GUN&ROAD T6南北アメリカ

種類 シリーズEX
担当 切磋巧実
芸能 3Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 やや難
報酬 9.9万円
参加人数 7人
サポート 0人
期間 05/30〜06/03
前回のリプレイを見る

●本文

●TVCM
 ――荒野の中、追う者と追われる者あり。
 幌馬車で旅を続ける少女は四人。
 ゴールディ・ゴールドウィン:賞金首を倒してお金を稼ぐ為に銃をコレクションする娘。
 リリィ・ザ・タートル:部族を虐殺された過去持ち、シルクハットの者追うインディアンの娘。
 エイミー・ライム:過去の過ちを背負い、贖罪の旅を続ける修道服の娘。
 リネット:記憶喪失だが、製造元不明のシングルアクションリボルバーを所持する娘。
 そんな少女達を追う者。
 ヴィシャス・バイパー、Mr.エンブレム、レイラ・シフォン。
 次第に浮かび上がる片鱗に浮かぶは正義か悪か。
 そして、リネットの記憶に浮かび上がるウェスタンハットにマントを靡かせる者とは?
 新たに現われた謎の賞金稼ぎとは一体!?
 新西部劇『GUN&ROAD』絶賛放送中!!
 今日も何処かで少女達の奏でる銃声が響き渡る――――。


 ――その日、サミィの周辺は嵐の如き状況だった。
「何なのよ! どうして固定日時が奪われている訳!?」
 毎月20日12時。GUN&ROADの固定枠として放送準備を進めて来たのだ。それが今月に入って枠を新規番組に奪われたのである。しかもライバル視するかのようなゾンビネタだった。
「でも、幸い、番組は成立しないかもしれませんよ」
 ドラマは製作者だけで作られはしない。オファを掛けてもアクターが集まらなければ撮れないのである。
「ふん♪ 娯楽性を排除した作品なんてこんなものよ」
 不敵な微笑みを浮かべて腕を組むブロンドヘアの少女。当然、強がって見せている事は助手の青年にも分かっていた。
「それより、挑戦的な遣り方が気に入らないわ! どんなバックがいるか知らないけど、その内に居所突き止めて土下座させて背中を踏んづけて劣等感に突き落としてやるわ!」
 彼女なら本当にやりかねないと彼は思った。しかし――――。
「監督、私としては逆恨みが心配です。あの襲撃も彼が関わっているとしたら‥‥。ボディガードでも雇いますか?」
「それいいわね☆ 逆恨みで狙われる美少女監督! 犯人は誰か! 彼女の命は!? 救ってくれるヒーローとは!?」
 ――自分の事ですよ? 監督。ワクワクしないで下さい。しかも美少女って誰ですか?
「それより、ジャスティン役が今回も来なければ切るわよ。新しい役柄を募集して頂戴! 味方も敵もどちらでも構わないわ!」
 サミィ監督は青い瞳を研ぎ澄ませて、話題を切り換えた。
「え!? 予告編での伏線はどうするんですか!?」
「最悪道中死亡した事にするわ! 賞金稼ぎが誰かに撃たれて死ぬのは珍しくないわよ。その場合リネットは次の回で記憶を思いだし、ジャスティンを探す展開にすれば何とかなるわ。見つけた手掛かりは死亡。サスペンスドラマによくある展開よ! レギュラーにも誰かアクターいないか聞いて頂戴!」
 思い返せば巧く行き過ぎていたのかもしれない。しかし、このまま配役枠が残るのは、サミィ監督としても評価が落ち、今後の作品撮りにも影響が出るだろう。
「軌道修正なら幾らでも効くのに‥‥私の配慮不足かしら‥‥」
 彼女には今後の予定として単発ドラマと連続ドラマが準備中である。TV局としてもなかなかアクターが集まらない作品に期待はもてない。脅迫めいた警告や妨害めいた枠強奪、若き監督は断崖絶壁に立つような心境だった――――。


●緊急募集! 新規キャラクター募集!!
 新西部劇『GUN&ROAD』では、レギュラー陣の優先募集期間後、枠が空いていた場合、新規キャラクターを募集します。
 募集区分は『少女達の味方』『少女達の敵』どちらでも構いません。性別不問。レギュラー陣の知り合いや友人という設定でも構いませんし、全くの新キャラクターでも構いません。


●trigger6――爆走! 乱撃! 大爆発? 幌馬車レース!!
 基本は、『町を訪れ、トラブルに巻き込まれ(トラブルを作ってしまい)、力押しで解決(?)して 次の町を目指して旅立つ』です。
・予定プロット:配役の相談によるルール等修正可能。
起:幌馬車レースの町に少女達は舞い降りた。
 荒野に彩られた一郭に町はあった。ここを仕切っている大富豪は、幌馬車によるレース大会を開催する事で、町の活気を導き出していたのである。
 ルールは町を中心として外の荒野を一周。レース参加者による武器使用妨害あり。幌馬車1台につき1〜2名まで(予定)。

