレーナーとして1日を使い特訓する事が可能です。
 尚、彼女のレベルはサポート参加者の数で変化します。体力/格闘/軽業 から1つ選択して下さい。
 紗亜弥を介して他のリザーバー選手の特訓も可能です。

・ラウンドガール
 選手のつかの間の休息時に、リングで彩りを与えます。

●リザーバーNPC:枠が合わない、エキシビジョン希望などに指名できます。
*紗亜弥(演歌歌手)
 闘う演歌歌手。事務所に騙され嫌々出場したり合宿を経て、成長を見せたか!? デビュー1周年を迎え、更なる躍進を目指せるのか!?

*フォビトン・フルート(女優)
 アルマイトの旗も一段落。格闘家へ転進か? セミロングヘアの眼鏡美少女。

*法衣 麻奈華(学生)
 やる気はあるがチャンスに恵まれない未知数の格闘大好き娘。誕生日がクリスマスイブでなかなか複雑な人生を送って来たらしい。因みに去年も複雑だったようだ。
 結構ドジっ娘らしい。

●今回の参加者

 fa0203 ミカエラ・バラン・瀬田(35歳・♀・蝙蝠)
 fa1449 尾鷲由香(23歳・♀・鷹)
 fa2321 ブリッツ・アスカ(21歳・♀・虎)
 fa2910 イルゼ・クヴァンツ(24歳・♀・狼)
 fa3251 ティタネス(20歳・♀・熊)
 fa3392 各務 神無(18歳・♀・狼)
 fa4300 因幡 眠兎(18歳・♀・兎)

●リプレイ本文

●STAGE3
 ――滝の荒波の中で鯉のぼりに乗る兜をつけたワルキューレが花道に描かれている。
 どこかユーモラスだが、登竜門の如き滝を登ろうとする姿は激しい戦いを暗示しており、栄光に至る道が至極険しい事を表現した作品だ。
 花道を捉えつつ映し出されるリングは微妙にパステル調に彩られている。
 華やかな戦乙女達の戦場として、神が用意したものかの如く――――。

 今回の闘いでリーグ戦は一区切りを迎える。AブロックとBブロック各々の総当たり戦。
 果たして多くのポイントを得る戦乙女は誰であろうか?
<只今より、ワルキューレリーグ第3戦第1試合を開催します!>