承・転・結:そして少女達はレースに出る。
 何らかの理由で参加する事となるゴールディ一行と追う者達。
 尚、このエピソードの主体は『面白く』する事である。今回はアクターが如何に配役の魅力を引き出し、魅力的に演じて物語を結末まで引っ張るかだ。

「‥‥また大雑把ですね」
「そお? だって色んな可能性があるんだから、視野を狭くしちゃ面白くないじゃない。例えば、攻撃を受けた際に銃の底から何か出たとか、新規キャラの場合だって入り込み易いでしょ?」


●募集区分
・主人公:性別不問
 今回の主人公です。ゴールディ一行でも追われる者でもOK。伏線とタイミング次第☆ 今回はレースなので、指定しなくても構いません。

・ゴールディ一行:女性(1人〜)
 幌馬車で旅をする少女達です。新規キャラの場合、仲間になる等演出OK。

・主人公達(幌馬車)を追う者:性別不問(1人〜)
 何らかの理由で少女達を追い続ける者です。誰をどんな理由で追っているのか決めておいて下さい。
 構成としては毎回なぜか追い着くが、また旅立たれて追跡となる予定。

・今回のサブキャラクター:性別不問(登場頻度が少ない方、メインとして登場しない方)
 大富豪/参加者/町の民/その他
 今回のNPCです。上記のように、置き換える事が可能です。尚、アクターが演じないNPCの場合は最低限の登場しかしない予定です。アクターが演じる場合、名前はお好きに☆

・サポート関連
 衣装作成/脚本協力/大道具・小道具など前準備関連。
 名前とどんな仕事をしたか載る予定です。


●演じる為に必要な書類項目
・配役:今回の主人公/幌馬車の少女達/幌馬車を追う者/今回のサブキャラクター
・役名:登場人物の名前です。本名で出演してもOK。
・服装:簡潔に。衣装はイメージに合うものを用意する予定です。
・設定:どんなタイプ(設定)のキャラクターを演じるか明記して下さい。
・容姿:髪型や髪色、瞳の色など、明記していなければ役者のそのままとします。
・武器:敵と戦う時に使用する武器です。
 尚、結構ノリで制作されている為、とんでもない銃以外は採用予定です。
 勿論、所持していなくても、格闘武器でも構いません。
☆レース判定:0〜9までで好きな数を1名ずつ一つだけ明記(重複OK)。
 レース順位(結末)をドラマとして決定してもOKですが、順位をランダムにしたい場合、明記して下さい(無条件にアクシデント等発生します)。

●今回の参加者

 fa0558 クールマ・如月(20歳・♀・亀)
 fa1028 水島 無垢(19歳・♀・狼)
 fa1047 芹沢 紋(45歳・♂・獅子)
 fa1107 小比類巻レイジ(25歳・♂・蝙蝠)
 fa1788 碧野 風華(16歳・♀・ハムスター)
 fa2462 ティーナ・アリスン(18歳・♀・蝙蝠)
 fa3464 金田まゆら(24歳・♀・兎)

●リプレイ本文

●trigger6
 ――荒野に吹く一陣の風と共に、人影が浮かび上がってゆく。
 僅かに揺らめく着物の裾から覗くはしなやかな足。風に流れるは中程から三つ編みに束ねた絹の光沢を放つ長い黒髪だ。細い腕に携える番傘(和傘)を傾けると、清楚ながら愛らしい風貌が覗く。
★(CAST)カスミ(霞):金田まゆら(fa3464)
 視聴者がチャンネルを間違えたかと動揺すると困るので、視界は着物姿のカスミを回り込み、娘の背後と前方に映る町を捉えながら、幾つもの銃創が刻まれたタイトルが浮かび上がった。

●GUN&ROAD ガンガン幌馬車猛レースとジャパニーズガール登場!?
 ――ニードルマウンテン。
 町の周辺に幾つも聳える細い岩山がある事から名付けられた町である。
 外は岩山ばかりの荒野だが、町中は今まで立ち寄ったものとそう変わりは無い。どこにでもありそうな酒場、恐らく娼婦もいるであろう宿屋、静まりかえった保安官事務所、舗装されていない路上は、時折吹き抜ける風に砂塵を舞い散らす。
 だが、一つだけ他の町と異なる活気が一郭に感じられた。町の民は押しつ押されながら、大きな看板に群がっていたのだ。
 そんな中、長旅で薄汚れた幌馬車から少女達は舞い降りた――――。
「どお? リネットの具合は?」
 金髪ツインテールの少女が幌をあげて覗き込んだ。青い瞳に曝け出された白い背中が映り、同時に修道服を身に着けた銀髪の少女が慌てた声をあげる。
「バカ! 不用意に開けるな! 今、汗を拭いている所だ‥‥」
★ゴールディ・ゴールドウィン:碧野 風華(fa1788)
★エイミー・ライム:水島 無垢(fa1028)
 ゴールディは愛らしく頬を膨らませ、不満げな色を浮かべた。
「何よ、バカはないでしょ。これでも心配してるんじゃない‥‥」
「‥‥分かったから閉めてくれ。人に見られたらどうする?」
 別にリネットの裸なんて見られても私は気にしないわ――と言いたい所を小さな胸に留めて仕方なく幌を閉じてクルリと踵を返す。刹那、視界にボロボロのテンガロンハットから楽観的な笑みを浮かべる褐色の少女が飛び込む。
★リリィ・ザ・タートル:クールマ・如月(fa0558)
「何よ?」
「いやぁ、エイミーが慌てた素振りを見せるなんて滅多にないじゃない? ‥‥大丈夫だって! 長旅で疲れただけだし、アタシ達はリネットちゃんに栄養あるもの買いに行こ♪」
「あんたが酒代を節約してくれるなら考えてもいいわ!」
「え〜? それはないんじゃない? 仲間なんだしさぁ」
 勝ち誇ったように着飾ったドレスの少女が細い腕を組んで見せる。逸らされ捲る目線を合わせようと、腰を曲げて説得するリリィが滑稽だ。
「さ、行くわよ! エイミー、買い出しに行って来るから頼むわよ!」
『‥‥分かった、看病は私が引き受けた。ゴールディ、水を汲んで来てくれると助かる』
「分かったわ! リリィが運んでくれるから待っていて!」
 リリィの不満げな声を棚引かせ、一見お嬢様風のツインテール少女と、ボロボロのマントとテンガロンハットの少女は幌馬車を離れたのである――――。

「何かしら? 賞金首の手配書?」
 町を散策する中、ゴールディとリリィは人混みに賑わう一郭に辿り着いた。生憎と褐色の少女も看板に視線が届かない。ここで銃でもぶっ放せば確認する事は可能かもしれないが、路銀減少の為、禁酒と禁射撃令がゴールディに出されていたのである。‥‥否、その前に看板みたさに発砲は問題だろう。
「駄目だよゴールディ‥‥こう人が多いと‥‥ゴールディ?」
 語尾をあげて素っ頓狂な声をあげ、周囲を見渡す。ツインテールの少女が消えたのだ。不揃いの白い前髪を揺らし、動揺の色を浮かべた。
「まさか、幼女誘拐!? 今頃あーんな事やこーんな事を‥‥」
「‥‥誰が幼女、よっ、看板を見て来たわよ♪」
 むみくちゃにされながらも人込みから抜け出て来たゴールディ。身長が低く細身の少女は隙間に潜り込んで人のトンネルを潜り抜けて来たのだ。リリィでは豊かな胸が邪魔になって容易に成し遂げられない芸当に違いない――――。

「‥‥幌馬車レースだと?」
 修道服から盛り上がった胸元で腕を組み、銀髪の少女は赤い瞳に訝しげな色を浮かべた。どうやら人込みの訳は、幌馬車レース開催告知だったらしい。ゴールディの報告に嬉々とした声を響かせたのは褐色の少女だ。
「ねぇねぇ、やろうよぉ〜! 賞金、凄いよ!?」
 熱心に参加を主張するリリィ。その目付きは血走っており何処か危ない。ハァハァと荒い息まで洩らす有様に、流石のエイミーとゴールディも軽く身を退く。
「‥‥お、落ち着け! 変な息洩らすとリネットが起きるだろう?」
「わ、分かったから! レースは出るつもりよ!」
「なぁーんだ☆ やるつもりなんじゃない♪」
 刹那、ケロっとして満面の笑みを浮かべた。二人の少女は安堵の深い溜息を吐いた後、金髪ツインテールの娘がピッと人差し指を立てる。
「問題はルールね‥‥」