●第一試合:尾鷲由香(fa1449)vsリザーバー
 ハイテンポなアラビアン風の旋律が会場に奏でられてゆく。曲名『デザートファルコン』は、砂漠の王国を守護する誇り高き女騎士をイメージする中、スポットライトに由香が照らし出された。頭部にターバンを巻いており、迷彩柄の七分丈シャツとパンツに身を包む精悍な姿は正にアラビアの騎士。深紅の肩当を照り返らせ、白いマントを靡かせ花道を歩いてゆく。客席の子供達が興奮したようにハシャぎ声援を送るのは、子供番組のキャラクターと似ているからかもしれない。
「本来の相手が来ないんじゃ不完全燃焼だぜ」
 いつものようにリング上部モニターに映し出される娘の表情は複雑だ。
 そう、パンフレットに記載されている通り、彼女の対戦相手はリザーバーが務める事になっている。
 由香が颯爽とリングへあがると、入場口に電飾が溢れ、ドライアイスが発ち込めた。コンピュータ制御されたスポットライトの彩りを浴びるは、学生格闘家の異名をもつ法衣麻奈華だ。自前のセパレート衣装に身を包み、演出に負けないようアピールしながら花道を歩き‥‥躓く。
(「いけないいけないっ、こんな調子じゃ尾鷲先輩に失礼ですよねっ! 躓く位ならそのまま前転でも‥‥ッ」)
 失笑を買わないよう努めたものの、やはり不自然な挙動に変わりない。モニターに映る少女が『胸を借りるつもりで精一杯がんばりますっ』と、構えた拳が勢い余って頬を打つ光景も相俟って、会場から笑いが洩れる始末だ。
 何とかリングに辿り着くと苦笑いを浮かべて首を竦めて見せるが、由香は当に臨戦態勢で眼光を研ぎ澄ましていた。
(「何事も最後まで全力を尽くす事に意味があるさ、子供たちの夢を壊すような戦い方は出来ねぇよな」)
<ワルキューレバトルR1――ready Go!!>
 ゴングと共に両者は一気に間合いを詰めた。しかし、技量の差は明確にスピードが示す結果となる。
 ――速いっ!
 荒鷲の異名をもつ由香だ。麻奈華も格闘技は嗜んでいるものの、繰り出された横蹴りを躱す余裕は無い。強烈な一撃が胸部に炸裂し、少女の肢体は『く』の字を描き吹っ飛ばされた。ダウンは凌いだが、苦悶を浮かべる様はダメージも大きいようだ。畳み掛けるように鷲が舞う中、躱せないと判断すると身構えた。
 ――ガードで持ち堪えられればっ!
 ――受け切れるもんなら、受けてみなッ!
 ブロックの間に抉り込むような中段アッパーが麻奈華に叩き込まれる。再び強襲した鈍い衝撃に少女の瞳が見開く。確実に貫いた感触をグローブから腕に伝えながら、由香は膝を突き刺し、間合いを僅かに開くと脚を大きく振り上げ、一気に叩き落した。
<ダウン!>
 カウントが重ねられる中、麻奈華が膝を戦慄かせながら立ち上がる。前屈み気味の所を見るに、ボディのダメージはジワジワと痛みを与えているのだろう。それでも由香を睨む瞳は光を失ってはいない。荒鷲の精悍な風貌が僅かに微笑んだように見えた。
(「そうだよな、格闘家ならこんな所で眠っちゃいられないよな」)
(「勝てない‥‥じゃなくて、何もできないっ。どうしてリーグ戦で一勝もしていないの?」)
 ――もっともっとワルキューレには強い人が沢山いるんですね。
 麻奈華が鈍い速度で挑み掛かった刹那、由香は鮮やかな挙動で弧を描き、肩越しに少女を捉えながら後ろ蹴りを放つ。再び吹っ飛ばされる中、荒鷲が低空飛行するかの如く飛び込み、下段廻し蹴りを薙ぎ放った。ガクンと膝を曲げて体勢を崩す。このままだと再びダウンとなるだろう。
 ――まだ‥‥まだ闘っていたいのにっ! ‥‥これじゃ試合を見に来てくれたお客さんにも‥‥ッ。
 涙で霞む視界に由香が映る。刹那、腹部に蹴りがメリ込むと、右ストレートから左アッパーのコンビネーションブローが叩き込まれ、廻し蹴りが炸裂した。畳み込まれた連続技に観客が沸く。
<ダウン!! 2ダウンにより尾鷲選手のポイント獲得となります!!>
(「やっぱり何もできなかった‥‥!?」)
 虚ろな視界に手を差し伸べる由香が映る。
「大丈夫か? 掴まれよ」
 麻奈華を引っ張り起こすと、更に客席から拍手が降り注いだ。少女は悔しそうに頭を下げた。
「有り難うございました! 手を抜かずに闘って頂いたのに‥耐えられなくて申し訳ありません!」
 スと差し出されるのは由香の手。握手を求める精悍な風貌が微笑む。
「努力しな、立ち上がっただけ立派だよ。あたしだって努力してるんだぜ、子供達の夢を壊したくないからさ」
「は、はいっ! 頑張りますっ!」
 両手で由香の手をがっちりと握り、少女は微笑んだ。
 短い試合であったが、拍手はいつまでも鳴り止まなかった‥‥。