●幌馬車レースは誰を満たす?
 ――翌日。
 リネットを宿屋に残してゴールディ一行はレース参加受付を済ませる為に会場へ赴いた。早速、リリィとゴールディはチームを組み、参加の件を伝える。
「馬車名は『ゴールデンバレット』ね☆」
「うふふ〜‥‥ねぇ、これに勝てばお酒飲めるんだよねぇ‥‥♪」
「んー、考えてあげても良いわ☆」
 なんて上機嫌な二人。だが、後方でポツンと一人残ったエイミーの顔色は優れない。
「‥‥仕方ないか、リネットがいないのでは‥‥ルール上、二人まで。単独参加するしかあるまい」
「こんな所で会うとは奇遇だな。俺の運も未だ捨てたものじゃない」
 溜息を洩らす修道服の少女。刹那、聞き慣れた声と共にポンと軽く肩に手が触れた。思わずビクンと身体を跳ね上げ、豊かな双峰を弾ませると、長い銀髪を揺らし、慌てて背後に鋭い視線を向ける。
「貴様ッ! ‥‥馴れ馴れしいぞ! ヴィシャス!」
★ヴィシャス・バイパー:小比類巻レイジ(fa1107)
 エイミーの瞳に映るは、洒落た帽子を被り、黒いスーツに身を固めた端整な風貌の青年だ。相変わらずニヒルな微笑みを浮かべて余裕面で口を開く。
「そんなに怖い顔をするなよ、美人が台無しだ。ん? 一人足りないな‥‥どうかしたのか?」
「‥‥‥‥(しまった! 迂闊にも口先だけの言葉に!)き、貴様には関係ないだろう。悪いが、受付の順番が来たので失礼する。‥‥エイミー・ライム、参加は‥‥」
「俺とコンビを組む。名前はヴィシャス・バイパー」
 背後から顔を覗かせ、アッサリと受付係に告げる青年。修道服の少女は当然動揺の色を見せる。
「なッ!? 何故貴様とこのような!」
「良いじゃないか? 俺も参加したかったんだ♪ 昨日の敵は今日の友‥‥とも言うしね。宜しく頼むよ、お嬢さん」
 不敵な笑みを浮かべるヴィシャスに、はっきりと断わりたい気持ちもあった。後列では苛立つ声も溢れ流れて来る。しかし、口は思うように動かない。
 ――何故だ?
「‥‥まぁいい。妙なマネをしたら叩き出して一人で走るまでだ!」
 済し崩し的に承諾するエイミー。こうしてエイミーとヴィシャスのチームが組まれた。
 そんな中、今度は素っ頓狂な少女の声が飛び込む。
「あれー? 何よ、リネットはいないの?」
★レイラ・シフォン:ティーナ・アリスン(fa2462)
 一行の前に姿を見せたのは、胸元の開いたカウガール風の衣服に身を包み、深いスリットの入ったミニスカートを履いた娘だ。腰に手の甲を当て、ポニーテールの灰髪を軽やかに揺らすと、円らな赤い瞳を改めて向け微笑む。
「どうしたの? ねぇ、リネットは?」
「リネットは前回出番が少なかったのに落ち込み、心の病に掛かったわ。仕方ないわよね、敵側に焦点を当てたストーリーだったし‥‥」
「ゴールディ、何の話だ! 今のは忘れてくれ! リネットは疲労から熱を出して宿屋で休んでいる。‥‥多分‥‥悪い夢でも見たのだろう。‥‥言って置くが、居場所は教えないぞ」
 ただでさえ少女を一人置いて来たのに、更に危険な目に合わせる訳にはいかない。
「熱ぅ!? なーに、それじゃ、美少女が苦悶に眉を戦慄かせながら、荒い吐息を洩らして、衣服は汗でびっしょり濡れて、色っぽく乱れていたりする訳? 見舞いに行かなきゃ♪ どこ?」
「‥‥何を恍惚とした顔を浮かべている。だから、教えないと言っただろう」
 きっぱりとエイミーは断わった。レイラはさも残念そうな声を洩らすが、意志は固いようだ。
「仕方ないわね、リネットちゃんとレース参加しようと思ったんだけど残念だわぁ。じゃ、一人で出場するしかないかぁ?」
「女の子が困ってるのはちょっと見過ごせないかな?」
 落胆の色を見せる灰髪の少女へ向けて、穏やかな女の声が飛び込んだ。聞き慣れない声に、一斉に視線を向ける。瞳に映ったのは、着物姿の美女だ。リネットには僅かに劣るが、円らな青い瞳は澄んだ水面のようで、口元に浮かぶ微笑は清楚可憐である。相変わらず赤い番傘をさしており、明らかに周囲の注目を集めていた。
「派手な子ねぇ。東洋人?」
「えぇ、訳あってこの地を旅してるのよ。私のことはカスミと呼んで下さい☆」
 にっこりと微笑み小首を傾げて見せる。バックに西部では見た事もない花が咲き乱れる錯覚すら覚える愛らしさだ。当然? レイラはニンマリと微笑み、軽やかな足取りで傍に寄ると、好奇心に満ちた赤い瞳で舐めるように見つめた。ルックスOK! 着物から覗く胸の膨らみも申し分ない! 衣服に包まれた肢体を思い浮かべ、スタイルも悪くないようだと判断する。
「ねぇ、カスミ? それって、私とレースに出場してくれるって事?」
「え、えぇ‥‥困っているようなら手伝うわよ?」
 ――カスミよ、西部は危険な地だぞ!
 ゴールディ一行は、彼女の無事を静かに祈った――――。