●第二試合:各務 神無(fa3392)vsイルゼ・クヴァンツ(fa2910)
 刻まれるリズムはマイナー・キーで暗躍を演出した旋律だ。まるで獣(狼)が闇に紛れて疾走するかの如き『darkness wolf』のメロディーに、スポットライトを浴びるシルエットを重ねる神無。黒のスーツに同色のネクタイ、白いロングコートを翻して理知的な少女が颯爽と花道を歩いてゆく。背後に続くはセコンドを担う演歌歌手の紗亜弥だ。今回リザーバーとして参戦しなかった理由の一つであろう。
 続いて、琴オンリーの和風スローテンポな旋律が流れてゆく。菖蒲をイメージし、淑やかな華一輪に秘められた闘志と戦う大和撫子を演出した『菖蒲華炎』の中、黒い袴に白い胴衣という合気道の衣装に、菖蒲柄の羽織を纏ったイルゼがスポットライトに映し出された。
「3戦全勝(‥‥は容易くはないでしょうが‥)リーグ最終戦‥‥悔いなくいきましょう」
 褐色の肌に感情を顕さないミステリアスな赤い瞳も相変わらず、モニターの中でも誤解を呼ぶ強気発言に観客が沸く。事実、これまで黒星を刻んでいないのだから、信憑性も伴うというものだろう。
 イルゼはリングにあがる前に、勢い良く羽織を脱ぎ捨てた。菖蒲柄の大きめの羽織が宙を舞う。
<ワルキューレバトルR1――ready Go!!>
 一気に間合いを詰めたのはイルゼだ。曲芸師は小刻みな軌道を描いて迫って来る。身長は神無より高い。互いに長い銀髪を靡かせ間合いを計るかの如くステップを踏むと、銀狼が中段廻し蹴りを薙ぎ放つ。刹那、聡明な風貌が奥歯を噛み締めた。獣の爪が躱されたのだ。同時に褐色の中で赤い瞳が研ぎ澄まされる。
 ――初手を捌き、相手が蹴り足を戻す前に速攻ですッ!
 イルゼは疾風の如く素早さで半身に転じると、下肢狙いの横蹴りを叩き込んだ。鈍い炸裂音が響き渡り、観客からどよめきが洩れる。尚も銀髪を左右に舞い躍らせ、上段ジャブから中段ストレートを繰り出してゆく。
 ――なにッ!?
 僅かに赤い瞳が動揺を映す。神無は横蹴りを膝でブロックし、上下に散らせたパンチもグローブで弾いていたのだ。落ち着いた赤い瞳がイルゼを覗く。
(「リーチこそ由香と同程度だが、速さは彼女以上‥か。流石、彼女から勝利を奪っているだけはある。‥全く、先に由香と戦っていて正解だったな。でなければ今頃、彼女のペースに呑まれていたかも知れない」)
(「ガードされたのですか‥格闘センスは負けているという事ですね‥。蹴りより拳の方が、出は早いはず」)
 素早く懐に潜り込み、再びイルゼのグローブが唸る。中段ジャブから上段ジャブ、更に中段アッパーに上段フックを繋げ薙ぎ振るう。上下左右のコンビネーションは容易に躱せるものではない。しかしガードなら別だ。
 ――ならば蹴りと突きに散らせればどうですッ!
 曲芸師は肉迫すると袴に包まれた漆黒の膝を突き刺し、大きなモーションで上段ストレートを叩き込む。更に下段廻し蹴りを薙ぎ放ち、上段廻し蹴りが風を切った。息があがらないのはスタミナもあるという事だろう。尤も、攻撃に重点を置いており、反撃が無い場合は持久力を削がれる確率は低い。
 ――ッ!!
 そう、銀狼は全て無傷で凌いだのである。観客は、スピードに追い着けない故に苦肉の策か、余裕のガードかと、様々な物議を引き起こした事だろう。そんな中、ゴングは鳴り響いた。
 コーナーに戻ると、セコンドの紗亜弥が困惑の声をあげる。
「どうしたんですか? あれじゃ」
「審判に如何思われるか‥‥だな」
 どうやらリスクは覚悟の上で、観察と分析を行っていたらしい。
 ――次はどう出る!?
 コーナーで赤い瞳が交錯する中、アナウンスが響き渡る。
<セコンドアウト‥‥ワルキューレバトルR2――ready Go!!>
 再び先にイルゼが飛び込む。だが、間合いを見切ったのか、攻撃を放ったのは神無だ。上段廻し蹴りと下段廻し蹴りを散らせるものの、抜群の軽業でヒラリヒラリと躱してゆく。尚も銀狼は中段廻し蹴りを薙ぎ放った刹那、褐色の肢体に衝撃音が弾け、観客からどよめきが洩れた。
 ――!? ガードは間に合いませんでしたがッ!
 イルゼの肢体が弧を描き、褐色の脚が旋風を放つ。衝撃音が響き渡り、神無の銀髪が激しく揺れた。ガード重視と考えていたものの、ガードの準備がされていなかったのである。
 ――しまった! 私とした事が‥‥判断を誤ったか‥‥しかし、ダメージは軽い。
 体勢を立て直して中段廻し蹴りを放つ銀狼。しかし、予期していたのように曲芸師はスルリと躱し、肉迫すると上段ジャブから膝蹴りを叩き込んだ。神無の表情が苦悶の色を浮かばせる。
 ――判断力が鈍ったのか? 拙いな‥‥。
 何とか上段廻し蹴りを返すものの、イルゼの的確な読みに空を切るばかりだ。スピードも然る事ながら、彼女の掴んで来た勝利は、抜群の読みにあったと言っても過言ではないだろう。
 ――いけますッ!!
 神無の蹴りを躱すと、一気に肉迫して上段ジャブを繰り出す。グローブの洗礼に蓄積されたダメージが正確な判断力を奪う中、沈み込むと共に脇腹に中段フックが炸裂! 鈍い衝撃に銀狼が身を捩る。刹那、右拳を腰だめに構え、全身のバネを使うと、切先の如き渾身の一突きを鳩尾目掛けて叩き込んだ。
<ダウン!>
 僅かな判断ミスが全ての布石を崩壊させた瞬間である。計算では避け続けるイルゼをリング隅へ追い詰め、逃げ道を塞いだ所で一気に攻め立てる筈だった。しかし、ガードミスが引き起こしたダメージと、曲芸師の勘は、分析力を凌駕していたのかもしれない。
 何とか立ち上がりファイティングポーズを構えるものの、無情にもゴングが鳴り響いた。
 判定はダウンを奪ったイルゼの勝利を示し、Bブロック連勝の記録を更新させたのである。
 神無の赤い瞳に複雑な色を浮かべる紗亜弥が映った。
「あ、あの‥‥」
「獲物に飛びかかるだけが能じゃない‥‥確実にその爪牙を突き立てなければ意味は無いんだよ。その為にも判断を誤ってはならなかったんだ」
 ――いつかまた闘う事があれば試してみたい‥‥。
 歓声と拍手に答えるイルゼの背中を見つめ、銀狼は赤い瞳を研ぎ澄ました‥‥。