「しかし、私が参加するとはな。優勝でもしたら妙な疑いが掛かるぞ‥‥Mr.エンブレム」
 豪奢な装飾の成された一室の窓から町を見下ろしていた壮年の男が背後に視線を流す。視界に映るは、かなりカサ高いシルクハットを被った紳士だ。帽子の縁から黒い瞳を覗かせ、壮年の男は穏やかな笑みを浮かべる。
★Mr.エンブレム:芹沢 紋(fa1047)
「主催するのとはまた違った楽しみが見えてくるかもしれませんよ? ミスター」
「確かに、違ったものは見えるかもしれんな。撃たれないよう頼むよ‥‥良からぬ考えを持つ者もいるかもしれんかなら」
「お任せ下さい。これでもライフルの腕には自信があるのですよ」
 町の権力を握る大富豪は再び背中を向けると、レオロア・エンブレムの瞳は黒い光を放つ。口元に不敵な笑みを浮かべていようとは知る由もない‥‥。

●レース当日! 賞金を手にするのは誰だ!?
 幾つもの旗とコース周辺にロープが設置された中、スタート地点に数多の幌馬車が待機していた。
「う〜ん♪ ゴールディってば気合入ってるわねぇ☆」
 両手を組んで満面の笑みを浮かべるリリィ。ゴールディの幌馬車には、金貨と銃弾のマークが取り付けてあり、金髪ツインテールの少女も誇らしげな笑みを見せる。
「ふっふっふ♪ いつも一行の馬車を操ってるのは伊達じゃないわよ! 目指すは優勝! 賞金がっぽりよっ! リリィ、行くわよっ! エイミーが仲間だからって容赦しないからね!」

 一方、寧ろ強引にチームを組む羽目になったエイミー達も貸し出された幌馬車の準備に余念がなかった。修道服の少女がライフルをチェックする中、ヴィシャスは車輪等の整備確認をしてゆく。
 ふと、青年に視線を流し、エイミーが躊躇い勝ちに口を開く。
「‥‥貴様は、優勝したら、賞金を、どうするつもりだ?」
「そうだな‥‥おっと、人に聞く時は自分からって教わらなかったか?」
「‥‥わ、悪かったな! 教養がなくて‥‥‥‥傾きかけた故郷の孤児院を建て直す資金にしたい。‥‥それだけだ。‥‥なんだ、その目はッ!」
 ヴィシャスは驚いたように瞳を見開いており、少女は僅かに頬を染めて視線を逸らした。
「いや‥‥本当にシスターみたいだなと思ってな」
「‥‥貴様に関係ない。さぁ、答えろ!」
「実は、資金難で潰れそうな孤児院を救う為だ」
 ――何だと?
 思わず逸らした視線を戻し、車輪の横で腰を下ろしたままの青年を見つめる。交差する視線と僅かな沈黙が二人を包み込む。彼の赤い瞳は信じても良いのか?
「‥‥なんてな、賞金に目が眩んだってとこかな? それより、ここから見上げると、スリットから覗く足が魅惑的過ぎるんだが‥‥」
 一瞬、何の事か分からず、視線を修道服の太股に落とした後、慌てて深く切れ込みの走るスリットを両手で庇う。少女の赤い瞳は怒りと羞恥に燃え滾っているようだ。
「‥‥〜〜っ! 貴様! 絶対地獄に叩き落してやる!」
 レース前に撃たれない事を祈る――――。

 時を同じくして、レイラとカスミも貸し出された幌馬車チェックの真っ最中だ。‥‥とはいえ、カスミは番傘をさしたまま、ポニーテールの少女の作業を興味深く眺めているだけだが‥‥。問題は二人のルックスだった。
「はい☆ 大丈夫ですから♪」
 もっぱらカスミの役目は優しげな微笑みを浮かべ、涌き出る野郎共を丁重に断わる事だ。軽く溜息を吐いて、レイラが額の汗を拭う。
「また声を掛けられたの? 自分の馬車を気にしてなさいってものよね☆」
「そうよねぇ、でも折角だから手伝わせるのも一興かと思うけど?」
「カスミ? そんな甘い事を言ってると酷い目に合うわよ」
「あら? どんな目に合うのかしら♪」
 円らな瞳を細め、三つ編みの娘は豊かな胸元に手を添えて微笑んだ。彼女の懐に隠されているものをレイラは未だ知らない――――。

『幌馬車レースを開催します! レディ!』
 いよいよ秒読みが始まった。高い塔の上に立つスーツ姿の男が拳銃を掲げる。ゆっくりと絞られるトリガーに、手綱を握り締める手に力が込められてゆく。静寂に包まれる中、一陣の風が旗を揺らし――――。
 ――甲高い銃声が響き渡った。
「行けッ! ゴールデンバレットッ!!」
「何人足りとも、俺の前を走らせはしない‥‥!!」
「GOよ! カスミ、しっかり掴まってなさいよー!!」
 馬が嘶き、一斉に幌馬車は砂塵を巻き上げて走り出す。中にはスタート合図の銃声に馬がパニックへ陥り、早速コースアウトや、衝突し合う姿も見掛けられた。巻き添えに合う不幸な一団が派手に砂煙を吹き上げてリタイア続出だ。
「フッフッフッ、賞金が懸かってて私が負ける訳がないでしょ!」
「ゴールディ! エイミーとレイラが後方に来てるよ! 45口径あるわよね?」
「さすがに人に向かっては撃つのは気が引けるけど、馬車には攻撃させてもらうわよ! リリィ、やーっちゃいなさい!」
「ライフルは骨格で支える‥‥風が教えてくれるわ。標的は二つ‥‥そこね!」
 荷台後部で狙い定めるリリィを捉えてヴィシャスがパートナーを呼ぶ。
「エイミー! ゴールディ達が狙っているぞ!」
「手綱は私に任せろ!」
 スルリとエイミーが青年の前に滑り込み、ヴィシャスが二挺のリボルバーを構えた。

「先手必勝よ! カスミ、撃って!」
 レイラもリリィに捉えられぬよう必死に手綱を捌く。激しい揺れに胸元を弾ませ、中腰で馬を打つ度に、ミニスカートが派手に翻った。一寸したサービスカットだ。
「え? 銃なんて持ってないわよ?」
 キョトンとした眼差しを向ける東洋人の娘。
「えぇーっ!? じゃあ手綱を頼むわ!」
「馬車なんて扱った事ないわ?」
「えぇーいッ! 振り落とされないでいなさいッ!!」

 激走を続ける中、一斉に銃声が鳴り響く。
 リリィの銃弾はエイミーによる咄嗟の判断で馬車の損傷を回避! レイラの幌馬車は――――。
「えぇ〜ッ! 嘘でしょ!? それアリな訳ー? やばッ!」
 褐色の少女は我が目を疑った。なんと銃弾はカスミの開いた番傘で弾かれたのだ。
 珍しく正確な狙いで撃った銃弾も命中しなければ意味はない。対してゴールデンバレットはヴィシャスとレイラの計四つの銃口を浴びる最悪な状況と化す。流石のゴールディとて無傷は叶わない。
「ちぃッ、車輪に命中したわね! こらっ、慌てないで真っ直ぐ走るのよ!」
 車軸が歪み、次第にスピードを落とす結果となるゴールデンバレットの両脇を、ヴィシャスとレイラの駆る幌馬車が追い抜いてゆく。荷台が激しく揺れ、リリィも体勢を崩す有様だ。そんな中、灰髪の少女がゴールディと瞳を交差させた。向けられるは二挺の銃口。
「なに? あんた私を狙う気!?」
「直接的な妨害は好みじゃないのよね♪」
 反撃のトリガーを絞るべき銃口を向けるが、続け様に放たれた銃弾があどけなさの残る少女に浴びせられた。銃弾が掠めてゆく中、ドレスの切れ端が舞い跳ぶ。刹那、衣服の繋ぎ目が綻び、激しい振動もあってか、ストンと腰へ落ちた。短い悲鳴をあげ、咄嗟に胸元を庇う。お子様な視聴者も安心だ。
「きゃんッ! や、やってくれたわね! 覚えてなさい!」
「アハハハ♪ 隠す程じゃないと思うけど、悪いわね☆」
 笑い声を響かせ、レイラの幌馬車が遠ざかってゆく。例え胸がマナ板に等しかろうと(銃口を向けないように)ゴールディとてレディである。怒りと羞恥に頬を紅潮させ、復讐の炎を滾らせた。