●第三試合:ミカエラ・バラン・瀬田(fa0203)vs因幡 眠兎(fa4300)
 Bブロック初戦を飾る旋律は童謡をユーロビートにアレンジした『ユーロこいのぼり』だ。こどもの日し元気良くいこうというメッセージを思わせるリズムの中、やんちゃ少年のように褐色の肢体を躍動させるミカエラがスポットライトを浴びる。白いTシャツにデニムのショートパンツと黒いスニーカー。惜しげもなく晒した脚線美が色香を放ち、弾む胸の膨らみが刺激的だが、ボーイッシュな魅力の演出は新鮮に照らし出された事だろう。
「前回は、様子見なんかしようとしたからバチが当たったのね。今度は、最初っカラ倒しにイクわ」
 モニターの中で美貌が不敵に微笑む。早々にダウン宣言だ。その相手とは誰か? 
 改めて観客がパンフレットを開く中、ベースを中心としたロック調の旋律が響き渡る。『誰にも負けない!』という曲名が示すメロディーは、小さな身体に秘めた闘志を燃やすイメージを醸し出しているかのようだ。奏でられる音色の中、紅い大きめのジャケットと黒のショートパンツに身を包む、小柄なシルエットが浮かび上がる。上着から覗く白いTシャツの胸元に黒字で刻まれるは、MINTOのロゴ。
「ぃゃ〜‥もぉ自分よりリーチのある人との試合っていうのも定例になってるね。私も場数は結構踏んできたと思うんだけど、こればっかりはねぇ‥―って、愚痴ってても仕方がないね。そんなのは負けた時の言い訳にもならないし、相手だって本気で来るんだ。こっちも全力を以って戦うだけだよ」
 心情は複雑ながら、モニターに映し出される少女は円らな赤い瞳に闘志を燃やす。
「打ち倒す者は強いけど、打ち倒されても尚立ち上がる者はもっと強い。 相手も敗北を知ってるみたいだから、油断は出来ないよ。でも私にだって意地があるからね。簡単には勝たせてあげないんだから」
<ワルキューレバトルR1――ready Go!!>
(「因幡サンのパワーは他の場所でも見てるから、脚で勝負。高速のステップインステップバックに付き合ってもらうワ!」)
 入場曲に負けない位の躍動感を伴い、ミカエラが眠兎に肉迫。左右の上段ジャブから上段ストレート、次いで上段フックと上段アッパーのコンビネーションを薙ぎ振るった。しかし、リーチの差を身に染みて覚えている少女はボクサースタイルでグローブを固めて次々と洗礼を弾いてゆく。まるで第2試合の様相だ。構わず上段ジャブから中段ジャブへ散らせ、中段ストレートへ繋いだ後、上段アッパーを抉り込むが、やはり鉄壁の如きガードは崩れる気配は見えない。
 ――くううぅぅッ、これじゃ私がサンドバック相手に闘っているみたいじゃナイッ!
 手が出せないの? そんな心の声を代弁するかの如く、褐色の躍動が歓声と共に加速してゆくようだ。
 上段ジャブと上段ストレート、次いで上段フックの後に黒髪をフワリと靡かせ、懐に沈んでの中段アッパーを叩き込む。ついには客席からどよめきが洩れた。眠兎のガードは揺ぎ無く、円らな赤い瞳はミカエラを睨んでいるかの如く鋭い。そんな中、ゴングが鳴り響いた。
 しかし、これでは神無と戦法は同じ。ジャッジの判定に不安が残る。
(「意外とスタミナあるんだね。スピードがある分、下手な攻撃に出られないじゃない」)
(「このまま亀になるならなっていればいいワ! 判定で勝つのは私なんだカラ!」)
<ワルキューレバトルR2――ready Go!!>
 ――さあ、ここから本領発揮、回り始めたら止まらないワヨ?
 ミカエラが不敵に微笑むと、上段ジャブから上段フックを薙ぎ振るい前蹴りを叩き込んだ。眠兎のガードは弾かれないものの、ズズッと小柄な身を固めたまま煙でも噴き上げるかの如くマットを滑る。
 ――このままじゃ判定負けだよ‥‥あの時みたいに賭けるしかないかな。
 ――黒旋風、見せてアゲルワ☆
 刹那、直ぐに漆黒の影は飛び込み、上段廻し蹴りが弧を描く。次いで下段廻し蹴り、中段廻し蹴り、上段廻し蹴り、中段廻し蹴りから後ろ廻し蹴りと、まるでダンスの如く次々と畳み掛けるミカエラ。なかなか手が出せず、眠兎のガードは続いた。
 ――どお? あと少しでゴングよ、このまま終わらせるキ? なにヨ、その目ワ!
 グローブの隙間から覗く円らな赤い瞳は諦めていない。上段フックを弾きと、クッと瞳孔が開く。
 ――耐え凌げれば勝機は残っているんだから‥‥ッ!
 ミカエラの膝が眠兎の腹部を貫いた。小柄な少女は長髪を躍らせ、マットから一瞬浮いたように見えたが、沈む事なく白い脚を薙ぎ返す。下段廻し蹴りが放たれ、褐色の脚に衝撃音が響いた。
 ――このぉッ!
 ダメージは少ないのか、素早く間合いを開き追撃を阻止すると、上段廻し蹴りを薙ぎ放つ。やはりスピードは重要な要素なのだろうか。眠兎は再びグローブで弾くと、褐色の脚が脚線美を誇示するように大きく振り上げられた。頂点で止まると一気に叩き落されるが、衝撃音と共にグローブをクロスさせて防いだ少女に観客がどよめく。ここでゴングが鳴り響いた。
 判定はドロー。延長戦が繰り広げられたが、やはり勝敗は決する事が出来なかった。
 ミカエラのスタミナ消耗も激しかったが、眠兎が容易に相手を捉えられる余裕まで至らず、結果的に同じような攻防が続く事になったのである。

●第四試合:ティタネス(fa3251)vsブリッツ・アスカ(fa2321)
 トランペットをメインとした鼓笛隊を連想させる行進曲が奏でられてゆく。曲名『フレンドリーベアー』が示すように、力強い感じの人気者で愛嬌があるツキノワグマをイメージした旋律だ。スポットライトに照らされるシルエットも大きい。もはやワルキューレとして巨体を誇示する姿は誰が見ても明らかだろう。黒いリングコスチュームの胸部には、ツキノワグマの首部分にある白い三日月をあしらっており、履物は熊の脚をイメージしたカンフーシューズだ。そう、ティタネスは熊をイメージしたのである。その証拠に尻尾が腰の下で揺れていた。何ゆえ熊なのか?
 その答えをモニターの中で褐色の娘は紡ぐ。
「金太郎の熊は投げ飛ばされちゃったけど、ワルキューレは立ち技だからその心配はなさそうだな。それじゃ、今回も頑張るよー!」
 なるほど、こどもの日に合わせたらしい。続いて流れるは、二胡と銅鑼メインの、ややアップテンポの中国風な旋律だ。『昇龍演舞』が響き渡る中、龍をイメージしたグリーン系のセパレートタイプ衣装に魅惑的な肢体を包む、アスカがスポットライトを浴びる。豊かな胸元には彼女のトレードマークである稲妻が刻まれており、羽織るガウンは緋鯉をイメージした鱗模様で、背中には龍が天に昇るような緋鯉の刺繍を施されていた。アスカの入場曲も、鯉は天界の龍門に登り、龍になるという伝説に基づいたものらしい。
「正直、これだけ大きな相手と戦うのは初めてだけど。今回も当然KO狙いで行くんで、みんな応援よろしくな!」
 モニターの中でボーイッシュなルックスが軽く微笑みウィンクすると、会場から黄色い歓声が飛ぶ。相変わらず同性からの人気も健在のようだ。
<ワルキューレバトルR1――ready Go!!>
 両者一気に間合いを詰める。闇雲な突進は身長差により返り討ちに合うのはこれまでのティタネス戦でも明白だ。しかし、アスカの挙動は違った。
 ――なに? どこから‥‥。
 彼女は巨大な熊へ肉迫するだけでなく、常に小刻みに軌道を変えて横へ横へと回り込みつつ迫っている。格闘技術が未熟なティタネスは翻弄された。しかし、褐色の脚は予想よりも速い。
 ――そこかッ!!
 ベンサォン(前蹴り)の砲火があがる。だが、アスカは洗礼をステップで躱した。
 ――確かに攻撃するつもりで接近すれば当たっちまうよな。
 リーチの差を掻い潜るにはスピードが必要だ。眠兎のようにガードから隙を窺い間合いを捉えるなら兎も角、闇雲に接近すれば先に動いた脚に迎撃されてしまう。
 しかし、元より躱すつもりでおり、ある程度リーチの差とスピードが軽減されているなら、技のタイミングを掴むのは素人でなければ難しい事ではない。
 ――リザーバー相手に闘って強いつもりでいるんじゃないよッ!
 ――近づけさせるものかッ!
 ティタネスのベンサォンとシャパ(横蹴り)の砲火が尚も轟く。アスカが躱すのが精一杯に見えた事だろう。だが、戦慄の色を浮かべたのは褐色の風貌だ。
 ――いつの間に‥‥ッ!!
 躱しながら間合いを詰めていたのである。捉えられたと悟ると、褐色の巨体は自分の間合いへバックステップ、やはりスピードが速いだけにイニシアチブは譲る結果となった。パワー型の鈍い巨体相手なら回り込みながら攻撃を浴びせられるが、ティタネスの挙動は速い。ましてリーチがあるだけに、攻撃重視で間合いを殺される事を結果的に避けていた。
 ――チクショウ! デカくて素早いなんて反則なんだよッ!
 ――当たらない!? でも‥守る技術はないし、ガンガン攻めていくよ!
 激しい攻防が続く。褐色の脚が繰り出され、洗礼を掻い潜るアスカは、例えるなら漆黒の熊へ挑む猫のようなものだ。隙を窺おうとしても眼光は即座に相手を捉える。一進一退の攻防に、観客が沸くが、このままでは時間ばかりが過ぎてゆく。
 そして後半戦、余裕を見せたのかティタネスは弧を描いた。アルマーダ(後ろ廻し蹴り)を放とうと褐色の脚を薙いだのである。刹那、アスカの瞳が研ぎ澄まされた。