 現在の順位はエイミー&ヴィシャス組み、レイラ&カスミ組みで先頭を競う状況である。その後を幾多の馬車が駆け抜け、ゴールディ&リリィ組みが追撃という様相だ。一気に遅れたゴールデンバレットだが、こんな事で諦めたりしない。
「新兵器、ワイヤーガンを見せてあげる!」
 手綱を捌きながら、ゴールディが構えるは口径の大きいライフルの如き銃器だ。
「空砲のガス圧でワイヤー付きフックを撃ち出す単発ライフルよ! ‥‥試作品だけど」
 ボソリと不安げな一言を洩らしつつトリガーを絞る。パシュッと空気が抜ける音と共に棚引くワイヤーの射出音。後にカキン★ とフックの固定音が響く。
「やりぃッ!」
 思わずリリィがガッツポーズを見せる結果となった。後は前の馬車に撃ち込んだワイヤーに引っ張られながら自分達の馬車のスピードを上げれば差は縮む。しかし、相手とて黙っている訳がない。忽ち銃撃戦が展開された。ここで金髪ツインテール少女の隣に陣取る褐色娘の瞳が血走る。
「アタシの‥‥邪魔を‥‥アタシの邪魔を、するにゃあアァァァ!!??」
 フルフルと肩を戦慄かせた後、立ち上がって両手に引き抜くは拳銃だ。
「ハハッ、アハハハハッ♪ うぅ、ウィしゅきいぃぃぃぃYEAHHHHHH!! テキーラあぁぁぁぁぁ!! ごーごー、とっつげきいぃぃぃぃ!!」
 硝煙が棚引く隙も与えず、次々にトリガーを絞り捲っては捨ての繰り返りのリリィ。ゴトッ、ガコッ、と鈍い音を響かせ、ゴールディの足元に拳銃の山が築かれてゆく。オマケにはためくマントから取り出したのは数本のダイナマイトだ。流石にツインテール少女の頭に汗マークが浮かぶ。
「まぁ、派手な攻撃は相棒に任せるわ。競技で大怪我はさせたくないけど、相棒は手加減を知らないから! 木っ端微塵になりたくなかったら、道を空けたほうがいいわよ!」
「あはン、やっぱり‥‥たまンないわぁ‥‥興奮、してきちゃった♪」
 次々と木片を吹き飛ばしてリタイアしてゆく幌馬車。判断を誤れば巻き添えとなるが、そこはゴールディの手綱捌きで舞い上がる噴煙を潜り抜けクリアしてゆく。
 ――そんな幌馬車にライフルで狙い定める者がいた。
 陽光に照り返すは獅子の紋章の刻まれたライフル。構えるは嵩高いシルクハットの男だ。
「前方は派手にやってますなぁ? おや? 退屈ですかな?」
「いいえ、楽しんでいますよ。このまま速度を維持して下さい」
 Mr.エンブレムから見て、コースは曲がりくねったポイントだった。銃身は遥か前方を走る幌馬車を捉え続けている。このまま行けば真横を狙える筈だ。黒い瞳に銃を乱射しては恍惚とした表情を浮かべて身悶える褐色娘が映った。
(「これで私も安眠できますよ。先に眠って下さい‥‥故郷の仲間と共に」)
 不敵な笑みと共にトリガーが絞られてゆく――――刹那!
『いやぁーん☆』
 切なげ且つ悩ましげな女の悲鳴が飛び込んだ。思わず視線を流すレオロア。瞳に映ったのはハゲタカに襲われ、次第に衣服を啄まれる娘の姿だ。主催者も思わず感嘆の声を洩らす中、尚も集中力を割く悲鳴が流れ込む。
『やぁん! や、そんなっ! あぁんッ!!』
「くッ!」
 一際甲高い娘の甘い声が飛び込み、指は思わず引鉄を絞っていた。集中力を乱されて放たれた凶弾は、車輪を逸れ、金貨と銃弾のマークに銃創を加える。今頃は「なに?」ってな表情を浮かべているに違いない。どうやら数の女神が災いをもたらしたようだ。既に噴煙に飛び込み、標的は見えない。
「‥‥この間といい今回といい、私は運に嫌われているのか? えーい! 後ろのレディを助けましょう‥‥! ほぉ、これはこれは‥‥」
 後方に顔を向けた壮年の男も思わず感嘆の声を洩らした――――。

 一方、先頭集団も銃撃戦の真っ最中だ。
 エイミーチームを追撃するレイラチーム。その後方に生き残った幌馬車群が迫る。更に後方では派手な爆発音が轟き噴煙が浮かぶ有様だ。画面が左右に割れ、金髪の少女と灰髪の少女を映し出す。
「ゴールディ達が近付いているのか?」「チッ! もう追い着いて来たの?」
 ここで距離を縮められるのはレイラにとって非常にマズイ。
「あー、せめてカスミがもう少し使える娘なら良かったのにぃ‥‥」
「‥‥一つ聞くけど、他の馬車に飛び乗ったらルール違反かしら?」
「えー? 問題ないんじゃない? ルールに見当たらなかったけど?」
「‥‥そう♪」
 清楚を立ち振る舞いでスックとカスミが立ち上がり、後方に青い瞳を向ける。
「10数える間だけ速度を落としてくれる? それから60数えた後、また速度を落として、迎えに来て下さいな♪」
「な、何を‥‥ちょっと、カスミ?」
 微笑みを浮かべたまま、『ちょっと野暮用を☆』と言い残し、そそと荷台へと足を運ぶ娘。レイラは仕方なく速度を落とした。抜き去る馬車もいれば狙いを少女に切り換える者もいる。
 応戦の銃声を背後に聞きながら、カスミが瞳を研ぎ澄ました――――刹那、娘は後方の馬車へふわりと跳んだ。銃弾が放たれる中、素早く番傘を開いて弾くと優雅に着地し、動揺する野郎共へ突風の如く肉迫! たわわな膨らみが弾む着物の合わせ目から引き抜くは十手と呼ばれる手元に鈎の付いた鋼の棍棒だ。銀色の残像を描きながら、正義の武器が薙ぎ振るわれてゆく。瞬く間に男を眠らせると、車輪へ向けて鉄槌を叩き込み、馬車は大きく軌道を逸らした。横転間際、抜き去ろうとする馬車へ素早く飛び移り、次の獲物を捉える――――が。
「随分とジャジャ馬なジャパニーズだぜ!」
 僅かに早く突き付けられたのはライフルだ。グイッと銃身をカスミの膨らみに押し込み、下卑た笑みを浮かべる。和服美人は頬を紅潮させ吐息を洩らすと、青い瞳を濡らし、静かに着物の裾を開いて捲りあげた。すーっと誘う如く美脚がゆっくりと上がり、肉感的な太股が覗いたその時――――。
「やっッ!」
 薙ぎ放たれた廻し蹴りが男の頭部へ叩き込まれ、恍惚とした表情で崩れた。手綱を捌く者は女が押し倒された音と勘違いしただろう。「おい、済んだら交代してくれよ」なんて余裕の声だ。
『はぁーい☆ 調子はどお?』
 耳に流れたのはレイラの声。カスミは迎えを確認して車輪へ損傷を与えると、和服を舞い躍らせパートナーの馬車へ飛び移った。呆気に取られる男が馬車の異変に気付いた頃は、時、既に遅しだ。
「ちょっと時間が掛かってしまったわ。でも、これで後続を遅らせられるわよ♪」
 カスミは横転して道を塞ぐ二台の馬車を眺めながら、乱れた着物を整え、何事も無かったように腰を下ろして微笑んだ。
 ――この娘、何者?

 その頃、エイミー達は後続に執拗な攻撃を受けていた。ヴィシャスの手綱捌きで追い抜きは阻止するものの、彼方此方から銃弾の雨に見舞われてゆく。余程の危険が無い限り、応戦しないと誓ったエイミーの肩がプルプルと戦慄く。
「‥‥主よ‥‥主よ‥‥申し訳ありません。我慢の限界です。一時、感情に身を任せることをお許しください」
 その時、ヴィシャスはエイミーの中で何かがプチッと切れたような音を聞いた。
「おい? どうかしたのか? おい?」
 ゆらりと立ち上がり、荷台へと向かう修道服の少女。ヒュンヒュンと銃弾が掠めてゆく中、赤い瞳を研ぎ澄ませた。
「き・さ・ま・らぁぁぁ‥‥邪魔を、するなーーーっ!!」
 響き渡ったのは連続して放たれる銃声だ。馬も驚いたのか、ヴィシャスが僅かに動揺する中、更にスピードをあげてゆく。後方では絶え間なく二挺のライフルが火を噴き、馬の嘶きと共に馬車が轟音を響かせた。恐らく、何台か横転したのだろう。
 こうして優勝はエイミーとヴィシャスのチームが手にしたのである。
「まぁ、何だ‥‥お前と組むのも、案外悪くは無かったぞ。賞金の半額だ」
 ポリポリと頬を掻き、視線を合わせずヴィシャスへと賞金を渡すエイミー。
「あぁ、そうだな。俺も幸運の女神と組めて良かったぜ★ どうだい? 祝杯でも♪」
「‥‥悪いな。‥‥その、リネットが、心配だから、遠慮させてもらう」
「そうか、そりゃ残念だ」

●エピローグ
「えーん、やだやだー! 勝つまでやるのー! あたしは浴びるようにお酒を飲むんだぁ!」
 優勝を逃したリリィは涙目で駄々を捏ねた。そんな少女に差し出されたのは小振りな盃だ。見た事もないグラスから視線は細い腕へ流れ、穏やかな微笑みを浮かべる三つ編み娘を捉える。
「口に合うか分からないけど‥‥」
 スッと胸元の合わせ目に腕を注し込み、取り出したのは徳利と呼ばれる容器だ。きゅぽんっと栓を開けて盃に透明の液体を注ぐ。忽ち甘い香りがリリィに流れ込んだ。
「お酒!?」
「ささ、ぐぐッと☆ まぁ♪ 良い呑みっぷりだわ☆ 私にも注いでくれるかしら?」
 どうやら互いに酒好きらしい。リリィとカスミは友情の盃を何時までも交わした。そんな二人を眺めてレイラは思う。
 ――この娘、何者? っていうか、二つの胸の膨らみは何でもできるの?
「ねぇ、カスミはこれからどうすんのぉ?」
「んー、そうねぇ、未だ考えてないわ」
 カスミには二つの選択がある。レイラと共に旅をするか? それともゴールディ達と共に旅をするかだ。どちらにしても退屈な日々は無いだろう。
『あぁ、そうだ。その孤児院へ送金を頼む』
 流れて来た青年の声にエイミーが視線を流すと、見慣れた黒いスーツの背中が映った。修道服の少女は声を掛けず、静かに微笑んだ。
(「‥‥ふっ、素直じゃない男だな」)
 一行が通り過ぎた事を知り由もなく、ヴィシャスは自嘲気味に薄く微笑む。
「‥‥資金難で潰れそうな孤児院を救う為に送金か‥‥俺も焼きが回ったモンだ‥‥」
 それは既に捨て去ったつもりでいた保安官時代の心を、完全には捨て切れてはいない故か?
 それぞれが帰路に向かう中、釈然としない顔色でゴールディが呟く。
「はて‥‥そういえば最近、珍道中の最中、何か忘れてる気がするわね?」

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