 後ろ廻し蹴りは素人が容易に繰り出せる技ではない。腰を捻りながらもギリギリまで相手を捉え、回転と同時即座に首を回して視認しなければ当てるのは困難だ。
 ――これを避ければ!
 アスカは一瞬の隙を突き、薙いだ脚を躱すと、遠心力が返る軸足目掛けて下段廻し蹴りを叩き込んだ。弾けるような衝撃音に場内が沸く。
 ――なに!?
 しかし、ティタネスは倒れないばかりか、僅かに苦痛の色を浮かべたのみだ。
 ――やっぱり隙が出来ちゃったか‥‥。
 体勢を整えた褐色の脚が唸る中、ゴングが鳴り響いた。
(「躱せる事は分かったけど‥‥やっぱりスピードが必要なのか‥‥どうする‥‥」)
(「経験が身につかない内の大技は命取りだね。でも最後位は‥‥」)
<ワルキューレバトルR2――ready Go!!>
 ――倒すには脳を揺らすしかない!
 間合いを詰めるべく飛び込むアスカ。しかし、それは判断ミスだ。褐色のベンサォンが突き出され、賭けに出た腹部に衝撃が疾る。二発目を浴びると、流石に愛らしい風貌が苦悶の色を浮かべた。
 ――まだ行けるッ!
 再び間合いを詰める中、シャパが寄せ付けまいと咆哮をあげる。黄色い声援が悲痛な色を伴った刹那、漆黒の巨体が迫った。この距離なら蹴りが当たる! だが、アスカはダメージ故か、思考が鈍り、脚が動かない。ややツリ目の円らな瞳にティタネスのグローブが映った。
 ――最終戦だから隠し球! 立ち技だから使えるカポエイラ以外の技だってある!
 繰り出された上段ストレートが脳を揺らす。次いで間合いを開いた褐色のベンサォンが放たれ、肉感的な肢体を仰け反らせてアスカがリングに沈んだ。
<ダウン!>
 茶の短髪を左右に揺らし、ファイティングポーズを構える表情は苦痛に彩られていた。読みが外れるほど厄介なものはない。一瞬の判断ミスが窮地へ繋がるのだ。
 ――タイミングが合わない。
 試合が続行されるとシャパが唸り、アスカのダメージを蓄積させてゆく。間合いに入らせない飛ばし技の洗礼で、なかなか懐に潜り込めない。
 ――相手はキック中心‥‥パンチの間合いに入ればそれを潰す事が出来る! ‥‥!!
 刹那、褐色の巨体が必要以上に迫った。褐色の膝が突き刺さり、『く』の字を描く。だが、まだ瞳は光を失ってはいない。アスカの上段フックが薙ぎ振るわれ、セミロングの茶髪が衝撃に舞う。
 ――まだ倒れないよ!
 再び突き刺さる膝蹴りの洗礼に、円らな瞳が見開く。それでも渾身の中段アッパーを褐色の腹部に捻り込み、ティタネスが苦痛の伴う表情を浮かべる中、スローモーションのように崩れた。
<ダウン!! 2ダウンによりティタネス選手のポイント獲得となります!!>
 互いに課題の多い闘いとなった事だろう。客席の男が腕を組む。
(「それにしても、なぜティタネスは格闘センスが変わらない? 元々格闘技のセンスが無いという事なのか‥‥それとも努力が足りないのか‥‥」)

 こうして2リーグに分けた総当り戦の一つの結果が導き出された。
 ――――――――ポイント累計は表示の通り――――――――――
・Aリーグ
 尾鷲由香=0ポイント VS リザーバー=0ポイント
 各務 神無=2ポイント VS イルゼ・クヴァンツ=3ポイント
・Bリーグ
 ミカエラ・バラン・瀬田=0ポイント VS 因幡 眠兎=2ポイント
 ティタネス=2ポイント VS ブリッツ・アスカ=1ポイント
 ――――――――――――――――――――――――――――――
 予想外なダークホース。今リーグから初参戦のイルゼが高ポイントを獲得したのだ。
 しかし、ここで一つの疑問が鎌首を持ち上げる。
 ――AリーグとBリーグが対戦したら、誰が強いのか?
 TV局の事情が急遽変更された事から、次回、総当り戦の第2部が繰り広げられる事が決まった。
 果たして、更なる頂点を戦乙女たちは望むのか――――。

●ピンナップ


ミカエラ・バラン・瀬田(fa0203
PCツインピンナップ
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